国際学術研究カンファレンス (IDE conference
2015) -- 開催報告
著者
有本 寛
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
236
ページ
39-41
発行年
2015-05
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003214
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アジ研ワールド・トレンド No.236(2015. 6) アジア経済研究所では、所内外 の研究者等の参加による幅広い学 術交流を目的として、国際学術研 究カンファレンス IDE Conference 2015 を二〇一五年一月二〇日に開 催しました。今回は、開発経済学、 労働経済学の分野において世界的 に著名な研究者の一人であり、二 〇一四年に労働経済学分野におけ る 最 高 栄 誉 で あ る IZA Prize in Labor Economics を 受 賞 さ れ た コーネル大学のゲリー・フィール ズ( Gary Fields ) 教 授 を 招 聘 し、 開発途上国における労働と雇用を テーマにして研究報告と討論を行 いました。カンファレンス全体の 模様は本誌の四月号ですでにお伝 えしたとおりですが、本稿では、 フ ィ ー ル ズ 教 授 の 基 調 講 演 “A Theoretical Model of the Chinese Labor Market ”( Yang Song 氏 と の共著)の概要を少し詳細にご紹 介します。 ● は じ め に 多くの場合、途上国を巡る労働 政策は理論モデルなしに議論され ている。途上国の労働市場につい て、有名な Harris and Todaro モ デル(HTモデル)が登場して五 〇年以上がたつが、この間モデル は高く評価され様々に拡張、応用 されてきた。私自身もHTモデル を拡張した論文を一九七五年に発 表した。HTモデルの成功から得 られる重要な教訓のひとつは、途 上 国 の 労 働 市 場 は、 教 科 書 的 な 「 労 働 市 場 」 と は 違 っ て お り、 そ の社会経済のコンテクストに沿っ たモデルを構築する重要性を明ら かにしたことである。実際にHT のモデルはケニアの状況を念頭に 置いている。 この論文では、中国の労働市場 の特殊性を踏まえて理論モデルを 構築し、いくつかの労働市場政策 について、経済厚生の観点から評 価を試みた。中国では都市と農村 の格差が深刻化しており、農村か ら都市への出稼ぎも活発である。 最新の統計では、都市部の一人あ たりの実質年間収入は二万三五六 四元に対して、農村では七九一六 元でしかない。このような格差を 前提に、二〇一二年には二億六〇 〇〇万人の労働者が農村部から都 市部へと移住したと推計されてい る。しかし一方で、都市で労働不 足が深刻化し、賃金が農村に比べ て数倍にまで高まっているにもか かわらず、依然、農村戸籍保持者 の多くが農村に留まり、貧しい暮― 開 催 報 告 ―
らしを続けている。本論文が取り 上げたのがこのパズルである。 中国の労働市場について、大き く二つの特徴を挙げることができ る。第一は、労働市場が農村と都 市、および都市内部でも国有企業 と民間企業に分断されていること だ。労働市場が分断されていると は、⑴労働者が同じような(教育 水準等の)人的資本を持つにもか かわらず、ある市場では別の市場 よりもよい労働条件(例えば給与 水準)を享受できること、⑵より よい条件の雇用が制約されている こと(つまり、よりよい条件の雇 用に就くための条件を満たしてい るにもかかわらず、働き口が過少国際学術研究カンファレンス
(IDE Conference 2015)
有本 寛
アジ研ワールド・トレンド No.236(2015. 6)
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であること)を指す。現在の中国 の労働市場は、この意味において、 ⑴都市部の国有企業部門、⑵都市 部の民間企業部門、そして⑶農村 部、の三つの労働市場に分断され ている。 中国の労働市場を際立たせる、 い ま ひ と つ の 特 徴 は、 戸 籍 制 度 ( hukou ) で あ る。 中 国 の 戸 籍 制 度は、中国で生まれた個人に対し て、生まれた場所に紐づけられた 農村または都市の戸籍を与え、こ の戸籍は原則一生変わることはな い。この戸籍制度は、生まれた場 所から離れて働くことを禁じてい ない。