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<論文>短期大学における PBL 授業と運営課題

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1.はじめに

我が国の短期大学を取り巻く環境は厳しいといわれて久しい。近年は進学者数のみならず進 学率も低下している。2019年度に過去最高の53.3%を記録した大学への進学率に対して、短期 大学への進学率は、1994年度の13.2%をピークに減少をたどり、4.6%に落ち込んでいる1 教育発展段階にともなう高等教育の変化を論じたトロウ(1976)は、少数を対象としたエ リート型教育に始まり、多数を対象としたマス型教育を経て、さらに多く、すなわち当該年齢 層の50%を対象とする段階になると、ユニバーサル型教育へと変遷する傾向を指摘している2 上記の現象は、日本の高等教育進学率が既にユニバーサル段階にあり、高等教育の一般化が加 速していることを物語る。 ユニバーサル化した高等教育の現場では、学力に基づいた入学試験による選考が機能しなく なり、さらに、時期を同じくして進行中の人口逓減の影響にともない、企業の研修余力もなく なってきた3。こうした時代に求められる教育内容には変化が生じ、職業準備機能を充実させ ようとする動きが国を挙げて推奨されるようになった4。我が国の高等教育には、このような 雇用可能性を高めるとされる能力の向上が産業界から主に要請され、たとえば、文部科学省は 「主体的・対話的で深い学び」を、経済産業省は「社会人基礎力」の育成を推奨している。 短期大学の利点を挙げるならば、4 年制大学に比して修業年限が短いため、新卒者が労働市 場に早期に参入できる点がある。さらに、短期大学を経由して就業するほか、大学や専門学校 への編入学といった自由度の高いキャリア・パスを描くことができる。また、学費が相対的に 安価であることも魅力のひとつといえるだろう。短期大学入学者の84.8%は18歳が構成してい

短期大学における PBL 授業と運営課題

師 暢

秀*

PBL(Project-Based Learning)in Junior College:

Its Implementation and Operational Issues

(ZUSHI Nobuhide)

*近畿大学短期大学部商経科准教授 〔キーワード〕短期大学、アクティブ・ラーニング、社会人基 礎力、産学連携、PBL

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ることからも5、短期大学は高校卒業直後のキャリア・パスの選択肢のひとつとして考慮され ていることがうかがえるが、現実の人気は下降するばかりである。短期大学の現状を鑑みるに、 短期大学の役割と提供すべき教育内容を再考する必要があるといえるだろう。 本稿は,近畿大学短期大学部商経科の平成30年度「マーケティング論1・2」に試験的に導 入した産学連携実践活動の内容を紹介し、社会人基礎力の変容ならびに明らかになった運営上 の課題から得られた知見から、短期大学の専門科目教育で専門知識と就業力を培うための課題 解決型授業(PBL)の可能性を検討した。

2.短期大学の特性と役割

学校教育は、教育行政の関与を受けるものである。短期大学は、学校教育法に則り、短期大 学設置基準を満たす内容で運営されなければならない。 学校教育法は、「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸 を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」6 と規定し、「大 学は、第八十三条第一項に規定する目的に代えて、深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実 際生活に必要な能力を育成することを主な目的とすることができる」7 と謳っている。また、 「前項に規定する目的をその目的とする大学は、第八十七条第一項の規定にかかわらず、その 修業年限を二年又は三年とする」8 とし、「前項の大学は、短期大学と称する」 と規定している。 すなわち、専門能力と就業力の向上を役割としているのが短期大学である。 短期大学設置基準10 によれば、「短期大学は、当該短期大学及び学科の教育上の目的を達成す るために必要な授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする」とし、「教 育課程の編成に当たつては、短期大学は、学科に係る専門の学芸を教授し、職業又は実際生活 に必要な能力を育成するとともに、幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い、豊かな人間性 を涵養するよう適切に配慮しなければならない」としている11。このように、短期大学設置基 準もまた、短期大学に専門能力と就業力を培うことを重ねて求めている。 これらの規定に沿って運営されている短期大学の組織である日本短期大学協会は、「幅広い 職業人養成」「総合的教養教育」「地域の生涯学習の拠点」、および「社会貢献的機能(地域貢 献、産学官連携、国際交流等)」の4点を短期大学の果たすべき機能としている。つまり、短 期大学で開講する授業には、これらの役割を担い、各種授業に反映されることが望ましい。 さらにいえば、学校教育法は、短期大学も含めた大学等に対して自己点検・評価12 と文部科

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学大臣の認証を受けた機関による認証評価を受けることを義務付けている13。これらの制度は、 教育内容の質を保証するために設けられたものであり、我が国に存在する全ての高等教育機関 は、国公私立にかかわらず、一定の枠組みのなかで運営されているかどうかを審査される立場 にある。そして、評価基準のなかには、企業との連携といった活動が含まれている14 高等教育を受けた者の多くは、卒業後には労働市場に入っていく。つまり、短期大学は、若 者が職業能力を向上させて就職準備をする期間を過ごす教育期間であるといえる15。壁谷(23) は、「短期大学と4年制大学に求められる教育上の役割は同じようなものになってきた」と指 摘しているが16、短期大学には、4 年制大学に比べて短期間のうちに高度な専門能力と就業能 力を学生に提供しなければならないという条件が加わる。 多くの短期大学生は、2 年間で卒業要件を満たして卒業していく。4 年制大学の場合、大学 生は4年間で卒業要件を満たすことになるため、時間的制約は短期大学生に比べて少なくなる といえる。CAP 制を導入していない大学では、時間的自由度はさらに高くなる。つまり、短期 大学生は、学生生活の期間が短いことから、大学生よりも忙しい日々を送ることになるといえ よう。そんな学生を擁する短期大学は、複数の機能を果たすべく設計した授業を提供しなけれ ばならないのである。

