中国上場会社における監事会・監事の独立性の確保 : 日本とドイツの比較法研究
著者 張 達恒
雑誌名 同志社法學
巻 70
号 4
ページ 1449‑1516
発行年 2018‑11‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000355
中国上場会社における監事会・監事の 独立性の確保
――日本とドイツの比較法研究――
張 達 恒
第1章 はじめに―本稿の問題意識
中国の市場は、今日、世界で最も重要なマーケットの一つとなっており、
アリババなど世界的に展開する巨大企業も現れている。もっとも、近時は経 済成長の勢いにやや陰りもみられるものの、中国経済は依然として高い成長 率を維持している。他方で、このように、中国経済成長が進むにつれ、重大 な法令違反行為や証券詐欺など、上場会社に関連したスキャンダルも相次い で起こっている。たとえば、2011年の「緑大地」のスキャンダル1)では、新 規上場に際して交付しなければならない目論見書に記載すべき重要事実を記 載せず、株主総会の報告内容と異なる虚偽の記載をしていたことが問題とな った2)。この事件で、緑大地は、証券市場から3.46億元(日本円で約58.5億円)
の資金を調達した。この当時、緑大地の監事会は、目論見書の内容を適切に 確認することを怠っていたとの批判を受けた。このような批判は、緑大地事 件に限らず、中国の上場会社一般に対して向けられている。すなわち、監事 会・監事は、董事による経営を監督する機関としての機能を果たしておらず、
1) finance.ifeng.com/stock/special/ldd/index.shtml参照。
2) 当該事件に関しては、雲南省の昆明市官渡区人民法院判決において、中華人民共和国刑法 160条の詐欺株式発行罪により、董事長が3年の有期懲役とされたほか、会社には4400万元(日 本円で約7.5億円)の罰金が科されている。
実際には、会社役員の「老人ホーム」と化しているのではないかと批判され ている。
このように、監事会・監事が本来の役割である監督機能を果たしていない 理由は、監事会・監事の独立性の欠如にあるのではないかと思われる。中国 の監事会・監事制度は、1993年に会社法が制定された際に設けられた制度で あるが、それ以来、制度の見直しが行われることはなかった。その結果、長 らくの間、監事会・監事の独立性の保護に関する規定が存在しない状態が続 いていた。もっとも、現在では、いわゆるソフト・ローの形式により、監事 の独立性を確保するための取組みが部分的には取り入れられている。しかし ながら、それらの規制は、あくまで強行法規ではないため、監事会・監事に 対する法的拘束力がないなどの問題点がある。このような状況にもかかわら ず、中国では、監事会・監事の独立性の確保に向けた法改正の動きはみられ ず、学説においても、監事会・監事の独立性に関する研究はそれほど進展し ていない。
監事会・監事の独立性の欠如は、次の2つの意味に分けることができる。
すなわち、第一に、監事会の「形式的な独立性の欠如」であり、第二に、監 事の「実質的な独立性の欠如」である。
第一の「形式的な独立性の欠如」については、監事会の構成に着目して考 えるべきである。中国の監事会の構成員は株主の代表者と従業員の代表者で 構成されている。しかし、実際には、このうち株主の代表者は、大株主の影 響を受けている者であることが通常である。また、従業員の代表者は、董事 会の下で業務に従事する者(部下)であるので、董事会からの影響を受けや すい。よって、監事会の構成は、大株主および董事会の影響を受けやすく、
監督機関としての独立性を害するおそれが強いと考えられる。また、監事会 の独立性を強化するには、社外・独立監事の存在が欠かせない。しかし、後 述するように、現在の中国の社外・独立監事制度には問題がある。
第二の「実質的な独立性の欠如」については、監事の身分・地位をめぐる 問題がある。会社法および関連する法律の規定は、これらの問題にほとんど
言及していない。これに対して、中国と同様の監査システム(「並行」形態)
を採用する日本の監査役会・監査役制度は、とりわけ社外監査役制度が定め られた1993年の商法改正以降、監査役の身分・地位を安定させるとともに、
監査役の独立性を強化するために、監査役の任期を伸長するなどの法改正が 順次行われてきた。また、学説においても、監査役の独立性については、学 説の議論も多い。とりわけ、監査役の独立性は、より一層重視されるように なっている。このような法改正や学説の展開は、中国の監事の「実質的な独 立性」を確保するための議論に、何らかの示唆をもたらす可能性がある。他 方で、ドイツの上場株式会社は、日本および中国と異なり、「垂直」形態の 監査システムを採用する。すなわち、監査役会が会社の業務執行を行う取締 役(経営者)を選任、監督する形態である、この点で、ドイツの監査役会・
監査役会の構成員は、中国の監事会・監事より強い権限を有する。しかし、
監査役会・監査役会の構成員が監督機関としての機能を担う点は、中国の監 事会・監事も同様である。また、中国とドイツの制度を比較すると、監督機 関の構成員に株主の代表者と従業員の代表者が含まれるなどの共通点もみら れる。このような共通点に鑑みると、ドイツにおける議論は、中国における 監事会・監事の機能を強化するための議論の参考になる可能性がある。
本稿では、以下において、中国の監事会・監事の独立性の欠如の原因を説 明した上で、立法論も含め、監事会・監事の独立性を強化するための提案を 試みたい。すなわち、日本の監査役会設置会社制度および、ドイツの上場株 式会社の監査役会・監査役制度に関する議論をそれぞれ整理したうえで、こ れらの検討を踏まえ、中国の監事会・監事の独立性を向上させるための提案 を行うことにしたい。
第2章 中国の監事会・監事制度
第1節 法源
現在、中国では、上場会社(股份有限责任公司)の監事会・監事に関して、
強行法規としての会社法(以下、日本の会社法との区別のため、「中国会社法」
という)がある。しかし、監事が遵守すべきルールには、このような強行法 規のみならず、各種実務指針(いわゆる祖ソフト・ロー)も遵守しなければ ならない。ソフト・ローの例として、たとえば、中国証券監督委員会と国家 経済貿易委員会が布告した上場会社管理準則(「中国版コーポレートガバナ ンス・コード」。以下、「中国版
CGC
」という)(2001年1月7日布告)や、2015年には、上場会社を対象に中国上場会社協会が策定した「中国上場会社 における監事会仕事指針」(以下、「仕事指針」という)(2015公表)などが ある。これらに加えて、中国の国有企業を対象として、個別の規定が存在す る。本章では、こうした監事会を取り巻く法規制およびソフト・ローの内容 を紹介する。
第2節 ガバナンス制度の概説
中国において上場会社のガバナンスに関する議論が高まる契機となったの は、1993年に布告された会社法が会社の内部機関について明確に定めたこと であった。しかしながら、計画経済時代の影響が残留したために、会社の内 部における各機関の関係を会社法において明確化することはできなかった。
他方で、中国共産党第15期中央委員会第4回会議において承認された「国有 企業の改革および発展についての若干重要問題に関する中共中央の決定」
(1999年9月22日)3)では、会社のガバナンスについて、株主会、監事会、董
3) 当該規定は『中共中央关于国有企业改革和发展若干重大问题的决定』(www.reformadata.
