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子どもの体力向上を支援する「新・分析支援システム」の開発と小学校体育科における「体つくり運動」の実践

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1.実践研究の背景と目的 小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説体育編(文 部科学省,2018)では,児童の運動や体力の課題として, 運動に対しての二極化傾向が見られることや,体力水準 が高かった頃と比較すると依然として児童の体力が低い 状況が見られること等が挙げられている。加えて,これ らの課題に対して,「体育科において基礎的な身体能力 の育成を図るとともに,運動系のクラブ活動,運動会, 遠足や集会などの特別活動や教育課程外の学校教育活動 を相互に関連させながら,学校教育活動全体として効果 的に取り組むことが求められている」と述べられている。 体育科「体つくり運動」の授業の現状として,教員は 「体つくり運動」の重要性は認識しているが,単元とし て実施しにくいと感じており,その指導が曖昧になって いることが指摘されている(細江ほか,2011;渡部, 2014; 深 谷 ほ か,2016; 高 田,2017; 南・ 池 田, 2018)。この課題に対して,小学校学習指導要領解説体 育編(文部科学省,2018)では,体育・健康に関する 指導を効果的に進めるためには,全国体力・運動能力, 運動習慣等調査などを用いて児童の体力や健康状態等を 的確に把握し,学校や地域の実態を踏まえて計画的,継 続的に指導することや運動領域と保健領域との関連を図 る指導をすることが求められている。これらのことから, 新体力テストの結果を分析したことを基に,体育科の授 業と教育課程外の学校教育活動を関連させて,体育・健 康に関する指導に取り組む必要がある。 滋賀県の全国体力・運動能力,運動習慣等調査(滋賀 県教育委員会,2018)において,新体力テストの体力 合計点は,年々上昇傾向にあるが,全国平均と比較する と平成 29 年度も低い値であった。児童質問紙の調査に おいて,「運動やスポーツをすることは好き」「体育の授 業は楽しい」と好意的に答えた児童の割合は,小学校男 女ともに全国平均より低く,運動に取り組もうとする意 識が低いことが示された。また,1 週間の総運動時間数 が全国平均と比べて短く,運動習慣の定着が不十分であ る。滋賀県総合教育センター(2014)では,平成 26 年度の研究で「分析支援システム」を作成し,新体力テ ストの結果から児童の体力の課題を分析し,その課題に 応じた体力向上のための運動(遊び)の取組例を取得で きるようにした。しかし各校では,児童の体力の課題を 踏まえた体育科の各運動領域の授業改善や「健やかタイ ム」注 1)の計画に苦心することが多く,「分析支援シス テム」が十分に活用されていないことがうかがえる。指 導者が児童の体力向上に向けての取組を実践するには, どのような運動にどのように親しませながら体力向上を 図るかという見通しをもつことが大切であることから, 「分析支援システム」を改良するとともに,よりよい活 用方法を具体的に示す必要がある。特に,体育科の授業 では,直接的に体力を高めることをねらいとする体育科 の「体つくり運動」の授業に着目する必要がある。 そこで本研究では,指導者が学校や学級,さらには個 人の体力について課題を把握するための新体力テスト 「分析支援システム」を開発し,その課題の解決を図る ためのプログラムを作成するとともに,その実践化を図 ることを目的とした。 2.研究の方法 2.1 本研究で着目する体力 新体力テストは,体力・運動能力を測定する 8 項目 で構成されており,項目ごとに対応する体力要素がある。 本研究では,児童の体力向上をねらい, 新体力テストの 各項目における体力要素に着目する。学習指導要領解説 では,体育科の「体つくり運動」について,「低・中学 年の『多様な動きをつくる運動(遊び)』では,他の領

小学校体育科における「体つくり運動」の実践

Development of New Analysis Support Systems for Improving Physical Fitness and

Practice of Physical Fitness in Elementary School Physical Education

大坪臨太郎

Rintaro OTSUBO

  延浩

**

Nobuhiro TSUJI

杉谷 輝行

***

Teruyuki SUGIYA

山田 淳子

****

Junko YAMADA

*高島市立高島小学校 **滋賀大学大学院教育学研究科 ***滋賀県教育委員会 ****滋賀大学教育学部 < キーワード> 小学校体育科 体力向上 体つくり運動 分析支援システム

