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博士学位申請論文審査報告書

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早稲田大学大学院法学研究科 2013年7月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 「フランスにおける会計監査役の民事責任」

申請者氏名 内田 千秋

審査委員

主査 早稲田大学教授 鳥山 恭一 早稲田大学教授 尾崎 安央 早稲田大学教授 大塚 英明 早稲田大学教授 黒沼 悦郎 早稲田大学教授 福島 洋尚

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内田千秋氏博士学位申請論文審査報告書

新潟大学法学部専任講師・内田千秋氏は、早稲田大学学位規則第7条第1項にもとづき、

2013年2月12 日、その論文『フランスにおける会計監査役の民事責任』を早稲田大学大 学院法学研究科に提出し、博士(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の委員は、

上記研究科の委嘱を受けこの論文を審査してきたが、2013年6月19 日、審査を終了した ので、ここにその結果を報告する。

Ⅰ 本論文の意図と構成・内容 1 本論文の意図

2000年初頭に、アメリカのエンロン事件をはじめ、ワールドコム事件、イタリアのパル マラット事件など、世界各国において会計不祥事が明るみに出た。当時、わが国では、計 算書類の監査人の責任が追及される事案はわずかな数にとどまっていたが(日本コッパー ス事件など)、そうした会計不祥事の結果、世界的に監査人の責任の問題に対する関心が高 まり、わが国においても監査人が訴訟の対象となるのではないかと危惧されるようになっ た。とりわけ監査人がいかなる場合にいかなる範囲において損害賠償責任を負うことにな るのかは、いまだに明確にされているとはいえず、その点は今後ますます問題になるよう に思われる。そのような状況を背景にして筆者は本論文において、監査人に対する訴訟件 数が比較的多いにもかかわらずわが国において詳細な研究がなされているわけではないフ ランスの監査人(会計監査役《commissaire aux comptes》)に焦点をあてて監査人の民事 責任に関する研究を行ない、監査人の民事責任の内容を明確にすることを意図している。

2 本論文の内容

本論文では、第一部においてフランスの会計監査役制度を概観した後、第二部において フランスにおける会計監査役の民事責任に関する判例および学説が検討されている。

A 第一部「会計監査役制度の展開」の内容

第一部「会計監査役制度の展開」は、第1章「会計監査役制度の変遷」、第2章「会計監 査役の任務」、第3章「会計監査役の独立性の確保」、第4章「会計監査役会社」からなる。

(1)第1章「会計監査役制度の変遷」

本章では、フランスにおける会計監査役制度の変遷が概観されており、会計監査役制度

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の創設の前後から2003年7月1日の法律までの展開、同法律による改正内容、2005年9 月8日のオルドナンスによる改正内容、2008年12月8日のオルドナンスによる改正内容 についてそれぞれ検討がなされている。

会計監査役制度は1867年7月24日の法律のもとで株式会社において選任が義務づけら れていた「監査役(commissaire)」の制度をその前身としているが、とりわけ 1966 年 7 月24日の法律により、法定監査の専門家資格を有する「会計監査役」の制度が創設された こと(職業組織の設置、登録条件の明確化)、すべての株式会社・株式合資会社に会計監査 役の選任が義務づけられたこと、独立性規制が引き続きおかれたこと、計算書類の監査証 明をはじめ多くの任務が会計監査役に課されたこと等が指摘されている。その後も、1984 年3月1日の法律(経営難予防法)によって、一定の基準を満たす商事会社その他の多く の団体において会計監査役の選任が義務づけられ、「警告手続(procédure d’alerte)」の任 務など会計監査役の任務の内容がさらに増大したこと、そうした会計監査役制度の拡充に ともない、2001年5月15日の法律によって会計監査役の選任が義務づけられるすべての 場合に適用される規定がおかれるようになった(会計監査役制度の等質化)ことが示され る。

つぎに、世界的な会計不祥事の問題に対応するために制定された2003年8月1日の法律

(金融安全法)の改正内容が詳細に検討される。同法律は、会計監査役職高等評議会を創 設し、これまで会計監査役の職業組織(会計監査役全国協会・地方協会)が担ってきた会 計監査役に対する監督および職業基準の作成・公表について高等評議会の関与を認めた。