org/content/19990922/6111.html)参照。
事会および、経理の職務と責任を明確にするとともに、また、各機関が相互 に監視、制御することにより、パワーバランスを確保することが勧告されて いる。
現在、中国の上場会社のガバナンスは、主に株主会、監事会および董事会 で構成されている。株主会は、監事会と董事会の構成員を選任または解任す る4)。董事会は、大まかにいえば、株主会において選出され、会社の経営を 担当する機関である5)。これに対して、董事会を監督する機関としての監事 会も、董事会と同様に、株主会で選任または解任される。したがって、中国 の上場会社のガバナンスの枠組みは「並行二元」のタイプであると位置づけ られる。
監事会の具体的な権限については、以下のように規定されている(中国会 社法53条)。すなわち、①会社の財務を検査すること、②董事及び高級管理 者について罷免の建議を提出すること、③董事および高級管理者の職務執行 を是正すること、④董事会が株主会を招集しない場合に、監事会が株主会を 招集することができること、⑤株主会会議に対し議案を提出すること、⑥董 事、高級管理者に対し訴えを提起すること、⑦その他定款で定められる権限
4) 中国会社法37条は、株主会の権限を以下のように定めている。すなわち、①会社の経営方針 及び投資計画を決定すること。②従業員代表者でない者が担当する董事および監事を選挙し、
交代させ、董事および監事の報酬に係る事項を決定すること。③董事会の報告を審議して承認 すること。④監事会または監事の報告を審議して承認すること。⑤会社の年度財務予算案およ び決算方案を審議して承認すること。⑥会社の利益分配方案および欠損補填方案を審議して承 認すること。⑦会社の登録資本の増加または減少について決議をすること。⑧社債の発行につ いて決議をすること。⑨会社の合併、分割、解散もしくは清算または会社形態の変更について 決議をすること。⑩会社定款を変更すること。⑪会社定款所定のその他の職権である。
5) 董事会は、以下の権限を有している(中国会社法46条)。①株主会会議を招集し、かつ、株 主会に対し業務を報告すること。②株主会の決議を執行すること。③会社の経営計画及び投資 方案を決定すること。④会社の年度財務予算案及び欠損補填方案を立案すること。⑤会社の利 益分配方案及び欠損補填方案を立案すること。⑥会社の登録資本の増加又は減少および社債発 行の方案を立案すること。⑦会社の合併、分割若しくは解散又は会社形態の変更の方案を立案 すること。⑧会社の内部管理機構の設置を決定すること。⑨会社の経理の選任又は解任及びそ の報酬に係る事項を決定し、かつ、経理の指名に基づき会社の副経理及び財務責任者の選任又 は解任及びその報酬に係る事項を決定すること。⑩会社の基本的管理制度を制定すること。⑪ 会社の定款所定のその他の職権である。
である。
監事会の構成員は、3名を下回ってはならない。さらに、監事会は、株主 代表および適当な比率の会社の従業員代表を含まなければならず、その比率 は、監事会構成員の3分の1を下回ってはならない(中国会社法117条2項 1号)この具体的な比率は会社の定款に定めることとされている。監事会の 従業員代表者は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会またはその他の 形式を通じて、民主的な選挙によって選出する(中国会社法117条2項2号)。
中国における上場会社の多くは、国家の資本が投入されており、民主主義 を体現するために、監事会のメンバーに従業員の代表者を加えることが要求 されている。その理由は、監事会は大株主に支配されやすいことから、その 独立性を確保する必要があるためである。しかし、それにもかかわらず、現 実には、後述するように、中国の上場会社における監事会は、大株主に支配 されている。また、中国の会社法には、社外監事に関する規定が存在してい ないので、中国の監事会の「独立性」は全体的に極めて弱いものとなってい る。
以下では、中国における監事の独立性について、現行の規制と現状を紹介 することにする。
第3節 監事の独立性に関する要件とその現状 1 監事の資格
⑴ 監事の欠格事由
監事会の構成員の消極的な資格(欠格事由)は以下の通りである(中国会 社法146条1項)。
① 民事行為能力がない者または民事行為能力が制限されている者。
② 汚職、収賄、財産横領または社会主義市場経済秩序の破壊により刑罰 の判決を受け、執行期間満了後5年に満さない者、または犯罪により政 治的権利を剥奪され、執行期間後5年に満たない者。
③ 破産し清算を行った会社または企業の董事または工場長、総経理を務
め、当該会社また企業の破産に個人として責任のある者で、その会社ま た企業が破産し清算が完了した日により3年に満たない者。
④ 法律違反により営業許可証の取消、閉鎖命令を受けた会社または企業 の法定代表者を務め、かつ個人として責任のある者で、その会社または 企業が営業許可証を取消された日から3年に満たない者。
⑤ 個人として負っている比較的大きな債務の期限が到来したにもかかわ らず、弁済が完了していない者。
また、董事および高級管理者は、監事を兼任してはならないという兼任規 制が存在している(中国会社法117条4項)。
上記の規定は、監事会における株主の代表者としての監事のみならず、従 業員の代表としての監事にも適用される。
それに加えて、2000年3月15日国務院が布告された「国有企業監事会暫定 条例」(以下、「暫定条例」という)に、監事会における従業員の代表者の条 件について、企業の監事会における従業員の代表者は、企業の管理者になら ないと規定されている(暫定条例15条)。
⑵ 兼任規制
上記のように、董事と高級管理者が監事を兼任することができないとする 兼任規制が存在している(中国会社法117条4項)。ただし、次のような例外 もある。
まず、監事は、病気、死亡、あるいは辞任等で職務の履行が困難になるこ とがある。このような理由で監事に欠員が生じると、監督機能を果たすこと が難しくなる。このような事態を想定して、監事が在任期間中に辞任したこ とで、監事会の構成員が法定人数を下回った場合(中国会社法52条2項)は、
監事会の構成員は、上場会社に即時に補欠選挙を行うことを要求することが できる。会社が補欠選挙を行わない正当な理由がなく、当該選挙を行わない 場合には、監事は、当該会社を管轄する当地の証券監督局に、上場会社が正 当な理由なく補欠選挙を拒んでいるとする旨を通報することができる(仕事
指示8条3項)。この規定は、補欠選挙の実質請求権を行使するために、監 事会の人数が法定の人数を下回った場合かぎり適用される。もっとも、たと えば、9人の監事のうち1人が欠ける状況のように、上記の規定が適用され ない場合は、董事を仮監事として監事会へ派遣することがあり得る。
