「他者との関わり」を意識させたライティング指導の工夫
~中学校英語科 1 学年での取り組みの一考察~
喜多容子(KITA Yoko)
鳴門教育大学
Abstract
The purpose of this study is to investigate an effective approach to teaching writing to first year junior high school students to enhance their motivation. The Course of Study for Foreign Language emphasizes the importance of relationships and interactions among learners in English lessons. Cooperating with a local public school, inventive writing instruction focusing on collaborative learning and purpose driven writing was practiced throughout the school year. In this paper, three case studies will be discussed to illustrate the effects of this inventive writing instruction. Class observation and the students’ writing portfolios were used to assess the students’ progress. This paper concludes that inventive writing instruction would be effective to motivate students in writing. However, the results in the writing portfolios show that further concrete teacher support would be imperative for continued improvement in the students’ individual writing skills.
キーワード:ライティング,他者との関わり,学習指導要領 1. はじめに 2017 年 3 月 31 日に次期中学校学習指導要領が公示され,2018 年 4 月 1 日からの移行措置 期間を経て,2021 年 4 月 1 日から全面実施することが決定された。今回の外国語科の改訂に おいては,これまでの成果と課題を踏まえた改善が図られ,外国語教育を通じて育成を目指 す資質・能力全体を貫く軸として,特に,他者とのコミュニケーションの基盤を形成する観 点を重視しつつ,創造的思考・感性・情緒等からも育成を目指す資質・能力が明確になるよ うに整理されている(文部科学省, 2018)。学習指導要領改訂における外国語教育の最大の変 革は,小学校中学年に外国語活動,高学年において教科としての外国語が導入されたことで ある。教科としての外国語には,「読むこと書くことに慣れ親しませる」指導が導入されたこ
とに留意し,今後,中学校外国語科においては,さらに小学校での学びを踏まえた指導方法・ 内容を再構築することが求められる。 本稿では,学習指導要領で示されている指針を踏まえながら,小中接続カリキュラムを含 む中学校英語科 1 学年全体を通した指導,特に「他者との関わりを重視したライティング指 導の工夫」について,その教育実践と見えてきた課題について報告する。 2. 外国語科の指導の課題について 国立教育政策研究所が,2013 年に「中学校学習指導要領実施状況調査」を,生徒質問紙調 査,学校質問紙調査の形式でそれぞれ実施している。この中で,1 学年外国語科において,「自 分の考えや気持ちを伝えるために英語でまとまりのある文章を書く活動に意欲的に取り組ん でいますか」という質問項目に対しては,「そうしている」,「どちらかといえばそうしている」 と回答する生徒の割合が,それぞれ 20.6%,40.4%を占めている。「書くこと」に対して,1 学年の生徒たちが,ある程度肯定的に捉えていることが伺える。ただ,「聞き取った内容をも とに英語で自分の意見を書く・読んだ内容について英語で感想を話すなどの活動に意欲的に 取り組んでいますか」という技能統合型で発信型の活動に対しては,「そうしている」,「どち らかといえばそうしている」と回答する生徒の割合が,それぞれ 12.8%,34.4%にとどまっ ており,意欲的に取り組んでいない生徒の割合のほうが多くなっていることが伺える。 また,ベネッセ教育総合研究所(2016)は,中高の英語指導に関する実態調査を 2015 年に 実施している。この調査において,中学校における指導方法・活動内容に対する回答として, 「音読」,「発音練習」,「文法の説明」,「教科書本文のリスニング」などが9割を超え,音声 を中心とした指導や文法指導が多いとの報告がなされている。さらに,中学校の授業では, 音声・文法指導や「聞く」,「読む」活動が中心であり,「話す」,「書く」活動の実施率が低い ことが指摘されている。 その後,英語教育の在り方に関する有識者会議(2016)において,バランスの取れた 4 技 能の育成や内容に踏み込んだ言語活動の重要性が叫ばれ,学校現場でも,上山・佐々木(2018) をはじめとする様々な 4 技能統合型の指導・評価に関する実践報告がなされている。