指定討論者コメント TAR 工作室代表 武庫川女子大学非常勤講師
垂 水 英 司
大きな災害に見舞われたとき、その復興ツールは先行する概ね 30 年間に構築された 社会システムの制約から逃れられない。したがって復興過程で大きな「時代ラグ」が生 じるが、一方でそれを打破する動きが生まれて次の新しいシステムへ前進する。1995 年成長社会から成熟社会に移行する入口で発生した阪神・淡路大震災、あるいは、その 16 年後縮小社会が進行する中で発生した東日本大震災でもいえることだ。問われたの は、①物の復興から生活の復興へ ②移転復興から現地復興へ ③大きな復興から一 人一人の復興へ ④早い復興から適速の復興へ ⑤公共力から社会力へ といったこ とであろうか。 被災者一人一人の生活再建の視点から、「可視化」というユニークな手法で取り組ま れた青井哲人氏の福島アトラスなどの成果をお聞きして、まさに次の復興への大きな ヒントをいただいた思いだ。 元 国立民族学博物館 准教授佐 藤 浩 司
2004 年、インドネシアのアチェを大規模な津波が襲いました。その後の調査で援助 のもたらす第二の災害について考えさせられました。自然災害に対して文句を言う住 民はいません。しかし、福島の例にもありましたが、援助の多寡や方法をめぐって住民 のあいだには嫉妬や怨嗟の感情がおきます。もうひとつ、津波災害の特徴は、身近な者 を失うだけではなく、家や環境、自分の歴史にかかわるすべてが一瞬に消えることで す。海岸沿いのある村はおよそ 3000 人いた住民が 7 人を残すだけになりました。残さ れた住民は悲しむことができないでいました。なぜなら、自分たちが何者であるかを 証明する手立てさえないからです。われわれのアイデンティティとはなんと儚く頼り ないものでしょう。そう、自分の存在に形をあたえてくれること。これこそがデザイン の本質(ただ格好良い物を生み出すことではなく)ではないかとおもいます。きょう紹 介された建築家や住民の活動こそそのよき見本ではないでしょうか。 本日の発表は私自身にとってもかなり衝撃的な内容でしたが、最後に 3 点ほど指摘 しておきます。第一に、まったく別世界の話のようですが、これはわれわれの同時代 に、地続きの土地で起きている事件であるということ。第二に、この事件にどうかかわ るかは人それぞれの仕方があるでしょう。だからといって背伸びをする必要はなく、 自身のあたえられた環境のなかで、身の丈の対応を考えるべきだろうということ。第 三に、やはり指摘しておかねばならないのは、これは自然災害ではなく人災だという こと。人災なら人間の力でそれを予防できるはずだからです。 ≪生活デザイン小研究会≫公共空間が都市を変える
-ストリートデザインの可能性- 明治大学理工学部准教授佐々木 宏 幸
1.はじめに 1.1 アーバンデザインとは デザインには様々な分野があります。デザインを学んでいる学生は、いつの間にか、 プロダクトデザインは 1/1、インテリアデザインは 1/20 や 1/50、建築デザインは 1/100 や 1/200、アーバンデザインは 1/2500 のスケール、というような感覚を持ってしまい がちなように思います。しかし実際には、あらゆるデザインは原寸大のひとを対象と しるわけで、その対象物の大きさに拘わらず 1/1、すなわち原寸大で考えることが重要 です。都市という大きなスケールを対象とするアーバンデザインも例外ではありませ ん。 本日は、アーバンデザインの中でも比較的皆さんに身近ではないかと考える、スト リートデザインに関してお話をします。プロダクトデザインやインテリアデザインを 学んでいる学生にとっても、同じ原寸大のデザイン行為として、何らかの形で参考に なればと思っています。まず、本題に入る前に、アーバンデザインのイメージを把握 してもらうために、私のこれまでのアーバンデザインに関する取り組みについて、簡 単に紹介したいと思います。 1.2 米国での戦略的アーバンデザインの実践 アーバンデザインの対象である都市をより良くするためには、我々の専門技術であ るデザインを、目的ではなく手段として使うことが重要であると考えています。アー バンデザインの実務を 8 年間行ったアメリカでも、デザインをどのように活用すれば、 人々の生活や社会・経済を改善できるか考えながら実践してきました。都市空間の改 善には様々な手法がありますが、我々の事務所は、 1) 広場や街路といった公共空間を改善・整備するにより1~3年といった短期間で 目に見える変化を起こす直接的なアクションとしての空間デザイン 2) 開発規定の策定により、将来起こり得る新たな開発を都市のヴィジョンに沿った 望ましい方向に導く長期的視点に立ったプランニング のふたつを並行して実施し、既成の市街地や幹線道路の活性化を行ってきました。 具体的なプロセスとしては、街づくりのヴィジョンを作成し、プランやパースペクティブによって街の将来像を可視化し、 それを実現に導く戦略を考えます。そし て、自治体や住民とのワークショップや シャレットなどを通して議論を行い、関 係する分野の専門家とも協働しながら、 具体的なデザインやプランの策定を行い ます。 このような実践の一例として、サンフ ランシスコ市の南に位置するレッドウッ ド・シティ市のダウンタウン活性化プロ ジェクトがあります。このプロジェクト では、暮らしやすく活気のあるダウンタ ウンの将来像を描き出し、駅前の公共空 間デザイン(図 1)、幹線道路のストリー トスケープ(図 2)、それらの周辺に計画 される建築デザインの方向性などを示し ながら、自治体・住民・ディベロッパー などと調整しながらプロジェクトを推進 しました。 結果として、歴史的な裁判所(現在は 美術館として利用されている)の前にあ り使用されていなかった美術館前の建物 を取り壊し、ダウンタウンの中心部にそ の象徴となる広場をデザインしました (写真 1、写真 2)。 それと並行し、ダウンタウンの将来像 を参照しながら、長期的な変化、すなわ ち将来起こり得る開発に関するルールを 「ダウンタウン・プリサイス・プラン」 として定めました(図 3)。広場の建設に より人々が集まり始めたダウンタウンに は民間の投資が始まります。 我々が策定したプランは、策定から 5 年、10 年経ち、新たな開発が完成すると ともに、その成果が現れ始めます。すで に建物が建ち並んでいると、自分達が手 図 1:駅前の公共空間デザイン 図 2:幹線道路のストリートスケープ 写真 1:コートハウススクエア建設前の様子 写真 2:コートハウススクエア建設後の様子