3.実践授業の必要性

小針(2018)が指摘するように、「大学におけるアクティブラーニング17(ママ)は、教育界 の論理やその要請というよりも、経済界からの強い要請をうけて、即戦力に近い『人材』養成 の観点から、主張、導入されるようになった」18 といえるだろう。それほどまでに、高等教育で の就業能力育成の要請があるという現実がある。 文部科学省は、学生が能動的に授業に参加する姿勢を促進することを推奨している。その歴 史を中央教育審議会の資料から概観すれば、「アクティブ・ラーニング」が提案されたのは2008 年のことだった19。アクティブ・ラーニングと呼ばれる能動的な学びとは、ともすれば一方的 に教員が学生を指導し、学生は授業を聞くだけといった受動的な学びを離れ、学生自身が自ら の学習を深化させようと取り組むように教員が授業環境を支援するように努めることとされた。 この基本的な考え方は、修正を重ねていく。2012年には、「生涯にわたって学び続ける力、主 体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。 従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一

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緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問 題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」20 と教育方法転換の必要性が述べられた。 2014年には、「『主体性・多様性・協働性』を育成する観点からは、大学教育を、従来のよう な知識の伝達・注入を中心とした授業から、学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題 を発見し解を見いだしていくアクティブ・ラーニングに転換し、特に、少人数のチームワーク、 集団討論、反転授業、実のある留学や単なる職場体験に終わらないインターンシップ等の学外 の学修プログラムなどの教育方法を実践する」21 とアクティブ・ラーニングによる教育を実施す るよう求めている。 2016年には、教育方法の転換対象を初等教育にまで拡大しつつ、主体的・対話的で深い学び の視点からの学習過程の改善を求めるようになった22「主体的な学び」とは、学ぶことに興味 や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り 組み、自己の学習活動を振り返って次につなげることである。「対話的な学び」とは、子供同 士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考える等を通じ、自己の考 えを広げ深めることである。「深い学び」とは習得・活用・探究という学びの過程の中で、各 教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理 解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考 えを基に創造したりすることに向かうことである。すなわち、最新の教育方法には、学生が能 動的行動を通して自らの進路を開拓する技術を培う内容が求められていると解釈できる。 2006年から、文部科学省よりも直接的に就業能力育成の必要性を説いてきたのは経済産業省 である。大学を対象として各校の育てたい人材像に応じた実践型学習の導入を推進してきた23 経済産業省が実践的学習による社会人基礎力24 を提唱したのは、かつて家庭や地域社会で培わ れてきた基礎的能力が不足してきたことを問題視した産業界の声を受けたことに発する。産官 学の有識者によって検討された「仕事の現場で求められている能力」は、3 つの能力(前に踏 み出す力:アクション、考え抜く力:シンキング、チームで働く力:チームワーク)とそれぞ れを構成する12の能力要素(前に踏み出す力:主体性・働きかけ力・実行力、考え抜く力:課 題発見力・計画力・創造力、チームで働く力:発信力・傾聴力・柔軟性・情況掌握力・規律性・ ストレスコントロール力)として分類されている25。社会基盤の維持・向上に結び付く汎用的 能力全般を網羅する概念として提唱された社会人基礎力育成の必要性は高まり、各種教育機関

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や企業において、人材育成・評価方法のひとつとして活用されてきた。特に、教育機関におけ る社会人基礎力育成は、アクティブ・ラーニング26 による事例が累積され、その多くは産学連 携活動である。こうした各種の試みは、参加者の主体的で対話的で深い学びの環境を共通して 提供しながら、社会人基礎力を向上させているといえ27、筆者が過去に実施してきた産学連携 実践活動においても一定の裏付けを得てきた28 短い在籍期間で就職や進学といったキャリア・パスを進んでゆく短期大学生にとって、学校 教育で学生が身につけるべき基礎的能力のひとつは、前述のとおり、就業能力である。多くの 短期大学生は高卒直後の若者であり、就業に資する汎用的能力の向上が重視されるべき時期に ある29。壁谷(23)は、「短期大学士という学位にふさわしい、しっかりした専門教育とそれ を支える教養教育を通して、社会人基礎力につながる基礎的・汎用的能力の育成を目指すべき である」30 と主張しているが、短期大学の特性と役割を鑑みるに、異論を挟む余地はないだろ う。 ただし、先行する産学連携活動の多くは、4 年制大学でゼミナールや特別クラスとして実践 的な課題解決に特化した独立クラスとして運営されてきた。短期大学において同様の試みが遂 行可能なのかどうかは、大学生と短期大学生の置かれた環境の差異から一概にはいえない。本 研究は、4 年制大学で一定の効果が認められた産学連携活動の趣旨を踏まえて、短期大学の授 業の一部に商品開発実践を試行し、その実際的な限界を明らかにするものである。次章では、 短期大学の役割を満たすべく短期大学の講義に商品開発の実践活動を組み込んだ試行例の概要 を紹介する。

4.専門科目への実践導入例:商品開発活動

経営学系の科目への実践導入は、日本短期大学協会が挙げている短期大学の果たすべき機能 との親和性が高いといえる。経営学系科目は、現実の商業活動との関連が深く、産官学連携活 動を実施しやすい特徴を備えている。 竹中(2003)は、経営学をはじめとする実践的な学問では、既存の知識の獲得、実践の経験、 新たな知識の発見・獲得が相互に関連しており、その関連性を感じながら、可能であれば自ら がそのサイクルの中で主体的に行動できる疑似体験を行うことや、イメージをふくらませるこ とが重要であると指摘している31。金井他(25)は、専門的知識や理論の理解のみならず知 識の応用を達成するためには、一方的に教員が学生に知識を伝える授業では不可能と主張して

