児童が教師に対して抱く愛着と親子間の愛着との関連
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(2) 愛着対象に保護と安心を求める傾向を意味する。 「 安 全 基 地 」は ,安 全 な 避 難 場 所 で あ ると同時に,そこを拠点に外界に積極的に出ていくための安全地帯とみなす傾向を言 う。これらの行動が十分に機能している場合,愛着対象との相互作用は安定している と 考 え ら れ て い る( Bowlby, 1969 黒 田 他 訳 1976;数 井・遠 藤 , 2007;繁 枡・四 本 , 2013)。 1980 年 代 以 前 , Bowlby の 愛 着 理 論 が 日 本 に 定 着 す る 前 も , 日 本 で も 母 子 関 係 に 関 する研究は行われており,そこで扱われていた概念は,愛着に相当するものが含まれ て い る 。「 児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 」 を 作 成 し た 森 下 (1981)は , 1970 年 代 に 母 子 関係や親の養育態度に関する研究を行っており,親の養育態度が子どものパーソナリ ティに与える影響について検討している。その後,親の養育態度に対する子どもの認 知 を 扱 っ た 研 究 を 行 い ,1979 年 に は「 子 ど も の 親 に 対 す る 親 和 性 と 親 子 間 の 価 値 観 お よび性格の類似性」を発表し,親和性という概念を用いて親子関係について検討して い る( 森 下 , 1979)。そ の 研 究 で は ,親 和 性 を「 愛 情 的 な き ず な を 強 く 感 じ て い る こ と 」 と定義していることからもわかるように,親和性は愛着に相当する概念であることが うかがえる。 子 ど も は 親 と の 愛 着 関 係 を 通 し て 内 的 作 業 モ デ ル を 形 成 す る 。内 的 作 業 モ デ ル と は , 愛着対象との相互作用の経験を通して内在化される,自分の周りの世界やアタッチメ ン ト 対 象 , そ し て 自 己 に 関 す る 心 的 な 表 象 モ デ ル で あ る ( Bowlby, 1969 黒 田 他 訳 1976;Bowlby, 1973 黒 田 他 訳 1977)。つ ま り , 「愛着対象からどのような反応が期待 で き る の か ,自 分 は ど の よ う に 受 け 入 れ ら れ る 存 在 な の か 」と い う 期 待 や 考 え な ど が , その後の世界や他者とのかかわり方に影響していることを示唆している。親との関係 性によって形成される内的作業モデルは,各個人のパーソナリティに大きく影響して いると考えられる。 児童と教師の間における愛着の可能性 子 ど も は 愛 着 対 象 を 複 数 つ く る と 考 え ら れ て い る 。Bowlby( 1973 黒 田 他 訳 1977) が,愛着は「ゆりかごから墓場まで」と表現しているように ,愛着とは生涯発達理論 であるとされている。彼は,愛着対象は発達に伴って,両親から友達へ,さらに恋人 や 配 偶 者 へ と 移 行 す る こ と を 想 定 し て い る 。水 本・ 山 根 (2011)に よ る と , 「母娘関係の 発達推移を検討すると,母親との間に安定した愛着を持ち自尊心が高い「密着型」か ら心理的に分離して「自立型」に移行するという「密着型→自立型経路」が,母親と の信頼関係を基盤として心理的に分離していくといった適応的な発達のプロセスを示 す」と推察している。子どもにとって母子分離は重要な発達課題であり,愛着対象の 移行は発達課題が達成されている結果であるとも考えられる。これまでの先行研究に おいても発達段階に応じて愛着対象が異なっている。 数 井 (2005)に よ る と , 「 小 中 学 校 に お け る 教 師 と 子 ど も と の 関 係 で は ,心 理 的 な 安 心 感を与えることや導き教えるという教育的ガイダンスを与えることなどが,アタッチ メントの機能として考えられる」とし,教師が愛着対象となり得る可能性が示唆され て い る ( 藤 田 ・ 森 口 , 2015)。 Hughes & Cavell(1999)は , 教 師 ・ 生 徒 関 係 が 子 ど も の. 141.
