地生Cy mbidium属の種子発芽ならびに幼植物の
生育に関する研究
(第1報)シュンランおよびカンランの地下茎からの
葉芽の分化について
沢 完 ● (農学部 蔽菜園芸学教室)Studies on the Germination of Seeds and on Seedling Growth in Terrestrial Cymbidium l・
Leaf-bud Differentiation from Rhizome oi Cyrnbidiu-in玩rescens Lindley and Cymbidi・lan KanrajiMakino.
Yutaka Sawa
(L岫oratory of Vegetable Crop Scie?ice, Facu,1りof Agriculture)
This experiment was conducted to determine the effect of ff-naphthalene acetic acid (NAA)and adenine 6n the leaf-bud di斤erentiation from rhizome of Cymbidiu。t,irescens Lindley and Cymbidium Kanran ^Vlakino。
T】lieresults obtained are summarized as follows :
1. The growth of rhizorr!es and leaf-bud di斤erentiation in C. ■uirescei・5Lindley was significantly promorted by NAA (potassium salt). At low NAA content added to the media, the rhizomes elongated (lown in agar medium (geotolopissura). Then the leaf-bud was differentated from rhizomes・which run down the bottom of cultured tubes. While, at high NAA content added to the madia> the rizomes
elongated on the surface of agar medium (diageotolopisum)。■The leaf-bud was norma】ly differentiated from the rhizomes。
2. However, the gtowth of rhizomes was strongly promorted by NAA, but leaf-bud was not cliff・ erentiated with NAA in C. 尺anran Makino。
3. Adenine sulfate exerted no favorable effect on the growth of rhizon!es and on the leaf-bud differentiation in C. virescens Lindley and C- KanronMakino.
緒 言 通称東洋ランと呼ばれている地生Cyinbidiuinは一般に寒天無菌培養による種子繁殖が困難 なものとされている。(3,4,8・9・1o)中でもカンラン(寒蘭)'は最も種子発芽の困難な種類である。 Cy功 「泌m属の種子の無菌発芽の際,着生のCymbidiumでは胚が肥大しprotocormを形成し, 引き続いてprotocormの肥大にともないその生長点部に葉芽が分化してくる。そして播種後1年 もすれば草丈が数センチにもなる。(5,3)しかし,地生のCy・nbidiumではprotocormが形成され るまでは前者と同様の経過をたどるが,その後protocormは葉芽の分化をみないまま伸長しはじ め地下茎を形成する。(8J そしてカンランやシュンランの地下茎はKnudson's C やBURGEFF N3fなどの無菌培地上では数年培養しても葉芽は分化されず,ただ地下茎の生長のみにとどまる。 本実験は細胞分裂に直接関係のあるadenine(6・馬 および,各種の細胞分裂に間接的に関与する auxin (本実験ではNAAを使用)を寒天培養基に加えることにより,地生Cy柚砲伍mのprotocorm からの葉芽の分化に何んらかの影響がみられないか否かを確かめるために行われたものである。
58 高知大学学術研究報告 第18巻 農 学 第4号 ____ 材料および方法 ’ 供試材料として,シュンランは手もとに培谷中の山掘りの株で授粉後7ヵ月の朔より採取した種 子を,また,カンランは高知市の東条順吉氏培養の「室戸錦」に「赤系さらさ」を交配して,授粉 後10ヵ月の種子を使用した。種子はいずれも1963年12月にそれぞれ細管つきゴム栓の200 cc三角 フラスコ(培養基:Knudson's C液にthiamine, pyridoxine, nicotinic acid を各1 ppm 添加) に播種した。播種後約1年間同一・培養基で培養し,胚が肥大し,伸長して地下茎状になりかけた2
∼3mmの大きさのprotocormを径30mmの試験管にそれぞれ2個ずつ移植した。
移植培地は播種培地と同じものを基本培地とし,それにNAA(α-naphthalene acetic acid potassium salt) 0.1, 0.5, 1.0, 5.0, 10.0 ppm ; adenine 0.1, 1.0 ppm,および, NAA 1 ppm 十adenine l ppm の計9区を作り・各区試験管10本とした。なお・シそンランではNAA O・05ppm・ および, adenine 10ppm 区を加えた計11区をもうけた。 移植して6ヵ月後に大きい方から10個体につき測定した。
結果および考察
実験に使用したprotocormは約1年間,三角フラスコ中の同一培地上に置かれていたため,
養・水分的に悪条件になっていたものが新しい肥よくな培地に移植されたためか,移植直後から移
植されたprotocormはすべてのものが急速な生長を示した。特に,
NAA添加培地では,シュン
ラン,カンランともに地下茎の伸長が著しく,NA八1∼10
ppm区では無処理区に比して約1.5∼3
倍の伸長促進を示し,それらの区では仮根の発生も顕著であった(Table
1, 2)。
一方,
adenine添加培地では地下茎の伸長は対称区と何んら差違が認められず,実験の濃度範囲
内ではCy励磁函mの地下茎の伸長にadenineは影管しないものと考えられた。
Table l : Effect of a・・naphthalene acetic acid potassium salt and adenine su】fateon the growth of protocorm of Cynibiditini virescensLindley.