また, 文部科学省が 2017 年に実施した「英語力調査結果」によると,「聞いたり読んだりしたこと についてメモをとったり,感想,賛否やその理由を書いたり」するなどの総合的な言語活動 を行っている学校の方が,「話すこと」,「書くこと」の得点が高いだけでなく,「聞くこと」, 「読むこと」の得点が高いとの報告がなされている。しかし,全体の英語力の傾向としては, 前年度同様,4 技能のバランスに課題があることが指摘されている。さらに「書くこと」は, CEFR (ヨーロッ言語共通参照枠) A1 レベル上位以上の割合が 46.8%と高いが,一方で,無得 点者が 11.0%を占めていることが課題とされている(文部科学省,2017)。 併せて,英語科における協同学習について,岩山 (2014) が学習意欲の向上など有効性に 言及する一方,江利川 (2014) は,協同学習について未だ十分に実践されているとは言い難 いと課題を挙げている。これらのことから,「書くこと」と「協同学習」に関する更なる実践
研究の必要性が感じられる。 3.外国語科における「書くこと」が目指すもの 他者とのコミュニケーションの基盤を形成する観点を重視しつつ,創造的思考・感性・情 緒等からも育成を目指す資質・能力が明確になるように改訂された学習指導要領の流れを受 けて,外国語科の目標は次のように設定された。 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこ と,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,簡単な情報や考えなどを理解 したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり 育成することを目指す(文部科学省,2018,p.10)。 加えて,「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」に関して,「他者との関 わりに着目して捉え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて」との解説が 施されている。ここで,執筆者は「他者との関わり」というキーワードに注目している。特 に,今回の改訂では,双方向のコミュニケーションを重視しており,それは必ず「他者との 関わり」から生じるものであると考える故である。言語は人との関わりの中で用いられるこ とを踏まえ,他者を尊重し,聞き手,読み手,話し手,書き手に配慮しながらコミュニケー ションを図ることの重要性が求められている。 また,上記の外国語科の目標を踏まえ,5つの領域別に具体的な目標が設定されている。 その中で,1学年の「書くこと」では,「関心のある事柄について,簡単な語句や文法を用い て正確に書くことができるようにすること」を目標とし,生徒の身の回りでの出来事を話題 とし,伝えたい内容を正確に書くことができる力を育成することとしている。「関心のある事 柄」とは,学校生活や日常生活をはじめとする身の回りのことで生徒が共通に体験する話題 であり,それらは,新しいクラスメートとの出会い,部活動,映画・音楽・スポーツ等の趣 味に関すること,自分たちの住む地域の行事,テレビやインターネットのトピック等が挙げ られる。そして,それらの事柄について,自分が興味・関心のあること,好きなことや嫌い なこと,紹介したい人・話題のこと,日記など伝えたい内容を英語で正確に書くことができ る力を身に付けさせることをめざしている(文部科学省,2018)。 ここで,「書くこと」を「表現する」のみの一方向のコミュニケーションで終わらせないよ うにするためには,「読み手」のことを考えて分かりやすく書くことを意識させたり,ピア・ エディティングさせたりするなどの活動を導入することにより,「他者との関わり」を持たせ ることが重要であると考えられる。さらに,4 技能の統合を目指した言語活動の充実を図る ことにより,「書くこと」を双方のコミュニケーションへと導くことが可能であると思われる。
4. 実践 4.1 実践研究の目的 中学校英語科 1 学年におけるライティング指導において,「他者との関わり」を意識させた 活動を展開することにより,生徒が能動的に学習に取り組み,ライティング力の向上につな げることができるかを考察する。 4.2 対象者と使用教材 N 市公立中学校 1 学年を対象とし,同校英語科教員と協力し,実施した。生徒は,小学校 の外国語活動で「話すこと」「聞くこと」に加え,「読むこと」「書くこと」に親しませる活動 を体験している。使用テキストは NEW HORIZON 1 で,ライティング教材・資料は,教科書 に準じた内容で,指導者作成のワークシート等を適時活用するものとする。 4.3 実践研究の方法 生徒のリフレクションシートと活動への取り組みを考察するとともに,ライティング作品 のポートフォーリオを評価することによりその成果を確認する。 4.4 「他者との関わり」を重視したライティング指導の年間計画における位置づけ 年間指導計画にライティング活動の位置づけを明確に行い,「他者との関わり」を意識させ た活動を導入する。下記の年間ライティング計画と並行して,テキストに掲載されている Unit ごとの Speak & Write も帯学習として実施する。
表1.「他者との関わり」を意識させたライティング指導年間計画 (一部抜粋) 月 4 4・5 5 6・7 テーマ 中学校へようこそ スタートカリキュラム (小中接続カリキュラム) どうぞよろしく Unit 1 わたしたちの学校生活に ついて話そう Unit 2 好きなことを伝え合おう Unit 3 I like music.