また、董事が次回の株主総会において退任し、ただちに監事として選任さ れることおよび、一度会社を退職した董事が監事として選任されるという実 情がある。中国では、退職した董事が監事として選任されることについて、
学説の評価は分かれているが、これを肯定するのが多数説である。多数説は、
董事会であった構成員である監事は、会社内部の状況を把握しているとして、
現在の董事会に対してよりよい監督機能を果たすことを期待する6)。また、
会社の機関運営のコストから見ると、機関の負担を減少するメリットがある ことも指摘されている。これに対して、少数説は、董事会の構成員が、董事 会と利害関係を有することは否定できないとして、監事としての独立性を懸 念し、退職した董事を監事として選任することに反対する7)。董事の知見を 監事として活かすことが有用である反面、監事の独立性も保護しなければな らないので、両者のバランスをどのようにとるかは、なお検討の余地がある8)。
⑶ 社外・独立監事
2000年10月に実行された「上海証券取引所上場会社コーポレート・ガバナ ンス方針」(以下、上証・CGC・方針という)は、上場会社の監事会の構成 員について、株主の代表者と従業員の代表者以外に、独立監事を設置するこ とができると規定している(上証・CGC・方針29条)。当該制度を設ける趣 旨は、監事会の構成員の独立を強調し、そのため、監事会の監督職務の能力
6) IngoSaenger, Conflict of Interest of Supervisory Board Members in a German Stock Corporation and The Demand for Their Independence: An Investigation in The Context of The Current Corporate Governance Discussion, The Corporate Governance Law Review, Vol. 1, No.1
(2005)p.159, http://heionline.org/HOL/License 7) Ingo・前掲注(6)159頁 -161頁。
8) 王彦明=赵大伟「论中国上市公司制度的改革」(社会科学研究、2016年1月)91頁。
を上げることができるということであると指摘される9)。
しかし、社外・独立監事の選任方法および社外性の定義については、中国 会社法に規定はなく、上証・CGC・方針にも規定がない。これに対し、社外 監事会の構成員の選任は会社以外の第三者機関(たとえば、各地の証券監督 委員会)が行うべきであるとする見解がある。この見解に対しては、第三者 機関が選任した社外監事について、独立性を保護するために当該監事の報酬 は第三者機関が支払うとした場合、第三者機関に経済的な負担を課すことに なるとして、反対する意見もある10)。また、台湾では、この状況について、
専門的な社外監事の選任の仲介機関を設置すべきであるとする意見書が提出 されている11)。もっとも、これらの意見で述べられている内容が、中国にお いても妥当するものであるかどうかという問題がある。現在、中国では、中 立的な機関を選任する機関は人民法院とされている。「独立性」の観点からは、
人民法院に権限があることにより、一定程度監事会の「独立性」を確保する ことはできる。しかし、実態の会社における監査のニーズを把握する専門家 を探すことは、人民法院にとって困難であると思われる。
2000年に社外・独立監事制度を導入した際に、社外・独立監事を選任した 会社の数は4社であった。これは、当時の上場会社の総数の2.92%を占める にすぎなかった。ところが、2008年には、当該制度を利用する会社の数は17 社に増加し、上場会社総数の22.08%を占めるに至っている12)、上場会社自ら 社外・独立監事を設置する傾向がみられる。しかし、当該制度は、なお主流 の制度にはなっていない。その理由は、社外・独立監事と社外・独立董事制 度の運用コストが高く(報酬のコストが高い)、会社にとって負担になるか らである13)。そもそも中国において、社外董事がその監督機能を果たしてい
9) 杨帆「论公司治理结构中的外部监事制度」(法学・経済法制、2001年第12期)71頁。
10) 杨・前掲注(9)71頁。
11) 黄铭杰「台大法学论丛」(第29巻第4期)198頁。
12) 王世权=宋海英「上市公司该实施独立监事制度吗?-来自中国证券市场的证据」(会計研究、
2011年10月)70頁参照。
13) 李庆=王利军「上市公司外部监事法律制度研究」(経済与管理、2005年4月第4期第19巻)
76頁。
ないと評される例が少なくないため、その実際の運用への期待は、あまり高 くない14)。このような状況に鑑み、現時点では、社外監事の導入に慎重な態 度をとる見解が多数説である。
2 監事の選任
⑴ 株主の代表者
監事会における株主の代表者の選任は、株主会で行われる(中国会社法37 条2号)。また、株主会は、董事又は監事を選挙する場合には、会社の定款 又は株主会の決議により、累積投票制を実行することができる(中国会社法 105条1項)。しかし、実際は、多くの会社において、監事の選任は、大株主、
各地方政府、高級管理者、あるいは、董事の影響を受ける場合が多い。
⑵ 従業員の代表者
従業員としての監事の選出については従業員大会、従業員代表大会その他 の民主的な方法により選出されるとのみ規定される(中国会社法117条2項 2号の後段)、詳細的な内容は会社の定款に委託される。また、暫定条例15 条の後段および、仕事指示7条3項にも同じ内容が定められている。しかし、
中国版
CGC
では、その問題への言及はない。一般企業の従業員としての監事の選出手続きでは、まず、労働組合(工会)
が候補者を指名し、指名された候補者について企業内共産党組織が審査を行 う15)。審査を通過した者は、上部労働組合機関に報告される。その後、従業 員大会や従業員代表大会において無記名投票で選挙し、その結果を上部労働 組合機関に届け出るという手続きを経る16)。
14) 社外董事が機能していないと評されている例として、1999年の“黄河事件”を挙げることが できる。この事件では、二人の社外董事が辞任せざるを得なくなったところ、これら二人の社 外取締役は、その本来の機能を果たしていなかったと評されている。その理由は、そもそもこ れらの二人の社外取締役の設置が会社の利益のためではなく、株主の自分の利益を出発点とし て利用することである。李等・前掲注(13)76頁参照。
15) 企業内共産党組織がない場合は、上部労働組合が審査する。
