58 農村経済研究第33巻第2号2015年
第2セッション座長解題・総括
佐藤和憲 (岩手大学) 昨今の厳しい農業情勢の下で地域農業ないし農 業経営の展開方向として二つの方向が考えられる 一つは6次産業化・農商工連携といった農産物の 付加価値を積極的に高める方策であり,高付加価 値型農業と呼ぶこともできよう.農業がその川下 に当たる食品加工や農産物・食品の販売さらに アメニティ産業に進出, またはその分野の商工業 と連携することにより, より高い付加価値を獲得 しようとするものである. もう−−つは廃油やバイ オマスといった廃棄物や未利用資源を再生して活 用する方策であり,資源循環型農業と呼べよう. 農産物・食品の生産・加工・流通・消費の過程で 排出される多様な廃棄物や地域に存在する未利用 資源をエネルギーや再生資源に作り変える循環的 な仕組みで有効活用しようとするものである. 両者は必ずしも相反するものではないが,一定 の社会経済条件,地域条件,経営条件の下で何れ かの選択を迫られることは考えられる. そこで, 本セッションでは, 高付加価値型農業と資源循環 型農業それぞれの成立条件について整理するとと もに,今後の展開方向と課題を検討した. そこで, まず報告1では, 高付加価値型農業に ついて,後藤一寿氏(農研機構・中央農業総合研 究センター)に, 「プラットフォーム形成による効 果的な農商工連携の促進と課題」 と題してご報告 いただいた. 6次産業化や農商工連携における重 要なポイントは,価値共倉│」を実現する主体間の共 創的な連携関係の構築であるが,近年これらの連 携を効果的に実現する理論としてプラットフォー ム理論に注目が集まっている. そこで, まずプラ ットフォーム理論の整理を行った上で,効果的な 農商工連携の促進効果と課題について,実際のプ ラットフォーム組織の活動を通して実践的に検討 していただいた. 報告の要点をまとめれば,第一に農商工連携を 促進するためのプラットフォーム構築における研 究者の関与とリーダーシップの重要性を指摘され たことである.公的研究機関の研究者は一方では 実際のビジネスには直接関与しにくい現状にある が,他方では成果のアウトカムを求められること から,研究成果を応用したビジネスモデル, スキ ーム,及びコンソーシアムの構築に関与し,その 中でリーダーシップを発揮することが重要である とした. このことによって研究成果は参加主体間 の共通価値となり,実用的な技術となって普及に つながるとした.第二に情報共有と相互学習によ る信頼醸成と価値共創の重要性を指摘されたこと である.参加主体間の情報共有は,Webサイト, 研究者による媒介が重要であるが, シンポジウム 等による共同プロモーションによって情報の高度 化を図ることも必要だとした. また参加主体間で の相互学習によって信頼関係を構築することが, コンソーシアムを継続には最重要であるとし, そ の際に研究者などコーディネーターには参加主体 間の情報共有を促すことが求められるとした.第 三にプラットフォームが備えるべき機能と留意点 について指摘されたことである.共通価値を生み, 価値共創の関係性を継続するには,プラットフォ ームの構築と維持が不可欠であり, そこでは参加 主体間の対等な関係を維持しながら,情報共有を 図り共通価値を生み出す機能が不可欠だとした. ただしプラットフォームをスムースに運営するに は, 自己利益のみを追求しようとする企業や団体 による研究成果の独り占めを牽制し,共同研究や 知財に関するルールを遵守することが求められる そのためには公的研究機関や大学のプラットフォ ーム形成への積極的な関与が求められるとした・ 続いて報告2では,資源循環型農業について, 泉谷眞実氏(弘前大学) ・野中章久氏(農研機構. 東北農研)に, 「農業と関連産業におけるバイオマ スや食品廃棄物等の利活用のあり方と課題」 と題 してご報告いただいた. この分野では比較的順調 にバイオマスエネルギーとしての成長が見られる 廃食油バイオディーゼル燃料部門と,現状では導 入初期に当たるもみ殻固形燃料部門の二つの部門 を対象として,その利用のあり方と課題について農村経済研究第33巻第2号2015年 59 検討していただいた.バイオディーゼル燃料事業 については,全国アンケー│、結果といくつかの事 例から, もみ殻固形燃料については,青森県の事 例から検討していただいた. 