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2.医療従事者に対する支援

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と心理的支援

医療従事者に対する相談業務 山 蔦 圭 輔

(神奈川大学人間科学部)

COVID-19 and Psychological support Counseling for a health care worker

Faculty of Human Sciences, KANAGAWA University

【要 約】

 新型コロナウイルス感染症が蔓延する中,医療従事者に対する心理的支援を行うことが必 要不可欠である。これまでと異なる環境下において,心理的支援の形も柔軟に変化させなが ら,ニーズに合致した支援リソースを提供することも求められる。本稿では,まず,新型コ ロナウイルス感染症蔓延下における医療従事者支援の要点をまとめることを目的とした。次 に,有事において,組織として行うべき支援,職場のリーダーが行うべき支援についてまと めた。さらに,組織の中で生じ得る各種課題(医療従事者としてのアイデンティティ,職場 の人間関係,休職と職場復帰)についてまとめ,今後の支援活動について論考した。

 キーワード: 新型コロナウイルス感染症,医療従事者,心理的支援,リーダーシップ,ア イデンティティ

1.はじめに

 2020 年に入り,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19 とする)が世界的に蔓延 している。世界保健機構は,2020 年 1 月 30 日に各国専門家や保健当局担当者による緊急委 員会を開催し,COVID-19 に関連する感染拡大について「国際的に懸念される公衆衛生上の 緊急事態」に該当することを宣言し,また,2020 年 3 月 11 日には,感染者の世界的増加に 伴うパンデミックが宣言された。こうした状況は,COVID-19 から受ける身体的な影響

(COVID-19 への罹患率や死亡率の上昇)に留まらず,心理社会的側面に対して大きな影響 を与えるものである(e. g., Wong, Leo, & Tan, 2020)

 こうした中,COVID-19 感染者を受け入れる医療機関では,高いストレス状況下で長時間 勤務することが求められる。また,COVID-19 の院内感染を防ぐため,これまでとは異なる 感染防止対策も必要となり,高い緊張感のもと,日々の業務に従事することも求められる。

 COVID-19 の最前線で働く医療従事者にとって,急速に変化する情報(COVID-19 関連情 報)や不確実性(情報の不確実性や身の安全を確保できるか否かの不確実性)などは,その

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恐怖心を高める要因となっている(Ong et al., 2020)。さらに,高度情報化社会において,

即時的に流される臨床的な情報は,医療従事者の不安と絶望などといった感情を強化するこ とも指摘されている(Depoux et al., 2020)。加えて,担当の患者が死に至るとき,その患者 が家族や友人などの面会ができないことで,患者が“一人で死んだ”ことについて,その支 援にあたる医療従事者が罪悪感を有する可能性も指摘されている(Straus et al., 2004)。こ うしたことは,COVID-19 の治療においても生じることが推測できる。

 前例のない状況の中,心的外傷後ストレス障害やうつ病などのメンタルヘルス問題を引き 起こすこと,また,不安障害や薬物乱用,自殺リスクを高める可能性があることも指摘され ている(Greenberg, 2020)。中国における調査では,COVID-19 治療に携わった医療従事者 の内,約 70% が心理的苦痛を感じ,約 50% がうつ病の兆候を呈し,約 45% が不安を抱 え,約 34% が不眠の状態にあることが報告されている(Lai et al., 2020)。

 以上のように,COVID-19 の蔓延という特異的な状況下で,医療従事者には高いストレス が負荷され,メンタルヘルス不調を呈する可能性も高く,医療従事者に対する心理的支援を 実現することが急務である。本稿では,医療従事者に対する心理的支援の実際をまとめ,論 考することを目的とする。

2.医療従事者に対する支援

 未知のウイルスである COVID-19 に立ち向かう医療従事者へ敬意を払うとともに,マス クや防護服の提供など,各種支援が行われている。例えば,厚生労働省は,新型コロナウイ ルス感染症緊急包括支援事業(医療分)のうち新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金 交付事業の実施について(厚生労働省医政局医療経理室,2020)において慰労金を支給する ことを周知している。こうした経済的支援を行うことで医療従事者を慰労することも必要不 可欠である。一方,前述の通り,高い緊張状態の下,心理的ストレスを受け,メンタルヘル ス不調を呈する医療従事者も少なくないことを鑑みると,物理的支援と合わせて心理的支援 を拡充する必要があるといえる。

