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新学習指導要領に基づいたメタ認知と自己効力感によるリスニング学習における自己調整学習の構築

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1. 研究の目的

  本研究の目的は,新高等学校学習指導要領(以下新学習指導要領)に沿って,学習ジャーナルの 導入による,メタ認知や自己効力感の変化のプロセスを分析することで,リスニング学習における自己調 整学習が成立するプロセスの一部を明らかにすることである。実践は,①英文を見ずにリスニング,②英 文を見てリスニング,③日本文を確認しながらリスニング,④シャドウイングという4つの段階に分けたリス ニング活動を行うものであり,活動後,生徒に振り返りをしてもらった(付録1)。活動面では,リスニング, リーディング,スピーキングを組み合わせることで,新学習指導要領の「新しい知識を確実に習得しながら, 既存の知識や技能と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより,学習内容の深い理解と個別の知識 の定着を図る」(文部科学省,2019,p. 157)という点を参考にした。振り返りでは,生徒の学習活動を 新学習指導要領に基づいたメタ認知と自己効力感による リスニング学習における自己調整学習の構築 長 友 隆 志 宮崎県立都城西高等学校

Constructing Self-regulated Listening Learning Strategies for English Based

on the New Japanese Teaching Guidelines by Using Metacognition and Self-efficacy

NAGATOMO Takashi Miyakonojo Nishi Senior High School

Abstract

This study aims to clarify a part of studentsʼ listening processes to develop self-regulated learners of English by implementing the new teaching guidelines issued by the Japanese Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) in 2019. Studentsʼ learning journals in this report were used to observe the students learning processes. The learning journal is a diary in which students write about their study. M-GTA (Modified Grounded Theory Approach) is used to analyze studentsʼ journal entries qualitatively. This study specially focuses on words related to metacognition and self-efficacy, subsequently linking to self-regulated learning. As a result, it was found that students were able to improve their listening strategies by implementing metacognition and self-efficacy that help them become self- regulated learners.

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客観的に観察し,学習方法の発展を促すために,学習ジャーナルを用いた。この学習ジャーナルにより, 生徒が自身の学習を客観的に分析することで,メタ認知を使うことを促し,自己調整学習を図ることを目 的とした。今回の実践では,学習指導要領の中の「考えを形成・深化させ,話したり書いたりして表現す ることを繰り返すことで,生徒に自信が生まれ,主体的・自立的に学習に取り組む態度が一層向上する」 (文部科学省,2019,p. 159)を参考に,自己効力感も関連させながら自己調整学習を促すことを期待し 計画を立てた。新学習指導要領に沿い具体的な教材や実践方法を示す実践研究として,現場での英語 教育の一助になることを望んでいる。

1. 理論的枠組み

1.1 メタ認知

  メタ認知とはFlavell(1987)やBrown(1987)らによって定義づけされ,発展をしてきた概念である。 メタ認知は高次的認知能力を示し,“knowing about knowing”,つまり自分の認知に対する認知であり, 自分の学習プロセスを客観的にモニターする能力である。茅島・溝口 (2010)は,メタ認知的学習には観察 (observation),評価(evaluation),適応(virtual application),選択(selection),そして行動(performance)

の5つの段階があり,さらに,抽象的操作 (abstraction control),修正操作(adjustment control),具体 化操作 (concretion control)を合わせた過程が必要であると述べている。この過程を教育現場に応用す れば,まず始めに教師が学習者に目標達成へ向けていくつかのヒントを与える。その後,学習者はヒン トの中からルールを見つけ,答えを調整し,具体的に答えを導き出すと考えることもできる。本実践研究 では,メタ認知的学習を起動させる方法として,リスニング学習を振り返る学習ジャーナルを使用した。

1.2 自己効力感

  自己効力感とは,例えば,自分の課題に対して「これならばここぐらいまでできるのではないか」と いう期待感を表すものである(Bandura,1977)。言い換えると,学習者の学習課題に対する期待感や自 信であると言える。さらにBandura(1997)は,学習者の能力は,彼らの持つ自己効力感を分析すること で推察できると述べ,自己効力感を持つことでより高い次元での能力習得が見込めるとしている。   本研究においては,学習ジャーナルを記録しながら生徒が自らの課題を考え,その課題を達成する ことでリスニングに対する自信を持つことができ,その結果,自己効力感が高められることを目的とした。 さらに,生徒が自己効力感を高めることでメタ認知が高まり,自己調整学習が達成されることを期待し, 実践を行った。

