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アジアの糖化微生物を用いた米発酵物の成分組成および抗酸化活性 : 微生物種の違いによる比較

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(1)

アジアの糖化微生物を用いた米発酵物の成分組成お

よび抗酸化活性 : 微生物種の違いによる比較

著者

稲垣 秀一郎

雑誌名

大阪樟蔭女子大学研究紀要

9

ページ

291-297

発行年

2019-01-31

URL

http://id.nii.ac.jp/1072/00004344/

(2)

背景・目的 米は、我が国の最も重要な作物として古来より栽培 されてきたが、食形態の欧米化によりその消費量は近 年大幅に低下している。1-2)そのため、日本における 米の需要と供給のバランスを今後維持していくために は、新たな用途開発が求められる。 米麹は、醤油や味噌、酒、みりんなど日本に根づく 発酵食品の材料として必要不可欠である。日本で製造 される米麹はAspergillus属の糸状菌を米粒に生育させ た散麹(ばらこうじ)であるが、アジア諸国には Rhizopus属の糖化微生物を用いたインドネシアの RagiやMucor属を用いたベトナムのbah menなど、水 を加えた米粉に菌を接種して発酵させた多種多様な餅 麹(もちこうじ)が存在している3-6)。そこで、この ような餅麹の製造に用いられるアジアの糖化微生物を 散麹の開発に利用することで米麹の種類に多様さを与 えることができれば、米の消費拡大に貢献しうると考 えた。 既報7)において、計 8 種類の糖化微生物を用いてそ れぞれの純粋培養により米の発酵物を調製し、それら のメタノール抽出率、還元糖、グルコース、総アミノ 酸、総ポリフェノール含量、および抗酸化活性を測定 した。本報告ではさらに 5 種類の糖化微生物の結果を 加え、また、各発酵物中のグルコース含量を測定する ことで、還元糖中におけるグルコースの割合について も言及した。これらの結果をふまえ、微生物種の近縁 性とそれらの成分および活性値に関連性が見られるか について考察した。 方法 1 .供試材料 コシヒカリ(玄米)は株式会社マイセンより購入し た。糖化微生物(Aspergillus awamori NBRC 4388、 Aspergillus kawachi NBRC 4308、 Aspergillus oryzae NBRC 30113、Aspergillus sojae NBRC 33084、 Monascus pilosus NBRC 4520、Mo. pilosus NBRC 4502、Absidia corymbifera NBRC 32279、Mucor circinelloides NBRC 4554、Rhizopus oryzae NBRC 4706、R. oligosporus NBRC 8631、Saccharomycopsis fibrifera NBRC 1665)は独立行政法人 製品評価技術 基盤機構バイオテクノロジーセンターより購入した。 また、市販麹菌(As.oryzae)は株式会社 ビオックお よ び 株 式 会 社 菱 六(長 白 菌)か ら 購 入 し た。As. oryzaeは我が国において清酒の製造等に用いられてい る微生物である。As. sojaeは醤油麹カビといわれ、醤 油 製 造 に 用 い る こ と の あ る 微 生 物 で あ る。As. awamori、As. kawachiは焼酎や泡盛の製造に用いら れる微生物である。Mo. pilosusは紅麹カビといわれ、 - 291 - 大阪樟蔭女子大学研究紀要第 9 巻(2019) 研究論文

アジアの糖化微生物を用いた米発酵物の成分組成および抗酸化活性

―微生物種の違いによる比較―

健康栄養学部 健康栄養学科 稲垣 秀一郎

要旨:筆者は、米の用途拡大を目指し、アジア諸国で見出された糖化微生物を用いて新規米麹の開発を試みている。 本研究では、13 種の糖化微生物を用いて調製した発酵物の還元糖、グルコース、総アミノ酸、総ポリフェノール含 量、および抗酸化活性の比較を行い、用いられた微生物の分類と上記成分および活性値に関係性が見られるかについ て調査した。その結果、微生物分類の近縁性と測定した成分および活性値との間に明確な関係性は見られず、近縁種 でも酵素活性や物質生産能が異なり、発酵物に備わる生理活性に大きな差が生じているものと考えられた。また、原 料として玄米および白米を用いた発酵物を比較することにより発酵の進行度を推測するとともに、米糠層に含まれる 成分の抗酸化活性値に与える影響について考察した。その結果、白米の方がより発酵が進んでいること、そして、発 酵物に見られる抗酸化活性の上昇は米糠中の成分に由来するものだけではなく、微生物の代謝産物にも大きく依存す ることが示唆された。 キーワード:米麹、糖化微生物、成分含量、抗酸化活性

