義務教育における「多様性の尊重」の理念とその展
開に関する基礎研究 : 戦後の日本とドイツの学習
指導要領と教科書の内容に着目して
著者
濱谷 佳奈, 井上 健
雑誌名
研究紀要
巻
11
ページ
35-46
発行年
2021-01-29
URL
http://id.nii.ac.jp/1072/00004449/
大阪樟蔭女子大学研究紀要第 11 巻(2021) 研究論文 はじめに―問題の所在と本稿の課題― グローバル化の進展により、学校教育に新たな役割 やさらなる改革が求められている。外国語によるコミ ュニケーション能力育成など具体的な課題が挙げられ、 「インクルーシブ教育」や「ダイバーシティ教育」とい うような新しい理念も提唱されている。そうした動向 の背後には、「多様性の尊重」の理念、すなわち多様性 を受け入れ、ひとりひとりの違いを尊重するという考 え方がある。だが、「多様性の尊重」の理念がいつか ら、どのようなかたちで学校教育に取り入れられてき たのか。どうすれば、「多様性を尊重する教育」を行う ことができ、その成果として何が期待されるのか、必 ずしも明確な共通理解があるわけでない。 そこで本研究は、「多様性の尊重」の理念が近年の学 校教育にどのように登場し、また、いかなるものとし て理解されてきたのか、さらには、「多様性」を尊重す る実践には何が求められるのかを考えるための基礎的 な整理をおこなうものである。すなわち、まず 1. にお いて、戦後の学習指導要領【総則及び道徳編】の内容 を分析し、「多様性の尊重」の理念が現れてくる経緯を 明らかにする。次いで 2. で、日本とドイツの学校教育 において、道徳的な価値としての「多様性」がどのよ うなものとして理解されているのかを、両国の「学習 指導要領」にある「内容項目」や「コンピテンシー」 の観点から比較しながら、「多様性」の概念ならびに 「多様性を尊重する教育」の類似点と相違点を浮き彫り にする。さらに 3. において、「多様性を尊重する教育」 の実践に近づくために、日本とドイツの代表的な「教 科書」を取り上げ、どのような観点から「多様性」が 扱われ、子どもたちにどのような「資質・能力」を育 成しようとしているのかを比較検討する。以上の考察 をもとに、最後に 4. において、ドイツでの「多様性を 尊重する教育」の特色や成果を日本での実践に役立て るとするならば、どのような可能性があるのかを整理 して結びとしたい。 1.「多様性の尊重」の理念の登場―戦後日本の学習指 導要領【総則及び道徳】を中心に― 本節では、義務教育における「多様性の尊重」の理 念を検討する前提として、1958 年の「特設 道徳の時 間」から 2017 年の「特別の教科 道徳」(以下、「道徳 科」と表記)に至る小・中学校の学習指導要領【総則 及び道徳】での記述に着目し、「多様性の尊重」に関連 する内容の推移を整理しておきたい。 まず、現行の「道徳科」の目標を確認しておこう。 2017 年版の『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)』 には「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う ため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見
義務教育における「多様性の尊重」の理念とその展開に関する基
礎研究
―戦後の日本とドイツの学習指導要領と教科書の内容に着目して―
児童教育学部 児童教育学科 濵谷 佳奈
東京都市大学 井上 健
要旨:日本とドイツでは、第二次世界大戦後の学校教育において、どのような観点から「多様性」が扱われ、子ども たちにどのような「資質・能力」を育成しようとしてきたのか。本稿は、両国の学習指導要領と教科書を比較分析す ることによって、日本において「多様性を尊重」する教育や「考え、議論する」道徳教育を進めて行く上での視座を 得ることを目的とする。検討の結果、日本では「道徳的な諸価値を身につけること」で「個々の多様性に寛容となる こと」を、ドイツでは「個々の多様性の根拠を問い、合理的な行動を取ること」を重視していることが明らかになっ た。 キーワード:多様性の尊重、学習指導要領、教科書、戦後、ドイツ
つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方に ついての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、 心情、実践意欲と態度を育てる」とあり、『中学校学習 指導要領(平成 29 年告示)』では「よりよく生きるた めの基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値につ いての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野か ら多面的・多角的に考え、人間としての生き方につい ての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心 情、実践意欲と態度を育てる」とある(下線は引用者。 以下同様)。小学校では「物事を多面的・多角的に考 え」「自己についての生き方」、中学校では「物事を広 い視野から多面的・多角的に考え」「人間としての生き 方」となっており、発達段階を考慮すれば、ほぼ同一 の目標と言えよう。 次に、「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養 うため」に重要とされている「道徳的諸価値について の理解」は、1998 年版から 2007 年版の小・中学校の 学習指導要領の目標では「道徳的価値の自覚」と表現 されていた。それが 2017 年版には、「自覚」から「理 解」に修正され、道徳教育に求められるレベルが一段、 深まっている。そして、「道徳的価値」から「道徳的諸 価値」へと複数の価値が存在することを前提とする書 きぶりに変わっている。このことは、2017 年版の小・ 中学校の学習指導要領で初めて登場した「物事を(広 い視野から)多面的・多角的に考え」という文言と共 に、そうした記述の変化が意味することを捉えていく 必要があろう。 このように、2017 年版の小・中学校学習指導要領 (道徳科)では<価値を複数形で捉え、物事を多面的・ 多角的に考える>という複眼的な思考に基づいて、児 童生徒の道徳性を育成することが打ち出されているこ とが確認できる。例えば、宮崎(2018)も、「新学習指 導要領においては、これまでに比べると、多様性が尊 重されるようになり、自分で考えることと自分の意見 を相手に伝えることを前提とした他者との対話と協同 が重視されるようになった」と指摘する。 それでは、日本の道徳教育において、物事を「多面 的・多角的」に考えることの重視、あるいは、その前 提としての「児童生徒の多様性」や「(道徳的)価値観 の複数性」はいつから、どのようにして登場してきた のであろうか。それを明らかにするために、「多様性の 尊重」の理念に関わると思われる 12 のキーワードを設 定して、その言葉が意味する内容を小学校学習指導要 領【道徳】の改訂にしたがって時系列で整理したもの が表1である1。ここでの 12 のキーワードとは、①「多 様(性)」、②「多面的・多角的」、③「相互(理解)」・ 「互い」、④「寛容」、⑤「相違」・「違(い)」、⑥「異な る〜(〜は意見、考えなど)」、⑦「価値(観)」、⑧「自 己(認識)」2、⑨「個(性)」、⑩「主体(性)」、⑪「外 国(他国)」(外国語を除く)、⑫「インクルーシブ」で ある。 表 1 からわかるように、小学校学習指導要領【道徳】 では、意外なことに、①「多様性」、②「多面的」・「多 角的」、④「寛容」という文言は、現行の学習指導要領 【特別の教科 道徳】の他には全く見られない。他方で、 同じようなニュアンスを有する、⑤「相違」・「違(い)」 や近年、教育界において注目を集めている⑫「インク ルーシブ」は、2017 年版を含めて全く言及がない。 では、中学校学習指導要領【道徳】はどうだろうか。 同様に確認していくと、1958 年版で既に「他人の過ち に対しては寛容で」と④「寛容」への言及があり、1969 年版には「ひとそれぞれの個性や立場を重んじ、自分 と異なる意見や行動にも寛容であろうと努めること」 という内容が掲げられている3。