ただし、農村戸籍保持者が 都市で働く場合、都市政府が提供 する公共サービスへのアクセスが 閉ざされたり、国有企業への就職 にあたって差別的な扱いを受けた りすることがある。 ● 中 国 の 労 働 市 場 の モ デ ル モデルは、現在の中国の労働市 場 を、 二 地 域( 都 市 と 農 村 )・ 三 セクター(都市=国有、都市=民 間、農村)で描写する。 都 市 = 国 有 セ ク タ ー で は、 政 治 的 な 理 由 等 に よ り、 ほ か の セ ク タ ー に 比 べ て 高 い 賃 金 が、 外 生 的 に 決 め ら れ、 支 払 わ れ て い る。 賃 金 は 市 場 均 衡 水 準 よ り も 高 く 設 定 さ れ て い る の で、 求 職 者 が 全 員 雇 用 さ れ る こ と は な く、 「 割 当 」 が 生 じ て い る。 ま た、 都 市 = 国 有 セ ク タ ー の 雇 用 者 は、 農 村 戸 籍 を 持 つ 出 稼 ぎ 労 働 者 を 差 別 し て い る と す る。 同 じ 人 的 資 本 を 持 っ て い た と し て も、 農 村 戸 籍 保 持 者 は、 都 市戸籍保持者よりも低い賃金が支 払われ、雇用される確率も低い。 一方、都市=民間セクターは完全 競争的で、賃金は戸籍に関係なく、 労働者の生産性に応じて、市場均 衡水準で決まる。最後に、農村セ クターは、基本的には自営農業で あり、外生的な農業賃金を得るこ とができる(農村の工業部門は、 本分析では捨象されている) 。 労働者は、期待される可処分収 入を最大化するように、どこ(農 村 vs.都市)で職を求めるかを決め る。農村戸籍保持者について考え ると、都市で職から得られる期待 収入から、居住費用を差し引いた 期待可処分所得が、農村に留まる ときに得られる可処分所得よりも 高ければ、彼らは都市へ出稼ぎに 行く。ただし、農村戸籍保持者は 平均的にみて都市戸籍保持者より 教育水準が低く、労働生産性も劣 ると考えられるため、支払われる 賃金は都市戸籍保持者よりも低い。 また、先述したように国有企業部 門では雇用に差別的な扱いがある ため、雇用される確率も下がる。 それでも、都市の二つのセクター では、農村で働くより高い期待賃 金を得られるだろう。しかし、都 市では農村に留まるときと比べて、 プログラム ⃝開会挨拶 白石 隆(アジア経済研究所所長)⃝ 基調講演 Gary Fields(コーネル大学)“A Theoretical Model of the Chinese Labor Market”
⃝第1セッション(座長:石田正美(アジア経済研究所))
報 告 1 山 内 慎 子( 政 策 研 究 大 学 院 大 学 )“Heterogeneity in the Eff ect of Grants for Loans on Rural Poverty: Evidence from Indonesia's Community-Based Development Program”
(討論者:雷蕾(アジア経済研究所))
報 告 2 坂 田 正 三( ア ジ ア 経 済 研 究 所 )“Innovation in Informal Sector?: Changes in Production Mode and Impact on Labor in Vietnam”
(討論者:谷本 雅之(東京大学))
報告3 高野久紀(京都大学)“Using DVD Lectures to Improve Access to University Education in Rural Bangladesh”
(討論者:工藤友哉(アジア経済研究所)) ⃝第2セッション(座長:鍋嶋薫)
報告4 ミラ・カシチーバ(アジア経済研究所)“International Patenting by Chinese Residents: Constructing a Database of Chinese Foreign-oriented Patent Families”
(討論者:伊藤亜聖(東京大学))
報告5 福西隆弘(アジア経済研究所)“Garment Workers after the Political Turmoil in Madagascar: Employment, Income and Consumption”
(討論者:Andrew Griff en(東京大学))
報告6 澤田康幸(東京大学)“Incentives and Social Preference: Experimental Evidence from a Traditional Labor Contract”
(討論者:牧野百恵(アジア経済研究所)) ⃝クロージング・セッション
⃝閉会