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分業と製造物責任(一) : 日独の比較

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(1)

分業と製造物責任(一) : 日独の比較

著者名(日) 鈴木  美弥子

雑誌名 山梨学院大学法学論集

巻 46

ページ 57‑82

発行年 2000‑11‑25

URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000848/

(2)

論 説

分業と製造物責任

     日独の比較 ︵一︶

鈴木美弥子

57分業と製造物責任(一)

 目   次

一 はじめに

ニ ドイツにおける分業に関する責任

e 過失による製造物責任  ①垂直的分業

  ①完成品製造者の責任︵以上本号︶

  ②部品・原材料製造者の責任

  ⑭水平的分業

  ⑬混合形態

  ㈲ ライセンス生産

 口 製造物責任法による責任

5 7   分業と製造物責任(ー)

論 説

分業と製造物責任(二

‑ i

日独の比較││

目 次 一 は じ め に ニドイツにおける分業に関する責任 付 過 失 に よ る 製 造 物 責 任

ω 垂直的分業

①完成品製造者の責任(以上本号)

②部品・原材料製造者の責任 ω

水平的分業

ω 混合形態 ω ライセンス生産 ω 製造物責任法による責任

鈴 木

美弥子

(3)

法学論集 46〔山梨学院大学〕58

三 四

日本における分業に関する責任

まとめと展望

はじめに

 現代において︑製品が最終購買者︵消費者︶の手に届くまでには︑何段階もの製造︑販売の経路を経るのが一般

的である︒一人の者︵事業者︶が製品全体を製造することはまれであり︑通常︑完成品製造者は個々の部品を他の

製造者から調達する︒また︑最終購買者は直接的に完成品製造者から製造物を入手することはほとんどなく︑製品

は卸売業者︑さらに︑個々の小売業者を通じて最終購買者にもとに届く︒本稿は︑その製造と販売に多くの者が関

与する︑欠陥ある製造物に対する責任のうち︑製造において分業が行われる場面に関するものを扱いたいと思う︒       ︵1︶  従来からの不法行為にもとづく過失による製造物責任において︑責任の危険は︑予見可能で計算可能なものとし

て︑さらに︑負担可能であるよう形成すべきであるとされるが︑製造の分業という事実︑および︑分業の様々な内

容は︑責任を規定する際の利益衡量をより複雑にする︒製品の製造の連鎖のなかで誰に責任があるのか︑すなわ

ち︑最終購買者は︑完成品製造者がいずれにしても責任を負うと期待してよいのか︑あるいは︑他の︵部品など

の︶製造者が責任を負うのか︑また︑これらのいずれの製造者も責任を負うことになるのか問題となる︒

 ドイツでは︑従来から︑垂直的分業︑水平的分業をはじめ︑分業における共働形態により区別し︑分業に関与す       ︵2︶ る者の責任が考察されてきた︒この製造の分業に関与する者の責任は︑おのおのの支配領域における責任から出発

5 8  

四 三

日本における分業に関する責任

ま と

め と

展 望

46 (山梨学院大学〕

はじめに

現代において︑製品が最終購買者(消費者) の手に届くまでには︑何段階もの製造︑販売の経路を経るのが一般

法学論集

的 で

あ る

一人の者(事業者)が製品全体を製造することはまれであり︑通常︑完成品製造者は個々の部品を他の

製造者から調達する︒また︑最終購買者は直接的に完成品製造者から製造物を入手することはほとんどなく︑製品

は 卸

売 業

者 ︑

さらに︑個々の小売業者を通じて最終購買者にもとに届く︒本稿は︑ その製造と販売に多くの者が関

与する︑欠陥ある製造物に対する責任のうち︑製造において分業が行われる場面に関するものを扱いたいと思う︒

従来からの不法行為にもとづく過失による製造物責任において︑責任の危険は︑予見可能で計算可能なものとし

て︑さらに︑負担可能であるよう形成すべきであるとされるが︑製造の分業という事実︑ および︑分業の様々な内

容は︑責任を規定する際の利益衡量をより複雑にする︒製品の製造の連鎖のなかで誰に責任があるのか︑すなわ

ち︑最終購買者は︑完成品製造者がいずれにしても責任を負うと期待してよいのか︑あるいは︑他の

( 部

品 な

の)製造者が責任を負うのか︑ また︑これらのいずれの製造者も責任を負うことになるのか問題となる︒

ドイツでは︑従来から︑垂直的分業︑水平的分業をはじめ︑分業における共働形態により区別し︑分業に関与す

る者の責任が考察されてきた︒この製造の分業に関与する者の責任は︑おのおのの支配領域における責任から出発

(4)

59分業と製造物責任(一)

することになるが︑完成品製造者︵共働形態により作業委託者等︶には︑自己の領域を超えて︑他人の製造物︑分       ︵3︶ 業行為について広範な安全確保義務︑コントロール義務が認められている︒とはいえ︑分業の多様性︑多重性から

は︑分業関与者の責任を最終的に明確に規定する単純な準則は見られないが︑分業を行うという意義からすれば︑

完成品製造者等が無条件に責任を負うことはない一方で︑完成品製造者等が分業に関与する者に対し不適切な関与       ハ レ しかなさないのであれば責任を免れるわけではない︒これに関し︑場合を分けて判例︑学説を見ていく︒

 一九九〇年代に︑本稿で検討の対象とするドイツ︑日本において︑過失ではなく︑欠陥を責任要件とする製造物

責任法が施行され︑分業が行われる場合の責任については条文が設けられ︑一定の解決を見ている︵日本において       ︵5︶ 二条一項︑三条︑四条二号︑ドイツにおいて一条三項︑四条一項︶︒製造物責任法は︑製造物が流通に置かれた時

点での欠陥が問題とされること︵日本において二条二項︑ドイツにおいて三条一項︵c︶︶︑また︑対象となる製造       ︵6︶ 物の範囲︵日本において二条一項︑ドイツにおいて二条︶などで︑その適用の制限は残るものの︑製造物責任法の

施行により︑過失を要件とする不法行為による製造物責任に関する検討の意義は非常に低下するようにも一見考え

られるが︑ドイツの製造物責任法では慰謝料をカバーしないため︵七条︑八条︶︑慰謝料を請求する場合には過失       パクマ にもとづく製造物責任に拠らざるえない︵一五条二項︑民法八四七条︶︒また︑日本では︑慰謝料についても製造        ︵8︶ 物責任法により賠償される範囲に含まれ︑この点でドイツとは事情が異なることになるが︑ドイツでは︑またさら

