研究論文
ドイ ツ 会 計 法 現 代 化 と 基準性原則の変化の可能性
真 鍋 明 裕
キ‑ワー ド :IFRS BiMoG 基準性 課税所得計算
1
. は じめにドイ ツで は 、 最 近 、 国際会 計 基 準 (IAS/ IFRSl) を意識 した、会計法 の改正が議論 され ている。2009年4月には、会計法現代化法 (das
Gesetz zur Modernisierungs des Bilanzrechts (Bilanzrechtsmodernisierungsgesetz),以下、 BilM oGと記す) が可決 され 、 同年5月 に公布 され た2。本法律 の 目的について、連邦政府案では 以下のよ うに述べ られていた。
「ドイツ企業は、現代化 された会計基礎 を必 要 としてい る。 したがって、会計法現代化法の 目的は、商法会計 を、持続的で、国際基準 と比 較 しても十分 に価値のある、 しか しそれでいて コス ト的に有利で、 よ り単純な選択肢 となるよ
うに開発す ることである。」 (S.1)
BilMoGの 目的は以下の2点にある。
・小規模事業体のための規制緩和お よび コス ト 削減
・商法準拠個別決算書の表明力(Aussagekraft)3
の改善
それぞれの 目的に対応す る内容 としては、た とえば以下のものがあげ られ る (以下、BilMoG により追加または変更 された条項を 「改正商法」
と記す)0
・小規模事業体のコス ト削減
決算 日時点において2事業年度連続 で売上高 が50万ユー ロ以下または純利益が 5万ユー ロ以 下の個人商人は、簿記義務お よび棚卸資産 目録 作成義務か ら免 除 され る (改正商法第241a条)。
・表明力の改善
①有価証券の時価 (beizulegenderZeitwert)に よる評価の一部導入 (改正商法第253条第1項)40
② 自己創設無形 固定資産 の借方計上禁止条項 (商法第248条第2項) を改め、借方計上 を可能 にす る5 (改正商法第248条第2項)。
また、最終的なBilMoGの条文 とはな らなかっ たが、2007年11月の連邦法務省案では、次の条 項が含まれていた。
1 以後、本稿 では、簡略化 のため国際会計基準 をたんにIFRSと記す。
2BilMoGが可決 され るまでには、まず、2007年 11月 に連邦法務省 よ りBilMoG法案が公表 され、2008年5月には、法務 省案 に若干 の変更 を加 えた連邦政府案 が公表 されていた。 この連邦政府案 を基礎 とし、 さらに若干 の変更 を加 えて成 立 した ものが、今回の法律 である。
3表 明力 とは、投資家‑の情報提供 を念頭 においた ものであ り、企業の財政状態や経営成績 を外部 に向けて伝 える力 であると考 えて よい。
4 条文では、年金債務 の金額が、有価証券 の時価 によってのみ決 定づ け られ る場合 に限 り、 当該債務 のための引当金 は当該有価証券の時価 で もって評価 され なけれ ばな らない とされてい る。
5借方計上 を可能 にす る とは、借方計上の選択権 を認 めるとい うことである。
ドイ ツ会計 法 現代 化 と基 準性原 則 の変化 の可能性 105
③ 資本会社 は、 EUの承認 手続 を通過 したIFRS に準拠 して個別決算書 を作成す ることが可能 と なる (連邦法務省案第264e条)。 この ときは、
附属説 明書 (Anhang)において商法準拠 の個 別決算書 を示す。
上記の改正案の うち、 とくに表明力の改善で あげ られてい る各条項の例 を見 ると、① と② に おいては、 ドイツ商法会計において基本的な原 則 とされてきた取得原価原則 (取得原価 を評価 の上限 とす るとい う原則)や保守主義原則 (状 況が不確実な場合 には悲観的な評価 をす るとい う原則)の後退の可能性が見て取れ る。また、
③ についてみてみ ると、資本会社 の個別決算書 は、従来の規則では、商法に基づいて作成 され ることが基本であ り、IFRS準拠のものは、情報 提供 目的のために付加的に作成す ることが選択 権 として認 め られているにす ぎないが、当初の 連邦法務省案第264e条では、附属説 明書で商 法準拠のものを示 しさえすれば、情報提供 目的 とい う限定な しにIFRS準拠の個別決算書 を作成 す ることを可能 とす ることが提起 されていた。
本稿で注 目したいのは、最終的な条文 となっ ているものよ りもむ しろ、法律 の形成過程で削 除 され た連邦法務省 案第264e条 で ある。 ドイ ツでは、配 当計算や税金計算は個別決算書にも とづいて行われてきた。 しか し、連邦法務省案 に基づけば、資本会社がIFRS準拠の決算書作成 を選択すれば、商法準拠の個別決算書の方が、
