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伴直方『枕冊子考』の『枕草子』本文 ―「攷異」所引本文と『枕草子』諸本の関係 ―

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全文

(1)

伴直方『枕冊子考』の『枕草子』本文 ―「攷異」

所引本文と『枕草子』諸本の関係 ―

著者

渡邉 美希

雑誌名

日本文芸論叢

27

ページ

1-18

発行年

2018-03-30

URL

http://hdl.handle.net/10097/00129857

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  はじめに ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ を は じ め と し て 、﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ や ﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ な ど の 平 安 文 学 は 、 成 立 後 比 較 的 早 い 段 階 か ら 注 釈 が 始 ま り 、 膨 大 な 量 の 注 釈 書 が 編 ま れ て き た 。 そ れ に 対 し て ﹃ 枕 草 子 ﹄ は 、 同 じ く 日 本 の 代 表 的 古 典 の ひ と つ と さ れ な が ら も 、 そ の 注 釈 の 歴 史 を 紐 解 い て み る と 、 こ れ ら の 平 安 文 学 と は 事 情 が 全 く 異 な っ て い る 。 ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 注 釈 活 動 が 始 ま る の は 、 ほ ぼ 近 世 に 入 っ て か ら の こ と で あ る 。 表 一 に 、 近 世 に お け る ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 の 刊 行 状 況 と 、 注 釈 活 動 の 成 果 と し て あ げ ら れ る 書 物 を ま と め た 。﹃ 枕 草 子 ﹄ は 、 慶 長 年 間 に 三 種 の 古 活 字 版 が 出 版 さ れ 、 慶 安 二 年 ︵ 一 六 四 九 ︶ に は 刊 本 が 刷 行 さ れ た こ と で 、 多 く の 人 々 の 目 に 触 れ る よ う に な っ た 。 こ れ を 受 け て 、 延 宝 二 年 ︵ 一 六 七 四 ︶ に は 松 永 貞 徳 門 下 で あ る 加 藤 磐 斎 が ﹃ 清 少 納 言 枕 草 紙 抄 ﹄を 、 そ の 直 後 に 同 門 の 北 村 季 吟 が ﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄ を 刊 行 し た 。 そ れ か ら 少 し 時 間 を お い て 岡 西 惟 中 ﹃ 枕 草 子 旁 註 ﹄ も 刊 行 さ れ る 。 こ れ ら は ﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ と 言 わ れ 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 史 に お い て 重 要 な 意 味 を 持 っ て き た ︵ 以 後 、 上 記 の 三 註 を そ れ ぞ れ ﹃ 磐 斎 抄 ﹄﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 旁 註 ﹄と 略 記 す る ︶。 な か で も ﹃ 磐 斎 抄 ﹄﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 注 付 き の 本 文 と で も 言 う べ き も の で 、 非 常 に 画 期 的 で あ っ た 。 特 に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 注 も 穏 当 で 詳 し く 、 近 代 に 至 る ま で ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 主 要 な テ キ ス ト と し て 享 受 さ れ て き た 。 島 内 裕 子 氏 1 は 、 近 世 に お け る ﹃ 春 曙 抄 ﹄の 流 通 に つ い て 次 の よ う に 述 べ る 。   江 戸 時 代 の 人 々 に と っ て 、 原 文 だ け で は 、 王 朝 文 学 の 意 味 内 容 を 十 分 に 理 解 で き な い こ と も 多 か っ た で あ ろ う か ら 、﹁ 注 釈 付 き 本 文 ﹂ と し て 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 江 戸 時 代 に 最 も 尊 重 さ れ 、 多 く の 人 々 が こ れ に よ っ て ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 読 ん だ 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 、 冒 頭 の ﹁ 春 は 曙 ﹂ を そ の ま ま 題 名 に し た と こ ろ も 、 わ か り や す さ や 親 し み や す さ が あ る 。 江 戸 時 代 の 人 々 に と っ て 、﹃ 枕 草 一

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子 ﹄ を 読 む と は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 読 む こ と に ほ か な ら な か っ た 。   島 内 氏 が 指 摘 す る よ う に 、 近 世 に お い て ﹃ 枕 草 子 ﹄を 読 む こ と は 、 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 読 む こ と と 同 義 で あ っ た と 言 っ て よ い だ ろ う 。 表 一 に あ げ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 の ほ ぼ す べ て に も 、 各 注 に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 丁 数 が 付 さ れ る な ど 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ い て い る 様 子 が う か が え る 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ が 幾 度 と な く 版 を 重 ね 、 多 く の 人 々 に 読 ま れ た こ と は 、 多 く の 刊 本 が 現 存 し て い る こ と や 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 頭 注 部 分 だ け を 抜 き 出 し た 写 本 な ど が 現 存 す る こ と か ら 明 ら か で あ る 2 。 現 在 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 研 究 の 中 心 が ﹃ 春 曙 抄 ﹄ に あ る こ と も 、 こ う し た ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 広 範 な 流 通 が ひ と つ の 要 因 で あ ろ う 3 。 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ が ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 流 布 本 的 位 置 を 獲 得 し た 後 、 約 一 五 〇 年 間 新 た な ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 が 刊 行 さ れ る こ と は な か っ た が 、 寛 政 十 二 年 ︵ 一 八 〇 〇 ︶ に は 堺 本 を 底 本 と す る 群 書 類 従 本 ﹃ 枕 草 子 ﹄ が 刊 行 さ れ 、 文 化 文 政 年 間 に 入 る と 、 他 の 平 安 文 学 へ の 関 心 の 高 ま り と 連 動 し て ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 活 動 も 活 発 化 す る 。 そ れ に 伴 い 、 刊 行 さ れ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 本 文 や ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 持 つ 様 々 な 問 題 点 も 明 ら か に な っ て い っ た 。 近 世 後 期 の 国 学 者 た ち の 関 心 は 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 に 関 す る こ と や 、 平 安 時 代 の 故 実 、﹃ 枕 草 子 ﹄ の 成 立 事 情 や 作 者 で あ る 清 少 納 言 自 身 に 関 す る こ と な ど 多 岐 に わ た る 。 近 世 後 期 に 成 立 し た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 の う ち 、 代 表 的 な も の と し て は 、 文 政 二 年 ︵ 一 八 一 九 ︶ 頃 に 成 っ た と 思 わ れ る 清 水 浜 臣 の 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ と 、 天 保 二 年 ︵ 一 八 三 一 ︶ に ﹃ 枕 草 子 私 記 ﹄ を 記 し た 岩 崎 美 隆 の 一 連 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 研 究 が あ げ ら れ よ う 。 浜 臣 は 異 本 校 合 の 他 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に は な い 事 項 を 加 筆 し 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に 異 論 を 唱 え る 注 を 書 入 れ る こ と も あ る 。 浜 臣 の 書 入 れ は 多 く 書 写 さ れ 、 転 写 本 が 複 数 残 っ て い る 。 ま た 、 岩 崎 美 隆 に 関 し て は 、 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ が ﹃ 杠 園 抄 4 ﹄ と し て 翻 刻 さ れ る 他 、 そ の 書 入 れ を 元 に 執 筆 さ れ た ﹃ 枕 草 子 私 記 ﹄ が あ る 5 。 こ れ ま で 近 世 後 期 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 活 動 に つ い て は 、 個 々 の 著 作 に 関 す る 言 及 に と ど ま っ て い た が 、 今 見 て き た 例 か ら も 明 ら か な よ う に 、 近 世 後 期 に も 人 々 は ﹃ 枕 草 子 ﹄ に 対 し て 高 い 関 心 を 持 ち 、 様 々 な 角 度 か ら ﹃ 枕 草 子 ﹄を 読 み 深 め て い っ た こ と が わ か る 。 本 稿 で 取 り 上 げ る 伴 直 方 ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ も ま た 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ き な が ら も 、 そ れ を 相 対 化 し よ う と す る 大 き な 流 れ の な か で 成 立 し た 書 物 で あ る 。﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ は 、 一 冊 十 九 丁 前 後 か ら 成 り 、﹁ 目 録 ﹂﹁ 攷 異 ﹂﹁ 枕 さ う し と 名 つ け し 事 ﹂﹁ 清 少 納 言 の 事 跡 ﹂ か ら 構 成 さ れ る 。 語 釈 や 各 章 段 の 読 解 を め ぐ る 言 及 は 一 切 な く 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 や ﹃ 枕 草 子 ﹄ 周 辺 の 事 情 に つ い て の 諸 説 集 成 の よ う な 性 格 を 持 つ 。 現 存 伝 本 は 五 本 6 で あ る が 、 少 な く と も う ち 二 本 7 は 近 代 に 入 っ て 書 写 さ れ た 新 写 本 で あ り 、 成 立 当 時 に 流 通 し た 形 跡 は ほ ぼ な い 。 し た が っ て 、 公 に 向 け て 出 版 を 目 論 ん だ も の で は な く 、 個 人 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 学 習 者 に 向 け て 執 筆 さ れ た も の で あ っ た こ と が 想 定 で き る 。 直 方 自 身 の 見 解 を 示 す 箇 所 は ほ ぼ 見 ら れ な い が 、 当 時 流 通 し て い た ﹃ 枕 草 子 ﹄ を め ぐ る 様 々 な 文 献 に 目 を 配 り 、 諸 説 を 集 成 す る 姿 勢 は 、 近 世 後 期 に お け る ﹃ 枕 草 子 ﹄ 享 受 の 一 端 を 示 す も の と し て 注 目 に 値 す る 。 本 稿 は 、 そ の 中 で も ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 の 問 題 を 扱 う ﹁ 目 録 ﹂﹁ 攷 異 ﹂ を 中 心 的 に 取 り 上 げ る 。﹃ 枕 草 子 ﹄ は 諸 本 間 の 異 同 が 大 変 大 き い こ と で 知 ら れ て い る が 、 近 世 に お い て ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 二

