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草と緑 5:9-15 (2013) 基礎講座 吉岡俊人 ( 福井県立大学生物資源学部 ) 雑草は私たちの生活するところ どこにでもいつでも生えている このことが雑草を制御しようとする人々を とってもとっても生えてくる と嘆かせ 雑草管理に関わる多様な人々の生業を成立させ また雑草をめでる人々を楽しま

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Academic year: 2021

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基礎講座 吉岡俊人(福井県立大学生物資源学部) 雑草は私たちの生活するところ、どこにでもいつでも生えている。このことが雑草を制御しよ うとする人々を「とってもとっても生えてくる」と嘆かせ、雑草管理に関わる多様な人々の生業 を成立させ、また雑草をめでる人々を楽しませている。しかし、なぜ播いても植えてもいない雑 草が、しかも除草をかいくぐって生え続けるのだろうか。雑草種子は、最も次世代を残せるタイ ミングで生えようという巧みな戦略をもっている。たとえば、生産種子のうち何割合かが休眠し て埋土種子になり土中で生き続ける仕組みや、温度や光といった季節的あるいは機会的に変化す る環境因子に応答した発芽制御の仕組みなどである。日頃、雑草という“敵”と戦っている方々 にとってはとくに、“敵の戦略”を知ることは非常な重要ことだと思われる。ここでは、その戦略 の一端である種子の休眠や発芽の仕組みを解説する。 (緑地雑草科学2013 年 1 月 30 日講演会案内文より) どのくらいの割合で生えるべきか まず、2011 年に日本雑草学会から発行され た雑草学辞典CD 版を参照して種子休眠につ いて整理しておく。多くの雑草種子では、登 熟の過程で一次休眠が誘導される(図1)。一 次休眠は、形態的休眠、生理的休眠、物理的 休眠、形態的生理的休眠および物理的生理的 休眠の5 つのクラスに分けられる(Baskin and Baskin 2009)。形態的休眠は胚が未分化であ るか分化しているが発達途中であるために生 じ、ラン科、ハマウツボ科、ヒガンバナ科、 セリ科、ユリ科などの少数の種に認められる。生理的休眠は植物ホルモンなどの生理的要因が原 因となって、胚の成長が抑制されるために生じる。生理的休眠は広範な植物で認められ、雑草種 子においても主要な休眠機構となっている。また、イネや麦類で問題になる穂発芽も生理的休眠 が浅いために起こる。物理的休眠は種皮や果皮の不透水性など胚を取り囲む組織の物理的障壁に よって生じ、マメ科、ヒルガオ科、ハス科などでの硬実種子がその例として知られている。形態 的生理的休眠および物理的生理的休眠は、それぞれ、形態的休眠と生理的休眠および物理的休眠 図1.種子休眠の概念(雑草学辞典CD 版、2011) 草と緑 5:9-15 (2013)