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いるが32、様々な要素が複雑に絡み合う実際の商業活動を扱い応用力の問われる経営学系科目 には、特に、その傾向が当てはまるだろう。そして、商業科等に通った経験のない多くの短期 大学生にとって初見の科目であることも、疑似体験や具体例に触れることの重要性を強調する。 専門科目に実際の企業と協働する要素を組み込むことは、主体的で対話的な学びを遂行する に有効な環境を提供すると考える。あまり時間的猶予がない短期大学では、大学のように3年 次からゼミナールといった特別クラスとして始めることができない。それゆえ、短期大学に期 待される役割を満たすために有効と考えられる教育を提供する現実的な方法のひとつは、実践 活動を通常科目に導入することである。  専門科目:マーケティング論1・2 本稿の事例は、創設以来約70年間にわたって、ビジネスの現場で即戦力となる人材育成に取 り組んできた近畿大学短期大学部で実施した。当該学部は近畿大学の学部として位置付けられ ているが、ひとつの独立した短期大学である。夜間部の商経科のみで構成されており、13:15か ら21:35の間に主にビジネス系の科目を提供している。筆者は、専門科目Ⅰとして、第一セメス ター(前期)にマーケティング論1を、第二セメスター(後期)にマーケティング論2を開講 している。マーケティング論1はモノのマーケティングを、マーケティング論2はサービスの マーケティングを主に対象とした内容で構成し、学習・教育の目標として、マーケティングに 関する基本的な用語や理論を解説し、企業が行うマーケティング活動の基礎知識を修得できる 内容を目指している。講義期間はそれぞれ半期、授業頻度は週一回で15回ずつである。1 年次、 2  年次どちらでも受講できるが、実際には、約50人の受講生のほとんどは1年次である。 これらの科目は、講義形式による知識の系統学習として開講されてきたが、実際の企業活動 に触れることで、知識の応用の機会が生まれ、学生の教育効果を高めるだろうとの考えから、 部分的に実践活動を導入することにした。  実践の導入 前期の講義内容が主にモノのマーケティングであることから、商品開発活動を実践テーマと して導入した。より具体的な事例を体験することで理解を深めることを目的に、民間企業と協 働しながら新商品を開発する活動を部分的に取り入れた。主たる協働企業は、淡路島ソースで 人気の株式会社浜田屋本店33 である。その後、必要に応じて複数の企業の協力を仰いだ。極め

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て限られた時間的制約のなかで商品化の実現可能性を追求し、浜田屋本店のラインナップの充 実化を目的とした新型商品の開発を課題とした。これは、企業からの課題を解決する過程で学 ぼうとする課題解決学習であり、推奨されているアクティブ・ラーニングのひとつである34 前期講義の3分の2が経過するまでを、モノの開発方法や販売方法を含めた講義にあて、基 礎的知識の学習期間とした。10回目の講義で、協働企業とその商品ラインナップを紹介するこ とから、協働企業を知り、競合をイメージすることを始めた。この時、会社案内パンフレット と同社の主力商品である淡路島ソースが全受講生に提供された。 翌週11回目の講義で、具体的な課題「協働企業の主力商品である淡路島ソースのラインナッ プ上にある新商品案を考案すること」を示した。全受講生に対するレポート課題として、競合 商品や浜田屋本店の置かれた現状ならびに商品の消費場面の分析を課し、各受講生からの提案 内容を企業側に提出した。 しかし、学生からの提案に対して販売促進の観点から「近大らしさ」が欲しいとの意見が流 通業者から寄せられたため、前期に提出された案からの実現化は見送ることにした。そこで、 後期のマーケティング論2で、近大らしさとして世間一般に著名な近大マグロを活用した内容 を再提案することにした。 前期と同様に、約50人の受講生全員を対象に統一した課題を提供することになるが、主体的 で対話的な学びの要素を強化するために、企画に主導的に携わりたいという有志を募ることに した35。その結果、積極的に関与することになる1年生4人が意思を示し、その後、1 年生2 人が続いて、計6名の中心メンバーが構成された。近大マグロの加工過程で通常は廃棄される 中骨の出汁をソースに加味する可能性を検討し、企業が試作品を制作することになった。 近大マグロ中骨出汁入りソースの試作品品評会と、商品化に向けての詰めの作業を目的に、 有志が淡路島を訪問した(2018年12月15日)。原料となる玉葱畑を見学し、浜田屋本店を訪問 した。そこでは、試食のほか、管理衛生用防護服に身を包んで実際の製造現場を見学し、梱包・ 配送の様子も視察した。 訪問時の試食結果を反映した新たな試作品の試食会は、10回目の講義で受講生全員を対象に 実施した。受講生には、商品化を前提としてラベルデザインならびに販売方法案をレポート課 題として課した。有志が現地を再訪し、試食会での受講生からの意見と感想を集約して制作さ れた試作品の改良を進め、5 つの試作品を完成させた(2019年3月18日)。その後、選定過程 を経て、「淡路島ソース 梅風味 令和」を商品化した(2019年5月27日)36。有志は、流通業

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者との商談(2019年5月20日ほか)や販売実習(2019年6月1日)を体験し、その際に必要と なった資料やポスター、POP 広告も制作した。なお、社会人基礎力育成のために、各企業との 交渉を除く一連の作業過程を有志に一任し、指導教員は意図的に積極的な関与を控えることに した。