Do you play the piano?
活動名 新しい友達と知り合おう オリジナル名刺交換会 お互いのことを知り合おう W/S/L/R W/S/L 1 学 期 2 学 期 月 7 9 10 11 テーマ 地域のよさを発信しよう 異文化に触れよう Unit 5 友達や家族について伝え 合おう Unit 6 人や物について 説明した り,尋ねたりしよう Unit 7 Unit 8 活動名 オリジナルプログラム 観光マップを作ろうⅡ Welcome to Naruto! 新しいALTに自分のことを 伝えよう (ALT着任後) 自分のヒーローについて 伝え合おう My treasure 2 学校を紹介するウェブサイ トを作ろう W/R/S W/R/S/L W/R/S/L W/R 注釈:他者との関りを重視したライティング活動と中心となる技能との関連を太字で表記 4.5 「他者との関わりを意識させたライティング指導」授業実践における指導上の留意点 「他者との関わり」を意識させたライティング活動を展開するにあたり,誰に・何の目的
で・どのような場面で伝えるかという「相手意識・目的意識・場面設定」に配慮する。活動 の前期は,「書く」「話す」「聞く」が中心となるが,後期は,ライティングの経験値にあわせ て,「書く」「読む」「話す」「聞く」の 4 技能の統合をめざした指導を展開する。協働学習や ピア・エディティングなどお互いのライティング作品を「読む」活動として導入することに より,「他者との関わり」を意識させる。 4.6 実践報告について 年間を通した実践の中から,本稿では,特に小学校の単元と関連が深い3つの実践例,「オ リジナル名刺交換会をしよう」,「新しい ALT に自分のことを伝えよう」,「自分のヒーローに ついて伝え合おう My treasure 2」について報告する。 4.6.1 実践例1:小学校からの学びをつなげる「スタートカリキュラム」における 取り組み 新しい友達と知り合おう「オリジナル名刺交換会をしよう」 小学校外国語学習で培ってきたコミュニケーション能力の素地や体験的に理解を深めてき た言語材料を大切にしつつ,中学校英語科へのスムーズな接続ができるように配慮し作成さ れたのが中学校入門時「スタートカリキュラム」である。ここでは,仲間同士での関わり合 いを通じてお互いのことを伝え合う場面を積極的に取り入れ,グループやペアでのインタラ クションを大切にする活動を 9 時間で構成した。「オリジナル名刺交換をしよう」は,8.9 時間目に実施している。この活動では,生徒に,新しいクラスメートに自分のことを伝えて 知ってもらうという目的意識を持たせる。従来は,スピーキング・リスニングを中心とした 自己紹介のみであったが,小学校で同様の学習活動を実施してきたこと,さらにリーディン グ・ライティングに親しむ活動にも取り組んできた実態を踏まえ,4 技能統合型の活動を設 定した。文字を媒介とするコミュニケーション活動,「オリジナル名刺交換会」である。 この活動における「他者との関わり」とは,情報を伝える相手・新しいクラスメートがい るという相手意識を持たせてライティング活動に臨ませることである。スピーキング・リス ニングで慣れ親しんだ定型表現を軸に,文 字に親しんだ小学校外国語活動での経験と, スタートカリキュラムでの学習内容を融合 させた。そして,「オリジナル名刺交換」を 取り入れた紹介活動へと発展させた。 活動の実際 1.まず,活動の目的,新しい友達と知り 合うための「オリジナル名刺交換会」を 行うことを伝える。例となる「名刺」を 提示し,表面には自分の名前,裏面は自 分の伝えたい情報を書き込んだ「オリジナル名刺」を作成するという学習内容を,クラス 全体で共有する。 図1. 辞書を活用し,自分が書きたい単語を 調べる様子
