精神負荷が周辺視野におけるストループ効果へ与える影響: 視線解析を用いて
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(2) 辺視野の情報処理に及ぼす影響についても明らかにする必要がある. そこで本研究では,視覚情報処理における注意の指向性を評価するストループ課題を用い (Stroop, 1935),周辺視野における視覚探索ストラテジーの観察から視覚情報処理の状態を把握する 評価バッテリの開発を目指し,健常成人を対象とした基礎データを蓄積することを目的とする.ストル ープ課題では,色付きの文字で色名をコンピュータ画面に提示し,描画色か色名どちらかの概念につ いて答えさせる.このとき,描画色が色名と不一致の場合に描画色を答えるときの干渉をストループ効 果,色名が描画色と不一致の場合に色名を答えるときの干渉を逆ストループ効果という (渡辺ら, 2011).さらに,前頭前野の機能に負荷をかける精神作業をおこない,その前後のストループ効果につ いて比較することによって,疲労による周辺視野の情報処理についても検討する.これによって,注意 の障害や知的障害,聴覚障害のある子どもにおける作業の負担感や適切な時間配分を明らかにする ための情報提供へとつなげていきたいと考えている. なお,視覚探索ストラテジーを観察する手法には,将来的に子どもへ適用することを想定し,非接 触型の眼球運動計測装置を用いる.本研究で使用するアイトラッカーは,角膜に微弱な赤外線を照射 し,その反射点と瞳孔をカメラで捉えることによってコンピュータ画面上の注視行動を数十ミリ秒単位で 解析するものである.従来のサーチコイル法に比べると被験者への負担が少なく子どもにも適用可能 な手法であり,教育現場における応用も期待できる. 2.方法 2-1.対象 健康な右利きの晴眼者 19 名 (男性 10 名,女性 9 名) (21.5±0.7 歳) を研究対象者とした.石原 式色覚検査表による検査の結果,いずれも色覚に異常がないことを確認した.また,注意や認知特性, 精神状態の特性を確認するため,自閉スペクトラム症様行動を評定する Autism-Spectrum Quotient (AQ) 日本語版と,気分プロフィール検査の Profile of Mood States 2nd Edition (POMS2) 日本語版, 成人 ADHD の重症度を把握するための評価尺度として使用される Conners' Adult ADHD Rating Scales (CAARS) 日本語版による質問紙調査を実施し,いずれも正常範囲であることを確認した.研 究の実施に先立っては,内容や協力における利益や不利益,プライバシーの保護などについて書面 と口頭にて十分に説明し,倫理的配慮に努めた上で同意を得た. 2-2.刺激 刺激画像の背景は灰色 (R: 128,G: 128,B: 128) とした.刺激画像の描画色は,実行機能課題と して用いられるウィスコンシンカード分類課題 (中道,2016) を参照し,背景色との相違が描画色間で 均等となる赤 (R: 255,G:0,B:0),青(R:0, G:0,B:255),緑(R:0,G:255,B:0) および黒 (R:0, G:0,B:0) とした.刺激は,ひらがな 2 文字あるいは 3 文字で構成される単語の画像とした. 画面中央に固視点 (視角 0.9 度) を 500 ms 間提示した後,視野 10 度に相当する左右いずれか の視野に単語の刺激を提示した.刺激提示後 200 ms には,刺激を提示したまま,刺激の対側視野 4 度の円周上へ回答用の三色 (赤,青,緑) の選択円 (視角 2.6 度) を提示した (図 1).研究対象者 には,選択円が提示されるまでは固視点を見続け,選択円が提示されたら回答の選択円を注視して から速やかに右手示指でキイを押すよう教示した.キイ押し後は 800 ms の ISI (inter-stimulus interval) を設け,この一連の手続きを 1 試行とした.なお,選択円は提示時間を最長 5000 ms とし, キイ押しとともに画面から消えるように設定した. 15.