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豆腐ようや中国の紅酒の製造に用いられている。Ab. corymbiferaおよびMu. circinelloidesは毛カビ属に分 類され、東南アジアの餅麹から分離された糖化微生物 である。R. oryzaeおよびR. oligosporusはクモノスカ ビ属に分類され、R. oryzae は東南アジアの餅麹から 分離された糖化微生物であり、R. oligosporusはイン ドネシアのテンぺの製造に用いられている。 2 .試薬 α - ア ミ ラー ゼ、1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)、2- (N-morpholino) ethanesulfonic acid (MES)、Dimethyl sulfoxide(DMSO)、ニンヒドリ ン、ヒドリンダンチン、2-メトキシエタノール、グル コース測定キット(ラボアッセイTMグルコース)は 和 光 純 薬 株 式 会 社 か ら、Potate dexitorose agar (PDA)は関東化学株式会社から購入した。その他 の試薬は全て和光純薬工業株式会社から購入した。 3 .微生物の培養 PDA寒天培地(3.9 g/100 ml)に菌体を接種し、 30℃で胞子を形成するまで約 1 週間培養した。 4 .米発酵物の調製 粉砕した玄米 20 gおよび純水 100 mlを500 ml容三角 フラスコの中で混合し、オートクレーブ処理(121 ℃,20 分)したものを米培地とした。培養した微生 物 の 胞 子 を 綿 棒 で 滅 菌 水 に 懸 濁 し、1.0 × 106 CFU/mlとした菌液 0.5 mlを米培地に接種後、30 ℃ で 7 日間静置した。また、米培地のアミラーゼ処理 は、2 mg/mlアミラーゼ溶液 5 mlを米培地に添加後、 30 ℃で 24 時間静置することにより行った。白米を用 いたAs. oryzae発酵物の調製は、上記の玄米 20 gを白 米 20 gに代替し、それ以外の処理は同様に行った。 この際には、株式会社 菱六から購入したAs. oryzaeを 発酵に用いた。 5 .抽出物の調製 液状化した発酵物の凍結乾燥物および 200 mlのメ タノールを 500 ml容三角フラスコ内で混合し、振と う培養器を用いて 100 rpm/minで 24 時間撹拌浸漬し た。濾過により浸漬物から固形物を除いた後、その濾 液を減圧濃縮および凍結乾燥したものをメタノール抽 出画分とした。メタノール抽出率は以下の式により求 めた。 メタノール抽出率 = メタノール抽出物量 (g) / 発酵物の凍結乾燥物量 (g) × 100 メタノール抽出画分の一部を純水に溶解し、等量の 酢酸エチルを加えて分配抽出を行った後、酢酸エチル および純水を減圧濃縮または凍結乾燥により除いたも のをそれぞれ酢酸エチル抽出画分および水抽出画分と した。各抽出画分は 100 mg/mlになるようにDMSO に溶解して各試験に用いた。 6 .還元糖量の測定 ソモギーネルソン法を一部改変して行った7)。2 ml のマイクロチューブに超純水 245 μl、試料 5 μl、お よびソモギー試薬 250 μlを混合し、沸騰水中で 10 分 間煮沸後、氷水中で冷却した。続いて、ネルソン試薬 250 μlを添加してよく混合後、蓋を開けて 15 分間室 温に静置した。そのうち 100 μlを 96 穴マイクロプレ ー ト に 移 し、マ イ ク ロ プ レー ト リー ダー(iMark; Bio-Rad社)を用いて 655nmの吸光度を測定した。各 試料の還元糖量測定は、グルコース標準液を用いて作 成した検量線から求めた。なお、試料は発酵物のメタ ノール抽出画分(100 mg/ml)を用いた。 7 .グルコース含量の測定 グルコース測定キットの説明書に記載されている方 法を一部改変して行った。96 穴マイクロプレートに 試料 1 μlおよび発色剤 150 μlを添加し、よく混合し た。37 ℃で 5 分間静置した後、540 nmの吸光度を測 定した。各試料のグルコース含量測定は、グルコース 標準液を用いて作成した検量線から求めた。なお、試 料は発酵物のメタノール抽出画分(100 mg/ml)を用 いた。 8 .総アミノ酸含量の測定 ムーアらの方法を一部改変して行った8)。1.5 mlの マイクロチューブに試料溶液 5 μlおよびニンヒドリ ン試薬 100 μlを混合し、沸騰水中で 10 分間煮沸後、 氷水中で冷却した。そのうち 100 μlを 96 穴マイクロ プレートに移し、595 nmの吸光度を測定した。各試 料の総アミノ酸含量測定は、アラニン標準液を用いて 作成した検量線から求めた。なお、試料は発酵物のメ タノール抽出画分(10または100 mg/ml)を用いた。 9 .総ポリフェノール含量の測定 フォーリンチオカルト法9)により行った。96穴マイ - 292 - - 293 -

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クロプレートに超純水 57.5 μl、試料溶液 5 μl、お よびフォーリン試薬 12.5 μlを添加後よく混合し、 3 分間室温に静置した。続いて、10 %炭酸ナトリウム を 25 μl添加後、よく混合し、30 分間室温に静置し た後、655 nmの吸光度を測定した。各試料の総ポリ フェノール含量測定は、コーヒー酸標準液を用いて作 成した検量線から求めた。なお、試料は発酵物の酢酸 エチル抽出画分(10または100 mg/ml)を用いた。 10.DPPHラジカル消去活性 既報10)に準じて行った。すなわち、40 μlの試料溶 液および 10μlのMESバッファー(pH 6.0)を 96 穴 マイクロプレートに添加後、50 μlのDPPH溶液(0.5 mg/ml)を加えてよく撹拌し、30 分後の 540 nmの吸 光 度 を 測 定 し た。試 料 溶 液 添 加 お よ び 無 添 加 (DMSOを添加)時の吸光度を用い、以下の計算式 によりDPPHラジカル残存率を求めた。本値は、低い 値ほど活性が高いことを示している。なお、試料は発 酵物の酢酸エチル抽出画分(10または 100 mg/ml) を用いた。 DPPHラジカル残存率 = 試料添加時の吸光度/試料無添加時の吸光度×100 11.統計処理 本研究における試験結果の数値は、3 検体の平均値 ±標準誤差で表した。(表 1 および 2 の結果を除く) 実験結果および考察 1 .メタノール抽出率 発酵の進行度の指標として、発酵物からのメタノー ル抽出率を求めた10)。表 1 に示すように、Aspergillus 属の微生物はAs. sojaeを除いて高い値(30 %以上)を 示したが、As. oryzaeの 3 種の間にも大きな差が見ら れた。また、Monascus属の 2 種の間にも大きな差が 見られた。これらの結果から、発酵の進行度は、近縁 種でも大きく異なることが示唆された。 2 .還元糖量 各微生物による米の糖化度の指標として、発酵物中 の還元糖量を求めた。調製した米発酵物 13 種類のう ち、紅麹菌であるMo. pilosus 4520(赤色色素非生産 株)で最も高い値であったのに対し、色素生産株であ る Mo. pilosus 4502 で は 極 め て 低 い 値 を 示 し た。 Aspergillius属では、As. sojaeを除いて全て 100 mg/g 以上と高い値を示した。また、市販品のAとBにおい て 大 き な 差 が み ら れ た。毛 カ ビ 属 で あ る Ab. corymbiferaおよびMu. circinelloidesでは極めて低い 値であった(図 1 )。米麹製造には糖化能の高い微生 物が適しているため、本研究結果はその指標となりう る。本結果から、麹(散麹)製造に適している糖化微 生物が必ずしもAspergillus属に限らないことが示され た。 3 .グルコース含量 味噌や醤油、酒等の発酵食品の製造に用いられる発 酵微生物はグルコースを栄養源にして増殖するため、 発酵物中のグルコース含量は米麹の品質を大きく左右 する。よって、上記した還元糖量に続いて、発酵物中 - 292 - - 293 -

