論 説
製 造 物 責 任 と 労 働 災 害
‑我が国における判決例の分析fー
松 本 克 美
169
目次
はじめに
訴訟類型上の特色
二)概観
(二)事故類型(三)請求主体と責任主体
責任要件Lの問題
(一)製造者の責任
54321
欠陥と過失
構造Lの欠陥
製造上の欠陥
指示Lの欠陥
修理・改造業者の過失
神 奈lli法 学 第27巻 第2・3号 170
(二)使用者の責任
1被災労働者に対する使用者の責任
2使用者が請求主体の場合
(三)国の責任(四)製造者と使用者の間の責任の分配
三責任効果上の問題
(一)共同不法行為の成不口
(二)内部関係
(三)小括
四労災製造物責任訴訟提起のメリット
(一)要件上のメリット
(二)効果上のメリット
ー被災労働者にとって
2使用者にとって
おわりに
はじめに
我が国では︑労働過程で生ずる災害や疾病︑すなわち労働災害をめぐっては︑労災保険︑労災補償制度の存在とと
もに︑使用者の民事責任を追及することが可能である︒後者の労災民事損害賠償訴訟は︑とりわけ六〇年代半ばから
∴ 鞭 鋸 輔 繍 鷺 躯 一確 籍 難 藻 欝 盛 豪 影 鋭 騒 謹 騨 鞭
{533) 製 造 物 責 任 と労 働 災害
171
ところで︑労働契約上の信義則に従い使用者が被用者に負うものとされる安全配慮義務の内容をめぐっては︑とり
わけ︑証明責任論ともかかわって︑種々論じられてきた︒だが︑その中に︑安全教育を尽くすべき義務や︑安全な器
具・施設を提供する霧が含まれることについては︑判例牽説とも異論が碗・そしてこれらの安全配慮霧の且ハ
体的内容は︑同時に不法行為の過失の前提となる注意義務の内容をも規定為・
さて︑労働災害が発生した場合に︑その原因が︑労働過程で用いられた器具・施設の欠陥や︑その使用方法につい
ての誤用にある場合には︑使用者の安全配慮義務違反へないし不法行為Lの注意義務違反等)とともに︑そのような欠陥
ある製造品を提供したり︑卜分な用法の説明を尽くしていなかった製造者や販売者等(以下製造者等という)の責任︑
へ ノすなわち︑製造物責任も同時に問題になり得る︒
労働災害に関しては労災保険の給付のみを認め︑被害者による使用者の民事責任の追及を禁止しているアメリカで
は︑むしろこのような事故においては製造者の責任を追及することによって保険給付で満足されない被害者の救済の
実現を試みることが行なわれており︑このことが︑一方で年間の製造物訴訟が一〇万件以上に及ぶと推定される﹁製
造物責任の危機﹂とも言われる状況の一つの要因を作っているとも言われてい︑観︒
我が国では︑使用者に対する民事損害賠償請求が禁止されてはいないため︑これまではアメリカのように製造物責
任を追及しなければ労災被害者の救済ができないわけではなかった︒しかし︑それでも以下に検討するように︑製造
者等の責任を追及した訴訟がないわけでもないのである︒
折から︑我が国では︑一方では︑労災保険と民事賠償の調整を通じて労働災害における民事損害賠償訴訟を制限し
ていこうという見解と︑反対にむしろ両者の完全併存を実現しようという立場が対立してい(扉他方で・製造物責任
をめぐる国際動齪は︑我が国における製造物責任立法の具体化を迫り・これについて種々の提案がなされてい(琴
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 172
本稿は︑こうした状況を踏まえて︑労働災害と製造物責任とのかかわりにおける法的問題点を︑とりあえず︑我が
国の判決例の分析の中から析出することを試みるものである︒
その際の課題は︑以下の点に設定される︒
第一に︑労災をめぐる製造物責任訴訟(以下︑労災製造物責任訴訟という)に固有な法的問題点を析出することである︒
この訴訟は︑後に述べるように︑労災訴訟の面から見ると︑使用者以外の製造者が(も)責任主体となっていること︑
また︑使用者が請求主体となる場合もある点に特色がある︒また︑製造物責任訴訟という面からみると︑製造者等の
他に︑使用者が責任主体となりうる点︑また︑一般の個人的︑私的な消費過程による事故ではなく︑当該製品の選択.
ヘヘヘヘへ使用を使用者から命じられて労働者が使用する労働過程における事故であるという点に特色がある︒これらの点は果
たして︑法的にどのような固有な問題を提起するのであろうか︒
第二に︑以上の点をふまえた労災製造物責任訴訟提訴のメリットの析出である︒労災については冒頭で述べたよう
な労災保険の支給による被害者救済が不十分であれ図られ得るのであり︑それとは別に労災製造物責任訴訟が提訴さ
れるには︑それなりの要因があるものと考えられる︒
これらの二つの課題を明らかにすることは︑今後のこうした訴訟への法的対処(解釈論の深化︑製造物責任立法を含むハヨ立法論の必要性︑その中味等)を考える上での出発点となろう︒
ここでは︑まず我が国における労災製造物責任訴訟の概要を紹介した上で(一)︑責任要件上の問題(二)︑責任効果
上の問題(三)について検討し︑最後に労災製造物責任訴訟提起のメリットについて論じて行くことにする(四)︒
(534
(535) 製造 物 責 任 と労 働 災害
1T'3
訴 訟 類 型 上 の 特 色
(一)概観
さて︑我が国において︑欠陥のある商品や施設によって生じた労災事故において︑使用者以外の製造者等に対して︑
或いは使用者とともに製造者等に対しても損害賠償責任を追求した公刊裁判例は二二件ほどである︒
アメリカでは︑架薮万件の製造物責任訴訟が提起されていると言わ勤・それに対して・我が国で公表された
へ 製造物責任訴訟の裁判例は一五〇件程度である︒但し︑公刊裁判例の少なさが製造物被害の少なさに起因するとは言
にハロぱえない︑また︑公表されない裁判例や︑製造物責任訴訟の形をとらない訴訟(欠陥施設の所有者︑占有者に責任を問うた
り︑自賠法上の運行供用者責任を追求したり︑労災における使用者のみの責任を追求する訴訟等)もある︒既に︑一九七八年
の段階で︑北川善太郎は︑我が国における一年間の欠陥商品関連事故は四〇万件を超え︑関連する訴訟事件数は一〇
(13)○○件程度であると推測している︒また︑九一年一〇月に発表された国民生活審議会消費者政策部会中間報告も︑﹁製
品関連事故による消費昔被害が少なからず発生しており︑身体・生命にかかわるような深刻な製品事故も一部起きて
ねザ いること﹂を指摘している︒
我が国では︑製造物被害についての情報収拾システムが未確立であり︑その実態については︑正確な全体像はつか
めていない︒労災にかかわる製造物関連事故も︑その例外ではなく︑実数は正確には把握できない状況である︒最高
裁事務総局では︑かつて特殊損害賠償請求事件のうち労災事件を事故原因別に﹁物その他の暇疵﹂﹁他人の作業行為﹂
﹁その他﹂に分類していた︒このうち︑﹁物その他の蝦疵﹂による訴訟の第一審係属数は︑七〇年代半ばで年間三〇〇
ハー5)件くらいと言われているが︑この中には︑使用者のみを相手取った訴訟もあるだろうし︑また︑蝦疵について製造者
174
等に責任がない場合も含まれるだろうから︑労災製造物責任訴訟の実数をそのまま反映するものとは言えない︒