に︑過失による製造物責任にせよ︑製造物責任法によるにせよ︑分業に関与する者が複数︑責任を負う場合におけ

る内部的な求償関係を定める際の基準として︑これらの者の過失︵違反した場合に不法行為責任が生ずることにな       ︵9︶ るこれらの者に課される義務︶が損害惹起にどの程度関与するのかが考慮されうるので︑このような観点からの議 することになるが︑完成品製造者(共働形態により作業委託者等) 業行為について広範な安全確保義務︑ には︑自己の領域を超えて︑他人の製造物︑分

コントロール義務が認められている︒とはいえ︑分業の多様性︑多重性から

は︑分業関与者の責任を最終的に明確に規定する単純な準則は見られないが︑分業を行うという意義からすれば︑

完成品製造者等が無条件に責任を負うことはない一方で︑完成品製造者等が分業に関与する者に対し不適切な関与

しかなさないのであれば責任を免れるわけではない︒これに関し︑場合を分けて判例︑学説を見ていく︒

一 九

0 九 年代に︑本稿で検討の対象とするドイツ︑日本において︑過失ではなく︑欠陥を責任要件とする製造物

責任法が施行され︑分業が行われる場合の責任については条文が設けられ︑

四条一項)︒製造物責任法は︑製造物が流通に置かれた時 一定の解決を見ている

( 日

本 に

お い

二 条

一 項

︑ 三

条 ︑

四条二号︑ドイツにおいて一条三項︑

点での欠陥が問題とされること(日本において二条二項︑ドイツにおいて三条一項

( C ) )

︑また︑対象となる製造

ドイツにおいて二条)などで︑その適用の制限は残るものの︑製造物責任法の 物の範囲(日本において二条一項︑

施行により︑過失を要件とする不法行為による製造物責任に関する検討の意義は非常に低下するようにも一見考え

5 9   分業と製造物責任(ー)

られるが︑ドイツの製造物責任法では慰謝料をカバーしないため(七条︑八条)︑慰謝料を請求する場合には過失

(一五条二項︑民法八四 ι 叙)︒また︑日本では︑慰謝料についても製造 にもとづく製造物責任に拠らざるえない

( 8)  

物責任法により賠償される範囲に含まれ︑この点でドイツとは事情が異なることになるが︑ドイツでは︑またさら

に︑過失による製造物責任にせよ︑製造物責任法によるにせよ︑分業に関与する者が複数︑責任を負う場合におけ

る内部的な求償関係を定める際の基準として︑これらの者の過失(違反した場合に不法行為責任が生ずることにな

るこれらの者に‑課される義務)が損害惹起にどの程度関与するのかが考慮されうるので︑このような観点からの議

(5)

法学論集 46〔山梨学院大学〕 60

      ︵10︶ 論は日本法においても同様に検討の余地があるといえる︒したがって︑︵主として︶外部的な︵被害者に対する︶

責任から︑内部的な責任︵求償︶の場面へと分業に関与する者の義務が検討される場面は移れども︑過失による製

造物責任の議論の意昧は現在でも存続するといえよう︒

ニ ドイツにおける分業に関する責任

 e 過失による製造物責任

 商品製造にあたっての分業は︑科学技術の発展と経営上の観点から︑近年より細分化され︑多様化しているとい

える︒製造物責任を検討するにあたっては︑製造過程に関与する者がどの程度︑自己のものであれ︑他の者のもの

であれ︑欠陥にどの程度関与するのかが重要となるが︑これは︑最終的には︑分業において各自の果たす任務︑お       ︵U︶ よび︑個々の事情にもとづき判断されることになる︒しかしながら︑古典的な共働モデルについての典型的な義務

の射程に関して︑その輪郭というものは存在する︒以下では︑垂直的分業︑水平的分業︑その混合形態︑ライセン

ス生産というドイツにおいて一般に類型化されているといいうる代表的な共働モデルに従い︑分業に関与する者の

義務の範囲を検討していきたい︒

 ω垂直的分業

 完成品製造者は︑製造に必要な材料を通常は自身ですべて有していないため︑原料︑中間製品︵圧延鋼板など︶︑

単純な構成部品︵ボルト︑接着剤など︶︑複合的な構成部品︵計測器︑モーターなど︶を供給者から調達すること

6 0  

論は日本法においても同様に検討の余地があるといた却︒したがって︑(主として)外部的な(被害者に対する)

46 (山梨学院大学〕

責任から︑内部的な責任(求償) の場面へと分業に関与する者の義務が検討される場面は移れども︑過失による製

造物責任の議論の意味は現在でも存続するといえよう︒

ドイツにおける分業に関する責任

法学論集

過失による製造物責任

商品製造にあたっての分業は︑科学技術の発展と経営上の観点から︑近年より細分化され︑多様化しているとい

える︒製造物責任を検討するにあたっては︑製造過程に関与する者がどの程度︑自己のものであれ︑他の者のもの

であれ︑欠陥にどの程度関与するのかが重要となるが︑これは︑最終的には︑分業において各自の果たす任務︑お

よび︑個々の事情にもとづき判断されることになる︒しかしながら︑古典的な共働モデルについての典型的な義務

の射程に関して︑その輪郭というものは存在する︒以下では︑垂直的分業︑水平的分業︑その混合形態︑ライセン

ス生産というドイツにおいて一般に類型化されているといいうる代表的な共働モデルに従い︑分業に関与する者の

義務の範囲を検討していきたい︒ ω 垂直的分業

完成品製造者は︑製造に必要な材料を通常は自身ですべて有していないため︑原料︑中間製品(圧延鋼板などて

単純な構成部品(ボルト︑接着剤などて複合的な構成部品(計測器︑ モーターなど)を供給者から調達すること

(6)

61分業と製造物責任(一)

