要旨 これからの授業には, ・網羅的に知識を伝達するのではなく,事象を捉える「見方や考え方」をしっかり授けること ・「見方や考え方」を整え活用しながら論理的思考を成長させていく過程において,AL を手段として多彩 に織り込むこと ・試行錯誤しながらも人としての感性を豊かに働かせ,どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送 るのかを生涯に渡り考え続ける「学びに向かう人間性」を育てること ・メタ認知,批判的思考などを身に着け,「解なき問い」にさえ向き合えるポテンシャルを育てること が求められている。 キーワード:見方や考え方,アクティブ・ラーニング,メタ認知・批判的思考,学びに向かう人間性,解 なき問い
Ⅰ.はじめに
十数年前,ある公開講座で,「人生をデザインしよ う」という自家製のアクティビティについて報告した 折,ひとりの青年が,「経済の授業といえば,ひたす ら講義とプリント,こういった勉強もしたかったで す。」と,訴かけるように話してくれたことを今でも 忘れない。そう!このコメントこそが,教師になって 以来ずっと持ち続けてきた「身に染みて分かる授業と は?」という問いに,「答えはこの先にある。」という 目指すべき道を示してくれた貴重なアドバイスとなっ たのであるから。 そして,十数年の歩みの果てに筆者が出した答えは, ・授業とは,網羅的に知識を伝達することではない。 身近で切実な暮らしの場面を通して,事象を捉え る枠組みである「見方や考え方」を生徒にしっか り授ける業である ・教師は,そのために,骨太で使いでのある知識・ 概念を厳選して取り上げ,生徒はそれを組換え, 組上げて「見方や考え方」を整え活用する→バラ バラな知識ではない概念的な知識の獲得・活用 ・双方がアクティブ(思考を活性化する)でクリ エーティブ(創造的・発展的)な授業に丁寧に取 り組む ・様々な「見方や考え方」をさらに成長させながら, これからの時代に求められる資質・能力を獲得す る深い学びを通して,生涯に渡り身に染みてわか る授業を実現する というものである。 さて,「あれもこれも教えなくては・・」という呪 縛から解き放たれて「本当に教えるべきことは,骨太 で使いでのある知識・見方や考え方である」と,そう 想い込んで,金融経済の授業に臨んでみると , まさに 目から鱗! ・「土砂降りの夕立,急に傘が貴重品に思えるのは , なぜ?」⇒「月に行ったら,どんな商売しよう か?」 ・「葉っぱが,なぜ売れる?」⇒「只から有料に なったものを探せ!」「見方や考え方」からの AL
Economic EducationThe Journal ofNo.36, September, 2017
AL from "the Point of View and Way of Thinking" RIKIMARU, Takeshi 力丸 剛(元横浜市立潮田中学校)
・「お小遣いを最高に満足して使うには?」⇒「も し,それを買わなかったら,そのお金どうす る?」 など次から次に繰り出す筆者の難問?に,授かった 「希少性」「需要と供給の法則」「選択」 「付加価値」 「機会費用」などの知識・概念を拠り所に,生徒自ら が ,「見方や考え方」を整え活用しながら,答えを出し て表現していくその姿には,頼もしささえ感じる。さ らに,隣同士で教え合う,机を寄せて数名でアイデア を出し合うなどのほんの些細な教師の挑戦が,生徒の やる気(積極性)を喚起し,本気になって調べ,思 考・判断したことを言う気(説明する力)を磨き,真 にアクティブでクリエーティブな授業が開始されてい くのである。そして,これらの気を輝かせる生徒たち には,もはや講義形式の授業で見受けられたあの退屈 そうな表情はない。 さて,このような実践で,手応えを感じていた矢先 のアクティブ・ラーニング(AL)の登場だ。筆者は, 勇み立った。
Ⅱ.お金をヒントに「見方や考え方」からの
主体的・対語的で本質に迫る深い学び