さて︑このようなことを前提に︑以下で公刊されている二二件の判決例を概観する︒なお︑本文中の判決番号は本
稿末尾に掲げた付属資料の判決表(判決日順)の番号である︒
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号
{536}
(二)事故類型
1労災に特有な事故
事故類型の特徴として︑当然ながら労働器具・機械による事故二二件)︑労働現場の施設にかかわる事故(三件)が
主であることを指摘できる︒これらの器具・機械・施設は︑特殊な労働過程で用いられる製品.施設であってそもそ
も危険性が高い点︑およびそのような危険性に対して︑労働者が使用者の指揮.監督のもとに否応なく直面している
点に︑一般の欠陥製品・施設事故と異なる特徴がある︒
(1)労働器具・機械による事故クレーンの倒壊により︑試乗していた労働者が重傷を負った事件(①)︑コン
プレッサーに指がはさまれ切断した事件(⑥)︑カッターや金槌が破損してその破片の衝突により目を負傷した事件(⑦
⑧⑩)︑紙梱包機のホッパーにより背腹部が切断された事件(⑪)︑コンビットが破裂し腕を負傷した事件(⑭)︑リフト
のワイヤーロープが切断し︑搬器が落下衝突し脊髄損傷を被った事件(⑯)︑ドーザで除雪作業中に転倒し︑下肢をド
ーザに挟まれ全廃した事件(⑰)︑プレス機械に手を挟まれ負傷した事件(⑱⑳)︑昇降機の荷降作業中に︑リフトに上
半身を挟まれ死亡した事件(⑳)がこれにあたる︒
(2)労働施設にかかわる事故構内のサンドタンクが落下衝突して労働者が死亡した事件(⑨)︑鋳物工場でキ
ューポラが爆発して労働者が死傷し︑工場も被害を被った事件(⑫)︑汚水処理施設の点検のため汚水槽に入った労働
(537)
者がガス中毒で死亡した事件(⑲)がこれにあたる︒
2労災以外にも起き得る事故
その他︑自動車の欠陥(②④⑤)や︑自衛隊ヘリコプターの墜落事故(⑬)︑運搬していたラムネびんの爆発(⑮)・
潜水器具の故障(⑫))は︑労災以外にも起こり得る事故ではあるが︑それが労働過程で現れた事故であるという点で︑
ここでの分析の対象に含めておく︒
製造物責任 と労働災害
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(三)請求主体と責任主体
請求主体と責任主体︑すなわち被害者と加害者の類型毎に次のように整理できる︒
1被災労働者請求型l‑lA型
労働災害を被った被災者ないしその遺族が請求する型を︑A型としよう︒但し︑この場合の被災者の中からは︑使
用者ないし使用者的立場にある者(工場長等)は除く︒後者は次項で述べるB型として整理する︒
九件あるA型を更に︑請求の相手方が使用者および製造者(ないし販売者等のいわゆる製造物責任の主体の場合︒以下・
製造者等という)(α型.三件)と製造者等のみの場合(β型・六件)とで区別する︒
(1)請求の相手方が使用者および製造者等(Aα型)判決例⑭⑰⑱がこれにあたる︒このうち︑⑰(ドーザ除
雪作業中転倒下肢全廃事件)︑⑱判決(プレス機械欠陥指欠損事件)では︑両者の不法行為責任をみとめたが︑⑭判決(コ
ンビット破裂.左腕負傷事件)では︑使用者の安全配慮義務違反を認めたものの製造者の責任は否定した︒この型では︑
後述のように欠陥製品ないし施設についての両者の責任の内容と関係が問題となる︒
(2)請求の相手方が製造者等のみ(Aβ型)判決例①②⑧⑨⑬⑳の六件がこれにあたる︒先に述べたように︑
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 ヱz6
(538}
製造物等の欠陥による労働災害の場合には︑使用者の安全配慮義務違反等も問題となる︒にもかかわらず︑製造者等
のみを損害賠償請求の相手方にしているのは︑それなりの理由があると思われる︒この点も次項で検討する︒
2使用者請求型Il‑B型
A型では︑被災した労働者ないしその遺族が請求する型であったが︑ここでは︑使用者が製造者等を相手取って損
害賠償を請求するタイプの事件について検討する︒これは更に︑使用者自身が被災した事件(α型)︑使用者が被災労
働者の家族である事件(β型)︑被災したのは労働者だが︑使用者が被災者ないしその遺族に賠償したことによる損害
を製造者に請求するタイプ(γ型)に分類することができる︒
(1)使用者h被災者型(α型)⑤⑥⑦⑩⑪⑮⑯⑳⑳事件の九件がこれにあたる︒
このタイプでは︑使用者自身が被災者であるので︑当然使用者の安全配慮義務違反責任の追求は問題となり得ない︒
それが故に製造者等に責任を追求しているわけでもある︒ここでは︑使用者自身も製造物等の欠陥について管理責任
を負っていることが︑製造者等の責任の免責ないし減責の問題として現れる︒
(2)使用者は被災者の遺族型(β刑︑)④事件がこれにあたる︒安全に対して責任を負うべき使用者という加害
者としての立場と︑被災者の遺族であるという被害者の立場が同一人に帰属している点に特色がある︒
(3)使用者‡被災者型(γ型)今までのふたつの型が︑いずれも使用者が被災者自身である︑或いは被災者の
家族であるという形であったのに対して︑γ型は︑被災者は労働者であり︑そのことにつき使用者が被災者ないしそ
の遺族に賠償したことの損害を︑欠陥製品の製造者等に賠償請求するものである︒
③(病院浴室医師ガス中毒死事件)はこのうち責任否定例であり︑他方で︑⑲(汚水槽.市職員ガス中毒死事件)では︑
汚水処理施設の設計工事の請負人の責任が肯定された︒この型は︑実質的には賠償金を負担した使用者から製造者等
(539}
製 造 物 責 任 と労 働 災害 177
への求償的賠償請求の問題として論じられる︒
3被用者・使用者同時請求型C型
被災した被用者と使用者が同時に製造者を相手取って損害賠償請求をする型であり︑⑫(キューポラ爆発事件)がこ
れにあたる︒ここでの使用者は︑欠陥のあるキューポラが爆発したことによって生じた工場被害等の損害賠償請求を
しており︑自らの被害について製造者の責任を追求する点ではBα型と同一視できるが︑更に被災した労働者が別にい
る点で区別される︒
さて︑次にこのような訴訟類型上の特色に留意したヒで︑労災製造物責任訴訟に固有な責任要件︑効果上の法的問
題点を検討してみよう︒
二 責 任 要 件 上 の 問 題
(一)製造者の責任
1欠陥と過失
製造物の欠陥について第一次的に責任を負うべきであるのは︑そのような欠陥ある製造物を流通させた製造者であ
ろう︒ところで︑このような製造物責任についての特別立法のない我が国においては︑欠陥する製造物を流通させた
製造者の責任については︑これを民法上の不法行為責任ないし債務不履行責任として構成し︑被害者の救済を図って
きた︒そして︑我が国の判例は︑この場合︑製造者が欠陥ある製造物を流通させたことを不法行為ないし契約上の義
ハめり務違反ー1過失として構成してきたのである︒ところで︑従来︑製造物責任における欠陥については︑ドイツの学説も
参考に︑﹁構造トの欠陥﹂(内︒霧欝鼻二︒訂駄①三①憎嵩製造ヒの欠陥﹂(閃帥訂涛鑑︒器融三臼)﹁指示上の欠陥﹂(ぎω寓¢ζδ霧冷甑2)
神 奈lli法 学 第27巻 第2・3号 178 (540)
ヘロ