5.事例分析:専門知識と社会人基礎力の変化

マーケティング論という専門科目は、マーケティング活動に関する基本的知識の習得を目指 している。4 年制大学での産学連携活動では、専門知識の深耕と、多くの能力要素での向上が 観察されていたが、短期大学への今回の導入はどのような結果をもたらしたのであろうか。ア クティブ・ラーニングとしての要素である企業向けのレポート課題を含む実践部分は、受講生 からは概ね好評であり、一定の役割を果たしたといえるだろう。しかし、一部の受講生にとっ ては、歓迎されなかったというよりもむしろ対処できない課題だったようである。これについ ては、6 .で触れることにする。 本章では、主導的な役割を担った有志6人(仮名A、B、C、D、E、F)の言動を分析す る。専門知識と就業力のひとつの指標である社会人基礎力の変化を包括的に把握するために、 短期大学部ホームページに掲載された発言記録と学生自身の成長を回顧させた社会人基礎力レ ベル評価基準表37 の記述を中心に、象徴的な場面と記録を質的に分析した。本章で引用される 学生の言葉は、ゆらぎもそのままに描かれた文言である38 一部の有志が中心となって受講生全員の意見を反映しながら進めた商品開発活動となったが、 実践活動が専門知識の理解を促進し深化するに資する内容だったのかどうかを検討すると「本 当に来てよかった。めっちゃ勉強になったと思う」とFが振り返った言葉に象徴されるように、 教室を離れた協働活動には一定の効果があったといえるだろう。 Bは、「ソースだけの風味と食材に合わせてみた風味で感じ方が異なり、食材と合わせたと きは味がパッとしなくてイマイチでした。新たな課題も生まれて、研究する必要があると実感 しました」と企業訪問を振り返っているが、実売に耐えるレベルの商品を開発するために必要 な過程を体験できていたと考えられる。Cは、「大きな機械や出荷準備にびっくり。あんなに 食品衛生に気を配って、丁寧に仕上げる商品だからこそ、長年の人気と信頼を得ているのだと 実感しました。通販の梱包作業だって普段見られないし。とても新鮮でした」と工場見学での 印象を語っている。これは、都市部在住の学生にとっての非日常ともいえる地方との遭遇機会

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となったことを示し、講義で生産現場の解説を聞いただけでは想像しえない実感を表わしてい るといえるだろう。Dは、「こんなに広い玉葱畑、大阪に居てたら滅多に見れるものじゃない! 淡路島で育てられたこの玉ねぎに近大らしさを加えて、唯一無二の美味しいソースが作れたら なぁ」と感想を述べた。これは、教室内に留まった受講生とは異なる次元への高ぶる感情を示 していると考えられる。Eは、「現時点では、合う食材と合わない食材がはっきりと分かれて しまう。ソースを使う人たちが、どのようなシーンでどんなものに使用するのかをもう一度確 かめて、近大らしさを考え直す必要があるかもしれない」と悩みを打ち明けた。これもまた、 商品開発の実際を体得した発言といえるだろう。実践活動は、マーケティング活動に関しての 疑似体験の場を提供し、専門知識の深化を促したことを示唆している。 以降は、社会人基礎力レベル評価基準表から、有志それぞれの経験の代表的事象を取り上げ ながら、社会人基礎力の変化を検討する。  前に踏み出す力 有志として主たる役割を担おうと名乗りを挙げた受講生が、主体性、働きかけ力、実行力の 能力要素から構成される前に踏み出す力を比較的備えていた可能性は否めない。しかし、その 伸長は観察された。 ・主体性 自分の意志で行動しようとする主体性には、全員から一定の変化が認められた。事実上の リーダーとなったEに代表して見られるように、彼らは集団のなかでの主体性を追求できるよ うに変化した。たとえば、Eは、「参加当時、活動への欲が足りず、自覚が足りなかった。商 品に対するアイディアだけを提供していけばよい活動なのかと認識違いもしていた」と振り 返ったが、参加当初は、企画の進行に携わろうという意志があったにもかかわらず、自らの役 割を限定的に捉え、集団のなかでの当事者意識が薄かったことがうかがえる。その後は、「で きることを探して実行した」と変容を見せた。 EはBとともに、大学内での販売可能性を求めて交渉に出向いただけでなく、販売実習先店 舗にも何の指示もないなか自主的に事前に訪れている。また、Aは、誰に指示されるまでもな く、販売実習の際には POP 広告を複数パターン準備していた。これらは、主体性の発露を示 した代表的事象である。

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・働きかけ力 他者を巻き込む働きかけ力も、全員が一定の変化を見せた。たとえば、Cは、「毎度声かけ て会議しようというのは少しためらうところがあった」のが、「なるべく質問を投げかけたり 一緒に考えたりと意識をした」と変化を述べている。働きかけ力の行動面での顕著な発現は、 特に販売実習の準備場面において認められた。DとFは、店舗を訪れるよう多数の知人に呼び 掛け、実際に多くの顧客を呼び込んだ。この行為と行き交う買物客に対する積極的なセールス トークは、当日納品した2ケース48本を3時間で売り切る原動力となった。また、Eは、実演 販売用の食材の消費が予想を超えたため、当意即妙に人員配置を指示してこれを解消した。指 導教員による指示を極度に限定したことは、学生が他のメンバーに働きかける前提条件として 機能したと判断できそうである。 ・実行力 目標を設定して確実に行動する実行力は、数々の困難を乗り越えて商品化を実現したことか らも明らかだが、活動の様々な場面で観察された。途中から参加することにしたAは、「ギリ ギリまで自分から動くことができなかった」が「締め切りが厳しい幾つかの仕事を全て終わら すことができた」と変化を述べている。既に動き始めていた企画に対して、強く関与しづら かったにもかかわらず、自らの役割を理解して、その範囲で確実に仕事をしていた。Dは、当 初は「やることに意味があるのかを見いだせず、中途半端になることが多かった」が「ソース には何の食材が合うかという部分にだいぶ手こづったが、家でもいろんな料理にソースをつけ て合う食材を探そうとした」と積極的に関与するように変容したことを述べている。  考え抜く力 課題発見力、計画力、創造力の能力要素から構成される考え抜く力は、学生として最も伸長 を期待したい能力であるが、先行研究39 と同様に、顕著な変化が認められない者も含まれた。 ・課題発見力 現状分析から目的や課題を明らかにする課題発見力については、ここでも、指導教員の低い 関与が貢献したと判断できる。Bは、「その都度発見し意見交換はするが、今の現状でできる 範囲か否かまで想像できなかった」が、「ソースに何が合うかという課題には真剣に取り組ん

