医療情報学会・人工知能学会 AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-004-13
13-01
電子カルテデータを用いた退院方向性予測による
早期退院の実証
Demonstration of Early Hospitalization by Discharge Destination Prediction
with Electronic Chart
林谷 昌洋
1大野 友嗣
1久保 雅洋
1森口 真由美
2Masahiro Hayashitani
1, Yuji Ohno
1, Masahiro Kubo
1, and Mayumi Moriguchi
21
NEC データサイエンス研究所
1Data Science Res. Labs., NEC Corporation
2
医療法人社団 KNI
2Kitahara Neurosurgical Institute
Abstract: We propose the patients' discharge destination prediction model by learning the electronic medical record
data until the day after hospitalization to advance the discharge adjustment which was conventionally done after treatment completion. As the result of demonstration at hospital, about 11 days ahead of discharge adjustment and half hospitalization days are realized while rehospitalization rate in six weeks was not increased.
1. はじめに
日本において少子高齢化に伴い医療ニーズが増大 していく中で、医療費の増大および医療従事者の不 足が深刻な社会課題となっている。この背景のもと、 病院は医療リソースを維持したままで病院における オペレーション効率を向上させることが求められて いる。病院における医療費のうち、最大を占めてい るものは入院医療費である[1]。 我々は、主に脳神経外科の入院患者の治療を行う 急性期病院と共同で、入院オペレーション効率を向 上させるための業務分析および電子カルテデータの 分析を行った。その結果、入院の効率を表す病床回 転率を妨げる主要因が、治療完了後の不要な退院調 整待ちであることが判明した。そこで本研究では、 治療完了後の不要な退院調整待ちを回避するために、 電子カルテデータを用いた入院翌日の患者の退院方 向性予測をもとに、退院調整の業務を前倒しする入 院オペレーションを提案する。ここで、退院方向性 とは患者が退院後にどこに向かうのかを示す。具体 的には、自宅への帰宅、他病院への転院、老人ホー ムなどの施設への入所を示す。退院調整の前倒しを 行う提案の入院オペレーションの導入により、患者 の再入院率を増加させずに、入院期間の半減を病院 現場における実運用で実証した。2. 退院方向性予測をベースにした入
院オペレーション
既存の急性期の入院オペレーションでは、患者の 回復見込みが立った後に退院調整を開始している [2],[3]。これは患者の回復度にばらつきが大きく、入 院直後は退院方向性の予測が困難であるためである。 そこで我々は、入院翌日までの電子カルテデータか ら、患者の退院方向性を高い精度で予測することで、 入院直後に退院調整を開始し、治療完了後の不要な 退院調整待ちを削減する入院オペレーションを提案 する。 まず、従来の入院オペレーションについて説明す る。図 1 に従来の入院オペレーションを示す。従来 の入院オペレーションにおいて、入院患者はまず疾 患の治療を行う。治療完了後に IC (Informed Consent) を行い、そして、退院後の方向性を決定する。その 後、退院先調整を行う。ここでは、患者が退院後に 生活する場所を探す。退院先については、自宅、他 病院、施設が挙げられる。他病院への転院や施設入 所の場合には、病院スタッフが候補となる病院や施 設を探索し、患者の希望する病院や施設の空き状況 を確認する。自宅退院の場合には、自宅に帰る患者 では自宅にスロープを設置するなど、自宅環境の整医療情報学会・人工知能学会 AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-004-13 13-02 備が必要になる場合がある。