になる︒この場合︑完成品製造者はアセンブラーと呼ばれ︑供給者との間に垂直的分業が存在するとされる︒大量

の納入の予定がある場合には︑完成品製造者と供給者の間では︑製造物の性状について調整が行われ︑さらに︑委

託製造の場合にはまさに完成品にあわせて製造がなされる︒ただし︑垂直的分業においては︑一般的には︑供給製       ︵1

2︶

品の設計と製造は供給者により行なわれることが前提となる︒

 垂直的分業の場合に︑関与した者は完成品の危険全体に対して責任を負うわけではなく︑その責任はむしろおの

おのの任務の範囲に限定される︑あるいは︑限定可能であるとするのを原則とするのが一般的な見解である︒供給

者については︑納入後は︑納入した製品︑および︑納入した製品のアセンブラーによる使用に対しての働きかけは

失われ︑また︑アセンブラーは納入された製品を製造しているわけではない︒とはいえ︑以上の原則論から出発し

つつも︑完成品製造者は︑自己が流通に置く完成品全体を対象として︑分業という事情により減ぜられる義務の範

囲に限定されつつも︑自己の領域を超えて責任があり︑他人の製造物たる部品︑製品の構成要素となるものに関し       パむレ て広範な安全確保義務︑コントロール義務が認められている︒

 ①完成品製造者の責任

 製造者の義務は︑製造者としての本来的な任務の領域に関する義務と︑分業における他の製造者の製品に関連す

る︑いわば本来的な任務の領域から拡張したともいえる義務に区別される︒

 ⑥ 本来の任務領域における︵完成品そのものに関する︶義務

 完成品製造者の製造者としての本来的な義務は︑完成品に使用する製品を他の製造者から供給をうける︵調達す

る︶という事情により︑影響されない︑あるいは︑修正をうけるにすぎない︒この領域では︑アセンブラーは︑原 になる︒この場合︑完成品製造者はアセンブラ l と呼ばれ︑供給者との聞に垂直的分業が存在するとされる︒大量

の納入の予定がある場合には︑完成品製造者と供給者の間では︑製造物の性状について調整が行われ︑ さらに︑委

託製造の場合にはまさに完成品にあわせて製造がなされる︒ただし︑垂直的分業においては︑

品の設計と製造は供給者により行なわれることが前提となる︒ 一般的には︑供給製

垂直的分業の場合に︑関与した者は完成品の危険全体に対して責任を負うわけではなく︑ その責任はむしろおの

おのの任務の範囲に限定される︑あるいは︑限定可能であるとするのを原則とするのが一般的な見解である︒供給

者については︑納入後は︑納入した製品︑ および︑納入した製品のアセンブラーによる使用に対しての働きかけは

失 わ

れ ︑

アセンブラ l は納入された製品を製造しているわけではない︒とはいえ︑以上の原則論から出発し

ま た

つつも︑完成品製造者は︑自己が流通に置く完成品全体を対象として︑分業という事情により減ぜられる義務の範

囲に限定されつつも︑自己の領域を超えて責任があり︑他人の製造物たる部品︑製品の構成要素となるものに関し

コントロール義務が認められている︒ て広範な安全確保義務︑

分業と製造物責任(ー)

① 

完成品製造者の責任

製造者の義務は︑製造者としての本来的な任務の領域に関する義務と︑分業における他の製造者の製品に関連す

る︑いわば本来的な任務の領域から拡張したともいえる義務に区別される︒

( a )  

本来の任務領域における(完成品そのものに関する)義務

完成品製造者の製造者としての本来的な義務は︑完成品に使用する製品を他の製造者から供給をうける(調達す

6 1  

る)という事情により︑影響されない︑あるいは︑修正をうけるにすぎない︒この領域では︑ アセンブラ i は︑原

(7)

法学論集 46〔山梨学院大学〕62

      ︵1

4︶

則として︑製造の分業という事情とは無関係に責任が定められるといえる︒

 アセンブラーは︑自己の責任としての設計に関する義務の範囲として︑自身が製造しない他の製造者から供給を

受ける部品が︑素材と耐久性の点で︑完成品において満たすべき機能が果たしうるよう配慮しなければならないと

いえる︒そのために︑アセンブラーは︑供給者が供給者の領域でなす供給部品の設計に対して︑影響を及ぼすこと

ができるが︑この場合︑アセンブラーの任務としては︑供給製品について適切な仕様を提示することになる︒これ

についてアセンブラーは︑供給製品が安全性にかかわる毅疵を呈しないよう︑材質︑寸法︑重量︑負荷性︑耐熱性

等を詳細に文章で提示するか︑あるいは︑使用目的を提示しなければならない︒後者による場合︑アセンブラーは

供給者に対して製造物のコンセプトについてできるだけ包括的な情報提供をなすべきであり︑その際︑例えば︑ア

センブラーは設計プランを提示し︑場合によっては︑他の構成部品についてのテスト見本を提供し︑また︑分業関

与者すべてについて︑鋳型︑計測データ︑検査報告書といった資料を交換しなければならない︒アセンブラーが企

業秘密を理由として拒否するならば︑その代替として︑専門知識のある従業員の派遣や︑その他別の形で周到な指

示を行うなどして︑供給者の認識不足を解消しなければならない︒

 個々の場合に︑供給部品に予期しない技術上の問題が生ずる︑あるいは︑いずれにしても供給者が品質の要件を

遵守しえない場合には︑アセンブラーの指示にもとづく供給部品の設計に問題が生ずることがありうる︒これによ

り︑供給者の任務の履行がつねに否定されるわけではなく︑供給者は︑特にささいな逸脱の場合︑その問題をアセ

ンブラーに伝え︑それと同時に︑供給部品の弱点を調整するには例えば全体の設計についていかなる変更が必要か

指示を与えることが可能な場合も少なくない︒供給者は︑自己の製品に取扱い︑組立て︑加工の指示を添付するこ

6 2  

則として︑製造の分業という事情とは無関係に責任が定められるといえる︒

46 (山梨学院大学)