(3) 図1. 刺激提示の手続き(1 試行). 図2. 刺激提示例. 2-3.記録 アイトラッカー (Tobii Pro X2-30_compact および Tobii Pro Lab 1.102.15986:トビー・テクノロジ ー社製) を用い,刺激提示にともなう研究対象者の注視領域を計測した.計測に先立っては,研究対 象者の瞳孔反射より画面上の注視領域を算出するためのキャリブレーションを行った.キャリブレーシ ョン設定には,画面中央と画面四隅 (視野 26 度) の計 5 点に提示した円 (視角 1.1 度) を注視した ときの瞳孔反射データを用いた.画面は研究対象者の眼前 53 cm に設置した. 2-4.課題 色判断課題として,描画色を判断する際の単語の意味 (色名) による干渉効果をみるためのストル ープ課題 (以下 ST 課題),および,単語の意味 (色名) を判断する際の描画色による干渉効果をみ るための逆ストループ課題 (以下 RST 課題) を実施した (図 2). ST 課題では,刺激の描画色に着目して同じ色の選択円を注視し,キイ押しするよう教示した.スト ループ効果が期待される有意味条件では,色名を表す単語 3 種類 (「あか」,「あお」,「みどり」) をそ れぞれ単語が意味する色と一致する色 (e.g. 単語「あか」の場合は赤色) あるいは不一致な 1 色 (e.g. 単語「あか」の場合は青色か緑色) で描画して提示した.各条件 10 試行を左右視野のいずれ かに提示したため,試行数は計 120 試行 (単語(3)×描画色(2)×提示視野(2)×試行数(10)=120) と なった.コントロールとしての無意味条件では,無意味綴り 6 種類 (「わま」,「らや」,「はほ」,「たよ」, 「すぜぬ」,「るだお」) について 3 色 (赤,青,緑) のうちの 2 色のいずれかで描画した状態で,それ ぞれ 10 試行を左右視野のいずれかに提示したため,試行数は計 120 試行 (単語(6)×描画色(2)× 提示視野(2)×試行数(5)=120) となった (梅本ら 1955; 川上 1996).単語刺激はランダム順で提示し たが,有意味条件と無意味条件は別のブロックに分けて実施した. RST 課題では,逆ストロープ効果を期待するブロックとして,刺激の意味 (色名) に着目して描画色 の同じ選択円を注視し,キイ押しするよう教示した.赤色,青色,緑いろのいずれかで描かれた色名 (「あか」,「あお」,「みどり」) の単語 (色付刺激) を計 120 試行提示した.さらに,コントロールとして, 黒色で描かれた色名の単語 (黒色刺激) を 60 試行提示するブロックを実施した.刺激はランダムな 順序で提示した. なお,ST 課題および RST 課題の計 4 ブロック (前半条件) を実施した後,精神負荷課題あるいは 休憩を設け,再度,同じ ST 課題および RST 課題の計 4 ブロック (後半条件) を実施した.精神負荷 課題を課した研究対象者 10 名 (負荷有群) には,四則計算課題とトレイルメイキングテスト (TMT-B) 課題をそれぞれ 5 分間設け,できるだけ多く解答するよう教示した.休憩を設けた研究対象者 10 名 (負荷無群) には,安静にして 12 分間の休憩を取るよう教示した.ブロック順は研究対象間でカウンタ バランスをとった. 16.