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【表1】近世期における『枕草子』刊本の出版と注釈書年表       ※ 印 の 付 い た も の は 成 立 年 代 未 詳 。 傍 線 を 付 し た も の は 活 字       翻 刻 さ れ て い な い も の で あ る 。 慶 長 年 間 ︵ 一 五 九 六 ∼ 一 六 一 五 ︶ 十 行 木 古 活 字 版 十 二 行 木 古 活 字 版 十 三 行 木 古 活 字 版 慶 安 二 年 ︵ 一 六 四 八 ︶ 慶 安 板 本 延 宝 二 年 ︵ 一 六 七 四 ︶ 加 藤 磐 斎 ﹃ 清 少 納 言 枕 草 紙 抄 ﹄ 北 村 季 吟 ﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄ 天 和 元 年 ︵ 一 六 八 一 ︶ 岡 西 惟 中 ﹃ 枕 草 子 旁 註 ﹄ 享 保 十 四 年 ︵ 一 七 二 九 ︶ 壺 井 義 知 ﹃ 枕 草 紙 装 束 撮 要 抄 ﹄ 寛 延 三 年 ︵ 一 七 五 〇 ︶ 頃 ※ 多 田 義 俊 ﹃ 枕 草 紙 抄 ﹄ 安 永 年 間 ︵ 一 七 七 二 ∼ 一 七 八 一 ︶ ※ 栗 原 柳 庵 ﹃ 清 少 納 言 年 立 ﹄ 寛 政 十 二 年 ︵ 一 八 〇 〇 ︶ 群 書 類 従 ﹃ 枕 草 子 ﹄ 文 化 年 間 ︵ 一 八 〇 四 ∼ 一 八 一 八 ︶ 屋 代 弘 賢 書 入 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 文 政 二 年 ︵ 一 八 一 九 ︶ 村 田 春 海 ﹃ 枕 草 子 題 号 説 ﹄ ※ 清 水 浜 臣 書 入 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 文 政 八 年 ︵ 一 八 二 五 ︶ 藤 井 高 尚 ﹃ 枕 草 子 新 釈 ﹄ ※ 岡 本 保 孝 ﹃ 枕 草 子 存 疑 ﹄ 文 政 九 年 ︵ 一 八 二 六 ︶ 伴 直 方 ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ ※ 前 田 夏 蔭 書 入 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ ※ 佐 藤 有 藤 書 入 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 文 政 十 一 年 ︵ 一 八 二 八 ︶ 田 中 大 秀 ﹃ 枕 冊 子 目 録 ﹄ 文 政 十 二 年 ︵ 一 八 二 九 ︶ 岩 崎 美 隆 ﹃ 枕 草 子 杠 園 抄 ﹄ 文 政 十 三 年 ︵ 一 八 三 〇 ︶ 殿 村 常 久 ﹃ 千 草 の 根 ざ し ﹄ ※ 加 納 諸 平 ﹃ 枕 草 子 校 異 ﹄ 天 保 二 年 ︵ 一 八 三 一 ︶ 岩 崎 美 隆 ﹃ 枕 草 子 私 記 ﹄ 天 保 五 年 ︵ 一 八 三 四 ︶ 以 前 ※ 阿 倍 喜 任 ﹃ 枕 草 子 草 木 考 ﹄ 弘 化 元 年 ︵ 一 八 四 四 ︶ 長 沢 伴 雄 ﹃ 標 注 枕 草 紙 ﹄ 弘 化 四 年 ︵ 一 八 四 七 ︶ 頃 漆 戸 茂 喬 ﹃ 枕 草 紙 つ け の 木 枕 ﹄ 安 政 二 年 ︵ 一 八 五 五 ︶ 島 川 鎌 満 ﹃ 枕 草 紙 豆 気 逎 木 枕 追 継 考 ﹄ ※ 斉 藤 彦 麿 ﹃ 枕 草 紙 ﹄ 江戸の三註

}

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本 が ど の よ う に 認 識 さ れ 、 読 ま れ て い た の か は 必 ず し も 明 ら か に な っ て い な い 。 慶 安 刊 本 や ﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ を 見 て み て も そ れ ぞ れ の 本 文 は 異 な っ て お り 、 近 世 後 期 に お い て こ れ ら の 本 文 の 異 同 が 問 題 に な っ て く る こ と は 想 像 に 難 く な い 。 ま た 、 作 者 で あ る 伴 直 方 は 、﹃ 国 字 考 ﹄ な ど 、 国 語 学 的 な 業 績 で 著 名 な 国 学 者 で あ る が 、 同 時 に ﹃ 蜻 蛉 日 記 ﹄﹃ 弁 内 侍 日 記 ﹄ な ど の 王 朝 文 学 作 品 の 書 写 活 動 で も 言 及 さ れ る こ と が 多 く 、 物 語 目 録 で あ る ﹃ 物 語 書 目 備 考 ﹄ の 編 纂 で も 知 ら れ て い る 8 。 さ ら に 、 先 に 述 べ た 清 水 浜 臣 や 岡 本 保 孝 と も 直 接 の 交 流 が あ っ た よ う で 9 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 活 動 の 全 体 像 を と ら え る 上 で も 重 要 な 人 物 で あ る と 言 え よ う 。 ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ は 、 近 代 に お け る ﹃ 枕 草 子 ﹄ 研 究 に お い て も 早 く か ら 注 目 さ れ て き た 。 池 田 亀 鑑 10 は 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ に つ い て 次 の よ う に 述 べ る 。   こ と に 枕 冊 子 考 は 、 小 冊 子 で は あ る が 、 章 段 を 系 統 的 に 列 挙 し 、 考 異 を 試 み 、 枕 草 子 の 名 義 に つ い て 考 証 を な し 、 清 少 納 言 の 事 跡 に つ い て 真 面 目 な 研 究 を し て い る 。 貞 丈 の 抄 の 影 響 も 少 な く な い が 、 そ の 研 究 的 態 度 に 於 て 自 ら 趣 を 異 に す る も の が あ る 。   池 田 は ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ の 概 要 を 紹 介 す る と 共 に 、 直 方 の ﹁ 研 究 的 態 度 ﹂ を 評 価 す る 。 田 中 重 太 郎 11 も ま た 、 今 後 研 究 を 進 め る 予 定 の も の と し て ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ を 挙 げ て い る 。 し か し 、 そ の 後 池 田 、 田 中 両 氏 に よ っ て ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄の 研 究 が 進 め ら れ る こ と は な く 、 現 在﹃ 枕 草 子 ﹄ 研 究 に お い て は ほ と ん ど 言 及 さ れ る こ と は な い 。 こ う し た 研 究 状 況 も 踏 ま え 、 本 稿 で は ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄﹁ 目 録 ﹂﹁ 攷 異 ﹂ に お け る 諸 本 理 解 の あ り 方 を 整 理 し 、 こ の 二 節 が ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 読 む 際 に ど の よ う な 役 割 を 担 っ た の か を 明 ら か に し た い 。     「江戸の三註」の『枕草子』諸本理解と、    文化文政年間における意識の変化 本 節 で は 、﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ の な か で も ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 中 心 に 、 近 世 前 期 に お い て ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 が ど の よ う に 認 識 さ れ て い た の か を 整 理 し た 上 で 、 文 化 文 政 年 間 に そ う し た 諸 本 理 解 が い か に 受 け 継 が れ 、 ま た 変 化 し て い っ た の か を 確 認 し て い く 。﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ を 初 め と し て 、 近 世 に 刊 行 さ れ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 が ど の 本 を 底 本 と し て い る か に つ い て は 、 早 く 鈴 木 知 太 郎 氏 に よ っ て 整 理 、 分 類 さ れ た 12 。 鈴 木 氏 は 、 慶 安 刊 本 が 能 因 本 を 底 本 と し 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ は そ の 慶 安 刊 本 を 底 本 と し た 上 で 、 三 巻 本 第 二 類 本 と 堺 本 を 校 合 し た 本 文 で あ る と 指 摘 し た 。 さ ら に 鈴 木 氏 は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ と ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の 本 文 校 合 の 箇 所 が 一 致 す る こ と か ら 、 両 本 の 元 と な る 共 同 原 本 が 存 在 す る 可 能 性 を 示 し た 。 鈴 木 氏 の 見 解 に 対 し て 、 沼 尻 利 通 氏 は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の 底 本 が 能 因 本 で あ る と す る 点 は 首 肯 し つ つ 、 共 同 原 本 の 存 在 は 否 定 し 、 両 者 の 校 合 本 文 の 部 分 的 な 一 致 は 、 貞 徳 門 下 で の 読 書 会 の 成 果 で あ る と 結 論 づ け て い る 13 。 共 同 原 本 の 有 無 に つ い て は 本 稿 で は 掘 り 下 げ る こ と は し な い が 、 慶 安 刊 本 が 能 因 本 を 使 用 し た こ と で 、 そ れ を 受 け 継 い だ ﹃ 磐 斎 抄 ﹄﹃ 春 曙 抄 ﹄ が 能 因 本 を 主 底 本 と し つ つ 、 そ れ ぞ れ に 独 自 の 本 文 校 合 が 四

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見 ら れ る 点 は お さ え て お き た い 。 以 上 の こ と を 踏 ま え 、﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ が ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 に 対 し て ど の よ う な 認 識 を 持 ち 本 文 校 合 を 行 っ て い た の か を 見 て い く 。 初 め に 長 く な る が 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹁ 発 端 ﹂ に お け る 諸 本 を め ぐ る 記 述 を 引 用 す る ︵ 以 後 の 引 用 に お け る 傍 線 等 の 記 号 は 全 て 稿 者 に よ る ︶。   此 草 紙 異 本 さ ま 〴 〵 あ り 。 或 は 二 冊 、 或 三 冊 、 或 五 冊 。 一 決 し が た し 。 古 今 和 歌 集 、 後 集 、 源 氏 物 語 等 は 、 定 家 卿 の 証 本 あ り て 世 に 定 ま り 侍 る に 、 枕 草 紙 に は い ま だ 此 卿 の 御 本 を 見 侍 ら ず 。 ① 承 応 二 年 の 春 、 尾 州 よ り 一 本 を 得 た り 。 上 下 二 冊 其 本 紙 ふ る く 手 跡 中 古 の 筆 体 な り き 。 其 文 意 あ ざ や か に て 、 所 々 に 朱 点 を 加 へ 、 且 又 人 々 の 伝 、 官 考 な ど し る さ れ た り 。 ② 奥 に 異 本 両 通 書 き 加 へ ら れ 侍 り し は 、 此 本 多 本 を 合 せ て 用 捨 せ ら れ し 事 し ら れ 侍 り 。 其 奥 書 云 、     往 来 所 持 之 愚 本 紛 失 年 久 更 借 出 一 両 本 之 本 令 書 写 之 依 無 証 本 不 散 不 審 但 管 見 之 所 及 勘 合 旧 記 等 註 付 時 代 年 月 等 謬 案 歟       安 貞 二 年 三 月       耄 及 愚 翁 在 判     文 明 乙 未 之 仲 夏 廣 橋 亞 槐 実 相 院 准 后 本 下 之 本 末 両 冊 見 示 曰 余 書 写 所 希 也 厳 命 弗 獲 止 馳 禿 毫 彼 旧 本 不 及 切 句 此 新 写 読 而 欲 容 易 故 此 拉 之 次 加 朱 点 畢 正 二 位 行 権 大 納 言 藤 原 朝 臣 教 秀     此 耄 及 愚 翁 誰 人 に や 。 勘 物 は 此 作 に て 、 朱 点 は 教 秀 卿 と 見 ゆ 。 ③ 此 奥 書 の さ ま 証 本 と 用 侍 ら ん に と が あ る ま じ く や 。 ④ 又 一 本 上 下 二 冊 堺 本 と て 宮 内 卿 清 原 氏 の 奥 書 あ り 。 発 端 よ り 一 紙 が ほ ど は よ の つ ね の 本 に 大 か た 似 て 、 其 次 枕 詞 の 次 第 な ど 大 き に 異 也 。 又 清 少 納 言 の 歌 よ み し 物 語 一 段 も 書 つ ら ね ず 。 此 本 も 先 達 の 用 ひ 給 へ る 由 の 奥 書 な ど 見 え た れ ど 、 只 此 耄 及 愚 翁 教 秀 卿 等 の 奥 書 の 本 の お も む き を 古 人 の 用 ひ 給 へ る 証 拠 お ほ し 。 ま づ 後 拾 遺 、 千 載 集 、 新 古 今 、 続 古 今 、 玉 葉 等 に い り し 清 少 納 言 の 歌 詞 書 ま で も 皆 此 本 の さ ま と 見 え た り 。 其 外 順 徳 院 の 禁 秘 抄 、 八 雲 御 抄 等 に 清 少 納 言 が 記 に あ り と し る さ せ 給 へ る 事 ど も 、 又 基 俊 の 悦 目 抄 に 香 炉 峰 の 雪 の 事 あ り 。 兼 好 法 師 が 徒 然 草 に か れ た る 葵 の 事 な ど か け る も 、 此 草 紙 の 此 本 を 用 い ら れ し 事 な る べ し 。 ⑤ 又 此 本 の た ぐ ひ に も 、 少 々 異 本 あ り て 、 所 々 か は り め あ り と い へ ど 、 多 本 を 見 合 わ せ て 中 に よ ろ し き を 用 ひ 侍 り し 。 ま ず は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ が い ず れ の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 を 使 用 し て い る の か を 確 認 す る 。 傍 線 部 ① に あ る よ う に 、 季 吟 が 参 照 し た 本 は 尾 州 家 本 と い う 古 い 書 写 本 で あ り 、 傍 線 部 ② か ら 、 末 尾 に 二 種 類 の 異 本 が 書 き 加 え ら れ て い る 本 で あ る こ と が 分 か る 。 さ ら に 、 波 線 部 に は ﹁ 耄 及 愚 翁 ﹂ の 名 が 見 え る 14 。 こ の 奥 書 と 異 本 に 関 す る 記 述 に よ っ て 、 尾 州 家 本 は 三 巻 本 で あ る こ と が 明 ら か で あ る 。 さ ら に 二 種 の 異 本 の 本 文 を 文 末 に 有 す る こ と と 考 え 合 わ せ る と 、 こ の 本 は 第 二 類 本 で あ る こ と が わ か る 。 傍 線 部 ③ に ﹁ 此 奥 書 の さ ま 証 本 と 用 侍 ら ん に と が あ る ま じ く や ﹂ と あ る 通 り 、 季 吟 が 尾 州 家 本 を 証 本 と し て 認 識 し て い た こ と は 重 要 で あ ろ う 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 堺 本 を 参 照 し た 上 ︵ 傍 線 部 ④ ︶ で 、 傍 線 部 ⑤ に あ る よ う に 、 三 巻 本 の 異 本 五