さらに、2017 年版で は「生徒が多様な感じ方や考え方に接する中で、考え を深め、判断し、表現する力などを育むことができる よう、自分の考えを基に討論したり書いたりするなど の言語活動を充実すること。その際、様々な価値観に ついて多面的・多角的な視点から振り返って考える機 会を設けるとともに、生徒が多様な見方や考え方に接 しながら、更に新しい見方や考え方を生み出していく ことができるように留意すること」と、「多様性の尊 重」に関わる記述が充実してきている。ただし、「互いに 異なっていて、同じでないこと」を意味する⑤「相違」・ 「違(い)」や、そうした「違い」を包摂する⑫「インク ルーシブ」については、小学校の場合と同様に中学校学 習指導要領【道徳】も、2017 年版でさえ記述がない。 第二に、⑥「異なる〜」であるが、1958 年版から 2008 年版小学校学習指導要領【道徳】では、「広い心」 や「謙虚な心」と組み合わせて使用されている。それ が 2008 年版から 2017 年版になると、「自分と異なる考 え(意見)」そ・の・も・の・への言及がなされる。とは言え、 「異なる意見」は「大切」にし、「尊重」すべきもので あっても、「自分の考え」と「交流」させるものとして は必ずしも捉えられていない。これは、2017 年版内容 項目「相互理解、寛容」の概要(p.48)や指導の要点 (p.49)で解説されているとおり、「人の考えや意見が 多様であ」ることを「豊かな社会をつくる原動力」と するため、「多様さを相互に認め合い理解しながら高め 合う関係を築くことが不可欠である」と記されている
発行年 1958 昭和33年告示 1968 昭和43年告示 1977 昭和52年告示 1989 平成元年告示 1998 平成10年告示 2008 平成20年告示 2017 平成29年告示 多 様(性) — — — — ・多様な指導の工夫 — ・ 多 様な感じ方や考え方、 多 様な実 践 活 動や体 験 活 動、 多 様な見 方や考え 方、多様な教材の活用 多面的 ・ 多角的 — — — — — — ・物事を多面的・多角的に考え 相 互(理 解) ・ 互い ・ 自 他の人 格を尊 重し 、 お互い の幸福を図る。 ・ 互に信 頼し あ い 、 仲よ く 助け あう。 ・ 国 民 相 互 はむろんのこと、 外 国の人々 に対し て も 、 偏 見 に とらわれないで 親 しみの 情 を 持つことや、 (後略) 。 ・ 中学年 ・ 高学年において は , さらに 、 なごやかな 気持ちで互いに明るい生 活をすること(後略) 。 ・ 互いに信頼し合い ( 後 略 )。 中 学 年 においては、 さらに 、 互いに忠告し合 うこと(後略) 。 ・ 互いに信頼し合い 、( 後 略 )。 ・ 互い に忠 告し合う (後 略) 。 ・ 互いに協力して世界の平 和と人類の幸福に役立つ 人間に(後略) 。 ・ 友達と互いに理解し 、 信頼 し、助け合う。 ・ 互い に信 頼し 、 学び合っ て友 情を深め 、 男 女 仲 良く協 力し 助け合う。 ・ 家庭や地域社会との共通理 解を深め 、 相 互の連 携を図る (後略) 。 ・ 友 達 と互 い に 理 解 し 、 信 頼し 、 助け合う。 ・ 互いに信頼し 、 学び合って友 情を深め 、 男女仲良く協力し 助け合う。 ・ 友 達 と互い に理 解 し 、 信 頼し 、 助け合う。 ・ 互い に信 頼し 、 学び合っ て友 情 を深 め 、 男 女 仲 良く 協 力し 助け 合う。 ・内容項目:相互理解・寛容 ・友 達と互い に理 解し 、 信 頼し, 助け 合うこと。 ・ 友 達と互い に信 頼し 、 学び合っ て友 情 を 深 め、 異 性 についても 理 解 しな がら , 人 間 関 係 を 築 いていくこと 。 寛容 — — — — — — ・内容項目:相互理解・寛容 相 違・違 ( い ) — — — — — — — 異 なる〜 (〜は 意 見 、 考 えなど) ・ 中 学 年 ・ 高 学 年 においては、 さ ら に 、 広い心で自 分と異な る意 見や立 場を も重ん ず る こ となどを 加 えて 内 容 とするこ とが望ましい。 ・ 高学年においては 、 さら に 、 広い心で自分と異な る意見や立場をも重んず ることなどを加えて 、 お もな内容とする。 ・ 高 学 年 においては 、 更 に、 広い心で自分と異なる意 見や立場をも重んずるこ となどを加えて 、 主な内 容とする。 ・ 謙 虚な心を も ち 、 広い心で自 分と異な る意 見や立 場を大 切 にする。 ・ 謙虚な心をもち 、 広い心で自 分と異なる意見や立場を大切 にする。 ・ 謙 虚な心を も ち 、 広い心で自 分 と 異 な る 意 見 や 立 場 を 大 切 に す る。 ・( 前 略 ) 自 分と は異 なる 考え に 接す る 中で 、 自 分の 考え を深 め、 自 らの 成 長 を 実 感 できるよ う工夫すること。 ・自分と異なる意見も大切にする 異なる意見や立場を尊重する 価 値(観) — ・ ものや金銭の価値を正し く知り、 (後略) 。 ・ 物や金銭の価値を正しく 知り、 (後略) 。 — ・道徳的価値の自覚 ・道徳的価値の自覚 ・道徳的諸価値についての理解 自己(認識) — — — — — ・ 自 己の生き方に つ い て の考え を 深め、 (後略) 。 ・自己 を 見 つ め 、 物事 を 多面的 ・ 多角 的に考え 、 自 己の生き方に つ い て の 考 え を 深め る 学 習 を 通 し て ( 後 略) 。 個(性) ・ 個性豊かな文化の創造と民 主的な国家及び社会の発展 に努め、 (後略) 。 ・ 個 性の伸 長を助け 、 創 造 的な 生 活 態 度 を 確 立 するように 導 く。 ・ 主と し て 「個 性の伸 長、 創 造 的な生 活 態 度」 に関す る内 容 ・( 前略 ) これらの発達の段階 や個人差に応じた指導方法 をとる必要がある。 ・ 個性豊かな文化の創造と 民主的な社会及び国家の 発展に努め、 (後略) 。 ・ 個性豊かな文化の創造と 民主的な社会及び国家の 発展に努め、〜。 ・ 個性豊かな文化の創造と民 主的な社会及び国家の発展 に努め、 (後略) 。 ・ 個に応じ た指 導を工 夫し た り するなど、 (後略) 。 — — ・内容項目:個性の伸長 主体(性) — — — ・ 進んで平和的な国際社会に 貢献 できる 主 体 性 のある 日 本 人を育 成す る た め 、(後 略) 。 ・ 身近な集団に進んで参加し 、 自分の役割を自覚し 、 協力し て主体的に責任を果たす。 ・ 身 近な集 団に進ん で参 加し 、 自 分の役 割を自 覚し 、 協 力し て主 体的に責任を果たす。 ・主体的に学習に取り組む 外国(他国) ・ 外 国の人々 に対し て も 、 偏 見 に と ら わ れ な い で 親 し み の 情 を持つことや、 (後略) 。 ・ 外国の人々に対しても親 愛の情を も ち 、(中 略 ) 外 国の人々の生活や文化な どを尊重し、 (後略) 。 ・ 外国の人々に対しても親 愛の情を も ち 、( 中 略) 外 国の人々の生活や文化な どを尊重し、 (後略) 。 ・ 外 国の人々 や文 化を大 切に す る 心 をもち、 日 本 人 としての 自 覚を も っ て世 界の人々 と親 善に努める。 ・ 我が国の文 化と伝 統に親し み 、 国 を 愛 する 心 をもつとともに、 外国の人々や文化に関心をも つ。 ・ 外国の人々や文化を大切にす る心をもち 、 日本人としての 自覚をもって世界の人々と親 善に努める。 ・ 我が国の文 化と伝 統に親し み 、 国 を 愛 する 心 をもつとともに、 外国の人々や文化に関心をも つ。 ・ 外 国の人々 や文 化を大 切に す る 心 をもち、 日 本 人 としての 自 覚 を も っ て世 界の人々 と親 善に努 める。 ・ 他国の人々や文化に親しむこと 。 (1・2学年) ・他 国の人々 や文 化に親し み 、 関 心を もつこと。 (3・4学年) ・ 他 国の 人々 や 文 化に つ い て 理 解し 、 日 本 人 としての 自 覚 をもって 国 際 親 善に努めること。 (5・6学年) インクルーシブ — — — — — — — 表1 小学校学習指導要領【道徳】にみる「多様性の尊重」に関連する記述の推移 出典:国立教育政策研究所「学習指導要領データベース」(https://www.nier.go.jp/guideli ne/ 2020年8月1日閲覧)より筆者作成。