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表 1 体育科の「体つくり運動」の領域の構成 ప࣭୰Ꮫᖺ ࠙య࡯ࡄࡋࡢ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧ࠚ  ㄡࡶࡀᴦࡋࡵࡿᡭ㍍࡞㐠ື(㐟ࡧ) ࢆ㏻ࡋ࡚㐠ືዲࡁ࡟࡞ࡿ  ࡡࡽ࠸  ࠐ⮬ᕫࡢᚰ࡜య࡜ࡢ㛵ಀ࡟ Ẽ௜ࡃ  ࠐ௰㛫࡜஺ὶࡍࡿ ࠙ከᵝ࡞ືࡁࢆࡘࡃࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧ࠚ ௚ࡢ㡿ᇦ࡟࠾࠸࡚ᢅࢃࢀ࡟ࡃ࠸యࡢᵝࠎ࡞ືࡁࢆྲྀࡾୖ ࡆ㸪ࡑࡢ⾜࠸᪉ࢆ▱ࡿ࡜࡜ࡶ࡟㸪㐠ື㸦㐟ࡧ㸧ࡢᴦࡋࡉࢆ࿡ࢃ ࠸࡞ࡀࡽయࡢᇶᮏⓗ࡞ືࡁࢆᇵ࠺ ࠐయࡢࣂࣛࣥࢫࢆ࡜ࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐయࢆ⛣ືࡍࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐ⏝ලࢆ᧯సࡍࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐຊヨࡋࡢ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 㧗Ꮫᖺ ࠙యࡢືࡁࢆ㧗ࡵࡿ㐠ືࠚ ప࣭୰Ꮫᖺࡢࠕከᵝ࡞ືࡁࢆࡘࡃࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧ࠖ࡟࠾࠸࡚⫱ ࡲࢀࡓయࡢᇶᮏⓗ࡞ືࡁࢆᇶ࡟㸪ྛ✀ࡢືࡁࢆ᭦࡟㧗ࡵࡿࡇ࡜ ࡟ࡼࡾయຊࡢྥୖࢆ┠ᣦࡍ ࠐయࡢᰂࡽ࠿ࡉࢆ㧗ࡵࡿࡓࡵࡢ㐠ື ࠐᕦࡳ࡞ືࡁࢆ㧗ࡵࡿࡓࡵࡢ㐠ື ࠐຊᙉ࠸ືࡁࢆ㧗ࡵࡿࡓࡵࡢ㐠ື ࠐືࡁࢆᣢ⥆ࡍࡿ⬟ຊࢆ㧗ࡵࡿࡓࡵࡢ㐠ື                                 図 1 新体力テスト「新・分析支援システム」の全体像の構想

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域において扱われにくい体の様々な動きを取り上げ,そ の行い方を知るとともに,運動(遊び)の楽しさを味わ いながら体の基本的な動きを培う」とある。また,高学 年では「低・中学年の『多様な動きをつくる運動(遊び)』 において育まれた体の基本的な動きを基に,各種の動き を更に高めることにより体力の向上を目指す」とある。 表 1 の体育科の「体つくり運動」の領域の構成から,こ の領域に関わる体力要素が多く,体力向上に果たす役割 は大きいと考える。このことから,本研究では児童の体 力向上が大きく期待される高学年の体育科の「体つくり 運動」の「体の動きを高める運動」の領域に着目して研 究を進める。 2.2 新体力テスト「新・分析支援システム」における 全体の構想 本研究で改善する新体力テスト「新・分析支援システ ム」(図 1)は,体力向上策の見通し,新体力テストの 結果の分析,体力の課題に応じた運動(遊び)のプログ                                  図 2 児童の体力向上ロードマップ                                  図 3 「新体力テスト分析シート」でA学級の体力のデータを提示するまでの流れ ラム,コンテンツの提示という構成とし,システムのトッ プページから各内容に移動できるようにする。従来の「分 析支援システム」は,利用マニュアルによって,児童の 体力の分析資料と,新体力テストの項目に応じた運動(遊 び)の例を選択できる。しかし,課題である体力に着目 して,体育科の授業でどの運動にどのように取り組むの かという見通しをもつことが難しかった。そこで本研究 では,体力向上策を見通すためのロードマップを作成す る。また,「分析支援システム」の内容を体力要素に応 じてまとめるとともに,体育科の「体つくり運動」の授 業プログラムを開発する。 2.3 体力向上の見通しをもつことができる 「児童の体 力向上ロードマップ」 「 児童の体力向上ロードマップ 」(図 2)は,本研究に おける体力向上策の四つの段階を示す。まず,指導者が 新体力テストの結果の分析を行い,児童の体力の課題を 把握する。次に,児童の体力の課題に応じて体力向上策