1.3 自己調整学習

  英語学習において自ら学習方法を工夫・選択し,実際に使用することは重要なことである。これは 自己で学習について調整し,実践する力があるということ,すなわち自己調整学習につながる。自己調整 学習理論についてZimmerman(2001)は次の3つのことを述べている。①メタ認知と動機づけの方略を 選択的に使って,学習する能力を1人で高められる。②有利な学習環境を積極的に選択したり,組み立て

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たり,創造することができる。③学習者が必要とする教育の形態と量を選択する際に,自ら重要な役割 を果たすことができる。

1.4 学習ジャーナル

  学習ジャーナルは,学習の記録であり,振り返り等をまとめたものである。学習ジャーナルの利点は, 生徒が自身の学習についてどのように捉えているのかを考えさせる機会を与え,よりよい学習方略を実行 させるためのヒントに気づかせることができる点である。学習ジャーナルは様々な目的を持って利用される。 具体的には,理解をサポートするために,批判的思考(critical thinking)を発達させ,自分が今何を考 えているのかについて意識させるなどの目的がある。従って,学習ジャーナルを用いることで,問題解決 のために方法論を考えさせることが可能である。また,現在の学習内容を評価させ,振り返りの習慣を より良いものにさせることができる。さらに,客観的に自分を捉えさせ,安心させ,落ち着かせることで, 学習者の能力の成長や発展に寄与すると考えられる。また,創造性を高めるための自己表現の手段とし て使用させることも可能である(Moon,2010)。よって,学習者が自身の目標設定や,現在用いている学 習方略の効果について客観的にモニターすることができ,メタ認知を高めることが期待できると考えた。 また,生徒が達成したことを振り返ることで,自らの学習に自信をつけ,自己効力感を高める効果を期待 し,実践を行った。

1.5 新学習指導要領とメタ認知・自己効力感・自己調整学習の関連

  新学習指導要領には「自ら考え,それぞれが授業での言語活動を充実させるための努力を授業外で も続けようとするより自律的な態度が一層強く求められる」(文部科学省,2019,p. 160)とあるように, 自ら計画を立て,実行し,計画を振り返り,改善し,さらに能力を高めるという,自己調整学習の重要性 が述べられている。例えば,その改定の基本方針の中に,「生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に 向けた授業改善を行うことが重要である」(ibid,p. 212)という文言がある。また,自己調整学習を達 成するために,「言語面・内容面で自ら学習のまとめと振り返りを行うといった流れの中で,学んだことの 意味付けを行ったり,既得の知識や経験と,新たに得られた知識を言語活動で活用したりすること」(ibid, p. 158)から,自分の学習方法を客観的にモニターし,改善していくという,メタ認知に関する記述もある。   新学習指導要領の中の英語科の目標としては,まず「英語の音声や語彙,表現,文法,言語の働 きなどの理解を深める」(ibid,p. 157)とある。さらに,「新しい知識を確実に習得しながら,既存の知 識や技能と関連付けたり,組み合わせたりしていくことにより,学習内容の深い理解と,個別の知識の定 着を図るとともに,社会における様々な場面で活用できる概念としていくことである」(ibid,p. 14)とあり, 自己調整学習の重要性が確認できる。また,「知識及び技能を実際のコミュニケーションの場面において 活用し,考えを形成・深化させ,話したり書いたりして表現することを繰り返すことで,生徒に自信が生まれ, 主体的・自立的に学習に取り組む態度が一層向上するため,知識及び技能及び思考力,判断力,表現力 等と,学びに向かう力,人間性は不可分に結びついている」(ibid,p. 16)という文言がある。これらは, メタ認知と自己効力感をうまく連動させながら,生徒自ら,学習方略について計画を立てることができる ようになるという,自己調整学習に関する記述と捉えることができる。