(4) 2-5.解析 ストループ効果と視野の影響を解析するため,色判断課題における正答数および選択円への注視 に至る時間 (到達時間) について,前半条件と後半条件のデータを合わせて,各条件 20 試行におけ る個人内平均値と標準偏差を算出した後,全研究対象者の平均値と標準偏差を算出した.次に,精 神負荷の影響を解析するため,研究対象者を負荷あり群と負荷なし群の 2 群に分け,前半条件と後半 条件の各条件 10 試行について群毎に平均値と標準偏差を算出し,負荷前後の値を比較した.選択 円への注視とみなす解析範囲は,注視点を基準とした中心窩が選択円の一部にかかる視野を考慮し, 固視点を中心に視野 3~7 度の範囲を 10 等分したそれぞれ約 10.9 ㎠ とした (図 3). 条件毎に得られた正答数と到達時間のデータは,ストループ効果と逆ストループ効果による干渉効 果について調べるため,視野 (左視野,右視野) および効果 (ST 課題:単語意味の有無,RST 課 題:描画色の有無) の 2 要因について繰り返しのある分散分析を行った. 次に,精神負荷によるストループ効果および逆ストループ効果について調べるため,研究対象者を 負荷あり群と負荷なし群に分けて,実施時期 (前半,後半) と負荷 (負荷あり,負荷なし),効果 (ST 課題:単語意味の有無,RST 課題:描画色の有無) の 3 要因について,正答数,到達時間,停留時間の観点で 分散分析 (混合計画) を行った.なお,青色と赤色が 正答となる提示刺激は,キャリブレーションの不備により 解析から除外となる者が多かったため,各群ともに解析 に必要なデータ数を得られた緑色が正答となる刺激条 件のみを分析対象とした. また,注意や認知特性,精神状態などの心理特性と ストループ効果あるいは逆ストループ効果との関連につ いて調べるため,心理検査の各得点と精神負荷課題前 後の正答数,到達時間,停留時間の相関係数を求め. 図3. 回答用選択円と解析範囲. た. 3.結果 いずれの研究対象者も全ての課題を滞りなく実施することができたが,画面の解析領域よりもやや 中心寄りあるいは下方を注視した状態でキイ押しするなどの個々の行動特性から,解析領域内におけ る注視行動を検出できない試行もあった.したがって,色判断課題については,ある条件の正答数が 平均の-1SD を下回るあるいは欠損値が 50%を超える研究対象者を除外し,色判断課題については計 12 名を,精神負荷の比較では計 19 名を解析対象とした. 3-1.色判断課題 (ⅰ) 正答数 ST 課題の有意味語刺激の正答数は,左視野条件で 97.6±18.6 (mean±SD),右視野条件で 96.4 ±15.3,無意味語刺激の正答数は,左視野条件で 97.1±19.0,右視野条件で 97.0±17.1 であった. RST 課題の色付刺激の正答数は,左視野条件で 94.2±24.0,右視野条件で 85.3±23.9,黒色刺激 の正答数は,左視野条件で 97.7±24.0,右視野条件で 89.3±20.0 であった.統計検定による比較を 行ったところ,交互作用が認められ,RST 課題において左視野よりも右視野に提示した方が有意に低 かった ( p <.05). 17.
(5) (ⅱ) 到達時間 ST 課題の有意味語刺激の到達時間は,左視 野条件で 598.5±131.4 ms,右視野条件で 596.6±128.2 ms,無意味語刺激の到達時間は, 左視野条件で 629.2±227.4 ms,右視野条件 で 605.0±118.1 ms であった.RST 課題の色付 刺激の到達時間は,左視野条件は 755.3± 174.5 ms,右視野条件は 734.4±128.6 ms,黒 色刺激の到達時間は,左視野条件で 666.1± 147.8 ms,右視野条件で 651.4±128.5 ms であ った.視野の要因に有意差はなかったが,交互 作用が認められ,ST 課題 (有意味条件) よりも. 図4. 色判断課題における到達時間. RST 課題 (色付条件) の方が正答の円への到 達に時間を要した ( p <.01). (図 4).また,ST 課題では無意味条件よりも有意味条件の方が時間を要. し ( p <.05),RST 課題では黒色条件よりも色付き条件の方が時間を要した ( p <.05). 3-2.精神課題負荷前後の比較 (ⅰ)正答数 ST 課題では,負荷あり群において,有意味語刺激の正答数は,前半条件で 31.9±6.9,後半条件 で 32.4±8.1,無意味語刺激の前半条件で 29.9±11.4,後半条件で 31.5±10.0 であった.負荷なし 群では,有意味語刺激の正答数は,前半条件で 29.4±8.6,後半条件で 31.4±6.7,無意味語刺激 の前半条件で 26.7±10.7,後半条件で 32.3±5.6 であった.統計検定による比較を行ったところ,い ずれの条件間にも有意差はみられなかった. RST 課題では,負荷あり群において,色付刺激の正答数は,前半条件で 29.3±8.9,後半条件で 28.4±10.1,黒色刺激の正答数は,前半条件で 29.8±9.3,後半条件で 30.8±5.3 であった.負荷な し群では,色付刺激の正答数は,前半条件で 28.8±8.6,後半条件で 27.1±10.1,黒色刺激の正答 数は,前半条件で 31.8±8.4,後半条件で 26.9±9.5 であった.統計検定による比較を行ったところ, いずれの条件間にも有意差はみられなかった.. 図5. 精神負荷課題前後の到達時間 18.