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ま で を 含 め て よ い と 思 う 本 文 を 参 照 し 校 訂 し て い る こ と が わ か る 。 実 際 は 慶 安 刊 本 を 主 底 本 と す る こ と に 関 し て は 留 意 し な け れ ば な ら な い が 、 こ こ で は 季 吟 が 三 巻 本 第 二 類 本 を 証 本 と し て 捉 え て い る こ と を 確 認 し て お き た い 。 三 巻 本 第 二 類 本 を 重 視 す る 姿 勢 は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ よ り わ ず か に 早 く 出 版 さ れ た と 思 わ れ る﹃ 磐 斎 抄 ﹄に も 見 ら れ る 。﹃ 磐 斎 抄 ﹄﹁ 本 の 差 異 ﹂ を 引 用 す る 。   第 一 本 の 差 異 と 云 は 此 双 紙 差 異 ま ち 〳 〵 に て 伝 写 の 誤 尤 多 し 故 に 今 数 多 の 古 本 を あ つ め て 吟 味 し 就 中 伝 来 正 し き 本 を も と ゝ し 其 余 の 古 本 及 び 印 本 等 を 以 て 校 合 せ し め 侍 る 者 也 尤 後 来 の 正 本 た る べ き 者 歟 則 伝 来 の 本 の 奥 書 云   ︵ 三 巻 本 第 二 類 本 奥 書 の た め 省 略 稿 者 ︶   右 は 伝 来 の 本 の 奥 書 也 勘 物 略 之   又 或 古 本 の 奧 書 云   右 以 官 家 之 本 一 二 見 合 之 者 也       寛 正 二 年 長 月 中 旬   是 則 古 本 の 奧 書 如 斯 此 外 永 正 弘 治 の 年 号 計 有 本 雖 在 之 名 署 な き 故 に 出 所 未 詳 、 或 又 壱 両 部 伝 写 の 本 あ り 或 又 新 古 の 印 本 有 こ れ ら の 数 本 に 依 て 校 合 吟 味 せ し め 正 本 と す る 所 也   ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ も ま た 、﹁ 伝 来 正 し き 本 ﹂ と し て 三 巻 本 第 二 類 本 を あ げ 、 独 自 の 校 合 に よ っ て ﹁ 正 本 ﹂ を つ く る 姿 勢 を 示 し て い る 。﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の 本 文 は 第 二 類 本 巻 末 の 異 文 な ど も 本 文 と し て 掲 載 し て お り 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ よ り も 三 巻 本 第 二 類 本 を さ ら に 重 視 す る 姿 勢 が う か が え る 。 北 村 季 吟 と 加 藤 磐 斎 は 、 と も に 松 永 貞 徳 の も と で ﹃ 枕 草 子 ﹄ に 関 す る 研 究 を 行 っ て お り 、 両 者 の 諸 本 に 対 す る 認 識 が 近 し い こ と は 十 分 に 想 定 で き る 15 。﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ の う ち 、﹃ 旁 註 ﹄ の み 細 川 家 伝 来 の 能 因 本 を 主 底 本 と す る が 、 文 化 文 政 年 間 に お け る ﹃ 旁 註 ﹄ や 能 因 本 の 写 本 の 流 通 か ら 考 え て も 、 能 因 本 を ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 証 本 と す る 考 え 方 は 広 ま っ て い か な か っ た よ う で あ る 16 。 ﹁ は じ め に ﹂ で も 述 べ た よ う に 、﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ の 刊 行 以 降 、 あ ら た な ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 は 刊 行 さ れ て お ら ず 、 特 に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ は ﹃ 枕 草 子 ﹄ の テ キ ス ト と し て 特 権 的 な 位 置 を 得 て い っ た と み て よ い だ ろ う 。 し か し 、 繰 り 返 し 述 べ て い る よ う に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ 慶 安 刊 本 は そ れ ぞ れ 異 な る 本 文 を 持 っ て い た こ と に 加 え 、 寛 政 十 二 年 ︵ 一 八 〇 〇 ︶ に は 群 書 類 従 か ら 堺 本 を 底 本 と す る ﹃ 枕 草 子 ﹄ が 刊 行 さ れ た こ と も 相 俟 っ て 、 文 化 文 政 年 間 に は ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 異 本 に 対 す る 意 識 が 高 ま っ て い た も の と 思 わ れ る 。 自 身 も ﹃ 枕 草 子 新 釈 ﹄ を 著 し て い る 藤 井 高 尚 は 、 随 筆 ﹃ 三 の し る べ 17 ﹄で 次 の よ う に 述 べ る 。   此 草 子 ︵﹃ 枕 草 子 ﹄ 稿 者 注 ︶ も 板 に ゑ り て す れ る 本 み な わ ろ く 、 注 も よ き は な し 。 さ る か ら に お の れ 江 戸 に て 、 ふ る き う つ し ま き ど も さ が し 出 て 、 見 わ た し 考 へ た ゞ し お け る に 注 を も の し て 、 枕 冊 子 新 釈 と 名 づ け た る あ り 。 世 に 広 め ん と す れ ど も 、 い ま だ き よ う か き を へ ず 。 お の が 注 釈 を 出 さ ゞ る こ な た は 、 春 曙 抄 と い ふ 本 を 見 る べ し 。 六

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高 尚 は 、 流 通 し て い る ﹃ 枕 草 子 ﹄ テ キ ス ト と し て は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 評 価 し つ つ も 、 当 時 刊 本 と し て 流 通 し て い た ﹃ 枕 草 子 ﹄ は 本 文 も 注 も よ い も の が な い 、 と 厳 し く 批 判 す る 。 こ こ ま で 強 い 批 判 は 見 ら れ な い に し て も 、 現 存 す る 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の ほ と ん ど に は 、 三 巻 本 や 慶 安 刊 本 、 ま た は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ と の 本 文 校 合 に 関 わ る 書 入 れ が 確 認 で き る 。 ま た 、 岡 本 保 孝 は ﹃ 枕 草 子 存 疑 ﹄ の 冒 頭 で 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ を 中 心 と し て 、 慶 安 刊 本 等 も 含 め た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 の 分 類 、 整 理 を 試 み て い る 18 。 さ ら に 、 異 文 に 対 す る 興 味 は 章 段 区 分 に も 及 ん で い る 。﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ は そ れ ぞ れ 異 な る 本 文 を 持 つ た め 、 当 然 章 段 順 序 も 異 な っ て い る 。 特 に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ に は 章 段 番 号 が 付 さ れ て お ら ず 、 目 録 も な い た め 、 章 段 区 分 も あ い ま い で あ る 。﹃ 磐 斎 抄 ﹄ も 番 号 が 振 ら れ て い る も の の 目 録 を 持 た な い 。﹃ 旁 註 ﹄ の み 目 録 を 有 し て い る が 、 章 段 順 序 や 章 段 区 分 も 異 な る た め 汎 用 性 は 低 か っ た 。 目 録 が な い と い う こ と は か な り 不 便 で あ っ た ら し く 、 現 存 す る ﹃ 春 曙 抄 ﹄に は 、 各 巻 表 紙 も し く は 表 表 紙 見 返 し に 章 段 目 録 が 書 き 入 れ ら れ て い る こ と が 多 い 。 ま た 、 田 中 大 秀 ﹃ 枕 冊 子 目 録 19 ﹄ の よ う に 、 独 自 の 章 段 区 分 で 目 録 を 作 成 す る も の も 見 受 け ら れ る 。 こ こ ま で 、﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ の 諸 本 に 対 す る 認 識 を 確 認 し た 上 で 、 文 化 文 政 年 間 の 国 学 者 た ち が 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ い て ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 理 解 し つ つ も そ の 本 文 に 疑 問 を 持 ち 、 章 段 区 分 も 含 め て 再 検 討 す る 有 様 を 確 認 し て き た 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ が ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 中 心 的 な テ キ ス ト で あ る こ と に 変 わ り は な い が 、 注 に 加 え て 本 文 の 面 で も 、 諸 本 と の 比 較 検 討 の 必 要 性 が 認 識 さ れ て い た こ と が う か が え る だ ろ う 。   『枕冊子考』 「目録」の構成と参照される            『枕草子』諸本 本 節 で は 、 第 二 節 で 確 認 し た 近 世 後 期 の 国 学 者 た ち の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 に 対 す る 理 解 を 踏 ま え 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄﹁ 目 録 ﹂ に お い て ど の よ う な 本 文 が 参 照 さ れ て い る の か を 検 討 し 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 利 用 す る 際 に ど の よ う な 利 便 性 を 持 つ も の で あ っ た の か を 明 ら か に す る 。 初 め に 、﹁ 目 録 ﹂ 冒 頭 部 を 引 用 し 、 基 本 的 な 構 成 を 確 認 す る 。 目   録 万 朱 歳 抄 百 五 十 七 段             第   一   初 段 春 は あ け ほ の 一 丁 オ   二 こ ろ は 一 丁 ウ   三 む つ き 朔 日 は 一 丁 ウ 四 こ と 〳 〵 な る も の 異 本 / お な し こ と な れ と / 六 丁 ウ   聞 耳 こ と 〳 〵 / な る も の   五 山 は 十 六 丁 ウ 六 み ね は 十 七 丁 ウ   七 原 は 十 七 丁 ウ 八 市 は 十 八 丁 オ   九 渕 は 十 八 丁 オ 十 海 は 十 八 丁 ウ   十 一 わ た り は 十 八 丁 ウ 十 二 み さ ゝ き は 十 九 丁 オ   十 三 い へ は 十 九 丁 オ ︵ 二 丁 オ   章 段 番 号 の 漢 数 字 も 朱 筆 ︶ 二 行 目 に ﹁ 第 一 ﹂と あ る こ と か ら も 分 か る よ う に 、﹁ 目 録 ﹂で は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 巻 一 か ら 巻 十 二 ま で 、 巻 ご と に 二 段 組 で 章 段 名 を 列 挙 す 七