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2. 研究方法

2.1 参加者

  参加者は,日本国内で英語を学習する普通科,文系に所属する高校3年生2名(男子1名,女子1名) である。参加者は,進学を目的とする生徒であり,校外模試の平均点は,全国平均点とほぼ同程度の能 力を持った生徒である。実践研究者は筆者であり,授業や学習ジャーナルによるフィードバックを担当した。

2.2 倫理的配慮

  参加生徒には本研究の目的,実践の計画,期間を伝え,使用情報として実施期間におけるリスニン グ活動後に記入した学習ジャーナルを用いることを伝えた。また,収集したデータは本研究に直接かか わる目的以外には使用しないこと,研究成果を論文としてまとめる場合には,生徒名を匿名とすることに ついて説明を行い,承諾を得た後に実践を開始した。

2.3 実践方法

  上記の参加者に対し,「リスニングマラソン」という活動について,実践研究を行った。リスニング 教材として,速読英単語必修編(風早,2011)を使用した。これは市販の教材で,様々なジャンルの読 み物からなる単語帳であり,音声教材も付属し,リスニング教材としても使用できるものである。それぞ れの読み物を通して,語彙力,読解力をつけながら,理解した内容をリスニング教材として用いることで, 生徒が感じるリスニングへの抵抗を少なくすることができると考えた。そのようにして自己効力感を高め, 学習ジャーナルによる振り返りを通して,自己調整学習を促すことを期待したものである。「リスニングマ ラソン」の目的については,「リスニングを通して,リスニング能力の向上,そして,英文読解力,語彙力 を身につけること」としている(付録1)。この活動時間は,毎回の授業の始まりに10分で行った。実践は 授業の40単位時間分(40回分)で,合計400分であり,週2~3回のペースで行った。各授業後には生徒 にリスニング学習について振り返りをしてもらった。また,全ての実践終了後に,これまでの実践を総括し, 最後の振り返りをしてもらった。リスニングの方法としてメタ認知を促すことができるよう①英文を見ずに リスニング②英文を見てリスニング③日本文を確認しながらリスニング④シャドウイングという4つの段階を 入れた。実践期間は2016年の7月から11月までの5ヵ月である。8月の上旬から中旬の約2週間は夏季休業 のため実践を中断している。

2.4 M-GTA

  本実践研究について参加協力が得られた2名の生徒について,実践中に生徒に記録してもらった学 習ジャーナルの内容は,文字に起こし,質的データとして分析に用いた。今回,M-GTA(木下,1999) を用い,学習ジャーナルの文言について分析を進めた。学習ジャーナルだけでは概念としてカテゴライ ズできない場合は,参加者に確認を取りながら分析を行った。M-GTAとはModified Grounded Theory Approachの略であり,修正版GTAである(木下,1999)。GTAは初め,Glaser and Strauss(1996)によっ て考案された質的データの分析方法であり,これまで多くの研究において質的データの分析方法として用

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いられている。GTAでは通常,切片化した質的データを分析していく一方,M-GTAでは,質的データを 切片化しないことが大きな特徴である。物事の現象に対して,分析者がよりデータに密着でき,適切な 分析を行うことが可能である。本実践研究では,授業での生徒の状況を踏まえながら分析することで, より生徒の質的データと向き合った実践研究となるよう心がけた。