しかし,“生徒の反応がよさそう”ということだけ で,AL だと思い込んだ授業を行えば、「面白かった けど,それだけ……」という最悪の結果を招くことに なる。 筆者は,本論考で特に取り上げる金融経済教育にお ける AL を含め,成功の鍵は,単元目標や本時のねら いに沿った拠り所となる概念的枠組みを定め、そこか ら形成される「見方や考え方」を中心に捉えた上で, ふさわしい手段としての AL を採用し,授業を構造化 していくことであると考える。その結果,「知ってい ること,できることをどう使うか」の場面で,統合さ れていく知識を基に,思考・判断・表現することで, それらが共振・共鳴し,学習の振れ幅が従来に比べ非 常に大きくなり,結果として生徒の実感と共感を伴っ て,思考力・判断力・表現力を大きく育てる授業改善 へとつながっていくのである。その際,課題解決のた めに試行錯誤しながら解いていくというプロセスの出 発点において,生徒自らが培うことの困難さを伴う 「見方や考え方」を,教師が,身近で切実な暮らしの 場面を通して,わかりやすく授ける→それを整え活用 しながら思考・判断・表現する→さらに成長させてい けるような学習をデザインすることで,ぶれることの ない主体的・対語的で本質に迫る深い学びが実現して いくことになる。 そこで,まず,お金をヒントに,「見方や考え方」 を整え活用しながら,「感情やお金の魔力に振り回さ れない」消費者力ともいえる資質・能力の獲得を目指 す AL を取り入れた授業案 1,2 を提案する。 授業案 1 衝動買いをしてしまった先生 合理的な判断・ 選択,機会費用など 数年前の夏,筆者は,なぜかスーツが無性に欲しく なり,二着も買ってしまったことがある。冷房のな かった当時の教室では一度も袖を通すことなく,今も, タンスの中に眠っている。「買わなければ、ポロシャ ツも,半ズボンも,アイスも買えたのに……」と,苦 い想いで夏休みを過ごしたことを思い出す。そこで (1)「何がいけなかったのか。」問題点を生徒と一緒に 洗い出そう。 (ポストイットに,各自が問題点を書き,黒板に貼る →それを教師が,授業の狙いに沿った 5 つのカテゴ リーに分ける) 5 つのカテゴリー 1. 本当に必要で,役立つもの・サービスを選んだ か 2.今月のお小遣いとして使える金額を考えたか 3. お金を使ってしまったら,しばらくは,もう他 のものは買えない!ということを考えたか 4.別の物だったら何が買えたかを考えたか 5.なぜ心のコントロールができなかったか (2)それぞれの問題点について、経済的概念などから 整理してみよう。 5 つの経済的概念など 1. 本当に必要で,役立つもの・サービスを選んだ か ⇒ 合理的な判断をもとに選択がなされていたか(合 理的な判断基準・選択) 2.月々のお小遣いとして使える金額を考えたか ⇒ お金は,自分が欲しいだけ,使いたいだけあるわ けではない(希少性、経済的な選択) 3. お金を使ってしまったら,「しばらくは,もう他 のものは買えない。」ということを考えたか ⇒ 一方を取ったら,他方は取れない(トレード ‐ オフ)4.別の物だったら何が買えたか。 ⇒ 次善として,どのようなものが買えたか,できた か(機会費用) 5.なぜ心のコントロールができなかったのか ⇒ どのような場合でも主体的な意思決定ができる消 費者となる(消費者力) さて,このように,一つ一つの問題点を挙げ,丁寧 に分析し,経済的概念などを基に,生徒とともに,ま ず的確な解釈を試みよう。次に、授業で培った「見方 や考え方」を整え,例えば『合理的な判断・選択と機 会費用』という枠組みを活用して,見ることで, ✓ ほしいのか,本当に必要なのか ✓ 次善のもの・サービスと比較する という極めて理性的で明確な判断基準を手にすること ができる。が,しかしである。このような学習だけで, 授業の狙いである「感情やお金の魔力に振り回されな い」という消費者としての重要な資質・能力を獲得す ることができるだろうか。筆者は,はなはだ疑問であ ると考える。なぜならば,衝動買いのような消費行動 に楔を打ち込むには,「頭では,わかってはいるが, やめられない!」という人の行動の不可解さをも取り 上げ,それを自身の行動に重ね合わせて,気づきを促 す感情面からの学習を取り入れていくことが絶対不可 欠であると考えているからである。そこで,ロールプ レイの要素を取り入れた AL を用いて,実感をもって 理解するための授業案 2 を検討したい。 