(6) (ⅱ)到達時間 ST 課題では,負荷あり群において,有意味語刺激の到達時間は,前半条件で 656.2±131.5 ms, 後半条件で 568.4±116.1 ms,無意味語刺激の到達時間は,前半条件で 629.9±133.5 ms,後半条 件で 522.6±136.8 ms であった.負荷なし群では,有意味語刺激の到達時間は,前半条件で 747.6 ±363.3 ms,後半条件で 604.5±145.1 ms,無意味語刺激の到達時間は,前半条件で 701.0± 415.2 ms,後半条件で 563.8±146.8 ms であった.統計検定による比較を行ったところ,実施時期の 要因に主効果がみられ,後半条件よりも前半条件の方が有意に遅れた ( p <.05) (図 5).また,効果の 要因にも有意差がみられ,無意味語刺激よりも有意味語刺激の方が有意に遅かった. ( p <0.01).. RST 課題では,負荷あり群において,色付刺激の到達時間は,前半条件で 701.3±167.5 ms,後 半条件で 679.0±151.1 ms であった.黒色刺激の到達時間は,前半条件で 613.9±100.4 ms,後半 条件で 573.6±97.3 ms であった.負荷なし群では,色付刺激の到達時間は,前半条件で 863.2± 363.4 ms,後半条件で 678.8±169.7 ms,黒色刺激の到達時間は,前半条件で 678.5±125.7 ms, 後半条件で 566.6±113.2 ms であった.統計検定による比較を行ったところ,実施時期の要因に主効 果がみられ,後半条件よりも前半条件の方が有意に遅れた ( p <.001) (図 4).また,効果の要因にも有 意差がみられ,黒色刺激よりも色付刺激の方が有意に遅かった ( p <.01).さらに,実施時期と負荷の 間に交互作用がみられたため ( p <.001),実施時期と負荷の 2 要因で反復測定を行い Tukey の下位 検定を行ったところ,負荷なし群で後半条件よりも前半条件の方が有意に遅れていた ( p <.05). 3-3.心理検査とストループ・逆ストループ効果の相関 AQ の T 得点について,各条件の正答数と到達時間の相関を解析したところ,いずれの条件間にも 有意な相関はみられなかった. POMS2 の各得点 (TMD,AH,CB,DD,FI,TA,VA,F) について,正答数と到達時間の相関を 解析したところ,ST 課題では,到達時間と緊張・不安の状態を評価する TA 得点の間に有意な負の相 関がみられた (有意味語刺激前半条件: r=-.512, p =.025).RST 課題では,正答数とネガティブな気 分状態を総合的に評価する TMD 得点 (黒色刺激後半条件: r=-.466, p =.044) および抑うつ・落ち 込みの状態を評価する DD 得点 (黒色刺激後半条件: r=-.516 p=.024) の間に有意な負の相関がみ られた.また,到達時間と TA 得点 (色付刺激前半条件: r=-.497, p =.03) の間にも有意な負の相関 がみられた (図 6). CAARS の各得点 (A,B,C,D,H) について,正答数と到達時間の相関を解析したところ,RST 課 題では,正答数と衝動性・情緒不安定を評価する C 得点 (黒色刺激後半条件: r=-.529, p =.020) お. 図6. 前半条件:POMS 得点と到達時間の相関. 図7. 19. 後半条件:正答数と CAARS 得点の相関.