3. 分析結果と考察

3.1 M-GTAによる分析

  表1は生徒 Aの学習ジャーナルの文言をM-GTAを用いて分析したものである。文言を具体例としてカ テゴライズし,概念名を付け,概念の定義をまとめたものである。 表1 M-GTA による生徒 A の学習ジャーナルの分析 概念1 「漠然とした気持ちの表現」 定義 ある事象に対して,端的な感想を述べるにとどまっている状態。 具体例 ・英語を重点的にやっていく。【29回目】・あと少し。【33回目】・これを無駄にしない。【40回目】 概念2 「具体的な目標・目的につながらない気持ちの描写」 定義 漠然とした目標設定,目的の描写である。メタ認知が機能していない。 バリエーション (具体例) ・しっかり覚えていきたい。【1回目】・まとめをしっかりする。【3回目】・しっかりまとめる。【6回目】 ・覚えたモノを使えるようにする。【7回目】・忘れないよう復習する。【16回目】・しっかりまとめる。 【17回目】・リスニングは集中が大事。【20回目】・英語は音読が大事というふうに本に書いてあっ た。【21回目】・もう一度復習。【26回目】・授業以外でも目を通す。【27回目】・繰り返し,繰り 返し。【28回目】・単語から!【30回目】・基礎をしっかりとする。【31回目】・見返します。【32回 目】・見直しが大事。【34回目】・しっかり覚える。【36回目】・意味のある勉強をする。【37回目】 ・しっかり見直す。【38回目】 概念3 「問題点に不安がある状態」 定義 学習内容について,問題を抱えている状態。問題についての具体的な原因が分からず,何がどのように問題であるかを把握していない状態。 具体例 ・勉強の仕方がいまいちよくわからない。【10回目】・分からない単語が多いなあ。【35回目】 概念4 「改善策のない問題点」 定義 学習の問題点は分かっているが,どのように解決すべきかがない状態。 具体例 ・難しい単語は読み取れなかった。【10回目】・リスニングが少し難しい。【11回目】 概念5 「学習問題点の把握」 定義 自分の学習に対し,何が問題か状況を把握している。 具体例 い単語がたくさんありました。【25回目】・ideal, keep fit(覚えたい単語の復習)【39回目】・聞いたことがあっても忘れている単語が多かった。【24回目】・復習してみると,覚えていな 概念6 「具体的学習方法の提案」 定義 どのようにリスニング学習し,改善するのか,学習方法を提案している。 具体例 留めておく。【4回目】・何も見ないで音読するのをしっかりしたい。【5回目】・・シャドウイングをしっかりやってリスニングを鍛える。【2回目】・大事な表現をノートにも書き(リスニングをし ながら)日本語と英文を照らしあわせて読む。【9回目】

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概念7 「学習方法の深化・発展」 定義 自分の学習をさらに学びを深化・発展するための考えを提示している。 具体例 ・見たことがある単語でも,忘れたり,分からなかったりするので,何度も見直したい。【8回目】 ・1単語にたくさんの意味があるものがたくさんあるので,代表的なもの以外も覚えられるよう にする。【15回目】・次同じ単語が出てきたら,パッと意味が頭に浮かぶようにしたい。【23回目】 概念8 「達成感や期待の表現」 定義 今後の学習に対して達成感や期待を表現している状態 具体例 ・英作文で使いたいような単語など,いろいろある。【12回目】・語彙力もついてきた。【14回目】 ・覚えている単語が増えてきた。【18回目】・リスニングで点数が伸びた。【19回目】・だいぶ英 語になれてきた。読むのに抵抗がなくなってきた。【22回目】・まとめて終わるだけでなく,こ れを今後も目を通していきます。英文をすらすら読むことに慣れることができました。【40回目】 概念9 「読むことへの応用」 定義 リスニング学習を他の技能(英文読解)につなげようとする姿勢がある。 具体例 入れやすくなる。【13回目】・日本語訳を読んでから,英文に目を通すと,英文が読めている気分になって,英語を受け   生徒 Aのジャーナルを読み進める中で,9つの概念を創出するに至った。概念を創出するに当たり, 生徒の普段のクラス内での学習の様子や,クラス外において,生徒との対話の中で,ジャーナルの文言が, 正確に概念に結びつくよう分析を行った。概念創出の過程において,リスニング学習に対し,生徒がどの ように考え,どのように学習し,その結果どう行動したのか,学習の過程を追跡しながら,概念を創出した。 概念1は「漠然とした気持ちの表現」,概念2は「目標・目的につながらない気持ちの描写」であり,メタ 認知が機能していない状態であった。概念3の問題点に「不安がある状態」は,Aが学習に対し,漠然 とした不安を感じている状態である。概念4の「改善策のない問題点」については,問題点を感じている が,具体的な改善策を考えていない状況である。概念5の「学習問題点」の把握では,Aが自身の学習 に対し,何が問題であるかを把握し,問題点の実態を明らかにしようとする態度が見られる。ここでは, Aが客観的に自分の理解度について分析し,メタ認知が機能していると言えるだろう。概念6の「具体的 な学習方法の提案」では,Aがどのように自身の英語学習を発展すべきかについて考えが述べられており, 概念7においては,「学習方法の深化・発展」についての振り返りが観察できた。概念6,7については学 習の問題点について,さらに具体的な学習内容の在り方について提案し,実行しようとする態度が見られ た。概念8の「達成感や期待の表現」では,Aが学習方法について振り返りをしながら,実践を行うことで, 学習に対する達成感や次回学習への期待感が高まっている様子が見られた。概念9「読むことへの応用」 では,これまでのリスニング学習を通して,他の技能の学習へ応用できないかということで,読むことに おける応用への気づきが確認できた。Aの振り返りを全体的に見てみると,メタ認知を機能させながら, 学習課題を克服しようとする態度も見られたが,「具体的な目標・目的につながらない気持ちの描写」が 多く見られた。頑張っていこうとする態度は見られるが,具体的な目標・目的がない文言が多く,メタ認 知を活かした振り返りが効果的に行われていないようであった。   表2は生徒 Bの学習ジャーナルの文言をM-GTAを用いて分析したものである。