16) アジア太平洋監査制度研究会編「中国における監査制度の実情と課題」『新展するアジアに
しかし、中国の監事会の従業員の代表者は形骸化している17)。その原因は、
上記の法律の不完備のほか、手続上の問題もある。それは、第一段階は労働 組合であり、第二段階は従業員代表大会である。
まず、第一段階において、監事会の従業員の代表者の選出は、各企業の労 働組合で行われる。したがって、監事会の従業員の構成員の独立性を確保す るためには、基層組織の独立性に注意を払わなければならない。中国の会社 の労働組合を規制する労働組合規約は、1993年10月31日中国労働組合第12回 全国代表大会において採用された。労働組合規約の総則により、労働組合は 従業員の意思自由に基づいて設立される。それに加えて、各種所有制の企業、
事業および機関などの基層単位は、法により労働組合組織が設立される(同 規約の24条)。そして、労働組合員大会に、労働組合基層委員会と経費審査 委員会を選出する権限を有している(同規約25条3項)。これらの内容を踏 まえると、確かに、労働組合の活動は会社もしくは政府から独立していると 考えられる。しかし、労働組合の経費の源泉は、①組合員が納付する組合費、
②企業、事業および機関単位が全ての従業員の賃金総額の2%の割合により 交付する経費、③労働組合に属する企業および事業が上納する収入、④人民 政府ならびに企業、事業および機関単位の補助である(同規約35条)。同規 約の規定に鑑みると、特に⑵と⑶に関して、労働組合の活動経費の一部は、
企業とのつながりがあるため、企業が労働組合活動に関与する懸念があり、
労働組合の金銭的な独立性の問題が生じていると考えられる。
また、労働組合は従業員監事の候補者の選出の手続にあたり、会社の労働 組合が自己推薦および推薦状況に基づき、従業員の意見を充分に聴取するこ とを基礎として指名する(同規約38条1項)。また、労働組合の主席と副主 席は、従業員監事の候補者としなければならない(同条2項)。しかし、労 働組合の監事の候補者の推薦に政党性を考慮する要件が存在する場合が多い。
おける監査制度の実情と課題』(方新)(商事法務、2012年10月)8頁。
17) 郭雳「中国式监事会:安于何处,去向何方?-国际视野比较下的再审思」(《比較法研究》、
2016年第2期)77頁。
以上のように、監事会の従業員の代表者の選出の基礎組織に関して、金銭 的な独立性と政党性からの独立性という問題がある。とりわけ、「独立性」
と「政党性」を区別する意識が簿弱となり、中国国有企業の場合には、政党 の地位を利用し、監事会の構成員の独立性を侵害することがある18)。 第二段階は、従業員代表大会の決定においては、労働組合から指名される 候補者が、従業員代表大会の全体代表の過半数の採択を経た場合に限り、当 選することができる(同規約38条1項の後段)。
まず、監事会の従業員の代表者を決定する機関としての従業員代表大会の 構成について、2007年の「中国国有資産委員会中央企業従業員代表大会制度 を建築し、改善する指導意見」(以下、指導意見という。)により、中央企 業19)の従業員代表大会の構成は企業の規模によって異なる。大まかにいえば、
中小中央企業の場合には、各職業を単位として、選挙区を離れており、そし て、当該選挙区の3分の2以上の従業員が参加し、過半数以上の投票を獲得 した候補者が従業員代表大会の構成員になる。その一方で、大規模企業の場 合においては、子会社の従業員代表大会の選挙によって構成される。ところ が、従業員代表大会について、上記の指導意見の規定は、中央企業にしか適 用されない。そうすると、ほかの国有企業に関して、当該大会の地位、性質 および構成について不明確なところが残る20)。以上のことからも、会社の監 事会の従業員代表に会社からの関与を受ける可能性が高いと言わざるをえな い。
3 監事の任期
監事の任期について、監事の任期は1期3年とされる。監事は任期が満了 し、連続し選出された場合は再任することができる(中国会社法52条1項)。
18) 郭・前掲注(17)77頁。
19) 中国における中央企業とは、とくに中国中央政府の持株比率の高い企業を指す。このような 企業には石油、ガスなどを業とするものが含まれる。
20) 谢增毅「职代会的定位与功能重塑」(法学研究、2013年第3期)112頁。
また、監事の任期満了時に速やかに改選しない場合、または、監事の在任期 間中の辞任により、監事会構成員が法定人数を下回った場合は、退任監事が、
法律、行政法規及び会社定款の規定に従い、監事の職務を履行しなければな らない(同条2項)。この内容は、仕事指示8条3項にも定められている。
このように、監事会の任期は、原則として3年であるが、再任することが できるとされている。ただし、再任の回数について、法律上の制限はない。
また、同条2項にもとづき退任監事が職務の履行を継続する場合は、元の監 事の任期が3年を超える可能性がある。このような規定により、監事が長期 間に就任し、董事の人間関係が深くなると、監事会の「独立性」を維持する ことができなくなり、最終的に、董事会・董事とのなれ合いが生じるおそれ もある21)。
4 監事の解任
監事を解任する場合、会社内部の決定による解任が多い。
第一に、董事、監事および高級管理者が、146条1項に所定の事由が出現 した場合には、会社は、その職務を解除しなければならない(中国会社法 146条5項2号)。それに加えて、仕事指示は、職務に関係する解任事由を規 定する。すなわち、仕事指示の9条は、同条に定められた行為を行う場合に、
監事会は、株主会、あるいは、従業員代表大会に当該監事を解任することを 提案すべきであるとしている。すなわち、①会社もしくは従業員の利益を故 意に害する行為、②職務を履行する際に、収賄、あるいは、他人のために不 当な利益を図るためにする行為、③在任期間中に、会社に損害を与える不法 行為を発見するものの、その事実を隠し、開示していない行為、または④在 任期間中に、会社の未開示の内部情報を利用し、インサイダー取引をする行 為のいずれかに該当する場合に、監事を解任することができる(仕事指示9
21) Shujun Ding・Zhenyu Wu・Yuanshun Li・Chunxin Jia, Can the Chinese Two-Tier Board System Control the Board Chair Pay? Asian Journal of Finance & Accounting, Vol. 1, No. 1
(2009) p.5, http://www.macrothink.org/Journal/index.php/ajfa/arcticle.