 Greenberg(2020)は,COVID-19 に関わる医療従事者を支援する上で重要な 6 つの要素 を挙げている。1 つ目は,医療従事者に適切に感謝することであり,これは,医療従事者の 大変さ,不安,辛さなどを適切に理解することを指し,医療従事者の回復力を高めることに つながるとしている。2 つ目は,臨床現場から回避している場合に,適切に連絡することで ある。臨床現場からの回避は高いストレス環境下で受けたトラウマ的な反応であるといえ,

メンタルヘルスの低下を原因とした回避である場合には,その当事者に適宜連絡をすること が推奨されている。3 つ目は,パンデミックが収束する際に,管理監督者との面接を行うこ とである。パンデミックの収束と同時に,COVID-19 発生以前に携わっていた通常業務へ再 び戻ることが求められる。この時にメンタルヘルス上の問題の有無について管理監督者に相 談するといった行為が重要な意味を持つとされる。4 つ目は,通常の業務に加え COVID-19 の対応を行わざるを得なかった者に対する面接を行うことである。COVID-19 に関連する死 別の体験などは,トラウマ体験となっている可能性があるため,面接を通した十分な配慮が

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必要であるとされる。5 つ目は,特にメンタルヘルス不調の高リスク者に対して,積極的な モニタリングを行うことである。ここでは,他者からのモニタリングも重要であるが,セル フチェックツールを用いるなど,セルフモニタリングを用いることも推奨されている。6 つ 目は,COVID-19 のケアを行っている際に悲惨な体験をした医療従事者に対し,管理監督者 が十分に理解し,こうした体験について自分自身や他人を責めることなく,価値のある体験 として認識するよう促すことである。

 以上,6 つの要素の内,その多くで,重要な他者から有効な介入が行われることが重視さ れているが,重要な他者からの有効な介入の必要性は,COVID-19 以前にも報告されてきた。

 たとえば,2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災後の支援に際し,支援の最中に悲惨 な状況に暴露されることから生じる参事ストレスや心的外傷性ストレスは,大きな課題とさ れ(e. g., Nishi et al., 2012),また,緊張度の高い支援を終えた後,被災地を離れた罪悪感 や疲労感にさいなまれ,他者と話をしたくない感情を持つことや,信頼する相手であれば,

自身の経験(支援の経験)を話したい気持ちがある一方,その経験を話したくない気持ちも 同時に存在することが指摘されており(新福・原田,2015)他者からの心理的支援をはじめ とした介入は必要不可欠である。COVID-19 における医療従事者の役割と被災地・被災者支 援の体験は同一であるとはいえないものの,高い緊張状態における極度のストレス状況は類 似しているといえる。上述の通り,被災地・被災者支援という体験後,自身の経験したその 辛い体験を他者へ伝えることの難しさは COVID-19 に関わり,強い感情体験に遭遇した医 療従事者にとっても同様のものと考えられる。ここで,医療従事者への支援について,管理 監督者から面接をすることやモニタリングすることが求められるのであれば,その管理監督 者は,面接やモニタリングをされる当事者にとって侵襲的ではなく,安心し信頼できる相手 である必要がある。また,管理監督者に求められる面接やモニタリングという活動は,職場 内における産業保健スタッフが担うことが可能である。産業医や心理専門職,その他の産業 保健スタッフが協働し,疲弊した医療従事者のメンタルヘルスを高めること,不調を防ぐこ とは,現在,緊喫の課題である。

 Walton, Murry, & Christian(2020)は,医療従事者のメンタルヘルスケアについて,1)

道徳的負傷(moral injury)に対する支援,2)組織として行うべき支援,3)心理的支援の 組織的な提供,4)職場のリーダーが行うべき支援,5)個人が自身で行うべき支援の在り方 について,以下の通りに整理している。

1)道徳的負傷に対する支援

 道徳的負傷とは,high-stakes(高い緊張状態で,イチかバチかの戦いを強いられるような 状況)な状況で,自身や他者が有する道徳律を裏切るときに生じる(Shay, 2014)。たとえ ば,COVID-19 という危機的な状況下で,個人レベルにおいて患者の取捨選択を迫られる

(人工呼吸器の不足により,現場で臨床的な判断を行い,治療の優先順位を決定する)など といったことは,道徳的負傷が生じる要因として挙げられている。また,道徳的負傷を負っ たスタッフをケアするとき,職場のリーダーが単独で決定することなく,さまざまな既存の プロトコルを用いて支援することや,グループによる支援活動を活用することを含め,継続 的な心理的支援を行う必要があることも指摘されている。