アセンブラ 1 は︑自己の責任としての設計に関する義務の範囲として︑自身が製造しない他の製造者から供給を

受ける部品が︑素材と耐久性の点で︑完成品において満たすべき機能が果たしうるよう配慮しなければならないと

いえる︒そのために︑ アセンブラ l は︑供給者が供給者の領域でなす供給部品の設計に対して︑影響を及ぼすこと

ができるが︑この場合︑ アセンブラ l の任務としては︑供給製品について適切な仕様を提示することになる︒これ

についてアセンブラ l は︑供給製品が安全性にかかわる穣庇を呈しないよう︑材質︑寸法︑重量︑負荷性︑耐熱性

法学論集

等を詳細に文章で提示するか︑あるいは︑使用目的を提示しなげればならない︒後者による場合︑ アセンブラ 1 は

供給者に対して製造物のコンセプトについてできるだげ包括的な情報提供をなすべきであり︑

そ の

際 ︑

例 え

ば ︑

センプラ l は設計プランを提示し︑場合によっては︑他の構成部品についてのテスト見本を提供し︑ また︑分業関

与者すべてについて︑鋳型︑計測デ l 夕︑検査報告書といった資料を交換しなければならない︒アセンブラ l

が 企

業秘密を理由として拒否するならば︑ その代替として︑専門知識のある従業員の派遣や︑ その他別の形で周到な指

示を行うなどして︑供給者の認識不足を解消しなければならない︒

個々の場合に︑供給部品に予期しない技術上の問題が生ずる︑あるいは︑ いずれにしても供給者が品質の要件を

遵守しえない場合には︑ アセンブラ l の指示にもとづく供給部品の設計に問題が生ずることがありうる︒これによ

り︑供給者の任務の履行がつねに否定されるわけではなく︑供給者は︑特にささいな逸脱の場合︑ その問題をアセ

ン プ

l

に 伝

え ︑

それと同時に︑供給部品の弱点を調整するには例えば全体の設計についていかなる変更が必要か

指示を与えることが可能な場合も少なくない︒供給者は︑自己の製品に取扱い︑組立て︑加工の指示を添付するこ

(8)

63分業と製造物責任(一)

とが多いが︑アセンブラーは供給者のそのような指示を無条件に尊重すべきであり︑また︑全体の設計の変更が考        ︵15︶ えられる限り︑検討すべきであり︑これを怠れば設計上の欠陥となる︒

 完成品製造者は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならない︒製造の領域におい

て︑製造者は︑規格に適合した素材の選択の義務がある︒これは︑原料だけではなく︑一般的には供給部品にも妥

当する︒完成品製造者の指示に従って製造されていない供給部品については︑設計の結果︑必要とされる︑その一

般的な適性を完成品製造者は調査しなければならない︒この供給製品の規格調査は︑最新の科学技術水準に従い行

わねばならない︒それは︑例えぱ︑素材の品質︑適合性︑設計の耐久性︑温度変化の感受性︑そして︑製品の機能

不全が危険にいたりうる場合の使用上の安全性にまで及ぶ︒

 ただし︑完成品製造者の完成品についての本来の義務ということでは︑アセンブラーは︑自己が選択した他の者

が製造した部品がその性質により︑すなわち︑完成品に組み込まれることにより危険を惹起しないよう配慮しなけ

ればならないにすぎないことから︑アセンブラーがなさねばならない調査はさしあたり設計の蝦疵に限定される︒

しかし︑完成品製造者は︑供給された部品について追加的に配慮しなければならない場合︵以下の⑥供給製品につ        ︵16︶ いての義務の領域において︶には︑製造に関する質についても責任がありうる︒

 また︑分業とは無関係に当然のこととして︑供給された部品を科学技術水準にしたがい加工するアセンブラーの       パロマ 義務が存在する︒この本来的な製造義務は︑最終製造と完成品の品質コントロールを含む︒

 アセンブラーは︑少なくとも危険の指示について十分な知識を有する場合には︑供給された製品を原因とする危

険に対しても警告しなければならない︒供給された製品が︑それ自体︑あるいは完成品に組み込まれたことにより とが多いが︑アセンブラ l は供給者のそのような指示を無条件に尊重すべきであり︑また︑全体の設計の変更が考

えられる限り︑検討すべきであり︑これを怠れば設計上の欠陥となる︒

完成品製造者は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならない︒製造の領域におい

て︑製造者は︑規格に適合した素材の選択の義務がある︒これは︑原料だけではなく︑ 一般的には供給部品にも妥

当する︒完成品製造者の指示に従って製造されていない供給部品については︑設計の結果︑必要とされる︑その一

般的な適性を完成品製造者は調査しなければならない︒この供給製品の規格調査は︑最新の科学技術水準に従い行

わねばならない︒それは︑例えば︑素材の品質︑適合性︑設計の耐久性︑温度変化の感受性︑そして︑製品の機能

不全が危険にいたりうる場合の使用上の安全性にまで及ぶ︒

ただし︑完成品製造者の完成品についての本来の義務ということでは︑ アセンブラ l は︑自己が選択した他の者

が製造した部品がその性質により︑すなわち︑完成品に組み込まれることにより危険を惹起しないよう配慮しなげ

ればならないにすぎないことから︑ アセンブラーがなさねばならない調査はさしあたり設計の暇庇に限定される︒

分業と製造物責任(ー)

しかし︑完成品製造者は︑供給された部品について追加的に配慮しなければならない場合(以下の制供給製品につ

には︑製造に関する質についても責任がありうる︒ いての義務の領域において)

また︑分業とは無関係に当然のこととして︑供給された部品を科学技術水準にしたがい加工するアセンブラ 1 の

義務が存在する︒この本来的な製造義務は︑最終製造と完成品の品質コントロールを含む︒

アセンブラ 1 は︑少なくとも危険の指示について十分な知識を有する場合には︑供給された製品を原因とする危

6 3  

険に対しても警告しなければならない︒供給された製品が︑ それ自体︑あるいは完成品に組み込まれたことにより

(9)

法学論集 46〔山梨学院大学〕64

危険であることが判明した場合︑危険の指示についての知識が供給者によりアセンブラーに提供される︒さらに︑

アセンブラーは︑すでに供給された部品に添付され︑完成品にとっても重要であると認められる使用上の指示︑警

告の指示を消費者に転送する義務がある︒それに対して︑完成品製造者に供給製品に対する一般的な観察義務があ

るのは︑完成品製造者が㈲供給製品についての義務の領域でこの製品に対しても責任を負う場合である︒しかしな

がら︑完成品についての義務に従った観察を契機として︑供給部品の安全性の欠如の手掛かりが生じた場合には︑

いずれにしても︑アセンブラーは第一に介入しなければならず︑供給者に報告することになる︒ただし︑供給者が

十分な観察と検査の設備を有しない︑あるいは︑それが不可能であるならば︑完成品製造者は︑自身で一定の程度       ︵18︶ これについて配慮しなければならない︒