(3) 行為問題に及ぼす影響の展望研究において,教師との良好な関係が子どもの態度を変 え,親との関係性までも変える可能性があることを示唆する結果を得ている。これほ どまでに大きな影響を与える教師が,愛着対象にならないとは考え難く,主要愛着人 物である親が不在である学校環境において,二次的愛着人物として捉えられる教師に 愛着を形成する可能性は十分あると考えられる。 親子関係と教師子ども関係の関連 子どもと教師の関係性については,親との愛着や内的作業モデルに関連しているこ と が 示 唆 さ れ て い る 。 中 井 ・ 庄 司 (2007)は 「 生 徒 の 教 師 に 対 す る 信 頼 感 に は , 幼 少 期 の両親に対する愛着といった生徒の心理的な要因も関連していることが明らかになっ た」と報告している。ここでいう信頼感は愛着の一側面と考えられ,子どもの親に対 する愛着は子どもと教師の愛着関係に影響することが予想される。 愛着測定に残された課題 藤 田 ・ 森 口 (2015)は 児 童 期 に お け る 教 師 に 対 す る 愛 着 に つ い て 検 討 す る た め に 教 師 に 対 す る 愛 着 尺 度 を 作 成 し て い る 。 そ の 尺 度 は 本 多 (2002)が 作 成 し た 児 童 の 「 母 親 に 対 す る 愛 着 」測 定 尺 度 を も と に 作 成 さ れ , 「母親とのかかわりを教師とのかかわりに置 き換えることに,多少無理があるものもある」と述べ,尺度としての課題が指摘され ている。. 目. 的. 本研究では,アタッチメントの定義である「人が特定の他者との間に築く緊密な情 緒 的 結 び つ き 」( 遠 藤 , 2005)を 愛 着 の 定 義 と す る 。そ の 上 で , 児 童 は 親 を 主 要 愛 着 人 物 ,教 師 を 二 次 的 愛 着 人 物 と し て 愛 着 を 形 成 し , 「親に対する主要愛着と教師に対する 二 次 的 愛 着 は 発 達 に 伴 っ て 変 化 す る 」と い う 仮 説 と , 「親に対する主要愛着は教師に対 する二次的愛着と関係を示す」という仮説を検討することを目的とする。. 予 備 調 査 目的 児童の教師に対する愛着行動場面を把握し,カテゴリー化をした結果に基づき,本 調査で用いる児童の教師アタッチメント尺度項目を構成することを目的とする。 方法 調査協力者および調査時期. 首 都 圏 の 公 立 A 小 学 校 の 小 学 校 教 員 14 名( 男 性 7 名 ,. 女 性 6 名 , 無 記 入 1 名 , 平 均 教 員 歴 12.5 年 ( SD =10.92)) を 対 象 に , 2015 年 9 月 29 日 ~ 10 月 2 日 に 実 施 し た 。 なお,調査協力者を児童ではなく教員としたのは,児童(特に小学校低学年と中学 年)では教師に対する愛着行動を言語化して表出することが困難であると考えられた. 142.