点から窺える。中学校の場合も同様で、1969 年版や 1977 年版に「異なる〜」という語が見られるが、いず れも「広い心」や「寛容」とセットで用いられていた。 その後、2008 年版で「自分とは異なる考えに接する中 で、自分の考えを深め」るよう「指導に当たっての配 慮」が掲げられたが、2017 年版では「異なる」という 表現は消え、それぞれの「違い」を覆い隠すかのよう に、「多様な見方や考え方」へと修正されていく。 第三に、互いの関係性を示す③「相互」や「互い」 は 1958 年版の小学校学習指導要領【道徳】に登場する が、「国民相互」という限定された文脈のみで使用され ており、2017 年版の「相互理解」までは記述がみられ ない4。 第四に、⑦「価値(観)」については 1968 年版と 1977 年版に事例がみられるが、物や金銭の「価値」と いう文脈であり、その意味内容は限定されていた。道 徳的な「価値」については前述のように 1998 年版と 2008 年版に「道徳的価値の自覚」が登場したが、2017 年版では「道徳的諸価値についての理解」へと複数形 に変化する。加えて、2017 年版の小学校学習指導要領 【総則】にも注目してみると、「あらゆる他者を価値の ある存在として尊重し、多様な人々と協働」するとい うように、「・他・者・」・ そ・の・も・の・が・「・価・値・」・として掲げられ ている。 第五に、他者とは区別される「自分自身」に関する 三つのキーワードについて見てみよう。⑧「自己(認 識)」は、2008 年版と 2017 年版において「自己の生き 方」として登場している。⑨「個(性)」については、 1958 年版では「個性の伸長」という表現が見られる が、その後、一旦なくなり、2017 年版の内容項目で復 活している。それ以外には、1958 年版から 1989 年版 にかけ、「個性豊かな文化」として「文化」の修飾語と して用いられるのみである。ただし、「個人差(または 個)に応じた指導」という表現は、1958 年版と 1989 年版で使用されている。他方、【総則】には、1958 年 版で「児童の個性」、1989 年版から 2008 年版では「個 性を生かす」という表現がみられる。また、⑩「主体 (性)」については、1989 年版では「日本人」の修飾語 として、1998 年版から 2008 年版は集団や社会の中で 「責任を果たす主体」という文脈で使用され、2017 年 版では、学習に取り組む態度として「主体的」という 語が用いられている。 第六として、「外国(他国)」については、1958 年版 から 2008 年版までの小学校学習指導要領【道徳】が 「外国の人々」、2017 年版では「他国の人々」と表現さ れている。これらに関わる「偏見にとらわれない」「尊 重する」「親善に努める」などの表現は 1958 年版から 2017 年版に至るまで同じである。 2.日本とドイツの学習指導要領にみる「多様性の尊 重」の扱いの違い 前節では、日本の小・中学校の学習指導要領【道徳】 において、「多様(性)」あるいは「多面的・多角的」 という用語(表現)がみられるのは、2017 年が最初で あること、あわせて、2017 年の学習指導要領では「道 徳的価値」が「道徳的諸・価値」と複数形になっている ことを指摘した。 本節では、そうした「多様性」の尊重、「多面的・多 角的」な思考、あるいは「道徳的諸価値」の理解とい うものが、どのようなものとして教えられようとして いるかをさらに分析・考察するために、まず、日本の 学習指導要領【特別の教科 道徳】の「内容項目」と の関連をみていくことにしたい。なお、「内容項目」と は、「その全てが道徳科を要として学校の教育活動全体 を通じて行なわれる道徳教育における学習の基本とな るもの」5を示す。したがって、「内容項目」に注目す ることによって、道徳科ばかりでなく、日本の学校で の教育活動全体における「多様性の尊重」の在り方を 確認することができると見なすことができよう。 (1) 日本の学習指導要領【特別の教科 道徳】にみる 内容項目 表2は、日本の『小学校学習指導要領(平成 29 年告 示)解説 特別の教科 道徳編』の内容項目のうち、小 学校第 5 学年及び第 6 学年の 22 の内容項目を示したも のである。このうち、「多様性」概念と深く関わるの は、「B 主として人との関わりに関すること」の内容 項目の1つ、「相互理解、寛容」である。その理由は、 波線に示したように、授業で教えるべき「相互理解、 寛容」の内容が「自分の考えや意見を相手に伝えると ともに、謙虚な心をもち、広い心で自分と異なる意見 や立場を尊重すること」を子どもたちに教える内容と されているからである。藤井ら(2013、p.125,127)が 指摘するように、西洋近代では「自分たちは正しく、 相手がまちがっているのだが、社会秩序の安定のため にさしあたり相手の過ちを大目に見ることにして一時 的に採用する必要悪であるという意味を、寛容は担っ た」が、日本では、「相手の心情を推し量り、謙虚な自 己や広い心を見出して、『相手を許す』ということとは 区別される寛容性」「むしろ『相手を許す』プロセスそ
のものを通じて、共同体のなかで生きる生(原文ママ) に謙虚さや配慮といった日本社会において特に重視さ れる性質の育成が求められている」ことがあるのかも しれない。 日本において「寛容」の概念がどのように移入され、 小中学校の道徳教育のなかに取り入れられていたのか は今後の課題とせざるを得ないが、現行の学習指導要 領【特別の教科 道徳】を見る限りにおいて、「多様性 の尊重」が「謙虚な心をもち、広い心で自分と異なる 意見や立場を尊重すること(小学校 5、6 年生)」、「い ろいろなものの見方や考え方があることを理解し、寛 容の心をもって謙虚に他に学び、自らを高めていくこ と」(中学校)と置き換えられている。換言すれば、日 本の学習指導要領では、それぞれの「多様な在り方」 ないしは「差異」を突き詰めていくというよりも、そ れを深く追究しないままに、「多様な在り方や個々の差 異」を包み込むような「広い心」や「謙虚に学び」「自 ら高める」という方向で、子どもたちに人との関わり に関する道徳教育の内容項目として、「相互理解、寛 容」を学ばせてしまう可能性がある、と言えるだろう。 なぜなら、「相互理解、寛容」は複数ある「(道徳的) 諸価値」の一つであるが、児童生徒の多様性に由来す る「価値の複数性」を時に曖昧にしたままで、丸ごと 「包み込む」ような方向に作用する可能性があるから だ。 (2) ドイツの「実践哲学科」のコアカリキュラムに みるコンピテンシー さて、それではドイツ連邦共和国の学校においては、 「多様性の尊重」や「寛容」についてどのように教えら れているのだろうか。そこでの教育には、わが国の道 徳教育の在り方と比較し、どのような違いがあるのだ ろうか。ここでは、ノルトライン・ヴェストファーレ ン州(以下、NRW 州と表記)における実践哲学科コ アカリキュラム(2008 年版、現行)の内容を取り上げ よう6。NRW 州は、ドイツ全 16 州のうち、2019 年の 統計で 1766 万人という最大の人口を抱え、住民の 3 割 に相当する 544 万 9 千人が移民の背景を持つ7。移民の 小 学 校 第 5 学 年 及 び第 6 学 年 ( ) A 主 と し て 自 分 自 身 に 関 す る こ と 善 悪 の 判 断 、 自 律 、自 由 と 責 任 自 由 を 大 切 にし 、 自 律 的 に 判 断 し 、 責 任 の あ る 行動 を す る こ と 。 正 直 、 誠 実 誠 実 に 、 明 るい 心 で 生 活 す る こ と 。 節 度 、 節 制 安 全 に 気 を 付 け る こ と や 、 生 活 習 慣 の 大 切 さ に つ い て 理 解 し 、 自 分 の 生 活 を 見 直 し 、 節 度を 守 り 節 制 に 心 掛 け る こ と 。 個 性 の 伸 長 自 分 の 特 徴 を知 っ て 、 短 所 を 改 め 長 所 を 伸 ば す こと 。 希 望 と 勇 気 、 努 力 と強 い 意 志 よ り 高 い 目 標 を 立 て 、 希 望 と 勇 気 を も ち 、 困 難 が あ っ て も く じ け ず に 努 力 し て 物 事 を や り抜 く こ と 。 真 理 の 探 究 真 理 を 大 切 にし 、 物 事 を 探 究 し よ う と す る 心 を もつ こ と 。 