生徒の感想(生徒のリフレクションシートより抜粋) ・名刺を書くのは楽しかった。日本語より英語の方が書くのが楽しいなと思った。(図3参照) ・〇さんからもらった名刺に,英語とイラスト書いてあってわかりやすかった。英語も上手だった。 ・辞書の使い方をならったので,名刺に書く単語を調べる時に早く調べることができた。 ・名刺の紙がもっと大きかったらいいと思った。もっとたくさん書きこみたかった。 ・みんなたくさん英語を書いていたので,自分ももっと書けるようになりたい。 ・〇さんは,名刺に I like music.と書いてあった。音楽が好きで,ピアノをひけることがわかった。 2.名刺交換会では,自分の名前を伝えながらオリジナル名刺を友達に手渡し,さらに自分 の興味があることや好きなこと等を伝えたりしながら,互いの自己紹介を進めていく。こ こで,双方向のコミュニケーション活動へと発展させるために,オリジナル名刺を手渡さ れた友達は,そこに書かれた情報を手掛かりに,相手に簡単な質問をする。 考察:生徒の作品・行動観察・リフレクションシート オリジナル名刺作成時には,自分が発信したい情報を考え,より多くの情報を書き込もう と辞書を活用し単語等を調べたり(図1),JTE・ALT に正確な表現であるかを確かめようとし たりする様子が見られた。生徒たちの「書きたい」という意欲の高まりが,行動観察や生徒 のリフレクションシート(特に下線部)から伺えた。さらに,オリジナル名刺交換会では, 生徒が,お互いを紹介する中で手渡された名刺の情報を確認し,そこに書かれた情報を手掛 かりに,簡単な質問をする様子が見られた。名刺交換を踏まえた自己紹介という場面設定, そして伝える相手「新しいクラスメート」を意識させたライティング活動は,生徒の能動的 な学習を促すことが確認できた。 4.6.2 実践2:新しい ALT に自分のことを伝えよう 実施校は,2 名の ALT が配置されているため,毎年新しい ALT との出会いがある。この機 会を有効活用して,生徒に新 ALT との出会いに向けての自己紹介文を作成させる。伝える相 手は,新しい ALT であることを意識させる。生徒が作成した自己紹介文は,来校前に ALT に一読してもらうとともに,質問事項に対してのコメントなども記入してもらい,生徒へ手 渡す。このように,お互いのことを事前に僅かながらも知ることにより,生徒が ALT との初 めての出会いに期待を膨らませることができるようにした。 図3. 生徒の振り返り(一部抜粋) 図2. 生徒が作成したオリジナル名刺の裏面
図4. 伝えたい情報を考え, 整理する様子 図 5. ピア・エディティング 協働学習の様子 この活動における「他者との関わり」は次の 2 点である。1 点目は,ALT との関わりのこ とである。情報を伝える相手がいること,相手意識を持たせてライティング活動に臨ませる という点である。2 点目は,友達との関わりのことである。ライティング原稿のピア・エデ ィティングをグループ間で行うことにより,仲間のライティング作品を読み合い,共に学び 合い,そして,フィードバックにより良いところを認め合うことである。まず,スピーキン グ・リスニングで慣れ親しんだ定型表現を想起させ,読み手にとって分かりやすい文の組み 立てを考えさせる。そこで,正確さも意識させながら,ライティング活動へとつなげる。さ らに,学び合いの場となるリーディング活動へと統合させるのである。 活動の実際 1.活動の目的,新しい ALT が来校することを伝え,自分を紹介する文を書くことをクラス 全体で共有する。 2.読む相手にとって分かりやすい紹介文を書くにはどうしたらいいか考えさせ,クラス全 体で意見交換をしながら,伝える内容を順序立てて書く必要性を共有する。ここで,モデ ル文の提示と Unit3の本文でならった自己紹介文を振り返り,文の組み立て方を確認させ る。ライティングの基本スキルとなるマッピングとナンバリングの手法をクラス全体で確 認する。補助教材として,お役立ち表現 Useful Expression ワークシートも共有する。 3.マッピングした項目をナンバリングし,分かりやすい文の構成について考えさせる(図4)。 英語科学習から5か月が経過しているため,ライティングスキルに個人差が生じているこ とに鑑み,支援が必要な生徒に対しては,JTE が適時,指導・助言を行う。 4.First draft を書き終えた生徒は,チェックリストにそって自分の英文を確認する。 5.クラス全体が first draft を書き終えたら,グループでのピア・エディティングをさせる。 6.ピア・エディティング(図5)及び JTE からの助言をもとに,最終原稿にとりかかる(図6)。 セルフチェックや友達からのアドバイスやコメントを参考にし,一文付け加えた方が分か りやすいと思われる所には,文を書き足して清書をする(図7)。最終確認した紹介文は, ALT に届けられる。