逆に、附属説明書に収容 され る付加 的な情報 と い うことになっていたのである。かかる条項が 法案 として当初提起 されていた とい う事実は、
ドイツにおいて、IFRS‑の準拠 を個別決算書に まで広 げることが真剣 に検討 されていたことを 物語 るものである。
今 回のBilMoGでは成 立 しなか った にせ よ、
もし将来的にこのよ うなIFRS準拠 の傾 向が さら に進 めば、取得原価原則や保守主義原則 ととも に ドイツ会計の基本的な原則の 1つである基準
6 以下、Arbeitskreis[2002]と記す。
性 の原則 (MaBgeblichkeitsprinzip、税務決算書 は商法決算書に基づいて作成 されなければな ら ない とす る原則)の存在意義そのものが問われ ることになる可能性 も否定できない。法務省 の 提起 した第264e条が最終的な法案 には含 まれ なかった とい うことは、法案作成の過程 におい て、当該条項の適否 について議論がたたかわ さ れたことを推測 させ る。
本稿では、当初の連邦法務省案 において、上 記第264e条が提起 され ていた事実 に着 目し、
税務会計の商法会計に対す る基準性 とい うこと に関 し、今後、 どのよ うな変化が考え られ るの か、いかなる形式での基準性が可能性 としてあ りうるのかについて、検討 してい く。本稿での 検討が、国際会計基準の導入 とそれに伴 う制度 転換 に関 して、何 らかの示唆 を与 えることがで きれば幸甚である。
2.
基準性の方式 2‑1.基準性の類型基準性 とは、課税所得計算 をなん らかの会計 数値 に基づいて行 うことであると解 され る。 こ こにおいて、 どの会計数値 を基礎 とす るかが問 題 となる。 ドイ ツでは、所得税法 (EStG)第 5条第1項第1文において、商法上の正規の簿 記の諸原則 (GoB)の、課税所得計算に対す る 基準性が規定 されている。簡単に言えば、課税 所得は、商法に準拠 して作成 された個別決算書 の数値を基礎 として計算 されるとい うことである。
かかる状況下で、個別決算書にIFRSが適用 さ れ ることになれば、必然的に以下のよ うな疑問 が生ず る。すなわち、課税所得計算のために、
税法において独立の規定が作成 されなければな らないのか どうか とい う疑問である (Arbeitskr eisBilanzrechtderHochschullehrerRechtswisse nscha氏[2002]6S.2372)。 とい うの も、個別決算 書にIFRSを適用す るとい うことは、その時点で
決算書が商法準拠 のものではな くな り、上記 の 所得税法 の規定が意 味 を持 たな くなる。そ うで あれば、 これ とは別 に、課税 所得計算 に関す る 規則が必要 となってくると考えられるからである。
個別決算書‑のIFRSの適用 が現実味を帯びて い る以上、上記 の よ うな疑 問も含 め、基準性 に 関 して取 りうる方法 としていかなるものが考 え うるのか、 とい うことについては検討 が必要で ある と思われ る。 これ に関 しては、Herzigund
B証[2003]において以下の よ うな類型 が提示 さ れてい る (HerzigundBir[2003]S.2)0
(1)縮小モデル(Reduktionsmodell)
このモデルでは、個別決算書に対 しては、 ド イツ商法が引き続 き適用 され る。商法 は、従来
どお り、基準性原則 を通 じて税務計算 に影響 を 与 えるのであ り、IFRSの影響 は連結決算書 に限 定 され続 ける。
(2)商 法 準 拠 資 本 維 持 決 算 書 基 準 性 モ デ ル (Modell der MaBgeblichkeit der HGBIKapital erhaltungsbilanz)
このモデルでは、個別決算書‑のIFRSの適用 は少 な くとも許容 は され る。ただ し、無制 限に 適用 され るわけではな く、資本会社 (お よび資 本会社&Co.)は、引き続 き、商法の規則 に従っ て商法準拠資本維持決算書の作成が義務づ け ら れ る。 したがって実質的な基準性 は維持 され、
そのもとで課税所得計算 はこの商法準拠資本維 持決算書 と結びつ きを持つ ことにな る。
(3)IFRS基準性モデル(ModellderIAS‑MaBgebli chkeit)7
このモデルでは、IFRSが個別決算書 において も (強制的に)適用 され うる。そ して、IFRS準 拠の個別決算書が基準性原則 を通 じて税務計算 の基礎 にもなる。
(4)分 離 モ デル (Trennungs‑ oder Abkopplung5
modell)
このモデル では、基準性原則 は廃止 され、課 税所得計算は商法規則か ら分離 され る。
2‑ 2.