(4) ため,児童の愛着対象と考えられる教師側に調査を行うことにした。 手続き. 調査対象校に質問紙を持参し,教員に調査の趣旨および倫理的な配慮に関. して文書と口頭で十分に説明し,合意を得た教員を対象に質問紙調査を実施した。調 査は個別・無記名式であり,調査時間は約 5 分であった。 質問紙の構成 1. フ ェ イ ス シ ー ト 教 員 歴 と 性 別 に つ い て 記 入 を 求 め た 。 2. 「 愛 着 」 の 定 義 と そ の 経 験 の 有 無 「 愛 着 」 の 定 義 で あ る 「 人 が 特 定 の 他 者 と の 間に築く緊密な情緒的結びつき」を示した上で,児童から「愛着」を抱かれていると 感じた経験の有無と,担任を持ったことのある学年を尋ねた。 3. 児 童 か ら 愛 着 を 感 じ た 場 面 に つ い て の 自 由 記 述 学 校 生 活 の 中 で 児 童 か ら 愛 着 を抱かれていると感じた場面についての自由記述回答と ,その回想対象となった児童 の学年の記入を求めた。 結果と考察 学校生活の中で児童から愛着を抱かれていると感じた場面についての自由記述回答 の 結 果 を 整 理 し , 50 項 目 が 抽 出 さ れ た 。 さ ら に 先 行 研 究 を 参 考 に 作 成 し た 28 項 目 を 加 え ,全 部 で 78 項 目 を 用 意 し た 。心 理 学 を 専 攻 す る 大 学 生 3 名 で KJ 法( 川 喜 田 ,1967) を 援 用 し ,カ テ ゴ リ ー 分 類 を 行 っ た 。そ の 結 果 , 「信頼性」 「親密性」 「 学 校 的 機 能 」の 三つのカテゴリーに分類された。 「 信 頼 性 」は 児 童 が 教 師 を 信 じ て 頼 り に し て い る 様 子 を 表 す 。 「 親 密 性 」は 児 童 と 教 師 の 身 体 的・精 神 的 距 離 が 近 い 様 子 を 表 す 。 「 学 校 的 機 能 」は 挨 拶 や 気 持 ち の 表 明 な ど , 学校において日常的に起こり得る行動内容を表す。 こ れ ら を 参 考 に ,心 理 学 を 専 攻 す る 大 学 生 4 名 ,小 学 校 教 員 1 名 ,大 学 教 員 1 名 で ワ ー デ ィ ン グ 処 理 を 施 し 項 目 化 を 行 い ,内 容 的 妥 当 性 を 検 討 し た 。そ の 結 果 , 「信頼性」 カ テ ゴ リ ー は 10 項 目 ,「 親 密 性 」 カ テ ゴ リ ー は 8 項 目 ,「 学 校 的 機 能 」 カ テ ゴ リ ー は 10 項 目 の 計 28 項 目 が 適 正 な 項 目 と し て 抽 出 さ れ た 。. 本 調 査 目的 「親に対する主要愛着と教師に対する二次的愛着は発達に 伴って変化する」という 仮 説 と ,「 親 に 対 す る 主 要 愛 着 は 教 師 に 対 す る 二 次 的 愛 着 と 関 係 を 示 す 」と い う 仮 説 を 検討することを目的とする。 方法 調査協力者および調査時期. 首 都 圏 の 公 立 A 小 学 校 の 2 年 生 101 名 ( 男 子 55 名 ,. 女 子 45 名 , 無 記 入 1 名 ), 4 年 生 93 名 ( 男 子 51 名 , 女 子 42 名 ), 6 年 生 73 名 ( 男 子 39 名 , 女 子 32 名 , 無 記 入 2 名 ) の 合 計 267 名 を 対 象 と し , 2015 年 11 月 24 日 ~ 12 月 8 日 に 調 査 し た 。. 143.