ティブによって街の将来像を可視化し、 それを実現に導く戦略を考えます。そし て、自治体や住民とのワークショップや シャレットなどを通して議論を行い、関 係する分野の専門家とも協働しながら、 具体的なデザインやプランの策定を行い ます。 このような実践の一例として、サンフ ランシスコ市の南に位置するレッドウッ ド・シティ市のダウンタウン活性化プロ ジェクトがあります。このプロジェクト では、暮らしやすく活気のあるダウンタ ウンの将来像を描き出し、駅前の公共空 間デザイン(図 1)、幹線道路のストリー トスケープ(図 2)、それらの周辺に計画 される建築デザインの方向性などを示し ながら、自治体・住民・ディベロッパー などと調整しながらプロジェクトを推進 しました。 結果として、歴史的な裁判所(現在は 美術館として利用されている)の前にあ り使用されていなかった美術館前の建物 を取り壊し、ダウンタウンの中心部にそ の象徴となる広場をデザインしました (写真 1、写真 2)。 それと並行し、ダウンタウンの将来像 を参照しながら、長期的な変化、すなわ ち将来起こり得る開発に関するルールを 「ダウンタウン・プリサイス・プラン」 として定めました(図 3)。広場の建設に より人々が集まり始めたダウンタウンに は民間の投資が始まります。 我々が策定したプランは、策定から 5 年、10 年経ち、新たな開発が完成すると ともに、その成果が現れ始めます。すで に建物が建ち並んでいると、自分達が手 図 1:駅前の公共空間デザイン 図 2:幹線道路のストリートスケープ 写真 1:コートハウススクエア建設前の様子 写真 2:コートハウススクエア建設後の様子 を加えられる都市の領域は非常に限定的 であると考えがちですが、10 年近く経っ て実際に街が変化するのを目にすると、 「街は変わるんだ」と実感し、アーバンデ ザインの可能性を感じることができます。 それこそが 10 年間暮らしたアメリカで得 た最も貴重な経験であったと思います。 1.3 日本での戦略的アーバンデザインの 実践 アメリカでの 10 年間の生活に区切りをつけ、2008 年に帰国しました。ちょうど リーマン・ショックが起きる直前のタイミングです。以降、大学で教育・研究に携 わりながら、アーバンデザインの実践にも取り組んでいます。 <長野県飯田市×原宿神宮前プロジェクト> 長野県飯田市と東京都渋谷区は防災協定を締結しています。私の大学の研究室では、 飯田市と渋谷区原宿神宮前の 2 つのエリアを連携させながら、それぞれの活性化やコ ミュニティの再生に取り組んでいます(図 4)。 飯田市には、「裏界線」と呼ばれる防災用の細街路があります。1947 年の「飯田大火」 の後、より安全な市街地形成のために、区画の背割り線に沿って 2m 幅員の裏界線が整 備されました。飯田市には、リニアの新駅が 2027 年に開業します。おそらくリニア新 駅の周辺は、新幹線駅周辺のように、どこでもあまり代り映えのしないジェネリック 図 4:都市間連携プロジェクトのイメージ 図 3:レッドウッド・シティ・ダウンタウン・ プリサイス・プラン
な街ができあがることでしょう。それに対 し、中心市街地は昔ながらの飯田の街並み を残しています。飯田の本当の魅力は中心 市街地にあると言えます。こうした考えの もと、飯田の主要な空間資源である裏界線 に着目し、飯田にしかない魅力的で個性的 な中心市街地の創造を目指して活動をし ています(図 5)。手始めとして、裏界線の 価値や可能性に気づいてもらうため、毎年 市街地で開催されるイベント時に、裏界線 にレッドカーペットを敷いてハレの空間 「裏界線小路」を演出し、シードルや食品 の販売を行っています(写真 3)。また、地 元のアーティストなどとワークショップ を開催し、飯田市の将来像に関する議論も 行っています。(写真 4) 一方、原宿神宮前地区においては、国内 外から多くの来訪者を惹きつけるキャッ トストリート周辺の穏田キャットストリ ート商店街を主な対象として、地区の居住 環境の改善や希薄になりつつあるコミュ ニティの再生を目指して活動しています。 また、1964 年の東京五輪の際に暗渠化され た旧渋谷川の上に整備されたキャットス トリートや表参道の公共空間のデザイン 提案を行い、地元に対してその成果を発信 しています(図 6、図 7)(写真 5)。 図 6:キャットストリートのデザイン提案 写真 4:地元でのワークショップの様子 写真 3:裏界線小路でのイベントの様子 図 5:裏界線活用のイメージ
な街ができあがることでしょう。それに対 し、中心市街地は昔ながらの飯田の街並み を残しています。飯田の本当の魅力は中心 市街地にあると言えます。こうした考えの もと、飯田の主要な空間資源である裏界線 に着目し、飯田にしかない魅力的で個性的 な中心市街地の創造を目指して活動をし ています(図 5)。手始めとして、裏界線の 価値や可能性に気づいてもらうため、毎年 市街地で開催されるイベント時に、裏界線 にレッドカーペットを敷いてハレの空間 「裏界線小路」を演出し、シードルや食品 の販売を行っています(写真 3)。また、地 元のアーティストなどとワークショップ を開催し、飯田市の将来像に関する議論も 行っています。(写真 4) 一方、原宿神宮前地区においては、国内 外から多くの来訪者を惹きつけるキャッ トストリート周辺の穏田キャットストリ ート商店街を主な対象として、地区の居住 環境の改善や希薄になりつつあるコミュ ニティの再生を目指して活動しています。 また、1964 年の東京五輪の際に暗渠化され た旧渋谷川の上に整備されたキャットス トリートや表参道の公共空間のデザイン 提案を行い、地元に対してその成果を発信 しています(図 6、図 7)(写真 5)。 図 6:キャットストリートのデザイン提案 写真 4:地元でのワークショップの様子 写真 3:裏界線小路でのイベントの様子 図 5:裏界線活用のイメージ さらに、「一般社団法人渋谷未来デザイン」と協働し、渋谷駅周辺の公共空間ヴィジ ョンの策定も行っています。渋谷にはどのような人が暮らし、働き、訪れるのか、そ れらを渋谷の社会生態と捉えて分析し、それらを包摂する空間ヴィジョンの策定や公 共空間のデザインを行っています。