− 190 − 1)皇學館大学 教育学部
〒516-8555 三重県伊勢市神田久志本町1704 1)Faculty of Education, Kogakkan University 1704 Kodakushimoto-cho, Ise City, Mie, Japan (516-8555)
運動教室で実践した運動強度が運動習慣の定着に及ぼす影響
片山靖富1)
Effects of Exercise Intensity in the Exercise Class on
Establishing Exercise Habits
Yasutomi KATAYAMA1)
Abstract
This study examined the effect of exercise intensity on establishing exercise habits by comparing the difference in the retention rate of exercise habits when provided exercise intervention groups (exercise programs, exercise classrooms) with different exercise intensity. Participation (requirement) of exercise intervention were 20-64 years old women without exercise habits (30 minutes or more, once at least twice a week) for one year or more, outstanding sports history in the past, confident in physical strength and athletic ability, and special consideration to exercise by a doctor. Twenty-nine women participated, 17 participants were assigned to low- to moderate-intensity exercise intervention group, 12 participants were assigned to moderate- to vigorous-intensity exercise intervention group. All groups participated in the same number of sessions (90minutes a session and twice a week) and the same periods (12 weeks). The main exercises were stretching and walking in low- to moderate-intensity exercise group, and walking and jogging in moderate- to vigorous-intensity exercise group. One year after the end of the exercise intervention, the survey showed that the retention rate of exercise habits in low- to moderate-intensity exercise group was 7 out of 12 (58.3%) and that in moderate- to vigorous-intensity exercise group was 2 out of 11 (18.2%). There was no significant difference in the retention rate of exercise habits between two groups (χ2 test, p=0.089). Self-efficacy for exercise did not increase significantly in either group (low- to moderate-intensity exercise group: baseline 8.8±3.0 → post 9.4±2.5 → survey 8.5±3.1 points, moderate- to vigorous-intensity exercise group: 11.3±2.9 → 11.0±3.7 → 10.8±2.2 points. Interaction: p = 0.694, simple main effect of time: p=0.585, simple main effect of group: p=0.061). These results suggest that the effect of exercise intensity on establishing exercise habits and self-efficacy for exercise-related establishing exercise habits might be small.
キーワード:運動習慣の定着,運動強度,指導方法
Keywords :Establishing exercise habits, Intensity, Teaching method
Ⅰ.緒 言
行動心理学7 )や教育経済学1 )では,目的(行 動心理学では最終目標)と目標(下位目標・ 目的を達成するための目標)の設定が大切だ とされている.運動習慣の定着や運動を始め るきっかけづくりを目的とした運動教室やス ポーツイベントはたくさん開催されている が,それによって運動習慣が定着した,運動 習慣の定着に貢献したという実感はない.目 的が達成されないのは,目的だけでなくその 教室内で適切な目標が設定できていない可能 性がある.「毎日 1 日 1 万歩」や「エレベー タより階段を使おう」などの目標を設定して いる教室やイベントも見受けられるが,これ らの目標は言い換えれば「運動を習慣化しよ う」「身体活動を増やそう」であり,目的と 同質である.そこで,北村ら10)は,運動習慣 の定着を目的とした運動指導プログラムを開 発すべく,そのパイロットスタディとして, 地域住民を対象に運動教室を開催した.この 研究では,「運動習慣を定着する」を目的(最 終目標)とし,その目的達成のために「地域 のマラソン大会( 5 kmラン)に出場する」 という目標を教室内で参加者とともに設定し ている.この工夫が功を奏したのか,教室参 加者10名中10名(100%)が 1 年後も運動を 継続でき(週 2 回以上, 1 回60分以上の運動 が実践できている運動習慣を有していた), さらには,次年度の地域マラソン大会にも全 員が参加・出場できたと報告している.