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表2 M-GTA による生徒 B の学習ジャーナルの分析 概念5 「学習問題点の把握」 定義 自分の学習に対し,何が問題か状況を把握している。 具体例 ・(リスニングのために)短い文章を,しっかりと読みこむことが大事だ。【1回目】【2回目】・(リスニン グのために)まずは初歩的な文章を丁寧に読み解いていくことが大事。【3回目】・(リスニングの中で) 初めて見る単語が無いと言うことは,基本的にはほとんどの単語は習っているということであり,後は 使い方を上手くマスターしていきたい。【20回目】・(リスニング中の単語が)単語帳にある単語ばかり あるので,まずは基本の単語の基礎の語彙力が大切だと思った。【32回目】・政治に関する単語は, 個人的に区別して覚えるのが難しく感じる。【38回目】 概念6 「具体的学習方法の提案」 定義 どのようにリスニング学習し,改善するのか,学習方法を提案している。 具体例 ・できるだけ早く読むことができるようにする。【4回目】・何も見ないでシャドウイングができるようになる。 【5回目】・日本語訳を見て,読みながら照合させる。【6回目】・何も見ずにシャドウイングは難しいの で,まずは声を出すより,リスニングを大事にして,口パク(リップ・シンク)で合わせてみる。【7回目】 ・日本文を読むときに赤シートで赤文字を隠すことで,英文を部分で理解できているのか,否かがはっ きりしてくると思う。よって,赤シートを活用していきたい。【14回目】 概念7 「学習方法の深化・発展」 定義 自分の学習をさらに学びを深化・発展するための考えを提示している。 具体例 ・区別して覚えるべき単語も複数あるので,しっかりと区別して覚える。【8回目】・熟語や名詞・動詞・ 形容詞・副詞など覚えておくことでより文全体の理解度が高まると思う。動詞などもおさえておくことが 大切で,しっかり確認する。【9回目】・日本語訳のところをどれだけ早く読み切るかにも注目していくべ きだと思う。【10回目】・短い文章でも単語は語彙力を必要とするものであった。基本である単語は身 に付けておく必要がある。【12回目】・自動化はできないから,できるだけシャドウイングが早くできる ことで内容の理解はさらに深まると思う。【13回目】・前置詞を伴って活用される語も少なくないので, セットで覚えることが大切だと思った。【17回目】・今日の単語には,学ぶことが多かった。文法など も関係してくることもしばしばあり,単語の確認が大事だと思った。【18回目】・形容詞の単語を覚える のが苦手なので,今のうちから少しずつ覚えられるようにする。【19回目】・似たような単語で,意味は 似ているが,綴りがまるで違うものが多くあるので,見極めていきたい。【22回目】・名詞は覚えやすい が,多くあるので,ひとつひとつ丁寧に覚えていけるようにする。【23回目】・いろいろな形へと派生し ているものがあるので,綴りを間違えないように気をつけて覚えたい。【24回目】・名詞をセットで覚え ると覚えやすいものもあるので,知っている名詞とセットで覚えていくことで吸収率を上げていきたい。 【25回目】・熟語で活用されるものも多くある。紛らわしいものも,もちろんあるので,1つ1つしっかり と組み合わせを確認しながら,覚えていきたい。【26回目】・基本的な単語ばかりだったが,大切なも のが多くあったので,単語帳と平行して覚えたい。【27回目】・新出の単語はないものの,簡単な単語 には,多数の意味を持つものがあるので,しっかりと区別して覚えていきたい。【28回目】・committee のように同じアルファベットを用いる単語はつづりにも十分気をつけて覚えないと,間違った覚え方を してしまうかもしれない。【29回目】・簡単なものから初めて知るものまで,少ないながら,重要な単語 ばかりでした。【31回目】・batheやbreatheなどの動詞と名詞の区別が難しい単語などは,eがつくかつ かないか,発音が濁るかどうかなど,共通点を見つけることで,覚えやすさがアップすると思う。【33回目】 ・awakeの使い方を初めて知った。形容詞ではあるが,他の形容詞と少し使い方が異なる。しっかり とこのことを覚えておく。【34回目】・トリビアの泉を例で入れてくれる等覚えやすかった。何かを例に あげて覚えるのも一つの方法である。単語を覚える時はゴロ合わせをして覚えると効率よく覚えられる。 【35回目】・「政治」と「政治の」といった「の」などが入るだけで,つづりが異なる単語に気をつけたい。 【38回目】