(7) よび自己概念の問題を評価する D 得点 (黒色刺激後半条件: r=-.564, p =.012),DSM-Ⅳによる多 動性・衝動性型症状を評価する E 得点 (黒色刺激後半条件: r=-.564, p =.020) の間に有意な負の 相関がみられた (図 7). 4.考察 4-1.周辺視野におけるストループ効果と逆ストループ効果 文章を流暢に音読したり黙読したりするには,周辺視野における視覚情報の探索とともに素早くチ ャンキングすることが求められる.本研究では,研究対象者の回答と非接触型眼球運動計測装置によ る解析を併せて検討したところ,周辺視野 10 度において,単語の描画色と意味情報間の不一致が文 字を意味のあるまとまりとして検出するのを干渉するストループ効果や逆ストループ効果を評価するこ とができた.すなわち,周辺視野 10 以内であれば視覚情報処理における注意や実行機能の働きが期 待できるため,チャンキングの助けとなると解釈できる. しかし,描画色を判断する際の単語の意味 (色名) による干渉効果をみるための ST 課題よりも,単 語の意味 (色名) を判断する際の描画色による干渉効果をみるための RST 課題の方が,正答の回答 領域へ注視に至る時間が有意に遅かったことから,注意を含む実行機能の負荷は逆ストループ効果 の方が大きいといえる.近赤外線分光法 (Near InfraRed Spectroscopy: NIRS) を用いた先行研究に おいても同様の知見が報告されている.Yasumura et al. (2014) は,定型発達児において ST 課題と RST 課題間に成績や前頭葉の賦活に差がみられない場合でも,ADHD 児では ST 課題よりも RST 課 題の成績がより低下し,右前頭前野の賦活も有意に低下することを指摘した.すなわち,視野 10 度に おいても中心窩と同様に,単語の描画色よりも意味を識別する方が干渉効果が高くなる恐れがある. なお,視野 10 度とは,眼前より 30 cm 離れた机上の教科書であれば注視点から半径およそ 5.3 cm, 眼前より 2 m 離れた黒板であれば注視点から半径およそ 35.0 cm の範囲に相当する.しかし実際には, それよりも外側の視野に教材を提示することは多い.今後はさらに周辺視野における干渉効果も併せ て検討する必要があるだろう. なお,先行研究では,中心窩に識別対象となる単語や図形が提示されたため,回答用の選択領域 が有効視野の外縁付近に設定されていた (福田, 1978; Yasumura et al., 2014).本研究では,回答 用の選択領域を有効視野のうち中心窩に近い内縁付近に設定したことにより,選択領域の探索時間 が削減されたことが,到達時間の結果にストループ効果や逆ストループ効果が反映されやすかったと も考えられた. 4-2.周辺視野における視覚探索ストラテジーの左右差 刺激の提示視野による影響を比較したところ,ST 課題では左右視野間の差は認められなかったの に対し,RST 課題では左視野に単語を提示した方が有意に正答数が多かった.一方で,到達時間に 差はみられなかったことから,視野 10 度付近の視覚情報の検出速度に視野間の相違はないものの (柿沢ら, 1987),単語の描画色よりも意味を識別するときには左視野に示された情報の方が正確に識 別しやすいと解釈できる. その理由の一つとして,前頭前野が関与する視空間注意における右大脳半球の優位性が考えられ る (荒生ら, 2009; 加藤,吉崎,2016).松浦ら (2002) は,視角 2 度の有彩色の正円を左右視野 4 度の位置に提示した場合,右に比べて左視野提示で有意に検出時間が早くなることを報告した.一方 で,言語の判断が求められる課題では,ほとんどの右利きの健常成人において左大脳半球が優位とさ れている.RST 課題は描画色ではなく単語の意味を識別するものであり,その点では背反してみえる 20.