各類型の含意(1)の縮小モデル を とれ ば、 ドイ ツにお いて 伝統的に適用 されてきた基準性原則 は維持 され る。す なわち、税務計算の基礎 となるのは ドイ ツ商法 に準拠 した決算書のみであ り、個別決算 書‑のIFRSの適用 はな されない。
(2)の商法 準拠 資本維 持決算 書基準性モデル を とれ ば、個別決算書‑のIFRS適用 は認 め られ るものの、その場合で も、それ とは別 に商法準 拠 の決算書 を同時に作成す る必要があ り、 これ に基づいて課税所得計算が行 われ る。 したがっ て、当該モデル では、IFRSの適用 について可能 性 が開かれてい るが、商法決算書‑の基準性原 則 は維持 され る。 ドイツにおいて重視 され る資 本維持 目的には、IFRSは適 さない との思考が、
当該モデルの背景にあると考 え られ る (そのた め、商法準拠の決算書 を資本維持決算書 と呼ん でい る)。
(3)のIFRS基 準性 モデル を とれ ば、IFRSの個 別決算書‑の適用は義務 となる。 そ して、基準 性原則 は維持 され るが、当該原則 の内容 は、伝 統的な意味でのそれ とは異 なったもの となる。
基準性原則 は、伝統的に、 ドイ ツ商法 に準拠 し た決算書の、課税所得計算 に対す る基準性 を意 味 していたが、当該モデル における基準性 は、
IFRS準拠の決算書の、課税所得計算 に対す る基 準性 を意味す ることとなる8。
(4)の分離モデル を とれ ば、基準性原則 は廃 止 され、課税所得計算 のために、税法において 独立の規定が作成 され ることになる。
以上、各類型 が採用 された とした場合 に、そ
IHerzigundBb:r[2003]ではIASと表記 されてい るが、本稿 ではIFRSとしている。
8 ドイ ツでは、基準性原則 に基づ き、統一決算書 (Einheitsbilanz、商法 の規則 に も税法 の規則 にも同時に合致 した、
1つの決算書) を作成す る選択権 が与 え られ てい る (Wb'heundDb'ring[2008]S.725)が、IFRS基準性 を とれ ば、かか る統一決算書 の概念は事実上、新 しい性格 を持つ ことになる (HerzigundB;r[2003]S.4)0
ドイ ツ会 計法現代化 と基 準性 原則 の変化 の可能性 107
れぞれ ドイツ会計 にいかなる変化 が想定 され る かについて考 えたが、この4つの類型の うちで、
今後、 ドイツにおいて とられ うるもの としては、
どの型 が考 え られ るのであろ うか。
まず縮小モデル であるが、将来的にこのモデ ル が取 られ ることは考 えに くい。すでに ドイ ツ では、会計法改革法 (BilReG)によって資本市 場指 向的企業の連結決算書 にはIFRSの適用が義 務づけ られ、個別決算書 について も、商法準拠 の決算書作成 は相変わ らず義務 とはいえ、それ に加 えて、情報提供 目的においてIFRS準拠 の決 算書 を作成す ることが認 め られ てい る。利益 を 計算 し、課税 の基礎 となる、 とい う従来 の機能 に加 え、情報提供 とい う機能が ドイ ツで、個別 決算書において も、認識 され るよ うになってき てい るのである。
この よ うに考 えると、2番 目の類型 である商 法準拠資本維持決算書基準性モデルが、 ドイ ツ の取ってい る現行 の体制である と考 え られ る。
このモデル は、個別決算書 について、資本維持 を通 じた債権者保護 を 目的 とす る商法‑の準拠 を義務 とし、その一方でIFRSに基づいた ものの 作成 も許容す る、 とい うものであ り、 これ は現 行 の会計法改革法が規定 している状況 と一致す ると考 えて よいであろ う。 ただ し、ま さしくこ の会計法改革法や、今般公布 された会計法現代 化法がそ うであるよ うに、決算書 の情報提供機 能 を意識 した法改正が今後 も行 われ ることが予 想 され るため、 「商法準拠 資本維持決算書基準 性 は、移行 措置」 (Herzig und B左r[2003]S.4)
として位置づ け られ るか も しれ ない。