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と生理的休眠の性質をあわせ持つ休眠機構である。 一次休眠状態にある種子は、散布された後に、後熟して、非休眠となり、一部は発芽し、一部 は埋土種子となって休眠サイクルに入る。休眠サイクルでは、環境休眠、条件休眠、二次休眠の 順に休眠状態が移行し、発芽や死滅にいたるまでこの移行が繰り返される。環境休眠は、非休眠 種子が発芽阻害条件におかれているために発芽しない現象で、雑草の不斉一発生は、環境休眠状 態にある埋土種子が耕耘に遭って太陽光に曝されるなど、発芽阻害が解除されることで起こる場 合が多い。条件休眠は、休眠と非休眠の移行段階であり、例えば発芽可能温度範囲などの発芽条 件が休眠から非休眠へ移るにつれて拡大する(Vegis 1964)。二次休眠とは、一次休眠が覚醒して 非休眠となった種子が再び休眠に入った状態のことをいう。一般に、夏生雑草種子では夏季の高 温が、冬生雑草種子では冬季の低温が二次休眠を誘導し、夏生雑草種子では冬季の低温が、冬生 雑草種子では夏季の高温が、それぞれ二次休眠打破に働く。なお、一次休眠を自発休眠、生得休 眠あるいは内生休眠、環境休眠を強制休眠あるいはクイエッセンス、条件休眠を相対休眠、二次 休眠を他発休眠あるいは誘導休眠と呼ぶことがある。 それでは、植物が生産する種子のうちどのくらいの割合を休眠させ、どのくらいを発芽させる ことが、繁殖を最適にするのだろうか。この問いに対して Cohen (1966)は一つの解を提示した。 これは両がけ戦略理論へと発展していった重要な考え方なので、MacArthur(1972)による考察を 追いながらCohen モデルを理解してみよう。 砂漠に生える一年草を考え、ある年の最初の雨でG%の種子が発芽する N0個の種子個体群があ るとする。発芽した1 個体あたりの種子生産数(増殖率)は、植物体の生育に好適な年には S で あるが、最初の雨以降に降雨がない生育不適年では、繁殖にあずかれず0 である。また、その年 に発芽しなかった休眠種子は、翌年に発芽が繰り越される。これまで好適年であった確率はP で あり、不適年の確率は(1-P)であると仮定する。すると、T 年間において、好適年は PT 回、不適 年は(1-P)T 回出現するので、T 年後の種子個体群 NTは、 NT= N0GS+1-G)PT ×(1-G)1-P)T ― ① となり、T 年間の平均増殖率 R は、 R= TNT= N0(GS+1-G)P ×(1-G)1-P) ― ② となる。ここで、R を最大にする G の値を知るには、②式の極値を求めればよい。すなわち、 R' =(S-1)P(GS+1-G)(P-1)1-G)1-P-(1-P)(GS+1-G)P1-G)-P = 0 ― ③ として、③式をG について解くと、 G=(SP-1)/(S-1) ― ④ となる。 植物では、個体あたりの種子生産数S は非常に大きいので、

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G=(SP-1)/(S-1)≒P ― ⑤ とできる。つまり、好適年の出現確率にほぼ等しい割合の種子を発芽させ、ほぼ不適年の割合で 種子を休眠させると増殖率が最大となる。これがCohen の解である。たとえば、好適年確率 P = 0.25、 種子生産数S= 10,000 を④式に代入すれば、 発芽種子割合 G=(2,500 - 1)/(10,000 - 1)= 2,499/9,999 ≒ 0.25、 休眠種子割合 (1-G)≒ 0.75 となって、それぞれ好適年確率と不適年確率にほぼ等しいことが分かる。 また、高橋(1982)はカブトエビや一年生雑草を想定し、卵や種子が休眠することが好適~不 適の間を変動する環境において個体群が存続するために非常に効果的であることを、以下のモデ ルによって説明している。 いま、Cohen モデルのように、ある世代の個体数 Nζの一部(βNζ)が増殖に参加し、残りの (1-β)Nζはそのまま休眠状態で1 世代遅れて増殖に参加すると仮定する。つぎの世代に繰り越 される間の生存率をα、世代間の増殖率をγとすると、つぎの世代の個体数Nζ+1は、 Nζ+1= γβNζ+α(1-β)Nζ = (γβ+α-αβ)Nζ で計算できる。ここで、増殖に対する環境の好適度 x が変動するものとして、γを2xとおくと、 個体群の増加率(R= Nζ+1/Nζ)とx の変化の関係は図2で示される。この図から明らかなように、 個体群の次世代への繰り越し率(1-β)がわずかでもあれば、環境がきわめて不敵なときの増殖 率R の減少を効果的に抑制できる。また、環境の好適度と不適度が平均値を中心に同程度に変動 するとすれば、x> 0 ときの R の増加分かx < 0 のときの R の減少分を引いた個 体群の増殖率は、変動幅(x ~ - x)が大 きい場合は大きく、変動幅が小さい場合 は小さくなる。つまり、卵や種子が休眠 して、個体群の一部が次世代に繰り越さ れる性質は、激しく変化する環境におい て有利となる。 以上から、除草という生育個体を一掃 するような激しい攪乱に遭遇する雑草は、 種子休眠性をもつことで個体群全滅のリ スクを効果的に軽減し、攪乱に遭遇する 確率に応じて増殖を最大にするように休 眠の割合を調節していると考えられる。 図2.個体群の次世代への繰り越しによる環境不適時の 個体群増加率低下の抑制(高橋 1982 を改変) 増加率 (R) β=1.0, α=0.8 β=0.8, α=0.8 ○ 環境の好適度(x) 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000 10000 -11 -9 -7 -5 -3 -1 1 3 5 7 9 11 ●