B 主 と し て 人 と の 関 わ り に 関 す る こ と 親 切 、 思 い や り 誰 に 対 し て も 思 い や り の 心 を も ち 、 相 手 の 立 場 に 立 っ て 親 切 に す る こ と 。 感 謝 日 々 の 生 活 が 家 族 や 過 去 か ら の 多 く の 人 々 の 支 え 合 い や 助 け 合 い で 成 り 立 っ て い る こ と に感 謝 し 、 そ れ に 応 え る こ と 。 礼 儀 時 と 場 を わ きま え て 、 礼 儀 正 し く 真 心 を も っ て 接す る こ と 。 友 情 、 信 頼 友 達 と 互 いに 信 頼 し 、学 び 合 っ て 友 情 を 深 め 、異 性 に つ い て も 理 解 し な が ら 、 人 間 関 係 を築 い て い く こ と 。 相 互 理 解 、 寛 容 自 分 の 考 えや 意 見 を 相 手 に 伝 え る と と も に 、謙 虚 な 心 を も ち 、広 い 心 で 自 分 と 異 な る 意 見や 立 場 を 尊 重 す る こ と 。 C 主 と し て 集 団 や 社 会 と の 関 わ り に 関 す る こ と 規 則 の 尊 重 法 や き ま りの 意 義 を 理 解 し た 上 で 進 ん で そ れ ら を守 り 、自 他 の 権 利 を 大 切 に し 、 義 務 を 果た す こ と 。 公 正 、 公 平 、 社 会 正義 誰 に 対 し ても 差 別 を す る こ と や 偏 見 を も つ こ と なく 、公 正 、公 平 な 態 度 で 接 し 、 正 義 の 実現 に 努 め る こ と 。 勤 労 、 公 共 の 精 神 働 く こ と や社 会 に 奉 仕 す る こ と の 充 実 感 を 味 わ うと と も に 、そ の 意 義 を 理 解 し 、 公 共 の ため に 役 に 立 つ こ と を す る こ と 。 家 族 愛 、 家 庭 生 活 の充 実 父 母 、祖 父 母 を 敬 愛し 、家 族 の 幸 せ を 求 め て 、進 ん で 役 に 立つ こ と を す る こ と 。 よ り よ い 学 校 生 活 、集 団 生 活 の 充 実 先 生 や 学 校の 人 々 を 敬 愛 し 、み ん な で 協 力 し 合 って よ り よ い 学 級 や 学 校 を つ く と と も に、様 々 な 集 団 の 中 で の 自 分 の 役 割 を自 覚 し て 集 団 生 活 の 充 実 に 努 め る こ と 。 伝 統 と 文 化 の 尊 重 、国 や 郷 土 を 愛 す る 態 度 我 が 国 や 郷土 の 伝 統 と 文 化 を 大 切 に し 、先 人 の 努 力 を 知 り 、国 や 郷 土を 愛 す る 心 を も つ こと 。 国 際 理 解 、 国 際 親 善 他 国 の 人 々や 文 化 に つ い て 理 解 し 、日本 人 と し て の 自 覚 を も っ て 国 際 親 善 に 努 め る こ と 。 D 主 と し て 生 命 や 自 然 、 崇 高 な も の と の 関 わ り に 関 す る こ と 生 命 の 尊 さ 生 命 が 多 く の 生 命 の つ な が り の 中 に あ る か け が え の な い も の で あ る こ と を 理 解 し 、 生 命を 尊 重 す る こ と 。 自 然 愛 護 自 然 の 偉 大さ を 知 り 、 自 然 環 境 を 大 切 に す る こ と。 感 動 、 畏 敬 の 念 美 し い も の や 気 高 い も の に 感 動 す る 心 や 人 間 の 力 を 超 え た も の に 対 す る 畏 敬 の 念 を も つこ と 。 よ り よ く 生 き る 喜 び よ り よ く 生き よ う と す る 人 間 の 強 さ や 気 高 さ を 理解 し 、人 間 と し て 生 き る 喜 び を 感 じ る こと 。 表2 日本の学習指導要領「特別の教科 道徳」における第5、6学年の視点と 22 の内容項目一覧 〈小学校学習指導要領(平成 29 年 3 月告知)文部科学省より〉 出典:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編』pp.26-27。波線は筆者による。
増加に伴う宗教的、民族的、文化的多様化を背景にし て、同州では学校教育でもさまざまな試みが行われて いる。なお、このコアカリキュラムは教育課程の基準 として扱われており、日本の場合と比較するため、第 5、6 学年のコアカリキュラムにみるコンピテンシーを 表3に整理した8。 その特徴は、第一に、日本の小・中学校の学習指導 要領【特別の教科 道徳】では、「A 主として自分自身 に関すること」「B 主として人との関わりに関するこ と」「C 主として集団や社会との関わりに関すること」 「D 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関す ること」の四つの観点に即して「内容項目」が記述さ れていたが、ドイツの「実践哲学科コアカリキュラム」 では、「自己コンピテンシー」「社会コンピテンシー」 「事象コンピテンシー」「方法コンピテンシー」の4つ から整理されている9。こうした双方の枠組みは、「自 分」と「社会」という領域の区分において共通する部 分もあるが、ドイツの場合は、価値教育を担う実践哲 学科での専門的内容が「事象」コンピテンシーとして 明確にされている点が日本と異なる。さらにドイツの 場合、三つのコンピテンシーを、「結果を説明する」、 「意見と判断を根拠づける」、「対話の中で互いに耳を傾 け、互いに応答する」などの「方法コンピテンシー」 が支えるという構造的特徴がある。 第二に、この「方法コンピテンシー」とも関連するが、 ドイツの「実践哲学科コアカリキュラム」では、対話を 通して自己と他者との間で何がどのように異なるかを明 確に区別した上で、自分の感情や意見、さらには文化や 宗教について根拠づけ、説明できる能力が目指されてい る。例えば、日本の「生命や自然、崇高なもの」に関す る内容が、ドイツの場合、事象コンピテンシーにおいて、 「様々な宗教的行事の違いを区別して尊重する」、「文化的 および宗教的な多様性を確認し、説明する」のように、 専門的な知識を修得することばかりでなく、それらの「違 い」や「多様性」を区別したり、その背景にある価値に ついて説明したりする力を培うことが求められている。 第三に、「実践哲学科コアカリキュラム」では、「多 様性の理解」すなわち「多様な在り方」ないしは「差 異」を突き詰めていく、ということについては、「社会 コンピテンシー」において、「クラスメートや家族、他 の人などの感情や意見を理解し、それをまとめたり、 異なる視点を見分けたりすること」や、「事象コンピテ ンシー」において、「行動の背景に複数の価値があるこ とを理解するよう」求められている10。自分と他者の 違いという観点から、様々な宗教的行事に注意が向け られており、「文化的、宗教的な多様性について説明す る」能力なども養おうとしている。 3.日本とドイツの教科書の比較分析 本節では、前節でみた内容項目やコンピテンシーに 表れた道徳的諸価値が、日独の教科書においてどのよ うに具体化されているのか見ていこう。 自己コンピテンシー 児童生徒は ・ 自分自身の強みを表現する ・ 自分の感情を理解し、適切な状況で表現する ・ 「理性的な」行動と「理性的でない」行動とを区別 し、その分類の根拠を示す ・ 互いの対話の中で自分の意見を表現する ・ 自分の行動を他者に説明し、別の行動について話し 合う ・ 社会的文脈における自分自身の役割を具現する ・ 日常生活の中での自らの責任を省みる 社会コンピテンシー 児童生徒は ・ クラスメートや家族の感情、希望、意見を理解し、 描写する ・ 会話で他の人の話を聞いて、他の人の考えをまとめ る ・ 異なる視点を見分ける ・ 人生に対する様々な考え方について話し合い、評価 する ・ 協力することの意義を理解し、非暴力的な争い・葛 藤の解決方法を実践する ・ 事実と感情の誘因を区別する ・ 他者への責任を認識し、それらを省みる 事象コンピテンシー 児童生徒は ・ 自 分 の 生 活 に と っ て 社 会 的 現 象 が ど の よ う な 意 味 を持つかを理解する ・ メディアの自分なりの扱いを説明し、評価する ・ 哲学的問いとして、人間存在、世界での 行動、およ び自然との接し方への基本的な問いを確認する ・ 行動を説明し、行動の背景に複数の価値があること を理解する ・ 自分の知覚を説明し解釈する ・ 様々な宗教的行事の違いを区別して尊重する ・ 文化的および宗教的な多様性を確認し、説明する 方法コンピテンシー 児童生徒は ・ 周囲の環境を把握し、観察した結果を説明する ・ 簡単な哲学的および文学的なテキスト(おと ぎ話、 神話、寓話など)を倫理的、哲学的次元で読み解く ・ 似た言葉や仲間の言葉、概念領域を調べる ・ 意見と判断を根拠づける ・ 反事実的思考を巡らせる ・ 対話の中で互いに耳を傾け、互いに応答する ・ 哲学的な内容を含む簡潔な文章を書く 表3 ドイツの実践哲学科における第5、6学年修了時まで に獲得すべきコンピテンシー 〈2008 年版(現行)コアカリキュラムより〉