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る 。 章 段 名 の 右 下 に 付 さ れ て い る の は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 丁 数 で 、 こ の 目 録 が ﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ い て 作 成 さ れ た も の で あ る こ と が わ か る だ ろ う 。 ま た 、 章 段 名 の 右 肩 に 朱 筆 で 漢 数 字 が 付 さ れ て い る が 、 ﹁ 第 一 ﹂ と あ る 巻 数 の 右 上 に ﹁ 万 歳 抄 百 五 十 七 段 ﹂ と あ る こ と か ら 、 ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の 章 段 順 序 に 沿 っ て つ け ら れ た 漢 数 字 で あ る こ と が わ か る 。 章 段 名 と 区 分 は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ と 同 じ く ﹁ ∼ な も の ﹂﹁ ∼ は ﹂ で 始 ま る 類 聚 章 段 を 基 準 に し て い る が 、 一 部 異 な っ て い る 箇 所 も 確 認 で き る 。 章 段 名 は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ に 従 い 、 章 段 番 号 は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ に 従 っ て い る た め 、 こ の ﹁ 目 録 ﹂ は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ と ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の 章 段 順 序 の 異 同 を 一 目 で 確 認 で き る よ う に な っ て い る こ と が わ か る 。 章 段 順 序 の 異 同 が ど の よ う に 確 認 で き る の か を 、 巻 九 の ﹁ し た り か ほ な る も の ﹂ の 段 か ら ﹁ あ そ ひ は ﹂ の 段 ま で を 例 に 見 て い く 。             第   九   九 十 七 し た り か ほ な る も の 七 丁 オ 十 八 風 は 九 丁 オ   九 十 九 心 に く き も の 十 一 丁 オ し ま は 十 二 丁 オ   百 一 は ま は 十 二 丁 オ 二 浦 は 十 二 丁 ウ   百 三 寺 は 十 二 丁 ウ 経 は 十 三 丁 ウ 文 は 十 四 丁 オ 仏 は 十 四 丁 オ 物 語 は 十 五 丁 ウ 野 は 十 五 丁 ウ   百 四 陀 羅 尼 は 十 六 丁 オ 五 あ そ ひ は 十 六 丁 オ   ︵ 五 丁 オ ︶    ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 巻 九 に 含 ま れ る 章 段 の う ち 、﹁ 経 は ﹂﹁ 文 は ﹂﹁ 仏 は ﹂﹁ 野 は ﹂ の 段 は 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ に は な い 章 段 で あ る 。 そ の た め 、﹁ 攷 異 ﹂ の 該 当 章 段 に は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ に 従 っ て 付 さ れ る 章 段 番 号 は 書 き 込 ま れ て い な い 。 こ の よ う に 、﹁ 目 録 ﹂ を 一 見 す る だ け で 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ に は 該 当 章 段 が な い こ と が 確 認 で き る の で あ る 。 同 様 の 工 夫 は 随 所 に 散 見 さ れ 、 た と え ば ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ の み に 見 ら れ 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に は な い 章 段 に 関 し て は 、 該 当 章 段 名 を 一 字 下 げ で 示 す こ と で 区 別 し て い る 。 加 え て ﹁ 目 録 ﹂ に は 、 章 段 名 の 右 下 に ﹁ 異 本 ﹂ と し て ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 以 外 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 を 参 照 し 、 章 段 名 の 異 同 や 、 章 段 そ の も の の 有 無 な ど を 注 記 し て い る 箇 所 も あ る 。 こ こ で 示 さ れ る ﹁ 異 本 ﹂ が 現 在 の 分 類 の い ず れ の 本 文 に 当 た る の か を 、 異 本 注 記 が 多 く 見 ら れ る 巻 四 の ﹁ あ り か た き も の ﹂ の 段 か ら ﹁ 雪 の 山 ﹂ の 段 ま で に 注 目 し て 確 認 す る 。             第   四   卅 九 あ り か た き も の 一 丁 オ   四 十 あ ち き な き も の 五 丁 オ   四 十 一 い と ほ し け な き 物 五 丁 ウ 此 条 異 本 无   四 十 二 心 ち よ け な る も の 六 丁 オ   四 十 三 と り も て る も の 丁 ウ 異 本 无 草 の 庵 九 丁 オ   四 十 四 物 の あ は れ し ら せ か ほ な る 物 十 九 丁 オ   雪 の 山 廿 三 丁 オ   此 条 異 本 第 六 は る か な る も の ゝ 次 に 入 ︵ 三 丁 オ ︶ 引 用 の 上 段 に あ る 、 四 十 一 段 ﹁ い と ほ し け な き 物 ﹂ の 段 と 、 左 隣 の 四 十 三 段 ﹁ と り も て る も の ﹂ の 段 は 、 い ず れ も ﹁ 異 本 无 ﹂ と い う 注 記 を 持 つ 。 こ の 二 つ の 章 段 は 能 因 本 の み に 見 ら れ 、 三 巻 本 、 八

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堺 本 に は 見 ら れ な い 章 段 で あ る 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ は こ の 箇 所 の 主 底 本 を 能 因 本 と し て い る 。 従 っ て 、 こ こ で の ﹁ 異 本 ﹂ と は 三 巻 本 か 堺 本 の い ず れ か を 指 し て い る こ と が わ か る 。 さ ら に 、 四 十 四 段 ﹁ 物 の あ は れ し ら せ か ほ な る 物 ﹂ の 段 の 左 脇 に は 、﹁ 此 条 異 本 第 六 は る か な る も の ゝ 次 に 入 ﹂ と い う 注 記 が 見 ら れ る 。 こ の 章 段 は 能 因 本 三 巻 本 と も に ﹁ 草 の 庵 ﹂の 段 の あ と に あ る が 、 能 因 本 の み 五 十 一 段﹁ は る か な る も の ﹂ の 段 の 直 後 に も ほ ぼ 同 じ 本 文 が あ り 、 章 段 が 重 複 し て い る 。 そ の た め 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ を は じ め 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄﹃ 旁 註 ﹄ 慶 安 刊 本 の い ず れ も ﹁ は る か な る も の ﹂ の 段 の あ と に あ る 重 複 部 分 は 削 除 し て い る 。﹁ 目 録 ﹂ で 、 異 本 に は ﹁ は る か な る も の ﹂ の 段 の 次 に ﹁ 物 の あ は れ し ら せ か ほ な る 物 ﹂ の 段 が あ る 、 と 指 摘 し て い る と い う こ と は 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ が 能 因 本 系 統 の 写 本 を い ず れ か の 手 段 で 閲 覧 し て い た か 、 書 入 れ 本 な ど で こ の 情 報 を 入 手 し て い た こ と が 考 え ら れ る 。 ま た 、 引 用 は し な い が 、 巻 六 の ﹁ は る か な る も の ﹂ の 段 に は 、﹁ 異 本 に 行 く 末 は る か な る も の ﹂ と い う 章 段 名 の 異 同 の 注 記 が 見 ら れ る 。 こ の 章 段 名 は 堺 本 の み に 見 ら れ る も の で あ る 。 三 巻 本 の み の 独 自 の 章 段 名 を 異 本 注 記 に 示 す 例 が な い た め 、 三 巻 本 を ど の 程 度 参 照 し て い た か は 判 断 で き な い が 、 少 な く と も ﹁ 目 録 ﹂ で は 堺 本 と 能 因 本 の 章 段 名 に 関 す る 情 報 を 何 ら か の 手 段 で 得 て い た も の と 思 わ れ る 。 こ れ ま で 述 べ て き た よ う に 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄﹁ 目 録 ﹂ は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ 本 文 を 検 索 す る の に 役 立 つ だ け で な く 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ と の 章 段 名 、 章 段 順 序 の 異 同 も 参 照 で き る も の で あ る と 言 え る 。 ま た 、﹁ 異 本 ﹂ と し て 示 さ れ る 注 記 は 、 写 本 で 流 通 し て い た と 思 わ れ る 能 因 本 、 そ し て 堺 本 に よ る も の で あ る こ と が 想 定 で き 、 写 本 も 含 め た 異 同 を 参 照 で き る も の で あ っ た 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ に 書 き 入 れ ら れ た 簡 易 版 の 目 録 と 比 し て 、 他 の テ キ ス ト と の 対 照 が で き る 点 は 、 国 学 者 な ど 、 ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 学 び 、 本 文 を 比 較 検 討 す る 必 要 性 の あ る 人 に と っ て は 非 常 に 利 便 性 の 高 い も の で あ っ た と 言 え よ う 。   『枕冊子考』 「攷異」の構成と使用される            『枕草子』本文 ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄﹁ 攷 異 ﹂ は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 本 文 と 異 同 の 大 き い 章 段 の 異 文 を 示 し た り 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に は 見 ら れ ず 、 他 本 の み に あ る 章 段 の 本 文 を 引 用 し た り す る な ど 、 部 分 的 に で は あ る が 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 を ﹃ 春 曙 抄 ﹄と 対 応 さ せ な が ら 参 照 で き る も の で あ る 。 本 節 で は 、 ど の よ う に 諸 本 を 用 い 、 何 に も と づ い て 異 文 を 引 用 す る の か を 整 理 し 、﹁ 攷 異 ﹂ が ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 補 助 テ キ ス ト と し て 、 具 体 的 に ど の よ う な 情 報 を 備 え 、 利 用 に 供 す る も の だ っ た の か を 明 ら か に す る 。   は じ め に 、﹁ 攷 異 ﹂ の 冒 頭 部 分 を 引 用 し 形 式 を 確 認 す る 。   第 三 九 丁 ウ   さ ま か た ち も さ は か り あ て に う つ く し き ほ と よ り は 云 々 条   ○ さ ま か た ち 声 も を か し き 物 の 、 夏 秋 の 末 ま て お い 声 に / な き た れ と 、 内 裏 の う ち に す ま ぬ そ い と わ ろ き 、 ま た / よ る な か ぬ そ い き た な し と お ほ ゆ る 、 十 と せ は か り に / さ ふ ら ひ て 聞 し か と さ ら に お と も せ さ り き 、 さ る は / 竹 も い と ち か く か よ ひ ぬ へ き 枝 の た よ り も あ り か し 、 / ま か て ゝ 聞 は 、 あ や し の 家 の 梅 の な か な と に 、 は な や か に そ / な き い て た る や 、 時 九