(5) 手続き. 調 査 対 象 校 に 質 問 紙 を 持 参 し , 2・ 4・ 6 年 生 の 各 ク ラ ス の 担 任 に 質 問 紙 調. 査の実施を依頼した。児童には調査の趣旨および倫理的な配慮に関して文書と口頭で 十分に説明し,合意を得た児童を対象に調査を実施した。調査は集団・無記名式であ っ た 。 実 施 時 間 は 10~ 30 分 で あ っ た 。 質問紙の構成 1. フ ェ イ ス シ ー ト. 学年と性別について記入を求めた。. 2. 児 童 の 家 庭 に お け る 愛 着 対 象 に つ い て 児 童 が 家 庭 生 活 で 一 番 長 い 時 間 一 緒 に 過 ご し て い る 大 人 を 5 つ の 選 択 肢 「 母 親 」「 父 親 」「 祖 母 」「 祖 父 」「 そ の 他 」 か ら 一 つ だけ選ぶよう求めた。 3. 児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 ( 森 下 , 1981). 森 下 (1981)に よ る 「 親 和 性 」 と い. う概念は「愛着」に相当すると考えられたため,本尺度は児童の親に対する愛着を測 定 可 能 で あ る と 判 断 し 採 用 し た 。 本 尺 度 は 全 17 項 目 (「 は い 」「 ど ち ら と も い え な い 」 「 い い え 」の 3 件 法 ),3 つ の 下 位 尺 度 「 親 密 さ 」「 同 一 視 欲 求 」「 信 頼 性 」 か ら 構 成 さ れている。 「 親 密 さ 」は 親 か ら よ く 理 解 さ れ 気 持 ち が 通 じ 合 っ て い る と 捉 え る 傾 向 を 表 す 。「 同 一 視 欲 求 」 は 親 と 自 分 を 重 ね 合 わ せ , 親 と の 一 体 感 を 求 め る 傾 向 を 表 す 。「 信 頼性」は親を信頼性の高い人物であると捉える傾向を表す。 なお,児童の多様な家庭環境を配慮し,上記 2 で選択した家庭内の大人を「おうち の 人 」 と し て 1 名 を 想 起 さ せ た 上 で 回 答 を 求 め た 。 家 庭 内 の 大 人 で あ る 「 母 親 」「 父 親 」 以 外 の 「 祖 母 」「 祖 父 」「 そ の 他 」 も 父 母 に 準 じ る 親 と み な し 分 析 対 象 に 含 め た 。 4. 児 童 の 教 師 ア タ ッ チ メ ン ト 予 備 尺 度. 予備調査で作成した,児童の教師アタッ. チ メ ン ト 予 備 尺 度 全 28 項 目 を 使 用 し ,現 在 の 担 任 を 想 起 さ せ た 上 で 回 答 を 求 め た(「 は い 」「 ど ち ら と も い え な い 」「 い い え 」 の 3 件 法 )。 結果と考察 児童の教師アタッチメント予備尺度の因子分析と信頼性の検討 児童の教師アタッチメント予備尺度について,因子分析(主因子法・プロマックス 回 転 )を 行 っ た 。固 有 値 1.0 以 上 と 因 子 の 解 釈 可 能 性 と い う 基 準 か ら 2 因 子 を 抽 出 し , 最 終 的 に 2 因 子 10 項 目 が 得 ら れ た 。 因 子 間 の 相 関 係 数 は .66 と 中 程 度 で あ っ た 。 第 1 因 子 は ,「 先 生 と お 話 し す る と 安 心 で き ま す か 」「 先 生 の 近 く に い る と 安 心 し ま す か 」な ど に 高 い 負 荷 を 示 し た 。教 師 に 対 し て 安 心 感 を 抱 い て い る 内 容 で あ り ,Bowlby ( 1969 黒 田 他 訳 1976) が 愛 着 の 行 動 観 点 と し て 提 唱 し た 「 安 全 な 避 難 場 所 」 に 相 当 す る 内 容 で あ る と 考 え ら れ た た め ,「 安 全 な 避 難 場 所 」 と 命 名 さ れ た 。 第 2 因 子 は ,「 先 生 に お う ち で あ っ た で き ご と を 話 し ま す か 」「 先 生 に う れ し か っ た ことを話しますか」などに高い負荷を示した。親に近い感覚で教師と接し,教師に対 し て 心 を 開 い た 行 動 を 取 る 内 容 で あ る こ と か ら ,「 安 定 愛 着 行 動 」 と 命 名 さ れ た 。 上 記 の 2 因 子 を も と に 2 つ の 下 位 尺 度 を 構 成 し , Cronbach の α 係 数 を 算 出 し た 結 果 ,「 安 全 な 避 難 場 所 」( 5 項 目 ) が .85 で あ り ,「 安 定 愛 着 行 動 」( 5 項 目 ) が .76 で あ った。このことから児童の教師アタッチメント尺度は高い信頼性(内的整合性)を備. 144.