したがって、今後、別 のモデルが採用 され る よ うになる可能性 は十分 に考 え られ る。す なわ ち、本稿 での考察では、IFRS基準性モデル 、ま たは分離モデル の どち らかに移行す る可能性 が 考 え られ るのである。 この どち らになるかを考 えるこ とは興味深い ことであるが、それ につい ては後述す ることとし、次章では、視点を変 え、
課税所得計算規則 の共通化 に向けたEUの取 り 組み を概観す ることとしたい。 かかる取 り組み に関す る考察は、基準性 のあ り方 に関 して示唆 を与 えて くれ るよ うに思われ る。
3.
課税所得 計算規 則 の共通化 に向 けたEU
の取 り組みEUは、2001年 に 「税務 上 の障害 のない域 内 市 場 に 向 け て」(Towards an InternalMarket w
ithouttax obstacles) (COM(2001)582 丘nal, 以下、たんに"COM"と記す) とい う報告書 を 公表 し、 この 中で、EU域 内市場 において国境 を越 えて活動す る企業のための、統一的な課税 ベースの形成可能性 について検討 してい る。本 章 では、 当該報告書 にそ って、EUで行 われ た 統一課税ベースをめ ぐる議論 について概観す る
こととしたい。
3‑1.共通化の必要性
EUでは、2000年3月 の評議会 で、 「世界 で最 も競争力 のある、ダイナ ミックなナ レッジベー スの経済 となること」 との戦略 目標 が掲げ られ た。 そ して、かか る 目標 の達成 のためには、企 業課税 (taxation)が重要 な役割 を果 た しうる。
この ときに、 もし域 内市場での税制の態様が非 効率性 を生んだ り、業務遂行者 のベネフィッ ト を阻害す るよ うなことがあれば、それはEUの ビ ジネスの競争力 を損 な うものであ り、上記 の 目 標 に反することになるとしている (COM p.3)。
この ことか ら、EUは、EU経済の競争力 の向 上のためには、経済的効率性(economice用ciency) を考慮す ることが必要であ り、そのために、た とえば、税金の ことを考 えるあま り経済的意思 決定が歪 め られ るといった ことを最小限に抑 え る、あるいは、クロスボーダーな経済活動にとっ ての不必要 に高い遵守 コス ト(compliancecost)9
9課税所得計算 の方法 が異 なるために、他 国の税務上の規定 も考慮 しなければな らない とい うことに伴 う、作業上の 追加 的労力等 を さす と考 え られ る。
108 No.38 2009
や税制上の障害を回避す るな どして、税制の効 率化 をはかることが必要 との認識 を示 している
(COM p.5)0 3‑2.共通化の方法
上記のような考えか ら、2001年の報告書では、
課税所得計算の共通化のための方法が考慮 され てい る。それは、具体的には以下の4つの類型 として示 されてい る (COM p.44、向 田、松繁 [2005]36ページ)。
(1)本国課税方式 (HomeStateTaxation) この方式では、相互承認の もとに、課税ベー スは、各企業の本国 (す なわち、親会社または 本社が所在 してい る国)の規定に従 って算出さ れ る。 当該方式は、課税ベースが十分似通 った 国に所在 している企業が選択的に適用できるも の (optionalscheme)として とらえられ る。
(2)共通課税ベース方式 (Common Consolidated BaseTaxation)
この方式では、EUレベルでの単一の課税ベー ス を算定す るため、調和化 され たEUルール を 新たに設定す る。 当該方式 も、本国課税方式 と 同様 に、各国の現行ルール と併存す る形での、
選択的な方式 として とらえ られ る。
(3)EU法人税方式 (European Corporate Income Tax)
この方式では、EU全体で税金の徴収 を行い、
税収入 の一部 または全部 が直接EUに帰属 しう る。 当該方式は、強制的または選択的方式 とし て とらえられ る。
(4)単一EU課税ベース方式 (asingleEU company taxbase)