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以下の計算式によりDPPH ラジカル残存率を求めた。本値 は、低い値ほど活性が高いことを示している。なお、試料は 発酵物の酢酸エチル画分(10 または 100 mg/ml)を用いた。 DPPH ラジカル残存率 = 試料添加時の吸光度 / 試料無添加時の吸光度 × 100 11.統計処理 本研究における試験結果の数値は、3 検体の平均値±標準 誤差で表した。(表1および2の結果を除く) 実験結果および考察 1.メタノール抽出率 発酵の進行度の指標として、発酵物からのメタノール抽出 率を求めた10)。表1に示すように、Aspergillus属の微生物

は As. sojae を除いて高い値(30%以上)を示したが、As. oryzaeの3 種の間にも大きな差が見られた。また、Monascus 属の2 種の間にも大きな差が見られた。これらの結果から、 発酵の進行度は、近縁種でも大きく異なることが示唆された。 表1 各発酵物のメタノール抽出率 2.還元糖量 各微生物による米の糖化度の指標として、発酵物中の還元 糖量を求めた。調製した米発酵物13 種類のうち、紅麹菌で あるMo. pilosus 4520(赤色色素非生産株)で最も高い値で あったのに対し、色素生産株であるMo. pilosus 4502 では極 めて低い値を示した。Aspergillius属では、As. sojae以外で 100 mg/g と高い値を示した。また、市販品の A と B で大き な差がみられた。毛カビ属である Ab. corymbifera および Mu. circinelloidesは極めて低い値であった(図1)。米麹製 造には糖化能の高い微生物が適しているため、本研究結果は その指標となりうる。本結果から、麹製造に適している糖化 微生物が必ずしもAspergillus属に限らないことが示された。 図1 各発酵物の還元糖量の比較 3.グルコース含量 味噌や醤油、酒の製造に用いられる発酵微生物はグルコー スを栄養素として増殖するため、発酵物中のグルコース含量 は米麹の品質を大きく左右する。よって、上記した還元糖量 に続いて、発酵物中のグルコース含量を測定した(図2)。 また、還元糖量中に含まれるグルコースの割合を表2に示し た。全試料のうち、R. oryzaeを用いた発酵物は還元糖量お よびグルコース量がともに高い値を示したことから、As. oryzaeとともに米麹(散麹)製造に適している可能性が示さ れた。 図2 各発酵物のグルコース含量の比較 図 1 各発酵物の還元糖量の比較

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よく撹拌し、30 分後の 540 nm の吸光度を測定した。試料溶 液添加および無添加(DMSO を添加)時の吸光度を用い、 以下の計算式により DPPH ラジカル残存率を求めた。本値 は、低い値ほど活性が高いことを示している。なお、試料は 発酵物の酢酸エチル抽出画分(10 または 100 mg/ml)を用 いた。 DPPH ラジカル残存率 = 試料添加時の吸光度 / 試料無添加時の吸光度 × 100 11.統計処理 本研究における試験結果の数値は、3 検体の平均値±標準 誤差で表した。(表1および2の結果を除く) 実験結果および考察 1.メタノール抽出率 発酵の進行度の指標として、発酵物からのメタノール抽出 率を求めた10)。表1に示すように、Aspergillus属の微生物

は As. sojae を除いて高い値(30%以上)を示したが、As. oryzaeの3 種の間にも大きな差が見られた。また、Monascus 属の 2 種の間にも大きな差が見られた。これらの結果から、 発酵の進行度は、近縁種でも大きく異なることが示唆された。 表1 各発酵物のメタノール抽出率 2.還元糖量 各微生物による米の糖化度の指標として、発酵物中の還元 糖量を求めた。調製した米発酵物13 種類のうち、紅麹菌で あるMo. pilosus 4520(赤色色素非生産株)で最も高い値で あったのに対し、色素生産株であるMo. pilosus 4502 では極