この 研究は,目的と目標を明確に設定し,区別す ることは運動習慣の定着に寄与する可能性を 示したが,単群試験のためいくつかの課題が 残ったことを報告している.その一つに,提 供した運動の強度がある.運動強度が低いと 運動習慣の定着には貢献しないとの報告があ る19).強度の高い運動を実践できれば成功体 験を強く感じ,それによって自信を得て,運 動習慣の定着につながると考えられているこ とから2 ),運動習慣が定着できた北村らの研 究の参加者は,5 kmラン(タイム:35∼40分) という強度の高い運動ができたことで自信に つながり,そのことが運動習慣の定着に貢献 した,つまり目標設定以外に運動強度が運動 習慣の定着を促した可能性がある.一方で, 運動強度が高すぎると運動習慣の定着には貢 献しないとの報告もあるが20),運動習慣を定 着させるうえで提供すべき最適な運動強度に ついて結論は得られていない. そこで本研究では,運動教室では目標の設 定をおこなわず(運動習慣の定着を目的・最 終目標とし,下位目標の設定を促したり,提 案したりするようなことはせず),運動強度 が異なる運動プログラム・教室を提供した時, 運動を実践した時の運動習慣の定着の違いを 見ることで,運動強度が運動習慣の定着に及 ぼす影響を明らかにすることを目的とした.Ⅱ.方 法
1 .対象者 運動教室の参加条件は,20∼64歳の成人女 性で, 1 年以上にわたって運動習慣( 1 回30 分以上の運動を週 2 回以上実施している)が ないことに加え,過去(高校生以降)に際立っ たスポーツ競技歴がなく,体力や運動能力に 自信がないこと,医師により運動実践を禁じ られていないこととした. 2 .各教室の参加者の募集方法と参加人数, 脱落の判断 参加者の募集は新聞の折り込み広告や地域 情報誌を利用し,大学周辺の近隣市町に折り 込 み 広 告 は 約 40,000 戸, 地 域 情 報 誌 は 約 60,000部を配布した.広告や募集記事には開 催時期が異なる第Ⅰ期(年度前半: 5 ∼ 8 月 の 3 か月間),第Ⅱ期(年度後半: 9 ∼12月 の 3 か月間)の運動教室を開催する旨と運動 教室の目的「運動を始めるきっかけづくり. 運動が楽しいことを体感し,運動習慣を定着 する」は募集広告に明記したが,教室で提供 する具体的な運動内容(種目,項目)や強度 については,運動や体力に自信が無い者が参 加を敬遠するのをできるだけ避けるために記 載しなかった.第Ⅰ期には18名の応募があっ− 192 − か月目は,ストレッチや自体重を負荷とした 筋力トレーニングを主運動とした. 2 か月目 以降はウォーキングを主運動とし,15分/km のペースで 1 kmの距離から始まり,その後 徐々に速度,距離を増やしていった.また, 2 か月目後半にはノルディックポールウォー キングも加えた. 3 か月目後半には,ウォー キングやノルディックポールウォーキング ( 3 か月目後半には 4 ∼ 5 METs(metabolic equivalent)程度と推定される)に加え,イ ンターバルトレーニングの動きの様相を模し てはいるが,ペースを落とすなど強度を下げ た運動( 1 回20秒のトレーニングを 1 分間の 休息を 1 セットとし,4 セット実施)を行なっ た. 中・高強度運動教室は 9 ∼12月にわたり 1 回90分の教室を週 2 回実施した. 1 か月目前 半は,ストレッチや自体重を負荷とした筋力 トレーニングを行ない, 1 か月目後半からが ウォーキングを始めた.その後,徐々に速度, 距離を増やしていった. 2 か月目からはノル ディックポールウォーキングも加えた.さら に, 2 か月目後半からは,ウォーキングの前 に,低・中強度運動教室と同様,強度を下げ たインターバルトレーニング( 1 回20秒のト レーニングと 1 分間の休息を 1 セットとし, 4 セット実施)を行なった.3 か月目にはジョ ギングを加え, 1 km/10分のペースで 1 km の距離から始め,徐々に速度,距離を上げた ( 3 か月目後半には 6 ∼ 7 METs程度と推定 たが,そのうち 1 名は教室前の説明会にキャ ンセルの申し出があり,教室には参加しな かったことから脱落者にはカウントせず,参 加者は17名とした.教室開始から数回の教室 を終えた後, 5 名は脱落の意思表示がないま ま出席しなくなったため脱落者扱いとした. 第Ⅱ期には13名の応募があり,そのうち 1 名 は教室開始前の説明会からキャンセルの申出 があり,教室には参加していないため脱落者 扱いとはせず,参加者は12名とした.運動教 室開始後,家庭の事情により教室に参加でき なくなった参加者 1 名を脱落者扱いとした (図 1 ).なお,同一参加者が両教室に参加す ることは認めなかった.両教室の募集の締め 切り後に,第Ⅰ期の教室は低・中強度運動を, 第Ⅱ期は中・高強度運動を主に実践すること を決定した.以下,第Ⅰ期運動教室を「低・ 中強度運動教室」と,第Ⅱ期運動教室を「中・ 高強度運動教室」と表記する. 全ての参加者には教室開催に先立ち,本研 究の目的と教室の内容について口頭及び書面 にて説明し,本研究の参加の同意を得た.本 研究は皇學館大学研究倫理委員会の承認を得 ており(平成30年度受付番号 3 ),ヘルシン キ宣言に則って実施した. 3 .運動教室の指導内容 各教室の指導内容の詳細は表 1 - 1 に示し た.低・中強度運動教室は 5 ∼ 8 月にわたり 1 回90分の教室を週 2 回実施した.初めの 1図表 図 1 教室参加者,脱落者,追跡調査に協力のあった人数および運動習慣定着率 応募者数 18名 13名 キャンセル1名 キャンセル1名 参加者数 17名 12名 脱落者5名 (理由:不明,意思表示なし) 脱落者1名 (理由:家庭の事情) 教室終了時 12名 出席率:78.3±9.9%(60~100%) 11名 出席率:92.3±11.1%(72.7~100%) 追跡調査協力者数 12名 11名 運動習慣定着者 :7名(58.3%) 運動習慣定着者 :2名(18.2%) 運動習慣非定着者:4名(41.7%) 運動習慣非定着者:9名(81.8%) 教 室 中 (1年後) 追 跡 調 査 第Ⅰ期 第Ⅱ期 低・中強度運動教室 中・高強度運動教室 開 始 前 図1 教室参加者,脱落者,追跡調査に協力のあった人数および運動習慣定着率