﹁開発上の欠陥﹂(両艮a︒匹琶ひqωhΦ三Φ﹁)の四種に分類されてきた︒ここでも︑こうした欠陥概念を基礎に︑そこでの責
任肯定例と否定例とを検討してみよう︒
2構造上の欠陥
構造﹂の欠陥とは︑当該製造物の設計段階で既に構造上欠陥があった場合で︑設計上の欠陥ないしデザイン欠陥と
も言う︒この欠陥が争われた事例は一〇件で︑全体の四割を占めている︒
(1)責任肯定例①(クレーン倒壊事件)︑⑰(ドーザ除雪事件)︑⑲(汚水処理設備事件)︑⑫(潜水器具欠陥事件)の
四件である︒
①はY建造のクレーン土台の上に︑Yが発注してAが建造したクレーンを︑A社の従業員Xが試運転していたとこ
ろ・土台の欠陥によりクレーンが倒壊し︑Xが重傷を負った事件である︒判決は︑有事故原因について︑Yが建造し
た土台が﹁本件鋼造︑機械部分および荷重の加重に耐えうる性質を有していなかったことに基因するもの﹂とし︑Y
が専門能力を欠くY社の従業員に基礎工事を担当させたことを認定して︑民法七一七条の土地工作物責任を肯定した︒
この事件では︑製造者であるYのみが責任追求され︑Xの使用者であるAは請求の相手方とはなっていないが︑これ
は︑土台部分の欠陥について︑A社が関与していないことによるものと思われる︒
⑰は︑積社の従業員Xが︑脇社が製造販売したドーザを使って除雪作業中に誤って転倒し︑ドーザの下に巻き込ま
れ下肢全廃を負った事件である︒地は︑安全性について欠陥はなく︑転倒しやすい除雪作業に使用して転倒したXが
悪い・また︑安全教育を怠った積に責任がある旨争ったが︑判決は︑常に転倒の危険の伴う除雪作業にはグリップの
取付けが不可欠であるのにこれを怠った過失がある︑また︑指示上の欠陥もあった(後者については後述)として︑脇
の責任を認めた︒なお︑判決は︑次のようにドーザの危険性に応じた製造上の注意義務を認めており︑注目される︒
{541}
製 造 物 責任 と労 働 災 害 179
コ般に︑小型ドーザは︑排土などの作業目的から強力なエンジンを搭載しており︑その形状とあいまって︑劉q
無謀な操作方法をとった場合でなくても︑操作者又は第三者に対する生命︑身体等の危険を伴うものであるから︑小
型ドーザ製造者としては︑予見可能な危険を同避して安全な小型ドーザを製造すべき義務があり︑この義務に違反し
て欠陥品を製造︑流通させた場合は右欠陥品の使用によって損害を被った被害者に対して直接に民法七〇九条の不法
行為による損害賠償責任を負うものと解すべきである︒﹂(傍線引用者︒以下同様︒)
⑲は︑X市の職員が︑Y社が施rした汚水処理施設の内部に点検のため立ち入ったところ︑汚水槽で発生していた
有毒ガスで中毒死した事件である︒Yは︑事故原因はXによる本来予定された用法以外の間欠運転によるものであり︑
硫化水素の発生の桿度や︑職員か無防備で汚水槽に立ち入ることなどの予見可能性はなかったとして過失を否定した︒
これに対して判決は︑被害発生の予見可能性については︑高度な調査研究義務を課し︑また︑市職員の立入の予見可
能性についても︑全く予見できなかったわけではなく︑全く常軌を逸した異常な行動でもないとして予見可能性を肯
定し︑Yの責任を認めた︒
すなわち︑硫化水素が﹁微量でも猛毒で大変危険な物資であり︑撹絆により一度に大量に発生する化学特性を有し
ていることは本件事故当時も}般に知られていたのであり﹂抽象的予見可能性はあったとし︑﹁また︑個別的︑具体的
予見可能性という観点から考えても︑塵芥焼却上という硫化水素発生の危険を不可避的に包含した設備を設計︑施工
する業者である被告に対しては︑右設備内で稼働する労働者らが硫化水素に曝露されることのない様にその安全性に
十分な配慮をして設計︑施工すべく︑自ら又は第三者に委託して右安全性を確保するための高度の調査研究義務を尽
くしていれば︑本件事故前においてもこれを獲得しえたものというべきである︒﹂
また︑市職員の立入の予見可能性については︑﹁しかしながら︑送水バイプの閉塞事故そのものを被告において全く
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3㌻ ナ 18θ
(542)
予想しなかったとまで断ずるに足る証拠はなく︑前認定のとおり︑第一汚水槽にはタラップが設けられているのであ
るから︑被告が職員の構内立入を全く予見することができなかったとまではいうことはできず︑原告ら職員が自ら閉
塞箇所を修理しようと試みるのも全く常軌を逸した異常な行動ともみられないから︑被告の右主張は採用することか
できない︑﹂
﹁以上要するに︑被告は︑汚水処理設備プラントの専門業者として︑第一汚水槽において汚水中に相当量の硫化水
素の発生する可能性を一般的︑抽象的のみならず個別的︑具体的にも予見しえたものであり︑かつ︑同槽に対する八
の立人りの可能性もr見しえたものということができるのであるから︑前記のとおり送水パイプそのものを露出配管
にするか︑第一汚水槽にばっ気装置を設けるなど︑第一汚水槽における硫化水素ガス中毒事故が発生しないように最
善の防止措置を高ずる契約ヒの注意義務があったものというべきであり︑現にそうした方向での本件事故の改善策に
より送水パイプの閉塞事故自体が発生しておらず︑そうした設備の設置費用も本件焼却場全体の施工費川からみると
極めて小額であるにもかかわらず︑右防止措置を怠り︑その結果本件事故を発生させたものというべく︑被告はこの
点で︑過失責任を免れないものというべきである︒﹂
⑫は︑職業潜水士Xが︑A社からの依頼により同社の原油基地の海中において︑Y社から購入した潜水具を使用し
て船舶接岸速度計の定期点検調査作業を実施していたところ︑減圧症に羅患し︑両下肢機能全廃の後遺症を蒙った事
件である︒Xは︑事故原因は本件潜水旦ハの空気残量計の欠陥により空気残量を読み違え︑異常を発見したときには︑
浮上減圧の措置をとる時問的余裕もないままやむなく浮ヒしたためであるとして︑Yに対して︑このような根本的な
欠陥のある商品を販売したことが︑売買契約上の不完全履行にあたるとして損害賠償を請求した︒これに対して︑Y
は︑欠陥を否定するとともに︑潜水の無計画性︑発見の遅滞等を理由に過失相殺を主張した︒
(543) 製造 物 貴 任 と労 働 災害
181
判決はこれに対して︑次のように︑本件空気残量計の設計上の欠陥を肯定した︒﹁右認定の原告の行動︑本件空気残
量計の性状及び原告の供述を総合すると︑本件空気残量計は︑水深三四メートルの水中で正常に作動しない設計上の
欠陥があり︑このため︑本件空気残"里計は水深約三四メートルの本件事故時に正常に作動しなかったこと・このため・
歴口は減圧症に羅患したと認定できる.そして︑空気残量計は潜水者の安全な潜水を確保するための命綱ともいうべ
きものであり︑仮にも空気残最計に︑設計﹂の欠陥があったり︑本来の作動をしないといった不都合があってはなら
ないものであるから︑被告が原告に対し︑前示売買契約に基づき︑本件空気残量計を交付したことは︑売買契約ヒの
不完全履行を構成する︒﹂
更に︑過失相殺については︑後述のように空気残量計以外による空気残翠¢算廿等をしなかった点での過失を否定