めて低い値を示した。Aspergillius属では、As. sojaeを除い て全て100 mg/g 以上と高い値を示した。また、市販品の A と B において大きな差がみられた。毛カビ属である Ab. corymbifera およびMu. circinelloidesでは極めて低い値で あった(図1)。米麹製造には糖化能の高い微生物が適して いるため、本研究結果はその指標となりうる。本結果から、 麹 ( 散 麹 ) 製 造 に 適 し て い る 糖 化 微 生 物 が 必 ず し も Aspergillus属に限らないことが示された。 図1 各発酵物の還元糖量の比較 3.グルコース含量 味噌や醤油、酒等の発酵食品の製造に用いられる発酵微生 物はグルコースを栄養源にして増殖するため、発酵物中のグ ルコース含量は米麹の品質を大きく左右する。よって、上記 した還元糖量に続いて、発酵物中のグルコース含量を測定し た(図2)。また、還元糖量中に含まれるグルコースの割合 を表2に示した。全試料のうち、R. oryzaeを用いた発酵物 は還元糖量およびグルコース量がともに高い値を示したこ とから、As. oryzaeとともに米麹(散麹)製造に適している 可能性が示された。 表 1 各発酵物のメタノール抽出率

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のグルコース含量を測定した(図 2 )。また、還元糖 量中に含まれるグルコースの割合を表2に示した。全 試料のうち、R. oryzaeを用いた発酵物は還元糖量お よびグルコース量がともに高い値を示したことから、 As. oryzaeとともに米麹(散麹)製造に適している可 能性が示された。 4 .総アミノ酸含量 調製した米発酵物中の総アミノ酸含量はAs. oryzae NBRC 30113 およびMu. circinelloidesで極めて高い値 を示した(図 3 )。また、 3 種類のAs. oryzaeの間で アミノ酸含量は大きく異なり、同属間においてもタン パク質分解能に大きな差があることが示唆された。 5 .総ポリフェノール含量 本試験には発酵物の酢酸エチル抽出画分を用い、疎 水性のポリフェノールを検出対象とした。図 4 に示し たように、総ポリフェノール含量は各発酵物の間で大 き く 異 な り、そ の 中 で As. awamori、Mo. pilosus NBRC4502 で高い値を示した。一方、Ab. corymbifera では極めて低い値であった。穀物の発酵によるポリフ ェノール含量の増加については、米糠層に含まれるタ ンパク質結合性のポリフェノールが発酵により遊離す ることに起因するとの報告がある11)。本研究におけ るポリフェノール含量の増加も、同様の原因が考えら れるが、微生物の生成物に由来する可能性も考えられ るため、後述において、原料に玄米および白米を用い た際の発酵物中の成分および抗酸化活性について比較 をした。 - 294 - - 295 -

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以下の計算式によりDPPH ラジカル残存率を求めた。本値 は、低い値ほど活性が高いことを示している。なお、試料は 発酵物の酢酸エチル画分(10 または 100 mg/ml)を用いた。 DPPH ラジカル残存率 = 試料添加時の吸光度 / 試料無添加時の吸光度 × 100 11.統計処理 本研究における試験結果の数値は、3 検体の平均値±標準 誤差で表した。(表1および2の結果を除く) 実験結果および考察 1.メタノール抽出率 発酵の進行度の指標として、発酵物からのメタノール抽出 率を求めた10)。表1に示すように、Aspergillus属の微生物

は As. sojae を除いて高い値(30%以上)を示したが、As. oryzaeの3 種の間にも大きな差が見られた。また、Monascus 属の2 種の間にも大きな差が見られた。これらの結果から、 発酵の進行度は、近縁種でも大きく異なることが示唆された。 表1 各発酵物のメタノール抽出率 2.還元糖量 各微生物による米の糖化度の指標として、発酵物中の還元 糖量を求めた。調製した米発酵物13 種類のうち、紅麹菌で あるMo. pilosus 4520(赤色色素非生産株)で最も高い値で あったのに対し、色素生産株であるMo. pilosus 4502 では極 めて低い値を示した。Aspergillius属では、As. sojae以外で 100 mg/g と高い値を示した。また、市販品の A と B で大き な差がみられた。毛カビ属である Ab. corymbifera および Mu. circinelloidesは極めて低い値であった(図1)。米麹製 造には糖化能の高い微生物が適しているため、本研究結果は その指標となりうる。本結果から、麹製造に適している糖化 微生物が必ずしもAspergillus属に限らないことが示された。 図1 各発酵物の還元糖量の比較 3.グルコース含量 味噌や醤油、酒の製造に用いられる発酵微生物はグルコー スを栄養素として増殖するため、発酵物中のグルコース含量 は米麹の品質を大きく左右する。よって、上記した還元糖量 に続いて、発酵物中のグルコース含量を測定した(図2)。 また、還元糖量中に含まれるグルコースの割合を表2に示し た。全試料のうち、R. oryzaeを用いた発酵物は還元糖量お よびグルコース量がともに高い値を示したことから、As. oryzaeとともに米麹(散麹)製造に適している可能性が示さ れた。 図2 各発酵物のグルコース含量の比較 図 2 各発酵物のグルコース含量の比較 表 2 各発酵物中の還元糖量中に含まれる グルコースの割合(%)

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表2 各発酵物中の還元糖量中に含まれる グルコースの割合 4.総アミノ酸含量 調 製 し た 米 発 酵 物 中 の 総 ア ミ ノ 酸 含 量 は As. oryzae NBRC 30113 およびMu. circinelloidesで極めて高い値を示 した(図3)。また、3 種類のAs. oryzaeの間でアミノ酸含 量は大きく異なり、同属間においてもタンパク質分解能に大 きな差があることが示唆された。 図3 各発酵物の総アミノ酸含量の比較 5.総ポリフェノール含量 本試験には発酵物の酢酸エチル抽出画分を用い、疎水性の ポリフェノールを検出を試みた。図4に示したように、総ポ リフェノール含量は各発酵物の間で大きく異なり、その中で

