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1 はじめに
今回の中学校理科学習指導要領改訂でその内 容が最も大きく変わったのは化学領域に限って 言えば「酸・アルカリ・中和」の学習であろう。
改訂の前と後の具体的内容を比較してみると,
改訂の前では,(2)身のまわりの物質の(イ)
水溶液で,「酸,アルカリを用いた実験を行い,
酸,アルカリの性質を見いだすとともに,酸と アルカリを混ぜると中和して塩が生成するこ と」を学習する程度であった。
しかし,改訂後は (6)化学変化とイオンが 新しく設定され,(ア)水溶液の電気伝導性,(イ)
原子の成り立ちとイオン,(ウ)化学変化と電 池を学習するようになり,「酸とアルカリ」の 学習に関しては「酸とアルカリのそれぞれの特 性が水素イオンと水酸化物イオンによること」,
「酸の水素イオンとアルカリの水酸化物イオン から水が生成こと」,「酸の陰イオンとアルカリ の陽イオンから塩が生成すること」まで学習す るようになった。
今回の改訂では,中和の量的関係までは求め ていないが,中和反応をイオンのモデルと関連 づけて理解させることが求められており,「中 和のしくみ」についてもかなり深く学習するよ うになった。
また,改訂にあたっては,「科学的な見方や 考え方の育成」も強く求められている。
科学的な見方や考え方の育成には,観察・実 験の充実を図り,様々な角度から事象を考察し,
科学的思考を鍛えることが大切である。
そこで,どのような観察・実験を準備し,ど のような考察を展開すれば「科学的な見方・考 え方」を育成することができるのかを単元「酸・
アルカリ・中和」の指導において具体的に探っ てみた。
2 教科書における一般的な扱い
科学的な見方・考え方を育成するには,観察・
実験の結果を整理・考察する学習活動を充実さ せる必要がある。一般的に「酸・アルカリ・中 和」の学習は,以下に示すように扱われている。
① BTB を少量加えた塩酸に水酸化ナトウム 水溶液を少しずつ加え,水溶液の色の変化から
「酸の水溶液とアルカリの水溶液を混ぜるとど のような変化が起こるか」を推理させる。
②中和点付近の水溶液を少量採取し蒸発させ
「塩が生成する」ことに気づかせる。
③氷酢酸に塩化コバルトを加え水酸化ナトリ ウムの粒を直接作用させたときの色の変化から
「水が生成する」ことにも気づかせる。
④上の①〜③を総合して,「中和とは,水素 イオンと水酸化物イオンとが結びついて水をつ くり互いの性質を打ち消し合う反応」という定 義を導き出させる。
⑤塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えて いった時の水溶液中のイオンの様子を図1のよ うなイオンのモデルで考察させる。
科学的な見方や考え方を育む指導
−中学校理科「酸・アルカリ・中和」の指導を通して−
村上 篤男
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神奈川大学心理・教育研究論集 第32号(2012年11月30日)
3 指示薬 BTB の問題点
「酸・アルカリ・中和」の学習における最も 重要な観察・実験は,先の①で示した「塩酸の 水酸化ナトリウム水溶液による中和」であり,
この実験から,④「中和の定義」⑤「中和反応 のモデルによる考察」を導き出すのである。
しかし,指示薬 BTB の色の変化は中和点(こ の場合は中性点)において一瞬緑色を呈するも のの,黄色(酸性)から青色(アルカリ性)へ と一瞬にして変わり,「中和反応の進行に伴っ ての水素イオンの減少」や「中和が完了した後 の水酸化物イオンの増加」を連続的に示すこと ができない。
そのため,図1のような反応モデルの考察が 深まらず,科学的な見方や考え方の育成につな がらない。
指示薬にフェノールフタレインを用いる例も あるが,フェノールフタレインの色の変化も中 和点(pH 9)のうすいピンク色を境に無色か ら赤色へと一瞬にして変化し BTB を用いたと きと大差ない。
4 問題解決にむけての提案
「中和反応の進行」や「中和が完了した後」
の変化を連続的に捉えるために,図2に示すよ うにマグネシウムを用いて「塩酸に水酸化ナト リウム水溶液を加えていったときの変化」を観 察する実験が取り入れられている。
この実験はマグネシウムが酸と反応して水素 を発生しながら溶けていく反応であるが,中和 反応の進行に伴って弱まっていく様子が観察で きる。