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鳥 は あ さ ま し く ま た れ て よ る う ち / ふ け ま ち い て ら れ た る 心 は へ そ い み し く め て た け れ ︵ 後 略 ︶      ︵ 七 丁 オ ︶ ﹁ 攷 異 ﹂ で は 、 各 項 目 の は じ め に 本 文 よ り も 二 回 り ほ ど 小 さ い 文 字 で ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 該 当 巻 数 と 丁 数 を 示 し 、 該 当 す る 本 文 を 一 部 引 用 し て い る 。 右 の 引 用 で は 、 冒 頭 に ﹁ 第 三 九 丁 ウ   さ ま か た ち も さ は か り あ て に う つ く し き ほ と よ り は 云 々 条 ﹂ と あ る こ と か ら 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ 第 三 巻 九 丁 の 裏 に あ る ﹁ さ ま か た ち さ ば か り あ て に ⋮ ﹂ 以 下 の 本 文 の 異 文 を 示 し て い る こ と が わ か る 。﹁ 攷 異 ﹂ は こ の あ と の 引 用 も す べ て 同 様 の 形 式 で 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 巻 数 、 丁 数 順 に 異 文 を 列 挙 し て い く 。 こ の よ う な 形 式 で あ る こ と を 踏 ま え 、 引 用 本 文 の 直 前 に あ る 注 記 を 一 つ の 区 切 れ と し て 、 具 体 的 に ど の よ う な 章 段 が ﹁ 攷 異 ﹂ に 示 さ れ て い る の か を 表 二 に 示 し た 。 表 の 上 段 に は 引 用 本 文 の 直 前 に あ る ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 該 当 箇 所 の 注 記 を 示 し 、 下 段 に は ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ で 引 用 さ れ て い る 本 文 の 章 段 名 を 、 現 在 の 諸 本 系 統 と 共 に 示 し た 。 表 を 見 て ま ず 気 づ く の は 、﹁ 攷 異 ﹂ で 示 さ れ る 異 文 は ① ⑫ を 除 い て す べ て が 三 巻 本 か ら の 引 用 で あ る こ と だ ろ う 。 そ こ で 、﹁ 攷 異 ﹂ の 異 文 引 用 の あ り 方 を 見 る 前 に 、﹁ 攷 異 ﹂ で 使 わ れ る 三 巻 本 が 第 二 類 本 で あ る こ と と 、 三 巻 本 第 二 類 本 の 特 質 を 確 認 し 、 近 世 後 期 の 様 々 な 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 参 照 し な が ら 、 直 方 と 同 時 期 の 国 学 者 達 が 三 巻 本 第 二 類 本 の ど の よ う な 点 に 注 目 し て い た の か を 整 理 す る 。 は じ め に 、﹁ 攷 異 ﹂ は 具 体 的 に ど の よ う な 三 巻 本 を 使 用 し て い る の か 、 ⑭ の 三 巻 本 奥 書 を 引 用 し 確 認 す る 。   往 年 所 持 之 愚 本 紛 失 年 久 更 借 出 一 両 本 之 本 令 書 写 之 依 无 / 証 本 不 散 不 審 但 管 見 之 所 及 勘 合 旧 記 等 注 付 時 代 年 月 等 / 所 謬 案 欤         安 貞 二 年 三 月                   耄 及 愚 翁   在 判   文 明 乙 未 之 仲 夏 廣 橋 亞 槐 送   実 相 院 准 后 本 下 之 本 末 両 冊 見 / 手 本 曰 余 書 写 所 希 也 厳 知 弗 推 然 禿 毫 彼 旧 記 不 及 切 句 此 新 / 写 読 古 欲 容 易 故 此 挍 之 次 加 朱 点 畢         正 二 位 行 権 大 納 言 藤 原 朝 臣 教 季   慶 長 二 年 七 月 十 六 日 ︵ 十 四 丁 オ ︶ 一 読 し て わ か る よ う に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹁ 発 端 ﹂ で 引 用 さ れ た も の と 同 じ く 、﹁ 攷 異 ﹂ で 引 用 さ れ る 三 巻 本 の 奥 書 も 秀 隆 の 奥 書 を 欠 く こ と か ら 、 こ こ で 参 照 さ れ て い る の は 第 二 類 本 で あ る こ と が わ か る 。 ま た 、 引 用 末 尾 の ﹁ 慶 長 二 年 七 月 十 六 日 ﹂ と い う 日 付 を 持 つ 三 巻 本 ﹃ 枕 草 子 ﹄は 、 管 見 の 限 り で は 現 存 を 確 認 す る こ と が で き な い 20 が 、 屋 代 弘 賢 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 21 ﹄ に も 同 じ 日 付 を 持 つ 三 巻 本 第 二 類 本 の 書 入 れ が 見 ら れ る こ と か ら 、 文 化 文 政 年 間 に は こ の 奥 書 を 持 つ 三 巻 本 第 二 類 本 が 何 ら か の 形 で 流 通 し て い た も の と 思 わ れ る 。 次 に 、 三 巻 本 第 二 類 の 特 徴 で あ る 巻 末 の 異 文 に つ い て 確 認 す る 。 第 二 節 で 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ 所 引 三 巻 本 に は ﹁ 奥 に 異 本 両 通 書 き 加 へ ら れ 侍 り し ﹂、 つ ま り 二 種 類 の 異 本 が 書 き 加 え ら れ て い る と 指 摘 さ れ て 一 〇

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【表2】伴直方『枕冊子考』 「攷異」所引本文の分類       ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 巻 数 ・ 丁 数 と 該 当 箇 所 の 注 記 引 用 さ れ る 本 文 ︵ 諸 本 系 統 ︶ ※ 章 段 名 は 括 弧 内 示 し た 諸 本 の 章 段 区 分 と 章 段 名 に 従 っ て い る 。 ① 第 三 九 丁 ウ   さ ま か た ち も さ は か り あ て に う つ く し き ほ と よ り は 云 々 条 ﹁ 鳥 は ﹂︵ 能 因 本 ︶ ② 第 三 廿 六 丁 ウ   は ち す の う き 葉 の ら う た け に て 云 々 の 条 ﹁ 草 は ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 ︶ ③ 第 五 卅 六 丁 オ   御 方 々 君 達 う へ 人 な と 御 ま へ に 云 々 の 条 ﹁ し き に お は し ま す こ ろ 、 八 月 余 日 の ﹂ ︵ 三 巻 本 第 二 類 本 ︶ ④ 第 六   い て 湯 は の 次 ﹁ た ら に は ﹂﹁ と き は ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 又 一 本 ︶ ⑤ 第 六   あ は れ な る も の の 条 の 次 に 入 板 本 脱 せ り ﹁ あ は れ な る も の ﹂ の 続 き ﹁ あ れ た る 家 の 蓬 ふ か く ﹂ 以 下 ︵ 三 巻 本 第 二 類 本 一 本 ︶ ⑥ 第 七 一 丁 オ   人 の め な と の す す ろ な る 物 ゑ ん し し て 云 々 の 条 の 次 ﹁ む と く な る も の ﹂ の 続 き ﹁ な ま 心 お と り し た る 人 の ﹂以 下︵ 三 巻 本 第 二 類 本 ︶ ⑦ 第 七   き よ し と 見 ゆ る も の の 条 の 次 ﹁ 夜 ま さ り す る も の ﹂﹁ 夜 お と り す る も の ﹂﹁ 日 影 に お と る も の ﹂﹁ 聞 き に く き も の ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 一 本 ︶ ⑧ 第 七   き た な け な る も の の 条 の 次 ﹁ 文 字 に か き て あ る 様 あ ら め と 心 え ぬ 物 ﹂﹁ し た の 心 か ま へ わ ろ く て き よ け に 見 ゆ る 物 ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 一 本 ︶ ⑨ 第 十 二 五 丁 ウ   を か し と 思 ひ し 哥 な と を 云 々 の 条 の 次 ﹁ 左 右 の 衛 門 の 尉 を は う 官 と い ふ 名 つ け て ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 ︶ ⑩ 第 十 二 十 丁 ウ   か ら き ぬ は の 条 の 前 に 入 ﹁ 女 の う は き は ﹂﹁ か ら き ぬ は ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 一 本 ︶ ⑪ 同 十 一 丁 オ   も ん は あ ふ ひ か た は み と 見 る 次 に 入 ﹁ も ん は ﹂ の つ づ き 、﹁ ふ て は ﹂﹁ す み は ﹂ ﹁ す す り の 箱 は ﹂﹁ か ひ は ﹂﹁ く し の 箱 は ﹂ ﹁ か か み は ﹂﹁ ま き ゑ は ﹂﹁ 火 を け は ﹂﹁ 夏 の し つ ら ひ は ﹂﹁ 冬 の し つ ら ひ は ﹂﹁ た た み は ﹂﹁ あ じ ろ は ﹂﹁ ひ ろ う け は ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 一 本 ︶ ⑫ 第 十 二 十 五 丁 ウ   ね こ の つ ち に お り た る や う に て の 次 に 入 ﹁ い ひ に く き も の ﹂ の つ づ き ﹁ 人 の か ほ に と り つ き て ﹂ 以 下 ︵ 能 因 本 ︶ ⑬ 第 十 二   見 く る し き も の の 条 の 次 ﹁ 霧 は ﹂﹁ め も あ や な る 物 ﹂﹁ め て た き も の の 人 の 名 に つ き て い ふ か ひ な く き こ ゆ る 物 ﹂、 ﹁ 見 る か ひ な き 物 ﹂﹁ ま つ し け な る 物 ﹂﹁ ほ い な き も の ﹂︵ 三 巻 本 第 二 類 本 又 一 本 ︶ ⑭ 第 十 二 卅 二 丁   此 さ う し は 云 々 の 終 り に ﹁ 左 中 将 ま た い せ の 守 と き こ え し 時 ﹂、 三 巻 本 第 二 類 本 勘 物 、 奥 書 ︵ 三 巻 本 第 二 類 本 ︶ 一 一