「ソーシャルイノベーションウィーク渋谷」という シンポジウムでは、研究室の学生がデザインした宮益坂のストリートスケープや渋谷 ならではの公共空間整備手法「シブヤ型プレイスメイキング」を発表し、渋谷に興味 のある様々な人たちと議論しました。 また、これらの活動と並行し、両都市の連携 の証としてのシードルの生産・販売のサポート も行っています。飯田市座光寺地区から原宿の キャットストリートに贈られたりんごの木に 実ったりんごを収穫し、りんごのお酒であるシ ードル、「座光寺×表参道シードル」を製造し、 両地区で販売するプロジェクトを、イベント空 間プロデュースや販売パッケージのデザイン などを通して支援しています(写真 6)。 我々が都市にアプローチする主要な手法はアーバンデザインですが、その分野に囚 われることなく、都市との関わりの中で様々なデザインの可能性を模索しています。 2.フレキシブル・ゾーンを有するストリートのデザイン さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今日の本題です。今日お話しする「ス トリートデザインの可能性」は、高校生を対象とした講演などでもたまに話す題材で す。デザインを専門としている人たちだけではなく、一般の人たちにもアーバンデザ インの楽しさや可能性を知ってもらいたいと思い、機会があれば紹介しています。都 市の魅力を生み出す公共空間、そして、その大部分を占めるストリートが、どれくら い可能性を持っているのか、その可能性がどれくらい見過ごされているのか、それを 図 7:表参道のデザイン提案 写真 5:地元へのデザイン提案紹介の様子 写真 6:キャットストリートでの イベントの様子
多くの人に気づいてもらいたいという思いが強くあります。 2.1 都市空間とは 最初に話しておきたいのは、「都市空間とは?」という重 要な問いです。建物が集まって都市ができる。確かにその 通りなのですが、これだけでは、都市の半分の側面しか捉 えていません。これは、都市の地図で建物を黒く塗りつぶ してみるとよくわかります。図 8、図 9 はその一例ですが、 これを眺めてみると、我々が経験する都市空間の多くは、 実は建物と建物の間の空間であることに気づくはずです。 図の白い部分です。NY と京都のスケールは大きく異なりま すが、どちらの都市においても我々が巡る都市のほとんど は建物と建物の間の空間、すなわちストリートなのです。 このように考えると、都市空間を豊かにするためには、建 物と建物の間の空間、すなわちストリートに関してもっと 考える必要があるということが分かると思います。 2.2 都市の余白 近年、都市の余白への関心が高まっています。例えば、 数年前、長谷工が実施したデザインコンペのテーマが、「あ る地方都市のストリートが集合住宅で再生する。新しい暮 らしがはじまる」でした。建築コンペでありながら、建築 へのまなざしが建築物自体から公共空間、すなわち都市の 余白へと移り始めていることを感じさせます。そのコンペ に私の研究室の学生が「軒下シェア」というタイトルで応 募し賞を取りました。これらの断面図(図 10)では、建物 とストリートとの境界線が消え、都市の中で一体化してい る様子がよくわかります。こういった課題や提案も我々が もっとストリートについて考えるべきであることを自覚さ せてくれます。 建築を勉強しているみなさんは、これまで建物の内部が どうなっているかということをたくさん考えてきたと思い ます。ただ皆さんが建物を提案した際には、自覚的ではな いかもしれませんが、その建物の外側にある建物と建物の 間の空間も同時に生み出してきたのです。建物の面するス トリートもその空間に属します。 図 8:ニューヨークの フィギャーグラウンド 図 9:京都の フィギャーグラウンド 図 10:コンペの 学生応募作品
多くの人に気づいてもらいたいという思いが強くあります。 2.1 都市空間とは 最初に話しておきたいのは、「都市空間とは?」という重 要な問いです。建物が集まって都市ができる。確かにその 通りなのですが、これだけでは、都市の半分の側面しか捉 えていません。これは、都市の地図で建物を黒く塗りつぶ してみるとよくわかります。図 8、図 9 はその一例ですが、 これを眺めてみると、我々が経験する都市空間の多くは、 実は建物と建物の間の空間であることに気づくはずです。 図の白い部分です。NY と京都のスケールは大きく異なりま すが、どちらの都市においても我々が巡る都市のほとんど は建物と建物の間の空間、すなわちストリートなのです。 このように考えると、都市空間を豊かにするためには、建 物と建物の間の空間、すなわちストリートに関してもっと 考える必要があるということが分かると思います。 2.2 都市の余白 近年、都市の余白への関心が高まっています。例えば、 数年前、長谷工が実施したデザインコンペのテーマが、「あ る地方都市のストリートが集合住宅で再生する。新しい暮 らしがはじまる」でした。建築コンペでありながら、建築 へのまなざしが建築物自体から公共空間、すなわち都市の 余白へと移り始めていることを感じさせます。そのコンペ に私の研究室の学生が「軒下シェア」というタイトルで応 募し賞を取りました。これらの断面図(図 10)では、建物 とストリートとの境界線が消え、都市の中で一体化してい る様子がよくわかります。こういった課題や提案も我々が もっとストリートについて考えるべきであることを自覚さ せてくれます。 建築を勉強しているみなさんは、これまで建物の内部が どうなっているかということをたくさん考えてきたと思い ます。ただ皆さんが建物を提案した際には、自覚的ではな いかもしれませんが、その建物の外側にある建物と建物の 間の空間も同時に生み出してきたのです。建物の面するス トリートもその空間に属します。 図 8:ニューヨークの フィギャーグラウンド 図 9:京都の フィギャーグラウンド 図 10:コンペの 学生応募作品 2.3 ストリートデザインとは ストリートデザインとは、大多数の人がストリート空間を美しくする行為と考えて いるのではないでしょうか。例えば、どういう街路樹を植えようか、どういう街路灯 にしようか、舗装はどうしようか、といった具合です。残念なことに、道路設計に携 わる人と話をしていても、街路灯のデザインは、現代的なものにしようか、伝統的な ものにしようか、などという話題が主題になることがあります。