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いつ生えるべきか 種子を休眠させて個体群全滅のリスクを軽減している植物では、時おり出現する好適期をうま く捉えて生育しなければ、休眠種子が無駄な投資になってしまう。雑草は、土壌中の種子を一次 休眠あるいは二次休眠から覚醒させて、環境休眠状態においておき、好適期の訪れにともなう環 境変化を感知して、その時を逃さずに発芽する仕組みを備えている。 図3には、冬生一年生雑草ミドリハコベ(Stellaria neglecta)埋土種子の季節にともなう発芽可 能温度範囲変化と発芽パターンが示されている。種子の発芽可能温度範囲の広さは休眠程度を表 している(Vegis 1964)。ミドリハコベ種子は、夏季に一次休眠が徐々に覚醒して、8 月下旬から 10 月には非休眠状態となり、11 月から 12 月にかけて急速に二次休眠が誘導された。そして、野 外での種子発芽は8 月下旬から 9 月中旬に起こった。冬生一年草では、秋季の発芽が早すぎた個 体は、すでに繁茂している夏生一年草との競争や高温、乾燥などの厳しい環境にさらされる。発 芽が遅すぎた個体は、冬までに十分な栄養成長ができないので、冬季の低温に対する耐性や春先 の成長力が劣ってしまう。これらはいずれも個体群の適応度を大きく下げるので、秋季の限られ た間が発芽に適した時期ということになる。つまり、ミドリハコベは発芽するべき時に種子を環 境休眠状態におき、あとは土壌温度が発芽温度範囲にオーバーラップするタイミングで発芽が誘 導される仕組みを備えているのである。ミドリハコベ種子の発芽可能な上限温度が、5 月から 8 月中旬の間、土壌温度範囲の下限値よりも常に5℃ほど低く推移したことにも注目してほしい(図 3)。これは、埋土種子を環境休眠状態におく仕組みが、高温発芽阻害であることを示している。 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 40 30 20 10 0 土壌温度範囲 (日最高最低温度) 1 0 月 1 1 月 1 2 月 野外での発芽パターン 温 度 (℃ ) 冬生一年草(ミドリハコベ) 埋土種子の発芽可能温度範囲 図3.冬生一年生雑草ミドリハコベの埋土種子の発芽可能温度範囲の季節変化と発芽時期

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最近、種子温度応答機構の生理学的研究が進展し、高温発芽阻害を中心的に制御しているのがア ブシジン酸生合成の律速酵素であるNCED(9-シス-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ)遺 伝子の発現調節であることが分かってきた。その詳細については、発芽生物学(文一総合出版 2009)に記載されているので参照していただきたい。 さて、ミドリハコベは発芽が秋に限られる真性冬生一年草であり、明るい林内や林縁など、環 境変化の季節性が高い場所に生育している。その近縁種のコハコベ(Stellaria media)は、秋季に 発芽がピークになるものの周年発芽する可変性冬生一年草であり、園芸畑や樹園地、街路樹植え 枡など人の手がはいって環境が不規則に激しく変化する場所で雑草となっている(Miura ら 1995)。ミドリハコベとコハコベの種子を埋土し、7 月に掘り上げて発芽試験したところ、コハコ ベの発芽上限温度は、ミドリハコベよりも約5℃高かった(Yoshioka ら 2003)。ミドリハコベが、 5 月中旬~8 月上旬において、種子の発芽上限温度を土壌温度よりも 5℃程度低くして発芽を抑制 していたことを考えると、コハコベ種子の発芽上限温度は土壌温度の下限値に近接している。つ まり、コハコベは、高温発芽阻害の程度をミドリハコベに比べて緩やかに調節することで、夏季 にも断続的に発芽できる性質をもち、農耕地や都市緑地の雑草となっていると考えられる。 生え易いから絶滅危惧種になった雑草 アゼオトリギリ(Hypericum oliganthum)は、西南日本と朝鮮半島南部に分布するオトギリソウ 科の植物であり、その名のとおり水田の畦(あぜ)を主な生育場所としている(図4)。したがっ て、畦畔管理者からすると防除対象の雑草ということになり、以前は、ややまれではあるものの 普通にみられたらしい。しかし、2003 年に行われた環境省の調査では、全国で 25 地点(メッシ ュ)に約800 個体が生育するのみとされ、絶滅危惧ⅠB 類に指定されている。この雑草は生え易 いのになぜ絶滅危惧種になったのだろうと疑問に思っていたが、生え易いからこそ絶滅危惧種に なったのだと考えるようになった。そのいきさつを述べてみたい。 2008 年、国営九頭竜川下流農業水利事業(農業用水パイプライン化事業)にかかる環境調査に より、福井県坂井市丸岡町において200~300 個体からなるアゼオトギリ地域個体群が発見された。 2009 年には、丸岡町のアゼオトギリ生育場所においてパイプライン化工事が行われたことから緊 急の保全措置が必要となり、自生株および種子を保存するとともに、個体群を再生するためにア ゼオトギリの生育環境や繁殖条件の調査研究を開始した。当初は、この植物は絶滅危惧ⅠB 類に なるくらいだから繁殖が難しいのだろうと思っていた。しかし、調べてみると、果実および種子 の稔性が高く、大個体では数千粒、小個体でも数百粒の種子を生産した。また、種子に特別な散 布様式は認められず、広範な温度条件で発芽し、光要求性もなかった。つまり、アゼオトギリは とても生え易い雑草なのである。一方、本植物は乾燥や被陰にきわめて弱いことも分かってきた。