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い る こ と を 確 認 し た 。 こ の 二 種 の 異 本 は 、 ど ち ら も 堺 本 、 能 因 本 の い ず れ か と 本 文 を 共 有 す る こ と が ほ と ん ど で あ り 、 三 巻 本 が 異 本 と の 校 合 の 結 果 成 立 し た 本 文 で あ る こ と が よ く 分 か る 部 分 で あ る 。 三 巻 本 は 第 一 類 、 第 二 類 と も に 各 巻 末 に 異 文 を 持 つ が 、 な か で も 最 終 巻 の 巻 末 に あ る ﹁ 一 本   き よ し と み ゆ る も の の 次 に ﹂ と の 注 記 で 始 ま る 異 文 は 、 奥 書 の 直 前 に あ る こ と か ら も し ば し ば 注 目 さ れ る 箇 所 で あ る 。 さ ら に 、 第 二 類 本 は ﹁ 一 本 ﹂ の 異 文 引 用 の あ と に 、﹁ 又 一 本 ﹂ と し て さ ら に 異 文 を 引 用 す る 。﹁ 又 一 本 ﹂ 以 下 の 異 文 が 見 ら れ る の は 第 二 類 本 の み で あ り 、 ひ と つ の 特 徴 と 言 え る が 、﹁ 一 本 ﹂ が そ れ 以 前 の 本 文 と 同 様 の 字 の 大 き さ 、 行 数 で 書 か れ て い る の に 対 し 、 第 二 類 本 の み に 見 ら れ る ﹁ 又 一 本 ﹂ は 、 そ れ ま で の 本 文 よ り も 二 回 り ほ ど 小 さ い 文 字 で 書 か れ 、 行 数 も か な り 詰 ま っ て い る 。 注 記 が 本 文 化 し て い る よ う に も 見 え 、 参 照 す る 人 に よ っ て 判 断 が 分 か れ る よ う な 書 き 方 に な っ て い る 。 こ れ ら の 章 段 群 に 関 し て は 現 在 で も 捉 え 方 が 定 ま っ て い な い が 、 近 世 に お い て も 事 情 は 同 じ で あ っ た よ う だ 。﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ を 見 て み て も そ の 扱 い は 異 な り 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ は ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ は ご く 一 部 し か 本 文 と し て 採 用 し て い な い が 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ は ﹁ イ 本 の 言 葉 ﹂ と し て 両 方 の 本 文 を 最 後 に ま と め て 付 し て い る 。 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 見 て み て も 、 こ れ ら の 異 文 を 書 き 入 れ て い る も の は 多 く は な い が 、 岩 崎 美 隆 ﹃ 杠 園 抄 ﹄で は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄か ら の 引 用 と い う 形 で ﹁ 一 本 ﹂ ﹁ 又 一 本 ﹂を 引 用 す る 。 ま た 、 先 に も 述 べ た 屋 代 弘 賢 の 書 入 れ 本 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ で は 、 二 種 類 の 三 巻 本 第 二 類 本 を 参 照 し た 形 跡 が 見 ら れ る が 、 双 方 の ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を 引 用 し て い る 。 こ れ ら の こ と か ら 、 ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 研 究 す る 人 々 に と っ て 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ で 指 摘 さ れ た 証 本 で あ る 三 巻 本 第 二 類 本 に 見 ら れ る ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ は 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 を 考 え る 上 で 注 目 す べ き 点 の 一 つ で あ っ た と み て よ い だ ろ う 。 ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄﹁ 攷 異 ﹂ に 話 を 戻 し た い 。 再 び 表 二 を 見 る と 、 約 半 数 が ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂か ら の 引 用 で あ り 、﹁ 攷 異 ﹂の 目 論 見 の 一 つ に 、 三 巻 本 第 二 類 本 の ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の ど こ に 補 入 す る の か を 考 え る こ と が あ っ た こ と が 想 定 で き よ う 。 以 上 の こ と を 踏 ま え 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ が 何 に も と づ い て 異 文 を 引 用 す る の か を 改 め て 整 理 し て い き た い 。 結 論 か ら 述 べ る と 、﹁ 攷 異 ﹂ に お け る 異 文 の 引 用 は 、 次 の 三 点 に 分 類 で き る 。 ︵ ⅰ ︶﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 異 文 注 記 に 従 っ て 、 異 文 を 引 用 す る も の 。 ︵ ⅱ ︶ ﹃春 曙 抄 ﹄ の 注 記 は な い が 、 諸 本 間 の 異 同 が 大 き い 章 段 の 異 文 を 引 用 す る も の 。 ︵ ⅲ ︶ 三 巻 本 第 二 類 本 ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を ﹃ 磐 斎 抄 ﹄、 慶 安 刊 本 な ど を 参 照 し て 引 用 す る も の 。 こ れ か ら 、 そ れ ぞ れ の 異 文 の 選 択 基 準 と ﹁ 攷 異 ﹂ で 行 わ れ て い る 操 作 を 確 認 す る 。 は じ め に 、︵ ⅰ ︶﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 異 文 注 記 に 従 っ て 、 異 文 を 引 用 す る も の を 見 て い く 。 第 二 節 で も 述 べ た と お り 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ は 慶 安 刊 本 を 底 本 と し つ つ 、 三 巻 本 第 二 類 本 を 初 め と し た 様 々 な 諸 本 を 参 照 し て い る た め 、 頭 注 や 傍 注 に は し ば し ば 異 文 に 関 す る 注 が 見 ら れ る 。﹁ 攷 異 ﹂ で は そ う し た 注 記 に 基 づ き 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に は な い 異 文 を 引 用 す る 。 一 例 と し て 、 ② の ﹁ 草 は ﹂ の 段 に つ い て 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 参 照 し つ つ ﹁ 攷 異 ﹂ の 異 文 引 用 の 在 り 方 を 確 認 し た い 。 は じ め 一 二

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に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 頭 注 の 該 当 部 分 を 引 用 す る 。   お ほ き な る と ち ひ さ き と     杜 子 美 詩 、 点 渓 荷 葉 畳 青 銭 と い へ る 風 俗 に や 。 イ 本 蓮 は 万 の 草 よ り も 世 に す ぐ れ て め で た し 。 妙 法 蓮 華 の た と ひ に も 、 花 は 仏 に 奉 り 、 み は ず ゝ に つ ら ぬ き 念 仏 し て 往 生 極 楽 の 縁 と す れ ば よ 。 又 花 な き 此 み ど り な る 池 の 水 に 紅 に 咲 た る も い と を か し 。 さ れ ば 萃 扇 紅 と 詩 に も 作 り た る に ぞ 云 々             ﹁ 草 は ﹂ の 段 は 諸 本 間 の 異 同 が 大 き く 、 特 に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ で 指 摘 さ れ る 、 は ち す に 関 す る こ と を 述 べ る 箇 所 か ら の 異 同 が 大 き い こ と で 知 ら れ る 。﹃ 春 曙 抄 ﹄ で は 、﹁ 草 は ﹂ の 段 の 本 文 は 能 因 本 を 底 本 と し て い る が 、 今 見 た と お り 、 頭 注 で は 三 巻 本 第 二 類 本 の 本 文 を ﹁ イ 本 ﹂ と し て 示 し て い る 。 し か し 、 注 記 で は 本 文 の 後 半 は ﹁ 云 々 ﹂ と し て 省 略 さ れ て お り 、 全 文 を 確 認 す る こ と が で き な い 。 こ の よ う な ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 注 記 を 踏 ま え 、﹁ 攷 異 ﹂ で は 省 略 さ れ た 部 分 を 含 め た 全 体 を 引 用 す る 。   第 三 廿 六 丁 ウ   は ち す の う き 葉 の ら う た け に て 云 々 の 条   は ち す の う き 葉 万 の 草 よ り も す く れ て め て た し 、 妙 法 蓮 / 花 の た と ひ に も 花 は 仏 に 奉 り 実 は す く に 貫 き 念 / 仏 し て 往 生 の 縁 と す れ は よ 、 又 花 な き 此 み と り な る / 池 の 水 に 紅 に 咲 し 日 も い と を か し 、 翠 紅 翁 と も 詩 に つ / く り た る こ そ 、 か ら あ ふ ひ の 影 に し た か ひ て か た ふ く こ そ / 草 木 と い ふ へ く も あ ら ぬ 心 な れ 、 さ し も 草 、 八 重 む く ら / 、 あ さ ゝ 、 笹 、 つ き 草 う つ ろ ひ や す く な る こ そ う た て け れ ︵ 八 丁 オ ︶   傍 線 部 が ﹃ 春 曙 抄 ﹄ で 省 略 さ れ た 部 分 で あ る 。﹁ 攷 異 ﹂ で は 、 他 に 表 二 の ③ ⑥ ⑫ も 同 様 の 基 準 に よ っ て 異 文 を 引 用 し て い る 。 特 に ③ ﹁ し き に お は し ま す 比 八 月 十 日 ﹂ の 本 文 を 見 て み る と 、 さ ら に 工 夫 が な さ れ て い る こ と が 分 か る 。﹁ 攷 異 ﹂ の 該 当 本 文 を 引 用 す る 。   第 五 廿 六 丁   御 か た 〳 〵 君 達 う へ 人 な と 御 ま へ に 云 々 の 条   し き に お は し ま す こ ろ 八 月 十 よ 日 の 月 あ か き 夜 、 右 近 内 侍 / に 琵 琶 の い と ひ か せ て 、 は し を く お は し ま す 、 こ れ か れ も の い ひ / わ ら ひ な と す る に 物 も い は て さ ふ ら へ は 、 な と か う お と も / せ ぬ も の い へ さ う 〳 〵 し き に と 仰 せ ら る れ は 、 秋 の 月 の 心 を / 見 侍 な り と 申 せ は 、 さ も い ひ つ へ し と 仰 ら る 、 御 以 下 板 本 同 か た 〳 〵 / 君 達 う へ 人 な と 御 ま へ に 云 ゝ ︵ 八 丁 ウ ︶ こ の 章 段 は 三 巻 本 の み に 見 ら れ る も の で 、 慶 安 刊 本 を 底 本 と す る ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 本 文 に は な い が 、 注 記 で 三 巻 本 の 本 文 を 部 分 的 に 引 用 す る 。 こ こ で 文 末 の 傍 線 部 に 着 目 し た い 。 傍 線 部 は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 本 文 と 重 複 し て い る が 、 こ う す る こ と で 、﹁ 攷 異 ﹂ で 引 用 し て い る 本 文 が 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の ど こ に 入 る の か が 理 解 し や す く な っ て い る と 言 え る 。 加 え て 、 傍 線 部 の は じ め の ﹁ 以 下 板 本 同 ﹂ と い う 注 記 一 三