すなわち、道路はエ ンジニアリングによって建設され、その上に、上塗りのメイクアップとしてのデザイ ンを施すといる捉え方です。 ストリートを美しくすることはもちろん必要ですが、ストリートデザインはそれ以 上の可能性を持っています。本来のストリートデザインの目的は、ストリートを適切 にデザインすることにより、沿道の望ましい土地利用を誘発し、まちの賑わい創出を サポートすることであると考えます。デザインに関わる我々は、ストリートを美しく することだけでなく、ストリートのデザインを通して、社会や経済にもアプローチす ることが求められていると言えるでしょう。これは、プロダクトデザイン、インテリ アデザイン、建築デザインなどあらゆるデザイン分野に共通する考え方だと言えます。 2.4 フレキシブル・ゾーンを有するメインストリート 我々の事務所が実施したストリートデザインの 事例として、「フレキシブル・ゾーン(以下、FZ)」 を有するストリートを紹介します。アメリカのカ リフォルニア州にあるマウンテン・ビュー市のダ ウンタウンにあるカストロ・ストリートです。マ ウンテン・ビュー市は、サンフランシスコ市、サ ンノゼ市などと共に、シリコンバレーの中核をな す都市のひとつです。今日では、グーグルの本社 も建設され、IT 関係の高所得の人たちも多く居住 しています。しかし、このプロジェクトが行 われた 1989 年当時は、ダウンタウンも活気 がなく、メインストリートであるカストロ・ ストリートにもあまり賑わいがありません でした。(写真 7) カストロ・ストリートの道路断面は、場所 により異なりますが、代表的な区間では、幅 員が約 27m、歩道が 4m弱、路上駐車帯が 2.4m、走行車線は片側 2 車線で各車線が約 3.6mという左右対称の構成です(図 11)。こ 写真 7:ストリートスケープ改善前の カストロ・ストリート 図 11:ストリートスケープ改善前のカストロ・ ストリート(断面図)
れは私が事務所に入る前のプロジェクトですが、当時の事務所の共同代表だった、マ イケル・フリードマン、グレゴリー・タンがカリフォルニア大学バークレー校大学院 を卒業してすぐに依頼されたプロジェクトです。ダウンタウンの美化が目的のプロジ ェクトではなく、経済的に活気のなくなったマウンテン・ビュー市のダウンタウンの 活性化がプロジェクトの目的です。そのダウンタウン活性化プロジェクトの一環とし てストリートデザインが行われました。 デザインの内容を紹介していきますが、みなさんも一緒に自分ならどうするだろう かと考えながら話しを聴いて下さい。ストリートデザインというのは両側に建物が建 っている状況でデザインすることが多いので、基本的に道路の幅を広げる、周辺の建 物を造り変えるといったことはできません。手を加えられるのは 27m の既存の道路幅 員の範囲のみです。この道路空間をなんとかし、マウンテン・ビュー市のダウンタウ ンを元気にする必要があります。 最初にひとつヒントを提供します。中心市街地の活性化を数多く手がけている我々 は、エコノミスト(経済の専門家)と共同でプロジェクトを行うことが多いのですが、 そこでよく言われるのが、ダウンタウンを活性化するためには、ランチとディナー、 ブレックファーストとランチといったように、2 つの時間帯で食事を提供するレストラ ンを積極的に出店させることが重要であるということです。今回のストリートデザイ ンもそのような業種を惹きつけることが重要です。 まず手始めに、協働するトラフィック・プランナー(交通の専門家)と一緒に現地 で調査を行いました。その結果、中央寄りのふたつの車線を統合し、3 車線に変更でき るという結論に至りました。もともと片側 2 車線、両側 4 車線あったところを 3 車線 に減らせるということです。27mに限定された幅員の道 路をデザインするにあたり、1 車線分、約 3.6mを自由 に使えることは大きなことです。さらに現状約 3.6mの 車線幅員を約 3mに縮めることで 4m強の空間を獲得し ました。カフェやレストランやベーカリーが「ぜひこの 街に、この通りに出店したい」と思ってもらうために、 この 4m強をいかに使うかがチャレンジです。 アメリカはご存知のように車社会なので、多くの人が 車で出かけますが、縦列駐車は結構苦手な人も多く、敬 遠されがちです。仮にダウンタウンのパン屋さんに車で ちょっと寄って、明日の朝食のパンを買いたいと思った としましょう。でも、店の前には 1 台分の縦列駐車のス ペースしか空いていない。夕方のラッシュアワーで交通 量が多く、縦列駐車をしようとしても、後ろから車が来 写真 8:ストリートスケープ 改善前のカストロ・スト リート(歩道)
れは私が事務所に入る前のプロジェクトですが、当時の事務所の共同代表だった、マ イケル・フリードマン、グレゴリー・タンがカリフォルニア大学バークレー校大学院 を卒業してすぐに依頼されたプロジェクトです。ダウンタウンの美化が目的のプロジ ェクトではなく、経済的に活気のなくなったマウンテン・ビュー市のダウンタウンの 活性化がプロジェクトの目的です。そのダウンタウン活性化プロジェクトの一環とし てストリートデザインが行われました。 デザインの内容を紹介していきますが、みなさんも一緒に自分ならどうするだろう かと考えながら話しを聴いて下さい。ストリートデザインというのは両側に建物が建 っている状況でデザインすることが多いので、基本的に道路の幅を広げる、周辺の建 物を造り変えるといったことはできません。手を加えられるのは 27m の既存の道路幅 員の範囲のみです。この道路空間をなんとかし、マウンテン・ビュー市のダウンタウ ンを元気にする必要があります。 最初にひとつヒントを提供します。中心市街地の活性化を数多く手がけている我々 は、エコノミスト(経済の専門家)と共同でプロジェクトを行うことが多いのですが、 そこでよく言われるのが、ダウンタウンを活性化するためには、ランチとディナー、 ブレックファーストとランチといったように、2 つの時間帯で食事を提供するレストラ ンを積極的に出店させることが重要であるということです。今回のストリートデザイ ンもそのような業種を惹きつけることが重要です。 まず手始めに、協働するトラフィック・プランナー(交通の専門家)と一緒に現地 で調査を行いました。その結果、中央寄りのふたつの車線を統合し、3 車線に変更でき るという結論に至りました。もともと片側 2 車線、両側 4 車線あったところを 3 車線 に減らせるということです。