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概念8 「達成感や期待の表現」 定義 今後の学習に対して達成感や期待を表現している状態 具体例 ・今回の単語はほとんどが単語帳に掲載されているもので,単語帳をマスターすればほとんどの英文 は読解できると思う。【37回目】・ここまでやってきて少しずつ単語が難しいものが増えてきているよう に感じる。まだまだボキャブラリーの少なさに甘さを感じている。もっと多くの単語を覚えるために, より多くの英文に触れることが重要である。【40回目】・今までよりも取り組みに力を入れたつもりでは あるが,速読の力がまだまだ足りていないと模試を解くたびに実感する。まだ語彙力も足りていない。 単語の覚える力も身につけなければならない。【40回目】・まだまだ,遅い。時には読み切れず,終わ ることもあった。読みながら訳を考えるとどうしても遅くなる。これは続けていって付けなければ成ら ない能力であると強く感じた。これからも頑張っていきたい。【40回目】・このリスニングマラソンは今 の自分に足りていないものをおしえてくれたと言えるだろう。その点では,いい勉強となった。特に速 読の力を身につけたい。【40回目】 概念9 「読むことへの応用」 定義 リスニング学習を他の技能(英文読解)につなげようとする姿勢がある。 具体例 ある英文をどれだけ早く読み切るかにも注目していくべきだと思う。【11回目】・日本語訳を読んだときに,・先に単語をだいたい把握してから読むと理解がさらに深まると思う。【10回目】・日本語訳のところが 瞬時に要約すると,模試などの長文でも役に立つ能力になると思う。【15回目】 概念10 「書くことへの応用」 定義 リスニング学習を他の技能(英作文)につなげようとする姿勢がある。 具体例 ・単語で覚えるのも大切だが,熟語などがあれば,より覚えやすくなると考え,熟語は自由英作文の 時に必要なので覚えたい。【16回目】 概念11 「教師に対する質問」 定義 教師に質問することで,問題解決を図ろうとする状態。

具体例 か。【30回目】・exerciseなどのように名詞も動詞もつづりが同じ場合の見分け方がいまいちわからない。 ・kiddingを用いた会話の中にjust kiddingがありますが,これも,you're kiddingと同じ意味合いです やはり,文脈や文法で判断しなければなりませんか。【36回目】   生徒 Bでは,生徒 Aの概念を基にさらに2つの概念である概念10「書くことへの応用」と概念11の「教 師に対する質問」を追加した。Bの振り返りを見ると,Aと比較して,概念1から概念4までの,漠然とし た気持ちの描写や,目標設定,不安を感じる描写がないことが特徴的である。その分,自分の学習を振 り返り,メタ認知を機能させながら何を改善し,実践行くべきかについて具体的に考えている様子が確認 できた。特に多かったのが概念7の「学習方法の深化・発展」であり,自身の学習を振り返りながら,学 習の仕方を意識し,メタ認知を機能させながら効果的に学習を進める様子が観察できた。また,概念8の「達 成感や期待の表現」も多く見られ,自身の学習を深化・発展させることで学習に対する達成感が得られ, 次回へ向けた学習の期待感が持てている様子が見られた。このことから,自己調整学習を進めることで 自己効力感が高まっている状況が観察できた。