(6) えていることが確認された。 児童の親に対する親和性尺度の信頼性の検討 児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 の 3 つ の 下 位 尺 度 「 親 密 さ 」「 同 一 視 欲 求 」「 信 頼 性 」 に つ い て ,Cronbach の α 係 数 を 算 出 し た 結 果 , 「 親 密 さ 」が .75, 「 同 一 視 欲 求 」が .72, 「 信 頼 性 」 が .49 で あ っ た 。「 親 密 さ 」 と 「 同 一 視 欲 求 」 は 高 い 信 頼 性 ( 内 的 整 合 性 ) が 確 認 さ れ た が ,「 信 頼 性 」 に つ い て は 信 頼 性 ( 内 的 整 合 性 ) が 不 十 分 で あ っ た (「 信 頼 性 」 は 以 降 の 分 析 で は 参 考 扱 い に と ど め る )。 児童の教師アタッチメント尺度および児童の親に対する親和性尺度の学年差と性差 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性尺度の両尺度について, 学 年 別 ・ 性 別 に 平 均 値 と 標 準 偏 差 を 算 出 し た (Table 1)。 次 に , 二 要 因 ( 学 年 ×性 ) の 分 散 分 析 を 行 い ,有 意 な 学 年 差 が 認 め ら れ た 場 合 ,Tukey 法 に よ る 多 重 比 較 を 行 っ た 。 二 要 因 分 散 分 析 の 結 果 を Table 2 に 示 す 。 児童の教師アタッチメント尺度について, 「 安 全 な 避 難 場 所 」と「 安 定 愛 着 行 動 」の 学年差は,低学年より中学年が,低学年より高学年が,中学年より高学年が,それぞ れ 有 意 に 低 い こ と が 明 ら か に な っ た 。 つ ま り ,「 安 全 な 避 難 場 所 」 と 「 安 定 愛 着 行 動 」 はともに学年の上昇に伴い得点が低くなる傾向が示された。性差はともに有意差が認 められず,また,交互作用も認められなかった。 山 口 (2009)は 「 成 長 発 達 に 伴 っ て 認 知 的 表 象 が 利 用 で き る よ う に な る に つ れ , 個 人 は乳幼児期に比べると明確な愛着行動を示さなくなる」と指摘している。この指摘を 敷衍して鑑みると,児童は精神発達度が高まるにつれ,愛着を抱いている対象に直接 的な愛着にまつわる行動を取らなくなるため,学年の上昇に伴い愛着が弱まると考え られる。特に学校現場では,学年ごとに生活面においても学習面においても達成目標 が明確であり,児童は学年が上がるごとにその目標を達成し着実に自立に向かって発 達するため,教師に対する愛着が弱まる傾向にあると推察される。 次 に ,児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 に つ い て , 「親密さ」 「同一視欲求」 「 信 頼 性 」の 学年差は,低学年より高学年が,中学年より高学年が,それぞれ有意に低いことが明 ら か に な っ た 。し た が っ て , 「親密さ」 「同一視欲求」 「 信 頼 性 」は す べ て に お い て ,高 学年が最も得点が低いということが判明した。これは教師に対する愛着行動同様に, 精神発達度が高まるにつれ,愛着を抱いている親に対して愛着にまつわる直接的な行 動を取らなくなることが要因であると考えられる。 性差については, 「 親 密 さ 」と「 信 頼 性 」に お い て 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た が , 「同 一視欲求」では有意差が認められ,男子よりも女子の得点が有意に高かった。本調査 においては,児童が家庭生活で一番長い時間一緒に過ごしている大人 として,8 割以 上の児童が「母親」を想起して回答していた。母親と同性である女子の方が ,同一視 欲 求 が 高 ま っ た と 考 え ら れ る 。 こ の 結 果 は , 森 下 (1981)の , 子 ど も は 異 性 よ り も 同 性 の親への同一視欲求が強く,さらに男児の父親に対する同一視欲求よりも女児の母親. 145.