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だ」と変化を述べ、実際に料理をしながら知人に意見を求めて改善へのヒントを求めようとし ていた。Cは、企業訪問の際に、その場で知人にショートメッセージによるミニアンケートを 実施し、合わせるべき食材のアイデアを募りながら課題を明らかにしようとしていた。Eは、 販売実習先を事前に見学し、必要な物資の見当をつけてきた。参加者それぞれに一定の能力向 上がうかがわれた。 ・計画力 課題解決のための方法や順序を考える力である計画力については、事実上のリーダーとして の役割を果たすことになったEへの依存がうかがえる。たとえば、Aは、「明確な期日を決め たことがなかったことが問題だった」と自身の計画性の不足を認識しながらも、「仕事を与え られた後はできるだけすぐに取り組んだ」と他者からの指示を待っていた姿勢を述べている。 Bは、「計画をしてくれた子がいたからその通りに動こうとなんとかできた」、Cは、「どうし てもしっかりしている子にまとめたり計画を立ててもらったりと任せてしまったところはあっ た」と述べ、自身の計画力の変化については言及していない。Dは、「優先順位をつけて行動 しようと思ったが結局その通りにいくことはなく、1 つ1つ地道につぶしていくことになった」 と計画を立てる意思があったにもかかわらず、結果的には「メンバーの中に、しっかり順序を 立てて冷静に動く子がいたのでその子に助けてもらいながらなんとかできた」と他者依存を告 白している。Eのみが、「限られた時間のなかで目標を達成するための時期を決め、そこから 逆算してやるべきことの計画を立てるために、仲間との予定調整や役割分担をするなど、積極 的に動くことができた」と計画力を発揮したことを明快に表していた。 ・創造力 課題に対して新しい解決法を生み出す創造力もまた、先行研究40 が指摘したのと同じく、計 画力とともに変化があまり見られなかった能力要素である。しかし、Aは、「ポスター作りで は自分の考えたもので作っていった」と創作意欲を開花させたことを示唆し、Cは、「ポップ デザインや、商品に令和・梅を入れる発想など、多く発言できたと思う」と振り返っている。 Eは、自主的に雑誌を探索することやイベントを視察する等によって、アイデアを生み出そう とした。

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 チームで働く力 発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力の能力要素から構 成されるチームで働く力は、無から練習することになったといえるだろう。同じクラスの受講 生とはいえ、1 年生として入学した同級生は、事実上知らない者同士から人間関係が始まって いる。 ・発信力 発信力とは、他人が理解できるように伝える力である。他者に対して自らの意見を伝える力 としての発信力は、いわゆる見栄えのするプレゼンテーション力を指すものではなく、いかに 他者に正確にわかりやすく伝えることができるかを問われる。指導教員の指示を限定したこと は、学生の発信力強化にもつながったと考え得るものの、その強化には指導教員の適切な補助 が必要である。 流通業者との商談に参加したA、E、F、販売実習で店頭に立ったA、D、E、Fは、買物 客に商品の魅力を端的に伝えた。しかし、第一声は互いをうかがい、躊躇してしまう場面でも あり、教員が発言を促す必要性があった。学生はそれに応えるように発話し始めた。 また、Cは、「LINE やメールなどの文章ではあまりうまく伝わらないと感じた。実際に会っ て話すのが一番だと思ったが、予定が合わず、意見を言えないまま企画が進行してしまうこと があり、申し訳なくおもった。自分の意見やイメージをイラストやデザインにまとめて、簡潔 に視覚で伝えることができた」と意思の伝達に効果的な方法を導き出したことを述べている。 これは、情況に応じて工夫を凝らして効果的な発信方法を作り出していたことを示していると 理解できる。 ・傾聴力 他者が話しやすくなるような工夫をしながら、意見を聴き出す傾聴力については、全員が変 化を見せている。 Aは、活動当初は「自分にあまり関係ないときは話を聞かないことがあった」と振り返るが、 その後「できるだけ話に耳を傾けていたが相手が話している時に話が脱線しても止めなかった」 そして、「相手の考えを理解できるように努めた」と変化を述べている。Eは、「会議の際に、 意見の賛成・反対が顔や態度に出てしまいがちだった」が、「相手の意見の解釈はできている

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つもりだが、相手から意見を引き出すような耳の傾け方はできていなかった」と変化し、「相 手が何を言わんとしているのか、また発言の意図を想像しながら耳を傾けた。相槌を打ったり、 目を合わせるようにしたり、全身を相手に向けるようにして聞くことに気を付けた」と自らの 遷移を述べている。また、Cは「メンバーの着眼点に驚いたことも多かったし、先生の発想に 影響されることもたくさんあって、視野の広さをもっと持つことを学んだ」と述べ、他者から の意見を重視するようになった姿勢の変容を語っている。傾聴力については、意識面だけでな く技術面においても向上が認められたといえる。 ・柔軟性 自分の意見とは異なる意見や立場を受け入れようとする態度である柔軟性は、全員に認めら れた。Bは、「意思の食い違いにより納得しないことや賛成できないこともあったけど、それ もひとつの意見であるということを忘れずにいた」と心掛けを述べ、Cは、「意見が違う場合、 どういう考えなのか聞きすぎる傾向があるのかもしれないと思った。自分の意見を発言するこ とと同じくらいほかの人の意見を傾聴し共感することはとても大事だと思った。肯定否定では なくその人の意見に耳を寄せる雰囲気ができていたのでとてもよかったと思う」と回想してい る。他の能力要素とも関連して、葛藤を乗り越えてきた姿が表れている。 ・情況把握力 周囲の情況と自分の置かれた情況を理解しようとする情況把握力については、元々備わって いた印象を抱いていたが、学生の間では相当気を遣っていたようである。たとえば、Bは、「皆 で話し合っている時には反対意見を言わなかったが、自分と意見が同じ人と、あれは違う等否 定的だった」と述べ、現場では態度を保留しながらも、場所を変えて共通の意見を求めていた ことをうかがわせた。Eは、「役割を見出すどころか、活動に貢献できる範囲を自分で狭めて いた」が「5、6 人の会議で論点がずれることがあり、それの軌道修正をするという役割を務 めたが、時々空回りをしてひとりよがりになることもあった」ため、「自らが、調整役・率先 して動く役を担い、仲間のスケジュール管理や活動がうまく回るように配慮した」と、事実上、 実践活動を主導する立場を担うことになった経緯を振り返っている。