出典:Ministerium für Schule und Weiterbildung des Landes Nordrhein-Westfalen(Hrsg.)(2008), Praktische Philosophie: Kernlehrplan Sekundarstufe I in Nordrhein – Westfalen, S.18-20. 日本語版は「日独シンポジウム・ワークショップ「考え、 議論する」倫理・道徳教育の可能性と課題―ドイツと日本の 事例から考える― ワークショップ資料」研究代表者 濵谷 佳奈、2020年2月23日、7頁(濵谷訳)に若干の修正を加え た。なお、ハウプトシューレ、実科学校、総合制学校の生徒 が5、6学年修了時までに修得する必要のあるコンピテンシ ーを示した。波線は筆者による。
発行者(番号) 東京書籍 (2 ) 学校図書 (1 1 ) 教育出版 (1 7 ) 光村図書 (3 8 ) 日本文教出版 (116) 光文書院 (208 ) 学研 (224 ) 廣済堂あ かつき (232 ) 学年 6年 6 年 6 年 6 年 6 年 6 年 6 年 6 年 教科書名 『 新 し い 道 徳 6 』 『 小 学 校 道 徳 6 年 か が や け み ら い 』 『 小 学 道 徳 6 は ば た こ う 明 日 へ 』 『 道 徳 6 き み が い ち ば ん ひ か る と き 』 『 小 学 道 徳 生 き る 力 6 』 『 小 学 道 徳 ゆ た か な 心 6 年 』 『 み ん な の 道 徳 6 年 』 『 小 学 生 の 道 徳 み ん な で 考 え 、 話 し 合 う 』 資料名 銀 の し ょ く 台 高 と び の 選 手 は だ れ が な る ブ ラ ン コ 乗 り と ピ エ ロ み ん な お か し い よ ! 「 ダ ン 」 を ど う す る ? あ や ま っ て す む こ と じ ゃ な い お 別 れ 会 ブ ラ ン コ 乗 り と ピ エ ロ 収録頁 pp. 130 -134 pp. 78 -80 pp. 52 -57 pp. 52 -56 pp. 104 -107 pp. 172 -175 pp. 46 -49 pp. 7 -11 冒頭に 示さ れた 【学習の ねら い 】 みと め合う心 相互理解、寛容 同 じ 立場に な っ て 広い心を も っ て 社会にはさまざま な考え 方や意見をもって いる人 がいます。社会で の人間 関係のつくり方に ついて 考えてみましょう 。 理解し 合う た めに 友達とうまく理解 し合えなかっ たこと って、ある? 理解し 合う た い せつ さ ・友達と意見が くい ちがっ て考えが一つにま とまら ないとき、どんな 気持ち になりますか。 ・目の見えない犬 を拾っ た子どもたちは、 団地で 飼いたいと言いま す。団 地の規則を変えて まで許 可すべきなのでし ょう か。 広 い 心 で よりよい人間関係 を築 いていくために、 「広 い心」をもつこと が大 切です。あなたは 、 「広い心」をもっ てい ますか。 あ な た と私 二人のス タ ー 教科書の 単元末 に あ る 【学習活 動】の 内容 ・ミリエル司教が 憲兵に「思いちが いです。」と言っ たのは、どんな気 持ちからでしょう か。 ・ミリエル司教の 気持ちを考えなが らこの話を読ん で、あなたはどん なことを考えまし たか。 教科書で の 【学習活 動】は な い が 、 別冊 ノ ート に は 以下の よ う な 【学習活動】 があ る 。 【かんがえ よ う 】 競技大会の後 、並ん で話している二人 は、どんな気 持ちや 思いでいるでしょ う 【みつ めよ う 】 同じ立場にな っては じめて分かっ たとい う経験を発表 しまし ょう。 学びの手引き ①サムがブランコ から降 りたときに一時間 以上た っていることを知 ったピ エロは、どのよう な気持 ちだったでしょう 。 ②ピエロの心から サムを にくむ気持ちが消 えてし まったのは、どう してで しょう。 ③サーカスの最終 日、サ ムと共演している ときの ピエロの気持ちは 、どの ようなものだった のでし ょう。 ④このお話からど のよう なことを考えまし たか。 みんなの意見を聞 きなが ら話し合ってみま しょ う。 ジャン プ 夜がふけても話し 続けた サムとピエロは、 どのよ うな会話をしたの でしょ う。それぞれの立 場や思 いを考えてやって みまし ょう。 考え よ う 登場人物の言い分 を整理しまし ょう。 和花(私)→真紀 「それぐらい 言って もいいよ。」真紀 →和花「私の いった ことまちがってい る?」和花( 私)→ 絵里子「本当のこ とを言った、 友達が 減る。」絵里子→ 和花(私)「 相手に よって、言ってい ることが変わ る人 は、信用できない 。」絵里子→ 真紀 「言って居ること はまちがって ない。 でも、言い方がき ついんだよ。 」真紀 →絵里子「ありが と う」 ・和花(私)は、 どうして本当 のこと を言ったら友達が 減ると思って いるの でしょう。 ・どうして真紀は 、絵里子に「 ありが とう」といったの でしょう。 ・あなたも、相手 に自分の気持 ちを伝 えるのは難しいと 感じたことは ありま せんか。相手を理 解し合うため には、 どんなことに気を つければよい と思い ますか。 つな げよ う たがいに理解し合 うことって、 なぜ必 要なんだろう。理 解し合えない ままだ と、どうなってし まうかのかな 。 考え て みよ う 「子どもたちに教 えられ た」と言う役員た ちは、 どんな心がまえで どうす ることがたいせつ だと考 えているの だろう 。 見つ めよ う 生かそ う おたがいの意見や 考えが 異なり、いがみあ ってし まう人たちの心に 対し て、どんなことを 教えて あげるとよいかな 。 (本文の欄外 ) ・ 「ぼく」のがっか り した気持ちも、分 かる なあ。 ・ 「ぼく」は、自分 の 経験を思い出して 、ど う思ったのでしょ う か。 ・「ぼく」が学んだ 「大事なこと」と は、 どんなことなのか な。 (単元末 まとめ る) どうして「広い心 」が 大切なのでしょう か。 クラスで話し合い まし ょう。 (単元末 ひろげ る) あなたも「広い心 」 で、周りの人と接 して みましょう。 考え よ う ①どうして直美の も やもやした気持ち は、いっそう強く な っていったのでし ょ う。 ②自分が直美だっ た ら、この後どうし ま すか。 考え よ う 話し 合おう 学習の道すじ 立場も考え方も異 なるピエ ロとサムがたがい に理解す るようになる姿を 通して、 広い心で異なる意 見や立場 を尊重することの 大切さに ついて考える。 ・演技を終えたサ ムの姿を 見て、ピエロはサ ムのどん な心を理解したの でしょ う。 ・ピエロの話を聞 いて、サ ムはピエロのどん な心を理 解したのでしょう 。 ・意見や立場のち がう人た ちがたがいに分か りために は、どのようなこ とが大切 なのでしょう。 学習を 広げる このひ と こと 成功の秘けつとい ものがあ るとすれば、それ は、他人 の立場を理解し、 自分の立 場と同時に、他人 の立場か らも物事をみるこ とのでき る能力である。( アメリカ の実業家 ヘンリ ー・フォ ード) 備考 【別冊ノート】有 現代的な課題等 との関わりと して関 「いじめ問題、共 生」としてい る。 【別冊ノート】有 関連 性の ある 内容項 目 として 「友情、 信頼」 と している。 他の教科等 との主な 関連で「特別活動 学級や学校 の生活づ くり」としている 。 【別冊ノート】有 表4 小学校道徳教科書に収録された「相互理解、寛容」の教材比較 出典:小学校道徳教科書の「平成30年度検定の見本本」(全8社)を使用し、筆者が作成。なお、「相互理解、寛容」に関わる教材が二つ ある教科書については、文学作品ではなく、児童の日常生活における身近な話題 に近いものを採用した。教科書の記載順は、「教科書編修趣意書」(文部科学省ホームページhttps://www.mext.go.j p/a_menu/shotou/kyoukasho/tenji/1384939.htm、2020年9月1日閲覧)での発行者の番 号順とし た。太字は筆者による。