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を計画し,実施する。そして,学習した運動を体育科の 他領域や体育科以外で取り組む等,学んだことを活用す る場面を設定する。このように「児童の体力向上ロード マップ」を活用することで,指導者が体力向上策の見通 しをもって取り組むことができると考える。 2.4 体力の課題を分析できる「新体力テスト分析シート」 「新体力テスト分析シート」は,「分析支援システム」 を改良し,分析資料のレーダーチャートの項目に体力要 素を加える。このことにより,学校,学級,個人の各デー タで,体力要素に着目して体力の課題を把握できる(図 3)。 2.5 体育科の「体つくり運動」の授業で活用するプロ グラムの開発 体育科の「体つくり運動」の授業で活用するプログラ ムは,実証授業に取り組む学級の体力の課題に応じて「体 の柔らかさを高める運動」「巧みな動きを高める運動」「動 きを持続する能力を高める運動」の各領域の単元計画, 学習指導案,単元で取り組む運動をコンテンツとして示 すように開発する。 コンテンツの開発においては,本研究における体育科 の「体つくり運動」の授業を計画する視点について,以 下のとおり検討・確認した。 ・ 保健領域の学習との関連を図る。 ・ 運動の大切さや体力向上の必要性を考えさせると ともに,自分の体力を自覚させるようにする。 ・ 児童が学級の体力の課題を分析する場面を設定す る。 ・ 学級全体で解決する体力の課題という意識をもた せるようにする。 ・ 課題を解決するための運動のイメージを提示する ・ 第 1 時の学級の課題の把握から第 2 時の運動への スムーズな接続を図る。 ・ 児童が体の動きの高まりを実感できるようにする ・ 第 5 時や単元後に単元での学びを体育科の他領域 や授業以外で活用する具体的な場面を設定する。 コンテンツを提示することで,指導者は体育科の単元 の授業は全 5 時間とし,上記の視点をもとに単元計画 を作成した。また,単元計画とともに各時間の学習指導 案,単元で取り組む「予備運動」と「主運動」を開発し た。これらの「体つくり運動」のねらいと指導内容を見 通して,単元の授業を設定し,実施することができる。 3.結果と考察 3.1 新体力テスト「新・分析支援システム」を活用し た体力向上策 (1)「新体力テスト分析シート」による新体力テストの 結果の分析と課題の把握 各研究協力校の第 5 学年の指導者は,まず,新体力 テストの結果を「新体力テスト分析シート」 に入力して 分析資料を作成した。次に,男女に共通して数値が低い 項目に着目し,学級の課題とすべき体力を把握した。そ して,各学級の体力の課題に応じて取り組む領域を「体 の柔らかさを高める運動」,「巧みな動きを高める運動」, 「動きを持続する能力を高める運動」とし,学習のめあ てを設定した。 (2)体育科の「体つくり運動」の授業計画と実践 1)体育科の「体つくり運動」の授業の計画 授業の計画にあたっては,開発した体育科の「体つく り運動」の授業で活用するプログラムを基に,児童が関 心をもって楽しみながら運動したり,運動を工夫する学 習場面を設定したりして,主体的に学習に取り組めるよ うにした。また,保健領域の学習の最終時間に,児童が 自身と運動の関わりを考える学習場面を設定し,体育科 の「体つくり運動」と単元間のつながりをもたせて,効 果的に体力向上を図るようにした。 2)保健領域の学習における運動の大切さの実感 保健領域の学習における第 5 学年「心の健康」には, 不安や悩みへの対処について,自己の課題を見つけ,そ れらの解決を目指す方法を知ったり考えたりする学習内 容がある。その中には,運動に取り組むことで,不安や 悩みの解消につなげる方法がある。その学習後,児童が 学校の休み時間や家庭での運動の取り組み方について振 り返り,自身の運動との関わり方を考えるようにした。 また,「新体力テスト分析シート」で作成した児童一人 ひとりの結果を配付し,児童が自身の体力を分析し,強 みと弱みを把握するようにした。そこから運動に対する 意識を高め,体力向上の必要性を捉えられるようにした。 ある児童は,「前よりもできるだけ外で遊んだり,スポー ツをしたりしようと思いました。規則正しい生活をしよ うと思いました。」と保健領域の学習を振り返り,自身 の運動や体力の状況と重ねて運動することが大切である と考えるとともに,より健康になるために体力を向上さ せたいと考えた。体育科の「体つくり運動」の授業と保 健領域の学習をつなぐことで,児童の運動に対する意識 や体力向上の意欲を高めることができた。 3)分析による学級の体力の課題の共有と課題解決に対 する意欲の喚起 研究協力校では,体育科の「体つくり運動」の単元の 第 1 時に,児童が学級の体力の課題を理解する学習場 面と,体力の課題について解決する方法を考える学習場 面を設定した。児童が学級の体力の課題を理解する学習 場面では,「新体力テスト分析シート」で作成した学級 の結果をまとめたレーダーチャートを児童に提示した。 指導者は,レーダーチャートの滋賀県平均と学級のデー タを比較し,学級の体力の強みと弱みを見つけるように 児童に促した。そこから児童は,「体力の強みと弱みが 分かった。クラスで協力して,体力を上げていきたい。」 「学級では,柔軟性が苦手だと分かった。他にも体を柔 らかくする方法をたくさん知ってやっていきたいと思っ