この方式では、単一 のEU課税ベー スを設定 し、各国の既存のシステムに代わるもの とす る。
すなわち、各国のルール を完全 に調和化す る方 式である。
3‑3.共通化の方法をめ ぐる議論
課税所得計算に関す る各国のルールの残存の 程度で言 えば、 (1)の本 国課税方式が最 も強 く、
(4)の単一EU課税ベース方式 において最 も弱い
といえる。上記4モデルが提示 された ことによ り、関心は、 この うちどのモデルが採用 され る のか とい うこ とになるで あろ うが、EUでは、
2つのモデル‑ と議論が絞 り込まれた。それは、
(1)の本 国課税方式 と、 (2)の共通課税ベー ス方 式である (Herzig[2006b]S.158)100
本国課税方式では、既述のよ うに、課税所得 計算のルール に関 して、加盟国間での相互承認 が行われ、ルールの調和化 は行われない。 当該 方式 は、EU内の隣接す る国において限定的な 活動 を行 う中小企業に とって助 けとなると考 え られたため、EUは当該方式が経済的発展‑ の 刺激 になると期待 した。そ して、国際的に活動 す る中小企業に対 し、所属国の課税 システムを 任意で適用できるとの規則 を具体化す るための プロジェク トを進 めよ うとした。 しか し、これ は多 くの加盟国においで懐疑的に評価 され、考 慮 の 中心 か らは外れ るこ ととなった (Herzig [2006b]S.158)0
したがって、4つのモデルの うちで主に議論 されているのは、共通課税ベース方式である。
当該方式は、国境 を越 えて活動す る企業に、オ プシ ョンで、調和化 されたEUルール を新 たに 提供す るものである。 これによ り、企業には、
グループ全体 にわたっての統一化 された税金測 定ベースがもた らされ ることになる。そ して、
かかる統一化 された税金測定ベースは、そのあ と、各加盟国における経済的単位‑ と配分 され る (Herzig[2006b]S.158)。つま り、加盟国間で 共通の課税所得計算方法で企業 グループ全体の 課税所得 をまず算出 し、当該課税所得の うち、
加盟国は自国に帰属する部分について自国のルー ル に基づいて課税 を行 うとい うことである。
かかる共通課税ベース方式 に関 して考慮 され
.oEU法人税方式 と単一EU課税ベース方式は、実現可能性が低い もの とされた (向田、松繁[2005]36ページ)0
ドイ ツ会計法現代化 と基準性原則 の変化 の可能性 109
るべ き重要な問題 の1つ は、企業 グループ全体 の課税所得を計算す るさいの会計ルール として、
何が採用 され るのか とい うことである。 これに ついて、 EU委員会 が とってい る姿勢 は、IFRS を課税 所得計算 のた めの 「出発 点」 (starting point) ととらえるとい う考 え方である。
た しかに、課税所得計算 のEU域 内での調和 化 をめざすにあた り、伝統的な法形式において、
各国の課税所得計算 を並立 させ ることは、あ ら ゆる摩擦 を生 じさせ るとい うことが考慮 され る べ きである (Herzigund Bar[2003]S.5)し、ま た、 IFRSが、 EU全体 にわた って認 め られた会 計慣行 としては唯一のものであることか らも、
IFRSを援用す ることが不可避 であるとい うこと に議論 の余地 はない と言 って よいので あろ う (Herzig[2006b]S.159)。 しか し、 IFRSを出発 点 ととらえることと、 「IFRS基準性」11とは同義で はない。む しろ、EU委員会 の作業 グループは、
IFRSを出発点 としつつ も、IFRS‑の参照指示 を 含まない、独 自の課税所得計算規則 をつ くるこ とに賛成 を表明 している。つま り、IFRSに与え られ る機 能 は、 EU全体 にわたって受 け入れ ら れた、議論 の出発 点 としての役割 であって、E Uとしてめざすのは、EU独 自の課税所得計算規 則 である とい うことで ある。 EUは、調和化 さ れた税金測定ベース として、IFRS基準性 は適切 でない と考 えてい るのである (Herzig[2006a]S.