(8) が,本研究では,文中ではなく単語を一つだけ提示したため,意味のまとまりとして検出する処理が軽 減された上で,平仮名綴りを一つのシンボルとして処理したことが,視空間注意における右大脳半球 の優位性を利用した正答数の増加につながったのかもしれない.ただし,子どもの場合,単語のみの 提示であっても多分に言語処理が生じるものと思われる.したがって,教育の場にてこの知見を応用 するためには,研究対象者の生活年齢や精神年齢を想定した解析を追加する必要がある. 4-3.精神負荷によるストループ効果と逆ストループ効果 ST 課題と RST 課題にて得られたデータをそれぞれ前後半に分けて解析したところ,途中の精神負 荷の有無にかかわらず正答数に影響はなかったが,到達時間は前半より後半で有意に短縮された. すなわち,判断に影響するほどではないが,視覚探索行動には学習効果が反映されたものと思われる. 先行研究でも,トレーニングにより視空間ワーキングメモリの学習効果が期待できるといわれている (土田, 2018).また,前半と後半の間に休憩をとることで,気持ちの切り替えがしやすかったり前半の課 題による疲労を回復することができたりした可能性も考えられる. 一方で,RST 課題では,途中に休憩を設けた負荷なし群において,前半条件よりも後半条件で有 意に到達時間が短縮したのに対し,途中に精神負荷を課した負荷あり群ではそのような効果はみられ なかった.したがって,負荷あり群は疲労によって学習効果が妨害されたものと考えられた. 4-4.ストループ効果および逆ストループ効果に反映される性格傾向 課題の前半条件において,ST 課題と RST 課題のいずれにも反映された性格傾向は,気分プロフィ ール検査 (POMS2) によって評定された緊張-不安を反映する TA 得点であった.TA 得点が高いほ ど到達時間が短縮されることから,緊張や不安の状態は,課題開始直後で学習効果の起こりにくい頃 にストループ効果および逆ストループ効果における反応促進として反映される可能性がある. 課題の後半条件では,RST 課題における逆ストループ効果の生じないコントロール条件の正答数 に,POMS2 によって評定されたネガティブな気分状態を総合的に反映する TMD 得点と抑うつ-落ち 込みを反映する DD 得点との負の相関がみられた.同様に,RST 課題における逆ストループ効果のな いコントロール条件の正答数には,注意欠如多動性障害 (ADHD) の症状重症度を把握するための 評価尺度 (CAARS) によって評定された衝動性/情緒不安定を反映する C 得点,自己概念の問題を 反映する D 得点,多動性・衝動性型症状を評価する E 得点と負の相関がみられた.すなわち,抑うつ や落ち込み傾向,ADHD 様行動は,課題を連続遂行することによってある程度学習を積んだ頃に,比 較的干渉の起こりにくい課題成績に反映されると思われた. 5.まとめ 本研究では,コンピュータ画面への注視行動を数十ミリ秒単位で把握できる非接触型眼球運動計 測装置を用い,できるだけ研究対象者の負担感が少なく将来的に子どもへの適用も可能な環境を設 定して,周辺視野における実行機能の状態と視覚探索ストラテジーについて定量評価した.その結果, 中心窩と同様に視野 10 度においても,ストループ効果より逆ストループ効果の方が実行機能の負荷 を反映しやすいことを見出し,さらに,処理速度に相違はないものの左視野に提示された視覚情報処 理に正確さが増すことを指摘した. また,課題の連続遂行は,判断に影響はないものの視覚探索行動に学習効果が反映され 判断を早 める一方で,途中に精神負荷が課されるとその促進効果が低減する現象を示した.さらに,性格傾向 との相関解析から,抑うつや落ち込み傾向,ADHD 様行動は,課題遂行の初期よりも学習を積んだ頃 の方が課題成績から評価しやすいことを示唆した. 21.