報告の要点をまとめれば,第一に本報告で取り 上げられた廃食油バイオディーゼル燃料ともみ殼 固形燃料は, ともに基本技術としては確立されて いるが, その導入過程について見ると地域の事業 主体の経済的性格や(原料)資源の特性に適合した 形態で導入されていると指摘されたことである. こうした技術の性格をシューマッハーの中間技術 と位置づけられている.第二に両事業とも出発点 は廃棄物の処理問題であるが,技術導入によって 地域資源としての活用につながっていることを指 摘されたことである これは事業の展開過程での 技術革新や需要創造により事業自体の目的が変わ りうることを示されている.第三に両事業とも市 場メカニズムの下で成立しているわけではないが 公共部門からの補助金等による直接支援だけで維 持されているわけでもなく, 自給的経済領域にあ ることを指摘されたことである.第四に今後の課 題として,原料の品質や収集など原料調達面の制 約と燃焼機関や流通チャネルなど製品利用面の制 約を指摘されたことである. これら諸課題の解決 には,技術開発とコスト削減だけでは限界があり, 地域のバイオマス市場や代替製品市場の分析を踏 まえた事業支援体制の構築が不可欠だとされた お二人のご報告の後で,伊藤房雄氏東北大学) から,マーケットと技術という二つの視点から三 点にわたってコメントを頂いた.第一点はマーケ ットのサイズと範囲に応じて,技術選択のあり方, その利用主体, さらにビジネスモデルは異なって くるだろう.東北農業の実態に即した課題は何か と問いかけられた.第二点は動脈(6次産業化・農 商工連携),静脈(資源循環型農業)の何れにおいて も,事業展開に係る投資やリスクを担いうる経営 者はどの様にして出現してくるのか,また見出し ていくのか,その条件づくりは如何かと問われた. 第三点は,動脈と静脈とは異なるもう一つの軸と して公共と個(私)という軸があるのではないか. 地域福祉ビジネスは, この軸において, どのよう に位置づけられるのかと問われた. 引き続きフロアから質疑を頂いた.渋谷長生氏 (弘前大学)から後藤報告に対して, コンソーシア ムの経費の支出元はどこか, コンソーシアムの仕 かけ人ないし運営主体について研究機関。行政機 関の限界とこれに代わる主体は誰か, コンソーシ アム活動を通じた農業経営者自身の変革について どう考えるのか, と問われた. この他,櫻谷満一 氏(東北農政局),阿部雅良氏((有)ダイアファーム) らから質疑があった. コメントとフロアからの質疑に対して,両報告 者からリプライをいただき, これらを受けて高付 加価値型農業と資源循環型農業それぞれの成立条 件,今後の展開方向と課題を総合的に検討した その詳細は割愛するが,下記の感想を述べて座長 総括としたい. 従来,農業技術のユーザーである家族農業経営 は零細で資力が乏しいため,その研究開発は公的 研究機関や大学が行い,その成果は公的な普及機 関によって普及されてきた. このため,その農業 技術の成果はアプリオリに公共財とされてきた. しかし近年,農商工連携などに見られるアグリビ ジネスの展開を背景として,研究・技術自体の幅 が広がり,その応用や利用者の範囲も広がってい る. このため従来の仕組みでは効果的,効率的な 開発と普及は望めなくなっている. このような状 況に対応して民間活力を利用した新たな仕組みが, プラットフォームであるのだろう. しかし, コン ソーシアムのスムースな運営のためには公平性の 担保が重要であり,そのために公的研究機関の役 割が重要だと指摘されたことは興味深かった. また農業・食料廃棄物の資源循環事業について は,従来,効率性を重視する立場から市場メカニ ズムに委ねるべきとするものと,資源利用や環境 保全を重視する立場から公共事業によって運営せ ざるを得ないとするものといった二者択一的な議 論が多かったが,泉谷・野中報告では,現実には 関係事業者の主幹的な事業部門と結びついた自給 的経済領域として機能していることが指摘された 点は注目に値しよう.効率性の低さから独立した 事業部門としては成立しなくとも,資源循環事業 を主幹的な事業と−−体的に運営すれば十分採算が 取れる,つまり範囲の経済が機能しているという ことであろうか. 以上をもって座長総括に代えさせて頂きたい.