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た。」と男女に共通した課題だと考えられる体力を理解 した。保健領域の学習では,個人の体力に焦点を当て, 児童が自身の体力の課題を見つけたが,ここでは,学級 全体で体力の課題を共有し,指導者が学級の体力の課題 に応じて設定した学習のめあてを,児童がつかむことが できた。 次に,体力の課題について解決する方法を考 える学習場面では,学級の課題である体力を高めるため に,各領域の動きを高めるイメージをもつことをねらい, スポーツ選手の映像資料を提示したり,体力を高めるこ との効果を考えさせたり,実際に運動に取り組ませたり する学習場面を設定した。児童が学習のめあてをつかむ とともに,「今日の授業で,体が柔らかくなるとけがを しにくかったり,運動が得意になったり,いいことがあ ると分かって,がんばろうと思った。」と運動すること が大切であるという理解を深めた。その結果,自身の生 活によいことがあるという考えをもち,体力を高める運 動に取り組む意欲を喚起することができた。 4)「体の柔らかさを高めるための運動」のプログラム の成果 A学級では,学級の体力の課題を柔軟性とし,「体の 柔らかさを高めるための運動」で「めざせ柔軟性アップ! ~オリジナルストレッチをつくりあげよう~」という単 元を設定した。単元で取り組む運動は,滋賀県教育委員 会が作成した「元気な湖っ子(DVD)」(滋賀県教育委 員会,2010)を活用し,基本の運動としてストレッチ を児童に提示した。児童は,グループごとに基本の運動 のストレッチを工夫して,より柔軟性を高めることがで きる体の各部位のオリジナルストレッチを考えた。指導 者は,ヨガマットやゆったりとした音楽を用いて,学習 活動に取り組みやすくした。本単元では,児童が交流を 繰り返すことでオリジナルストレッチをよりよくするこ とができると考え,グループ学習,ペアグループによる 紹介,全体発表という様々な交流の形態を取り入れた。 そして体の動きに親しむ学習から体の動きを高める学習 へと発展させ,柔軟性を高めることをねらった(図 4)。 単元の第 3 時では,ペアグループでオリジナルスト レッチを紹介し,オリジナルストレッチの体の動きや説 明について助言し合うようにした。「みんなで考えてい るときに,だれかが『手首の向きを変えてみよう』と言っ て,やってみたら,いいストレッチになったと思った。」 と他グループから意見を得ることで,児童はオリジナル ストレッチの工夫のポイントを見つけ,「もっと工夫し たい」「もっとよくしたい」という 意欲と見通しをもっ た。第 4 時では全体発表を行い,各グループのオリジ ナルストレッチを交流した。まず,グループでオリジナ ルストレッチを紹介するために,動きや注意点を整理し た。ペアグループとの交流で得た視点を基にして,多く のグループが,児童全員が取り組めるように,柔軟性の 実態に合わせた動きの工夫として,「手を後ろにつく時 に体がやわらかい人は指を外に向けて,かたい人は指を 中に向ける」等柔らかい動きが得意な人や苦手な人への 配慮を考えることができた。そして,その考えがしっか りと伝わるように説明ボードに詳しい説明を加えた。次 に,各グループの実演後,他グループが発表したオリジ ナルストレッチを実際にやってみるようにした。その際, 実演したグループが他グループにストレッチの動きを教 えて支援するようにしたことで,自身の柔軟性に応じて 取り組む児童が増えた。第 5 時では,各グループのオ リジナルストレッチを組み合わせ,学級のオリジナルス トレッチの完成とした。児童は,体の各部位を柔らかく するための一連の流れになったオリジナルストレッチに 意欲的に取り組んだ。「他のグループのストレッチのア イデアがおもしろかった。やってみたら,体がのびて気 もちよかった。」と「体の柔らかさを高めるための運動」 のプログラムにより,多くの児童が柔軟性の高まりを実 感できた。 5)「巧みな動きを高めるための運動」のプログラムの 成果 B学級では,学級の体力の課題を巧緻性とし,「巧み な動きを高めるための運動」で「めざせ体コントロール の巧~ TRY アスロンで巧みな動きを高めよう~」とい う単元を設定した。指導者は,巧緻性という表現が難し く,児童が巧緻性を高める動きをイメージするには,体 をコントロールするための動きの巧みさに着目する必要 があると考えた。そこで,単元の第 1 時で,様々なスポー ツ選手の映像や資料を提示し,児童の気付きやつぶやき から,体をコントロールするために,「タイミング」「バ ランス」「リズム」「力の調節」の四つのポイントがある こ と を 児 童 と と も に 押 さ え た。 そ し て, 第 2 時 か ら TRY アスロンとして図 5 の運動に取り組んだ。これら の運動は,指導者が学級の体力の課題と日々の運動の様 子から,体の身のこなしが苦手だと考え,児童が四つの ポイントについて動きの巧みさを考えながら取り組む運 動として設定し,各運動をスムーズに行うための動きの コツを見つけ,巧緻性を高めることをねらった。各児童 は,運動に慣れるにつれて「フラフープをとびこえると きに,声や手をたたいてもらったら,タイミングがとり やすかった。」「ステップは,ゆっくりとした動きだとや りにくかった。スピードを上げたら少しリズムよくでき た。」と,児童同士で協力しながら運動のコツを見付け ていった。また,その際に,巧緻性の四つのポイントに 着目することで,上手く助言し合うこともできていた。 一方,「平均台(ラインナップ)が上手くできなかった。 体の上と下の動きのバランスが難しい。」等,タイプの 違う 6 種類の運動に対して種目によって動きのコツを 見いだしにくいことや見付けたり助言してもらったりし た動きのコツを活用するまでに時間を要することに難し さを感じている姿が見られた。「巧みな動きを高めるた めの運動」のプログラムにより,多くの児童が巧緻性の 高まりを実感しかけていたが,児童の体力に応じて運動 の内容や場の選定,指導者の適切な声かけや関わりを工 夫することで,児童の巧緻性の向上をより確実にするこ