27mに限定された幅員の道 路をデザインするにあたり、1 車線分、約 3.6mを自由 に使えることは大きなことです。さらに現状約 3.6mの 車線幅員を約 3mに縮めることで 4m強の空間を獲得し ました。カフェやレストランやベーカリーが「ぜひこの 街に、この通りに出店したい」と思ってもらうために、 この 4m強をいかに使うかがチャレンジです。 アメリカはご存知のように車社会なので、多くの人が 車で出かけますが、縦列駐車は結構苦手な人も多く、敬 遠されがちです。仮にダウンタウンのパン屋さんに車で ちょっと寄って、明日の朝食のパンを買いたいと思った としましょう。でも、店の前には 1 台分の縦列駐車のス ペースしか空いていない。夕方のラッシュアワーで交通 量が多く、縦列駐車をしようとしても、後ろから車が来 写真 8:ストリートスケープ 改善前のカストロ・スト リート(歩道) ている。そのプレッシャーの中で縦列駐車をするくらいなら他の店にしよう、と思っ てしまう人も少なくないものです。 日本の路上駐車帯では並行駐車がほとんどですが、路上駐車帯には斜め 45 度の駐車 帯もあります。前進で斜めに駐車し、後退しながら出る駐車方式です。この方式だと 縦列駐車に苦手意識のあるドライバーも気軽に駐車することができます。ダウンタウ ンのメインストリートの路上駐車帯としてはこの方式が相応しいとされています。た だ斜め駐車には欠点があります。平行駐車に比べて約 3mも余分な幅員が必要なことで す。斜め駐車を採用しようとするとせっかく獲得した 4mを全て使い切り、さらに歩道 の幅員を約 1m減らすことになります。 結論から言うと、歩道幅員を約 1m狭めてでも、この斜め駐車を採用することにしま した。 ここから先は、ストリートを普段認識している「道路」ではなく、27m幅の公共空 間として捉え、一体どんなことができるかという発想が必要になってきます。これは、 現状の歩道の状況ですが(写真 8)、決して広いわけではない歩道にバス停があり、街 路樹も植わっています。獲得した 4m 強の空間もすでに使い切ってしまい、この状況よ りもさらに歩道の幅員が狭くなる中で、カフェやレストランやベーカリーをどうした ら惹きつけることができるでしょうか。 路上駐車帯の役割を考えればわかることですが、路上駐車帯はアスファルトで舗装 された道路の一部ですが、車を停めることが役割なので、車が路上駐車帯の上を連続 的に走行する必要はありません。すなわち、車を停める駐車スペースと駐車スペース の間に街路樹が植わっていても、車の走行や路上駐車には何の影響も与えません。こ のように考えると、通常は歩道に植えると思われている街路樹を路上駐車帯に植える ことが可能となります。街路樹を歩道ではなく路上駐車帯に植えることで、歩道の幅 員は約 1m減ってしまいましたが、歩道上の障害物としての街路樹はなくなり、かつ歩 行者は、路上駐車帯のほぼ真ん中に植えられた街路樹までを自分の領域と感じること ができるようになります。このプロジェクトでは、歩道の幅員を狭くする代わりに、 この方法を選択しました。 一番重要なのはここからです。路上駐車帯を斜め駐車として駐車しやすくし、街路 樹を路上駐車帯に植えることによって歩行者が感じる領域を拡大はしましたが、それ だけではカフェやレストランやベーカリーを惹きつけ、ダウンタウンに人を呼び戻す ことはできません。最後に、ストリートを望ましい沿道の土地利用をサポートするデ ザインに変えるためにしなければいけないこと、それが我々が FZ と呼んでいる空間の 創造です。 皆さんが、自分の夢であるカフェをどこかの街に出店するとしましょう。皆さんは きっと、色々な街のダウンタウンのメインストリートの不動産情報を調べると思いま
す。そして、できるだけいい立地で、でき るだけ広いスペースを安く借りたい、いつ でも歩行者で賑わうダウンタウンに出店 したいと考えるでしょう。斜め駐車にして 街路樹をその真ん中に植えた通りに面し てカフェやピザ屋さんに出店してもらい たいとなった場合、どんなことを考えます か?もし、皆さんが出店しようかと思って いる店の前の斜め駐車の空間、道路の一部 を駐車帯としてではなく、皆さんの店の一 部として利用することが許されるなら、しかも賃料を払う必要がないとしたら、皆さ んは隣町ではなく、この街のストリートに出店しようと思うのではないでしょうか。 最初に我々の事務所のアプローチとして戦略的アーバンデザインの話をしましたが、 この発想はまさに戦略的な発想と言えます。 このプロジェクトで恵まれていたのは、ダウンタウンには、路上駐車帯以外にも、 街区の内側部分に市営の立体駐車場があることでした。そこで市と交渉し、5.4mの斜 め駐車の空間を、そこに面する店舗が希望した場合はアウトドアカフェとして利用す ることを許可する仕組みをつくり上げ、ガイドラインを策定しました。市は許可を与 えるとともに、FZ のカフェとしての積極的な利用を促進するために、車から歩行者を 守るプランターやヒーターをレンタルする仕組みも整え、先着 20 店舗には無料で貸し 出しも行いました。(図 12) これまで話してきたように、ストリートスケープの主な改善点は、 1) 4 車線のうち 2 車線を統合し、3 車線の道路とした 2) 従来の平行駐車の路上駐車帯を誰でも駐車しやすい斜め 45 度に変更した。 3) 街路樹を歩道から駐車帯に移動し、人が知覚する歩行者領域を拡大した 4) 斜め駐車帯のスペースを FZ とし、そこに面する店舗がただで使える仕組みを構築 した の 4 点にまとめられます。 これまでの話の中で、舗装の色をどうした、街路灯をどんなデザインにした、など、 いわゆる通常考えるデザインの話はほとんどしていません。公共空間としてのストリ ートをどう構成したならば、周辺の望ましい土地利用を推進できるか、が主要なデザ インのテーマになっています。車線が減り、走行する車に近い位置に街路樹が植えら れている。ドライバーの立場でいうと、道路の幅が狭くなったと感じてスピードを出 しづらい。さらに斜め駐車の車がいつバックで出てくるかわからないのでブレーキに 足を置いて運転をする。一方、駐車はしやすいので、思い立ったら気軽に沿道の店に 車で立ち寄れる。すなわち、こういった道路の構成が、ダウンタウンのメインストリ 図 12:ストリートスケープ改善後のカストロ・ ストリート(断面図)