される).さらに,低い強度から始めたイン ターバルトレーニングは,休息時間を徐々に 短くし,ペースやセット数を増やし,最終的 には参加者個人の主観で全力で実施した(ト レーニング20秒と休息時間15秒を 1 セット, 6 セット実施). 4 .測定・調査項目とその方法 主たる測定・調査項目は教室終了から 1 年 後の運動習慣の有無とした.副次的な項目は, 身体的特徴として,身長,体重,体格指数 (body mass index: BMI),無酸素性作業閾値 (anaerobic threshold:AT)時酸素摂取量 表1-1 運動教室の様子(運動指導・実践内容) 運動指導・実践内容 低・中強度運動教室 中・高強度運動教室 1 か月目 前半 【主運動】 ・ストレッチ(30 45 分) ・自体重を負荷とした静的(動きの少ない)筋力トレーニング(15 30 分) 【整理運動】 ・マッサージ(15 分) 【主運動】 ・ストレッチ(30 45 分) ・自体重を負荷とした静的(動きの少ない)筋力トレーニング (15 30 分) 【整理運動】 ・マッサージ(15 分) 後半 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・ウォーキング(1km/15 分程度のスピードで 1 ∼ 2km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 2 か月目 前半 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・ウォーキング(1km/15 分程度のスピードで 1 ∼ 2km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・ノルディックポールウォーキング(1km/15 分程度のスピー ドで 1 ∼ 2km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 後半 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・ノルディックポールウォーキング (1km/15 分程度のスピードで 1 ∼ 2km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・高強度インターバルトレーニング(タバタ式トレーニング24)) を模して強度を下げた運動(1 回 20 秒・1 分休息を 4 セット) ・ウォーキングまたはノルディックポールウォーキング (1km/12 分程度のスピードで 2 ∼ 3km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 3 か月目 前半 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・ウォーキングまたはノルディックポールウォーキング (1km/12 分程度のスピードで 2 ∼ 3km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(15 30 分) 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(10 分) 【主運動】 ・高強度インターバルトレーニング(タバタ式トレーニング24)) を模して強度を下げた運動(1 回 20 秒・30 秒休息を 4 ∼ 6 セット) ・ジョギング(1km/10 分程度のスピードで 1 ∼ 2km)+ウォー キング(1km/10 分程度のスピードで 1 ∼ 2km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(10 20 分) 後半 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(15 分) 【主運動】 ・高強度インターバルトレーニング(タバタ式トレーニング24))を模 して強度を下げた運動(1 回 20 秒・1 分休息を 4 セット) ・ウォーキングまたはノルディックポールウォーキング (1km/12 分程度のスピードで 2 ∼ 3km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(10 20 分) 【準備運動】 ・ストレッチやラジオ体操などのような低強度体操(10 分) 【主運動】 ・高強度インターバルトレーニング(タバタ式トレーニング24)) を模して強度を下げた運動(1 回 20 秒・15 秒休息を 6 セット) ・ジョギング(1km/9 分程度のスピードで 2 ∼ 3km)+ウォー キング(1km/10 分程度のスピードで 0.5 ∼ 1km) 【整理運動】 ・ストレッチやマッサージ(10 20 分) 表1-2 運動教室の様子(活動強度) 低・中強度運動教室 (n=12) 低・中強度運動教室(n=11) 交互作用 時間 主効果 群 教室 90 分間で出現した 活動強度の最大値 METs 1 か月目 3.88 ± 0.53 3.63 ± 0.50 F(2, 34)=6.775 p=0.003 F(2, 34)=57.217p<0.001 F(1, 17)=12.809p=0.002 2 か月目 5.86 ± 1.19† 6.93 ± 1.81 *† 3 か月目 6.24 ± 0.65† 8.58 ± 1.39 *† 平均値±標準偏差 * ,低・中強度群の値と比べて有意な差(p<0.05; 対応のある t 検定) †,1 か月目の値と比べ有意な差(p<0.05; 対応のない一元配置分散分析と Bonferroni の事後検定 )
− 194 − 2 )運動習慣定着の有無 教室終了から 1 年後に参加者に運動習慣 が定着した( 1 回30分以上の運動を週 2 回 以上継続して実施している)かどうかを尋 ねる質問票を郵送し,回答してもらった. 3 )身体活動量,身体活動時間と活動強度 身体活動量の測定には, 3 軸加速度計内 蔵の活動量計(オムロンヘルスケア社製, Active style PRO HJA-750C)を用いて測 定した.本装置は腰部にクリップで装着し て計測する仕様となっている. 3 軸の加速 度データをもとに歩数と身体活動量が計算 される.歩数については,加速度波形の振 幅の大きさが予め決められた閾値以上にな り,かつその動きが 2 秒間続いた場合に歩 行として認識されてカウントされる18).身 体活動量は強度が1.1METs∼2.9METsの 低強度活動,3.0METs∼5.9METsの中強度 活動,6.0METs以上の高強度活動を測定し た.また,各強度の身体活動時間を測定し た.参加者には介入期間中は朝起きてから 寝るまで腰に活動量計を付けて生活しても らうよう指示した.データの分析対象は活 動量計を 1 日10時間以上装着し14),平日 5 日間と土曜日や日曜日および祝日の 2 日間 の計 7 日間(連続する 7 日間ではない)と した.ただし,教室終了直前のデータにつ いては運動教室実施日ではない日(日常生 活)の平日を 5 日間と土曜日や日曜日およ び祝日の 2 日間の計 7 日間とした.教室終 了から 1 年後の調査においては,参加者に 活動量計を送付し,教室開始前と同様に計 7 日間以上活動量計を装着してもらい,歩 数と身体活動量,身体活動時間を測定した. 運動教室開始から 1 か月目, 2 か月目, 3 か月目のそれぞれ代表的な運動教室 1 日 から,教室90分間で出現した活動強度の最 大値を各参加者より抽出することで,教室 で実践している運動強度を確認した(表 1 - 2 ).なお,本研究のエポック長(デー タサンプリングの集計時間間隔)は60秒と した.