条1項)。これに対して、監事は、会社の解任、あるいは、任期満了前に解 任された場合であって、これに正当な理由がないと認識した場合、当該情報 を開示することができる22)(同条2項)。これらのことは、株主を代表する 監事および従業員を代表する監事の両方に妥当する。
第二に、従業員の代表者の監事解任は、従業員監事が職責を履行せず、ま たは重大な故意もしくは過失があった場合には、3分の1以上の従業員代表 の連名により提議し、従業員代表大会全体代表の過半数による採択を経れば 罷免することができる(労働組合規約41条)。ところが、実態調査の結果に よると、法律の原因によらず、監事会の構成員は新しい任期に選出されない 場合に自動的に退任となることが多いようである。また、実務では、監事会 の構成員の辞任、あるいは、仕事の変動によって監事の身分を失う場合が多 い23)。
中国において、監事を解任することは容易ではない。これは、仕事指示の 執行性が欠如していること24)、また、労働組合規約の規定の執行性の可能性 に対する懸念があるからである25)。解任を困難にすることは、監督機能を果 たすための安定性を確保することに資すると言える。しかし、解任事由は定 款で定めることが可能であり、また、監事は不当な理由で解任されるとして も、中国会社法の中には、会社に対する損害賠償を請求できる規定はない。
学説の中には、任期中の監事の辞任と解任の方式が董事と同じであり、した がって、董事と同様に損害請求権を有しているとの見解がある26)。ただし、
この見解は、通説とまではいえない。
22) しかし、その具体的な方法に関する説明は一切みられない。
23) 张志坡 = 王果「我国上市公司监事会治理的实践」(金陵法学评论、2014年秋季卷)117頁。
24) その理由は、当該仕事指示が自律規制であり、当該規定に従わない場合に、自律処分を課す
(仕事指示73条後段)にすぎないということである。すなわち、会社が当該規定に従わなくても、
罰金および刑事処罰が科されることはないということである。
25) その理由は、会社が当該規約に従わない場合における処罰に関する規定が労働規約に存在し ないことであり、法的拘束力を有しないということである。
26) 范健=王建文『会社法(第四版)』(法律出版社、2014年)359頁。
5 監事の報酬
監事の報酬に関する事項を決定する権限は、株主会が有する(中国会社法 37条2項後段)。監事の報酬に関する提案は監事会が提出し、株主総会で当 該提案を審議し、確定する(仕事指示11条)。ただし、監事、高級管理者の 報酬の計画については、委員会を提出し、株主総会で決めることができる(上 証・CGC・方針49条前段)。
このように、監事の報酬の決定機関は、株主会である。これは、従業員代 表者の監事の地位が董事の下のことであるため、董事会からの影響を及ぼす ことを防ぐためである。しかし、上証のように、報酬計画の作成が委員会に 任せられ、当該委員会は董事会の下に置かれ、支配されることが通常である ので、監事会における従業員の代表者の保護に問題がある。
監事の報酬は、その業績によって決定しなければならない(中国版
CGC
69条と72条)。これらの規定によると、監事の報酬は、固定的な報酬と 業績連動報酬により構成されると考えられる27)。しかし、中国では、監事の 報酬に関する議論は十分になされていない。6 中国特有の事情
中国の監事の独立性の欠如は、上記の法律規定が十分ではないことのみな らず、中国特有の事情すなわち政府による企業経営への関与も理由の一つで ある。すなわち、1993年以前28)の中国の国有企業の文化の下では、企業も しくは会社については集団的な監督がなされ、社会主義の思想を貫く会社に おいては、すべての従業員が、職務、各職務の権利を問わず、会社の管理、
監督権利を有するので、不祥事件が生じる場合には、集団的な責任を全員に 課すとされていた29)。そのため、責任意識、権限の分離の意識が弱まり、監
27) しかし、このことは、兼任監事に支払う手当てと業績連動報酬の区別が曖昧な関係になりか ねないので、恣意的な報酬額の操作を許しているという問題がある。
28) 1993年会社法を設立する前は、全民所有制企業の形で作る会社が主流派であった。
29) 学説では、1993年前の会社に「集団責任」を負う制度の下で、「誰も責任を負わない」とい う帰結を招くことになったと指摘する見解もある。
督についての基本的な独立性が失われていた。そして、1980年代の改革開放 政策の下で会社法を制定しても、前時代からの意識が完全には改善されてい ないので、現在と同様の状況になっていると思われる。
また、中国の1980年代の政治と経済の改革の過程で、政府は、国有企業も しくは国有資産の流失に直面し、その対処に追われることになった。また、
社会の安定性を確保するために、国有企業の利益を優先させ、そのため、市 場経済における“適者生存”の原則を軽視し、不正な株式の発行なども容認 した。この当時、政府は、企業のガバナンスに配慮する余裕はなかった。さ らに、董事は、政府の影響を強く受けており、上記の状況のもと、政府の方 針する監事の選任に消極的であった。そのため、監事の選任にあたって、董 事は、大株主と事前に相談し、決定する実務が行われていた。
以上の結果、会社の監督機能を果たす監事会が片隅に追いやられ、現在の 中国の監事は、独立性を失っていると考えられている30)。
また、中国会社の監事は、とくに、国有持株比率が高い国有企業では、政 府によって選任されることができるので、当該監事の独立性は極めて不明で あるとされる31)。政府が選任する監事は、その大部分が中国共産党の党員で あるので32)、彼らの選任については、法律にも、共産党の内部規定にも一切 言及がないためである。
30) 甘培忠「论完善我国上市公司结构治理中的监事制度」(中国法学、2001年第5期)78頁。
31) Lin Zhang, Adaptive Efficiency and The Corporate Governance of Chinese State-Controlled Listed Companies: Evidence From The Fundraising of Chinese Domestic Venture, UC Davis Business Law Journal, Vol. 10, Ed. 2 (2010)p.162, http://heinonline.org/HOL/License 32) James V. Feinerman New Hope for Corporate Governance in China? The China Quarterly,
191 (2007) p. 594, http://scholarship.law.georgetown.edu/facpub/589
第3章 日本の監査役会・監査役制度
第1節 法源
日本における監査役・監査役会に関する制度は、会社法(以下、「日本会 社法」)および会社法施行規則(以下に、「施行規則」という)に定められて いる。また、公益財団法人日本監査役会協会で作成した監査役監査基準(以 下に、「監査基準」という)、監査役監査実施要領(以下に、「実施要領」と いう)、および新任監査役ガイド(以下に、「ガイド」という)が、監査役会 の運営についての実務指針として規定されている。
第2節 ガバナンス制度の概説
日本の監査役会設置会社のガバナンス体制は、株主総会、取締役会(中国 の董事会に相当する機関)および監査役会(中国の監事会に相当する機関)
の3つの機関で構成される。まず、株主総会は、会社の最高の意思決定機関 である33)。また、取締役会は、業務執行に関する決定を行う機関であり、そ の構成員は、株主総会において選任または解任される34)。また、日本の会社 法は、取締役を監視する機能を監査役会・監査役に付与している。すなわち、
監査役会・監査役は、取締役の職務の執行を監査するとされている(日本会
33) 監査役会設置会社の株主総会の権限は、次の4種類に分けられる。すなわち、①取締役、監 査役の解任、あるいは解任をすること、②定款変更、あるいは事業譲渡や合併といった会社の 基礎的変更に関すること、③剰余金の配当をはじめとする株主の重要な利益に関すること、④ 取締役の報酬の決定のように、他機関の決定に委ねては株主の利益を害する可能性が高い事項 に関することである。