す。そして、できるだけいい立地で、でき るだけ広いスペースを安く借りたい、いつ でも歩行者で賑わうダウンタウンに出店 したいと考えるでしょう。斜め駐車にして 街路樹をその真ん中に植えた通りに面し てカフェやピザ屋さんに出店してもらい たいとなった場合、どんなことを考えます か?もし、皆さんが出店しようかと思って いる店の前の斜め駐車の空間、道路の一部 を駐車帯としてではなく、皆さんの店の一 部として利用することが許されるなら、しかも賃料を払う必要がないとしたら、皆さ んは隣町ではなく、この街のストリートに出店しようと思うのではないでしょうか。 最初に我々の事務所のアプローチとして戦略的アーバンデザインの話をしましたが、 この発想はまさに戦略的な発想と言えます。 このプロジェクトで恵まれていたのは、ダウンタウンには、路上駐車帯以外にも、 街区の内側部分に市営の立体駐車場があることでした。そこで市と交渉し、5.4mの斜 め駐車の空間を、そこに面する店舗が希望した場合はアウトドアカフェとして利用す ることを許可する仕組みをつくり上げ、ガイドラインを策定しました。市は許可を与 えるとともに、FZ のカフェとしての積極的な利用を促進するために、車から歩行者を 守るプランターやヒーターをレンタルする仕組みも整え、先着 20 店舗には無料で貸し 出しも行いました。(図 12) これまで話してきたように、ストリートスケープの主な改善点は、 1) 4 車線のうち 2 車線を統合し、3 車線の道路とした 2) 従来の平行駐車の路上駐車帯を誰でも駐車しやすい斜め 45 度に変更した。 3) 街路樹を歩道から駐車帯に移動し、人が知覚する歩行者領域を拡大した 4) 斜め駐車帯のスペースを FZ とし、そこに面する店舗がただで使える仕組みを構築 した の 4 点にまとめられます。 これまでの話の中で、舗装の色をどうした、街路灯をどんなデザインにした、など、 いわゆる通常考えるデザインの話はほとんどしていません。公共空間としてのストリ ートをどう構成したならば、周辺の望ましい土地利用を推進できるか、が主要なデザ インのテーマになっています。車線が減り、走行する車に近い位置に街路樹が植えら れている。ドライバーの立場でいうと、道路の幅が狭くなったと感じてスピードを出 しづらい。さらに斜め駐車の車がいつバックで出てくるかわからないのでブレーキに 足を置いて運転をする。一方、駐車はしやすいので、思い立ったら気軽に沿道の店に 車で立ち寄れる。すなわち、こういった道路の構成が、ダウンタウンのメインストリ 図 12:ストリートスケープ改善後のカストロ・ ストリート(断面図) ートとしての役割を果たすということです。 もちろんデザイン面においても、通りがよ り美しく、歩行者にとって快適な空間となる ような工夫は行っています。斜め駐車帯の舗 装は従来のアスファルト舗装ではなく、歩道 と同じ舗装にしました。そうすることで歩道 が広く感じられます。また、街路樹の樹冠の 密度を濃いものから薄いものに変えました。 アイダホ・ローキャストという樹種です。従 来の街路樹は緑が濃い樹木でしたが、ドライ バーから両側の建物のファサードがよく見 えるように、また、歩行者が気持ちよく歩け るようにとの配慮です(写真 9)。さらに、我々 は「レベル・チェンジ・ディバイス」と呼ん でいますが、道路の縁石が車止めとしても機 能し、駐車した車の頭が歩道上に飛び出さな いよう、縁石を通常の 1 段ではなく、2段に デザインしました。通常の車止めを FZ 上に 設置しないことにより、FZ を有効に利用する ことも可能にしています(写真 10)。 2.5 フレキシブル・ゾーンの可能性 このように、FZ を有する街路のデザインは、 1) 歩道と車道の間に歩行者か車のいずれかの利用に柔軟に対応する可変性のある空 間を挟み込むこと 2) 可変性のある FZ が、地区にとって望ましい土地利用をサポートする役割を果たす こと 3) FZ による歩行者空間の拡大により、地区に歩行者の賑わいを創出すること などの特長を持っています。FZ のデザインは、路上駐車帯が車を停めるだけの空間で はなく、歩行者の為の公共空間としても機能することができる可能性を示したプロジ ェクトであると言えます。実は、同じような発想で道路を歩行者のための空間に変え るという発想が近年、世界的に広がり始めています。 3.路上駐車帯を活用する「パークレット」 これまで紹介したマウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートは、1989 年に建設 写真 9:ストリートスケープ改善後の カストロ・ストリート 写真 10:ストリートスケープ改善後の カストロ・ストリート
されましたが、2010 年にサンフランシスコ市 で、パークレットと呼ばれる路上駐車帯の活 用が始まりました。パークレットは民間事業 者や住民などによる路上駐車帯の活用を市 が承認する制度です。この制度は今や全世界 に広まっており、日本でも様々な社会実験が 行われています。民間事業者や住民が自分の 店や家の前の路上駐車帯を歩行者が利用す る空間に変えたい場合に、そのデザインや使 い方を提示しながら市に申請書を提出しま す。市は市内でのパークレットの分布状況や 周辺のコミュニティの状況などを基に、許可 するパークレットの申請を選考して、申請者 によるパークレットの整備を許可します。パ ークレットの一番の特徴は、パブリック、す なわち全ての人に開かれた公共空間でなけ ればならないことです。全てのパークレット には「PUBLIC PARKLET」というプレートが設 置されています。全ての人に開かれているパ ークレットは、店舗が設置したものであって も、店の商品を購入しない人も利用すること ができます。(写真 11、写真 12) FZ とパークレットは、FZ は街路整備として自治体によって恒久的に整備されるのに 対し、パークレットは民間事業者や住民によって一時的に整備される点において、大 きく異なっています。しかし、本来、車のための空間である路上駐車帯を歩行者のた めの空間に転用するという目的は両者に共通しています。 4.フレキシブル・ゾーンのアイデアの活用事例 最後に、現在私の研究室で進めている FZ のアイデアを活用したストリートデザイン の事例を紹介したいと思います。冒頭で紹介した渋谷駅周辺の公共空間ビジョン策定 の一部として行っているものです。 渋谷の中心部に「宮益坂」という通りがあります。近年様々な新規開発が行われて いる渋谷ですが、公共空間のあり方を考えるにあたり、宮益坂のストリートデザイン を提案する機会がありました。渋谷区も宮益坂をより歩行者中心の通りに改善する検 討を進めています。研究室の学生と議論をする中で、FZ やパークレットの手法を活用 写真 12:パークレットに設置された Public Parklet のプレート 写真 11:サンフランシスコ路上駐車帯に 設置されたパークレット