(VO2AT),最大酸素摂取量(VO2max),運 動習慣の有無を補完するものとして,教室開 始前(日常生活)と教室終了直前(運動教室 日を除く日常生活),教室終了から 1 年後の 強度別の身体活動量と身体活動時間,運動セ ルフエフィカシーを調査した.また,教室 1 か月目, 2 か月目, 3 か月目の運動教室時間 (90分)中の活動強度を測定した.これらの 測定・調査は,低・中強度運動教室において は脱落者を除く全12名を分析対象とし,中・ 高強度運動教室においては脱落者を除く全11 名を分析対象とした. 1 )身体的特徴 身長は身長計(ヤガミ社製,YG200)を, 体重は体重計(タニタ社製,HBF-190)を 用いて測定し,身長,体重からBMIを算出 した.VO2maxおよびVO2ATの測定は自 転車エルゴメーター(Monark社製,model 828E)を用いて行なった. 0 wattで 2 分 間のウォーミングアップの後,主観的限界 に至るまで毎分15wattずつ段階的に負荷 強度を高める多段階漸進負荷を用いた26). こ の と き の ペ ダ ル の 回 転 数(revolution per minute:rpm)はメトロノーム音に合 わせ60rpm(両足で120rpm)を維持する ように指示した.V-slope法を用い,酸素 摂取量(VO2)に対する二酸化炭素排出量 (VCO2)の上昇開始点およびCO2換気当量 の増加を伴わないO2換気当量の増加開始 点としてVO2ATを決定した3 ).測定中の 換気および呼気ガス諸量は呼気ガス分析器 (アルコシステム社製,ARCO-2000)を用 いてミキシングチャンバー法により分析 し,分時換気量,VO2,VCO2は30秒ごと の平均値として求めた.測定中は心電計 (フクダ電子社製,DS-7520)を用いて心電 図と心拍数を, さらに自覚的運動強度 (ratings of perceived exertion:RPE) を 連続監視し,データの収集とともに運動中 の事故防止に努めた.教室開始前と教室終 了直前の 2 回測定した.
4 )運動セルフエフィカシー 運動習慣の定着には運動セルフエフィカ シーが影響していることが考えられるため 調査した.岡が作成した運動セルフエフィ カシー尺度を用いた17).運動セルフエフィ カシー尺度は 5 つの質問項目から構成さ れ,疲労,気分がのらない,忙しさ,休暇 中,天候不良といった各状況における運動 実施の自信を問うものである.それぞれの 状況における運動実施の自信が「まったく 自信がない( 1 点)」から「絶対に自信が ある( 5 点)」の 5 件法で回答を求めた(得 点範囲は 5 -25点).教室開始前と教室終了 直前に調査した. 5 .統計処理 1 )欠損データ等の取扱いについて 中・高強度運動教室の参加者の 2 名は, 教室開始前の身体活動量のデータが測定機 器の誤作動などにより,分析条件( 1 日の 装着時間や装着日数)に満たなかったこと から身体活動量,歩数のデータは除外し, 10名を分析対象とした.同様に,低・中強 度運動教室の参加者の 1 名は教室開始前の 身体活動量のデータが分析条件( 1 日の装 着時間や装着日数)に満たなかったことと, 別の 1 名は有職者で重労働であったため身 体活動量が非常に多かった( 3 METs以上 の活動が合計48METs・h/week) ことか らデータ分析から除外し, 9 名を分析対象 とした. 1 年後の追跡調査時の運動セルフエフィ カシー調査では,低・中強度運動教室は12 名中 4 名に,中・高強度運動教室は11名の うち 4 名に回答不備(未回答の項目があっ た)があったため,これらのデータは教室 開始前と変化が無かったと仮定し,教室開 始前のデータを代用したIntention to treat analysis分析を行なった. 2 )統計手法 各測定項目の結果は平均値±標準偏差で 示した.各測定項目の低・中強度運動教室 と中・高強度運動教室の比較には,対応の ないt検定を用いた.各測定項目の教室開 始前と教室終了直前, 1 年後の追跡調査の 平均値の比較には繰り返しのある一元配置 分散分析を用いた.事後検定はBonferroni の事後検定を用いた.また,教室終了直前 および教室終了直前から 1 年後の変化につ いて群間差を検証するために,時間(教室 開始前と教室終了直前,1 年後の追跡調査) と教室(低・中強度運動教室,中・高強度 運動教室)を要因とする繰り返しのある二 元配置分散分析により,交互作用の有意性 を検討した.さらに,各教室の測定項目の 変化( 向上・ 改善効果 ) を検証すべく, Cohenの効果量 4 )を算出した.Cohenの 効果量は教室開始前と教室終了直前もしく は 1 年後の追跡調査の平均値の差を,教室 開始前と教室終了直前もしくは 1 年後の追 跡調査の全データをプールした標準偏差で 除することにより求めた.なお,Cohenの 効果量は,0.8以上で大きな効果,0.5以上0.8 未満で中程度の効果と評価される.運動習 慣定着率の比較にはχ2検定を用いた. 1 年後の追跡調査時の運動セルフエフィカ シーと各身体活動指標との相関関係は,ピ アソンの積率相関係数を求めた.いずれの 解析も統計解析ソフト(IBM社製,IBM SPSS Statistics Version 24.0 for Microsoft Windows)を用い,統計的な有意水準は すべて 5 %とした.