34) 取締役会は、次のような権限を有する(会社法362条4項)。すなわち、①重要な財産の処分・
譲受け、②多額の借財、③支配人その他の重要な使用人の選任・解任、④支店その他の重要な 組織の設置・変更・廃止、⑤社債の募集、⑥内部統制システムの概要、⑦定款規定に基づく取 締役等の責任の一部の免除、⑧その他の重要な業務執行の決定である。これら8つの事項に関 する決定は、必ず取締役会でしなければならない。
社法381条1項前段)。
公開会社かつ大会社35)は、監査役会および会計監査人を置かなければな らない(日本会社法328条)。また、監査役会設置会社において、監査役は、
3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない(日本会 社法335条3項)。
このような会社においては、株主の人数が多く、株主の変動も頻繁である ため、株主による会社経営の監督を期待しにくい。そこで、監査役会の設置 が強制され、それに加えて、半数以上は社外監査役でなければならないとさ れている。これら規制を通じて、監査役会の「独立性」を高め、取締役会に 対する影響力の強化が図られている36)。
このように、日本の監査制度は、中国法における「並行二元」のガバナン スの枠組みに類似した制度となっている。以下では、中国法の検討と同じ視 点で、監査役の独立性について、現行の規制と現状を検討することにしたい。
第3節 監査役の独立性に関する要件と学説 1 監査役の資格
⑴ 監査役の欠格事由
監査役の欠格事由として、以下のものが定められている。
① 法人
② 成年被後見人若しくは被保佐人
③ 会社法、金融商品取引法等の所定の罪を犯し刑に処せられた場合、
その後、又は、その執行を受けることがなくなった日から2年を経過 しない者
④ その他の法令違反で禁錮以上の刑に処せられた場合、その執行が終 わらない者、又はその執行を受けることがなくなるまでの者
これらの規定は、取締役に関する欠格事由(日本会社法331条)を監査役
35) 本稿の検討対象は、大会社である監査役会設置会社である。
36) 岩原紳作編『会社法コンメンタール(7)』〔近藤光男〕(商事法務、2013年)394頁。
に準用する形で規定されている(日本会社法335条)。
なお、公開会社では、監査役が株主でなければならないと定めることがで きない(日本会社法331条2項と335条1項)。
法人は、監査役となることができない。このことは、2005年の商法改正ま で、条文上、必ずしも明確ではなかったが、会社法では、明文規定をもって、
法人監査役が否定されている。従来、学説では、法人の監査役就任の可否に ついて争いがあった37)。多数説は、法人監査役を否定する38)。その理由は、
監査役の職務は人的信頼関係を基礎とするものであるため、監査役が法人で あれば、監査役としての責任および義務を課すのが難しくなるということが 挙げられている39)。また、法人監査役を認めると、監査役としての職務を行 う自然人が、会社の承諾なく、当該法人によって変更される可能性があるこ とも、法人監査役が否定される理由とされている40)。これに対して、法人の 会計監査人が認められていることから、監査役についても、法人性はその職 務と本質的に相容れないものではないこと、会社の規模が巨大化、複雑化し、
社内の監査役だけではその任務を十分に果たすことができないことを理由と して、法人の監査役を肯定する説もみられる41)。
⑵ 兼任規制
監査役は、会社若しくはその子会社42)の取締役若しくは支配人又は当該 子会社の会計参与若しくは執行役を兼ねることができない(日本会社法335 条2項)。
37) 岩原編・前掲注(36)〔山田純子〕479頁。
38) 酒巻俊雄=龍田節編代『逐条解説会社法(第4巻)』〔末永敏和〕(中央経済社、2007年)279 頁。
39) 商事法務研究会編『新版監査役ハンドブック』〔菅原菊志〕(社団法人商事法務研究会、1983 年)102頁。
40) 岩原編・前掲注(36)〔山田純子〕480頁。
41) 酒巻=龍田編代・前掲注(38)『逐条解説会社法(第4巻)』〔末永敏和〕(中央経済社、2007 年)281頁。
42) 子会社には海外子会社も含まれる(日本会社法施行規則2条3項2号と3条1項)。
監査役の兼任については、1950年改正前の商法において、単に取締役また は支配人を兼任することができないと規定された(1950年改正前の商法276 条)。1950年の商法改正においては、支配人たるとそのほかの使用人たると を問わず、会社の使用人を兼任することができないと定められた。また、
1974年の商法改正では、子会社の取締役または支配人そのほかの使用人を兼 任することができないと明文化された43)。そして、2005年の会社法では、会 計参与制度の導入に伴い、子会社の会計参与を兼任することができないとさ れた。
ところで、取締役は、その退任と同時に、新たに同じ会社の監査役に選任 されることがある。このような監査役のことを「横すべり監査役」という。
これに関して、かつて、一定規模以上の会社について、「監査役のうち1名 以上は、その就任前の一定期間、会社の代表取締役、法定権限以外の職務を 担当した取締役又は使用人でなかった者でなければならない」とする提案が なされたことがあった44)。しかし、経済界の反対もあり、この提案は実現で きなかった45)。さらに、それまで、取締役であった者が監査役に選任されて も、自己が取締役であった期間につき自己を含む取締役の職務執行を監査す ることができるとする下級審判決も存在していた46)。
学説には、監査役による監査は、株主のための監査であるから、監査の公 正を期待するために、監査側と被監査側が別人格であることが基本的な要請 であるとするものがある47)。この見解によれば、監査役と取締役の兼任禁止
43) 商事法務研究会・前掲注(39)〔菅原菊志〕104頁。
44) 1978年12月25日「株式会社の期間に関する改正試案」第三の二のb。
45) 河本健一「横すべり監査役の未就任期間の監査」商事法務1068号(1986年)3頁。
46) 酒巻=龍田編・前掲注(38)〔末永敏和〕283頁。また、東京高判1986年6月26日判時1200号 154頁。裁判所の判決により、横すべり監査役を認める。その理由としては、①商法276(当時 の商法典)条の規定の文言は会社の取締役に選任することを禁止していないこと、②同法273 条は、監査役の任期と監査対象期間の一致を要求していないこと、③取締役であった者が立場 を変えて、監査役の立場で職務を執行することは可能であること、また、会社の最近(当時)
の実情に通じているという点から見れば長所もあるともいえ、取締役であった者を監査役に選 任するかどうかは株主総会の判断に委ねるべき事項であるを指摘した。
47) 中村一彦「判批」金融・商事判例740号(1986年)46頁。
の趣旨は、横すべり監査役にも、妥当するものとなろう48)。
⑶ 社外監査役
会社法は、社外監査役の要件をつぎのように規定している(日本会社法2 条16項参照)。
① その就任の10年前間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参 与、執行役、支配人その他の使用人となったことがないこと
また、その就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又 はその子会社の監査役であったことがある者については当該監査役へ の就任の前10年間、当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与、
執行役、支配人その他の使用人となったことがないこと
② 当該株式会社の経営を支配している者又は親会社の取締役、監査役 若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと
③ 当該株式会社の親会社等の子会社等の業務執行取締役等でないこと
④ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は当 該株式会社の経営を支配している者の配偶者又は2親等内の親族でな いこと