されましたが、2010 年にサンフランシスコ市 で、パークレットと呼ばれる路上駐車帯の活 用が始まりました。パークレットは民間事業 者や住民などによる路上駐車帯の活用を市 が承認する制度です。この制度は今や全世界 に広まっており、日本でも様々な社会実験が 行われています。民間事業者や住民が自分の 店や家の前の路上駐車帯を歩行者が利用す る空間に変えたい場合に、そのデザインや使 い方を提示しながら市に申請書を提出しま す。市は市内でのパークレットの分布状況や 周辺のコミュニティの状況などを基に、許可 するパークレットの申請を選考して、申請者 によるパークレットの整備を許可します。パ ークレットの一番の特徴は、パブリック、す なわち全ての人に開かれた公共空間でなけ ればならないことです。全てのパークレット には「PUBLIC PARKLET」というプレートが設 置されています。全ての人に開かれているパ ークレットは、店舗が設置したものであって も、店の商品を購入しない人も利用すること ができます。(写真 11、写真 12) FZ とパークレットは、FZ は街路整備として自治体によって恒久的に整備されるのに 対し、パークレットは民間事業者や住民によって一時的に整備される点において、大 きく異なっています。しかし、本来、車のための空間である路上駐車帯を歩行者のた めの空間に転用するという目的は両者に共通しています。 4.フレキシブル・ゾーンのアイデアの活用事例 最後に、現在私の研究室で進めている FZ のアイデアを活用したストリートデザイン の事例を紹介したいと思います。冒頭で紹介した渋谷駅周辺の公共空間ビジョン策定 の一部として行っているものです。 渋谷の中心部に「宮益坂」という通りがあります。近年様々な新規開発が行われて いる渋谷ですが、公共空間のあり方を考えるにあたり、宮益坂のストリートデザイン を提案する機会がありました。渋谷区も宮益坂をより歩行者中心の通りに改善する検 討を進めています。研究室の学生と議論をする中で、FZ やパークレットの手法を活用 写真 12:パークレットに設置された Public Parklet のプレート 写真 11:サンフランシスコ路上駐車帯に 設置されたパークレット 図 14:宮益坂のストリートスケープイメージ するアイデアが出てきました。車線を削減し、歩道を拡 幅しながら、宮益坂のスロープを活用したテラス状の歩 行者空間を創造し、それをアウトドアカフェなどに利用 することにより、周辺の土地利用をサポートしようとい う案です。将来的に、完全歩行者空間へ移行させること も視野に入れながら、いくつかの案が生まれました。シ ンメトリー案、アシンメトリー案、中央分離帯案などで す。テラス上での賑わいの創出、歩行空間の確保、身障 者用の駐車スペースの確保、フードトラックによる利用 など様々な面からこれらの案を比較、検討し、最終的に 中央分離帯案を選びました。 坂の街である渋谷の玄関口として、「シブヤ・ゲート ウェイ・テラス」と名づけて、街路の中央部分にテラス 状の歩行者空間を設けました。このテラス空間は FZ の ように、周辺の店舗が区と調整したうえで、アウトドアカフェなどとして利用できる ことを想定しています。(図 13、図 14)単に行政が整備した空間を受け入れるだけで はなく、沿道の事業者が公共空間 の担い手として、街路空間を積極 的に活用するような仕組みとそ れを可能にする空間を生み出し ています。カストロ・ストリート の場合は歩道沿い、宮益坂の場合 は街路の中央部分とその配置は 異なりますが、FZ の発想は共通し ています。 4.まとめ 今日は、FZ を有するマウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートを中心に、パー クレットや宮益坂の事例も交え、ストリートデザインの可能性に関して話してきまし た。FZ やパークレットの事例からも分かるように、本来、車のための空間であった道 路の意味をもう一度見直し、車のための空間の一部である路上駐車帯を歩行者のため の空間に転換していく動きが世界各地で生じています。このように道路は、世の中の ほとんどの人が無意識のうちに甘受している「車の移動のための空間」としてだけで はなく、都市の主要な公共空間として、無限の可能性を秘めていると言えます。また、 道路の役割やその可能性は、自動運転車の出現によっても劇的に変化していくと考え 図 13:宮益坂のデザイン提案 平断面図
られます。 本日は、アーバンデザインという専門分野の中で、みなさんが普段扱っているスケ ールよりも大きなスケールの話をしました。プロダクトデザイン、インテリアデザイ ン、建築デザインなどを学ぶ皆さんは、普段は道路に関して考える機会はないかもし れません。しかし、都市生活者の、そして、人のためのデザインに携わる一人として、 今日の話に皆さんが興味を持ち、デザインの役割や可能性について改めて考える切っ 掛けになればと思っています。 【参考文献】
Peter Bosselmann (1998), Representation of Places: Reality and Realism in City Design, University of California Press
【図版解説・出典】