As. awamori、Mo. pilosus NBRC4502 で高い値を示した。 一方でAb. corymbiferaでは極めて低い値であった。穀物の 発酵によるポリフェノール含量の増加については、米糠層に 含まれるタンパク質結合性の総ポリフェノールが発酵によ り遊離することに起因するとの報告がある11)。本研究におけ るポリフェノール含量の増加も、同様の原因が考えられるが、 微生物の生成物に由来する可能性も考えられるため、後述に より、原料として玄米および白米を用いた際の発酵物中の成 分および抗酸化活性の比較を行った。 図4 各発酵物の総ポリフェノール量の比較 6.DPPH ラジカル消去活性 抗酸化活性の指標としてDPPH ラジカル消去活性を測定 した。図5に示したように、焼酎製造に用いられる As.

awamoriで極めて高い活性を示した。また、As. oryzaeの3 種で活性が大きく異なり、ポリフェノール含量と相関するこ とが示された。As. awamoriを用いた発酵物の生理活性につ いてはいくつかの報告がある。たとえば、泡盛の発酵残渣か ら ethyl 2-pyrrolidione-5-carboxylate や ethyl p-hydoroxyphenyllactate 等の抗酸化成分が単離されている 12)。また、ライチ果皮抽出物のAs. awamori発酵物が高い抗 酸化活性およびDNA 保護効果をもつことが示されている13) さらに、黒豆のAs. awamori発酵物のメタノール抽出物には 抗変異原性効果が見出されている14)。本実験による結果や以 上のような過去の報告から、発酵よる代謝産物の生産性は微 生物種によって大きく異なり、発酵物の生理活性に関する特 徴についても、用いられた微生物の特徴に依存するものと推 察された。

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図2 各発酵物のグルコース含量の比較 表2 各発酵物中の還元糖量中に含まれる グルコースの割合 4.総アミノ酸含量 調 製 し た 米 発 酵 物 中 の 総 ア ミ ノ 酸 含 量 は As. oryzae NBRC 30113 およびMu. circinelloidesで極めて高い値を示 した(図3)。また、3 種類のAs. oryzaeの間でアミノ酸含 量は大きく異なり、同属間においてもタンパク質分解能に大 きな差があることが示唆された。 図3 各発酵物の総アミノ酸含量の比較 5.総ポリフェノール含量 本試験には発酵物の酢酸エチル抽出画分を用い、疎水性の ポリフェノールを検出対象とした。図4に示したように、総 ポリフェノール含量は各発酵物の間で大きく異なり、その中 でAs. awamori、Mo. pilosus NBRC4502 で高い値を示した。 一方、Ab. corymbiferaでは極めて低い値であった。穀物の 発酵によるポリフェノール含量の増加については、米糠層に 含まれるタンパク質結合性のポリフェノールが発酵により 遊離することに起因するとの報告がある11)。本研究における ポリフェノール含量の増加も、同様の原因が考えられるが、 微生物の生成物に由来する可能性も考えられるため、後述に おいて、原料に玄米および白米を用いた際の発酵物中の成分 および抗酸化活性について比較した。 図4 各発酵物の総ポリフェノール量の比較 図 3 各発酵物の総アミノ酸含量の比較

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図2 各発酵物のグルコース含量の比較 表2 各発酵物中の還元糖量中に含まれる グルコースの割合 4.総アミノ酸含量 調 製 し た 米 発 酵 物 中 の 総 ア ミ ノ 酸 含 量 は As. oryzae NBRC 30113 およびMu. circinelloidesで極めて高い値を示 した(図3)。また、3 種類のAs. oryzaeの間でアミノ酸含 量は大きく異なり、同属間においてもタンパク質分解能に大 きな差があることが示唆された。 図3 各発酵物の総アミノ酸含量の比較 5.総ポリフェノール含量 本試験には発酵物の酢酸エチル抽出画分を用い、疎水性の ポリフェノールを検出対象とした。図4に示したように、総 ポリフェノール含量は各発酵物の間で大きく異なり、その中 でAs. awamori、Mo. pilosus NBRC4502 で高い値を示した。 一方、Ab. corymbiferaでは極めて低い値であった。穀物の 発酵によるポリフェノール含量の増加については、米糠層に 含まれるタンパク質結合性のポリフェノールが発酵により 遊離することに起因するとの報告がある11)。本研究における ポリフェノール含量の増加も、同様の原因が考えられるが、 微生物の生成物に由来する可能性も考えられるため、後述に おいて、原料に玄米および白米を用いた際の発酵物中の成分 および抗酸化活性について比較した。 図4 各発酵物の総ポリフェノール量の比較 図 4 各発酵物の総ポリフェノール量の比較