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とができると考える。 3.2 学んだことを活用する場面の設定 (1)授業の学びを日常化へ 単元終了後,多くの児童が単元での学びの実感ととも に活用を考えており,体力向上をより推進するために, 各プログラムの実施に加え,学習した運動を具体的に活 用する場面を設定した。A学級では,「みんなのストレッ チがイテスッキリして気持ちよかった。ストレッチを続 けて,もっと体を柔らかくしたい。」という児童の考え も多く,単元の第 5 時に一つの流れにした各グループ のオリジナルストレッチを活用して他の運動領域の予備 運動とした。また,家庭でも継続して取り組むように促 した。B学級では,「タイミングやバランスは上手くで きたけど,上手くできないのもあった,体育のたから箱 でがんばりたい。」という児童の考えに対して「体育の たから箱」(滋賀県教育委員会,2011)で家庭学習での 運動に取り組む際に,児童自身が高めたい動きについて 内容を決めるとともに,回数や方法を考えて取り組むよ うに促した。C学級では,マラソン大会に向けた体育科 の授業や授業時間外の練習で,持久走の動きのコツを実 践するように促した。各学級の指導者は,児童が体育科 の「体つくり運動」の授業で取り組んだ運動を継続して 取り組める場面を設定し,児童が引き続き,自身の課題 に応じて取り組むように促した。このように,体育科の 「体つくり運動」の授業で取り組んだことを日常化する ことは,「健やかタイム」の取組に結び付くものであり, 体力向上策を推進することになった。  図 4 「体の柔らかさを高めるための運動」の授業の様子