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・規律性 社会のマナーやルールを守ろうとする力である規律性については、大きな問題は見られなかっ た。約束の時間や期日を無視するようなことは概ねなく、企業訪問、商談や販売実習時におい ても礼儀やマナーは遵守していた。しかし、Cはやや規律性に欠けていたようである。「会議 の当日に起きられなかったり、遅刻早退などが続いてしまったことも反省している」と回顧し ている。Dは、「期日を守る、時間を守るなどの基本的なことは当たり前なので、しっかり守っ た。期日が厳しい時は、通学中やバイトの空き時間を使ってこなしていた。正直しんどいと思 うことが多かった」とストレスの要因になったことを吐露しているが、さらに規律性を定着さ せたことがうかがえる。 ・ストレスコントロール力 ストレスコントロール力とは、ストレスの原因を追究し、適切にコントロールする力のこと である。Aは、「忙しいときにストレスを感じても溜め込むことが多かった」が「仕事が溜まっ たときは優先順位を決めて進めていくことでストレスを減らした」と対処法を導きだし、「物 事に悩む前に言葉に出してやるべきことを明確にしていった」とストレスの原因を分析し、低 減させる努力を見せている。また、Bは、「多々イラついていたので、その時は、何も手をつ けることができず放っておいた時もあった」が、「友人に聞いてもらってその場は自分の感情 はおさまった。感情が高ぶった時は、一度シャットダウンして、おちついた頃に商品開発につ いて考えた」と自分なりの対処法を見出している。ストレスに対応する技術を修得していく姿 が観察された。 以上のとおり、社会人基礎力についても概ね向上したことが推測され、積極的に関与してき た有志においては、実践導入の意義が認められたと考える。

6.実践運営上の課題

本章では、短期大学の専門科目に実践活動を導入することで明らかになった運営上の課題を 挙げる。 国は、主体的・対話的で深い学びをあらゆる教育機関で推奨するものの、その教育現場での 実施の実際は、多くの困難に直面している。すなわち、推奨されるべき実態が現前にあること に概念として共感できたとしても、学校教育現場には、技術的な問題が山積している。多くの

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教育に関する先行研究は、教育理念、技術面を含む新しい教育法、それらの効果といったもの を追究しているが、実際の運営面で考慮すべき観点を欠く傾向にある。運営上の実態は、教育 活動を実施しようとする際の前提条件であり、実は無視できない大きな課題だと考える。ここ で指摘する課題の多くは、4 年制大学における実践活動にでも考慮すべき共通する課題が含ま れているだろう。  短期大学生の事情 第一に挙げられるのは、2 .で指摘した時間の問題である。短い在学期間に資格取得を目指す 者、4 年制大学への編入学試験の準備に勤しむ者、業界研究から応募作業を含む就職活動に忙 殺される者、経済的事情から長い労働時間に拘束される者等、時間的制約が大きい学生で構成 されているのが短期大学である。したがって、実践活動を通常の講義外に負担を強いられる課 題と受け止める者には、その重要性はなかなか理解されないだろう。 また、大きな時間的制約は、集団活動の際に時間を合わせて集まって話し合うということさ え困難にする。特に、今回取り上げたような社会人基礎力のチームで働く力を培おうにも、そ の場面は限定的である。時間的制約を乗り越えての主体的で対話的な学びを促進するためには、 商品開発活動の内容修正はもちろんのこと、全く異なる授業法の検討も必要である。 第二に、相互のコミュニケーションに関する問題がある。若年層には、コミュニケーション アプリ「LINE」による通信が普及している41。これは、集合しづらい短期大学生に限らず、時 間的・空間的な距離を縮めるために有効なツールであり、実際、事例の有志の間では、履修パ ターンも異なるため、LINE での会議と集合しての会議を並行して企画を進行していた。 学生間のコミュニケーションについては、どのような手段であれ、その進行が促進できれば 良いだろう。しかし、教員と学生の間のコミュニケーションが、LINE で良いのかと言えば、 異議を唱えざるをえない。これは、教員と学生の間の公的な関係を外れた私的な関係へと変化 させかねないリスクを孕んでいる42。教員にも学生にも、大学が発行する電子メールアドレス が割り当てられており、筆者はこれを使用すべきだと考え、指導教員とメンバー間のやりとり は、電子メールでの会議を主体とした。しかし、LINE 世代の学生にとっては、電子メールで の通信は好まれず、多くのコミュニケーションにおいてタイムラグが生じてしまった。一定の 期日を提出締切日として区切るレポート課題と異なる内容を扱う際の通信環境については、何 らかの方策をとるべきだろう。