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図2 各発酵物のグルコース含量の比較 表2 各発酵物中の還元糖量中に含まれる グルコースの割合 4.総アミノ酸含量 調 製 し た 米 発 酵 物 中 の 総 ア ミ ノ 酸 含 量 は As. oryzae NBRC 30113 およびMu. circinelloidesで極めて高い値を示 した(図3)。また、3 種類のAs. oryzaeの間でアミノ酸含 量は大きく異なり、同属間においてもタンパク質分解能に大 きな差があることが示唆された。 図3 各発酵物の総アミノ酸含量の比較 5.総ポリフェノール含量 本試験には発酵物の酢酸エチル抽出画分を用い、疎水性の ポリフェノールを検出対象とした。図4に示したように、総 ポリフェノール含量は各発酵物の間で大きく異なり、その中 でAs. awamori、Mo. pilosus NBRC4502 で高い値を示した。 一方、Ab. corymbiferaでは極めて低い値であった。穀物の 発酵によるポリフェノール含量の増加については、米糠層に 含まれるタンパク質結合性のポリフェノールが発酵により 遊離することに起因するとの報告がある11)。本研究における ポリフェノール含量の増加も、同様の原因が考えられるが、 微生物の生成物に由来する可能性も考えられるため、後述に おいて、原料に玄米および白米を用いた際の発酵物中の成分 および抗酸化活性について比較した。 図4 各発酵物の総ポリフェノール量の比較

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6 .DPPHラジカル消去活性 抗酸化活性の指標としてDPPHラジカル消去活性を 測定した。図 5 に示したように、焼酎製造に用いられ るAs. awamoriで極めて高い活性を示した。また、 As. oryzaeの 3 種で活性が大きく異なり、総ポリフェ ノール含量と相関することが示された。As. awamori を用いた発酵物の生理活性についてはいくつかの報告 が あ る。た と え ば、泡 盛 の 発 酵 残 渣 か ら ethyl 2-pyrrolidione-5-carboxylate や ethyl p-hydoroxyphenyllactate等の抗酸化成分が単離され ている12)。また、ライチ果皮抽出物のAs. awamori発 酵物が高い抗酸化活性およびDNA保護効果をもつこ とが示されている13)。さらに、黒豆のAs. awamori発 酵物のメタノール抽出物には抗変異原性効果が見出さ れている14)。本実験による結果や以上のような過去 の報告から、発酵よる代謝産物の生産性は微生物種に よって大きく異なり、発酵物の生理活性に関する特徴 についても、用いられた微生物の性質に依存するもの と推察された。 7 .As. oryzae発酵物における各成分および抗酸化活 性の原料(玄米または白米)による相違 玄米を用いた発酵物には米糠中の成分がそのまま含 有されると考えられる。そこで、玄米および白米を用 いたAs. oryzae発酵物の各成分および抗酸化活性を測 定し、発酵の進行度への影響を調べるとともに、抗酸 化活性が糠成分のみでなく発酵代謝物に由来する可能 性について考察した。還元糖および総アミノ酸含量は 白米発酵物において玄米発酵物よりも高い値を示し た。これにより、発酵の進行度は白米を用いた際、玄 米を用いたときよりも進んでいることが示された。一 方、総ポリフェノール含量は玄米発酵物において白米 発酵物よりも高い値を示した(図 6 )。これは、玄米 の糠層に含まれるポリフェノールによるものと考えら れる。また、玄米および白米発酵物のDPPHラジカル 消去活性を比較したところ、有意な差は見られなかっ た(図 7 )。以上の結果から、玄米を用いた発酵物に 見られる抗酸化活性は糠に含まれるポリフェノールに よるものだけに限らず、微生物の代謝産物に大部分由 来していると考えられた。 おわりに 本研究では、新規米麹の開発を目的として、13 種 の糖化微生物を用い、それぞれの純粋培養により米発 酵物を調製し、それらのメタノール抽出率、還元糖 量、総アミノ酸量、総ポリフェノール含量、および抗 酸化活性を測定した。本研究における一連の結果か ら、微生物種の近縁性と成分量および抗酸化活性の間 に明確な関連性は認められなかった。よって、近縁種 であっても酵素活性や物質生産能が異なり、発酵物に 備わる生理活性にも差異が生じているものと考えられる。 新規米麹の実用化を進める際、微生物の高い糖化能 が不可欠であるが、必ずしも生理活性の付与に優れた 微生物に高い糖化能が備わっているとは限らない。よ って今後は、米麹製造における複数種の糖化微生物の 使用が発酵の進行や生理活性に与える影響についても 調査していきたい。 - 294 - - 295 -

5

図5 各発酵物のDPPH ラジカル消去活性の比較 7.As. oryzae発酵物における各成分および抗酸化活性の原 料(玄米または白米)による相違 玄米を用いた発酵物には米糠中の成分がそのまま含有さ れると考えられる。そこで、玄米および白米を用いた As. oryzae発酵物の各成分および抗酸化活性を測定し、発酵の進 行度への影響を調べるとともに、抗酸化活性が糠成分のみで なく発酵代謝物に由来する可能性についても考察した。還元 糖および総アミノ酸含量は白米発酵物において玄米発酵物 よりも高い値を示した。これにより、発酵の進行度は白米を 用いた際に、より進んでいることが示された。一方、総ポリ フェノール含量は玄米発酵物において白米発酵物よりも高 い値を示した(図6)。これは、玄米の糠層に含まれるポリ フェノールによるものと考えられる。 図6 玄米および白米発酵物の各成分値の比較 また、玄米および白米発酵物の DPPH ラジカル消去活性を 比較したところ、有意な差は見られなかった(図7)。以上 の結果から、玄米を用いた発酵物に見られる抗酸化活性は糠 に含まれるポリフェノールによるものだけに限らず、微生物 の代謝産物にも大部分由来していると考えられた。 図7 玄米および白米発酵物のDPPH ラジカル消去活性の 比較 おわりに 本研究では、新規米麹の開発を目的として、13 種の糖化 微生物を用い、それぞれの純粋培養により米発酵物を調製し、 メタノール抽出率、還元糖量、総アミノ酸量、総ポリフェノ ール含量、および抗酸化活性を測定した。本研究における一 連の結果から、微生物種の近縁性と成分量および抗酸化活性 の間に明確な関連性は認められなかったため、近縁種であっ ても酵素活性や物質生産能が異なり、発酵物に備わる生理活 性にも差異が生じているものと考えられる。 新規米麹の実用化を進める際、微生物の高い糖化能が不可 欠であるが、必ずしも生理活性の付与に優れた微生物に高い 糖化能が備わっているとは限らない。よって今後は、米麹製 造における複数種の糖化微生物の使用が発酵の進行や生理 活性に与える影響についても調査していきたい。 参考文献

1) Watanabe, T., Food and Disease: The etiological background of so-called lifestyle-related diseases, J. Jpn. Soc. Nutr. Food Sci., 57, 15-19 (2004).