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(2)児童の意識の変容 プログラム実施の前後に行った児童質問紙調査の比較 では,運動が自分にとって大切だと考える児童が増える とともに,授業時間外で進んで体を動かそうと考える児 童が増え,主体的に運動に取り組むようになった様子が うかがえた。 (3)指導者の意識の変容 各研究協力校の指導者はプログラム実施後の質問紙調 査から,新体力テストのデータを活用することで体力の 課題を学級で共通認識できた点,グループで学習するこ とで運動が苦手な児童のボトムアップを図ることができ た点,授業時間以外の取組も関連させることで運動に取 り組む必然性や意欲を高めることができた点等が,効果 として挙げられる。これらの点から,「新・分析支援シ ステム」を活用し体力向上策に指導者が取り組んだり, 体育科の授業で学級の体力の課題に応じて取り組んだり することを,授業以外での取組とも関連させ,効果的に 体力の向上が図られるようになったことがうかがえる。 3.3 本研究のシステムによる体力向上策の支援を実用 化するための視点 小学校における体力向上策を推進するためには,本研 究のシステムによる体力向上策の支援を実用化し,発信 する必要がある。その視点として以下の 5 点を見いだ した。 ① 児童が体力向上の意欲や具体的な動きのイメージをも つために,スポーツのことを話題にしたり運動が得意 な児童やスポーツ選手等の映像資料を活用したりする。 ② 児童が関心をもつ学習活動や友達と交流する学習を設 定する。 ③ 毎時間,学習課題が変わるのでなく,基本の運動に十 分慣れさせ児童が運動のコツや工夫に対して納得,満 足したうえで学習を進める。 ④ 毎時間,体の動きの高まりを実感できる活動を設定し, 児童が運動でできるようになったことをフィードバッ クする。 ⑤ 単元の最終時間には,単元の学習でできるようになっ たことを振り返らせ,休み時間や家庭での取組につな げ,運動の日常化を図る。 これらの視点を基に,新体力テスト「新・分析支援シ ステム」に改善を加えた。 4.まとめと今後の課題 本研究では,指導者が,学校や学級,さらには個人の 体力について課題を把握するための新体力テスト「分析 支援システム」を開発し,その課題の解決を図るための プログラムを作成するとともに,その実践化を図ること を目的とした。得られた結果は以下のとおりである。 (1)新体力テストの結果を「新体力テスト分析シート」 に入力して分析することにより,児童は関心を持って 「体つくり運動」の学習に取り組むことができた。 (2)体育科の「体つくり運動」の授業と保健領域の学 習をつなぐことで,児童の運動に対する意識や体力向 上の意欲を高めることができた。 (3)本研究で作成した「体の柔らかさを高めるための 運動」のプログラムは,多くの児童に柔軟性の高まり 図 5 「巧みな動きを高めるための運動」の授業の様子