したが︑異常の発見遅滞の点で過失を認め︑原告請求の慰謝料の半額の一〇〇〇万円の認容にとどまった・
(2)責任否定例②(ダンプ荷ムロ故障事件)︑⑤(大型貨物自動車転落事件)︑⑥(コンプレッサー指切断事件)︑⑧(コ
ンクリートカッタi.プレ1ド破損事件)︑⑪(紙梱包機ホッパー腹背部切断事件)︑⑯(リフトワイヤーロープ切断事件)が
これにあたる︒
ア欠陥否定例原告が指摘する欠陥自体を否定したものが⑥である︒
⑥は訴外A会社の工場長兼取締役であったXが工場内を見回り中に︑Y社が製作提供したコンプレッサーのオイル
クーラー上部に布切が置いてあったので︑これをとろうとしたところ︑右布切れが回転中のファンに絡みつき・Xが
手を離す余裕もないまま︑指をファンに接触させ︑その一部を切断した事件である︒ここでは︑Xの重大な過失が事
故原因であると認定され︑﹁かよ︑つに危険を無視した重大な過失によそ惹起された事故をチ想してまで︑本件機械の
製作者である被控訴人に対し︑右事故を防止するための安全装置を施すべき義務を負わせることはできない[とされ
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 182 (544}
た・なお・本件では︑次のように右機械の使用者が専門家であることを強調している点が注目される︒
﹁⁝・本件機械はいわゆる汎用性を有する機械で︑前記工場よりもさらに気温の高い地域においても使用されるも
のであるから・かかる場合には右空間部分に金網が取り付けられることにより冷却能力が低下しその性能に髪.が生
ずるおそれのあることが認められ︑右認定に反する証拠はない.のみならず︑機械の製作者は当該機械の利用者︑使
あって・ことに本件のような工場用機械については︑一般公衆が取り扱い又は接近するおそれのある機械とは異なり
専門家がこれを操作するのであるから︑製作者においてあらゆる危険に対し最高の安全性を有する機械を製作すべき 用の目的・方法及び設置の場所に照らして︑通常予想される危険に対し必要かつ十分な安全措置を施せば足りるので熟
法的義務を負わせるのは相当でない,もし︑当該機械の具体的使用状況︑設置場所等に照らして︑特別の危険がf想
されるときには・当該機械を利用する事業者において適宜その安全性を補完すべき措置を講ずべきものと解するのが
相当である・⁝⁝要するに︑本件においては︑被控訴人は本件機械の安全装置として前記空間部分に金網等のおおい
を取付けるまでの法的義務があるとはいえないから︑この点に関する控訴人の主張も採用できない︒﹂
イ欠陥の証明がないとしたもの判決が欠陥を否定するのではなく︑欠陥の証明が原告によってなされていないと
して責任を否定したのが⑧である︒
⑧は・Xの父親が経営する会社で︑Xが︑積製作︑ぬ販売のコンクリートカッターについてXの父親から使用方法
を説明してもらい・これを作動させていたところ︑突然右カッターのブレードが破損し︑その破片がXの右目に命中
し・負傷した事件である︒判決は︑次のように過失の前提をなす作為義務の存否にかかわる事実の証明がないとして
責任を否定した︒
三)⁝⁝(形成しうる心証の一端を示すに︑切断片がゴム製水よけカバーを貫通して原止口の右眼に入った可能性
(545) 製造物貴任 と労働災害
183
はあるものの︑この可能的事態における原告の体位ないし姿勢は︑その顔面をブレードに著しく近づける等の不自然
な状況を推認せざるを得ず︑また仮に切断片が右カバーを貫通し(いないとすれば︑その際の原告の姿勢等は不自然
なそれであるか︑もしくは切断片が何者かに衝突してはね返る等︑通常予測困難な稀有の事態を推定せざ尉を得ない︒)
したがって︑原告の前記主張は︑その前提となる事実(安全性ヒの暇疵等)を本件全証拠をもってしても認めることが
できない︒
(二)なお付言するに︑仮に︑原告主張のような安全カバーを本件カッターに取り付けることが機械の構造並びに
機能の面から可能であったとしても︑本件において︑被告弘に右取りつけをなすべき義務があるというためには︑右
カッターのブレード自体が折損しやすいか若しくは作業中小石などか飛散しやすいかして︑作業者の身体に危険を及
ぼしうることにつき主張・立証を要するものというべきところ︑原告は︑右の点についてこれを首肯するに足る立証
をしない︒
(三)そうすると︑本件カッターに蝦疵があるとの原告の主張は理由なきに帰する︒﹂
ウ欠陥と事故発生との因果関係を否定したもの仮に原告主張の欠陥があったとしても︑そのことが事故原因であ
るとは言えない︑或いはその証明がないとして責任を否定したのが︑②⑤⑪⑯である︒
②は︑ダンプカーの荷台が降りなかったため︑これを点検しようとして荷台下に頭を突っ込んだAの頭上に︑突然
荷台が落下しAが死亡した事件である︒Aの両親凡瓦が右ダンプカーの昇降装置の欠陥が事故原因であるとして︑ダ
ンプカーの製造業者に不法行為に基く損害賠償を請求したところ︑判決は﹁本件ダンプ車の荷台昇降装置のうちリン
ク系統部分の設計には︑本件のようなリンクとクリップの干渉故障を生じさせうる可能性を含んでいるのではないか
と疑われるのである﹂としつつも︑次の理由でこれが事故原因となった証拠がないとする︒
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 rs1 (,546)
﹁しかしながら︑右のような設計﹂(構造L)の欠陥は︑本件ダンプ車と同型の車種のすべてに一般的にあてはまる
問題であるから︑本件のような干渉故障が被告の設計上の欠陥によるものとすれば︑前記認定のようなその発生条件
の特異性及び発生率を考慮に入れても︑他にも同じザ渉故障の例があってしかるべきである︒﹂が︑そのような事例が
ないとして︑﹁そうすると︑本件の場合は︑本件ダンプ車の前記構造上の欠陥から直ちに本件事故を導くことは困難で
あり︑その使用中に他の特別な原因によって干渉故障の原因となる構造上の変化が現れた疑いが濃く︑他に被告の製
造トの責任を理由づけるに足る証拠はない︒﹂
⑤は︑大型貨物自動車が転落し︑同乗していたXが負傷した事故である︒Xは事故原因は右自動車の制御装置の設
計・構造上の欠陥にあるとして︑右自動車の製造者呂に不法行為責任を追求したが︑判決は︑右事故は加害者の欠陥
によるものか不明であるとして責任を否定した(なお︑自動車の所有者の運行供用者責任を肯定している)︒
﹁以上のとおりであるから本件事故原因の真相は必ずしも明らかではないが︑少なくとも本件転落が転落前の通常
走行中にフランジボルトが切れたため第一プロペラシャフト先端のフランジジョークがセンターベアリング部分を支
点に降れ回り︑ブレーキパイプを切損したことによって発生したと認めることはできず︑右事実を前提とする原告の
㌔に対する請求はその前提を欠き失当であるからその余についての判断に進むまでもなくこれを棄却すべきものであ
る︒﹂
⑪は︑製紙原料の仕入販売業を営むAが︑Yより購入した油圧式紙梱包機のホッパーの押え蓋と投入口の縁にはさ
まれ︑腹背部を切断され死亡していた事件で︑Aの遺族が︑右事故原因は右機械の欠陥によるものであるとして︑Y
の不法行為責任を追求したものである︒判決は︑諸般の事情から︑﹁Aの死亡は自殺であると認定することも強ち不合