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か ら 、 板 本 、 つ ま り 慶 安 刊 本 に お い て も ﹁ し き に お は し ま す 比 八 月 十 日 ﹂ の 記 事 は な い が 、﹁ 御 か た 〳 〵 ﹂ 以 降 の 本 文 は あ る こ と を 示 し て お り 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ と の 対 照 だ け で は な く 刊 本 に ま で 目 配 り さ れ て い る こ と が 分 か る 。 次 に 、︵ ⅱ ︶﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 注 記 は な い が 、 諸 本 間 の 異 同 が 大 き い 章 段 の 異 文 を 引 用 す る も の に は 、 ① ﹁ 鳥 は ﹂ の 段 と ⑨ ﹁ 左 右 の 衛 門 の 尉 の 判 官 と い う 名 つ け て ﹂ の 段 の 二 箇 所 が 該 当 す る 。 こ こ で は 本 文 の 具 体 的 な 検 討 は 省 略 す る が 、 こ れ ら は 直 方 自 身 が 直 接 諸 本 の 比 較 検 討 を 行 わ な け れ ば 気 づ く こ と が で き な い も の で あ り 、 直 方 が ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ を は じ め 、 複 数 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 を 参 照 し て い る こ と を 裏 付 け る も の と 言 え よ う 。 最 後 に 、︵ ⅲ ︶ 三 巻 本 第 二 類 本 ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を ﹃ 磐 斎 抄 ﹄、 刊 本 な ど を 参 照 し て 引 用 す る も の に つ い て 確 認 す る 。 先 に 述 べ た と お り 、﹁ 攷 異 ﹂ は 、﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を ﹃ 春 曙 抄 ﹄ 内 に 組 み 込 む こ と を ひ と つ の 目 的 と し て い る と 判 断 で き る と こ ろ が あ り 、 部 分 的 に で も ﹃ 春 曙 抄 ﹄ と ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ の 本 文 が 重 な る 場 合 に は 、 そ こ に ﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ の 本 文 を 挿 入 で き る も の と 判 断 し 、 異 文 を 引 用 す る 。 一 例 と し て 、 ⑪ ﹁ も ん は ﹂ の 段 を 見 て い き た い 。 は じ め に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 引 用 す る 。       も ん は イ あ や の も ん は   あ ふ ひ   か た は み     夏 う す も の 。 か た つ か た の ゆ だ け き た る ひ と こ そ に く け れ ど 、   ︵ 後 略 ︶    一 見 し て 分 か る よ う に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄﹁ も ん は ﹂ の 段 の 本 文 は 傍 線 部 ﹁ あ ふ ひ 、 か た ば み ﹂ の み で あ る 22 。 ま た 、 章 段 名 の 右 下 に は 波 線 部 ﹁ イ あ や の も ん は ﹂ と あ り 、 異 本 で は 章 段 名 が 異 な る こ と が 示 さ れ て い る 。 三 巻 本 第 二 類 本 ﹁ 一 本 ﹂ の ﹁ あ や の も ん は ﹂ を 引 用 す る 。   あ や の も ん は あ ふ ひ か た あ み あ ら れ ち   う す や う し き し は し ろ き む ら さ き あ か き か り や す そ め あ を き も よ し 傍 線 部 に ﹁ あ ら れ ち ﹂ と い う 語 が あ り 、 さ ら に ﹁ あ や の も ん は ﹂ の 段 に 続 く 本 文 も ﹁ う す や う し き し は ﹂ と な る こ と か ら も 明 ら か な よ う に 、 三 巻 本 第 二 類 本 と ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 本 文 と は 異 な っ て い る 。 ﹃ 春 曙 抄 ﹄ が ﹁ あ や の も ん は ﹂ と い う 章 段 名 の 異 同 を 示 し た こ と を 根 拠 に 、﹁ 攷 異 ﹂ で は 三 巻 本 第 二 類 本 ﹁ 一 本 ﹂ を 以 下 の よ う に 引 用 す る 。   同 十 一 丁 オ   も ん は あ ふ ひ か た は み と 見 る 次 に 入   あ ら れ 地   ○ う す や う し き し は 、 し ろ き   紫   赤   か り や す / そ め   青 き も よ し ︵ 十 一 丁 オ ︶ ﹁ 攷 異 ﹂ で は 、 傍 線 部 に あ る よ う に 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ と の 異 同 箇 所 で あ る ﹁ あ ら れ 地 ﹂ の み を 引 用 す る 。 さ ら に 、 章 段 の 区 切 れ 目 を 指 す 丸 印 を 付 し て 、﹁ う す や う し き し は ﹂ を 別 段 と し て 示 し て い る 。 こ の よ う に 、﹁ 攷 異 ﹂ は で き る だ け ﹁ 一 本 ﹂ の 本 文 を ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の な か に 組 み 込 も う と す る が 、 そ れ が で き な い 本 文 に 関 し て は 、 表 一 四

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二 の ⑦ に あ る よ う に 、 三 巻 本 第 二 類 本 の ﹁ 一 本 ﹂ の 頭 に あ る ﹁ き よ し と み ゆ る も の の 次 に ﹂ と い う 注 記 を 根 拠 と し て 、 ま と め て 本 文 を 載 せ る 。﹁ 又 一 本 ﹂ に つ い て も 、 挿 入 で き る 場 所 が 確 定 で き な い 場 合 に は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 最 後 の 章 段 で あ る ﹁ 見 苦 し き も の ﹂ の 段 の 後 に ま と め て い る ︵ 表 二 ⑬ ︶。 ま た 、 ⑩ ﹁ か ら き ぬ は の 条 の 前 に 入 ﹂と い う 注 記 が あ る 部 分 に は 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄に 関 す る 注 記 も 見 ら れ る 。 該 当 箇 所 を 引 用 す る 。   第 十 二 十 丁 ウ か ら き ぬ は の 条 の 前 に 入       女 の う は き は ︵ 朱 ︶ 以 下 万 歳 本 同   う す 色   ゑ ひ 染   も ゑ き   さ く ら   紅 梅   す へ て 薄 色 の た く ひ       か ら き ぬ は   あ か い ろ   ふ ち   夏 は ふ た あ ひ   秋 は か れ 野 傍 線 部 ﹁ 以 下 万 歳 本 同 ﹂ と あ る が 、 こ の 注 記 は ﹁ 女 の う は ぎ は ﹂ ﹁ か ら き ぬ は ﹂ の 段 は 、 い ず れ も ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ に は 本 文 と し て 採 用 さ れ て い る こ と を 意 味 す る と 思 わ れ る 。 こ の こ と か ら 、 先 ほ ど の 慶 安 刊 本 の 注 記 と 同 様 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ と の 本 文 の 異 同 も 確 認 で き る よ う に な っ て い る こ と が 分 か る 。 以 上 、﹁ 攷 異 ﹂ の 異 文 引 用 の 在 り 方 を 具 体 的 に 検 討 し 、 以 下 の 点 が 明 ら か に な っ た こ と と 思 う 。 一 点 目 は 、﹁ 攷 異 ﹂ は 全 体 を 通 し て ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 該 当 巻 数 、 丁 数 順 に 異 文 を 示 し 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 異 文 注 記 を 踏 ま え た 異 文 引 用 が な さ れ る な ど 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ い て 異 同 の 大 き な 箇 所 を 参 照 で き る よ う に 構 成 さ れ て い る こ と 。 二 点 目 は 、﹁ 一 本 ﹂﹁ 又 一 本 ﹂ を 含 め て 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ で 証 本 と さ れ る 三 巻 本 第 二 類 本 を 重 視 し 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 該 当 箇 所 へ 挿 入 す る こ と で ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 本 文 を 捉 え 直 そ う と す る 傾 向 が 見 い だ せ る こ と 。 そ し て 三 点 目 は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ と 三 巻 本 第 二 類 本 の 単 純 な 比 較 に 留 ま ら ず 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ や 慶 安 刊 本 と の 異 同 も 合 わ せ て 示 し 、 当 時 流 通 し て い た 刊 本 を よ り 広 範 に 確 認 で き る こ と 。 今 挙 げ た ﹁ 攷 異 ﹂ の 特 質 は 、﹁ 目 録 ﹂ も 含 め た 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ の 本 文 に 関 わ る 部 分 の 性 質 を わ か り や す く 説 明 す る も の で あ る と 言 え る だ ろ う 。﹃ 春 曙 抄 ﹄﹃ 磐 斎 抄 ﹄ が 証 本 と す る 三 巻 本 第 二 類 本 は 、 当 時 写 本 の み で 流 通 し て お り 、 文 化 文 政 年 間 の 多 く の 人 々 に と っ て 、 簡 単 に 目 に 触 れ る も の で は な か っ た こ と が 想 定 で き る 。﹁ 攷 異 ﹂ は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に な い 三 巻 本 第 二 類 本 の 情 報 を 補 い 、 か つ 他 の 刊 行 さ れ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ の 注 付 き テ キ ス ト や 慶 安 刊 本 な ど と を 一 冊 で 比 較 で き る 非 常 に 利 便 性 の 高 い ﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 副 読 本 で あ る と 言 え る 。 ま た 同 時 に 、 こ う し た ﹁ 攷 異 ﹂ の あ り 方 は 、 当 時 の ﹃ 枕 草 子 ﹄の 本 文 の 情 報 を 集 成 し た 、 優 れ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 研 究 の 成 果 と し て も 評 価 で き る だ ろ う 。   おわりに 本 稿 で は 、 近 世 後 期 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ に 関 す る 情 報 を 集 成 し た 書 物 で あ る﹃ 枕 冊 子 考 ﹄の う ち 、﹁ 目 録 ﹂﹁ 攷 異 ﹂に つ い て 検 討 し て き た 。﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ は 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ に も と づ い て 、 証 本 と し て の 三 巻 本 第 二 類 本 を 中 心 的 に 参 照 し 、 情 報 を 補 う と 共 に 、﹃ 磐 斎 抄 ﹄ や 慶 安 刊 本 な ど 、 当 時 流 通 し て い た 刊 行 さ れ た ﹃ 枕 草 子 ﹄ テ キ ス ト と の 対 照 が 可 能 に な る も の で あ っ た 。 こ う し た ﹃ 枕 冊 子 考 ﹄の 性 質 は 、 本 書 が ﹃ 枕 一 五