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を実感させることができた。「巧みな動きを高めるた めの運動」のプログラムについては,児童が巧緻性の 高まりを実感しかけていたものの,体力に応じて運動 の内容や場の選定,指導者の適切な声かけや関わりを 工夫する必要があると考えられた。 (4)分析支援システムから導かれた児童の体力課題に応 じるために,本研究で取り上げた運動以外についても プログラムを作成しその効果を検討する必要がある。 注 1)「健やかタイム」は,滋賀県教育委員会事務局保 健体育課が児童の体力向上のために平成 26 年度から 進めているもので,各小学校が,地域や学校の実態に 応じた運動(遊び)のプログラムを作成し,長休みや 昼休み等の教育課程外の時間に計画的,継続的に実施 するように勧めている取組である。 文 献 深谷秀次,早川健太郎,渡部琢也(2016)小学校にお ける「体つくり運動」の状況-教員の意識調査を通 して-,子ども学研究論集,8:5-20. 細江文利,鈴木直樹,成家篤史(2011)動きの「感じ」 と「気づき」を大切にした体つくり運動の授業づく り,教育出版,50-52. 南貴大,池田拓人(2018)学校体育における体つくり 運動の実践的位置づけに関する研究-学習指導要領 改訂を通して-,和歌山大学教育学部紀要,68(2): 157-163. 文部科学省(2018)小学校学習指導要領(平成 29 年 告示)解説体育編,東洋館出版社. 滋賀県教育委員会(2018)平成 29 年度 全国体力・運 動能力,運動習慣等調査,児童生徒質問紙調査,学 校質問紙調査からみる本県の傾向. 滋賀県教育委員会・子どもの体力向上支援委員会(2010) 「元気な湖っ子 みんなで体育」授業実践支援 DVD 滋賀県教育委員会・子どもの体力向上支援委員会(2011) 「げんきな湖っ子Ⅱ 体育のたから箱」授業実践支 援 DVD. 滋賀県総合教育センター(2015)体力向上の手立てに つながる分析支援システムの開発-小学校における 新体力テスト調査結果の有効活用と体力向上の取組 の充実を目指して-.研究紀要分冊「情報教育に関 する研究(1)」,1-12. http://www.shiga-ec.ed.jp/www/contents/ 1438648196157/index.html,(参照日2020 年 11 月 25 日) 高田康史(2017)「体つくり運動」の可能性と限界-こ れまでの実施状況から考える,体育科教育,65(12): 32-35. 渡部琢也(2014)体育科教育における「体つくり運動」 の現状について,名古屋経営短期大学紀要,55: 13-22.

表 1 体育科の「体つくり運動」の領域の構成 ప࣭୰Ꮫᖺ  ࠙య࡯ࡄࡋࡢ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠚ     ㄡࡶࡀᴦࡋࡵࡿᡭ㍍࡞㐠ື(㐟ࡧ) ࢆ㏻ࡋ࡚㐠ືዲࡁ࡟࡞ࡿ   ࡡࡽ࠸   ࠐ⮬ᕫࡢᚰ࡜య࡜ࡢ㛵ಀ࡟   ࠐ௰㛫࡜஺ὶࡍࡿ Ẽ௜ࡃ  ࠙ከᵝ࡞ືࡁࢆࡘࡃࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠚ       ௚ࡢ㡿ᇦ࡟࠾࠸࡚ᢅࢃࢀ࡟ࡃ࠸యࡢᵝࠎ࡞ືࡁࢆྲྀࡾୖࡆ㸪ࡑࡢ⾜࠸᪉ࢆ▱ࡿ࡜࡜ࡶ࡟㸪㐠ື㸦㐟ࡧ㸧ࡢᴦࡋࡉࢆ࿡ࢃ࠸࡞ࡀࡽయࡢᇶᮏⓗ࡞ືࡁࢆᇵ࠺ ࠐయࡢࣂࣛࣥࢫࢆ࡜ࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐయࢆ⛣ືࡍࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐ⏝ලࢆ᧯సࡍࡿ㐠ື㸦㐟ࡧ㸧 ࠐ

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