また、より詳細かつ厳格な独立性規制(欠格事由の一般化・倫理規程集への委任、証明・

非証明業務の分離、交替制の導入等)を定めたほか、コーポレート・ガヴァナンスの観点 から会計監査役の選任・開示に関する規定を強化した。

2001年5月15日の法律において試みられた会計監査役制度の統一化は、2003年8月1 日の法律を経て、2005年9月8日のオルドナンスにより達成された。具体的には、商法典 第8編「規制職業(professions réglementées)」に「会計監査役」と題する第2章をおき、

株式会社に関する規定(商法典第 2 編)のなかにおかれていた会計監査役に関する規定群 をそこに移している。

また、ヨーロッパにおいて計算書類の法定監査人に関するかつての会社法第 8 号指令が 廃止され、2006年に新たに法定監査指令が公表された。2008年12月8日のオルドナンス は、会計監査役職高等評議会の権限を強化するほか、この法定監査指令を国内法化して会 計監査役会社制度を改正し、上場会社等における監査委員会の設置を義務づけるなどの改 正を行なった。

(2)第2章「会計監査役の任務」

会計監査役制度の改正にともない会計監査役に多くの任務が課されてきたことは第 1 章 においてすでに示されたが、本章では、現行制度のもとで会計監査役がどのような任務を

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負っているのかが整理されて、会計監査役の任務の概要が示されている。

会計監査役(1966年改正前は監査役)の任務は、その主たる任務である監査(contrôle)

および株主総会における報告といった「一般的任務(missions générales)」と、利益相反 取引に関する特別報告書の作成などの「特別な任務(missions spéciales)」に区別して説明 されている。本章ではそうした「一般的任務」と「特別な任務」のそれぞれについて、そ の内容が整理して検討されている。

(3)第3章「会計監査役の独立性の確保」

第1章で検討した2003年8月1日の法律(金融安全法)は、会計監査役についてこれま での規制を踏まえてさらに厳格かつ詳細な独立規制をおいている。同法律は「倫理規程集

(code de déontlogie)」の承認をデクレに委任したが、2005年11月16日のデクレおよび 2006年4月24日のデクレが「倫理規程集」を承認している。本章ではこの「倫理規程集」

について検討し、会計監査役の独立性規制の現状が明らかにされている。

(4)第4章「会計監査役会社」

会計監査役は、「会計監査役会社(société des commissaires aux comptes)」を設立して 会計監査役の職業を遂行することができる。本章では、そうした「会計監査役会社」の制 度について検討されている。

会計監査役会社の制度はまず、1966年7月24 日の法律により「専門職民事会社」の形 態が認められた。さらに、英米系の監査事務所との国際的競争に対抗できるように会計監 査役でない者からの出資を募ることにより会計監査役会社の財務基盤を強化することを目 的にして、1984年3月1日の法律により株式会社・有限会社などの一般の商事会社の形態 による会計監査役会社の設立が許容されている。その後、1990年12月31日の法律により、

会計監査役も含めた自由職専門家一般のための「自由職遂行会社」の制度(商事会社の特 別法)も定められている。

そのように会計監査役でない者からの出資が認められた会計監査役会社では、そうした 資金提供者に対する会計監査役である社員の独立性を確保する必要性が生じる。そのため の規制がつぎに検討されている。

B 第二部「会計監査役の民事責任」の内容

第二部「会計監査役の民事責任」は、第1章「民事責任の法的性質」、第2章「具体的事 案におけるフォートの認定」、第3章「対会社責任における会計監査役の責任の限定」、第4 章「会計監査役会社における会計監査役の個人責任」、第5章「法定監査人の責任制限に関 するEUの動向とフランス法」からなる。

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(1)第1章「民事責任の法的性質」

本章では、会計監査役の民事責任に関する判例・学説の分析を行なうための前段階とし て、会計監査役の民事責任の法的性質(契約責任か不法行為責任か)および任務の性質(手 段債務か結果債務か)に関する議論が整理されている。

現在、会計監査役の民事責任は、被監査会社に対する責任であっても第三者に対する責 任であっても不法行為責任と解されている(通説)。1867年法律のもとでは「監査役」は株 主の受任者であると解されており、監査役の会社に対する責任は委任の規定にしたがうと 規定(1867年法律43条)されていたことから、監査役は被監査会社に対しては契約責任、