(7) に 対 す る 同 一 視 欲 求 の 方 が 強 い と い う 報 告 と 符 合 す る 。な お , 「親密さ」 「同一視欲求」 「 信 頼 性 」, そ れ ぞ れ の 交 互 作 用 は 認 め ら れ な か っ た 。 Tab le 1. 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性尺度の平均値および 標準偏差. 児 童 の 教 師. 低学年. 中学年. 高学年. M( SD). M( SD). M( SD). 男. 13.93 (1. 87). 12.47 (2. 24). 10.21 (2. 79). 女. 13.97 (1. 68). 12.69 (2. 52). 10.16 (2. 63). 男. 12.68 (2. 40). 10.27 (2. 38). 8.53 (2. 70). 女. 12.61 (2. 36). 10.35 (2. 46). 9.09 (2. 72). 男. 19.14 (1. 93). 18.55 (2. 31). 16.84 (3. 06). 女. 19.74 (1. 52). 19.07 (2. 26). 17.31 (2. 25). 男. 15.57 (2. 19). 14.45 (2. 68). 13.53 (2. 75). 女. 16.18 (2. 00). 16.12 (1. 89). 14.00 (2. 69). 男. 10.71 (1. 43). 10.74 (1. 54). 9.93 (1. 73). 女. 11.33 (0. 93). 11.16 (0. 99). 9.91 (1. 97). 安全な避難場所. ア タ ッ チ メ ント尺度. 安定愛着行動. 親密さ 児 童 の 親 に 対 す る 親 和. 同一視欲求. 性尺度 信頼性. Tab le 2. 児 童 の 教 師 ア タ ッ チ メ ン ト 尺 度 と 児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 の 二 要 因 ( 学 年 ×性 ) の 分散分析結果 学年差. 性差. 交互 作用. F. F. F. 安全な避難場所. 55.77***. 低学年>中学年>高学年. 0.06. 0.08. 安定愛着行動. 50.44***. 低学年>中学年>高学年. 0.38. 0.35. 児 童 の 親 に. 親密さ. 23.29***. 低 学 年 ,中 学 年 > 高 学 年. 3.48. 0.02. 対 す る 親 和. 同一視欲求. 16.38***. 低 学 年 ,中 学 年 > 高 学 年. 9.13** 男 < 女. 1.56. 性尺度. 信頼性. 13.86***. 低 学 年 ,中 学 年 > 高 学 年. 3.41. 1.00. 児 童 の 教 師 ア タ ッ チ メ ント尺度. * * p <.0 1 , * ** p < .001. 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性尺度の各下位尺度間の 相関 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性尺度の各下位尺度 間の関 連 を 検 討 す る た め に , 相 関 分 析 を 行 っ た (Table 3)。 す べ て の 対 に お い て 有 意 な 正 の 相 関が認められた。したがって,児童の教師に対する愛着と児童の親に対する愛着は密 接な関連にあることが示唆される。. 146.