Ⅲ.結 果
1 .参加者の身体的特徴 中・高強度運動教室と低・中強度運動教室 参加者の介入中における身体的特徴は表 2 に 示した.低・中強度運動教室のVO2ATが教 室終了直前から教室終了直前にかけて有意に 増加したが,有意な交互作用は認められな かった. 2 .身体活動量 歩数および強度別の身体活動量,身体活動 時間の変化は表 3 に示した.低強度の身体活− 196 − 表2 身体的特徴の変化 低・中強度 運動教室(n=12)運動教室(n=11)中・高強度 交互作用 時間 主効果 群 年齢 year 教室開始前 55.5 ± 7.0 54.6 ± 7.2 身長 cm 教室開始前 154.1 ± 4.6 157.5 ± 3.4 体重 kg 教室開始前 57.8 ± 10.9 56.0 ± 11.0 F(1,21)=0.201 p=0.658 F(1,21)=1.777 p=0.197 F(1,21)=0.135 p=0.717 教室終了直前 57.2 ± 10.1 55.7 ± 10.7 効果量(d) 0.06 0.03 BMI kg/m2 教室開始前 24.4 ± 4.5 22.6 ± 4.6 F(1,21)=0.155 p=0.698 F(1,21)=1.620 p=0.210 F(1,21)=0.826 p=0.374 教室終了直前 24.1 ± 4.4 22.5 ± 4.4 効果量(d) 0.07 0.02 VO2AT ㎖/kg/min 教室開始前 16.7 ± 3.7 19.2 ± 3.9 F(1,21)=3.270 p=0.085 F(1,21)=2.603 p=0.122 F(1,21)=0.251 p=0.621 教室終了直前 20.4 ± 4.4 * 19.0 ± 3.1 効果量(d) 0.91 0.06 VO2max ㎖/kg/min 教室開始前 26.9 ± 4.7 30.5 ± 6.7 F(1,21)=0.556 p=0.464 F(1,21)=4.793 p=0.040 F(1,21)=1.316 p=0.264 教室終了直前 31.4 ± 5.0 32.7 ± 8.3 効果量(d) 0.93 0.29 平均値±標準偏差 *, 教室開始前の値と比べて有意差あり(対応のある t 検定 , p = 0.045) 表3 各群の身体活動量と身体活動時間の変化 低・中強度 運動教室(n=10) 中・高強度 運動教室(n=9) 交互作用 ※ Mauchly の球面性検 定により球面性が仮定 されない場合は Huynh-Feldt で補正 主効果 時間 群 歩数 step/day 教室開始前 10360 ± 2045 * 6135 ± 1784 F(1.583, 26.904)=1.641 p=0.215 F(1.583, 26.904)=0.311 p=0.684 F(1, 17)=15.020 p=0.001 教室終了直前 9714 ± 2910 * 6110 ± 1325 1 年後追跡調査 8976 ± 3076 6705 ± 2283 効果量(d) 0.53 0.28 低強度 (1.10 ∼ 2.99METs) の身体活動量 METs・h/day 教室開始前 22.42 ± 2.93 19.29 ± 3.30 F(2, 34)=5.205 p=0.011 F(2, 34)=8.615 p=0.001 F(1, 17)=2.368 p=0.142 教室終了直前 20.25 ± 2.50† 19.47 ± 2.60 1 年後追跡調査 20.21 ± 2.17† 18.51 ± 3.22 効果量(d) 0.86 0.24 低強度 (1.10 ∼ 2.99METs) の身体活動時間 min 教室開始前 710.50 ± 61.80 645.03 ± 96.73 F(2, 34)=4.456 p=0.019 F(2, 34)=5.241 p=0.010 F(1, 17)=0.645 p=0.433 教室終了直前 649.13 ± 50.42† 651.70 ± 65.60 1 年後追跡調査 647.29 ± 60.92† 633.79 ± 105.28 効果量(d) 1.03 0.11 中強度 (3.00METs ∼ 5.59METs) の身体活動量 METs・ h/day 教室開始前 6.18 ± 2.13 * 3.10 ± 1.12 F(1.722, 29.277)=2.582 p=0.100 F(1.722, 29.277)=0.155 p=0.827 F(1, 17)=13.435 p=0.002 教室終了直前 5.65 ± 1.95 * 3.34 ± 0.90 1 年後追跡調査 5.34 ± 1.75 * 3.65 ± 1.15 効果量(d) 0.43 0.49 中強度 (3.00METs ∼ 5.59METs) の身体活動時間min 教室開始前 104.48 ± 38.37 * 54.29 ± 19.64 F(1.581, 26.879)=2.379 p=0.122 F(1.581, 26.879)=0.341 p=0.664 F(1, 17)=11.649 p=0.003 教室終了直前 94.29 ± 33.12 * 57.57 ± 16.46 1 年後追跡調査 90.04 ± 30.14 * 61.40 ± 16.71 効果量(d) 0.42 0.39 高強度 (6METs 以上 ) の 身体活動量 METs・h/day 教室開始前 0.04 ± 0.06 0.03 ± 0.04 F(1.191, 20.248)=1.141 p=0.310 F(1.191, 20.248)=3.219 p=0.082 F(1, 17)=1.224 p=0.284 教室終了直前 0.27 ± 0.39 0.14 ± 0.12 1 年後追跡調査 0.69 ± 1.26 0.20 ± 0.42 効果量(d) 0.73 0.57 高強度 (6METs 以上 ) の 身体活動時間 min 教室開始前 0.25 ± 0.35 0.22 ± 0.31 F(1.205, 20.485)=1.034 p=0.336 F(1.205, 20.485)=3.390 p=0.074 F(1, 17)=1.149 p=0.299 教室終了直前 2.16 ± 3.08 1.07 ± 0.89 1 年後追跡調査 5.00 ± 9.08 1.63 ± 3.31 効果量(d) 0.74 0.60 平均値±標準偏差 * ,中・高強度教室の値と比べ有意な差(p<0.05; 対応のない t 検定) †,教室開始前の値と比べて有意な差(p<0.05, 対応のある一元配置分散分析により有意性が認められた場合,Bonferroni の事後検定) 注)教室終了直前のデータは教室のない日のデータであり,教室参加日のデータは含まれていない. 動量と身体活動時間において有意な交互作用 が見られた.また,低・中強度運動教室の低 強度の身体活動量および身体活動時間は,教 室終了直前から教室終了直前, 1 年後の追跡 調査にかけて有意な減少が認められた.その 一方で,有意な変化ではないが,低・中強度 運動教室においては,高強度の身体活動量と 身体活動時間が,中・高強度運動教室におい ては,中強度の身体活動量,高強度の身体活 動量と身体活動時間が増える傾向(効果量が
0.49∼0.74:中程度の効果)にあった. 3 .運動習慣の定着 運動教室で脱落することなく,最後まで参 加した低・ 中強度運動教室は12名中 7 名 (58.3%)が 1 年後の追跡調査において「運 動を継続している」と回答し,12名中 4 名は 「運動を継続できていない」,12名中 1 名は無 回答であった.中・高強度運動教室は11名の うち 2 名(18.2%)が 1 年後の追跡調査にお いて,「運動を継続している」と回答し,11 名中 9 名は「運動を継続できていない」であっ た(図 1 ).両教室の運動習慣定着率に有意 な差はみられなかった(χ2検定,p=0.089). 4 .運動セルフエフィカシー 各教室参加者の運動セルフエフィカシーの 変化は表 4 に示した.両教室とも有意な変化 は認められなかった.交互作用にも有意性は 認められなかった. 1 年後の追跡調査時の運 動セルフエフィカシーと各身体活動量指標と の間に有意な相関は見られなかった(表 5 ).