(9) 以上の知見は,研究協力者による回答やキイ押し反応などの行動観察と併せて,回答に至るまで の視線の軌跡を解析することによって得られたものである.この点で,眼球運動計測装置の活用は視 覚除法処理と注意の指向性コントロールの状態を把握する際に今後大いに期待でき,前頭前野の機 能が発達途上にある幼児 (森口, 2015) や,脆弱性や特異性がみられる自閉スペクトラム症 (橋本, 2012),認知症 (孫, 2008) など,特別支援教育にとどまらず,乳幼児の発達や高齢者の支援など広 い領域で求められると思われる. 一方で,研究対象者の注視行動の個性などから画面の解析領域における注視行動を検出できな い試行も多々生じたことから,実施の手続き等に更なる向上や改善をおこない,安定したデータ収集 法を構築する必要がある.なお,本研究で用いた課題は 10 歳前後の子どもにも実施可能であることか ら (Yasumura et al.,2014; 安村ら, 2015),今後は子どもにおけるエビデンスを集積することによって, 子どもの困り感の把握に役立つような検討につなげたいと考えている. 6.謝辞 本研究の一部は,文部科学省科学研究費 (16K04821,18K0277301) による助成を受けた.本研 究の遂行にあたり,実験の準備および実施にご協力くださった小林尚弥氏および高橋茉里氏に深謝 いたします. 7.参考文献 荒生弘史, 吉岡由希絵. 性別サインの認知:形状と色の干渉課題における大脳半球非対称性. 日本 認知心理学会発表論文集. 2009. pp.62-63. 福田忠彦. 図形知覚における中心視と周辺視の機能差. テレビジョン学会誌. 1978. 32-6:492-498. 橋本俊顕. ヒトでの発達障害の病態:自閉症スペクトラム障害, 注意欠陥/多動性障害を中心に.日本 毒性学会学術年会. 2012. 39:S5-3. 柿沢敏文, 中田英雄, 谷村裕. 弱視者の衝動性眼球運動の特性. 特殊教育学研究. 25:31-39. 加藤公子, 吉崎一人. 加齢が左右視野への注意手定位に与える影響-視角統計学習を用いた検討-. 心理学研究. 2016. 87:421-427. 川上正浩. 仮名 3 文字で表記される非単語の類似語数(N-size 表). 名古屋大學教育學部紀要(教育 心理学科). 1996. 43:187-220. 小枝達也, 関あゆみ, 内山仁志. 疾患としての読み書き障害―就学早期からの治療的介入の試み ―教育と医学. 2008. 56:898-907. 松浦祗恵, 佐々木仁. 色覚の情報処理における大脳左右半球の機能差. 日本色彩学会誌. 2002. 26:110-111. 丸久友理子, 岡真由美, 星原徳子, 金永圭祐, 森壽子, 河原正明. 注意欠如多動性障害(ADHD) 児における眼球運動が読字に及ぼす影響. 日本視能訓練士協会誌. 2016. 45:79-86. 森口佑介. 実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援. 心理学評論. 2015. 58:77-88. 那倉達也, 入倉隆. 疲労と有効視野の関係. 照明学会雑誌. 2005. 89:794-798. Neville HJ, Brvelier D. Neural organization and plasticity of language. Curr Opin Neurobiol. 1998. 8:254-258. Shoji H, Ozaki H. Neurophysiological Correlates of Pattern Recognition in the Peripheral Visual Field. Pattern recognition in Biology. 2007. pp.205-220. 22.
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汚染水の構外への漏えいおよび漏えいの可能性が ある場合・湯気によるモニタリングポストへの影
3 軸の大型車における解析結果を図 -1 に示す. IRI
These results indicate an interferenceeffectof visual context in picture detection and a facilitation effect of semanticcontext in word detection.. However,Experiment2 using