博 士 ( 工 学 ) 鈴 木 育 男
学位論文題名
A Study on Chaotic Neural Oscillator for Ill‑Conditioned Robots
(不定状況ロボット向きカオスニューラルオシレータに関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文は,詳細なモデル化 が困難なロボットシステムにおいて,環境・身体・制御 の 各 ダイ ナミ クス を互 いの 相 互作 用か ら同 相の ダイ ナミ クスに引き込むことでロボッ ト の 行動を生成しようとする, リズムダイナミクス・アプローチを提案するものである . 近年のロボットに関する要 素技術の発展に伴い,高度化したロボットの動作環境の 拡 大 が期待されている.一例と して,人間とコミュニケーションを介して活動する家庭 内 福 祉 ロ ポ ッ ト , 惑 星 探 査 な ど の 未 踏 地 ロ ポ ッ ト な ど が 上 げ ら れ る . 従来の工学的設計では,設 計者が設計対象としての問題領域で起こりうる事象全て を 把 握し,この問題領域に対し て,設計対象が具備すべき仕様(センサやアクチュエー タ の 種類・個数)を満たすよう に必要な原理(理論,アルゴリズム,数式)を当てはめ る よ うな作業を行ってきた.こ のような設計手法により決定された問題領域内において 設 計 されたシステムは,普遍的 で制御可能であり予測的振る舞いを示し,頑健で信頼性 の 高 いものとなる.しかし,問 題領域が常に変化する可能性がある動的環境では,設計 者 が 事前に変化を予測し完全な ルールを設計することができなぃ.そのため,問題領域 を 分 割しサブ問題を解くことな どによって対処してきたが,問題が複雑化・肥大化する に っ れ,設計者によって複雑に 絡み合った要因を制御理論的な形で定式化(モデル化) す ることが困難となっている,
ロポットシステムが複雑化・多様化するにしたがって,(1),時変性,(2).相互作用性,
そ して この2っか ら派 生す る(3).モデル化困難性,を考慮した制御系の設計が必要と な る , 本 論 文 に お い て , こ れ ら3要 素 を 考 慮 し て 設 計 す る ロ ポ ッ ト シ ス テ ム を ill‑conditioned robotとして定義している.これは,従来手法での制御が設計者によって 整 備さ れた 状況 ,っ まり ,well‑conditionで あっ たこ とに対するアンチテーゼとし て ill‑conditionとしているものであり,ill‑conditionは特別なものではなく,生物や人工物 を含む実在する全ての実体に当てはまる特性であるといえる.
本論文では ,このill‑conditioned robotの制御をりズムダイナミクス・アプローチによ り 行うものである.リズムダ イナミクス・アプローチでは,制御系と身体系の間の相 互 作 用に関する評価を環境と身 体系との相互作用の結果から求め,それを基に制御系の ダ イナミクスを 変化させている.従来,このようなりズムの発生はCPG (Central Pattern Generator)等のぺースメーカ ー方式により実現され,歩行ロボットなどの歩様生成に 応 用 され 研究 され てい る. し かし ,CPGで は, 全て の振 動 子が 引き 込み 現象 を通 して 同 一 のりズム周期で動作し多様 性を失うこと,また,各振動子間の結合が固定的であり そ の 構成変更は不可能であるこ とが問題として挙げられる.そこで本論文では,リズム ダ イ ナミクスの発生・制御・維 持(再利用)が可能なカオスニューラルオシレータシス テ ムを導入している.
―1054−
最 後に ,数 種類のロボットによ る自律的行動獲得に対して,提案するりズムダイナミ ク ス ・ ア プ ロ ー チ が 有 効 な 方 法 論 で あ る と い う こ と が 明 ら か に さ れ て い る . 本論文は,6章から構成されている,以下にその概要を示す.
第1章は 序論 であ り, 本研 究の 背景 ,現 状の問題点,研究目的について述べている.
はじ めに ,ロ ポット設計における アプローチ手法について分類しその特徴をまとめ,比 較することで従来の制御手法の問題点を明らかにしている.次に,ill‑conditioned robot の特 徴に つい て述べ,それを定式 化している.さらに,本論文で提案するりズムダイナ ミクス・アプローチにっいて概念を述ベ ,その特徴を各トピックスごとにまとめている.