558,Herzig[2006b]S.160)0
4. 1 FRS
基準性 の採用可能性第 3章 に見た よ うに、EUでは、多国籍企業 に とっての税務上の障害を取 り除 くため、域内 での統一的な課税所得計算規則 の設定が検討 さ れた。その さい、課税所得計算の基礎 となる会 計ルール としては、IFRSを出発点 とはす るが、
それに完全 に依拠す るのではな く、む しろ、そ れ を援用 しつつEU独 自の課税所得計算規則 を
作成す るとい う方針が打ち出されている。
ひるがえって、第2章で見た ドイツの基準性 の問題 について考 えてみ ると、同様の問題 に直 面 してい るよ うに思われ る。それは、ひ とこと でいえば、肝RS基準性 を採用す るのか否か とい
う問題であると言 えよ う。
4‑1. 1FRS基準性のメ リッ ト
IFRS基準性 をとれば、情報提供 目的にも、ま た、税金計算 目的にもIFRSのみの適用ですむた め、企業に とっては、 コス ト節約的であると言 えるかも しれない。 この点で、IFRS基準性 を採 用す ることには、た しかにメ リッ トがあると考 え られ る。 しか し、このメ リッ トも、企業の規 模や市場指向性 を考慮 して判断 しなければな ら
ないだろ う。
市場指向的な資本会社は、IFRS基準性 が採用 された場合、相対的に大きなメ リッ トを享受す ることができるだろ う。会計法改革法によって 規定 された現行の体制において、この種の企業 については、すでに連結決算書にはIFRS‑の準 拠が義務づけ られてお り、個別決算書において も、商法‑の準拠義務 は依然 としてあるが、情 報提供 目的のためにIFRS準拠の決算書を開示す ることが認 め られている。 ここか ら、市場指向 的な資本会社 に とっては、IFRS基準性 を採用す るコス トは比較的少ない と思われ る。
しか し、非市場指向的な企業に とっては、IF RSに準拠 して決算書 を作成す るこ とが義務 づ け られているわけではな く、またそのための経 済的な動機 もない。 この種の企業には、 ドイツ 商法の適用可能性 を残 してお くことが、過小評 価できない簡略化効果 (Vereinfachungswirkung)
をもつ と考 えられ る (Arbeitskreis[2002]S.2376‑
2377)。 非市場指向的企業 に とっては、IFRS準 拠‑の移行 は、簡略化効果 を失 うことにな り、
それは、いいかえれば遵守 コス トが増大す ると
)12‑1.で も見 た よ うに、IFRS基準性 とは、課税 所得 計算規則 が、iFRS規則 またはIFRS準拠 の決算 書‑ の参 照指示 (Verweis)を含む とい う意味である (Herzig[2006b]S.159)0
110国際経 営論 集 No.38 2009
い うことである。 この点で、IFRS基準性 が採用 され ることのメ リッ トは小 さい といえるだろ う。
412. 1FRSの問題点
IFRSの、 ドイ ツ商法 と比較 した ときの問題点 も指摘 され てい る。 IFRS準拠 決算 書 は、HGB 準拠個別決算書 との比較で言 えば、借方計上可 能性 (Aktivierungspotential)が広 く認 め られ 、 貸 方 計 上 可能性 (Passivierungsm6glichkeit)は 狭 くなってい る。 また、未実現利益 を計上でき る可能性がある (Arbeitskreis[2002]S.2374,2379)0 これ らの特徴 は、 ドイ ツ商法の伝統 において規 定 されて きた、実現 した収益のみ を受 け入れ、
あ りうる経済的義務 は貸方記入す るとい う慎重 な、債権者保護 にかな う利益測定に反す るもの であ り、IFRS準拠 の決算書は、配 当のための尺 度 と して適 切 で は な い とい え る (Arbeitskreis [2002]S.2374,2381)。
上記 の よ うなIFRSの特徴 は、例 としては公正 価値評価 に表れ るであろ う。 これ に関 しては、
以下の よ うな指摘がな されてい る。
公正価値評価 は伝統的な取得原価 による評価 か ら、市場評価‑ とパ ラダイム転換 を起 こす も のである。た しかに、資産 を時価で評価 した り、