生徒の感想(生徒のリフレクションシートより抜粋) ・ALT の先生が紹介文を読んでくれて,私の質問に返事をくれたのが,すごくうれしかった。先生もバスケッ トが好きだと書いてくれたので,いっしょにバスケをしてみたい。 ・友達の文を読んで,とても分かりやすく書けていると思った。また,友達に私の紹介文を読んでもらって, 色々教えてもらえたのがよかった。コメントをもらうものうれしかった。 ・わからないところがあっても,グループで教えあえるのがよかった。つづりとか間違っているのも,〇さん がチェックしている時に教えてくれたので,直すことができた。 考察:生徒の作品・行動観察・リフレクションシート 新しい ALT に自分のことを伝えることを主たる目的とした実践であるが,今回の実践から, 生徒のライティング原稿を,グループで読み合い,訂正すべき点などを教え合う協働学習を 取り入れた。伝える相手が明確であることだけでなく,友達からのポジティブなフィードバ ックをもらうことは,生徒にとって学習への大きな励みになったようである。それらは,行 動観察やリフレクションシート(特に下線部)の自由記述から伺えた。 課題は,中学校におけるライティング指導で重要視される正確さや文の構成を意識させた が,短時間に正確に書きあげることができる生徒と,多大な時間を費やしても正確な文を書 くことができない生徒の差が顕著になってきたことにどのように対応するかである。 図7. 自己チェックや友達からの アドバイスを参考に校正した 生徒 B のライティング 新しく加えた情報 どんな犬が好きか 詳しく述べる 図6. 校正前の生徒 A のライティング 下段は友達からのコメント
生徒の感想 (生徒のリフレクションシートより抜粋)
・(新しい)グループで発表した時,私のヒーローは私のじいちゃんと話した。野球部の子に Does he play baseball?って聞かれたので He watches baseball.と答えた。好きな野球チームとかいろいろ質問してくれた。 ・私のヒーローは高校生の姉だと伝えたら,Does she have a boyfriend?と聞かれてびっくりした。
・自分の家族が「ヒーロー」だと発表した友達がたくさんいた。友達のヒーローが知れてよかった。 ・小学校は宝物でアルバムのことを紹介したけど,今度は写真を見せながらお母さんのことを紹介した。 ・みんなのヒーローが知れてよかった。みんな長い文を書いて英語も上手だったので,自分もがんばりたい。 4.6.3 実践3:自分のヒーローについて伝え合おう My treasure 2 小学校の外国語活動での学習「My treasure1」と学びがつながる単元設定となっている。 小学校では,「私の宝物」で,自分が大切にしてきた宝物を紹介している。この内容と関連さ せて,中学校では,自分にとってのヒーロー「大切な人」を紹介する単元を設定した。これ は,Unit6で第三者のことを伝える表現,三人称単数現在を学習することにより,設定可能 となった単元である。1 学年におけるライティング活動は,学習者自身の学校生活・家庭生 活とつながりのある身近な話題を取り上げることが重要である。このことが,自らの興味・ 関心のあることに,生徒の知識・理解等を結び付けた活動を展開させることを可能にするの である。 「他者との関わり」については,自分の大切な人について友達や ALT に分かりやすく伝え るという相手意識がはっきりとしていることや,友達のライティング作品を読み合い,友達 からのアドバイスや互いにポジティブなフィードバックを行うことである。グループでの学 び合いをさらに充実させ,ピア・エディティングの効果を最大限に生かせるようにする。ま た,ライティング活動も回数を重ねてきたため,正確なライティングや文章構成をさらに意 識させる。 ただ本実践は,「相手を意識してわかりやすく伝える」ことを最終目標としてお り,ライティング活動だけに留まらず,スピーキング活動・スピーチへと展開させる点が, これまでの実践とは大きく異なる。 活動の実際 1.活動の目的,自分の大切な人を紹介する文を書き,スピーチを行うことをクラス全体で 共有する。