 欠陥の疑いのある商品のリコールについての社会生活上の義務は︑例外的にのみ存在し︑公衆の保護︑すなわ

ち︑最終消費者や使用者とは一致しないものの保護のためのものでもある︒しかし︑リコールについては︑アセン

ブラーは︑製品の欠陥がその責任領域にあるとされるときに義務が認められる︒完成品製造者の責任領域の義務違

反はいずれも︑リコールのその他の要件が存在する際には︑製品の欠陥の原因が供給された部品にある場合でさ

え︑リコール義務を生じさせる︒それに対して︑これを超えた︑供給された部品に欠陥がある場合の一般的なリコ

ール義務は正当化されない︒なるほど︑完成品製造者は︑㈲供給製品についての義務の領域で供給部品に責任があ

る場合に︵も︶︑それに関する義務違反によりリコールの義務を負う︒この場合︑完成品製造者は︑供給者ととも

にしばしば責任を負う︒しかし︑アセンブラーが︑供給部品の安全性に対する責任を免れるならば︑必要なリコー

ル行為についても責任を免れる︒この場合︑警告と異なり︑義務違反が欠如している以上︑リコール行為について

6 4  

危険であることが判明した場合︑危険の指示についての知識が供給者によりアセンブラ l に提供される︒さらに︑

46 (山梨学院大学〕

アセンブラ l は︑すでに供給された部品に添付され︑完成品にとっても重要であると認められる使用上の指示︑警

告の指示を消費者に転送する義務がある︒それに対して︑完成品製造者に供給製品に対する一般的な観察義務があ

るのは︑完成品製造者が ω 供給製品についての義務の領域でこの製品に対しても責任を負う場合である︒しかしな

がら︑完成品についての義務に従った観察を契機として︑供給部品の安全性の欠如の手掛かりが生じた場合には︑

い ず

れ に

し て

も ︑

アセンブラ 1 は第一に介入しなければならず︑供給者に報告することになる︒ただし︑供給者が

法学論集

十分な観察と検査の設備を有しない︑あるいは︑それが不可能であるならば︑完成品製造者は︑自身で一定の程度

これについて配慮しなければならない︒

欠陥の疑いのある商品のリコールについての社会生活上の義務は︑例外的にのみ存在し︑公衆の保護︑すなわ

ち︑最終消費者や使用者とは一致しないものの保護のためのものでもある︒しかし︑リコールについては︑

ア セ

プラ l は︑製品の欠陥がその責任領域にあるとされるときに義務が認められる︒完成品製造者の責任領域の義務違

反はいずれも︑リコールのその他の要件が存在する際には︑製品の欠陥の原因が供給された部品にある場合でさ

え︑リコール義務を生じさせる︒それに対して︑これを超えた︑供給された部品に欠陥がある場合の一般的なリコ

ール義務は正当化されない︒なるほど︑完成品製造者は︑ ω 供給製品についての義務の領域で供給部品に責任があ

る場合に (も)︑それに関する義務違反によりリコールの義務を負う︒この場合︑完成品製造者は︑供給者ととも

にしばしば責任を負う︒しかし︑ アセンブラ 1 が︑供給部品の安全性に対する責任を免れるならば︑必要なリコー

ル行為についても責任を免れる︒この場合︑警告と異なり︑義務違反が欠如している以上︑リコール行為について

(10)

65分業と製造物責任(一)

は期待可能としえないからである︒とはいえ︑完成品製造者には供給者のリコール活動への協力は期待可能であ

り︑したがって︑リコールにあたっての措置が有効に行われないのであれば︑完成品製造者には供給者のリコール

活動に協力する不法行為上の義務がある︒また︑事情によっては︑欠陥の原因︑欠陥の責任について十分解明され

ていない段階でリコールが期待可能である︒しかし︑この義務は供給者が動かない場合にはじめて生じ︑コストの

問題︵保険による填補の可能性︶が考慮されることになる︒しかし︑その責任が明確になれば︑この義務は︑第一        ︵19︶ に完成品製造者の義務となる︒

 ㈲ 供給された製品についての義務

 供給された部品︑原材料に問題がある場合の完成品製造者の責任について︑特に︑供給された製品に関する義務

の判断に触れる主要な判決を検討したのち︑責任の枠組みを整理したい︒

 ﹇コンデンサー容器︵国o巳①霧8鳳︶事件﹈

 蒸気洗浄装置を有する原告の会社が︑加熱設備の改造に際して被告からコンデンサーを購入し︑取り付けた︒そ

の三ヵ月後コンデンサーの容器が壊れ︑鋳鉄製カバーの破片が飛び出した︒噴出した蒸気と熱湯により︑機械のす

べり弁の操作をしていた原告は重症を負った︒内壁の強度が平均六〜六・五ミリのカバーが︑フラン軸のわたりの

近くの破裂個所では一・九ミリの強度しかなかった︒コンデンサーの製造者は被告の子会社の丁社であり︑被告の

人的責任社員であるエンジニアGは同時に丁社の社員で幹部である︒丁社は鋳造カバーをF鋳造所から購入した︒

 ︿判旨V 他の者が製造した機器の販売業を営む企業が︑売却する対象物について危険をもたらす欠陥を伴ってい

ないのかその時々に検査しなかった場合に︑有責非難を受けるのかは自明ではない︒製造者により製造された部分 は期待可能としえないからである︒とはいえ︑完成品製造者には供給者のリコール活動への協力は期待可能であ り︑したがって︑リコールにあたっての措置が有効に行われないのであれば︑完成品製造者には供給者のリコール 活動に協力する不法行為上の義務がある︒また︑事情によっては︑欠陥の原因︑欠陥の責任について十分解明され ていない段階でリコールが期待可能である︒しかし︑この義務は供給者が動かない場合にはじめて生じ︑ コストの

問題(保険による填補の可能性)が考慮されることになる︒しかし︑

に完成品製造者の義務となる︒ その責任が明確になれば︑この義務は︑第一

( b )  

供給された製品についての義務

供給された部品︑原材料に問題がある場合の完成品製造者の責任について︑特に︑供給された製品に関する義務

の判断に触れる主要な判決を検討したのち︑責任の枠組みを整理したい︒

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蒸気洗浄装置を有する原告の会社が︑加熱設備の改造に際して被告からコンデンサーを購入し︑取り付けた︒そ

分業と製造物責任(ー)

の三ヵ月後コンデンサーの容器が壊れ︑鋳鉄製カパ l の破片が飛び出した︒噴出した蒸気と熱湯により︑機械のす

べり弁の操作をしていた原告は重症を負った

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内壁の強度が平均六 1 六・五ミリのカバーが︑ フラン軸のわたりの