Treatments
rhizomeLength ofNumber of
rhizoids
次江詐f
rhizomes
Number of shoot10 rhizomesper
Number of root per10 rhizomes
Control
10.3 '"^ + 3.4 0 0 NAA 0.05 ppm 0.1 0.5 1.0 5.0 10.0 11.8 12.3 13.2 19.2 16.9 15.7昔 ・
昔
昔
併
併
併
3.6・ 4.2 ‘3.4 ■ 3.5 3.3 2.0 0 2 3 4 3 5 0 0 1 1 2 2Adenine
0.1 ppm 1.0 10.0 10.9 10.6 9.8+
升
升
4.8 6.3 5.8 0 0 0 0 0 0NAA
l ppm
十Adenine l ppm
12.7併
5.0‘ 3 1Medium : Knudson's C solution 十thiamine十pyridoχine十nicotinic acid Seeding date : December 7th, 1963
Transplanted date : November 27th, 1964 Measured date : May 25th, 1964
turn ISの種子発芽ならびに幼植物の生育に関する研究(
Table 2 : Effect of a・・naphthalenacetic acid potassium salt and adenine sulfate on the growth of protocorm of Cyvibidiwm KanranMakino.
ろ9
Treatments
吻痙ご
rhizoidsNumber of忿ゴ?l
rhinomes
Number
of
shoot
10 rhizomes
per
Number
of
root
10 rhizomes
per
Control
5. 3 ^"^ + 3.2 0 0 NAA 0.1 ppm 0.5 1.0 5.0 10.0 6.5 7.4 10.8 17.8 19.5 + + 升 借 間 4.1 3.4 3.6 3.4 2.5 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0Adenine
0.1 ppm 1.0 5.1 6.8 + + 3.5 4.4 0 0 0 0NAA l ppm
十Adenine l ppm
9.3併
5.2 0 0Medium : Knudson's C solution十thiamine十pyridoxine十
Seeding date: Decembei7th, 1963
Transplanteddate: November 27th, 1964
Measured date: May
25th, 1965
nicotinic acid
シュンランのNAA
10 ppm添加区では移植後1ヵ月で葉芽の分化をしたものが認められ,6ヵ
月後には10個体中6個体の地下茎で葉芽の分化が確認された。また,本葉が2枚出た個体では葉の
基部から太い根が分化しているものも観察された(Table
D。 これに対しカンランでは,
NAA添
加培地においても葉芽の分化は認められず,すべての個体が地下茎の伸長だけにとどまった。
地下茎の伸長はシュンランではNAA
1.0 ppm で最大の伸長がみられ,それ以上の高濃度では
それより抑えられた。しかし,カンランではNAA10ppmで最大の伸長を示し,仮根の発生も最
も多かった。
シュンランにおいて地下茎より葉芽が分化する場合に,対称区のKnudson's
C液のみの培養
基では地下茎は屈地性を示し,すべての個体が重力の方向に向って伸長した。また;低濃度のNA
A添加培地(0.1∼1.0
ppm)においても地下茎の屈地性がみられ,地下茎は寒天培地中を下降し
た。そして地下茎の下端,すなわち,生長点部が試験管の下壁に突きあたり,地下茎の先端部が曲
がった個体で葉芽の分化か認められた。 これに対し,高濃度のNAA添加培地(5,10
ppm)では
地下茎が屈地性を示さなくなり,大部分の地下茎が寒天培地中を下降することなく,培地の表面上
をはうように伸長し,約半数の個体でそのまま葉芽の分化をみた。
GOESCHL,
J. D.ら(1966)'-'はエンドウの上胚軸が伸長する際に上部に栓をして,その伸
長を途中で抑えた場合に,エチレンガスが発生されることを確かめた。 さらにBurg,
S. P. &
BURG,E.A.(1966)(1)はIAAがエンドウの上胚軸の生長の最迪濃度以上になると生長が抑制
されるとともにエチレンが生成されることを認めた。また彼らは,エチレンによりエンドウの上胚
軸の屈地性の消失が起り,
I AAの横方向への移動が阻害されると述べている。
−・方,本実験とは