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第三に、学生の基礎的能力差の問題がある。たとえば、近畿大学短期大学部の入学試験は、 推薦入試や筆記試験等、様々な形式で実施されている。このため、極端な場合には、論述試験 が苦手な者が選択式の回答方式で入学することができる。そのような学生は、実際に調査や分 析した内容を書面に描くような課題に対処できず、記述内容がほとんどないレポートを提出す るか未提出のまま終わってしまった。また、授業中に受講生の間で議論するよう促しても、他 者と話し合うことを極度に苦手とする者はそうした会話の場面に参加することさえできない。 たとえば、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行され、発達障害といった特 性を持つ学生に対する合理的配慮はなされるべきだが、その対象であるのかどうかを講義担当 者が知ることは困難である。また、その疑いがあったとしても、本人が配慮を受けるための手 続きを取らない事例も散見される。多様化した入学試験と、実際の授業場面との乖離は、今後 熟慮しなければならないといえるだろう。 第四に、第三の問題点と関連して、課題の難易度の問題が挙げられる。アカデミックハラス メントをはじめ、教育活動は各種ハラスメント事案が発生する可能性と隣り合わせである。商 品開発活動は、非常に多岐にわたる作業が要求されることから、こうした作業が苦手な受講生 によっては過度な課題として受け止められる可能性がある。受講生に過度な課題を出したとし て教員が解任された事例43 が発生していることからも、学生の基礎的能力や科目の属性等を細 心の注意を払って設計しなければならない時代を迎えている。  教員・学校組織の事情 第一に、設備面での困難が挙げられる。今回の事例のような食品を扱う活動44 では、試作や 試食といった場面があった方が望ましい。しかし、一般的に、教室内での飲食行動は禁止され ている。それが許されたとしても、調理実習を伴うほどの内容は、栄養科等を擁する学校でな い限り、会場の確保は難しい。さらに、2020年初頭から世界的に問題となっている新型コロナ ウイルスの流行といった現象に直面した時代においては、衛生管理上の問題から、このような 場面を設定することに困難が予想される。商品開発のようなアクティブ・ラーニングを実施で きる環境への配慮は今後の課題として小さくない。 第二に、体制面での課題を指摘することができる。今回の活動では、学校組織の支援により 問題とならなかったが、学生の交通費等を教育機関に支出させることは容易ではない。筆者の 経験には、この問題を解消するために、指導教員が自家用車で学生を移送するといった事例が

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あるが、事故の際の責任等の課題は曖昧だった。 また、今回の活動は、企業と大学の共同研究契約という手続きを経た。これは、大学の商標 といった知的財産権の管理の観点から実施したものだが、一連の手続きが複雑かつ時間のかか るものであり、原案が完成してから実際に市場投入するまでに一か月間を要したのである。知 的財産権の保全は重要であり、筆者はその必要性は認めるものの、これによって商機を逸した ことも否定できない。手続きの簡略化・短縮化は、学校組織として喫緊の課題である。 第三に、指導教員の行動の自由度の低さが活動を萎縮させた。4年制大学の場合、教員は午 前中に授業を終えて、午後から企業との交渉に出向くといったことが可能だが、特に、夜間部 の短期大学の場合、非常に難しくなる。仮に午前中に企業を訪問したとしても、午後の授業に 間に合わせるための移動時間を考慮すると、ほとんど議論することはできない。特に、今回の ように遠路の企業と協働する場合には、平日の協働活動は、事実上不可能となる。また、平日 は多忙な学生とのやりとりは、深夜か休日に偏ることになっている45。こうした夜間部ならで はの労働環境は、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律が施行された現在、 これまで以上に考慮すべき課題となるだろう。 第四に、成績評価の困難性が挙げられる。受講生全員で進行した活動ではあるが、商品化の 実現は、一部の有志の活躍によるところが大きい。しかし、有志のみに加点措置をとることは、 他の受講生との評価公平性を損なうため、それをしていない。一方で、労力や実現に向けての 貢献度を加味して然るべきとの主張も成立すると考えられる。さらに、評価の観点からは、社 会人基礎力の向上の程度も問題である。たとえば、主体性をもって学んでいるのかどうかとい う態度は、客観的な定義が困難な概念であり、数量的に評価する尺度は未確定である46。能力 要素をより客観的に測定するための尺度開発は、社会人基礎力養成法の研究領域において重要 な課題として残っている。  企業の事情 過去にも筆者と複数の協働企画を実現してきた浜田屋本店は、極めて協力的だった。しかし、 兵庫県洲本市に本社機能を持つ企業と大阪府東大阪市に位置する近畿大学短期大学部との物理 的な距離を埋めることは難しかった。かつての産学連携活動では、企業人を授業に招いて講義 を依頼することもできたが、たとえば、20:05から21:35に開講される夜間部の授業に招くこと は憚られた。昼間に実施された流通業者との商談と販売実習には来訪願ったが、そのコストは

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大きかったはずである。学生は2回、浜田屋本店を訪問しているが、土曜日の訪問は、通常業 務外の対応を強いることにもなった。主体的で対話的な学びに共感し、協力的に振る舞ってく れる企業は容易に見つけられるものでないだけに、物理的距離を解消できるような方法も思索 すべきである。

7.おわりに

本稿では、短期大学に産学連携型 PBL 教育法を導入することが、専門知識と就業力の向上 に資するのかどうかを検討した。その結果、本研究の対象者は少数であり偏りは否めないもの の、専門知識と社会人基礎力の向上が認められた。短期大学に求められる教育に一定の役割を 果たしたといえ、認証評価の項目も満たしている。したがって、短期大学におけるアクティブ・ ラーニングの在り方に一定の方向性を導出できたといえる。 一方で、社会人基礎力の測定尺度や、計画力や創造力といった能力要素の育成方法の探究の 必要性が認められ、商品開発のような活動による主体的・対話的で深い学びを短期大学の専門 科目へ導入することの実務上の困難性も明らかになった。短期大学におけるアクティブ・ラー ニング導入の位置づけは、未だ途上段階にあり、今後の継続的な取組から教育効果を追究する 必要がある。 注 1 文部科学省令和元年度学校基本調査(確定値)(2019) 2 マーチン・トロウ(天野郁夫・喜多村和之訳)(1976)『高学歴社会の大学―エリートから マスへ―』東京大学出版会 3 糸井重夫(2012)「経済のグローバル化とキャリア教育」都留文科大学大学院紀要第16号, pp.2944.