Ⅳ.考 察
本研究は高強度( 6 METs以上)の運動を 主 と し た 運 動 教 室 と 低・ 中 強 度( 2 ∼ 6 METs未満)の運動を主とした運動教室に おいて,運動教室で提供・実践する運動強度 が運動習慣の定着に及ぼす影響について検討 した.その結果,両教室ともに参加者の運動 習慣は定着していなかったことから,運動教 室で提供・実践する運動強度は運動習慣の定 着に貢献しないことが示唆された. 1 .運動強度の影響 徐々に運動強度を高め,最終的に中・高強 度の運動実践に成功(達成)することが自信 の獲得(運動セルフエフィカシーの向上)に つながり,運動習慣を獲得するという仮説の 下,教室期間中(教室終了直前)の身体活動 量から,教室終了後( 1 年後の追跡調査)の 身体活動量,運動セルフエフィカシーととも に運動習慣の定着の有無を調査したが,それ ぞれに教室開始前から終了直後, 1 年後の追 跡調査にかけて有意な変化はなかった.さら には,運動セルフエフィカシーの変化量と強 度別の身体活動量との間にも有意な相関関係 が認められなかった.以上のことから,提供 した運動の強度は,自信の獲得や運動習慣の 定着にほとんど影響しないことが示唆され た. 運動習慣の定着に影響しなかった要因の一 つとして疲労が考えられる.介入による身体 活動量の増加が介入時間以外(日常生活)の 身体活動を減少させる要因に,疲労の蓄積を 表4 運動セルフエフィカシーの変化 低・中強度 運動教室(n=12)運動教室(n=11)中・高強度 交互作用 時間 主効果 群 運動セルフ エフィカシー得点 Point 教室開始前 8.8 ± 3.0 11.3 ± 2.9 F(2, 42)=0.372 p=0.694 F(2, 42)=0.551 p=0.585 F(1, 21)=3.930 p=0.061 教室終了直前 9.4 ± 2.5 11.0 ± 3.7 1 年後追跡調査 8.5 ± 3.1 10.8 ± 2.2 効果量(d) 0.11 0.17 平均値±標準偏差 表 5 1年後の追跡調査時の運動セルフエフィカシーと 各身体活動量指標との相関 運動セルフエフィカシー 相関係数(r) p 歩数 -0.089 0.717 低強度身体活動量 -0.343 0.151 低強度身体活動時間 -0.345 0.148 中強度身体活動量 0.020 0.936 中強度身体活動時間 0.008 0.974 高強度身体活動量 0.101 0.681 高強度身体活動時間 0.123 0.616− 198 − 指摘する先行研究がある9, 12, 13).運動実践の一 時中断は,継続の諦めを生じさせる11).そして, その運動実践の一時中断の原因も疲労の影響 が大きい25).自信の獲得よりも疲労のインパ クトが大きくなりすぎ,運動習慣の定着に至 らなかったのかもしれない. 肥満(減量)に関する研究では,高強度の 運動やエネルギー消費の大きい運動を実践す ることで,それ(強度,量的)に「満足」し たためか,その結果普段の食事量(エネル ギー摂取量)が増えてしまうという報告があ る15).また,長期にわたる運動プログラムを 受けたこと(身体活動)によって体力や体重, 容姿への「満足度」が高まったという報告も ある8 ).本研究においても,実践した運動に 「満足」し,日常生活で運動することや身体 活動を活発に行なう必要性を感じにくくな り,それによって,運動習慣の定着に至らな かったのかもしれない.低・中強度運動教室 で運動習慣の定着につながらなかったのは, 低・中強度の運動では充実感や達成感が足り ず,自信の獲得ができず,自ら運動を実践し ようという気持ちを震い立たせるのに十分で なかったのかもしれない. 一方で,運動強度が低すぎたのではなく, 参加者個人の体力や運動能力の低さが影響 し,提供した運動ですら強度が高く感じた可 能性も考えられる.本研究の運動強度は客観 的な物理的運動強度(METs)を基に論じて いる.運動強度が高すぎると運動習慣の定着 には貢献しないとの報告もあるが20),この先 行研究においても本研究と同様,ウォーキン グ(中強度:moderate),ランニング(中高 強度:vigorous)で分類しており,主観的な 運動強度では分類されていない.本研究の低・ 中強度運動教室は物理的な運動強度は低かっ たが,運動習慣がない体力・運動能力の低い 参加者にとっては主観的運動強度を高く感 じ,中・高強度運動教室の参加者にとっては 主観的運動強度がさらに高く感じた(高すぎ た)ことから,運動習慣の定着につながらな かったとも考えられる.今後は物理的な運動 強度の違いではなく,主観的な運動強度の違 いが,運動習慣の定着に及ぼす影響について 検証する必要がある. 2 .運動強度以外の影響 1 )運動プログラム・教室の開催期間の長さ による影響 高い強度の運動を行なう事により,自信 がつき運動習慣の定着につながると予想し たが,運動セルフエフィカシーが向上して いない.すなわち,運動への自信が高まっ ていなかった.運動習慣が定着した北村ら10) の研究・介入期間は 6 か月間であったが, 本研究(運動教室)の期間は 3 か月と短 かった.運動習慣の定着の事実を補完する であろう中強度以上の身体活動量や身体活 動時間の増加効果が中程度の効果量であ り,両群ともに増加する傾向が見られはし たが,統計的な有意性は認められず(表 3 ), 習慣の定着(行動変容),行動変容のステー ジを踏んでいくためには 3 か月では短く, 運動に対する自信がつく前に教室が終了し てしまった可能性がある.教育学において は,文部科学省の文部科学省国立教育政策 研究所の調査によると16),学力の高い子ど もほど学習時間が長いというデータが得ら れている.また,成人の健康教育(減量指 導)においても指導時間数や指導頻度,指 導期間を増やすことで効果を大きくするこ とができるとの報告もある5 ,29).つまり, 教育・指導に時間を費やすことにより良い 影響を及ぼす可能性があることから,今回 提供した教室の運動頻度や運動期間(時間 数)では,自信の養成に充分ではなかった のかもしれない. 2 )運動指導 1 回の時間による影響 Visekら28)は,80%VO 2Peakで45分間実 施した高強度運動プログラムのほうが 65%VO2Peakで70分間実施した中強度運 動プログラムよりも参加継続率が高かった ことから,運動強度ではなく教室各回の実 施時間・指導時間がプログラム参加継続率 の向上に重要であることを指摘している. 本研究(運動教室)の指導 1 回の時間は90