(1) 日本の教科書 ―「主として人との関わりに関 すること」の内容項目「相互理解、寛容」の教 材― 表4は、8社の小学校用道徳教科書に収録された「相 互理解、寛容」の教材を比較したものである。このう ち、第 6 学年の教科書『道徳6 きみがいちばんひかる とき』(光村図書)から、「みんなおかしいよ!」を取 り上げたい。同社のこの教材を選択した理由は、「相互 理解、寛容」の題材として友達と「理解し合う」がね らいとして掲げられ、以下で比較するドイツの教科書・ 教材との共通点が見出せるからである。 さて、まず、この教材が授業において、どのように 展開されることを期待されているのかを、同社から刊 行されている『学習指導書朱書編』(2020、以下、『朱 書編』)及び『学習指導書研究編』(2020、以下、『研究 編』)に基づいて確認していこう11。 この教材の登場人物は「私」(和花)、真紀、絵里子、 ユリの 4 人で、あらすじは以下のようなものである。 学級文庫の本を汚したユリを「あんたは、学級文庫使 用禁止!」と真紀が責めた(『朱書編』、p.106)。「私」 は言い方がきついと思ったが、真紀に同意してしまう。 二人の話を聞いてい た絵里子が「ちょっと変じゃな い」と言うのに対し、「私」は「本当のことを言った ら、友達が減っちゃうじゃない」と答える。昼休みに、 絵里子が真紀に「まちがっていないと思うけど、言い 方がちょっときついんだよ」と丁寧に言い聞かせると、 真紀は反省し、ユリに「ごめんね」と謝った。「私」は 納得できない思いを抱いた(『朱書編』、p.106)。教材 のねらいは、「友だちへの言い方がきつい真紀、真紀に 本当のことが言えない和花、和花の態度が信用できな い絵里子」の姿を通して、「相手と理解し合うために は、どんなことに気をつければよいのか」を考えさせ、 「自分の意見」を上手に相手に伝えるとともに、「広い 心で自分と異なる意見や立場を尊重」しようとする意 欲と態度を育てることにある、とされる(『朱書編』、 p.106、『研究編』、p.110)。さらに、「ねらいとする価 値」について、次のように詳述されている。 「現代社会では、国や地域という枠組みを越えた、多 様性の重要さがいわれている。性別や宗教、価値観な ど、一人一人の個性を尊重し、多様な意見を認め合うか らこそ生まれる新しい力によって、豊かな社会を実現す ることが求められる。ただ、何か問題が生じたとき、多 様な人々それぞれが、自分勝手な主張をしていたので は、その多様さゆえに、解決策や改善策をまとめること がより困難になる。互いの意見の共通点や相違点、そし て妥協点などを見極めつつ、新しい考えに昇華させるこ とが重要になる。自分の意見や考えをしっかりと相手に 伝えるとともに、相手の意見や考えに耳を傾け、相手の 立場や考えを尊重することが必要になってくる。それ は、身の回りの人間関係から、国際理解に至るまで、全 てのコミュニケーションに当てはまる大切な姿勢であ る。これからの社会の担い手となる児童に、互いに理解 し合おうとする意欲や態度を育みたい」(『研究編』、 p.110。ただし、下線は引用者による)。 上記には、「多様性の重要さ」が確かに説かれている が、下線部が示すように、「多様さ」の理由や背景を突 き詰めていくことよりも、「自分勝手な主張」を戒め、 「相手の立場や考えを尊重すること」や「違いに理解し 合おうとする意欲や態度」に力点があるように思われ る。そして、そのことは「着目すべき『学びの姿』」と して、図 1 のような学習の流れが示されていることか らも、読み取れよう。 ここには、「道徳的価値」の理解を基に、多面的・多 角的に考え、自己を見つめ、自己の生き方についての 考えを深めていくことが目指されているが、そこで大 事にされているのは、「自分と異なる意見や立場を尊重 すること」「相手の気持ちを理解しながら関わること」 「異なる考えをもつ相手を理解し尊重すること」「広い 心で異なる意見や立場を尊重すること」であり、異・な・ る・意・見・や・立・場・そ・の・も・の・よりも、異なる意見や立場を有 する相・手・の・気・持・ち・を・広・い・心・で・尊・重・す・る・こ・と・である。 そのことは、『学習指導書朱書編』(p.106)での教師 向けの「指導のヒント」及び『学習指導書研究編』 (p.113)での「授業の導入」として「相手が言ってい ることを素直に聞けなかったことはありますか。」(自 分がうまく聞けなかった例として)などと問うことも 考えられる」とも書かれていることなどからも、うか 図1 教材「みんな、おかしいよ!」での「着目すべき『学びの 姿』」 出典:『学習指導書研究編』、p.111。
がい知ることができよう。 (2) ドイツの教科書 ―問題領域「他者への問い」 の教材「共同体のなかの人間」― 前述のように、ドイツの「実践哲学科コアカリキュ ラムでは、対話を通して自己と他者との間で何がどの ように異なるかをはっきり区別したうえで、自分の感 情や意見を相手に説明できる能力の育成がめざされて いる。ここでは、日本での「相互理解、寛容」の教材 である「みんなおかしいよ!」(『道徳6 きみがいちば んひかるとき』光村図書)と比較可能な教材として、 邦訳がされている『ドイツの道徳教科書—5、6 年実践 哲学科』(ヘンケ、2019)に収録されている「ほかの人 はわたしとは違う」を取り上げよう12。以下、ドイツ の『学習指導書』に相当する Handreichungen(2010) 13を参照しながら、授業でどのように学習が行われよ うとしているのかを見ていこう。 『学習指導書』の冒頭には、「人間はそれぞれ異なっ ている(verschieden)。共に生きていく上では、互い の違いの間に橋をかけることが必要である。そのため、 互いに向かって歩み寄り、互いに傾聴し合い、互いの 立場になって考えることが求められる。なぜなら、『異 なっていること』の背景にはそれぞれ理由があるから である」とある(Handreichungen, S.32-34)。ドイツの 実践哲学科では、相互理解を深めるために、まず「異 なっていること」の内実に正面から向き合い、なぜ、 そのように違っているのを考えさせようしている。 この教材での登場人物は、「父親に虐待される少年、 児童労働に従事する少女、アルコールを摂取する少年、 食卓で家族と共に祈りを捧げる少女、視力を失った少 女」の五人である。そして、生徒に課す学習活動は、 五人の子どもの違いと共通点を考えたり、互いに何が 学べるのかを具体的な例を出して述べたり、さらには、 彼らに出会ったと仮定し、自分自身について何を伝え ることができるのかを考えさせる、というものである (ヘンケ、2019、pp.44-45)。 『学習指導書』で「授業づくりのポイント」を確認す ると、コアカリキュラム(表3)に掲げられたコンピ テンシーを参照しながら、子どもたちが次の 4 点をで きるようにすること(到達目標)が示されている (S.32)。すなわち、①「異なる生活状況を知り、それ がその人にどのような影響を与えているのかを話し合 うことで、人間の多様性(Verschiedenartigkeit)を理 解する」、②「その人が置かれた状況に共感することに よって、他者への理解を深める」、③「考えられる違い にもかかわらず、お互いにアプローチしてサポートす る方法について話し合う」、④「自分の生活状況につい て考え、他の人をサポートする方法についてのアイデ アを開発する」、である。 こうした目標(コンピテンシー)を実現するために、 『学習指導書』では3つの学習法の実践例が紹介されて いる(S.32-34)。一つ目は、「知ることによって違いを 減らす―例を集めて話し合う―」である。具体的な活 動としては、教材に登場する子どもたちのケースを読 んで、その特徴をホワイトボードに書き出したり、同 じような生活状況や背景を有する人々をインターネッ トで調べたりする。