4 欧米諸国でも、Core skills(英)Key qualification(独)Workplace know-how(米) Transferable skills(仏)Key competencies(豪)等と呼ばれる就業力に通じる汎用的能力 の向上が教育機関に期待されている。

5 文部科学省前掲

6 学校教育法第八十三条第一項 7 前掲法第百八条第一項

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8 前掲法第百八条第二項 9 前掲法第百八条第三項 10 前掲法第三条、第八条および第八十八条で定められている。 11 短期大学設置基準第四章教育課程(教育課程の編成方針)第五条 12 前掲法第百九条第一項 13 前掲法第百九条第二項 14 たとえば、一般財団法人短期大学基準協会は、評価基準Ⅰ-A-2に、「地域・社会の地方 公共団体、企業(等)、教育機関及び文化団体等と協定を締結するなど連携している」との 項目を設け、高等教育機関として地域・社会に貢献しているかどうかを報告するよう求めて いる。 15 4年制大学へ編入学していく短期大学生の割合は全国平均で2%程度だが、近畿大学短期 大学部からは73.0%が進学している。〔近畿大学短期大学部商経科(二部)学部案内パンフ レット2021〕 16 壁谷一広(2013)「短期大学における初年次教育の現状と課題(英語系学科の取り組みを 中心に)」リメディアル教育研究第8巻,第1号,p.169. 17 「アクティブ・ラーニング」と「アクティブラーニング」の表記ゆれは、研究者の思想背 景に起因するが、本稿では文部科学省の表記にしたがって「アクティブ・ラーニング」を主 体として記述する。 18 小針誠(2018)『アクティブラーニング学校教育の理想と現実』講談社現代新書,p.31. 19 中央教育審議会大学分科会制度・教育部会(2008)「学士課程教育の構築に向けて(審議 のまとめ)」 20 中央教育審議会(2012)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)」 は、具体的な教育手法を列挙しつつ、アクティブ・ラーニングを次のように定義している (p.37)。「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加 を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理 的、社会的能力、教養、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、 体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、 グループ・ワーク 等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」 21 中央教育審議会(2014)「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、

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大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」p.20. 22 アクティブ・ラーニングの用語は残ったものの、やや抽象化された概念として文部科学省 は提示している。中央教育審議会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審 議のまとめ(報告)」 23 全世代での活用を推奨するために「人生100年時代の社会人基礎力」として基本部分を維 持しながら拡大再定義されている。〔経済産業省(2018)「『人生100年時代の社会人基礎力』 と『リカレント教育』について」(2020年3月30日最終検索:http://www.meti.go.jp/   committee/kenkyukai/mirainokyositu/pdf/002_s01_00.pdf) 24 経済産業省編著(2008)『今日から始める社会人基礎力の育成と評価~将来のニッポンを 支える若者があふれ出す!~』角川学芸出版 25 株式会社リベルタス・コンサルティング(2014)『社会人基礎力育成の好事例の普及に関 する調査報告書』 26 アクティブ・ラーニングは、高等教育において語られていたが、2014年11月20日付の文部 科学大臣諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」は、初等中等教 育においての充実も勧告している。 27 「社会人基礎力を育成する授業30選」受賞校や「社会人基礎力育成グランプリ」出場校の 活動のほとんどは産学連携によるアクティブ・ラーニングである。 28 頭師暢秀(2020)「社会人基礎力育成法にみる知財教育の可能性と課題~産学連携コンテ ストの事例を通して~」『知財教育研究(仮題)』日本知財学会 掲載予定 29 高等教育の段階でこのようなことを意識した教育が求められる現状は嘆かわしいが、それ は別の議論である。よって、専門能力と就業力の育成につなげる機会を提供することが望ま しい。 30 壁谷(2013)前掲,p.170. 31 竹中啓之(2003)「経営学を学ぶ意義とその対象―経営学を教育するという視点から―」 鹿児島県立短期大学紀要第54号,pp.3145. 32 金井秀介・カッティング美紀・秦喜美恵・筒井久美子・平井達也(2015)「グローバル教 育におけるアクティブラーニングの実践と課題(立命館アジア太平洋大学での事例をもとに)」 リメディアル教育研究第10巻,第2号,pp.5364. 33 株式会社浜田屋本店(兵庫県洲本市安乎町平安浦18648)

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34 中央教育審議会(2012)前掲 35 小針(前掲)は、アクティブ・ラーニングに不参加の自由を認める重要性を指摘している。 36 頭師暢秀(2019)「産学連携新商品:淡路島ソース 梅風味 令和」近畿大学短大論集第52巻 第1号,pp.8587. 37 経済産業省編著(2008)前掲,pp.2829. 38 本調査は、有志として主導的な役割を負った6人の学生による自由記述と指導教員による 観察に基づくもので、サンプル数は少なく、客観的データといえるものでもないが、詳細な 変容を観察している。 39 頭師暢秀(2010)「商品開発による社会人基礎力の育成」流通科学大学教育高度化推進セ ンター紀要第6巻,pp.7176. 40 頭師暢秀(2010)前掲 41 若年層の LINE 利用率は高い。10代が88.7%、20代では98.1%である。〔総務省情報通信政 策研究所(2019)『平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』〕 42 LINE は私的関係による通信環境ともいえ、教員と学生の関係性を変化させる可能性があ りそうである。たとえば、私情による試験漏洩の事件もあった。〔「入試問題漏らす 首都大 学東京が教授を解雇」(2020年3月30日最終検索:https://www.news24.jp/articles/2019/ 12/24/07567736.html) 43 「早大でアカハラ、教授解任」2020年1月25日朝日新聞朝刊 44 食品は、一般的な工業製品に比べて制作に要するリードタイムが短く、複数回の試作が可 能という特徴を持ち合わせている。 45 たとえば、2019年3月26日23:05から23:43にかけて通信した記録がある。 46 社会人基礎力測定尺度の研究も蓄積されてきているが、一部の能力要素に特化した研究 (たとえば、大対香奈子・堀田美保・本岡寛子・直井愛里(2019)「大学生の社会人基礎力測 定尺度の開発」近畿大学総合社会学部紀要第7巻,第1号,pp.5159.)等、総合的に活用で きる段階には至っていない。

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