分で,この先行研究よりも 1 回の指導時間 が長い.この指導時間の延長が運動習慣の 定着を阻んだ可能性がある.ただし,運動 習慣が定着したパイロットスタディにおい ても 1 回の指導時間が90分であったことか ら,指導時間の影響は他の要因よりも小さ いものと考えられる. 3 )参加者同士のコミュニティ形成の影響 人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的 ネットワーク)いわゆるソーシャル・キャ ピタルは,健康とのかかわりが深い6 ).家 族や友人のサポートが健康行動の良好な変 化と関連があるという報告や21),スポーツ 活動の盛んな地域に暮らしているだけでも 健康度が高くなるという報告もある27).運 動グループに参加する(コミュニティに加 わる)ことや,グループに参加しなくても スポーツ・運動活動の盛んな環境に身を置 くだけでも,運動を継続して行う,適切な 食事をするなどの健康行動が促され,健康 が維持増進できていると考えられる.運動 習慣が定着した北村らのパイロットスタ ディにおいても,自然発生的に参加者同士 でコミュニティを形成していた一方で,運 動習慣が定着しなかった本研究(運動教室) は,中・高強度運動教室,低・中強度運動 教室ともに教室終了後にコミュニティを形 成していなかった.今後は,コミュニティ を参加者同士で作るよう促し,支援者側で 強制的にコミュニティを作った場合と,作 らなかった場合で運動習慣の定着率を比較 する必要がある.ただし,コミュニティを 強制的に作らせることが逆効果にもなりか ねない.自然発生的に形成された場合と形 成されなかった場合,自然発生的に形成さ れた場合と強制的に形成させた場合の比較 も必要である. 4 )運動種目・様式の好みの影響 本研究(運動教室)では両教室ともに, ウォーミングアップやクーリングダウンは ストレッチや参加者自身の体重を負荷とす る筋力トレーニングなどをおこない,主運 動はウォーキングやジョギングであったこ とから,運動種目・様式に違いはなかった. しかしながら,人は好きなこと,楽しいこ とについては習慣化しやすい.本研究で実 践した運動種目・様式,とくにウォーキン グやストレッチ,筋力トレーニングは,日 本でも最も実践者が多いが22, 23),実践者が 多いからといって,そのスポーツが多くの 人に好まれているとは限らない.ウォーキ ングやストレッチ,マシン等を使わない筋 力トレーニングは実践する場所を問わず (ゴルフや水泳,サッカーなどのスポーツ と比べれば),特別な機器を必要としない ため,安価で簡単に行うことができるから 実践人口が多いとも考えられる.本研究の 参加者にとっては,ウォーキングやスト レッチは好みのスポーツ・運動種目,様式 ではなかった(実践したものの好きになれ なかった・楽しさを感じなかった)ため, 運動習慣の定着につながらなかったのかも しれない. 3 .研究の限界 運動教室を開催するうえで,人的資源や施 設の許容量より,両教室を並行して開催する ことができなかったため,Ⅰ期(年度上半期 /低・中強度運動教室)とⅡ期(年度下半期 /中・高強度運動教室)に分けて実施せざる を得なかった.本研究はランダム化並行群間 比較試験ではない研究計画による結果であ る.
Ⅴ.結 論
運動習慣の定着に対する運動強度の影響は 小さい可能性が示唆された.ただし,本研究 は,低・中強度,中・高強度の基準は,物理 的指標(METs)を用いた.体力が低い者に とって,物理的な低・中強度運動であっても, 主観的には中・高強度に感じ,物理的な中・ 高強度運動は,主観的にはさらに高く,激高 強度と感じた可能性を否定できない.運動習 慣の定着には,物理的運動強度だけでなく主 観的運動強度の影響についても検証しなけれ− 200 − ばならない.
付 記
本研究において,申告すべき利益相反はない.謝 辞
本研究を遂行するにあたり,北村健太氏(皇 學館大学大学院教育学専攻)には運動教室の 運営・運動指導,データ収集の補助など多大 なご尽力をいただいた.ここに感謝申し上げる. また,本研究はJSPS科研費(15K16509)の助 成を受けておこなった. 文 献1) Allan BM and Fryer RG Jr(2011)「The Hamilton Project; The Power and Pit-falls of Education Incentives」, Brook-ings, Washington, DC, https://scholar. harvard.edu/files/fryer/files/092011_ incentives_fryer_allen_paper2.pdf,2020 年7月5日閲覧.
2) Bandura A and Self-efficacy (1977) Toward a unifying theory of behavioral change, Psy-chol Rev, 84(2), 191-205.