授業案 2 貴方なら,今の千円と 1 か月後の千百円どちらを 選ぶ? せっかちさんと我慢さん(時間割引率) ・今の千円を選んだ人は⇒すぐほしい・したい派⇒ せっかち スグはじめさん ・1 か月後の千百円を選んだ人は⇒待てる派⇒我慢 つよしさん 先生からのアドバイス 「この教室にも,せっかちな人,我慢強い人など, 様々な性格を持ち合わせた人がいるよね。そこに,今 選ぶ時に考えたように,お金や時間をオーバーラップ させてみると,意外や意外,いろいろなことが見えて くるんだ。」 ↓ 各自が,先生のアドバイスが意味する「人の行動の 特性とお金や時間の意外な関係」に“そうかも……” と共感した上で,各自がせっかちさん・我慢さん役に なりきる。(ロールプレイングの要素を取りいれる) ↓ 先生の発問 「ところで,せっかちさん,我慢さんは,毎年夏休 みの宿題をいつごろする?」 誰もが経験する身近で切実な暮らしの場面を取り上げ, それぞれの意見を発表させる。 ・せっかちさん:「名前の通り今スグ遊びたいから, 宿題は最後にやることに……」など ・我慢さん:「遊ぶことを先伸ばし待てるから,宿 題は、早めにやってしまう!」など 生徒は,お金をヒントに,時間にかかわる人の行動 の特性に気付き,その「見方や考え方」から『せっか ちさんである自分』または,『我慢さんである自分』 を見つめながら,従来の自分に重ね合わせて,いまま で気にも留めなかった自身の行動を的確に解釈し話し 合うことになる。⇒無意識に行っていた行動を,言語 活動で意識化する。 こうして,ロールプレイング的要素を取り込んだこ の対話的学習は,“自分のしていることを客観視する” “自分で自分のことをモニタリングする”(メタ認知) という経験を授けることになる。すなわち,理性と感 情を同時に見通すことのできる“自分のことを意識で きる自分”が存在していることに気付く。この認知こ そが、例えば「わかっているけどやめられない」とい う人の行動の不可解さをあたかも俯瞰するが如く隅々 まで見渡すことを可能とする。そして,さらに様々な 場面でトレーニングを積み重ね成長させることで,生 徒自身の人生をよりよいものにしていく有用なジェネ リックスキルとして根付いていくことになるのである。 授業案 1 に立ち返れば,「衝動買いをしようとしてい る自分を見つめる自分」を認知することで「感情やお 金の魔力に振り回されない」という消費者力ともいえ る資質・能力が獲得され,主体的・対話的で本質に迫 る深い学び,質の高い AL が実現していく。
Ⅲ.
「見方や考え方」をさらに成長させる新
たな枠組みと批判的思考
このような学習を踏まえた上で,筆者は,授業の進 展に伴い生徒自身が「見方や考え方」自体をさらに成 長させることが,非常に重要であると考えている。 そこで,ESD において「倹約のパラドックス」と いう新たな枠組みから捉えることで,「見方や考え方」がさらに成長し,併せて批判的思考から見つめ直すこ とで,質の高い AL を生み出す授業案 3 について考察 を進める。 授業案 3 みんなが我慢したら,地球は救える??? 倹約のパラドックス ESD のまとめとして,筆者は必ず「3E のトリレン マ」を取り上げている。「経済の発展」「エネルギーの 確保」「環境の保全」のどれかを立てようとすると, 他の二方が成り立たないということが起きる……壮大 な課題解決学習である。 ところで,生徒たちの主体的な話し合いに任せた場 合,圧倒的に「今まで,地球に負担をかけてきたのだ から,今度は,自分たちがくらしを我慢して,節約し て経済の発展をおさえ,地球に優しくし,エネルギー 確保,環境保全を達成すべき!」という合意形成に至 る。(省エネ・節電などの従来から生徒が獲得してい た「見方や考え方」からの合意形成に落ち着くのであ る。)しかし,ここで大事なのは,課題解決のための 方法や手段を得ることではない。「解なき問い」に対 して、意見を認め合いながらも議論を通して,より良 い社会のモデルを創り出そうとする創造性と意欲を育 てることにこそある。 そこで,思考を深堀するために,敢えて,環境問題 とは,一見まったく関係のないある社会人の話をぶつ けて、その「見方や考え方」を基に,揺さぶりをかけ てみることにしている。 ※ある社会人の話 社会人になってからは将来に備えて,欲しいものも ありますが我慢し,貯蓄を最優先させるべきであると 考えていました。そのことを友達に話すと,ほとんど の人がさらにその家族までが,同じように考え,同じ 行動をしているとのことでした。しばらくすると,世 の中では,あまり「ものやサービス」が売れなくなり, 不況が始まりました。やがて給料が下がりだし,貯蓄 をする余裕もなくなってきました。 この話を,次のように分けて,時間を追って考えさ せる。(分析・説明・予想という手法) ・家計からすると将来に備えて貯蓄することは,大 切なことである ・無駄遣いを廃し,貯蓄を優先することは奨励され る行動である ・企業は,製品やサービスを生産し,売って,利益 を得ているので,ものやサービスが売れないと儲 からない ・消費が抑えられ,多くの会社は,製品やサービス が売れないから,生産を縮小する ・不況になり,給料は,下がっていく(最悪失業す る) ・給料が下がっていくから,家計は,貯蓄する余裕 がなくなっていく こう考えていくと,ある社会人の話は,いつの間に か,最初に“よし”としたことが,最後には,思わぬ 結果を生んでしまっていることがわかる。一見間違っ ていないはずの個々人の行動が,社会全体では?とい うことも起こり得るということを,発見する。こうし て,家計や企業という個々の経済活動(森でいえば, 一本一本の木)と,それらが,集まって相互作用で形 作られている社会全体の経済活動(森全体)を,一連 の流れの中で関連づけ考えさせることで,生徒自らが 『ねじれ』に気付き,教師が授ける「貯蓄(倹約)の パラドックス」・「合成の誤謬」という,今までの学習 では思いつかなかった新しい「見方や考え方」を整え 活用することが可能となるのである。 その上で,再度 3E のトリレンマについて話し合い を進めていくと「みんなが自分たちの暮らしをすごく 我慢して,経済の発展をおさえると⇒経済の規模が小 さくなって⇒再生可能なエネルギーの普及・開発費の ためのお金が出せない⇒CO2の排出は続く⇒環境保全 が危ぶまれる」というが起こるかもしれないというこ とに思い至る。すると,自分自身や他者が考えている ことや行おうとすることについて「これでいいのだろ うか?」というメタ認知の観点からふり返り,併せて 批判的思考から,「関係は,本当に対立なのだろう か?」⇒「全体を成り立たたせる要素,例えば,資源 の効率的利用ということから考えることはできないだ ろうか?」さらに,「これから先も,ずっと続けてい ける暮らしのために,我々自身がどのようなスタンス で関わり,どのような地球を目指していったらよいの だろうか」という原点に立ち返り,いったん合意形成 された内容について,捉え直すことになる。こうして, 新たな(様々な)枠組みから事象を見つめることで, さらに「見方や考え方」を成長させ,併せて「批判的 思考」を活用し相互に指摘し,議論することで複数の 意見を統合して,より良いモデルからよりよい社会・ 世界を創り出そうとする主体的・対話的で本質に迫る 深い学び,質の高い AL が実現していく。 さて,唐突であるが,数十年後には AI の広がりな どが,前代未聞の産業構造の変化を引き起こし,それ に伴って,多くの人々の職を奪ったり,暮らしや生き
方そのものを左右したりする時代に突入することにな るかもしれない。その時,「今学校で教えているよう なことは,通用しなくなるのでは…」という不安が頭 をもたげてくる。しかし,だからこそ,我々は,いた ずらに将来を慮ることなく,「解なき問い」に立ち向 かうポテンシャルを育てるために,地に足の着いた学 習を展開していく必要があろう。それは,ズバリ,試 行錯誤しながらも人としての感性を豊かに働かせ,ど のように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るの かを,生涯に渡り考え続ける「学びに向かう人間性」 を育てる学習であると筆者は,確信している。具体的 には,自主的・対話的学びを通して,例えば,政治に おける「効率と公平」,経済における「お金と幸福」, 環境における「エネルギーと暮らし」などについて, “どのような価値を大切にし,どのような社会をめざ して,最適なプロセスを吟味・選択し,表現・発信し, 実践しようとするのか”を問い続ける人を育てること である。