理なものではない﹂としたうえで︑﹁原告らの主張する暇疵が︑本件事故の原因であったと認めることはできない﹂と
(547}
製造 物 責 任 と労働 災 害 185
して請求を棄却している︒
⑯は︑建築大工を営むXが自らの倉庫兼居宅において︑二階倉庫の器材を二階に設置されたホイストで階下に移動
する作業を行っていたところ︑右ホイストのワイヤーロープが突然切断し︑Xの背部に衝突したため︑Xが脊髄損傷
による完全運動麻痺等の後遺症を負った事件である︒Xは︑事故原因はホイストのワイヤーロープの異常損傷および
取付工事の欠陥によるものであるとして︑ホイストのメーカー積︑その販売会社脇及び脇の下請業者ぬらの不法行為
責任を追求したが︑判決は次のように事故原因はX自身の重過失によるものであるとして︑請求を棄却した︒
﹁ところで︑以上の認定事実を総合して考えると︑積が容認しているホイストのワイヤーロープの二重巻それ自体
が直接にワイヤの切断原因になったとは直ちに認め難いところであるが︑少なくとも本件ワイヤロープのドラム上で
の二重巻に搬器による強制横引きが加わって︑ワイヤーロープの性能は著しく劣化していたところに︑メッセンジャ
ーワイヤーに搬器が一時的に引っかかったことからワイヤーロープに急激な衝撃加重が作用し︑ついに右ワイヤが切
断するに至ったものであることは明らかであり︑事故にかかわりをもったメッセンジャーワイヤの取付位置にせよ︑
搬器の形状にせよ︑そのまま漫然と使用を継続するのが非常に危険を伴うものであることはX自身十分に承知してい
たと考えられるし︑脇︑ぬらからもその旨事前に指摘を受けていたにもかかわらず︑Xは︑当然に予想できた危険を
軽視して︑専ら︑作業所内での移動や積み降ろしなど自己の作業﹂の利便をあえて優先させて︑使用を継続し︑剰え︑
本件事件当日は一階クレーンを西方にわざわざ移動し︑そのメッセンジャーワイヤが本件リフトの可動範囲に入る位
置にこれを停めて︑リフトからクレーンに溶接機等を吊り換えるのを容易にするなどの危険な行動に出たばかりか︑
無謀にも本件リフトの作動中にその下に入るなど︑リフト︑クレーン等の荷役設備を取扱"操作する場創における最
も常識的で基本的な注意を怠った結果が本件の重大な事故に繋がったものということができ︑本件事故は︑積らの責
神 奈 川法 学 第27巻 第2・3号 :・
(548}
に帰すべき事由によるというより︑要するに︑当然に予想し︑或いは予想しえた危険をあえて軽視したXの異常な使
用方法︑作業姿勢に起因して発生した事故であるといわざるをえない︒﹂
3製造上の欠陥
製造上の欠陥とは︑製品の製造︑品質管理の過程で生じた欠陥である︒
(1)責任肯定例⑦(カッター破損事件)︑⑨(サンドタンク落下事件)︑⑫(キューポラ爆発事件)がこれにあたる︒
⑦は︑XがYから買い受けたダイヤモンドカッターを使用して石材を切断中に︑羽の一枚が突然折損して︑Xの右
眼球を直撃し︑Xが右眼球破裂の傷害を被った事件である︒Xは事故原因は粗悪なカッターを販売したYの債務不履
行によるものであるとして︑損害賠償を請求したところ︑Yは事故原因はXの過失に起因するとして争った︒判決は︑
次のように判示してXの請求を認めた︒
﹁右認定事実によれば︑被告は︑本件カッターの製造販売業者であるというべきところ︑本件カッターは︑高速で
回転する電気ディスクグラインダ!に取り付けて石材を切断するのに使用されるものであるから︑もし本件カッタ!
を使用中に溶接部分で折損したら︑刃が飛散して︑カッターを使用する者等の生命身体に危害を加えるおそれのある
ことは十分に予想されるのであるから︑右のような本件カッターを製造販売する被告としては︑完全な欠陥のない溶
接をするように努めると共に︑完成品の品質検査を十分にして︑右で述べたような欠陥のない完成品を販売すべき売
買契約上の債務を買主に対して負担しているというべきである︒そして︑前記認定のとおり︑被告は︑本件カッタ!
を上坂石材店に販売したもので︑原告は︑同石材店の共同経営者であったから︑原告は︑本件カッターの買主である
というべきであるから︑被告は︑売買契約上の右債務に違反して︑溶接の不完全な本件カッターを原告に販売し︑そ
のため原告に前記傷害を与える本件事故を惹起したといわざるをえず︑よって︑被告は︑本件カッターの売買契約上
(549)
製造物貴任 と労働 災害
の債務不履行(不完全履行)により︑本件事故により被った原告の損害を賠償しなければならない︒﹂
なお︑被害者Xが刃こぼれを予想した予防措置をしなかった点については︑これをもってYは責任を免れないとし
つつ︑二割の過失相殺として考慮している︒
⑨は︑Aが呂鋳造会社内において溶接作業にあたっていたところ︑突然工場内のサンドタンクが落下し︑その下敷
きになり死亡した事件である︒Aの遺族が︑事故原因はサンドタンクの設置の暇疵によるものであるとして︑有サン
ドタンクの占有者である砧︑所有者である地リース会社等の不法行為責任を追求した事件である︒判決は︑事故原因
は︑右サンドタンクをとりつけたボルトの疲労破壊によるものであるとして︑呂らの責任を認めた︒
⑫は︑鋳物を製作する瓦会社において︑Yが製作販売したキューポラが爆発し︑従業員七名が死傷するとともに︑
爆発により右鋳物工場および周辺家屋が損壊した事件である︒瓦および死傷した従業員およびその遺族が︑事故原因
は右キューポラの欠陥によるものであるとして︑不法行為に基く損害賠償を請求したのに対して︑Yは︑爆発回避の
ために瓦がなすべき適切な措置を怠った点に事故原因がある等としてこれを争った︒判決は次のように判示︒
﹁もとより︑本件キューポラのジャケットは開放容器であり︑開放容器として本来有すべき安全性を具備していれ
ば足りるのであり︑本件キューポラの鉄板厚の点ではその安全性に欠けるところはないのであるが︑溶接部において
は鉄板よりかなり劣る程度の強度しか有しない部分があって水漏れを起こしやすいものであったのであるから︑劇例
キューポラは溶接部において開放容器として通常具備すべき安全性を有しな四ど‑ごろがあっだというべきである︒そ
して︑羽口円筒との溶接部において︑事故発生の数日前に第一審原告会社が水漏れを止めるため補修した溶接部は爆
87発にもかかわらず持ちこたえており︑その他の大部分は溶接箇所は破壊していることなど︑前認定の本件キューポラーの破壊の状況をみると︑溶接部が開放容器としての強度を具備していなかったという本件キューポラの欠陥も早期に
おける爆発事故の発生の原因を構成したものというほかなく︑そして本件キューポラにこうした欠陥を生じたことは溜笙審被告の本件キューポラの製造過程に過失があったというべきものであり・ヤあ過失が前記の第蕃原告会社側
の過失と競合して本件爆発事故を生じたものとみるべきである︒なお︑第一審原告瓦凡が地下水槽内の排水の異常を
見つけたさい︑危険回避の機敏な措置をとっていないが︑前記のとおりこのことは爆発の発生自体には影響を与えな
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 (550)