3.2 結果図による考察

  2名の生徒の学習ジャーナルをM-GTAを用いて分析した結果,図1の結果図を作成した。表3は概念 名とカテゴリー名をまとめたものである。図1では,概念を併せることで[一般的な感想](概念1・2)[抽

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象的な問題点](概念3・4)[具体的な問題点](概念5)[自己調整学習の実践](概念6・7)[自己効力 感につながる感想](概念8)[他への学習への発展](概念9・10)[外部への解決依頼](概念11)の7 つのカテゴリーに分類をした。概念1・2はメタ認知が機能していない漠然とした気持ちや目的の表現であ るため,[一般的な感想]というまとまりにした。概念3・4については問題点に気づいてはいるが,具体 性がないため[抽象的な問題点の把握]としてまとめた。概念5については,問題点を把握し,改善する 態度が見られるところであり,学習問題点の把握を[具体的な問題点の把握]として捉えた。こちらは, メタ認知が向上している場面であり,概念6・7の具体的学習方法を提案したり,学習方法を深化・発展 させたりすることで自己調整学習を可能にしている場面であり,本研究で生徒に達成してもらいたいゴー ルである。よって,[自己調整学習の実践]をコアカテゴリーとし,自己調整学習の実践を中心とした結 果図を完成させた。概念9・10から創出された[他への学習の発展]はリスニングから他の技能に発展し た部分の学習である。生徒 Bの振り返りから観察できた教師に対する質問については[外部への解決依頼] というカテゴリーを作った。 表3  概念名とカテゴリー名 概念 内容 カテゴリー名 1 「漠然とした気持ちの表現」 [一般的な感想] 2 「具体的な目標・目的につながらない気持ちの描写」 3 「問題点に不安がある状態」 [抽象的な問題点] 4 「改善策のない問題点」 5 「学習問題点の把握」 [具体的な問題点] 6 「具体的学習方法の提案」 [自己調整学習の実践] 7 「学習方法の深化・発展」 8 「達成感や期待の表現」 [自己効力感につながる感想] 9 「読むことへの応用」 [他への学習の発展] 10 「書くことへの応用」 11 「教師に対する質問」 [外部への解決依頼]   生徒 Aの[一般的な感想][抽象的な問題点の把握]に見られるように,漠然とした気持ちの表現 も多かったが,メタ認知を機能させながら,何がどのようにできないのか,具体的な問題点を挙げ,それ について,どのような学習方略をとるべきなのか,学習の計画を立てようと意識する場面が見られた。例 えば,「しっかり覚えていきたい」【1回目】が「1単語にたくさんの意味があるものがたくさんあるので,代 表的なもの以外も覚えるようにする。」【15回目】に変化する際に,メタ認知が高まり,気づきが生まれる ことで自己調整学習につながっていることが観察できた。「英作文で使いたいような単語など,いろいろ ある。」【12回目】など,自己調整学習が達成される中で,自己効力感も高まり,さらなる学習へつなげ ていこうとする態度も見られた。

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  生徒 Bは,[自己調整学習の実践]中の振り返りを見てわかるように,振り返りの中で効果的にメタ 認知を機能させ,より具体的な学習の実践を考え,自己調整学習を実践していた。例えば「何も見ずに シャドウイングは難しいので.まずは声を出すより,リスニングを大事にして,口パク(シンク・リップ)で 合わせてみる」【7回目】,「batheやbreatheなどの動詞と名詞の区別が難しい単語などは,eがつくかつか ないか,発音が濁るかどうかなど,共通点を見つけることで,覚えやすさがアップすると思う。」【33回目】 など,メタ認知による気づきによって,効果的に学習を進めていた。この点においては,新学習指導要 領である「新しい知識を確実に習得しながら,既存の知識や技能と関連付けたり,組み合わせたりして いくことにより,学習内容の深い理解と,個別の知識の定着を図る」(文部科学省,2019,p. 157)が達 成できていたと考えられる。さらに,自己調整学習をする中で,「このリスニングマラソンは今の自分に足 りていないものをおしえてくれたと言えるだろう。その点では,いい勉強となった。特に速読の力を身につ けたい。」【40回目】など,自己効力感の向上についての文言も多く見られ,さらにリスニングを速読に結 びつけるなど,他の学習に関連させる態度も見られた。この点において,新学習指導要領の「考えを形成・ 深化させ,話したり書いたりして表現することを繰り返すことで,生徒に自信が生まれ,主体的・自立的 に学習に取り組む態度が一層向上する」(ibid, p. 159)という点と関連していると考えられる。 図1. M-GTAを基にした結果図