近くの破裂個所では一・九ミリの強度しかなかった︒ コンデンサーの製造者は被告の子会社の T 社であり︑被告の

人的責任社員であるエンジニア G は同時に T 社の社員で幹部である︒ T 社は鋳造カバーを F 鋳造所から購入した︒

︿ 判

旨 ﹀

他の者が製造した機器の販売業を営む企業が︑売却する対象物について危険をもたらす欠陥を伴ってい

6 5  

ないのかその時々に検査しなかった場合に︑有責非難を受けるのかは自明ではない︒製造者により製造された部分

(11)

法学論集 46〔山梨学院大学〕66

が危険のない性質であることを検査することは︑第一には製造者の問題である︒製造の結果他の者に危険をもたら

しうる部品を製造所から出してはならないことに対して十分な注意によるコントロールを通じて配慮しない場合に

は︑通常は過失が認められる︒他人の製造物を販売するにすぎない者は︑特別な根拠によりそのような検査の契機

が存在する︑あるいは︑事件の事情により少なくとも検査が考えられる場合に限り︑販売の前にその部品が欠陥な

き性質であることを検査しないことを理由に︑契約によらない過失の非難を通常受けうる︒

 完成部品としてコンデンサーの容器はF鋳造所により供給されたが︑もっとも︑この場合︑いずれにしても︑容

器が検査されないままにはしてはならないという義務が丁社について存立する︒なるほど︑丁社には︑鋳造所とし

てF社がその特別な事業の経験および設備により行わねばならない検査を繰り返す︑あるいは繰り返させる義務が

あるとは直ちには考えられない︒しかし︑丁社はコンデンサーの容器を使用したコンデンサーの製造者であるの

で︑製造者の義務を負う︒製造者として︑丁社は︑欠陥なき性質を確信し得ない構成部品を使用してはならず︑検

査の必要性は︑丁社により製造されたコンデンサーがその製造の後コンデンサーの容器とともに︑その規格の適合

性と使用上の安全について検査されねばならないことによってすでに存在する︒

 必要な検査がTの事業において行われず︑被告自身が行わねばならない場合に︑検査義務について被告と子会社

丁が同一視されることが正当化されるのは︑丁社の幹部と被告の人的責任社員が同一であることを被告が明確に認        ︵20︶ 識している限りでである︒︵以下では︑丁社で行われた検査が十分であったかが問題にされた︶︒

 ﹇リフトケージ︵男α乱①詩o吾︶事件﹈

 原告は︑X鉱山での一九六四年一二月の昇降事故で死亡した三人の鉱夫の遺族に社会保険給付をなし︑遺族の損

6 6  

が危険のない性質であることを検査することは︑第一には製造者の問題である︒製造の結果他の者に危険をもたら

46  (山梨学院大学〕

しうる部品を製造所から出してはならないことに対して十分な注意によるコントロールを通じて配慮しない場合に

は︑通常は過失が認められる︒他人の製造物を販売するにすぎない者は︑特別な根拠によりそのような検査の契機

が存在する︑あるいは︑事件の事情により少なくとも検査が考えられる場合に限り︑販売の前にその部品が欠陥な

き性質であることを検査しないことを理由に︑契約によらない過失の非難を通常受けうる︒

完成部品としてコンデンサーの容器は F 鋳造所により供給されたが︑もっとも︑この場合︑ いずれにしても︑容

法学論集

器が検査されないままにはしてはならないという義務が T 社について存立する︒なるほど︑ T 社には︑鋳造所とし

て F 社がその特別な事業の経験および設備により行わねばならない検査を繰り返す︑あるいは繰り返させる義務が

あるとは直ちには考えられない︒しかし︑ T 社はコンデンサーの容器を使用したコンデンサーの製造者であるの

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査 の

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性と使用上の安全について検査されねばならないことによってすでに存在する︒

必要な検査が T の事業において行われず︑被告白身が行わねばならない場合に︑検査義務について被告と子会社

識している限りでである︒(以下では︑ T 社の幹部と被告の人的責任社員が同一であることを被告が明確に認

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(12)

67分業と製造物責任(一)

害賠償請求権を被告に対して行使した︒事件当時︑鉱夫は立坑の掘下げ坑道からあがろうとし︑数個の作業機械と

ともに昇降機で三階に昇ったが︑操作者には人とともに搭載したものについては告げなかった︒二名以上のものの

搭載は︑たとえ許容された負荷の上限の近くに達しないとしても︑規則に違反する︒ザイルが突然巻き戻り︑昇降

機が掘下げ坑道に激突した本件の事故は︑巻き上げ機の第一中問軸が壊れたことにより生じた︒巻き上げ機は被告

から一九五〇年に購入し︑一九六四年の八月か一〇月に修理をうけた︒後に壊れた箇所には︑設計によれば八○

〜八五ミリの断面のわたりが存在し︑このわたりは︑被告の作業において軸の回転について滑らかにされていなか

った︒︵この加工の欠陥による被告の帰責に関する検討に次いで︑以下の判断を行った︶

 ︿判旨﹀ 使用された鉄鋼の欠陥ある温熱処理が被告の責任となるのは︑被告がそれに対し責任を負う場合であ

る︒被告がその鉄鋼を鉄工所から購入し︑単に﹁切削﹂加工したにすぎないことには争いはない︒可能性のある欠

陥ある鉄鋼の品質に対する被告の責任は︑被告が供給者の信頼性︑あるいは︑良き社会生活の慣行による必要性お

よび経済上の期待可能性の枠内に制限されるが︑素材の品質を十分に検査しなかったことからのみ生ずる︒控訴裁

判所は場合によってはこれについて必要な確定を改めてなさねばならないこととなる︒︵この他に︑控訴裁判所で︑

死亡した鉱夫が操車夫でないとしても人員輸送の信号をだすことに配慮する義務がある限りで共働過失があったと        ︵鉱︶ の主張を改めて審理し︑さらに︑その解怠がどの程度損害惹起の原因となるか検討すべきとした︶

 ﹇PSコンクリート連結器︵ω冨暮ざ題ビ鑛︶事件﹈

 X合資会社のコンクリート工場で二人の労働者が五〇メートルのPSコンクリートのパーツの製造に必要な七・

五ミリの鉄筋の支柱︵ワイヤー︶を堰板のなかにはめ込むことに従事していた︒労働者はその際に第一被告が供給 害賠償請求権を被告に対して行使した︒事件当時︑鉱夫は立坑の掘下げ坑道からあがろうとし︑数個の作業機械と ともに昇降機で三階に昇ったが︑操作者には人とともに搭載したものについては告げなかった︒二名以上のものの 搭