小学校での「私の宝物」での活動を想起させ,書くことへの意欲を高めさせる。 2.JTE の「私の大切な人」の発表を聞き,マッピングの手法やまとまりのある紹介文を書 くための文の構成を全体で再確認する。 3.First draft は,セルフチェック後,ピア・エディティングを行う。 4.グループで発表し,聞き手は,スピーチの内容について詳しく知りたいこと質問したり, 分かりにくいと感じたことなどをコメントしたりする。 5.質疑応答のメモを活用し,聞き手や読み手にとってより分かりやすい内容になるように 情報を追加し,原稿を校正する(図8)。 考察:生徒の作品・行動観察・リフレクションシート 生徒が,ライティングのスピーチ原稿作成だけに留まらず,ピア・エディティングを経て グループ発表へとつなげたことにより,「他者との関わり」が強まる活動となり得たことが,
生徒の活動の行動観察,そして,活動後のリフレクションシート(特に下線部)から伺えた。 さらに,自分にとって大切な存在である身近な人を紹介し合うことは,コミュニケーション 活動を真に意味のある内容の伴った言語活動へとも導くことになり得たと思われる。自分に とって大切な存在を仲間に伝え合い,そのことでお互いに相手を知ることで,信頼感や安心 感を生み,生徒相互の良好な人間関係構築に貢献したものと考える。 本実践でのライティング活動では,相手を意識して分かりやすく伝えるためのスピーチ原 稿を作成させたが,今後は,内容の組み立てや系統性を意識したパラグラフライティングの 指導を生徒の発達段階に応じて考えていくことの必要性を感じた。授業観察によりピア・エ ディティングの有効性は認められたが,個人差の広がりにより,常に支援する立場の生徒と 支援される立場が明確に分かれるようになってきた。ライティング力の育成のためには文法 に基づく正確性も求められることに鑑み,帯活動の充実も含めた今後の指導の在り方につい て考えさせられる実践結果となった。 5. 総合考察と課題 授業実践においては,1 年間を通して「他者との関わり」を意識したライティング活動を 展開し,その様子を生徒のリフレクションシートや活動への取り組みを行動観察するととも に,生徒のライティング作品のポートフォーリオを詳細に考察した。特に,成果を表す学年 末総合のリフレクションシートの自由記述を,他者との関わりと意欲的な取り組みという観 点から考察した。 図8. グループ発表で質問された内容を加えて,リライトした紹介文 私のふるさとヒーロー! ☆グループ発表で質問された内容などをつけ 加えて,より詳しい紹介文を完成させよう。 友達に,祖父は現在も野球をするかと 質 問されたことを受け,追加した情報 友達に,祖父はどのチームが 好きかと質問されたことを 受け,追加した情報
何のために書くのかという目的意識をはっきりとさせ,さらに誰に伝える文を書くかとい う相手意識を持たせてライティング活動に臨ませることは,生徒が意欲的に学習に取り組む ことにつながるということ(特に下線部)が,リフレクションシートの自由記述から読み取 れた。 1 年間でたくさん英作文をした。名刺交換をしたし,ALT の先生に紹介文も書いた。 ALT の先生が,私の質問にコメントをして返事をくれたのがとてもうれしかった。 鳴門の紹介文はけっこう難しかったけど,ALT の先生が,私の書いた「渦の道」の紹 介文を読んで自分も行ってみると言ってくれたのがうれしかった。他の観光地の紹介 文も書いて,伝えたい。 「私のヒーロー紹介」をした時に,自分のヒーローをみんなに紹介するために長い文 をがんばって書けたと思う。発表したときに,いろいろ質問してくれて興味をもって くれたので,うれしかった。グループで発表したりするのは,とても楽しいと思った。 また,「他者との関わり」は,伝える相手を意識するのみならず,ライティング活動でのピ ア・エディティング等の学び合いでも持たせることができることが確認された。さらに,多 くのライティング活動はスピーキング活動へとつながり,そこで,生徒が自分の考えを表現 しお互いに伝え合うことにより,「他者との関わり」を生みだすこともできた(特に下線部)。 自分が一年間いろいろ書いてきた文章を見て,4 月よりもたくさんの英文が書けるよ うになったことに驚いた。