図 1 塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えていった時のイオンの変化
図 2 中和をマグネシウムリボンで追跡
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科学的な見方や考え方を育む指導−中学校理科「酸・アルカリ・中和」の指導を通して−
しかし,マグネシウムはアルカリと反応しな いため「中和完了後の変化」を反映することが できない。
マグネシウムの代わりに,酸にもアルカリに も反応するアルミニウムを用いることも考えら れるが,アルミニウムの場合は水素を発生させ 溶け出すまでの時間が長く,酸や塩基の濃度が 低い場合には反応がほとんど進行しないという 欠点がある。
そこで,「塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を 加えていったときの変化」を連続的に捉えるた めに次の二つの実験を取り入れた。
①万能指示薬による中和反応の追跡。
②電気伝導度測定による中和反応の追跡。
5 万能指示薬による中和反応の追跡
これは,万能指示薬を加えた塩酸に水酸化ナ トウム水溶液を少しずつ加え,「酸の水溶液と アルカリの水溶液を混ぜるとどのような変化が 起こるか」を調べるものである。
万能指示薬は色相の変化が明瞭で中和点付近 だけでなく,前後の水素イオンの濃度や水酸化 物イオンの濃度の変化を連続的に伝えてくれる ので,図1に示すモデルに無理なく到達できる。
万能指示薬はいくつかあるが,今回用いた万 能指示薬は山田方式によるものを用いた。山 田方式万能指示薬は,95% エタノール 500ml に チ モ ー ル ブ ル ー を 0.025g, メ チ ル レ ッ ド を 0.060g, ブ ロ モ チ モ ー ル ブ ル ー を 0.30g,
フェノールフタレインを 0.50g をとかした液に 0.01mol/L 水酸化ナトリウム水溶液を緑色にな るまで加え,これを純水で 1000ml に希釈調整 する。
ムラサキキャベツ液に代表されるアントシア ニン系の色素を万能指示薬として試してみた が,pH 4〜 pH9 において青紫色を呈し,中性 付近での色相の変化が乏しく中和点を見いだし にくかった。
6 電気伝導度測定による中和反応の追跡
電気伝導度測定と記したが電気伝導度を直接 測定するのではなく,水溶液中の電極板に一定 の電圧をかけたときの水溶液中を流れる電流値 を測定し,この値を電気伝導度にみたて中和反 応を追跡するものである。
図3は,硫酸と水酸化バリウム水溶液の中和 反応を追跡したグラフである。
このグラフをもとに中和反応をイオンのモデ ルで考察するわけだが,硫酸と水酸化バリウム 水溶液の中和反応では生成する塩の硫酸バリウ ムが不溶性であるため,水溶液中のイオンの数 の変化(増減)だけを考えればよい。
図4は塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和 反応を追跡したグラフである。
図 4 塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和 図 3 硫酸と水酸化バリウム水溶液の中和
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神奈川大学心理・教育研究論集 第32号(2012年11月30日)
この場合は先の硫酸と水酸化バリウム水溶液 の組み合わせのように単純ではなく水中イオン の組換えと増減という二つの因子を考えなけれ ばならない。
そして,このグラフを考察することが,図1 の「中和反応のイオンモデル」の理解を深める とともに「科学的な見方・考え方」を育成する ことにつながるのである。
7 おわりに
「酸・アルカリ・中和」の学習で一般的に取 り上げられている観察・実験を補完する形で「万 能指示薬を用いた中和」,「硫酸と水酸化バリウ ム水溶液の伝導度滴定」,「塩酸と水酸化ナトリ ウム水溶液の伝導度滴定」の導入を行った。
このことで,生徒が体験する観察・実験も充 実し,中和反応に対する理解も深まる。特に電 気伝導度の測定で得られたグラフをイオンのモ デルで考察する学習は,「科学的な見方や考え 方」を育成するのに大いに役立つと言える。
【参照文献】
「中学校学習指導要領解説 理科編」
文部科学省 平成 20 年 中学校理科用教科書
「サイエンス 3」 啓林館 「理科の世界 3年」 大日本図書 「新しい科学 3年」 東京書籍