第三者に対しては不法行為責任を負うと解されていた。

しかし、1966年法律のもとでは、会社を「契約」ではなく「制度」としてとらえる制度 理論の影響を受けて会計監査役はもはや株主の受任者としては解されず、委任にかかる規 定が削除されたことなどから、会計監査役と被監査会社の関係は契約ではなく制度上の関 係であり、対会社責任も契約責任ではなく不法行為責任であると解されるようになった。

そうした理解は通説的見解となったが、会社との関係を請負契約と解する説、対会社責任 を契約責任でも不法行為責任でもない職業専門家の責任と解する説も登場し、会計監査役 の民事責任に関する議論が錯綜していたことから、本章ではその混乱した議論状況が整理 されている。

また、通説的見解が会計監査役の民事責任を不法行為責任と解するなかで、判例および 多くの学説は契約責任法における伝統的な手段債務と結果債務の分類を用いて、会計監査 役の監査・監査証明の任務は「手段債務」であると位置づけている。そこで、会計監査役 の任務につき手段債務の概念を認めてきた裁判例を概観して、手段債務の概念を用いる意 義が検討されている。手段債務の概念を用いることにより、原告がフォートの立証責任を 負うことになり、手段債務を負う者は善良な家父(会計監査役の場合には「通常の勤勉な 会計監査役」)としての注意義務を負うことになる。

(2)第2章「具体的事案におけるフォートの認定」

第 1 章での議論にもとづき本章では、会計監査役のフォートの認定にかかる裁判例の具 体的な検討がなされている。会計監査役の対会社責任も対第三者責任も同質の責任と解さ れているため、フォートの評価の基準および立証責任の負担は両責任において異ならない。

そこで本章では対会社責任と対第三者責任を区別することなく、約90件の公表裁判例を検 討対象として会計監査役のフォートに関する裁判例の総合的な分析がなされている。そこ では、会計監査役の任務ごとに「一般的任務」と「特別の任務」にわけて裁判例が検討さ れている。

まず、会計監査役の「一般的任務」、すなわち主要な任務である監査の任務について、フ ォートの評価基準に関する裁判例の変遷を見たあとに、具体的事案におけるフォートの認 定について裁判例が検討されている。つぎに「特別な任務」が検討対象にされているが、

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特別な任務の中には偶然性が存在しないとして結果債務であると解されるものがある。さ らに結果債務と手段債務のどちらの要素も有すると解される任務もある。特別な任務の性 質に関する学説を分析したうえで、そうした任務に関する裁判例が検討されている。

(3)第3章「対会社責任における会計監査役の責任の限定」

第 2 章においてフォートの認定に関する総合的な判例研究を行なったが、損害・因果関 係については対会社責任の場合と対第三者責任の場合とでそれぞれに特徴がある。そこで 本章では会計監査役の対会社責任について、特に損害・因果関係の観点から判例・学説の 状況が明らかにされている。

本章では、横領にかかる対会社責任についての公表裁判例約 60 件を分析の対象として、

フランスの裁判例では(1)「自らのフォート」にもとづく賠償、(2)「担保のための呼出し」

にもとづく会社指揮者の担保責任、(3)「被害者(=会社)のフォート」にもとづく部分免 責、(4)「機会の喪失」の概念の適用という判断枠組みによって、それぞれ会計監査役の責 任が限定されてきたことが明らかにされている。とくに破毀院は1999年10月19日の商事 部判決によりはじめて会計監査役の民事責任について「機会の喪失」の概念の適用を認め ており、会社指揮者による横領の事案について「横領を発見し横領の継続を回避する機会 の喪失」を認定して、それは「横領から生じた損害とは区別される」と判示した。この1999 年の破毀院商事部判決以降の下級審の裁判例は、従来と同様に横領により会社に生じた損 害にもとづき会計監査役の責任を認めるもの(「被害者のフォート」による部分免責が行わ れる場合が多い)と、「機会の喪失」の概念を適用するものとに分かれていることが示され ている。

(4)第4章「会計監査役会社における会計監査役の個人責任」

本章では、会計監査役会社の名において自然人会計監査役(監査担当者)が監査の職務 を行なった場合に、会計監査役会社だけではなく監査担当者も責任を負うのかどうかが検 討される。

