関東支部例会「秋のつどい」が2018年10月6日(土) に東京大学本郷キャンパス理学部2号館4F大講堂に て開催された.この日は三連休の初日.台風が心配 されるなか,東京は影響を免れて穏やかな陽射しと なっていた. 演題は一般講演7題と招待講演1題の計8講演.講 演内容は以下の通り. 一般講演(1) 加藤義臣・吉田昭広・高橋啓暢:オオスカシバの 鱗粉脱落 新津修平・杉本貴史・五島正幸・上遠岳彦:フチ グロトゲエダシャクの雌特異的な翅退縮に関わる分 子基盤の解明に向けて 小田康弘:キタテハ,アカタテハなどの雌雄差に ついて 石塚正彦:平地における大型ヒョウモンの夏眠に ついて 一般講演(2) 黒田亜富:ミスジチョウ(Neptis philyra)幼虫の 吐糸行動について 真田豊誠:神奈川,東京のウラミスジシジミの新 産地と分布について 佐々木幹夫:コウトウキシタアゲハの幻光を求め て―台湾・蘭嶼島撮影行― 招待講演 横地隆:東南アジアに分布するTanaecia属(タテ ハチョウ科)に関するいくつかの事柄 一般講演 加藤義臣氏は,オオスカシバの鱗粉脱落の謎を解 くため,多くの飼育により観察を重ねられた.羽化 成虫が飛び立つ時に鱗粉が脱落する動画をはじめ, 鱗粉状態の拡大や顕微鏡観察の画像には,まさに目 を奪われた.脱落部位の鱗粉は非脱落部位に比べて 脱落に適した形態であることが分かりやすく示され ており,非常に興味深いものであった. 新津修平氏は,蛾の中でもメスの特異的な翅退化 研究に従事する.フチグロトゲエダシャクのようなフ ユシャクガ類は年1化であるため,解析対象として扱 いが難しいとされてきたが,新津氏は通年累代飼育 系の確立と人為的な休眠打破によってアプローチを 可能にした.今回はPCRによる発現解析の結果報告 と遺伝子機能解析に向けたアプローチについて紹介. 小田康弘氏は,写真の画像を数式で解析すること を得意とされる.この度は雌雄の見分けが難しい数 枚の蝶の写真を並べ,オスかメスかクイズ!だ.会 場は笑い声や,ああだこうだと,賑やかになっていっ た.小田氏は,あらゆる蝶を対象に多様な解析を膨 大に行い,鱗翅学会のみならず各方面で発表されて いるのだから,そのエネルギーには脱帽する. 石塚正彦氏は,長期に渡る秩父ミューズパークで の観察から,多くのデータを蓄積しておられる.ま ず,ドローン撮影による動画は,まるでテレビを見 ているかのように圧巻であった.質疑応答では,他 の地域での目撃情報なども相次いだ.ヒョウモン類 の夏眠に関しては,プロの研究者で解釈が異なるこ ともある.ただ,石塚氏のように自らの足で歩き, ほぼ毎日,実際のフィールドを見続けているアマ チュア研究者の言葉は力強い. 黒田亜富氏は,ミスジチョウ幼虫の吐糸行動につ いて野外で観察.幼虫が葉柄に噛み傷をつけるのは, 葉を萎れさせて自分の体色と同じにし,カモフラー ジュするためと推察した.隠れ家に急いで戻る幼虫 の様子や,枯葉のような絶妙な色合いの幼虫たち. それは,厳しい環境に適応しようとする,小さき生 命の知恵と言えようか. 真田豊誠氏のウラミスジシジミの新産地と分布の 発表は,2017年の関東支部「春のつどい」の続報で ある.コナラの冬芽からの採卵で記録をとり,継続 的に探索を実施.特に神奈川県の分布南限を探し, 丹沢を基点とした生息地域の結果を,環境の特徴を 加えて報告.質疑応答では食樹についての情報も交 わされた. 佐々木幹夫氏は,蝶の撮影において特に構造色や 「幻光」に魅せられているとのこと.今回は台湾で 撮影した数々の生態画像を紹介.至近距離が狙える 吸蜜時の花の種類,時間帯,角度など,条件が揃う までの苦労話をしながら,次々と美しいスライドが 展開されていく.それが幻光色でなくとも,会場か
関東支部 支部例会 2018年「秋のつどい」報告
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YADORIGA やどりが 260号(2019)らは感嘆の声.終盤,ついに「幻光」が現れると, あちこちから前のめりで「おぉ」と声が上がった. 招待講演 横地隆氏は,日本鱗翅学会会員(東海支部)であ り,日本蝶類学会では前会長(2014⊖2016)を務め られた.本業のクリニック院長である傍ら,昆虫研 究では特にインド・オーストラリア区および東洋区 におけるイナズマチョウの分類を専門にされてい る.講演では,その分類学的位置,歴史,分布,特 徴,さらに詳細の各論として,ご自身の「タナエキ アノート・パート1」など,数多くの画像と共に解 説.知見や問題点を交え,経験談を軽快な口調で語 られた. 以上,全ての講演が終了し,次は懇親会だ.しか し,まだ時間がある.すると,東京大学の矢後勝也 氏が「ぜひ展示を御覧いただければ」と急きょ,博 物館へ誘導.そう!東京大学総合研究博物館では, 矢後氏が企画・総指揮する特別展示『珠玉の昆虫標 本―江戸から平成の昆虫研究を支えた東京大学秘蔵 コレクション―』が絶賛開催中なのであった.博物 館は閉館していたにも関わらず,矢後氏の計らいで 通用口が開かれ,自ら解説し案内された.短い時間 ではあったが,嬉しいサプライズとなった. 懇親会は東京大学構内UTカフェにて.通常は東 京大学グッズ販売の店舗に併設している静かなカ フェも,この夜はビールやワインなどのグラス片手 に様々な話題で華やいだ. 今回,関東支部の特色である小中学生や高校生の 発表はなかったものの,プロやアマチュア,招待講 演,東京大学総合研究博物館の特別展示など,バラ エティー豊かな集いとなった.東京という立地を活 かし,関東支部では幅広い層に向けて,これからも 柔軟な集いが開催されることを期待したい. 2018秋のつどい参加者 愛津乃江,浅香克彦,石塚正彦,伊藤勇人,伊藤幸 子,伊藤建夫,上野博,宇式和輝,江坂久雄,大塚 市郎,小串誠,小串裕美子,小沢英之,織田仁志, 小田康弘,加賀美智也,勝山礼一郎,加藤義臣,川 田智子,河原元,工藤広悦,倉地正,栗山定,黒坂 桐子,黒田亜富,児山元昭,斎藤将,斉藤太増光, 佐々木幹夫,真田豊誠,須川幸子,杉山隆,杉山裕 美子,鈴木舞,住井國彦,高橋真弓,竹内愛,立岩 幸雄,次田章,綱島延明,手代木求,徳永威久,豊 島弘三,中里大瑚,長畑直和,中村博紀,新津修平, 橋本定雄,長谷川大,藤田善彦,保坂満,堀田政男, 牧林功,松崎耕三,松田陽二,松本正吾,丸山正司, 三橋渡,美ノ谷憲久,宮川崇,宮前和夫,本宮治, 森紘一,柳下昭,柳本茂,矢後勝也,矢野高広,矢 野浩一,山崎敏和,横田光邦,横地隆,渡邊明長, 渡辺康之(50音順・敬称略) 参加者:73名,懇親会参加者:31名 (報告者:杉山裕美子) 横地隆氏 東京大学総合研究博物館 特別展示 懇親会