子会社には海外子会社も含まれる(日本会社法2条3項と施行規則 3条1項、2条3項2号)。
株主総会参考書類には、社外監査役候補者である旨、社外監査役候補者と した理由等を記載することが必要である49)。
48) 吉本健一「いわゆる横すべり監査役と自己監査の禁止」判例42巻14号(1991)53頁。
49) 株主総会参考書類には、①候補者が社外監査役候補者である旨、②社外監査役候補者とした 理由、③候補者が現に当該会社の社外監査役である場合、最後に選任された後在任中に当該会 社において法令又は定款に違反する事実その他不正な業務の執行が行われた事実(重要でない ものを除く)があるときは、その事実並びに当該事実の発生の予防のために当該候補者が行っ た行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要、④候補者が過去5年間に他社の 取締役、執行役又は監査役に就任していた場合に、その在任中に当該他社において法令又は定 款に違反する事実その他不正な業務の執行が行われた事実があることを当該会社が知っている ときは、その事実(重要でないものを除き、当該候補者が当該他の株式会社における社外取締
日本の会社法における最初の「社外役員」は、1993年の商法特例法改正に おける社外監査役である50)。背景としては、日米構造問題協議で、アメリカ により社外取締役の選任が要求されたことがある。日本側は、それへの対応 として、社外監査役の選任を制度化した。
1993年の商法特例法改正により、社外監査役の要件として、就任前5年間、
その会社の取締役、もしくは支配人その他の使用人、または子会社の取締役、
もしくは支配人その他の使用人でなかった者でなければならないと規定され た。これは、取締役であった者が、すぐに監査役になった場合、独立した立 場での監査ができないことを理由とする。また、会社の使用人もしくはその 子会社の取締役、または使用人は、監査対象である取締役からの指揮命令に 法律上または事実上服する従属的な地位にあるため、その独立性が不十分で あると説明された51)。
2001年の商法改正を契機として、商法特例法に大会社の監査役会設置会社 においては、監査役は、3人以上選任しなければならず、そのうち半数以上 は、その社外監査役でなければならないとされた52)。同時に、社外監査の資 格である「5年」の期間ルールが廃止された。
2010年の調査によると、社外監査役の出身元は、親会社の役職員(23.9%)
が最も多かった53)。その状況から、親子会社の関係で、子会社の社外監査役 の「独立性」を害する可能性がある。これについて、会社法で社外監査役の 独立性要件を強化すべきという意見があった。これに対し、社外監査役の独
役又は監査役であったときは、当該事実の発生予防のために当該候補者が行った行為及び当該 事実の発生後の対応として行った行為の概要を含む)、⑤候補者が過去に社外取締役又は社外 監査役となること以外の方法で会社の経営に関与していない者であるときは、当該経営に関与 したことがない候補者であっても社外監査役としての職務を適切に遂行することができるもの と当該株式会社が判断した理由の5つの事項に関する記載が必要である。
50) 吉本健一「社外監査役および社外取締役の社外性の意義と機能」阪大法学52巻第3・4号(2002 年)626頁。
51) 吉本・前掲注(50)628頁。
52) 平成13年12月旧商法特例法18条1項。
53) 山本和範「社外監査役制度の今日的課題」月刊監査役584号(2011年)40頁。
立性のような事項を会社法で詳細に定めることは無理があるという見解もあ った54)。
2014年の会社法改正では、社外監査役の要件について、従来の規定を基本 的に維持するとともに、就任前に「10年」経過すれば「社外性」が復活する という規定を新設した。また、就任時点に①当該会社の親会社など(自然人 であるものに限る)または、親会社などの取締役、監査役もしくは執行役も しくは支配人その他の使用人でないこと(日本会社法2条16項のロ)、②当 該会社の取締役もしくは支配人そのほかの重要な使用人または親会社など
(自然人であるものに限る)の配偶者または二親等でないこと(日本会社法 2条16条のホ)といった要件を追加された。
なお、2015年の日本監査役協会の調査によると、上場会社において、社外 監査役の出身は公認会計士と税理士が最も多い(22.6%)55)。2014年の会社法 における社外監査役の要件の改正は、会社内部のしがらみや、会社との利害 関係等を離れて客観的・中立的な立場で行動できるように、会社から独立性 の高い社外監査役の必要性を重視したためと考えられる56)。
2 監査役の選任
監査役の選任については、株主総会の普通決議で選任される(日本会社法 329条1項)。しかし、監査役選任の議案は、株主提案権の行使という例外的 な場合を除いて、原則として取締役会設置会社の場合には取締役会が決定す る(日本会社法298条1項)。したがって、監査役の独立性の地位を強化する ために、取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案 を株主総会に提出するには、監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、
その過半数)の同意を得なければならない(日本会社法343条1項)。
54) 前田雅弘「独立役員の確保と会社法」月刊監査役570号(2010年)3頁。
55) 大江橋法律事務所編『コンパクト解説会社法3・監査役・監査委員・監査等委員』(商事法務、
2016年)28頁。
56) 桃尾ほか編『コーポレート・ガバナンスからみる会社法(第2版)』(商事法務、2015年5月)
211-212頁。
また、上記した監査役の欠員の場合を防ぐために、補欠監査役の事前選任
(日本会社法329条3項)と裁判所の事後の選任(日本会社法346条2項)を 規定されている。
さらに、事前的に補欠監査役の選任は、株主総会の決議で行われる(日本 会社法329条2項)。また、当該決議についての定足数、決議要件、意見陳述 権などは、通常の監査役の選任に関する規定がそのまま適用される。また、
裁判所が一時監査役の選任を行う場合(日本会社法346条2項)、会社の本店 の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属し、通常は、申立人が候補者を示 して、裁判所は、選任の必要性の有無を判断した上で、理由を付した決定を もってその者を選任する。この決定については、不服の申立ては認められな い。
3 監査役の任期
監査役の任期は4年である(日本会社法336条1項)57)。定款によって、任 期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任の 満了時までとすることできる。また、定款や株主総会決議によってその任期 を短縮することができない(同条3項)。
監査役の任期は、1900年施行の商法で「1年」と規定された(当時の商法 の180条)。1911年の商法改正では、当該任期は「2年以内」に延長され、か つ、定款をもって任期中の最終の配当期に関する定時総会の終結時まで伸長 することが認められた。その後、1950年の商法改正では、「1年以内」に再 度短縮されたが、1974年の商法改正では、監査役の地位の安定・強化を図る ために、「2年以内」の最終の決算期に関する定時総会の終結の時までとし、
かつ定款によって任期の短縮と伸長を認めないと定められた。そして、1993 年の商法改正により、「3年」に拡大され、2001年の商法改正において「4年」
とされ、現在に至っている58)。これらの監査役の任期の延長は、監査役の地
57) 任期の前にその補欠としてあらかじめ選任された者は日本会社法336条1項の適用対象となる。
58) 高橋均『実務解説・監査役監査』(学陽書房、2009年)15頁。
位を確保することを目的としたものであった。
4 監査役の解任
監査役の解任には株主総会による解任および、裁判所による解任の方法が ある。
⑴ 株主総会による解任