第2章で は, 提案 する りズ ムダ イナ ミク ス・アプローチの具体的な制御手法として,
カオ スニ ュー ラルオシレータシス テムについてとりあげている.このカオスニューラル オシ レー タシ ステムは,リズムダ イナミクスの発生にカオスニューロンモデルを基礎神 経素 子と する 『カオスニューラル ネットワーク(CNNs)』,カオスサーチと安定周期との 切り 替え につ いては『Dynamical Leaming Method (DLM)』,そしてダイナミクスの維持 と再 利用 を考 慮した『階層型モジ ュールネットワーク構造』による構成となっている.
ここ では ,こ れら各要素に関して その背景や性質などについて述べ,さらに基礎的な実 験を 行う こと でその能カについて まとめている.この実験結果から,カオスニューラル オシ レー タシ ステムが評価にした がい多様なりズム形成能カがあること,また,リズム の再構成が可能であることが明らかにさ れている.
第3章で は, 次章 で実 験を 行うSMA‑Net Robotにつ いて その 詳細 な特性について論じ ている. SMA‑NetRobotは,構造的柔軟性を実現するために多数の アクチュエータや弾 性材料を組み合わせた構造となっており ,制御対象として大自由度を有している.また,
SMA‐NetRobotは , ア ク チ ュ エ ー タ と して のSMAス プリ ング の 回復 カと 床面 の摩 擦カ と の バ ラ ン ス に よ り 動 作 可 能 で あ る とい う動 作特 性を もっ て いる .以 上か ら, この SMA・NetRobotが本論で指摘しているill‐conditionedr匸出otであると認識し,環境要因・
内部 要因 ・モ ジュ ール 問 の競 合要 因の3要 因が問題点として挙げられることを指摘して いる.
第4章で は, 提案 アプ ロー チの 有効 性を カオスニューラルオシレータシステムによる SMA・NetRIobotの行動生成に関す る実験を行い検証している.ここでは,ターゲット追 従の タス クを 様々 な結 合 形態 のSMA‐N餽Robotに関して行動生成の実験を行っている,
また ,環 境変 化に関しても実験を 行い,提案手法の適応性に関する議論を行っている.
さらに,それぞれの実験で構築されたネ ットワークの変化の様子についても検証を行い,
システムのロバスト性・適応性・再手|J用性について議論している.このロボット実験に おい て, 本提 案システムが,環境 変動に対しそれまでに獲得したりズムのいくっかを再 利 用 す る こ と で 素 早 い 状 況 復 帰 が 可 能 で あ る と い う 知 見 が 得 ら れ た . 第5章で は, 提案 手法 を2輸 型ロ ポッ トへ のナ ビゲ ーシ ョン 問題 に適用した実験につ いて 説明 して いる.この実験にお いて,単なるセンサ―アクチュエータという行動マツ プか らは 解決 できなぃ問題に対し て,リズムダイナミクスの導入により局所情報から大 域情報への変換が可能となり,それによ り適応行動が生成できることが明らかになった.
第6章にお いて,論文全体のまとめと総括を行っている,
‑ 1055−
学 位論文審 査の要旨
学位論文題名
A Study on Chaotic Neural Oscillator for Ill‑Conditioned Robots
(不定状況ロボット向きカオスニューラルオシレータに関する研究)
従来型のモデルベース.トアプ ローチの成功は,近年の二足歩行型ヒューマノイドロボ ット の正 確な歩行動作の 獲得に見られる.しかし,それらの歩行ロボットでは動 作環境 や制 御順 序などが,あら かじめ設計者により設定されたシステムであるため,環 境変動 など の予 測外の状況に対 する柔軟性に欠けている.これに対して,より柔軟な行 動を起 こせ るロ ボットの実現に 向けて,実際の生物から柔軟な機能を発現するための機 能メカ ニズ ムを 獲得しようとす る研究が盛んに行われるようになってきている.ロボッ トが,
生物 のも つ柔軟性や適応 性を獲得するためには,設計者に頼らなぃ自己獲得のた めのメ カニ ズム が必要であるが ,それに対する決定的な方法論は提唱されておらず,そ の確立 が望まれている.