2) 農林水産省, 農林水産統計平成 22 年度, 国内産米・麦類 の検査数量.

http://www.maff.go.jp/j/seisan/kikaku/pdf/data01.pdf 3) Hesseltine, C.W., Rogers, R. and Winarno, F.G.,

Microbiological studies on amylolytic oriental fermentation starters. Mycopathologia, 101, 141-155 (1988).

4) Uchimura, T., Kojima, Y. and Kozaki, M., Studies on the main saccharifying microorganism in the Chinese starter of Bhutan,“Chang poo”. J. Brew. Soc. Japan, 85, 881-887 (1990).

5) Uchimura, T., Takagi, S., Watanabe, K. and Kozaki, M.,

図 5 各発酵物のDPPHラジカル消去活性の比較

5

6.DPPH ラジカル消去活性

抗酸化活性の指標としてDPPH ラジカル消去活性を測定

した。図5に示したように、焼酎製造に用いられる As.

awamori で極めて高い活性を示した。また、As. oryzae の 3 種で活性が大きく異なり、総ポリフェノール含量と相関する

ことが示された。As. awamori を用いた発酵物の生理活性に

ついてはいくつかの報告がある。たとえば、泡盛の発酵残渣 か ら ethyl 2-pyrrolidione-5-carboxylate や ethyl p-hydoroxyphenyllactate 等の抗酸化成分が単離されている 12)。また、ライチ果皮抽出物のAs. awamori 発酵物が高い抗 酸化活性およびDNA 保護効果をもつことが示されている13) さらに、黒豆のAs. awamori 発酵物のメタノール抽出物には 抗変異原性効果が見出されている14)。本実験による結果や以 上のような過去の報告から、発酵よる代謝産物の生産性は微 生物種によって大きく異なり、発酵物の生理活性に関する特 徴についても、用いられた微生物の性質に依存するものと推 察された。 図5 各発酵物のDPPH ラジカル消去活性の比較 7.As. oryzae 発酵物における各成分および抗酸化活性の原 料(玄米または白米)による相違 玄米を用いた発酵物には米糠中の成分がそのまま含有さ れると考えられる。そこで、玄米および白米を用いたAs. oryzae 発酵物の各成分および抗酸化活性を測定し、発酵の進 行度への影響を調べるとともに、抗酸化活性が糠成分のみで なく発酵代謝物に由来する可能性について考察した。還元糖 および総アミノ酸含量は白米発酵物において玄米発酵物よ りも高い値を示した。これにより、発酵の進行度は白米を用 いた際、玄米を用いたときよりも進んでいることが示された。 一方、総ポリフェノール含量は玄米発酵物において白米発酵 物よりも高い値を示した(図6)。これは、玄米の糠層に含 まれるポリフェノールによるものと考えられる。また、玄米 および白米発酵物のDPPH ラジカル消去活性を比較したと ころ、有意な差は見られなかった(図7)。以上の結果から、 玄米を用いた発酵物に見られる抗酸化活性は糠に含まれる ポリフェノールによるものだけに限らず、微生物の代謝産物 に大部分由来していると考えられた。 図6 玄米および白米発酵物の各成分値の比較 図7 玄米および白米発酵物のDPPH ラジカル消去活性の 比較 おわりに 本研究では、新規米麹の開発を目的として、13 種の糖化 微生物を用い、それぞれの純粋培養により米発酵物を調製し、 それらのメタノール抽出率、還元糖量、総アミノ酸量、総ポ リフェノール含量、および抗酸化活性を測定した。本研究に おける一連の結果から、微生物種の近縁性と成分量および抗 酸化活性の間に明確な関連性は認められなかった。よって、 近縁種であっても酵素活性や物質生産能が異なり、発酵物に 備わる生理活性にも差異が生じているものと考えられる。 新規米麹の実用化を進める際、微生物の高い糖化能が不可 欠であるが、必ずしも生理活性の付与に優れた微生物に高い 糖化能が備わっているとは限らない。よって今後は、米麹製 造における複数種の糖化微生物の使用が発酵の進行や生理 図 6 玄米および白米発酵物の各成分値の比較