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実際に、親株から散布された種子のほとんどが5~6 月に発芽したが、10~30 cm 程度の群落高に 維持された場合を除き、裸地区では乾燥、無処理区では被陰によって、全ての発芽個体が死滅し た。これらの調査結果は、アゼオトギリは雑草でありながら、生育に不敵な環境において個体群 全滅のリスクを回避する休眠やストレス耐性の仕組みを発達させていないことを示している。 それでは、この植物はどうして畦畔雑草になり得たのだろうか。丸岡町のアゼオトギリは、定 期的に草刈りが行われて適当な群落高に保たれた畦畔の、それも水路際に限って分布しており、 競争相手のいない水路上に枝を伸ばして生育し、果実を着けていた(図4)。果実が登熟して種子 が重力散布されるのは、10 月中旬~11 月初旬である。この頃、水路には水がない。水路内に溜ま った土の表面に落下した種子は、翌春、溝ざらいで畦に戻されることが多かったであろう。これ らの観察は、リスク回避の仕組みを発達させていないアゼオトギリが農家の勤勉な草刈りや水路 管理に依存しながら、生存していたであろうことをうかがわせる。近年、畦畔管理方法が変わり、 従来の人との関係性が失われたことが、かつてはどこでも見られたこの雑草を絶滅危惧種に追い やったと推察される。 引用文献

1) Baskin C.C. and Baskin J. M. 2009. Classification and biogeography of seed dormancy. 吉岡俊人訳: 種子休眠のタイプと区分.種生物学会編(吉岡俊人, 清和研二責任編集),発芽生物学.文一 総合出版.pp.11-45.

2) Cohen D. 1966. Optimizing reproduction in a randomly varying environment. Journal of Theoretical Biology 12 : 110―129.

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3) MacArthur R. 1972. Delayed germination of desert annuals. Geographical Ecology: Patterns in the Distribution, Harper & Row, Publishers., pp.165―168,

4) Miura R., Kobayashi H. and Kusanagi T. 1995. Effects of emergence time on survival and plant size in natural populations of Stellaria media and S. neglecta. Weed Research, Japan 40 : 179―186,

5) 高橋史樹 1982.個体群と環境.虫を通してみる生活の多様性.東京大学出版会. 6) Vegis, A. 1964. Dormancy in higher plants. Annual Review of Plant Physiology 15 : 185―224. 7) Yoshioka, T., Gonai T., Kawahara S., Satoh S. and Hashiba T. 2003. The Regulation of the

thermoinhibition of seed germination in winter annual plants by abscisic acid. Nicolás G., Bradford K.J., Côme D. and Pritchard H.W. eds. The Biology of Seeds: Recent Research Advances, CAB International.

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