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草 子 ﹄ 学 習 者 に む け ら れ た 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ の 補 助 テ キ ス ト で あ る こ と を 示 し て い る と 言 え る だ ろ う 。 ま た 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ が 証 本 と す る に ふ さ わ し い と 述 べ る 三 巻 本 第 二 類 本 を 多 く 引 用 す る こ と は 、 文 化 文 政 年 間 に お い て も 、﹃ 枕 草 子 ﹄ を 読 む こ と は ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 読 む こ と で あ っ た こ と を 改 め て 示 し て い る と 言 え る 。 た だ し 、 同 時 に ﹃ 春 曙 抄 ﹄ を 相 対 化 す る 流 れ も 生 ま れ つ つ あ っ た こ と も う か が え る こ と は 重 要 で あ る 。 こ う し た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 本 文 へ の 興 味 の あ り 方 は 、﹃ 枕 草 子 ﹄ が 証 本 を 持 た ず 、 か つ 多 く の 諸 本 を 持 つ こ と に 起 因 す る が 、 人 々 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ に 対 す る 大 き な 関 心 事 と し て 諸 本 を 巡 る 問 題 が あ っ た こ と が 改 め て 確 認 で き た こ と と 思 う 。 今 後 は 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ の 後 半 部 ﹁ 枕 さ う し と 名 つ け し 事 ﹂﹁ 清 少 納 言 の 事 跡 ﹂ も 含 め て 、﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ が ﹃ 枕 草 子 ﹄ の ど の よ う な 問 題 に 応 え う る 書 物 で あ っ た の か を 明 ら か に し て い き た い 。﹃ 枕 草 子 ﹄ の 注 釈 書 の 中 に は 、﹃ 枕 草 子 ﹄ 読 解 の た め で は な く 、 他 の 古 典 作 品 の 読 解 や 、 故 実 な ど の 理 解 の た め に ﹃ 枕 草 子 ﹄ を 資 料 と し て 活 用 す る も の も 少 な く な い 。 こ う し た ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 の 性 格 も 踏 ま え 、 各 注 釈 書 の 個 別 の 検 討 を 進 め る こ と で 、 近 世 後 期 ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 史 を 捉 え 直 し て い き た い 。 ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 、﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ を 参 照 す る 際 に は 、 次 の テ キ ス ト を 用 い た 。 ﹃ 枕 草 子 ﹄ 諸 本 ・ 杉 山 重 行 編 著﹃ 三 巻 本 枕 草 子 本 文 集 成 ﹄︵ 一 九 九 九 年 、 笠 間 書 院 ︶ ・ 根 来 司 編 著 ﹃ 新 校 本 枕 草 子 ﹄︵ 一 九 九 一 年 、 笠 間 書 院 ︶ ・ 速 水 博 司 ﹃ 堺 本 枕 草 子 評 釈 ﹄︵ 一 九 九 〇 年 、 有 朋 堂 ︶ ・ 田 中 重 太 郎 編 著 ﹃ 校 本 枕 冊 子 ﹄︵ 一 九 六 九 ∼ 一 九 七 四 年 、 古 典 文 庫 ︶﹁ 江 戸 の 三 註 ﹂ ・ 加 藤 磐 斎 ﹃ 清 少 納 言 枕 草 紙 抄 ﹄︵ 延 宝 二 年 ︹ 一 六 七 四 ︺︶ ︵﹃ 國 文 注 釋 全 書   第 四 巻 ﹄ 一 九 六 七 年 、 す み や 書 房 ︶ ・ 北 村 季 吟 ﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄︵ 延 宝 二 年 ︹ 一 六 七 四 ︺︶ ︵ 北 村 季 吟 標 註 ・ 岩 崎 美 隆 旁 註 ﹃ 枕 草 子 古 註 釈 大 成   枕 草 子 春 曙 抄 ︹ 杠 園 抄 ︺﹄ 一 九 七 八 年 、 日 本 図 書 セ ン タ ー ︶ ・ 岡 西 惟 中 ﹃ 枕 草 子 旁 註 ﹄︵ 天 和 元 年 ︹ 一 六 八 一 ︺︶ ︵﹃ 枕 草 子   古 註 釈 大 成   枕 草 子 傍 註   他 三 編 ﹄ 一 九 七 八 年 、 日 本 図 書 セ ン タ ー ︶ ※ 引 用 に 際 し て は 板 本 も 参 照 し 、 稿 者 が 適 宜 改 め た 。   ︵ 1 ︶ 島 内 裕 子﹁ 解 説 ﹂︵﹃ 枕 草 子 ﹄上 下 、 二 〇 一 七 年 四 月 、 筑 摩 書 房 ︶ ︵ 2 ︶ 九 州 大 学 附 属 図 書 館 蔵 ﹃ 枕 草 紙 考 ﹄︵ 請 求 記 号 五 五 一 マ 一 四 ︶、 相 愛 大 学 図 書 館 春 曙 文 庫 蔵 ﹃ 春 曙 抄 ﹄︵ 請 求 記 号 春 三 三 三 ︶ な ど が あ る 。 一 六

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︵ 3 ︶ ﹃ 春 曙 抄 ﹄ に 関 す る 先 行 研 究 と し て は 、 野 村 貴 次 ﹃ 北 村 季 吟 古 註 釋 集 成 解 説   季 吟 本 へ の 道 の り ﹄︵ 一 九 八 三 年 、 新 典 社 ︶ を 初 め と し て 、 近 年 で は 沼 尻 利 通 ﹁﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄ の 章 段 区 分 方 法 ﹂︵ ﹃ 日 本 文 学 ﹄ 六 十 六 ︱ 六 、二 〇 一 七 年 六 月 ︶ や 、 宮 川 真 弥 に よ る ﹁ 板 本 ﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄ の 諸 本 系 統

板 木 の 利 用 状 況 の 考 察 を 中 心 に ﹂︵ ﹃ 語 文 ﹄ 第 九 十 九 号 、 二 〇 一 二 年 十 二 月 ︶ を 初 め と し た 一 連 の 論 考 な ど が 挙 げ ら れ る 。 ︵ 4 ︶ ﹃ 枕 草 子 古 註 釈 大 成   枕 草 子 春 曙 抄 ︹ 杠 園 抄 ︺﹄ ︵ 一 九 七 三 年 、 日 本 図 書 セ ン タ ー ︶ ︵ 5 ︶ 亀 井 森 は ﹁ 近 世 後 期 ﹃ 枕 草 子 ﹄ 研 究 一 斑 ﹂︵ ﹃ 雅 俗 ﹄ 第 一 一 号 、 二 〇 一 二 年 六 月 ︶で 、 書 簡 も 含 め て 岩 崎 美 隆 の ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 活 動 を 幅 広 く 検 討 し 、 岩 崎 が 新 し い ﹃ 枕 草 子 ﹄ 注 釈 書 の 出 版 を も く ろ ん で い た こ と を 明 ら か に し て い る 。 ︵ 6 ︶ 国 文 学 研 究 資 料 館 の 日 本 古 典 籍 目 録 総 合 デ ー タ ベ ー ス に よ れ ば 、 現 存 伝 本 は 五 本 で 、 九 州 大 学 附 属 図 書 館 本 、 東 海 大 学 付 属 図 書 館 桃 園 文 庫 本 、 東 京 大 学 附 属 図 書 館 本 、 東 北 大 学 附 属 図 書 館 本 、 相 愛 大 学 図 書 館 春 曙 文 庫 本 が あ る 。 諸 本 の 関 係 に つ い て は 別 稿 に て 詳 し く 述 べ る が 、 調 査 の 結 果 、 九 州 大 学 附 属 図 書 館 本 が 流 布 本 的 な 性 格 を 持 っ て い る と 稿 者 は 考 え て い る 。 従 っ て 本 稿 で は こ れ を 底 本 と し て 引 用 し て い る 。 引 用 に 際 し て は 、 朱 書 き は 行 頭 に ︵ 朱 ︶ で 、 改 行 は / で 示 し て い る 。 ︵ 7 ︶ 東 北 大 本 、 相 愛 大 本 が 新 写 本 で あ る 。 ︵ 8 ︶ 小 川 陽 子 ﹁ 和 学 者 た ち の 物 語 研 究 ﹂︵ 陣 野 英 則 ・ 横 溝 博 編 ﹃ 平 安 文 学 の 古 注 釈 と 受 容 ﹄ 第 一 集 、 二 〇 〇 八 年 九 月 、 武 蔵 野 書 院 ︶ ︵ 9 ︶ 森 潤 三 郎 ﹁ 伴 直 方 傳 の 研 究 ﹂︵ 傳 記 學 會 編 ﹃ 国 学 者 研 究 ﹄ 一 九 四 三 年 、 北 海 出 版 社 ︶ ︵ 10︶ 田 亀 鑑 ﹁ 春 曙 抄 以 後 の 枕 草 子 異 本 研 究 ﹂︵ ﹃ 国 語 と 国 文 学 ﹄ 第 五 巻 第 一 号 、 一 九 二 八 年 一 月 ︶ ︵ 11︶ 中 重 太 郎 ﹃ 清 少 納 言 枕 冊 子 研 究 ﹄︵ 一 九 七 一 年 、 笠 間 書 院 、 三 二 六 頁 ︶ ︵ 12︶ 木 知 太 郎 ﹁ 枕 草 子 諸 版 本 の 本 文 の 成 立

特 に 慶 安 刊 本 、 盤 斎 抄 、 春 曙 抄 、 旁 註 本 に つ い て

﹂︵ 鈴 木 知 太 郎 ﹃ 平 安 時 代 文 学 論 叢 ﹄ 一 九 六 八 年 、 笠 間 書 院 ︶ ︵ 13︶ 尻 利 通 ﹁﹃ 清 少 納 言 枕 草 子 抄 ﹄ と ﹃ 枕 草 子 春 曙 抄 ﹄ の 本 文 ﹂ ︵ 小 森 潔 ・ 津 島 知 明 編 ﹃ 枕 草 子   創 造 と 新 生 ﹄︵ 二 〇 一 一 年 、 翰 林 書 房 ︶ ︵ 14︶ 々 木 孝 浩 ﹁ 定 家 本 と し て の 枕 草 子 ﹂︵ ﹃ 日 本 古 典 書 誌 学 論 ﹄ 二 〇 一 六 年 、 笠 間 書 院 。 初 出 は ﹁ 定 家 本 と し て の ﹃ 枕 草 子 ﹄

安 貞 二 年 奥 書 の 記 主 を め ぐ っ て

﹂ 谷 知 子 ・ 田 渕 句 美 子 編 ﹃ 平 安 文 学 を い か に 読 み 直 す か ﹄ 二 〇 一 二 年 、 笠 間 書 院 ︶ に お い て 、﹁ 耄 及 愚 翁 ﹂ が 藤 原 定 家 を 指 す も の で あ る こ と が 実 証 さ れ た 。 ︵ 15︶ 掲 注 ︵ 13︶ に よ る 。 ︵ 16︶ 旁 註 ﹄ は ﹃ 磐 斎 抄 ﹄ と 比 し て 流 通 量 が 少 な か っ た よ う で 、﹃ 春 曙 抄 ﹄ へ の 書 入 れ も 少 な い 。﹃ 枕 冊 子 考 ﹄ に お い て も 、 本 文 で は な く 上 欄 に 朱 筆 で 書 入 れ ら れ て お り 、 手 に 入 り に く 一 七

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