(8) Tab le 3. 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性の各下位尺度間の 相関分析. 安全な避難場所 安定愛着行動. 安全な 避難場所. 安定愛着 行動. 親密さ. 同一視欲求. 信頼性. ―. .59***. .38***. .41***. .29***. ―. .25***. .29***. .20** *. ―. .56***. .70***. ―. .54***. 親密さ 同一視欲求 信頼性. ―. * * p <.0 1 , * * * p < .001. 児童の教師アタッチメント尺度と児童の親に対する親和性尺度の各下位尺度間の 関係を示す構造モデル 児 童 の 親 に 対 す る 親 和 性 尺 度 の 下 位 尺 度 で あ る 「 親 密 さ 」「 同 一 視 欲 求 」「 信 頼 性 」 は ,児 童 の 教 師 ア タ ッ チ メ ン ト 尺 度 の 下 位 尺 度「 安 全 な 避 難 場 所 」 「 安 定 愛 着 行 動 」と 関係を示すという仮説モデルを検討するために,回答者全員を対象とし,共分散構造 分 析 に よ る パ ス 解 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 採 択 さ れ た 構 造 モ デ ル を Figure 1 に 示 し た 。 パス係数はそれぞれ, 「 親 密 さ 」か ら「 安 全 な 避 難 場 所 」は .16( p <.01), 「同一視欲求」 か ら「 安 全 な 避 難 場 所 」は .33( p <.001), 「 同 一 視 欲 求 」か ら「 安 定 愛 着 行 動 」は .29( p <.001) で あ っ た 。 適 合 度 指 標 は , χ 2 =3.63( n.s. ) , GFI=.994 , AGFI=.972 , CFI=.999 , RMSEA=.029 で あ り , モ デ ル は デ ー タ に 十 分 に 適 合 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 Figure 1 を 見 て わ か る よ う に ,「 親 密 さ 」 か ら 「 安 全 な 避 難 場 所 」 へ 正 の 有 意 な パ ス が 見 ら れ た 。親 と の 関 係 性 を 親 密 で あ る と 捉 え て い る 児 童 は ,教 師 を ,自 分 を 守 っ て くれる安全基地の役割を果たす人物として捉える傾向が示された。すなわち,親から よく理解され,親と気持ちが通じ合っている児童は,教師に対しても親と同じように 気持ちを通わせることができる存在であると捉え,教師に安心感を抱く傾向が示唆さ れ た 。 こ れ は Bowlby( 1969 黒 田 他 訳 1976; 1973 黒 田 他 訳 1977) が 提 唱 し た 内 的 作業モデルの概念と一致している。つまり,親と親密な関係を築けている児童は,教 師とも同様な関係性を築ける可能性が推察される。 「 同 一 視 欲 求 」か ら「 安 全 な 避 難 場 所 」へ 正 の 有 意 な パ ス が 見 ら れ た 。親 に 対 し て , 自分も親のようにありたいと考える児童は,教師を,自分を守ってくれる安全基地の 役 割 を 果 た す 人 物 で あ る と 捉 え る 傾 向 が 示 さ れ た 。 森 下 (1979)は , 子 ど も は 温 か い 愛 情の深い,子どもの依存している親に対して同一視が起こりやすいことを指摘してい る。つまり,同一視欲求が高い児童は,親との安定した絆のある温かい関係を築けて おり,そのような児童は,教師に安心感を抱きやすい傾向が示唆されたことになる。 この結果もまた内的作業モデルの概念と符合する。 「同一視欲求」から「安定愛着行動」へ正の有意なパスが見られた。自分も親のよ. 147.
(9) うにありたいと考える児童は,親に近い感覚で教師と接し,教師に対して心を開いた 行動を取る傾向にあることが示された。すなわち,親に対して同一視欲求が高く,親 と安定した関係を築けている児童は,教師に対しても心を開くことができ,教師に自 己開示をしたり,好意を持って接したりする傾向が示された。 なお,多母集団同時分析により,男女間および学年間の構造モデルにおけるパスの 大きさの差異について検討を行った結果,いずれも有意差は見られなかった。 以上より,児童の親に対する愛着は教師に対する愛着と密接な関係を示すことが明 らかになった。親に対して安定した愛着関係を築くこと ができている児童は,安定し た内的作業モデルを形成しており,教師に対しても親に対する関係と同じような安定 したかかわりをもつ可能性が示唆される。. .53***. e2. e1. 安定愛着行動. 安全な避難場所. .29***. .33***. .16**. 親密さ. 信頼性. 同一視欲求. e3. e5. e4. .54***. .56***. .70***. Figure 1. χ 2 =3.63( n.s. ) GFI=.994 AGFI=.972 CFI=.999 RMSEA=.029 *** p <.001 ** p <.01. 児童の親に対する愛着と教師に対する. 愛着との関係を示す構造モデル. 148.