退院先決定後、患者は 退院日に退院する。従来の入院オペレーションの場 合、治療完了後に退院先調整が行われているため、 退院先調整開始のタイミングが患者によってばらつ きが発生する可能性がある。したがって、患者によ って退院先調整の開始が遅れ、退院が遅れてしまう 恐れがある。 図 2 に提案の入院オペレーションを示す。提案の 入院オペレーションにおいて、退院先調整よりあと のオペレーションが前倒しされる。これは、入院翌 日までの電子カルテデータから患者の退院方向性を 高い精度で予測することにより実現できる。退院調 整の前倒しにより、患者の不要な入院日数を低減す ることが可能となる。 図 1 従来の入院オペレーション 図 2 提案の入院オペレーション 次に、退院方向性予測について説明する。実際に 高精度の退院方向性予測を実現するために、電子カ ルテデータを学習させる必要がある。本研究では機 械学習として異種混合学習を用いる[4]。図 3 に目的 変数と重症度の関係を示す。目的変数は退院方向性 であり、実際には “自宅”、“リハビリテーション(回 復期)病院”、“療養(終末期)病院”、“施設(老人 ホームなど)”の 4 つを目的変数とした。重症度につ いては、自宅に帰る場合に一番重症度が低い。施設 に行く場合は、将来的に自宅に帰る可能性は非常に 低く、一番重症度が高い。 図 3 目的変数と重症度の関係 図 4 に重症度をベースとした予測モデルを示す。 図 4 より、各退院方向性の可否で予測モデルを作成 し、重症度が低いケースからの予測モデルを構築し た。以下に理由を示す。病院の電子カルテデータか ら患者の母数より重症度の低い患者の学習データが 最も多く、予測精度が高くなる傾向がある。一方、 重症度の高い患者の学習データが最も少なく、予測 精度が低くなる傾向がある。したがって、最初の予 測モデルにおける誤りを防ぐため、重症度が低いケ ースから予測モデルを構築している。ここで、予測 モデル生成のため約 8,000 件のカルテデータの 40 以 上の項目を機械学習させた。項目の例としては、患 者の年齢、診断名、意識レベルなどがある。 図 4 重症度をベースとした予測モデル 図 5 に施設判別モデルのパラメータ例を示す。図 5 では、目的変数が、患者が施設に入所するかどうか のものである。ここで、パラメータが正に振れてい るほど、施設に行きやすく、パラメータが負に振れ ているほど、施設には行きにくい傾向がある。図 5 より、パラメータとして持ち家がないと施設に行き やすい傾向があり、身近にキーパーソン(面倒を見 てくれる人)がいる、または認知症の症状がないと 施設に行きにくい傾向がある。このように、異種混 合学習を用いると、予測結果だけではなく、結果に 作用しているパラメータを確認できる。したがって、 結果を見る病院スタッフは、結果に納得してから退 院調整の前倒しに取り組むことができる。 以上、提案の入院オペレーションは、入院翌日ま での電子カルテデータをもとに退院方向性を高い精 度で行うことで、退院調整の前倒しを行い、患者の 不要な退院調整待ちによる入院日数を低減すること が可能となる。 治療 IC 退 院 退院先 調整 退院先 決定 治療
IC
退院 退院 入院期間短縮 入院 翌日 退院先 調整 退院先決定 退院先 調整 退院先 決定 重症度 自宅退院 リハビリ 病院 施設 自立した生活への復帰 支援を要する生活 退院方向性 療養 病院 自宅退院 判別モデル 療養病院 判別モデル 自宅退院 リハビリ 病院転院 療養病院 転院 リハビリ病院 判別モデル 予測不能 YES NO YES NO YES 重症度 施設 判別モデル NO YES 施設入所 NO医療情報学会・人工知能学会 AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-004-13 13-03 図 5 施設判別モデルのパラメータ例
3. 実証実験