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  図1は生徒 A,Bのジャーナルを合わせ,[自己調整学習の実践]までの過程を図式化したものである。 まず,最下位のカテゴリーとして[一般的な感想]があり,その後,リスニング学習に対する問題へ気づ きに発展する。その際に[抽象的な問題点の把握]または[具体的な問題点の把握]に分かれ,Aのジャー ナル[抽象的な問題点の把握]が[具体的な問題点の把握]に結びつくことが観察できた。[具体的な 問題点の把握]ではメタ認知が向上しており,[抽象的な問題点の把握]よりもより[自己調整学習の実践] に結びついていた。この点においてメタ認知が最大化し,生徒自身が自分の学習にあった学習方法を選択し, 実践に移そうとする行動等が見られた。さらに,[自己調整学習の実践]により[自己効力感につながる 感想]が現れ,[他の学習への発展]にもつながっていた。生徒 Bについては,自身の学習課題を解決 するために[外部への解決依頼]が見られた。   基本的な学習の流れとして,図1のような学習の流れが観察できた一方で,表1,2を時系列で見た場合, 生徒 Aの学習については,[具体的な学習の方法]や[他の学習への発展]が実践序盤に見られ,実践 の後半に[抽象的な問題点の把握]が見られることがあるが,これは実践後半部分で,学習に「慣れ」 が生じ,学習に対する集中力や意欲の減退につながったと考えられる。

4. 教育的示唆

  本研究により,生徒が自身の学習を振り返ることで,メタ認知を機能させるきっかけとなり,自身で 学習の問題を明らかにし,どのように対処していくべきか,どのような学習方略を使用するべきかについ て考えるための足場かけになっていることが示唆された。この学習の過程の中で,生徒は自己調整学習 を達成することができると考えられ,今回の実践研究では,リスニングの学習方略について,どのように 学習すべきかを考える姿が見られた。同時に,その学習を他の学習に応用する姿も見られた。また,教 師側は学習ジャーナルを通し,生徒がどのように学習をしているのかについて把握をし,授業実践で用い ることができた。例えば,学習に対し,意識が高まっていない場合は,課題に対し,「達成できそうであ る」という期待感が薄れており,自己効力感の低下が予想された場面があった。そのような場合,「頑張っ て継続していこう」などの教師の励ましの声掛けや,「(学習方法に対し)良い点に気づきましたね」など, ジャーナルの振り返りによる気づきを評価するコメントにより,生徒のメタ認知を高め,自己効力感を与え る手助けとなり,課題に対し,最後まで集中し,学習できるよう促すことができた。教師が生徒を援助す ることで,生徒が実践を繰り返しながら,学習への気づきの中で学習方法を改善し,学習方法の確立に つながり,自己調整学習が可能になることが期待できよう。

5. 今後の研究と課題

  今回の実践研究では,生徒のリスニングの力と今回の実践がどのように結びついているかについて 検証ができていない。よって,生徒のリスニング力が,今回の実践を通して,どのように変化したのか, 量的な分析を取り入れることで,さらに研究結果に意味を持たせることができると考えている。また,検 証する生徒数を増やす,またはより深くインタビューしたりするなどリッチな質的データを取り,生徒のリ スニング能力とジャーナルにおけるメタ認知や自己効力感に関する表記がどのように関係しているのかに

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ついても,検証してみる価値があると考えている。

参考文献

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Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York: W. H. Freeman.

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参照

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