(10) まとめと今後の課題 本研究は児童を対象に,教師に対する愛着と親に対する愛着をそれぞれ測定する尺 度を実施し, 「親に対する主要愛着と教師に対する二次的愛着は発達に伴って変化する」 という仮説と, 「 親 に 対 す る 主 要 愛 着 は 教 師 に 対 す る 二 次 的 愛 着 と 関 係 を 示 す 」と い う 仮説を検討した。その結果,児童の教師および親に対する愛着は,学年の上昇に伴い 減少する傾向が示された。本研究は横断研究のため因果関係が解明されたことにはな ら な い が ,「 親 に 対 す る 主 要 愛 着 と 教 師 に 対 す る 二 次 的 愛 着 は 発 達 に 伴 っ て 変 化 す る 」 という仮説を支持する方向性が示された。 また,共分散構造分析によるパス解析を行った結果,親に対して安定した愛着関係 を築くことができている児童は,教師に対しても安定した愛着関係を示す傾向が明ら かとなった。このことから「親に対する主要愛着は教師に対する二次的愛着と関係を 示す」という仮説が支持された。 な お , 愛 着 に 関 す る 先 行 研 究 ( Bowlby, 1969 黒 田 他 訳 1976; 数 井 ・ 遠 藤 , 2007) を踏まえると,本研究で見出された愛着の因子とは異なる因子が存在することも想定 される。今後は尺度項目の収集を拡大し,項目をさらに精選した上で尺度化すること によって,愛着の他の因子が抽出され,新たな知見が加わる可能性がある。 また,本研究の結果をもとに逆転の発想を試みると,今後の研究の蓄積次第では, 教師は現在の児童との関係性から,児童と親の関係性について推し量れる可能性があ る。すなわち,児童が教師と安定した愛着関係を築いているならば,児童は家庭内で も親と安定した愛着関係を築けていることが推察され,逆に,児童が教師と安定した 愛着関係を築いていないならば,児童は親と安定した愛着関係を築けていないことが 推察される。後者の場合,教師は児童の家庭内での様子に十分注意し,必要に応じて フォローすべきであるというサインを獲得できることになる。教師は児童と自分自身 との関係性を的確にアセスメントすることによって,家庭における児童と親との関係 性を推し量り,教師として家庭に対して適切にフォローしていくことが期待される。 このような実践につながる研究を今後さらに展開していく必要がある。. 引 用 文 献 Bowlby, J. (1969). Attachment and loss: vol.1 Attachment . London: The Hogarth Press. ( ボ ウ ル ビ ィ , J. 黒 田 実 郎 他( 訳 )(1976). 母 子 関 係 の 理 論( Ⅰ )愛 着 行 動 岩崎学術出版社) Bowlby, J. (1973). Attachment and loss: vol.2 Separation : Anxiety and anger . London: The Hogarth Press . ( ボ ウ ル ビ ィ , J. 黒 田 実 郎 他 ( 訳 ) (1977). 母 子 関係の理論(Ⅱ)分離不安 岩崎学術出版社) Bowlby, J. (1979). The making and breaking of affectional bond s. London: Tavistock Publications . ( ボ ウ ル ビ ィ , J. 作 田 勉 ( 監 訳 ) (1981). ボ ウ ル ビ ィ 母 子 関 係 入. 149.
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