5

図5 各発酵物のDPPH ラジカル消去活性の比較 7.As. oryzae発酵物における各成分および抗酸化活性の原 料(玄米または白米)による相違 玄米を用いた発酵物には米糠中の成分がそのまま含有さ れると考えられる。そこで、玄米および白米を用いた As. oryzae発酵物の各成分および抗酸化活性を測定し、発酵の進 行度への影響を調べるとともに、抗酸化活性が糠成分のみで なく発酵代謝物に由来する可能性についても考察した。還元 糖および総アミノ酸含量は白米発酵物において玄米発酵物 よりも高い値を示した。これにより、発酵の進行度は白米を 用いた際に、より進んでいることが示された。一方、総ポリ フェノール含量は玄米発酵物において白米発酵物よりも高 い値を示した(図6)。これは、玄米の糠層に含まれるポリ フェノールによるものと考えられる。 図6 玄米および白米発酵物の各成分値の比較 また、玄米および白米発酵物の DPPH ラジカル消去活性を 比較したところ、有意な差は見られなかった(図7)。以上 の結果から、玄米を用いた発酵物に見られる抗酸化活性は糠 に含まれるポリフェノールによるものだけに限らず、微生物 の代謝産物にも大部分由来していると考えられた。 図7 玄米および白米発酵物のDPPH ラジカル消去活性の 比較 おわりに 本研究では、新規米麹の開発を目的として、13 種の糖化 微生物を用い、それぞれの純粋培養により米発酵物を調製し、 メタノール抽出率、還元糖量、総アミノ酸量、総ポリフェノ ール含量、および抗酸化活性を測定した。本研究における一 連の結果から、微生物種の近縁性と成分量および抗酸化活性 の間に明確な関連性は認められなかったため、近縁種であっ ても酵素活性や物質生産能が異なり、発酵物に備わる生理活 性にも差異が生じているものと考えられる。 新規米麹の実用化を進める際、微生物の高い糖化能が不可 欠であるが、必ずしも生理活性の付与に優れた微生物に高い 糖化能が備わっているとは限らない。よって今後は、米麹製 造における複数種の糖化微生物の使用が発酵の進行や生理 活性に与える影響についても調査していきたい。 参考文献

1) Watanabe, T., Food and Disease: The etiological background of so-called lifestyle-related diseases, J. Jpn. Soc. Nutr. Food Sci., 57, 15-19 (2004).

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4) Uchimura, T., Kojima, Y. and Kozaki, M., Studies on the main saccharifying microorganism in the Chinese starter of Bhutan,“Chang poo”. J. Brew. Soc. Japan, 85, 881-887 (1990).

5) Uchimura, T., Takagi, S., Watanabe, K. and Kozaki, M.,

(7)

参考文献

1 ) Watanabe, T., Food and Disease: The etiological background of so-called lifestyle-related diseases, J. Jpn. Soc. Nutr. Food Sci., 57, 15-19 (2004). 2 ) 農林水産省, 農林水産統計平成22年度, 国内産

米・麦類の検査数量.http://www.maff.go.jp/j/ seisan/kikaku/pdf/data01.pdf

3 ) Hesseltine, C. W., Rogers, R. and Winarno, F. G., Microbiological studies on amylolytic oriental fermentation starters. Mycopathologia, 101, 141-155 (1988).

4 ) Uchimura, T., Kojima, Y. and Kozaki, M., Studies on the main saccharifying microorganism in the Chinese starter of Bhutan,“Chang poo”. J. Brew. Soc. Japan, 85, 881-887 (1990).

5 ) Uchimura, T., Takagi, S., Watanabe, K. and Kozaki, M., Absidia sp. in the Chinese starter (Nuruk) in Korea. J. Brew. Soc.Japan, 85, 888-894 (1990).

6 ) Lee, A.C. and Fujio, Y., Microflora of banh men, a fermentation starter from Vietnam. World J. Microbiol. Biotechnol., 15, 51-55 (1999).

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8 ) Moore, S. and Stein, W.H., A modified ninhydrin reagent for the photometric determination of amino acids and related compounds. J. Biol. Chem., 211, 907-913 (1954).

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10) Inagaki, S., Kato, T. and Mori, S., Composition and Antioxidant Activity of Rice Fermented with Saccharifying Organisms from Asian Countries. Food Sci. Technol. Res., 19, 893-899 (2013). 11) Ohtsuki, T., Akiyama, J., Shimoyama, T., Yazaki,

S., Ui, S., Hirose, Y. and Mimura, A., Increased production of antioxidative sesaminol glucosides from sesame oil cake through fermentation by Bacillus circulans strain YUS-2. Biosci. Biotechnol. Biochem., 67, 2304-2306 (2003). 12) Takaya, Y., Furukawa, T., Miura, S., Akutagawa,

T., Hotta, Y., Ishikawa, N. and Niwa, M., Antioxidant constituents in distillation of Awamori spirits. J. Agric. Food Chem., 55, 75-79 (2007).

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and antimutagenic effects of methanol extracts of unfermented and fermented black soybean. Int. J. Food Microbiol., 118, 62-68 (2007).

(8)

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Comparison of Composition and Antioxidant Activity in Rice Products

Purly Fermented with Saccarifying Organisms from Asian Country

Faculty of Health and Nutrition, Department of Health and Nutrition

Shyuichiro INAGAKI

Abstract

The auther aims the development of novel rice fermented product (molded rice; rice koji) using various

saccharifying organisms in Asian countries. In this study, reducing sugar, total amino acid and total polyphenol

contents, and antioxidant activity of fermented rice products purely using thirteen saccharyfing organisms were

evaluated and these results were compared. As the result, no relation between species of organism used in the

fermentation and the values measured in the assays were certainly observed. These suggest that the composition

and physiological activity in fermented products are different even in using related species. Next, reducing

sugar, total amino acid and total polyphenol contents, and antioxidant activities of fermented products using

polished or unpolished rice as a raw material were compared. It was suggested that fermentation advanced in the

product with polished rice more than with unpolished rice. No difference were observed between antioxidant

activities of the product fermented with polished and unpolished rice. These results suggest that the antioxidant

activity of the fermented product with unpolished rice is not attributed to the bran ingredients. The metabolites

produced by organism in the process of fermentation may relate the activity.

参照

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