3) Beaver WL, Wasserman K and Whipp BJ (1986) A new method for detecting an-aerobic threshold by gas exchange, J Apple Physiol, 60(6), 2020-2027.
4) Cohen J(1997)Statistical power analysis for the behavioral sciences, New York, Aca-demic Press, 19-27.
5) Dansinger ML, Tatsioni A, Wong JB, Chung M and Balk EM (2007) Meta-analysis: the effect of dietary counseling for weight loss, Ann Intern Med, 147(1), 41-50.
6) イチロー カワチ, S V スブラマニアン, ダ ニエル キム(2008)「ソーシャル・キャピ タルと健康」(藤澤由和, 高尾総司, 濱野 強監訳), 日本評論社, 東京. 7) 石川善樹(2014)行動変容テクニックの標 準化に関する国際的な動向について, 行 動医学研究, 20(2), 41-46.
8) King AC, Taylor CB, Haskell WL and De-Buske RF (1989) Influence of regular aero-bic exercise on psychological health: A ran-domized controlled trial of healthy middle-aged adults, Health Psychol, 8(3), 305-342. 9) King NA, Caudwell PP, Hopkins M, Stubbs
JR, Naslund E and Blundell JE (2009) Dual-process action of exercise on appetite control: increase in orexigenic drive but improvement in meal-induced satiety, Am J Clin Nutr, 90(4), 921-927.
10) 北村健太, 片山靖富(2020)運動習慣を定 着することができた運動教室の事例報 告: 目標設定に着目して, 介護予防・健 康づくり研究, 7, 13-22.
11) Larimer ME, Palmer RS and Marlatt GA (1999) Relapse prevention. An overview of Marlatts s cognitive-behavioral model, Alco-hol Research and Health, 23(2), 151-160. 12) Leon AS, Casal D and Jacobs D Jr (1996)
Effects of 2000kcal per week of walking and stair climbing on physical fitness and risk factor for coronary heart disease, J Cardio-pulmonary Rehabil, 16(3), 183-192.
13) Martins C, Morgan L and Truby H (2008) A review of the effects of exercise on appetite regulation: an obesity perspective, Int Obes, 32(9), 1337-1347.
14) Masse LC, Fuemmeler BF, Anderson CB, Matthews CE, Trost SG, Catellier DJ and Treuth M (2005) Accelerometer data reduc-tion: a comparison of four reduction algo-rithms on select outcome variables, Med Sc Sports Exerc, 37(11), S544-S554.
15) Mertens DJ, Kavanagh T, Campbell RB and Shephard RJ (1998) Exercise without dietary restriction as means to long-term fat loss in the obese cardiac patient, J Sports Med Fit-ness, 38(4), 310-316.
16) 文部科学省・国立教育政策研究所(2013) 平成25年度全国学力・学習状況調査報 告書 クロス集計,https://www.nier. go.jp/13chousakekkahoukoku/data/ research-report/crosstab_report.pdf, 2020年8月10日閲覧. 17) 岡浩一郎(2003)中年者における運動行動 の変容段階と運動セルフエフィカシーの 関係, 日本公衛誌, 50(3), 208-214. 18) 大島秀武(2011)身体活動量をはかる最新 技術, 体育の科学, 61(2), 108-112.
19) Rhodes RE, Warburton DER and Murray H (2009) Characteristics of physical activ-ity guidelines and their effect on adherence A review of randomized trials, Sports Med, 39(5), 355-375.
20) Sallis JF, Haskell WL, Fortmann SP, Vrani-zan KM, Taylor CB and Solomon DS (1986) Predictors of adoption and maintenance of physical activity in a community sample, Prev Med, 15(4), 331-341.
21) Sallis JF, Hovell MF and Hofstetter CR (1992) Predictors of adoption and mainte-nance of vigorous physical activity in men and women, Prev Med, 21(2), 237-251. 22) 笹川スポーツ財団(2019) 種目別にみた 運動・スポーツ実施状況 その2 - 週1 回以上実施者の傾向 -, https://www.ssf. or.jp/research/sldata/tabid/1739/De-fault.aspx, 2020年7月5日閲覧. 23) ス ポ ー ツ 庁(2020) 令 和 元 年 度「 ス ポーツの実施状況等に関する世論調 査 」 の 概 要 , https://www.mext.go.jp/ sports/content/20200225-spt_kens-port01-000005136-1.pdf, 2020年7月5日閲 覧. 24) 田畑泉(2015)「タバタ式トレーニング」, 扶桑社, 東京. 25) 竹中晃二(2015) 「アクティブ・ライフス タイルの構築−身体活動・運動の行動 変容研究−」, 85-118, 早稲田大学出版部, 東京.
26) Tanaka K, Takeshima N, Kato T, Niihata S and Ueda K (1990) Critical determinants of endurance runners with heterogeneous training habits, Eur J Appl Physiol Occup Physiol, 59(6), 443-449.
27) Tsuji T, Miyaguni Y, Kanamori S, Hanazato M and Kondo K (2018) Community-level sports group participation and older individ-uals depressive symptoms, Med Sci Sports Exrec, 50(6), 1199-1205.
28) Visek AJ, Olson EA and DiPietro L (2011) Factors predicting adherence to 9 months of supervised exercise in healthy older woman, J Phys Act Health, 8(1), 104-110.
29) Wadden TA, Neiberg RH, Wing RR, Clark JM, Delahanty LM, Hill JO, Krakoff J, Otto A, Ryan DH, Vitolins MZ and the Look AHEAD Research Group (2011) Four-Year Weight Losses in the Look AHEAD Study: Factors Associated with Long-Term Success, Obesity (Silver Spring), 19(10), 1987-1998.
(受付:2020年 7 月10日) (受理:2020年 9 月 2 日)