図 1 レッドウッド・シティのカルトレイン駅前の公共空間デザイン、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 2 レッドウッド・シティのエルカミノ・リアルのストリートスケープ提案、 Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 3 レッドウッド・シティ・ダウンタウン・プリサイス・プランの表紙、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 4 長野県飯田市と渋谷区原宿神宮前の都市間連携プロジェクトのイメージ、明治 大学佐々木宏幸研究室 図 5 長野県飯田市中心市街地の裏界線活用イメージ、明治大学佐々木宏幸研究室 図 6 原宿神宮前キャットストリートのストリートスケープデザイン提案、明治大学 佐々木宏幸研究室 図 7 原宿神宮前の表参道のストリートスケープデザイン提案、明治大学佐々木宏幸 研究室 図 8 ニューヨークのフィギャーグラウンド、Peter Bosselmann (1998) 図 9 京都のフィギャーグラウンド、Peter Bosselmann (1998) 図 10 長谷工コンペの明治大学佐々木宏幸研究室学生応募案、須嵜雄輝、古屋雅之、 水野裕介 図 11 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善前の 断面図、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 12 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善後の 断面図、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 13 渋谷宮益坂のストリートスケープデザイン提案の平断面図、明治大学佐々木宏 幸研究室
られます。 本日は、アーバンデザインという専門分野の中で、みなさんが普段扱っているスケ ールよりも大きなスケールの話をしました。プロダクトデザイン、インテリアデザイ ン、建築デザインなどを学ぶ皆さんは、普段は道路に関して考える機会はないかもし れません。しかし、都市生活者の、そして、人のためのデザインに携わる一人として、 今日の話に皆さんが興味を持ち、デザインの役割や可能性について改めて考える切っ 掛けになればと思っています。 【参考文献】
Peter Bosselmann (1998), Representation of Places: Reality and Realism in City Design, University of California Press
【図版解説・出典】
図 1 レッドウッド・シティのカルトレイン駅前の公共空間デザイン、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 2 レッドウッド・シティのエルカミノ・リアルのストリートスケープ提案、 Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 3 レッドウッド・シティ・ダウンタウン・プリサイス・プランの表紙、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 4 長野県飯田市と渋谷区原宿神宮前の都市間連携プロジェクトのイメージ、明治 大学佐々木宏幸研究室 図 5 長野県飯田市中心市街地の裏界線活用イメージ、明治大学佐々木宏幸研究室 図 6 原宿神宮前キャットストリートのストリートスケープデザイン提案、明治大学 佐々木宏幸研究室 図 7 原宿神宮前の表参道のストリートスケープデザイン提案、明治大学佐々木宏幸 研究室 図 8 ニューヨークのフィギャーグラウンド、Peter Bosselmann (1998) 図 9 京都のフィギャーグラウンド、Peter Bosselmann (1998) 図 10 長谷工コンペの明治大学佐々木宏幸研究室学生応募案、須嵜雄輝、古屋雅之、 水野裕介 図 11 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善前の 断面図、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 12 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善後の 断面図、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
図 13 渋谷宮益坂のストリートスケープデザイン提案の平断面図、明治大学佐々木宏 幸研究室
図 14 渋谷宮益坂のストリートスケープデザイン提案のイメージ図、明治大学佐々木 宏幸研究室
写真 1 レッドウッド・シティのコートハウススクエア建設前の様子、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 2 レッドウッド・シティのコートハウススクエア建設後の様子、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 3 飯田市裏界線小路のイベントの様子、明治大学佐々木宏幸研究室 写真 4 飯田市で開催した地元アーティストなどとのワークショップの様子、明治大 学佐々木宏幸研究室 写真 5 原宿神宮前まちづくり協議会懇親会でのデザイン提案紹介の様子、明治大学 佐々木宏幸研究室 写真 6 原宿神宮前キャットストリートでのイベントの様子、明治大学佐々木宏幸研 究室 写真 7 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善前 の様子、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 8 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善前 の歩道、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 9 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善後 の様子、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 10 マウンテン・ビュー市のカストロ・ストリートのストリートスケープ改善後 の歩道、Freedman Tung + Sasaki Urban Design
写真 11 サンフランシスコの路上駐車帯に設置されたパークレット、佐々木宏幸 写真 12 パークレットに設置された Public Parklet のプレート、佐々木宏幸
(2019 年 11 月 19 日、生活美学研究所本年度生活デザイン小研究会における講演に基づく) コーディネーター 武庫川女子大学生活環境学部准教授