かったものであり︑たかだか損害額の算定にあたり勘酌すべき事情となるにとどまる︒﹂
(2)責任否定例⑩(金槌破損事件)︑⑮(ラムネびん爆発事件)がこれにあたる︒
⑩はXが自ら営む店舗内で板に打ってある古釘を抜こうとして︑金属性釘抜きの頭部を金槌で打ち付けたところ︑
金槌の頭部に亀裂が生じ︑そこから剥離した破片がXの左目眼球に飛込み負傷した事件である︒Xは事故原因は金槌
の欠陥によるものであるとして︑その製造者および販売業者を相手取って債務不履行責任ないし不法行為責任を追求
したが︑判決は次のように事故原因はXの過失にあるとして請求を棄却した︒
﹁以上のとおり︑本件事故にみられた金槌の破断は使用方法如何により通常起こりうるものであって︑一般に過重
負荷力が加うると縁端部から破壊が始まるのであり全く破壊することのない金槌はなくその種類により強度に差のあ
るのを想定し注意をする必要があるのであって︑原告は本件金槌の打てき面の変形状態からみて本件釘抜きの硬度が
高いことは知りえた筈であり本件事故は使用していた金槌の重量形状から考え社会常識上予想できた危険を軽視した
使用方法︑作業姿勢により発生させた事故であって結果が重大となったことは不運不幸な特殊事態というほかない︒
従って︑原告の主張する本件金槌に欠陥があったことを前提とする被告らの責任を認めることはできない︒﹂
⑮は︑Xがラムネぴんを運搬車から手押車に詰め替え作業中に︑ラムネびんが突然爆発し︑その破片が左目に衝突
し負傷した事件である︒Xは︑事故原因は右ラムネびんの欠陥によるものであるとして︑右ラムネびんを卸売したY
(.551)
に対して債務不履行ないし不法行為責任を追求したが︑判決は次のようにYの過失を否定した・
﹁(一)ラムネ水の性質︑ラムネびんの強度及び被告補助参加人方におけるラムネの製造過程に照らし・市場に出
ているラムネの破裂する可能性は︑内圧のみによる場合と内圧と外的衝撃が複合的に作川する場合とを問わず︑一般
に極めて小さいものと認められることは前記1で説示したとおりである︒
そ︑つであるならば︑ラム︑不の卸売業者としてぱ!右の劇うな事情を個頼U︑でラムネを小売業者に販売して差し支え
ないものと解すべく︑特段の事情のなき限り︑製造元からの購入にかかるラムネにつき一本一本検査をするなどして・
製 造 物 責 任 と労 働 災 警
破裂の可能性のあるものを発見し︑
ない︒ これを小売業者に販売しないようにする注意義務はないものといわなければなら
そして︑Yが製造元であり被告補助参加人から購入したラムネを卸売業者として訴外A会社に販売したものである
ことは前記認定のとおりであり︑また前記特段の事情については全く主張立証がないから︑本件破裂についてYに過
失があったと認めることはできないといわなければならない︒
(二)また︑本件破裂の主たる原因が︑内圧よりもむしろXが本件破裂にかかるラムネを取り扱った際の通常の程
度を超えた相当強度の外的衝撃にあると認めるべきことは前記2で説示したとおりであるところ・卸売業者として刷
特段の事情なき限り︑小売業者において右のような通常の程度を超えた外的衝撃をラムネびんに加えることまでf見
18y
して︑販売するラムネを取捨選択すべき注意義務はないというべきであり︑右特段の事情についても主張立証がないので︑このことからもYには本件ラムネびんの破裂について過失があったとは認めがたい・﹂
4指示上の欠陥
製品に内在する危険性や︑使用方法についての指示・警告に欠陥がある場合である︒
190
(1)責任肯定例⑰(ドーザ除雪作業事件)︑⑳(昇降機荷降作業中死亡事件)がこれにあたる︒
⑰判決は︑前述のように︑ドーザの設計上の過失を肯定するとともに︑次のように指示上の過失を認めた︒
﹁しかも︑同被告は︑その作成に係る一型ドーザの特長の一つとして除雪作業を掲げながら︑危険なため使用すべ
きでない場所として狭い場所︑足場の悪い所︑起伏の激しい場所とのみ表示し︑除雪の場合にひんぱんに生じること
のある足元の滑りやすい場所での使用が禁止されているのがユーザ1には判断し難い記載をしているのである︑L
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 (552)
⑳は・Aが倉庫内で㌔が製作販売した荷物運搬用の昇降機(商品名クマリフト)を用いて二階から降ろされてくる製
品の搬出作業に従事していたところ︑右クマリフトに上半身を挟まれ︑死亡した事件である︒Aの遺族が︑右クマリ
フトにはドアスイッチに触れると扉が閉まっていない状態でもリフトが作動する危険があるから︑ドアスイッチに触
れたり・改造を施してはならない旨の警告義務があるのに︑積にはこれを怠った過失があるとしてその不法行為責任
を追求したのに対して︑判決は次のように判示して責任を認めた︒
﹁まず積の責任について検討するに︑本件クマリフトのように︑その製口叩自体が危険物でなくても︑一般に製造業
者や販売業者などがその専門知識・経験に基づく合理的な判断によって製品の購入者などの利用者による不相当な使
用や誤用等により生命・身体等に対する重大な侵害が惹起される危険性を予見できる場合には︑利用者の知識.経験
からしてその危険性が明白であるなど︑当該製品の利用者がその危険性を具体的に認識していることが明らかでない
限り・製造業者らには︑製品の販売・納入に際し︑その利用者に対し︑製品の安全な使用方法を充分指示.説明する
ことは勿論のこと︑右のような危険性を喚起し︑不相当な使用や誤用等が行われないよう指示.警告して事故の発生
を未然に防止すべき注意義務があるといえるところ﹂︑積には指示・警告義務を怠った過失がある︒
(2)責任否定例③(病院浴室医師ガス中毒死事件)︑⑭(コンビット破裂事件)がこれにあたる︒
{553) 製 造 物 責 任 と労 働 災害
191
③は︑Xが経営する病院の浴室で同病院の非常勤の医師Aが入浴中に一酸化炭素中毒により死亡した事件である・
Xは右浴室に備え付けるガス風呂釜をXに売り渡すと共に︑設置工事をした砧が︑保安上必要な換気装置につきXが
充分説明をしなかった等の点で過失がある等としてその不法行為責任を追求した︒判決は次のように請求棄却・
﹁⁝⁝右事実に照らすと︑鳩が前記契約により既設の本件浴室に自らの手で完全な換気装置を設けることまでを請
け負ったものと認めることはできない︒
しかしながら他方︑都市ガスが︑その取扱いの如何によっては︑不完全燃焼による一酸化炭素中毒を含め︑事故発
生の危険性の高いものであることは経験則上明白なところであり︑ガス風昂釜の販売取付を業とする積会社としては︑
ガス風呂の販売取付にあたり︑換気装置の 部を注文者が自ら設置することにした場合であっても︑注文者において
設置すべき換気装置につき適切な助言を与えるなど︑ガス事故防止のための一定の注意義務を要求されていると解す
べきであり︑また注文者も︑業者に対しそれを期待するのが当然であって︑右義務は︑その違背が不法行為を構成す
べき業者としての社会的な注意義務であるにとどまらず︑販売取付契約に付随する契約上の義務(以下両者を合わせ﹃法
律上の義務﹄という︒)でもあると認むべきである︒﹂としつつ︑以下の点を考慮し︑積は︑﹁ガス風呂業者として要