こうした活動を通じて、生徒は「自 分とは異質に見える人々」について学習して報告し合 い、「他の人の生活状況を詳しく知っているとしたら、 それは互いの生活にどのように作用しうるか」を議論 していく。二つ目は「ジグソーメソッドによるグルー プ学習―他の子どもたちはどのように生活しているか ―」である。まず、教材に登場する五人の子どもを「ホ ームグループ」内で分担し、五人の子どもの「経験」 を題材として、「子どもの権利条約」(同章の末尾に記 載)に即してどの権利が剥奪されているかなどを分析、 考察する。次に、同じ子どもを担当した生徒どうしが 集まって「エキスパートグループ」を作り、そこで報 告し合って一緒にワークシートに記入する。最後に、 元の「ホームグループ」に戻って、「エキスパートグル ープ」での学習活動の成果を比較し合う、という学習 方法である。三つ目は「サイコロを用いた作文遊び」 である。この学習方法は、サイコロの面に、教科書に 登場する子どもを象徴する言葉に加えて自分自身を表 す言葉を書き込み、サイコロを投げながら、「自分の物 語」をつくっていく、というユニークなものである。 どの学習方法も、多様性への理解とともに、他者への 共感力や想像力が試され、鍛えられるワークである。 以上、「ほかのひとはわたしとは違う」の特色を簡単 に紹介してみた。日独では社会環境や学校教育のあり 方が異なるので単純な比較はできないが、このドイツ の教材が 5 人の子どもたちのバックグランドがそもそ も大きく「異なること」から出発し、「どのように異な っているか」を確認した上で互いを理解し、具体的に 協働あるいは支援し合うことを目指していることが理 解されよう。生徒たちは、「・異・な・っ・た・人・々・の・個・々・の・状・ 況・」・ に・ア・プ・ロ・ー・チ・し・、・そ・う・し・た・人・々・と・の・交・わ・り・の・中・で・、・ 自・分・自・身・の・生・き・方・を・考・え・る・という方向で教材が編成さ れているのである。
4.日本とドイツの「多様性尊重」の理念とその展開 の比較からわかること―結びにかえて― 本稿では、日本の道徳科とドイツの実践哲学科の学 習指導要領と教科書に着目し、それぞれの特徴を明ら かにしようと試みた。その結果、「多様性の尊重」をめ ぐる日本とドイツの間の違いと共通点は次のように整 理できる。 まず、日本での「道徳的諸価値」とは、「善悪の判 断」「正直、誠実」「友情、信頼」「相互理解、寛容」 「社会正義」など学習指導要領の「内容項目」に示され た価値のことである。「・諸・」・ 価・値・と・「・複・数・形・」・ な・の・は・、・ 「・善・悪・の・判・断・」・「・正・直・、・ 誠・実・」・な・ど・こ・ど・も・た・ち・が・身・に・つ・ け・る・べ・き・「・価・値・・」が・複・数・あ・る・こ・と・を意味する。一方、ド イツの実践哲学科では、人・々・の・バ・ッ・ク・グ・ラ・ウ・ン・ド・(・民・ 族・、・ 宗・教・、・ 社・会・経・済・的・条・件・)・ の・違・い・に・由・来・す・る・複・数・の・ (・あ・る・い・は・多・様・な・・)「・善・」・や・「・正・義・」・があることが前提とさ れており、「道徳性を養う」(=コンピテンシーを身に つける)とは、そ・れ・ぞ・れ・の・バ・ッ・ク・グ・ラ・ン・ド・の・違・い・に・由・ 来・す・る・「・諸・価・値・」・の・「・根・拠・を・理・解・し・、・ 理・性・的・に・判・断・し・、・ 行・動・す・る・こ・と・」・に・あ・る・と言える。 次に、共通する点であるが、日本の道徳科では「主 体的対話的で深い学び」や「考え、議論する道徳」が 求められており、ドイツの実践哲学科でも「互いの対 話のなかで自分の意見を表現する」(自己コンピテンシ ー)や「対話の中で互いに耳を傾け、互いに応答する」 (方法コンピテンシー)が目指されていることを指摘で きよう(表3)。しかしながら、ドイツではそのベース に「『理性的な』行動と『理性的でない』行動とを区別 し、その分類の根拠を示す」(自己コンピテンシー)の ように、バックグランドが異なっても同じ人間である 以上、多様性を越えたところに「理性的な行動(思 考)」という前提がある。それに対し、「文学教材をも とにした登場人物の心情理解」の伝統と蓄積がある日 本では、相手の気持ちを推測・理解し、「広い心で自分 と異なる意見や立場を尊重」できる「道徳的心情や判 断、行動」にウエイトがあると判断される。 以上が限られた教科と教材についての分析であるこ との限界を踏まえつつ、最後に、今後の日本において 「多様性を尊重する」教育を進めていくための課題を2 点、指摘して結びにかえたい。 第一に、日本の「考え、議論する」道徳科の根幹に ある「道徳的諸価値」という枠組みがどのようなもの かを理解し、「多様性の尊重」という文脈の中での「あ るべき姿」を批判的に問い直すことである。例えば、 日本の道徳教育における「相互理解、寛容」は、子ど もたちが身につけるべき道徳的諸・価値の1つであり、 「広い心で異なる意見を尊重すること」そのものに「道 徳的な価値」があると見なされる。端的に言えば、「互 いの意見がなぜ、異なるのか」への深い理解がなされ ないままで、ともかく、「相互理解、寛容が大事」と子 どもたちに教えられてしまう恐れがないとは言い切れ ない。そうであれば、「考え、議論する」道徳は言葉だ けのものとなってしまう。 第二に、そうした日本の文化的・社会的背景に裏打 ちされた特徴も理解ししつつ、多様性の尊重やインク ルーシブ教育のあり方が議論される中、「多様性の尊 重」を実現するための教授学習方法を、道徳教育の領 域だけでなく、学校教育全体の中で構築していくこと が必要であろう。今回の分析作業により、日本の場合、 「寛容」という価値にプライオリティがあり、それが 「多様性」を包み込む形で機能していることがドイツと の対比により鮮明になったが、「多様性の根拠への理性 的な理解、判断」に関する教育が弱い傾向が垣間見え てきた。こうした傾向は、道徳科に留まらず、他教科 やその他の教育活動でも同様に認められるかもしれな い。それらの分析は筆者らの次の課題でもある。 [付記] 本研究は、科学研究費補助金(JSPS科研費19K02771) の助成を受けた研究成果の一部である。なお、ドイツ については濵谷が、日本については井上が主として担 当しつつ、全体を著者同士で協議しながら執筆した。 註 1 年代ごとの学習指導要領については、国立教育政 策研究所「学習指導要領データベース」(https:// www.nier.go.jp/guideline/)を利用した(閲覧日2020 年8月1日)。表 1 では、小学校の場合を取り上げ る。 2 ここでは、「他者」に対置する語として「自己」を 取り上げる。「自己」と類似する語に「自分」があ るが、「自分」については 1958 年版から 2017 年版 に至るまで、それぞれ複数回言及がある。 3 以降、1977 年でも同様であるが、1989 年及び 1998 年の中学校学習指導要領【道徳】には「それぞれ の個性や立場を尊重し、いろいろなものの見方や 考え方があることを理解し(て)、謙虚に他に学ぶ 広い心をもつ」へと言い換えられている。その後、 2008 年に「それぞれの個性や立場を尊重し、いろ いろなものの見方や考え方があることを理解して、