本 学位 請求論文では, 制御対象であるロボットがもとから備えているダイナミ クスを 環境 との 相互作用を通し て同調させることにより,その環境に適した行動を自律 的に生 成す るた めのメカニズム を開発,実証したものである.本論文では,従来手法に おいて 外乱として処理されてきた(1).時変性,(2).相互作用性,そしてこの2っから派生する(3), モデル化困難性,を考慮して設計するロボットシステムをill‑conditioned robotとして定 義している.このモデル化困難なill‑conditioned robotに対して,リズムダイナミクス・
アプ ロー チにより,環境 ・身体・制御の各ダイナミクスを互いの相互作用から同 相のダ イ ナ ミ ク ス に 引 き 込 む こ と で 行 動 生 成 を 実 行 可 能 と す る 方 法 論 を 展 開 し て い る . こ のり ズム ダ イナ .ミ クス ・ア プロ ーチ を実 現す るた めに ,CPG(Central Pattem Generator)モデルに代わ るりズム発生システムとして,本論文ではカオスニュー ラルオ シレ ータ システムの導入 を行っている.カオスニューラルオシレータシステムは ,リズ ムダ イナ ミクスの発生・ 制御・維持(再利用)を可能としており,ダイナミクス の相互 作用 を通 じて,ロボット 全体で統一された情報リズムパターンを発生するための システ ムとなる.
―1056ー
昇 東
司 雄
侑
隆
充
数 内
森 田
嘉
大
大
和
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
本論文 の概要は,以下の通りである.
第1章 は 序論 であ り, 本研 究の 背景 ,現 状の 問題 点 ,研 究目 的, 本論 文で 定義 する ill‑conditioned robotの特徴について述べている.さらに,本論文で提案するりズムダイ ナミクス ・アプローチについてまとめている.
第2章 では ,提 案す るり ズム ダイ ナミ クス・アプローチの具体的な制御システムで あ る カオ スニ ューラルオシレー タシステムについて論じている.その構成として,リズ ム ダ イナ ミク スの発生にカオス ニューロンモデルを基礎とする『カオスニューラルネッ ト ワ ーク(CNNs)』,適切な結合 荷重を学習する学習法として『Dynamical Leaming Method (DLM)』 ,そ して ダイ ナミ クス の維 持と 再利用を考慮した『階層型モジュールネット ワ ー ク構 造』 を適用している. 基礎実験の結果から,このシステムが評価にしたがい多 様 な りズ ム形 成能カがあること ,また,リズムの再構成能カがあることの知見が得られ て しヽる.
第3章では,実際のill‑condition robotの例としてSMA‑Net Robotをとりあげている.
SMA‑Net Robotは ,構 造的 柔軟 性を 実現 するために多数のアクチュエータや弾性材料 を 組 み合 わせ た構造から制御対 象として大自由度を有しているが,環境要因・内部要因 ・ モ ジュ ール 問の 競 合要 因の3要 因が 問題 となり,その制御を困難にしていることを指 摘 している ,
第4章 で は, カオ スニ ュー ラル オシ レー タシ ステ ム によ るSMA‑NetRobotの 行動 生成 に 関す る実 験を行い,そのの 有効性を検証している.本システムが,環境変動に対し そ れ まで に獲 得し た りズ ムの いく っか を再 利用 する こと で素 早い 状況復帰が可能であ る と いう 知見 が得られており, さらに,構築されたネットワークにおいてシステムのロ バ スト性・ 適応性・再利用性についても論じている.
第5章 では ,提 案手 法を2輪型 ロポ ット への ナビ グー ショ ン問 題に適用し,単なる セ ン サー アク チュエータという 行動マップからは解決できない問題に対して,リズムダ イ ナ ミク スの 導入により局所情 報から大域情報への変換が可能となり,それにより適応 行 動が生成 できることで有効性を示している.
第6章において,論文全体のまとめ と総括を行っている.
これを要するに,本論文は,不定状況ロポッ ト問題において,ロボットが自身と環境 とのダイナミクスをりズムパターンとして獲得 することにより,環境変化に対しても,
統合された行動生成を可能とする制御メカニズ ムを与えたものであり,ロポット工学及 び , 複 雑 系 工 学 , 情 報 工 学 の 分 野 に 貢 献 す る こ と は 大 な る も の が あ る . よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める.