求される最低限の法律上の義務を尽くしたと認めるべきである﹂として︑義務違反を否定・
すなわち︑積は浴室入口の扉には︑その上下にガラリーを設け︑かつ風呂を沸かしながら入浴することは避けるよ
うにと指示していたし︑ガス風呂に排気筒を設けることはガス供給会社である東京ガスにおいても指導されていず・
一般的でなかった︒また︑事故発生時までの六年半の間に特に危険があったとは認められない︒更に︑本件事故は換
気装備の不備のみに起因するわけではない(熱交換器部分に白粉が堆積し不完全燃焼を起こしやすくしていた・換気口に煤
が堆積し通気が悪かった等の浴室の保存管理の暇疵)︒
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 192 (554)
⑭は・ヱ会社の従業員Xがコンビットを用いて作業中に右コンビットが破裂し︑負傷した事件である︒Xはヱの安
全配慮義務違反による債務不履行責任とともに︑右コンビットの製造者である亀の不法行為責任を追求したところ︑
判決は次のように後者の請求を棄却した(使用者の責任は肯定)︒
﹁脇がコンビットの製造者であることは当事者間に争いがない︒ところで︑︽証拠略︾によるとコンビットはコンク
リートに釘を打ち込む機械であってその使用方法を誤ればコンビットの使用者ないしは周囲の人間を負傷させるおそ
れがあるものであることが認められる︒したがって︑コンビットを販売する商品として製造した脇としては︑コンビ
ット購入しこれを使用する者に対し︑コンビットの使用により負傷事故が生じることのないようその正しい使用方法
等について適確な指示説明ないしは情報提供をなすべき義務を負っていたというべきである︒⁝⁝
しかしながら︑︽証拠略︾によると︑コンビットは圧縮空気を動力源としてコンクリートに釘を打ち込む機械であっ
て・その使用時には火花が飛散することもあり︑その取扱説明書には動力源として圧縮空気を用いる旨及び使用時に
は火花が飛散することがあるので引火しやすいものや爆発しやすいものは遠ざけるべき旨の記載があること︑紘の従
業員は︑コンビットの購入者に対し︑その購入前にコンビットの説明をなし︑実際に使用してみせることが多いが︑
その際には︑コンプレッサーを持参するなどして圧縮空気を動力源として実演をしてみせていること︑前認定のとお
り積がコンビットを購入する前にも︑脇の従業員であるAが弘の営業所(春日工場)においてコンビットの取扱い説明
と実演を行ったが︑その際Aはコンプレッサーを持参して圧縮空気を動力源として実演を行っていること︑以上の事
実が認められ︑この事実に︑酸素が支燃性を有し︑空気中ではおだやかな燃焼にとどまるものも高濃度の酸素のもと
では激しく燃焼しときには爆発に至ることがあることが公知の事実であることを併せ考えると︑脇において︑コンビ
ットの購入者中に圧縮酸素をその動力源として用いる者が予知し得たか否か疑問がある︒したがって︑コンビットの
{555) 製造 物 責 任 と労働 災害
193
取扱説明書に圧縮酸素を動力源として使用してはならない旨の記載がないことおよび脇の従業員が右のコンビットの
実演の際に圧縮酸素を動力源として使用してはならない旨を教.下しばかったことのみをもってしては未だ乳が前記義
務を怠ったとは認めるに足りない︑﹁
5修理・改造業者の過失
製造さ堕た製造物に内在する欠陥ではなく︑それを修理・改造した者の過失によって欠陥が生じた事案をここに整
理しておく︒④待動車ブレーキ故障事件)︑および︑プレス機械の欠陥によって指を切断した二つの事件⑱︑⑳がこれ
にあたる︒いずれも責任を肯定している︒
まず︑④は︑積より庭石運搬用に改造した大型ダンプカーを購入した瓦が︑その荷台に庭石と長男Aを乗せて走行
中に︑ブレーキの故障により︑前方に故障のためBら三名が後押ししていた自動車に衝突し︑Aを死亡させ・Bらも
死傷させた事件である︒凶らは︑右事故原因は右ブレーキの欠陥によるものであるとして︑鳩の不法行為責任を追求
したのに対して︑判決はこれを次のように肯定した︒
﹁前記各認定事実によれば︑本件自動車の売買契約は︑砧において中占のダンプカーをモノレール付トラックに改
造し︑整備点検したうえ︑新規検査に合格したものを販売する方式であることが明らかであるが︑中占車は程度の差
こそあれ機械部旧⁝の消耗︑磨滅により性能低下の危険を内包しているものであることは公知の事実であり・ことに本
件自動車の場合には年式も古く︑過去においてテンションアームとブレーキホースとが接触したこともあり・また・
庭石等の運搬車として相当重罎の積載が当然にf定されていたのであるから︑かかる自動車を改造︑整備のうえ販売
する者としては︑いわゆる自動車工学﹂の設計の誤りに基づく自動車整備の専門家といえども通常発見しえない隠れ
た構造上の欠陥についてはともかく︑一般に自動車整備の専門家として点検可能な部分については充分調査・点検の
うえ・改造・整備を行い︑もって安全な運行を確保できる車両であることを確認して販売すべき注意義務があったも
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 794
(5ss)
のといわねばならない︒
⁝⁝そして・前記認定の事実によれば︑被告会社において右整備点検義務を完全に尽くしたものとはいいがたく︑
⁝⁝この点に過失があったものといわざるをえない︒﹂
⑱では︑プレス機械の修理業者積の責任を次のように肯定した︒
﹁さきに認定したように︑呂の修理担当者が︑装着した割ピンの先を曲げておいたなら︑本件事故は発生しなかっ
掴のであり︑その修理に過失があったことは否定できない︒
しかるところ・捻︑要使用者‑剤者注)において︑定期皇検査や毎日占積をしておれば︑その修理の暇疵を
除去できたとし・修理の蝦疵と本件事故の間に因果関係がないと主張するが︑明らかに修理の暇疵が本件事故の原因
をなしているのであるから︑独自の論として排斥を免れない︒
してみれば︑積としては︑民法七一五条の責任があるというべきである︒﹂
また︑⑳では︑中古のプレス機械の改造・販売業者Yの責任を次のように肯定した︒
﹁右の事実によれば︑Yは︑人身事故発生の危険性のある本件機械が製造元すら分からない中古品であって︑その
性能・強度特徴等を+分に掌握することができなかったのであるから︑本件機械を販売するに当たっては︑本件機
械の改造及び販売業者として︑人身事故発生の危険がある箇所を慎重に占穫し︑その可能性のある部︒叩を取り替えた
り・補強をするなどの整備をすべき注意義務があるのに︑漫然と本件機械に若干の手直しをしただけで訴外A会社に
納入し︑訴外A会社の従業員をして本件機械を操作せしめた過去があるというべきである︒
そうとすれば・Yは︑Xに対し︑本件機械の改造・販売業者として︑自ら民法七〇九条の責任を負わなければなら
鈎6なお
った︒ ない道理である︒﹂
︑事故原因においては︑Xにも︑漫然と上下盤の間に手を差し入れた過去があるとして︑六割の過失相殺を行
製造物責任 と労働災害
195
(二)使用者の責任
1被災労働者に対する使用者の責任