次にそのためのメソッドとして、「課題解決 に向けた 5 つのプロセス」を提案したい。 課題解決に向けた 5 つのプロセス ⓵「どのような姿を目指すのか」対話的学びを通し て,課題解決後に,達成される暮らしの姿をイ メージする。 → キーワードを組み上げ,言葉にすることで,具体化 を図る(言語活動)。 ⓶「現状と達成すべき姿のギャップを明らかにす る」有用なデータ・情報を収集・比較し現状を分 析し,問題を発見し,その解決のための課題の明 確化,焦点化を図る。 → 基礎力・技能としての言語・情報・数理スキルを活 用する ⓷「いくつかの進め方を考える」 → 課題解決に至る方向性や方法を比較・検討しプロセ スをあげる。 → メタ認知・批判的思考の観点から,他者と話し合い, 比較・吟味する ⓸「何を根拠に考えるのか」 → 解いていくプロセスにおいて,思考・判断・表現の 根拠となる概念,枠組みから「見方や考え方」を定 める。(③と④は併せて行う) → 「見方や考え方」からの論理的思考を基に、必要な 判断や意思決定を行う ⓹「最適なプロセスとは……」 「効率」と「公正」などの枠組みを判断基準として, 最適なプロセスを選択し,課題解決を通して達成され るべき暮らしの姿を表現し,実現しようとする。 → 様々な社会集団に発信し,お互いの利益のもとに実 践していこうとする意欲を持ち続ける。 そこで,このプロセスを通して,すべての人々がよ り良い人生を送るための社会を創り出そうとする授業 案 4 について考察を行う。 授業案 4 選挙中のある立候補者の街頭演説 「行政の無駄を徹底的に省き効率化を進め,高齢 社会に対応し,お年寄りを大切にするため,年金 を充実させます。減税もします。」それを聞いて いたおばあさんは,「素晴らしい人だよ。この人 に決めた!」と言っていましたが……18 歳の若 者はどう思う????? 「ちょっと待った!おばあさんだけ,やけに得を していない?」「私たちは,どうなるの!」とい う切実な 18 歳の声が聞こえてきそう。 まさにポピュリズムである。誰が見ても,国や地方 公共団体といえども,限られたお金の中でのやりくり であり,選択に迫られていることは明らかだ。具体的 には,少子高齢社会のさらなる進展,財政の現状から 将来を踏まえるならば,行政の無駄を徹底的に省き効 率化を進めることにおいて,年金だけを例外にするこ とができるだろうか。ましてや,減税など……そこで, 18 歳の若者(生徒自身も含む)の声を取り上げ,課 題解決に向けた 5 つのプロセスに沿って,学習を進め てみよう。 ⓵「どのような姿を目指すのか」 対話的学びを通して,課題解決後に,達成される暮ら しの姿をイメージする。 ※いくつかのキーワードを挙げる ・納得のコスパ(負担と受益) ・世代間格差の改善 ・世代間の公平性 ・お互いの利益 ・消費税(コストを引き受ける覚悟) ・信頼できる制度 ・100 年続く(持続可能性) ・不利益を受ける人がいない(公正な)社会など ⓶現状と達成すべき姿のギャップを明らかにするた め有用なデータ・情報を収集・比較し現状を分析 し,問題点を挙げその解決のための課題の明確化, 焦点化を図る。 ※考慮すべき点 ・協働的学びを通して有用なデータ・情報を収集・
集積する(ICT など授業における情報スキルの活 用を積極的に進める) ・データ・資料を比較し,読み解く(数理・言語ス キルの活用)ことで,問題点を挙げる ・対話的学びを通して,情報交換を行ない,思考・ 判断に必要となる新たな知識・技能を獲得する ・知識・技能を適切に組み合わせて,「知っている ことをどう使うか」という場面でそれらを活用し ながら,解決のための課題を絞り込む ⓷「いくつかの進め方を考える」 課題解決に至る方向性や方法を比較・検討しプロセ スをあげる。 ○ メタ認知やクリティカルシンキングの観点から,他 者と話し合うことで相互に指摘し合い,比較・吟味 することが重要。(「これでいいのだろうか。」