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たとえ許容された負荷の上限の近くに達しないとしても︑規則に違反する︒ザイルが突然巻き戻り︑昇降

機が掘下げ坑道に激突した本件の事故は︑巻き上げ機の第一中間軸が壊れたことにより生じた︒巻き上げ機は被告

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った︒(この加工の欠陥による被告の帰責に関する検討に次いで︑以下の判断を行った)

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使用された鉄鋼の欠陥ある温熱処理が被告の責任となるのは︑被告がそれに対し責任を負う場合であ

る︒被告がその鉄鋼を鉄工所から購入し︑単に﹁切削﹂加工したにすぎないことには争いはない︒可能性のある欠

陥ある鉄鋼の品質に対する被告の責任は︑被告が供給者の信頼性︑あるいは︑良き社会生活の慣行による必要性お

よび経済上の期待可能性の枠内に制限されるが︑素材の品質を十分に検査しなかったことからのみ生ずる︒控訴裁

分業と製造物責任(ー)

判所は場合によってはこれについて必要な確定を改めてなさねばならないこととなる︒(この他に︑控訴裁判所で︑

死亡した鉱夫が操車夫でないとしても人員輸送の信号をだすことに配慮する義務がある限りで共働過失があったと

さらに︑その僻怠がどの程度損害惹起の原因となるか検討すべきとした) の主張を改めて審理し︑

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事件]

X 合資会社のコンクリート工場で二人の労働者が五 0 メートルの

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6 7  

五ミリの鉄筋の支柱(ワイヤー)を堰板のなかにはめ込むことに従事していた︒労働者はその際に第一被告が供給

(13)

法学論集 46〔山梨学院大学〕68

したPSコンクリート圧縮機と︑同様に第一被告の会社が供給したPSコンクリート連結器を使用した︒突然︑P

Sコンクリート連結器のところでPSコンクリートのカバーが割れ︑据付台から針金がとび出し労働者Sにあたり

貫通し︑その結果死亡した︒原告の同業者保険組合は︑遺族に支払った障害保険給付︵入院費用︑死亡金ほか︶︑

社会保険給付︵寡婦年金︑遺児年金︶の賠償を請求した︒

 第一被告は︑X合資会社について使用されたカバーとPSコンクリート連結器の留め金部分について製造および

焼き入れを他の事業者に行わせ︑のちに自己の工場で︑これとその他の部品からPSコンクリート連結器を組み立

てた︒  ︿判旨﹀ たしかに︑控訴裁判所が第一被告を︑ありうる製造上の欠陥に対して責任を負うPSコンクリート連結

器の製造者とみなしたことは妥当である︒その際︑第一被告により製造されたPSコンクリート連結器のカバーが

第一被告の事業において製造され︑焼きを入れられていないことは重要ではない︒なぜなら︑自己の製造する機器

のために前もって製造された組込み部品を使用する事業者も製造者の義務を負うからである︒判例においては︑事

業者は︑すべての場合に供給者から購入した個々の部品を自身で規格の適合性について検査し︑供給者が特別の事

業上の経験と設備により行われねばならない検査を繰り返す︑あるいは繰り返させる必要はないことがもっぱら承

認されている︒

 しかし︑第一被告は︑なされた認定によれば︑完成したカバーを他の者から購入したのではなく︑これを自己の

詳細な設計図と厳密な指示により分割された作業過程において工場で未加工の状態で製造させ︑さらに︑自己の名

前で他の事業体で焼きを入れさせていたことからすでに︑この例外に拠ることはできない︒さらに︑第一被告は︑

6 8  

し た

P

S コンクリート圧縮機と︑同様に第一被告の会社が供給した

PS

コンクリート連結器を使用した︒突然︑

46 (山梨学院大学〕

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その結果死亡した︒原告の同業者保険組合は︑遺族に支払った障害保険給付(入院費用︑死亡金ほか)︑

社会保険給付(寡婦年金︑遺児年金) の賠償を請求した︒

第 一

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法学論集

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たしかに︑控訴裁判所が第一被告を︑ありうる製造上の欠陥に対して責任を負う

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︿ 判

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器の製造者とみなしたことは妥当である︒その際︑第一被告により製造された

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第一被告の事業において製造され︑焼きを入れられていないことは重要ではない︒なぜなら︑自己の製造する機器

のために前もって製造された組込み部品を使用する事業者も製造者の義務を負うからである︒判例においては︑事

業者は︑すべての場合に供給者から購入した個々の部品を自身で規格の適合性について検査し︑供給者が特別の事

業上の経験と設備により行われねばならない検査を繰り返す︑あるいは繰り返させる必要はないことがもっぱら承

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しかし︑第一被告は︑なされた認定によれば︑完成したカバーを他の者から購入したのではなく︑これを自己の

詳細な設計図と厳密な指示により分割された作業過程において工場で未加工の状態で製造させ︑ さらに︑自己の名

前で他の事業体で焼きを入れさせていたことからすでに︑この例外に拠ることはできない︒さらに︑第一被告は︑

(14)

69分業と製造物責任(一)

       ︵22︶ その説明書においてPSコンクリート連結器を自己の製造物として示している︒

 ﹇カーボンプレート︵国o巨8冨辞窪︶事件﹈

 被告は電気モーターのための付属品︑とりわけカーボンブラシを製造している︒当事者間であらかじめ電話で被

告がこのカーボンブラシを要求された品質で供給しうることが明確にされたことにより︑原告は被告にS+E型ー

K14Z3のカーボンブラシ五〇個を発注した︒被告はカーボン触媒の製造のための原材料を供給業者M社にテレタ

イプで注文した︒被告の従業員はテレタイプを品質記号K4と書き留めた︒M社は被告にK4の品質記号のカーボ

ンプレートを供給し︑それから被告はカーボンブラシを製造し︑原告に供給した︒品質記号K4のプレートは︑ド

イッ技術検査協会の専門家鑑定意見で明らかにされたように︑K14Z3とは一致しない︒原告はカーボンブラシを

さらに顧客のN社に供給した︒そこでは︑これは︑最初は予備として︑後にR社のベルトコンベア設備の集電環の

回転モーター八台に取り付けられた︒取り付けの五週問後︑被告により供給されたカーボンブラシが異常にはやく

磨滅したことにより︑ショートし︑モーターが全焼した︒被告は︑無償で︑品質記号ωω良のM社のカーボンプレ

ートから製造した新しいカーボンブラシを供給した︒このカーボンブラシは磨滅の割合について問題のないもので

あり︑少なくともK14Z3のカーボンの品質には合致している︒N社は被告に対する請求権を原告に譲渡した︒

 ︿判旨V 被告は製造者である︒なるほど︑その責任に関して製造物責任の枠内でM社が供給した部品の欠陥につ

いても原則として考慮される︒製造物に部品を組み込む製造者は︑原則として検査義務を有する︒完成品製造者

は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならない︒それゆえ︑完成品製造者は供給者の

信頼性か︑良き社会的慣行により必要かつ経済上期待可能である限り素材の品質のいずれかを︑検査しなければな その説明書において

P

S コンクリート連結器を自己の製造物として示している︒

[カーボンプレート(問︒

E 0

1 巳 Z ロ ) 事 件 ]