裁判所は当初、会計監査役会社の名において作成する監査報告書に監査担当者が署名を 付すことを定める規定(1969年デクレ69条〔商法典R. 822-94条〕)および会計監査役会 社だけでなく自然人会計監査役も付保義務を負うことを定める規定(1969 年デクレ 74 条

〔商法典R. 822-98条〕)にもとづき、監査担当者が個人責任を負い、会計監査役会社とと

もに全部義務を負うものとしていた。その後、下級審裁判例は対立し、監査担当者である 自然人会計監査役はその「職務から分離されるフォート」をなしたのではないかぎり個人 責任を負わず、会計監査役会社のみが責任を負うとする裁判例が公表された。2010年3月 23 日の破毀院商事部判決は監査担当者の個人責任を明確に認めたが、その後も下級審裁判 例は対立している状況にある。

この問題はより一般的に、自由職専門家が会社形態でその職業を遂行する場合に、あく

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までも自由職専門家として自己の職業行為について責任を負うと解するか、会社という法 人格の陰に隠れて個人責任を負わないと考えるのかという問題に帰着する。本章では判 例・学説を検討することより個人責任について以上の問題が存在することを指摘し、フラ ンスの破毀院および通説は前者の立場をとっていることが示されている。

(5)第5章「法定監査人の責任制限に関するEUの動向とフランス法」

エンロン事件後に大規模監査事務所の一角(アーサー・アンダーセン)が破綻したこと にともない、ヨーロッパでは法定監査人の責任制限導入の必要性に関する議論が再燃した。

2008年には、上場会社の計算書類の法定監査人の責任制限に関するヨーロッパ委員会の勧 告が公表された。同勧告は、責任制限手法(法定上限制、法定比例責任制、契約による責 任制限)を示して具体的な方法の採用は各国に委ねるという方式をとっている。しかし、

そうした同勧告が提案する責任制限についてフランスは非常に消極的あるいは批判的であ る。フランスがそうした行動をとる理由が本章では、理論面(責任制限と現行法制度との 適合性)および実質面(導入の必要性の有無)から検討されている。

そこでは、2008年勧告が掲げた3つの方法はどれも理論的にはフランスの現行法制度に 適合しないことが示される。すなわち、法定上限制は「全額賠償の原則」に反することに なり、比例責任制は「全部義務の原則」に反することになり、契約による責任制限は会計 監査役の民事責任の制度(通説では不法行為責任と解されている)とは適合しないとされ る。

また実質面においても、共同会計監査役制(連結計算書類提出会社において 2 名)のた めに監査市場の集中度が諸外国ほど高くはないこと、訴訟件数・請求額は増大する傾向に あるが英米のように危惧する状態にまでは達していないこと、したがって付保可能性につ いても危機的状況にあるわけではないことが示されている。そして判例は、「全部義務」を 前提にしつつも一種の「比例的」な解決を行ない、会計監査役の責任を会計監査役のフォ ートから生じた損害に限定してきたということもあわせて指摘されている。

Ⅱ 本論文の評価

本論文は、フランスの会計監査役の制度を対象にして監査人が負う民事責任の内容を明 らかにすることを意図するものである。

本論文の第一の特徴は、そうしたフランスにおける監査人の民事責任の内容を検討する 前提として、フランスの会計監査役の地位、資格、職務権限にかかる制度が本論文の第一 部において、1867年7月24日の法律によるその創設の当時から現在にいたるまで周到に 検討されている点にある。

すなわち、1867年7月24日の法律のもとでは会計監査役の前身である株式会社の監査 役は独立性も専門能力も確保されておらず、1935年の改正により資金公募会社について一

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定の能力が保障された認可監査役の選任が義務づけられたこと、そして1966年7月24日 の法律により自由職の資格をもつ会計監査役の制度が創設され、1984年3月1日の法律に よりそうした会計監査役の選任が商事会社以外の場合にも義務づけられるようになった経 緯が丹念に検討されている。さらに、2003年8月1日の法律(金融安全法)による会計監 査役職高等評議会の創設その他の会計監査役制度の強化、さらに2009年12月8日のオル ドナンスにより2006年のEU法定監査指令が国内法化され上場会社等に監査委員会の設置 が義務づけられなど、とりわけ近年、会計監査役について詳細な制度が定められて会計監 査役の制度の強化がはかられていることが、その具体的な内容について細部にわたり検討 されている。そうした会計監査役の制度の丹念な紹介と掘り下げた検討はそれ自体高く評 価されるものである。