とい うことを常に問いかける姿勢) ・納得のコスパ(負担と受益)→誰がどのように負 担し,受け取るのか→賦課方式:積み立て方式: 二方式の併用など ・消費税の在り方(社会としてコストを引き受ける 覚悟) ・国の形をどのようにしていくのか→北欧などのよ うな国を目指すのか などなど…… ⓸「何を根拠に考えるのか」 解いていくプロセスにおいて,思考・判断の根拠と なる概念,枠組みから「見方や考え方」を定める。 ・政治は,あくまでも,「効率的かつ公正」かつ 「公平性が担保されている」ということ,しかも, くらしをよくしていこうとする考え方が貫かれて いなくてはならない。すなわち,「効率で公正, そして豊かな暮らしを創造する」「国民・住民ひ とりひとりの生活と福祉の向上を図る」という社 会全体にとって「最適な選択」になっているかに ついて,これらの「見方や考え方」を基に論理的 に考えさせる。 ・加えて,今後も年金と併せて社会保障上の大きな 問題となっていくことが考えられる医療・介護等 にも目を向けさせ,「社会保障と税の一体改革」 における世代間の受益と負担の公平性の担保に気 付かせることで,「どの世代も将来世代の幸せを 先取りしない!」というバランス感覚ともいえる 新たな枠組みを組み入れることが可能となり,自 らの「見方や考え方」をさらに成長させることに なるのである。 ⓹「最適なプロセスとは……」 「効率」と「公正」などの枠組みを判断基準として, 最適なプロセスを選択し,課題解決を通して達成され るべき暮らしの姿を表現し,実現しようとする。 具体的には,これまでの学習をも踏まえ生徒(現役 世代)自らが, 「私たち(現役時代)と高齢者世代間での一つの財布 の中身の奪い合いになってしまうようなことで良いの だろうか?!」 というわかりやすい問いを立てることで,対立の本質 が明確になり,論点の定まった議論が繰り広げられこ とになる。結果として,「世代間の公平が図られる公 正で持続可能な年金制度」(波線は,判断基準でもあ る)の実現のために,「個人として,どのようなスタ ンスで,選択・意思決定をするのか。社会全体として, どのようにすればポピュリズムを廃し,すべての人々 がよりよい人生を送れる合意形成ができるのか。」と いう対立から合意に至る最適なプロセスを考え,表現 し,実現していこうとするぶれない授業が確立する。
Ⅳ.終わりに
筆者は,「見方や考え方」からの AL は,金融・経 済の学習,いや,それ以外の学習にとっても,誰もが 想像する以上に有用な手段となりうると考えている。 例えば,年金の今後についての授業では,一歩間違え れば,「もう,年金保険料なんか払わない!」という 空気が教室に充満してしまうことにもなりかねない。 そこで,授業案 1・2 で獲得したメタ認知と時間割引 率を振り返り,整え活用するよう促してみよう。する と,まず,“自分のしていることを客観視する” “自分 で自分のことをモニタリングする”という経験を踏ま えメタ認知の観点から「これでいいのだろうか?」と いう気付きを,さらに時間割引率というユニークな 「見方や考え方」から,今と 50 年後の自分を比較・検 討することで「せっかちさんになって見つめていない だろうか?」と,年金を改めて自分事として実感を もって捉え直すことになる。 整理してみると ・経済学が長年にわたり培ってきた経済的概念から の枠組みとしての「見方や考え方」が梁となり, AL の視点である主体的・対話的で深い学びとい う柱をしっかり支え,より強固に構築された学習 が作り出され,その結果,生徒の習得・活用・探 求のプロセスを強力にサポートする。 ・お金は,だれの暮らしにも欠かすことのできない存在であるがゆえに,その学習において,自分の 行動・特性を重ね合わせることで,強い問題意識 を持たせることが可能となる。そして,そこから 浮かび上がってくるお金を取り巻く課題について, 実生活に即して主体的に話し合わせることで,人 間性や幸せな人生そのものを考えることへの喚起 を促すことになる。 こうして,「見方・考え方」を整え活用し,くらし の様々な課題に対する学習において,その本質へと 迫っていく深い学びを実現してこそ,生涯に渡り,世 の中をたくましく“生きる力”を培い蓄えることので きる生徒を育てることが可能となる。 参考文献
[1] WIRED VOL.7 GQ JAPAN(2013)コンデナスト・ジャ パン pp.15-22.