被告は電気モーターのための付属品︑ とりわけカーボンブラシを製造している︒当事者間であらかじめ電話で被

告がこのカーボンブラシを要求された品質で供給しうることが明確にされたことにより︑原告は被告に S+E 型 l

KUZ3 のカーボンブラシ五 O 個を発注した︒被告はカーボン触媒の製造のための原材料を供給業者 M

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イプで注文した︒被告の従業員はテレタイプを品質記号

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ンプレートを供給し︑ それから被告はカーボンブラシを製造し︑原告に供給した︒品質記号

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イツ技術検査協会の専門家鑑定意見で明らかにされたように︑ KUZ3 とは一致しない︒原告はカーボンブラシを

さらに顧客の N 社に供給した︒そこでは︑これは︑最初は予備として︑後に R 社のベルトコンベア設備の集電環の

回転モーター八台に取り付けられた︒取り付けの五週間後︑被告により供給されたカーボンブラシが異常にはやく

磨滅したことにより︑

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モーターが全焼した︒被告は︑無償で︑品質記号

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6 9 分業と製造物責任(ー)

ートから製造した新しいカーボンブラシを供給した︒このカーボンブラシは磨滅の割合について問題のないもので

あり︑少なくとも KUZ3 のカーボンの品質には合致している︒ N 社は被告に対する請求権を原告に譲渡した︒

︿ 判 旨 ﹀

被告は製造者である︒なるほど︑ その責任に関して製造物責任の枠内で M 社が供給した部品の欠陥につ

いても原則として考慮される︒製造物に部品を組み込む製造者は︑原則として検査義務を有する︒完成品製造者

は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならない︒それゆえ︑完成品製造者は供給者の

信頼性か︑良き社会的慣行により必要かつ経済上期待可能である限り素材の品質のいずれかを︑検査しなければな

(15)

法学論集 46〔山梨学院大学〕70

らない︒製造者の検査義務は︑供給者がすでにその特別な専門的な知識と設備により検査を行った場合には︑もは

      ︵23︶

や認められない︒

 被告は原料を被告にとり長年の取引関係から信頼性あるものとして認識されている供給者から購入し︑被告は正

しい注文をなした︒供給者の選定における被告の過失は明らかではなく︑M社の信頼性は原告も争っていない︒こ

の理由からすでに︑通常ではなく︑高額の出費が考えられる被告の原料の検査義務はない︒

 また︑被告が注文したK4がK14Z3の要件に合致するのかについては被告の従業員が注文時に明確にしたの       ︵2

4︶

で︑被告がさらにM社に確認しなかったことで責任は問われない︒

 被告には︑被告にとり長年の取引関係から信頼性あるものとして認識されている供給業者を信頼する十分な理由

がある︒被告は︑供給されたプレートの原則的な有用性についての検査義務を︑M社が製造者として該当する品質

記号により原則的な有用性を証明することにより︑負わない︒この製造物の品質は該当する原料が供給される限り

においても保証される︒被告について検査義務が生ずるのは︑被告が原料を問題なく使用しえない限りでである︒        ︵25︶ この場合︑被告はむしろ︑供給が注文に合致しているか検査しなければならない︒

 以上みてきた諸判決から︑責任の枠組みを抽出するならば︑まず︑完成品製造者は供給された製品を製造してい

ないが︑それを完成品の一部として流通に置き︑そして︑消費者は完成品製造者が危険な製品を流通に置かないで        ︵26︶ あろうことを信頼しているといいうることから︑完成品製造者には︑広範な安全確保義務が認められる︒これに関

して完成品製造者は︑供給された製品の欠陥について原則として検査︵調査︶義務があるといえ︑完成品製造者        ︵27︶ は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならないとされる︒そして︑完成品製造者のこ

7 0  

らない

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製造者の検査義務は︑供給者がすでにその特別な専門的な知識と設備により検査を行った場合には︑もは

や認められない︒

46 (山梨学院大学〕

被告は原料を被告にとり長年の取引関係から信頼性あるものとして認識されている供給者から購入し︑被告は正

しい注文をなした︒供給者の選定における被告の過失は明らかではなく︑ M 社の信頼性は原告も争っていない︒こ

の理由からすでに︑通常ではなく︑高額の出費が考えられる被告の原料の検査義務はない︒

また︑被告が注文した

K

が KMZ3 の要件に合致するのかについては被告の従業員が注文時に明確にしたの 4

で︑被告がさらに M 社に確認しなかったことで責任は関われた的︒

法学論集

被告には︑被告にとり長年の取引関係から信頼性あるものとして認識されている供給業者を信頼する十分な理由

がある︒被告は︑供給されたプレートの原則的な有用性についての検査義務を︑ M 社が製造者として該当する品質

記号により原則的な有用性を証明することにより︑負わない︒この製造物の品質は該当する原料が供給される限り

においても保証される︒被告について検査義務が生ずるのは︑被告が原料を問題なく使用しえない限りでである︒

この場合︑被告はむしろ︑供給が注文に合致しているか検査しなければならない︒

以上みてきた諸判決から︑責任の枠組みを抽出するならば︑まず︑完成品製造者は供給された製品を製造してい

そして︑消費者は完成品製造者が危険な製品を流通に置かないで

あろうことを信頼しているといいうることから︑完成品製造者には︑広範な安全確保義務が認められる︒これに関 ないが︑それを完成品の一部として流通に置き︑

して完成品製造者は︑供給された製品の欠陥について原則として検査︿調査)義務があるといえ︑完成品製造者

は︑欠陥とされる性質がないことを確信しえない部品を使用してはならないとされる︒そして︑完成品製造者のこ

参照

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