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Table. 1 組織的サポートの例 食べ物,飲み物,休憩施設を提供する

労働時間を正確に把握し,休憩時間や年次休暇を確実に取得できるようにする スタッフ各自の役割を明確化する

組織全体に生じる不平等の解決を図る スタッフの通勤時の感染不安などに対応する

リスクと有害事象に関する正確な情報を提供し,その情報は定期的に更新する 前例のない例外的な状況であることを認識する

スタッフへ賞賛を定期的に行う

管理監督者や経験者などによる観察を重視する 明確な根拠あるメッセージを提供する

スタッフからの提案やアイデアを受け入れ,双方向の対話を大切にする チームが一体となることを重視した働き方を奨励する

スタッフの安全が最優先事項であることを明確化する

極度のストレス状態で生じる心身の反応は非特異的反応であることを教育する リーダーが,スタッフの個人的ニーズや報告を聴取できるようにする 公式・非公式によらず心理的サポート源を提供する

スタッフが隔離された場合,隔離中や隔離後に連絡が取れるようにする たとえば,同僚が亡くなることがある場合,チームをサポートする計画を立てる さまざまな職種にあった適切なサポート源を提供する

推奨される事項や最新のガイダンスを逐次更新する

2)組織として行うべき支援

 カウンセリングを行うことなどスタッフ個人に対する支援と合わせて,組織として,交代 勤務,夜勤,業務時間,作業負荷などといった,いわば組織の問題を解決することは,スタ ッフの不調を防ぐ要因となるとしている。そして,特に COVID-19 状況下において,これ らの組織の問題がスタッフに与える影響を精査する必要性も指摘されている。ここでは,

Table.1 のような組織的な支援を実現することが推奨される。組織的に,予防や緩和するこ とに焦点化することの重要性も指摘されており(Kinman, 2018),医療機関で生じている各 種問題を抽出し柔軟に変容することも必要不可欠である。

3)心理的支援の提供

 心理的支援の提供は,COVID-19 以前の SARS 発生時から効果的であることが示されてお り,COVID-19 環境下においても心理的支援を有効に活用することの重要性が指摘されてい る。また,ここでは,状況に応じて電話,オンライン・ツールなどを用いた支援も必要不可 欠であるとされている。

4)職場のリーダーが行うべき支援

 職場のリーダーがスタッフに行うべき支援として,危機的状況におけるリーダーシップ戦 略(Table.2)が挙げられている。COVID-19 状況下でリーダーシップを発揮するリーダー に求められることは,「オープンで正直であること」や「誠実さを保ち,冷静さを保ち,チ ームのモティベーションを高め,現在の危機に前向きに見えるようにふるまうこと」とされ ている。チームメンバーの質問に対して,メンバーの気持ちや懸念を共有し,フィードバッ クするために熟慮すること,さらに,この状況で感じる恐怖や怒りを認め,チームメンバー が自分の経験を意味づけることを助けることも求められている。一方で,リーダーも自身が 危機的状況下で「生きて」いる。リーダーが他のスタッフと同様に影響を受け困難な状況に

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Table. 2 危機的状況におけるリーダーシップの取り方 状況の重大さを認識する

言葉よりも行動を起こす 責任を持つ

状況を検証する

専門知識と経験的な直観との両者を大切にする 不確実性のある中で,決定する

柔軟に対応する

一人の人間として魅力的である 謙虚である

参画する

スタッフとリーダーの強みを活かす

長期に渡る高ストレス状況に対する対処法をもつ ポジティブな事柄に焦点化する

サポート源を明確に提示する コミュニケーションをとる

話し合いの場を設ける

重大な事態が生じた時に適切に報告する スタッフを鼓舞する

「意味のある」役割であることを説明する 連携・協働し,一緒に歩む

スタッフの短所と長所を知る スタッフの声を聴く

組織(チーム)の全体像を把握する 行動と実践をモデル化する

スタッフのモティベーションを高める 最重要課題を優先させる

冷静さを失わない

環境を整備する(整理整頓など)

優れたセルフケア方略を手に入れる さまざまな枠組みや境界を明確化する

いることも理解し,リーダーも支援される必要があるだろう。

5)個人が自身で行うべき支援

 COVID-19 という極度の緊張状態の中,自分自身のためにできることは何かを再考し,自 身が曝されているストレスについて自覚することも必要不可欠であるとされる。また,ここ では,休憩・休暇を取ることで,「リセット」することや,食事や睡眠を十分にとり,継続 的に運動することも推奨されている。加えて,ポジティブな出来事に焦点化することや電話 などで家族や友人と定期的に連絡を取り,自分の気持ちを伝えることの重要性も指摘されて いる。