監査役は、いつでも、株主総会の決議により解任することができる(日本 会社法339条1項)。監査役の解任に係る株主総会の決議は、議決権を行使す ることができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1まで引き下げる可能)
を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2(定款でそれ以上を決 めることも可能)以上の賛成を要する(特別決議)(日本会社法343条4項、
および309条2項の7号規定)。
また、解任議案の対象となっている監査役を含めその他の監査役も、株主 総会において、監査役会の解任について意見を述べることができる(日本会 社法345条1項と4項)。また、取締役が監査役の解任に関する議案を提出す る場合には、株主総会参考書類には、監査役の氏名、解任理由、解任に関す る監査役の意見があるときは、その意見の内容の概要を記載しなければなら ない(施行規則80条)。
なお、株主総会決議によって解任された監査役は、その解任について正当 な理由がある場合を除いて、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を 請求することができる(日本会社法339条2項)。
1890年の商法は、株主総会は監査役を解任することができると規定したが、
解任された監査役は、会社に対して損害賠償金を請求することができないと された。会社が解任した監査役に莫大な賠償金を支払わなければならないと された場合、会社が監査役の解任に躊躇することが懸念された59)。それ以後
59) 岩原編・前掲注(36)〔加藤貴仁〕(商事法務、2013年)、514頁。
は、2005年改正まで、この点は改正されなかった60)。
まず、2005年前の商法では、取締役の解任と同様に、監査役の解任にも株 主総会の特別決議が必要であると規定されていた。これに対して、2005年に 制定された会社法では、取締役の解任は普通決議によるとしたものの、監査 役会の構成員の解任は特別決議を要するとする規定を維持した。これは、監 査役の地位の「独立性」を重視すべきであると考えられたことによる61)。 また、2005年の会社法で規定された解任された監査役に対する損害賠償責 任は、株主総会による解任の自由の保護と監査役の任期に対する期待の保護 との調和を図る趣旨のものである62)。
ただし会社が監査役を解任するにつき「正当な理由」がある場合に、解任 された監査役に損害賠償責任を負わない(日本会社法339条2項)。ここいう
「正当な理由」の範囲についての解釈は、二つの見解がある。まず、「正当な 理由」を広く捉える見解からは、会社の解任が不法行為責任を構成しない限 り、正当な理由が常に認められる。しかし、実際に、株主総会の解任が不法 行為を構成することが極めて少なく、また、会社側の故意・過失について、
解任した者に立証責任を負わせるのは困難であると批判がされる63)。これに 対して、現在の通説により、一般に、それを狭く解釈すべきと解してい る64)。それに加えて、現在の多数説は、「正当な理由」を立証する責任は会 社側にあると理解している65)。解任された監査役には、株主総会における意 見陳述権が与えられている(日本会社法345条4項)。それは、1974年の商法 改正によって創設された制度である。この制度は、監査役の地位の強化を目
60) 当該条文における損害賠償金の請求権の適用対象は、明治23年の商法から、取締役と規定さ れてきた。
61) 川口恭弘「監査役の地位の独立性」同志社法学382号(2016年)255頁。
62) 岩原編・前掲注〔加藤貴仁〕(36)528頁。これに対して、株主総会は理由を問わない無制限 の解任権を保持し、解任権を行使した会社が損害賠償責任を負うのは不法行為の要件が充たさ れる場合に限られた理由として不法行為責任を見解する少数説もある。
63) 大山俊彦「判批」金融・商事判例655号(1982年)50頁。
64) 奥島等編『新基本コンメンタール(第2版)会社法2』〔潘阿憲〕(日本評論社、2016)115頁。
65) 奥島等編・前掲注(64)〔潘阿憲〕116頁。
的としたものと考えられる66)。
⑵ 裁判所による解任
監査役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重 大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会 において否決されたとき、6月前から引く続き総株主の決議権又は発行済株 式の100分の3以上の株式を有する株主は、当該株主総会の日から30日以内 に、裁判所に対し訴えをもって当該監査役の解任を請求することができる(日 本会社法854条1項)。
このような規制により、監査役を解任することができる者が一定程度制限 されている。また、裁判所による監査役の解任は手続が複雑であるので、監 査役の地位の安定性を保護することができる。
5 監査役の報酬
監査役の独立性は、その報酬を確保する点からも強化されている。これに は、報酬の決定と報酬の種類という二つの方面がある。
⑴ 報酬の決定
監査役の報酬は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議に よって定める(日本会社法387条1項)。また、各監査役の具体的な報酬につ いて、監査役が二人以上の場合において、各監査役の報酬等について定款の 定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、上記の報酬等の範囲 以内において、監査役の協議によって定める(同条2項)。これらの会社法 の規定のみならず、実務方針も重要である。たとえば、監査基準11条1項は、
監査役は、常勤・非常勤の別、監査業務の分担の状況、取締役の報酬等の内 容及び水準等を考慮しなければならないとする。
66) 奥島等編・前掲注(64)〔潘阿憲〕133頁。
監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べること ができる(同条3項)。このことは、監査基準11条2項にも定められている。
監査役の報酬等に関する株主総会議案提出の場合においては、株主総会参 考書類記載事項に以下の事項を記載しなければならない。すなわち、①株主 総会で決議すべき報酬等の金額の算定基準、②既に決議した報酬等の金額を 変更するとき、その理由、③二人以上の監査役についての定めのときは、対 象となる監査役の員数、④監査役の報酬等について監査役の意見があるとき は、その意見の内容の概要である(施行規則84条1項)。
監査役会の構成員の退職慰労金について、会社法は特段の定めを置かない が、株主総会参考書類記載事項に、上記した同条の①③と④以外に、退職監 査役会の構成員の略歴を記載しなければならない(施行規則84条1項)。
監査役の報酬について、1981年前商法では、監査役の報酬に関する規定は、
取締役の報酬に関する規定を準用されていた。これに対して、監査役の「独 立性」の保護の観点から批判があった67)。そこで、1981年の商法改正により、
監査役の報酬と取締役の報酬の規定は法律上に明確に区分して規定された
(2005年改正前商法279条)。
上記のように、1981年の商法改正で監査役の報酬と取締役の報酬を別々に 決定することを要求した理由は、監査役の地位の「独立性」の保護を図るこ とにあった。この点について、1981年の商法改正の立案担当者によると、監 査役の報酬と取締役の報酬の性質は異なるので、株主総会にはそれぞれの議 案を提出しなければならない68)。また、学説も、立案担当者の意見を支持し ている。しかし、実務上は、両者の報酬に関して、一括して決議する例が多 い。議案を決議する際に、監査役と取締役の報酬を区別69)するものの、両 者の決議自体は一括して行なうと理解される場合もある。そのような報酬議
67) 矢沢惇『企業法の諸問題』(商事法務研究会、1981年)241頁。
68) 落合誠一編『会社法コンメンタール(8)』〔田中亘〕(商事法務、2009年)429頁。
69) たとえば、提出した提案に「取締役の報酬」と「監査役の報酬」のではなく、「取締役の報 酬総額と監査役の報酬総額」という一つの提案として行う場合が考えられる。