寛容の心をもち謙虚に学ぶ」へと変更され、「寛 容」が再び使用されている。 4 一方、中学校学習指導要領【道徳】では、1958 年 に「集団生活」、「人格」、「異性」、「家族員」、「集 団の成員」、「国際社会の一員」との関連で言及が 見られる。1969 年版以降はこれらに「教師と生 徒」や「生徒相互」、「友達」が加わり、1989 年版 からは「各教科等及び各学年相互」、「学校相互」 の表現が見られ、「家庭や地域社会」との「相互」 連携にも言及が始まる。 5 文部科学省『小学校学習指導要領(平成 29 年告示) 解説 特別の教科 道徳編』平成 29 年7月、p.26。 6 実践哲学科コアカリキュラムの目標は、「生徒が人 間存在の意味への問いに対する応えを探究し、民 主的な社会において自律的に責任を自覚し、寛容 の精神を持って生活を営むことができるよう、真 理を様々な次元においてよりきめ細かに捉え、体 系的に意味と価値の問題に取り組むことができる コンピテンシーを育成する」と謳う(濵谷 2020、 p.155)。「寛容の精神」が生活を営む上での前提と され、そのために「様々な次元」で真理を捉えよ うとする姿勢が求められている。 7 連邦統計局資料 Bevölkerung in Privathaushalten 2019 nach Migrationshintergrund Stand 28. Juli 2020 h t t p s : / / w w w . d e s t a t i s . d e / D E / T h e m e n / Gesellschaft-Umwelt/Bevoelkerung/Migration- Integration/Tabellen/migrationshintergrund-laender.html 参照(2020 年 9 月1日閲覧)。 8 ドイツの 16 州のうち 14 州では、基礎学校(初等 教育段階)は第4学年までであり、第5学年と第 6学年は前期中等教育段階に位置づく。ベルリン とブランデンブルクの2州では、基礎学校が第6 学年までである。 9 坂野(2018、p.52)によれば、ドイツにおけるコ ンピテンシーモデルは、職業教育学を基盤として 事象、方法、社会及び個人の各コンピテンシーの 4 つの概念で主に整理されてきたが、事象コンピ テンシーは、日本の①知識・技能と、方法コンピ テンシーは日本の②「思考力・半力・表現力等」 と、個人コンピテンシーは、日本の③「学習意欲」 と、それぞれ重なる部分もある。 10 これら第5、6学年で獲得されたコンピテンシー は、前期中等教育の最終段階である第9、10 学年 (ハウプトシューレ、実科学校、総合制学校)で は、例えば「様々な世界観による価値態度をリフ レクションし比較する、そしてそれらと寛容につ き合う」(S.24)という到達目標へと発展する。ギ ムナジウムの場合、第7、8、9学年では、「他者 の行いの動機と意図に関与し、互いの日常のやり とりの中で批判的に受容する姿勢を発達させる」 (S.31)へと発展する。 11 以下、学習指導書(朱書編と研究編)からの引用 は『朱書編』、『研究編』と略記し、ページ数を記 す。なお、学習指導書は、「教科書編集の意図を明 らかにし、教材研究や授業構想、授業改善の一助 となることを目ざしてい」(『研究編』、p.4)るも のであり、そこには、出版社のこの教材への理解 を見ることができる、という意味において、重要 な資料と見なされる。 12 『ドイツの道徳教科書』(ヘンケ、2019)に収録さ れた「他者への問い」に関する教材は、全 10 章の うち 2 章に渡り、合計 12 の教材から編成されてい る。特に、日本の「相互理解・寛容」と比較可能 な教材として、第2章「共同体のなかの人間」に 収められた「ほかの人はわたしとは違う」と「心 のかっとう」の二つが挙げられる。 13 Henke 他(2010)。邦訳はまだないが、本稿では 筆者による試訳を用いる。 参考文献
Henke, R. W., Sewing, E.-M., Wiesen, B.(Hrsg.) (2009), Praktische Philosophie
Nordrhein-Westfalen, Band 1, Cornelsen, Berlin.
Henke, R. W., Sewing, E.-M., Wiesen, B. (Hrsg.) (2010), Praktische Philosophie NRW, Band 1,
Handreichungen für den Unterricht mit Kopiervorlagen, Cornelsen, Berlin.
Ministerium für Schule und Weiterbildung des
Landes NRW(Hrsg.)(2008), Praktische
Philosophie: Kernlehrplan Sekundarstufe I in NRW. 井上健(2016)「「インクルーシブ教育システム」とは 何か : 学校や教員に求められる変化を中心に」『東 京都市大学共通教育部紀要』第 9 号、p.79-94. 坂野慎二(2018)「教育の目的・目標と教育課程に関す る一考察―日本とドイツのコンピテンシー理解を 中心に―」『玉川大学教育学部紀要』第 18 号、 pp.33-57. 『小学校学習指導書6(朱書編、研究編)』(2020)、光
村図書 . 濵谷佳奈(2020)『現代ドイツの倫理・道徳教育にみる 多様性と連携―中等教育の宗教科と倫理・哲学科 との関係史―』風間書房 . 藤井基貴、宮本敬子、中村美智太郎(2013)「道徳教育 の内容項目『寛容』に関する基礎的研究」『静岡大 学教育学部研究報告』pp.123-134. ヘンケ ,R.W. 編集代表(2019)『ドイツの道徳教科書― 5、6 年実践哲学科の価値教育』(濵谷佳奈監訳、 栗原麗羅・小林亜未訳)明石書店。 宮崎元裕(2018)「多様性を尊重する道徳教育 : 自他の 理解と対話・交渉に基づく道徳教育の方法」『京都 女子大学発達教育学部紀要』第 14 号(1)、pp.45-54.
Basic Research on the Philosophy of "Respecting Diversity"
in Compulsory Education and its Development :
Focusing on the Curriculum Guidelines and Textbooks
in Postwar Germany and Japan
Faculty of Childhood Education, Department of Childhood Education
Kana HAMATANI
Tokyo City University
Takeshi INOUE
Abstract
The purpose of this paper is to compare the philosophy of “Respecting Diversity” and its development in Germany and Japan, by focusing on the Curriculum Guidelines and typical textbooks from post-World War II.
As a result of consideration, the following two points are clarified: First, in Japan, “developing morality” means having children acquire “moral values(content items)”, whereas, “developing morality” (acquiring competencies) in Germany means “to understand the rationale for the values that come from different backgrounds, to make rational decisions, and to act”. Secondly, in Germany, there are the following assumptions: Even if the backgrounds are different, as long as they are human beings, they can understand each other beyond diversity if they are rational, and it is also supposed that they take "rational actions (thinking)". This can be seen from the "self-competency" which includes “distinguishing between rational behavior and unreasonable behavior, and explaining the basis of the classification” as the basis of dialogue and discussion. In contrast, in Japan, it is judged that "to be tolerant of individual diversity" is prioritized by "acquiring moral values" in comparison with Germany.