3.医療従事者に対する具体的支援の実際と課題

 医療従事者は,患者をケアする専門職であるものの,自らがケアされる対象とはなりにく い。それは医療機関において心理的支援(相談やカウンセリング)を行うことに適した環境

(適した広さの部屋や秘密が守られる空間など)を用意することが難しいことや,激務の 中,労働時間中に心理的支援を受ける場所に移動し,具体的な支援を受けることが難しいこ と,感情労働であるために,その職業的責任を自らの力のみで解決しようとすること,職員 の心理的支援にかけるコストを確保できないことなどに起因すると考えられる。また,医療 従事者が極度の緊張状態や不安な状況に直面した後,何等かのケアが行われる場合,それは 上司による面接等に限定され,心理専門職などによる心理的支援が行われることは少ないと いった現状も報告されている(古川,2009)。

 こうした中,医療従事者の過重労働問題や業務の特殊性,医療訴訟の増大など,職業的ス トレスは複雑化しており(黒木,2009),医療機関における職員を対象とした心理的支援の 重要性も指摘されている(e. g., 橘椎,2009)。また,働きやすい職場環境をつくることを目 的に,心理職による職員のメンタルヘルスケアへの取り組みも行われている。そして,

COVD-19 蔓延という特殊な環境下においては,医療従事者のメンタルヘルスケアへの取り

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組みはこれまで以上に必要とされる支援といえるだろう。

 筆者は,首都圏の複数医療機関において,医療従事者の支援に携わってきた。ここでは,

主に対面による心理相談窓口の開設や労働安全衛生委員会への出席,研修教育機会の提供な どといった業務を,臨床心理学あるいはカウンセリング心理学といった立場より担ってき た。いわゆる,医療機関向け外部 EAP(Employee Assistance Program)としての機能 を,心理専門職の立場から稼働させてきた。COVID-19 感染予防の観点から,既存の対面に よる相談機会を提供することが困難となることもあり,この場合は電話相談やオンラインに よる相談を実施している。COVID-19 状況下における相談機会では,COVID-19 に直接的な 影響を受け不調を訴えるケース,COVID-19 がきっかけとなっている不調(COVID-19 以前 から潜在していた問題)など多様である。この多様なケースをまとめると,COVID-19 状況 下におけるケースの特徴は,大きく以下 3 点に分けることができる。

1)医療従事者としてのアイデンティティ

 COVID-19 に対する不安は,「感染しないか」や「感染させることはないか」といった,

そのウイルスに感染することへ対する不安が第一であろう。患者に感染者を出さないことや 受け入れた患者に感染の疑いが生じた場合,他の患者へと蔓延させることを防止させること も大きな課題である。こうした中,COVID-19 への感染そのものに対する不安のほか,

COVID-19 がきっかけとなって生じている各種問題は,心理相談の枠組みで十分に扱うべき 問題であることも少なくない。

 こうした中,子どもを保育園に預けることができないなど,通常利用できるサービスが病 院勤務であることを理由に利用できないケースが全国的に問題となっている。厚生労働省 は,「医療従事者等の子どもに対する保育所等における新型コロナウイルスへの対応につい て」(事務連絡)において,医療従事者であることを理由とした保健所等における差別や偏 見の禁止を指示している(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部,2020)。こ うした指示が政府より提示されるということは,医療従事者への差別が社会的問題となって いることを示すものといえる。

 医療従事者への差別やそれに関連する生活上の制限は,自分自身の職業に対する迷いや医 療従事者であることの価値を再認識する機会となり,今までの職業人としてのアイデンティ ティが揺らぐきっかけにもなり得る。また,COVID-19 以前に思い描いていたキャリアプラ ンについても書き換えることが迫られるケースもある。

 一方で,職業人としてのアイデンティティに対する疑問は,COVID-19 がきっかけとなり 生じている問題であるととらえることもできる。いわば,COVID-19 に“あぶりだされた問 題”であり,こうした問題を十分に扱うことは,医療従事者を支援する上では重要な着眼点 となるだろう。また,ここでは,生物・心理・社会モデル(bio-psycho-social model)をベ ースとした視点も重要である。過度の緊張状態における身体的側面の変化の有無や抑うつの 有無,社会的制限の有無を確認しながら,医療従事者としての自分(アイデンティティや存 在価値など)を再確認し,整理するプロセスも重要であろう。さらに,同僚との間で,ピア サポートが実現されることも職業的アイデンティティを明確化することに奏功するだろう。