実際の急性期病院において、入院直後の退院方向 性予測結果に応じた新規オペレーションを行い、予 測モデル導入前後の平均退院調整開始日および平均 入院日数を評価した。図 6 に実運用環境を示す。病 院内に電子カルテ学習エンジンを搭載したサーバを 設置し、サーバが電子カルテデータベースの情報を 一日に一回参照する。電子カルテ学習エンジンは過 去の 8,000 件の電子カルテデータを学習させたもの である。サーバ内の電子カルテ学習エンジンは、電 子カルテデータベースから参照した情報をもとに、 入院翌日の患者ごとに退院方向性を予測する。予測 結果については、退院調整業務を行う病院スタッフ が PC の画面で確認する。その後、病院スタッフは 退院先の病院スタッフとの退院調整を前倒しで開始 する。 表 1 に退院方向性予測結果を示す。表 1 より、退 院方向性の予測精度は 84%であった。この精度は、 急性期病院において患者の退院方向性を高い精度で 予測できる医師と同程度の精度である。また、現場 の病院スタッフより退院方向性の予測精度は退院調 整の前倒しの実現に問題ない精度であることを確認 した。 表 2 に予測モデル導入前後の評価結果を示す。表 2 より、退院調整の開始日は、予測モデル導入前が 13.3 日、導入後が 2.0 日であり、約 11 日間の前倒し ができていることを確認した。平均入院日数は、導 入前は 25.5 日、導入後が 11.2 日であり、入院日数を 半減できていることを確認した。脳梗塞の患者で比 較した場合、導入前は 27.4 日、導入後が 13.8 日であ った。脳梗塞の患者の場合でも、入院日数を約半減 できていることを確認した。退院調整を行う患者(検 査入院などの短期入院を除いた患者)は、予測モデ ル導入前と比較して約 80%増加していた。また、空 床率は導入前後でほぼ同じであった。これにより、 治療完了後の不要な退院調整待ちの削減により、リ ソースを維持したまま新しい患者を受け入れること が可能となり、病床を有効に活用できていることを 確認した。さらに、6 週間以内の再入院率は導入前後 で悪化が見られなかったことから、今回の前倒しの オペレーションによって患者を無理に退院させてい ないことが確認できた。 図 6 実運用環境 表 1 退院方向性予測結果 Content Value 予測件数 117 件 予測の内訳 自宅退院:88 件 転院:15 件 (リハビリ病院、 療養病院含む) 施設入所:4 件 予測の成功率 84%4. おわりに
本研究では、患者の治療完了後の不要な退院調整 待ちを回避するために、電子カルテデータを用いた 入院翌日の患者の退院方向性予測をもとに、調整の 業務を前倒しする入院オペレーションを提案した。 提案の入院オペレーションの導入により、病院現場 での実運用実験の結果、患者の再入院率を増加させ 持ち家があるか? 予測式1 予測式2 -20 -10 0 10 20 fd2(false)_agnosia fd2(light)_paresthesia bias -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 fd1_age fd2(cardiology)_clinical_department fd2(I)_demential_self_suppport fd2(normal)_demential_self_suppport fd2(unknown)_motor_disability fd2(ng)_social fd2(owned)_home fd2(spouse)_key_person_relation fd2(cat1)_key_person_affair fd2(unknown)_meal_assistance fd2(cat1)_bath bias 認知症の 症状がない 身近に キーパーソン 持ち家がない true false 予測式1のパラメータ 予測式2のパラメータ 施設に行き にくい 施設に行きやすい 施設に行きにくい 施設に行きやすい 電子カルテ DB データ 参照 病院 スタッフ 患者Aさんは “リハビリ 病院転院” 電子カルテ 学習エンジン カルテデータから 患者の退院方向性 を入院翌日で予測 Aさんの 退院調整業務を 前倒しで開始 リハビリ病院 スタッフ コンタクト 結果 出力医療情報学会・人工知能学会 AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-004-13 13-04 ずに、約 11 日の退院調整の前倒しおよび入院日数の 半減を実現した。 表 2 予測モデル導入前後の評価結果 予測導入前 予測導入後 期間 1/14-2/14 2/24-3/24 退院調整の開始日 13.3 日 2.0 日 入院患者の平均入 院日数 25.5 日 11.2 日 脳梗塞患者の平均 入院日数 27.4 日 (16 名) 13.8 日 (29 名) 新規入院患者数 42 名 79 名 空床率 6% 7% 再入院率 2% 1%