未実現の価値上昇 を損益計算書 において収益 と して表示す ることは情報提供 とい う側面で見れ ば 目的にかなってい るといえるが、税務的な適 切性 は疑 わ しい。公正価値評価 によ り、未実現 の利益 に対 して課税 がな され る可能性が出て く るか らである。 これ は、課税 の均等性 (Gleich m左Bigkeit)の点で問題 がある (Herzigund翫r [2003]S.5)。税務会計 では、そ もそ も、その 目 的 として、情報提供機能 は想定 されていない 。
税務会計 は、企業利益 の算 出に関 して、税務 目 的に沿 った均等性 と、できるかぎ りの期間的適 切性 を指向 しているのである (Arbeitskreis[2002] S.2379)。 この意 味で、公正価値評価 は、決算 書 に利害 をもつ投資家以外 の利害関係者 の情報 要求を否定するものと言わざるをえない (Reuther [2007]S.317)。
4‑3.課税の均等性および法形式上の問題 上に述べた よ うに、IFRSに基づ けば、基準性 の原則 は課税 の均等性 の原則 に反す る危険性が あ る とい う (Kahleund Dahlke[2007]S.313)0 ドイ ツでは、所有権が憲法 (基本法) によ り保 障 されてお り、それ に何 らかの制限を加 える場 合 は、法律上の根拠 をもって行 わなければな ら
ない もの とされてい る。 ドイツ基本法では、以 下の よ うに定め られている。
基本法第14条第1項
所有権 と相続権 は保 障 され る。その内容 と制 限は、法律 によって定め られ る。
基本法第14条第3項
公用徴収 は、公共の福祉 のためにのみ許容 さ れ る。公用徴収 は、補償 の方法 と範囲を定めた 法律 ない し法律上の根拠 によってのみ行 うこと が許 され る。補償 は、公共の利益 と徴収 当事者 の利益 との公正 な比較考量 によ り決定 され なけ ればな らない。補償 の額 について法的手段 によ り争 う場合 は、通常裁判所 を利用す ることがで きる。
また、 「法 の前 の平等」が基本法第3条第1 項において規定 されてい るので、法律 に基づき、
すべての者 が同等の取扱 いを受 けなけれ ばな ら ない もの と解 され る。
かかる条件 をふまえてIFRS基準性 について見 てみ ると、まず、前節 で述べた公正価値が問題 とな る。 これ に関 しては、 「課税 が信頼性 のな い価値評価 と結びつ け られれ ば、経済的担税能 力の指標 としての利益の比較可能性が損なわれ、
それ とともに、不公平な処理 を して しま う危険 性 が、収入 の不均一な評価 によって、高め られ て しま う」 (Arbeitskreis[2002]S.2379‑2380)と の指摘 がある。前節で も見た よ うに、公正価値 による評価がな されれ ば、未実現利益が計上 さ れ、それ に対 して も課税 が行 われ る可能性 があ る。す ると、ある2者 間で、実現利益 は同額で
ドイツ会計法現代化 と基準性原則 の変化 の可能性 111
あるにもかかわ らず、課税額が異 なるとい う状 態 になることも考 え られ、 これ は課税 の均等性 に反す ることにもな りかねない といえよ う。
さらに、IFRS基準性 には、法形式上の問題点 もある。税金 を徴収す ることは、上に示 した基 本法 において保 障 されてい る、財産 の所有権 に 制約 を課す ことである と考 え られ るため、それ には法律 上の根拠 が必要 である。 つま り、 「立 法機 関12を通過 した とい う形での正統性 (Legiti mation)が必 ず必 要 で あ る」 (Herzig und B左r [2003]S.4) と考 え られ るのである。
IFRS基準性 を とれ ば、課税所得計算 は、プ ラ イベー トの基準設定機 関の作成 した規則 と結び つ け られ るこ とにな る。 た とえIFRSがEUの承 認手続 を経た ものであるとして も、上記 の よ う
な条件 が満 た され て い るか ど うか は疑 わ しい (Ilerzig und Birl2003]S.4,Arbeitskreisl2002]S, 2379)。 この点で、IFRS基準性 は、法形式上の 問題 点 も抱 えてい る といえる。
5.