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2)組織の課題

 COVID-19 以前から抱えていた組織の課題が顕在化することも特徴といえる。たとえば,

COVID-19 以前であれば,仮に,職場へ不満を持ち,職場にコミットメントできないという 状況であったとしても,その問題を先送りすることで何とか乗り切ることができる可能性も ある。こうした中,COVID-19 に関連する業務,いわば,先送りすることができない事態 が,潜在化していた対人関係の問題や組織の課題を顕在化するケースが散見される。

 有事において,支援時に自身の任務が不明瞭であることがストレスの要因であることが指 摘されている(重村・谷川・佐野,2012)。また,COVID-19 という不安な状況下におい て,平常と異なる任務を果たすことが求められる可能性を考えると,医療従事者に負荷され るストレスは過大なものである。さらに,治療法が確立されていない状況であるが故に,職 場のリーダーが明確なガイドラインを提示することが難しく,上司と部下との関係に不全感 が生じることも特徴といえる。こうしたことは Table.2 で挙げられている事柄を踏まえ,有 事におけるリーダーシップの在り方を再確認し,リーダー(上司)とメンバー(部下)との 相互援助の関係を構築することが望まれる。

3)休職と職場復帰の問題

 COVID-19 の影響にかかわらず,メンタルヘルス不調を抱える場合,一定期間の休職と加 療が必要となり,メンタルヘルス回復後には,職場の同僚や産業保健スタッフによる支援を 受けながら,職場復帰することが望まれる。COVID-19 の蔓延に伴い,医療従事者に課され る要請が高まる中,休職し加療することに対する罪悪感(同僚への申し訳なさや困難な状況 下で休職せざるを得ないことに対する自責の念など多様かつネガティブな感情)を有するケ ースが散見される。また,職場復帰を目前に控えているケースの場合,COVID-19 の影響に より復帰の時期が定まらないこと,外部の支援リソースを用いて復職支援を行っている場 合,感染予防の観点から,そのリソースを十分に用いることができないことなども特徴とい える。

 休職や職場復帰は,同僚とのシフト調整などといった現実的な問題と,休職者や職場復帰 の過程にある者に対する複雑な心境など,非常にデリケートな問題とが混在している。

COVID-19 状況下で職場として休職と職場復帰をどのように考えるか,職場の方針を明確化 し,周知することも必要だろう。そして,COVID-19 の有無に関わらず,信頼関係を高め,

リレーションを強くすること,メンタルヘルス不調に対する本質的な理解を促すことも,こ れまで以上に重要な課題となる。

 以上,本稿では,COVID-19 状況下における医療従事者支援の実際や要点などについてま とめ,その後,実際の支援を通して抽出される課題について触れた。組織への高いコミット メントが看護師の離職を抑える可能性(Mathie & Zajac, 1990)や職業集団への帰属意識や 専門職としての仲間意識が自尊感情を維持すること(Branscombe, Schmitt &, Harvey, 1999)が指摘されている。非常に高い緊張状態が続く特殊な状況で,医療従事者としてのア イデンティティを守り,また,メンタルヘルスを守るためにも,今一度,組織の課題を検討 する必要もある。また,医療従事者に対する支援について,その方法が体系化されることや

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実証的に検討し,エビデンスを提供することも今後の課題である。

【引用文献】

Branscombe, N. R., Schmitt, M. T. &, Harvey, R. D. (1999). Perceiving pervasive discrimination among African Americans: Implications for group identification and well-being. Journal of personality and social psychology, 77(1), 135-149.

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【Abstract】

 With the spread of COVID-19 infection, it is essential to provide psychological support a health care worker. It is necessary to provide support resources that match the needs while flexibly changing psychological support. In this study, firstly, the purpose was to summarize the main points of support a health care worker in COVID-19. Secondly, the purpose was to summarize the support that should be provided as an organization and the support that leaders should provide in an emergency. In addition, this study summarized various issues (identity as a health care worker, relationship at work, leave and return) of the organization, and discussed future psychological support activities.

 Key words:COVID-19, health care worker, psychological support, leadership, identity

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