別に三角フラスコでKnudson's
C液にNAA
0.2
ppm
を添加した寒天培地でのシュンランの地
下茎の伸長をみた際にも,本実験の低濃度のNAA添加培地の場合と,まったく同様に地下茎が寒
天培地中を垂直に下に向って伸び,フラスコの底部のガラス壁にあたったものから葉芽の分化が起
ったことをみている。,
以上のことを総括すると,シュンランの地下茎の伸長とエンドウの上胚軸の伸長と非常に良く似
40 高知大学学術研究報告 第18巻 ぬ 学 第4号 一一 た現象がみられ,地生のCy mbidiu刀tの地下茎からの葉芽の分化の際にもauxin-ethy】eneが関係 しているように推察されてくる。すなわち,地下茎の生長点部が障害物により機械的に曲げられる ことにより葉芽の分化をみるのは,エンドウの芽生えの場合のように,エチレンガスが発生される ためであるのかもしれない。さらにまた,高濃度のNAA培地で地下茎の屈地性が認められなくな り,葉芽の分化がうながされたのは,高濃度のNAA培地では伸長か抑えられ,エチレンガスが発 生したためであるのかもしれない。しかしながら本実験ではエチレンガスの定量など行っていない ために,これらの点についてはあくまでも仮説にすぎず,碓かなことは今後の研究に待たなければ ならない。
摘 要
シュン。ランおよびカンランの無菌培養において,それらの地下茎からの葉芽の分化におよぽすN
AAとadenineの影響について調査した。
1)シュンランの地下茎はNAAにより著しく伸長か促進され,葉芽の分化も促進された。しか
し,カンランではNAAにより地下茎の伸長促進は認められたが,葉芽の分化はうながされなかっ
た。
2)地下茎はNAAがO∼0.5
ppm
の低濃度の場合には屈地性により,寒天培地内を垂直に下方
向`の伸長を示したが,高濃度のNAA培地(5.0∼10
ppm)では地下茎の屈地性か認められなく
なり,培地の表面上を拙に伸長した。
3)シュンランでは高濃度のNAA培地で20mmほどに伸長した地下茎より葉芽の分化が認めら
れたが,低濃度のNAA培地では下に伸びた地下茎か試験管の底のガラスに突きあたり,その生長
点部が曲げられたものから葉芽の分化か認められた。
4)シュンランおよびカンランの地下茎の伸長あるいは葉芽の分化にadenineはほとんど影響し
ないことが確かめられた。
文 献1. Burg, S. P., and Burg, E. A. (1966) The interaction between auxin and ethylene and its role in plant growth. Proc. Nat. Acad. Sci. 55 : 262-269. ’
2. GOESCHL・ J. D., Rappaport, L. , and Pratt, H. K. (1966) Ethylene as a factor regulating the growth of pea epicotyls subjected to physical stress. Plant Phyiol. 41 : 877-884.
3.加古舜治(1968)シュンラン稲子の発芽に関する研究(鳥潟博高編:ラン科植物の種子形成と無菌培養 pp. 174∼237,誠文堂新光社)
4,狩野邦雄(1968)ラン種子の無菌発芽(-: 同 p. 141∼145パ司)
5.唐沢耕司(1964) 11実生用バナナ,ハチミツ添加培地 日木蘭協会誌 10(1):20∼24.
6. NiTSCH, J. p., NiTSCH, C. , ROSSIIヽ・JE, L. M. E., and HA,・D. B. D. (1967) The role of adenine in bud differentiation. Phytomorphology 17 : 446-453.
7, RaGHAVAN, V. , and TORREY, J. G. (1964) Effects of certain growth substances on the gro゛nh and morphogensesis of immature embryos of Cα戸sella in culture. Plant Physiol. 39 : 691-699. 8.沢 完・鳥潟博高(1968)Cymbidiiiin種子の無菌発芽と発芽生態に関する研究(鳥潟博高編:ラン 科植物の種子形戊と無菌培養 pp. 153∼173,誠文堂新光社) 9.志佐 誠・沢 完(1963) (:沙rubidium稲子の無菌発芽法について,日木蘭協会誌9(1):1∼5. 10.鳥潟博高・沢完・志佐誠(1965)ラン種子の無菌発芽に関する研究(第1報)Cymhidiuni稲子 の発芽および発育について,園学雑.34 : 63∼70. (昭和44年9月20日受理)