おわ りに本稿 では、2007年 11月 に ドイ ツ連邦法務省 よ り公表 され たBilMoG法案 にお いて、 IFRSに準 拠 した個別決算書の作成が可能 となるよ うな条 項が提案 されていた ことに注 目し、 ドイツ会計 の基礎 をなす原則 の1つである基準性 の原則 に 関 して、今後 どの よ うな変化 が考 え られ るのか について考察 してきた。
第 2章では基準性 の 4類型 をあげたが、2‑2.
にも見た よ うに、現行 の体制 は商法準拠資本維 持決算書基準性モデルであるとい える。2009年 5月 に公布 されたBilMoGには当初連邦法務省 に よ り提起 されていた商法改正案第264e条が含 ま れていない ことか ら、当面は現行 の体制が維持 され る と予想 され るが、 これ も恒久的なもので はな く、む しろ国際会計基準導入 に伴 う制度転 換 の一過程である と考 え られ る。 そ こで、今後 考 え うる変化 としては、2‑2.に見た よ うに、IF
RS基 準性 モデル 、 または分離 モデル が想 定 さ れ る。 しか し、第4章 にも見た よ うに、IFRS基 準性には、さまざまな問題点があることがわかっ た。 したがって、残 る可能性 は分離モデル とい
うことになる。
分離モデル をとれば、基準性原則 は廃止 され、
課税所得計算のために、税法において独立の規 定が作成 され ることになる。独 立の課税所得計 算 を導入すれ ば、情報提供 目的、配 当お よび課 税 目的な ど、 目的別 に会計 システムを発展 させ ることができるよ うになるとい うメ リッ トがあ る。そ して、IFRS準拠 の個別決算書 を導入す る さいの障害が取 り除かれ ることになる と思われ る (Herzig[2006a]S.560)。
しか し、他方で、分離モデル のもとで個別決 算書 にIFRSが導入 され ると、商法 と税法 とで全 く異 なる会計数値が算 出 され る可能性 もあ り、
どち らが企業の経済的状態 を示 した もの と言 え るのか、 とい う問題 が出て くるか もしれ ない。
また、基準性原則 の もとでは、基本的に、商法 準拠 の決算書 を作成すれば、そ こか ら税金計算 がな されていたが、税金計算が分離 され ると、
税務 目的のために別 の決算書 を作成 しなけれ ば な らない とい うコス トの 問題 もあ るで あ ろ う (Herzig[2006a]S.560)0
かか る問題 点 を解消す るためには、税法 にお ける課税所得計算規則 の設 定において、多少 な りともIFRSを考慮 しなければな らないであろ う。
その ときに、第3章 で見た、EU委員会 の とる
「出発 点 としてのIFRS」とい う考 え方 は参考 に なると思われ る。IFRSにそのまま準拠す るので はな く、それ を参考 に し、議論 の出発点 として 独 自の規則 を設定す るとい う考 え方である。 こ れ によ り、商法 と税法 の計算規則が大 き く異な ることか ら生 じるコス トをい くぶん削減す るこ とができるであろ う。
分離モデル を とることは、基準性 の原則 の廃 止 を意味す るため、大 きな制度変化 を引き起 こ す ことになる。そのため、導入 には困難 が伴 う
12ここでの立法機 関 とは、連邦議会 (Bundestag)と連邦参議院 (BundeSrat)が想定 されてい る。
こ とも考 え られ るが、IFRSが個 別 決 算 書 に も適 用 され る よ うに な る こ とを想 定 した とき、 十 分
に検 討 に値 す るの で は な い だ ろ うか。
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