本論文の第二の特徴は、第一部における以上の会計監査役の制度の検討を踏まえて、そ うした会計監査役の民事責任にかかるフランスの多数の裁判例が緻密に分析されている点 にある。

すなわち、本論文ではまず対会社責任と対第三者責任にかかわる裁判例約90件を対象に して、それらの裁判例による会計監査役のフォートの認定の内容が分析されている(第二 部第2章)。そこでは、まず会計監査役のフォートの評価基準について、裁判所は、会計監 査役がつくすべき「通常の注意(diligence normale)」を判断する際にますます職業規範を 参照していること、それにより注意の内容も明確化されてきたことが指摘される。また、

会計監査役の監査の任務は「手段債務」であり、不正・誤謬を発見しなかったことから直 ちにフォートが認められるわけではなく、原則としては試査監査によることが認められ、

「異常(anomalie)」があった場合に監査を掘り下げる必要があり、それをしなかった場合 にフォートが認められることが示されている。

本論文ではさらに、横領の事案にかかる会計監査役の対会社責任についての裁判例約 60 件を対象にして、会社に生じた損害との関係において会計監査役が負う損害賠償責任の範 囲が限定される傾向が分析されている(第二部第3章)。そこでは裁判例は、(1)会計監査 役の「自らのフォート」の範囲を限定して認定することにより賠償額を限定する方法、(2)

「担保のための呼出し」により会社指揮者を強制参加させて担保責任を負わせることによ り会計監査役の責任を限定する方法、(3)「被害者(=会社)のフォート」を認定すること により会計監査役の責任を部分的に免除する方法、(4)「機会の喪失」の概念を適用して損 害自体を限定して認定する方法を用いて、会計監査役の責任が限定されてきたことがそれ らの裁判例の分析を通して明らかにされている。以上のように多数の裁判例について丹念 な分析をして判例法理における一定の方向性が明らかにされていることは高く評価するこ とができる。

以上のように本論文は、フランスの会計監査役の制度とその民事責任についての高い水 準の研究であると評価することができる。

もっとも、以下の点を指摘することができる。

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第一に、会計監査役の責任を限定するために判例法理において用いられているうえの(1)

ないし(4)の方法はそれぞれ、(1)会計監査役の側のフォートの認定、(2)他の関与者の フォートを認定したうえでのそれらの者との責任の分担(因果関係)、(3)被害者の側のフ ォートの認定(わが国における過失相殺にあたる)、(4)損害額の認定にもとづくものであ り、それぞれ理論上の根拠を異にするものである。それゆえ、それらの方法がフランスの 裁判例による運用のなかにおいて相互にどのような関係にあるのかが明確にされることが 期待される。本論文では、それぞれの方法についての裁判例が詳細に検討されている一方 で、それらの方法の相互の関係性は必ずしも明確に示されていない。そうした点の分析を 明示的に行なうことにより、判例法理により形成されている会計監査役の民事責任の制度 の全体像がより明快に示されることになると考えられる。

第二に、本論文では、会計監査役の対第三者責任については判例法の概略が示されるに とどまっており、会計監査役の対会社責任についての裁判例の分析と同じ程度の詳細な分 析はなされていない。今後、会計監査役の対第三者責任にかかる裁判例についても詳細な 分析がなされることが期待される。

以上の指摘はしかし、会計監査役の民事責任にかかる詳細なフランス法研究としての本 論文の評価を損なうものではない。むしろ今後の研究により、フランスにおける監査人(会 計監査役)の民事責任の内容をより包括的に、そしてより明快に示すことが期待される。

Ⅲ 結論

以上の審査の結果、後記の審査委員は、本論文の筆者である内田千秋氏が博士(法学)(早 稲田大学)の学位を受けるに値するものと認める。

2013年6月19日

審査委員

主査 早稲田大学教授 鳥山 恭一 早稲田大学教授 尾崎 安央 早稲田大学教授 大塚 英明 早稲田大学教授 黒沼 悦郎 早稲田大学教授 福島 洋尚

参照

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