先生や友達に教えてもらって,何回も書き直したことがあ ったが,自分ではすごく頑張ったと思う。2 年生になってもさらにがんばりたい。 グループとかで友だちの書いたのを読みあったのがよかった。同じテーマで書いても M 君はいつもとても上手に書いていた。ぼくも,もっと長い文をわかりやすく書ける ようになりたいと思った。ペアで活動するといろいろ教えてもらえるのでいい。 英文を書くのは,はじめとても苦手だったが,グループでいっしょに勉強すると,い ろいろアドバイスをくれたり,上手く書けた所をほめてくれたりしたので,だんだん 自信がついてきて,長い文が書けるようになった気がする。 一番おもしろかったのは,「私のヒーロー紹介」だった。自分の大好きな人もみんなに 伝えたし,友達のヒーローについても知ることができた。新しい発見がたくさんでき てよかった。何回も書いて清書をして大変だったが,グループで助け合ったので,最 後は完ぺきに発表できた。 以上の結果を踏まえると,「他者との関わり」を意識したライティング活動の取り組みに ついて,学習意欲の向上に関しては効果があることが結論づけられる。しかしながら,ライ ティング力の向上に関しては,課題が残る結果となった。ライティング年間ポートフォーリ オの考察により,学年末には 20 文以上の文章を正確にしかも文の構成を考えて書き上げるこ とができる生徒がいる一方,5文程度の英文を正確に書くことが難しい生徒も各クラス4~5 名ずついることが明らかとなった。個人差が顕著に表れる結果となり,個に応じた指導の難 しさを痛感した。スキル指導に関する個人差への対応が,今後の大きな課題と言える。
6.おわりに 確かな英語力は,授業で養う力と,それを補い強化していく家庭学習でつける力との両輪 により形成されると考える。さらに,学習者が,教室外でも自律的に学ぼうとすることが大 切であり,そのような動機づけとなる学習課題の提示が必要となる。そして,授業と家庭学 習との両輪で,ライティング力を支える基礎・基本の力となる文法や語彙力もバランスよく 育成しなければならない。ただ,他者との関わり合いを通して学んでいく協働的な学習は, コミュニケーション能力の育成を掲げる言語学習には不可欠であると考える。新学習指導要 領も,お互いの考えや気持ちを外国語で伝え合う対話的な言語活動をより一層充実させるこ とに言及している。そこで,生徒が,互いに学び高め合える協働的な学びを大切にし,失敗 を恐れずに積極的に自分の思いや考えを表現し,発信できる場を設けることがますます重要 になると思われる。そして,4技能の指導は,「他者との関わり」を意識させた言語活動を展 開することにより必然的につながるものと考える。したがって,今後は,4 技能統合を目指 した年間指導計画の再構築とその中で展開すべき「他者との関わり」を意識させた言語活動 について,更なる実践研究を進めていく必要がある。 謝辞 授業実践をともに進めていただいた英語科友成先生に心から感謝の意を表する。 引用文献 ベネッセ教育総合研究所 (2016) 「中高の英語指導に関する実態調査 2015 」Retrieved March 30, 2019, from https://berd.benesse.jp/up_images/research/03_Eigo_Shido.pdf 江利川春雄 (2014) 「英語学力と人間関係力を高める学び愛の協同学習」『中部地区英語教育 学会紀要』43 巻, 275-280. 岩中貴裕 (2014)「協同学習を取り入れた内容理解重視の授業-そのリメディアル教育として の可能性-」『四国英語教育学会紀要』第 34 号, 47-56. 上山晋平・佐々木紀人(2018)『英語 4 技能統合型の指導&評価ガイドブック』東京:明治図 書. 国立教育政策研究所 (2014) 「平成 25 年度中学校学習指導要領実施状況調査 生徒質問紙 調査結果」 Retrieved March 30, 2019, from http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h25/02h25/ 05h25seito_gaikokugo.pdf
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