使用者が提供した労働器目パ・機械や施設に欠陥があったために労災事故が発生した場合には︑使用者の安全配慮義
務違反による債務不履行責任︑不法行為上の注意義務違反の過失による不法行為責任︑土地工作物責任等が問題とな
り得る︒
⑭判決においては︑被災労働者である原告の使用者である被告会社は︑﹁原告がコンビットの使用に際しては︑その
適切な使用方法を指示するなどその使用により原告が負傷することのないようその安全を配慮すべき契約上の義務を
有していた﹂とする︒
また︑⑰⑱判決では︑使用者においてその器具等により危険発生が予見可能である場合には︑被害発生を防止すべ
き注意義務が使用者︑ないしその元で管理責任を負う工場長等にあることを認めている︒とりわけ⑱においては︑本
件プレス機械が故障がちであったことが重視され︑次のように判示されている︑
﹁右認定事実によれば︑脇は︑取締役工場長として︑本件プレス機械を含む板金部門の万般につき専ら管理責任を
負う立場にあったところ︑⁝⁝一年以内ごとに一回の実施が義務づけられている検査業者による検査が一度も履行さ
れていなかったのであるから︑日常の右点検はそれなりに入念になされなければならなかったというべきである︒そ
僻P・看ミ川12ノξ許デ:第'?/巻 第2・34rナ 196 (558)
して・かかる観点からの入念な点検が実施されておれば︑割ピンの状況を把握でき︑本件事故の発生を未然に防止で
きたのに︑脇においてこれを解怠したといわなければならない︒したがって︑脇は︑本件事故により生じた損害を賠
償すべき責任がある︒﹂
製造物の欠陥について第一次的に責任を負うべきであるのは︑そのような欠陥ある製造物を流通させた製造者であ
ろう・そして︑使用者も製造物との関連で・弓えば︑消費者であるから︑当該製造物について必ずしも卑門的知識を有
するとは言えない︒上記の二裁判例では︑被告である使用者は自らの免責の根拠としてこぞってこれらの点を主張し
ている︑
⑰判決では︑使用者の不法行為上の過失の前提となる注意義務の判断枠組みとして︑次のように︑製造者が負う注
意義務よりは相対的に義務の程度が低い義務を措定している︒
由使用音は︑被用者に対し︑その使用を命ずる機械につき︑できる限り安全なものを選択すべき注意義務あるのは
もとより当然のことである,しかしながら︑一般に使用者は機械の製造者のように設計や構造︑装置︑性能等の決定
に携わるわけではないから︑使用する機械の安全性の追求︑確保に必要な高度に專門的な技術者を雇入れたり実験設
備等を設けることは期待できないU製造者が機械を製造︑ 販売するのに対し︑使用者は機械を購入︑使用するとい
う立場の差異に着目すれば側闇製造者ど剛程度のf見及び結果回避義務を要求することは相当でないというべき
である︒したがって︑使用者としては︑販売店に対して機械が仕様書のとおりの構造︑装置︑性能等を備えているこ
とを確認したうえで購入すれば足りるのであって︑設計ヒ︑構造上に問題があり事故が頻発していることを見聞して
いるとか︑他の製品と比較検討したり︑顧客用パンフレット︑取扱説明書及び販売店の係貝の説明など購入する際の
資料となるものの内容を検討することによって容易に設計L︑構造Lの問題点に気がついてしかるべき場合など︑高
EX59) 製 造 物 責 任 と労 働 災害
度の専門的知識を要せずに危険を予見しうるような特段の事情がある場合には過失を問われることとなるものと解さ
れる︒﹂
そのLでこのような危険性を弄見し得る特段の事情があったとして︑過失を認定している︒その際︑注意すべきは︑
製造者等からの指示や説明について使用者が重大な疑問を抱かず︑それを安易に鵜呑みにしているという点に過失が
求められていることである︒すなわち︑
﹁萬は︑購入すべきドーザとして一型ド!ザを選択した段階で︑歩行型小型ドーザによる除骨.作業が後進時のスリ
ップ︑転倒による危険を有していることを予想せず︑したがって一型ドーザが右の観点からの安全面に対する配慮が
なされているか否かの検討を全く怠り︑一型ドーザが他メーカーの製品と異なってグリップが取付けられていないこ
とに気づきながら︑そのことに疑問すら持たず︑前記のように顧客用パンフレット︑取扱説明書及び販売店の係員の
説明について一型ドーザの構造に重大な疑問を持ってしかるべき幾多の点があったにもかかわらず︑これにも気づか
ず︑脇がいわゆる有名メーカーであることで盲信し︑一型ドーザに安全クラッチやプロテクター等の安全装置が設置
されている旨の販売店の係貝の説明をその内容を吟味することなく鵜呑みにして一型ドーザが他メーカーの製品より
すぐれているとの判断の下に一型ドーザである本件ドーザを発注購入し︑これを本件給油所に設置してXら従業員に
その使用を命じたものである︒
したがって︑鳩には︑高度の専門知識がなくともグリップが取付けられていないことに由来する本件ドーザの危険
性を予見することができ︑又旨見すべきであったにもかかわらず︑これを怠り︑本件ドーザの構造上の問題点に何ら
97疑問を持つことなく︑本件ドーザを購入し︑その使用を命じた点に過失があるというべきである︒﹂1このことが意味するのは︑製造者に第一次的な責任が課されており︑使用者は専門的知識の点でそのr見義務の内
神 奈 川 法 学 第27巻 第2・3号 ∬98
容にも制約があるが︑しかし︑だからといって安易に使川者の注意義務が減じられるわけではないということである︑
なぜなら︑使用者自身も労働器具等の安全について使用者としての立場から固有の安全配慮義務を負っているからで
あろう︒
⑭判決では︑製造者である脇会社の従業員の説明を信じてコンビットの動力源として圧縮酸素を用いても安全であ
ると信じたのであり︑そう信ずることにつき過失がなかったという使用者の主張を否定し︑次のように述べているが︑
このこともこの判決が前提としてヒ記のような安全配慮義務を負っているからであろう︒
﹁しかし︑コンビットが本来は圧縮空気を動力源として使用する機械であり︑使用時には火花が飛散することがあ
り︑それらの旨が取扱説明書に記載されているという前認定の事実及び酸素の支燃性という公知の事実更には︽祉拠
略︾により認められる少なくとも萬の常務取締役でありXが勤務する春H工場の工場長として︑Xに本件事故現場の
作業を命じたAはコンビット使用時に火花が飛散することがあること及び酸素の危険性について知っていた事実︑以
上の事実のもとでは︑コンビットの取扱説明書に酸素の使用を禁止する旨の説明がなく︑コンビット製造者である地
の従業員が圧縮酸素を用いることが可能であると説明したとしても︑たやすくこの説明を信ずることなく更に地の確
認をとる等の安全確保のための手段を講ずべきであり︑それをただちに圧縮酸素を用いて安全と判断したことには過
失があったと言わざるをえない︒﹂
2使用者が請求主体の場合
(1)使用者11被災者型(α型)このタイプでは︑使用者自身が被災者であるので︑当然使用者の安全配慮義務
働違反責任の追求は問題となり得ない︒それが故に製造者等に責任を追求しているわけでもある︒ここでは︑使用者自価身も製造物等の欠陥について管理責任を負っていることが次のような問題として現れている︒