秋田応用生命科学研究会
第18回 講演会
要旨集
平成23年5月27日(金) 13:00-
◎プログラム 講演 15(25)分、討論 5 分 13:00-13:05 会長あいさつ 秋田応用生命科学研究会会長 杉山俊博(秋田大・医) 座長 小林 正之(秋田県大・生資) 13:05-13:25 バキュロウイルス感染 Sf9 昆虫細胞によるヒトインターロイキン-2 の生産 ○進藤祐宜1、菊地賢一2、後藤 猛2(1秋田大・工資、2秋田大院・工資) 13:25-13:45 アフリカツメガエル卵減数分裂におけるヒストンデアセチラーゼの影響 ◯岩下 淳、小玉 歩、阿部 達也(秋田県大・生資) 13:45-14:05 フィブリン分解を促進する糸状菌由来マルホルミンの構造活性相関 ◯小泉幸央1、長井賢一郎2、蓮見惠司3、小代田宗一1、杉山俊博1 (1秋田大院・医、2北里大・薬、3東農工大農・応生科) 座長 畠 恵司(秋田県総食研セ) 14:05-14:25 マウスES細胞における
Egam1
ホメオタンパク質群の細胞内分布部位に関する解析 ◯佐藤 匠、伊波百恵、森 祐貴、春日 和、小嶋郁夫、小林 正之(秋田県大・生資) 14:25-14:45 ヒト胚性癌細胞株 NT2 細胞の未分化状態および分化過程における Tetra-peptide repeat homeobox 1 (TPRX1) 遺伝子の発現解析 ○森 祐貴、伊波百恵、佐藤 匠、春日 和、小嶋郁夫、小林正之(秋田県大・生資) 14:45-15:00 休 憩 座長 水野 幸一(秋田県立大・生資) 15:00-15:30 (特別講演)「秋田での研究展開と抱負 "内分泌細胞の分泌顆粒形成機序"の解析を中心に」 ○穂坂正博(秋田県立大・生資) 座長 小笠原博信(秋田県総食研セ) 15:30-15:50 異種放線菌を宿主としたカスガマイシンの恒常的生産 ◯春日 和、松尾 高志、山本 知佳、湊 由衣子、桑原 直哉、飯野訓昌、小林 正之、 上松 仁1、池田 治生2、小嶋 郁夫 (秋田県大、1秋田高専、2北里大・北里生命研) 15:50-16:10 D-アスパラギン酸 特異的エンドペプチダーゼ生産菌Paenibacillus
sp. B38 由来セロビオ ース 2-エピメラーゼのクローニングと大腸菌における発現 ○韮澤 悟1、高橋砂織2(1JIRCAS、2秋田県総食研セ) 16:10-16:30 次世代シークエンサを利用した大規模塩基配列解析の試み ○福島淳、志村洋一郎、原光二郎、小西智一、鈴木英治、岡野桂樹、稲元民夫 (秋田県立大・生資) 16:30-16:35 閉会の挨拶 事務連絡(次回講演会開催について、交流会について、他)バキュロウイルス感染 Sf9 昆虫細胞によるヒトインターロイキン-2 の生産
○進藤祐宜1 ,菊地賢一2 ,後藤 猛2 (1 秋田大・工資,2 秋田大院・工資) [緒言] ヒトインターロイキン-2 (hIL-2)は T 細胞の増殖促進や NK 細胞の活性化などの生理機能を有す るサイトカインであり,抗腫瘍剤などに用いられている。大腸菌による hIL-2 の生産が行われている が,その多くは不活性な封入体として生成することが問題である。一方,昆虫細胞-バキュロウイル ス発現系(BEVS)は動物タンパク質の大量生産方法として利用されているが,内在性プロテアーゼ による分解が問題となっている。そこで本研究では BEVS による hIL-2 の生産を試み,プロテアー ゼ分解の抑制方法を検討する。 [実験方法]hIL-2 cDNA をトランスフェクションベクターpFastBac1-Pgp64 の gp64 プロモーター下流に挿入し, バキュロウイルスゲノムを組み込んだ Bacmid DNA にトランスポゾンを利用してこの遺伝子を導入し て組換えバキュロウイルス(AchIL2)を作成した。指数増殖期にある Sf9 細胞を無血清培地 Sf-900
Ⅱに懸濁させて細胞密度 5×106
cells/mL とし,AchIL2 を感染多重度(MOI) 0.1 pfu/mL で接種した。
1 時間振盪した後,新鮮培地をさらに加えて 1×106 cells/mL とし,28℃で振盪培養した。ウイルス接
種 3 日目の培地に 4 種類のプロテアーゼ阻害剤カクテル:Cocktail-A (mock),Cocktail-B (0.2 mM E-64,2 mM Leupeptin,0.2 mM Pepstatin A),Cocktail-C (20 mM AEBSF,0.02 mM Aprotinin, 0.2 mM Pepstatin A),Cocktail-D (20 mM AEBSF,0.02 mM Aprotinin,0.2 mM E-64,2 mM Leupeptin),または BSA,Triptone をそれぞれ添加した。6 日目まで培養した後,培養液と細胞画 分に分け,それぞれウエスタンブロットにより hIL-2 の生成挙動を分析した。培養液を PBS で透析し た後,Ni アフィニティー樹脂(Ni-IMAC Profinity)と混合した。5 mM Imidazole を含むリン酸緩衝液 (pH 8.0)で十分洗浄した後,500 mM Imidazole により hIL-2 を溶出させた。
[結果と考察]
BEVS による hIL-2 の生産を試みたところ,hIL-2 はウイルス接種 2 日目から発現して細胞外へ 漏出・蓄積したが,同時に部分分解も認められ,4 日目には完全に消失した。そこで,4 種類のプロ テアーゼ阻害剤カクテル(Cocktail-A,B,C,D)をウイルス接種 3 日目に添加したところ,システイン プロテアーゼ阻害剤(E-64,Leupeptin)を含む Cocktail-B,D の添加によってのみ細胞内・外の hIL-2 の分解が抑制された。以上より hIL-2 の分解はシステインプロテアーゼに起因することが分か った。
また,プロテアーゼ分解の競争阻害を期待してより安価な BSA または Triptone による hIL-2 分 解抑制ついて検討した。その結果,BSA の効果はほとんど見られなかったが,Triptone は濃度依 存的に hIL-2 のプロテアーゼ分解を抑制し,10%Triptone 存在下で大量の hIL-2 が生成されること が分かった。さらに,高濃度の Triptone を含む培養液上清から Ni アフィニティーカラムによる hIL-2 の精製を試みたところ,一段階のクロマトグラフィーにより単一の hIL-2 が得られた。
アフリカツメガエル卵減数分裂におけるヒストンデアセチラーゼの影響
○岩下 淳、小玉 歩、阿部 達也
(秋田県立大学 応用生物科学科 分子細胞機能グループ)
【目的】
動物の減数分裂から初期発生に至る過程では遺伝子の発現が大きく変化する。遺伝子
の発現の制御には、ゲノム DNA に含まれるヒストンタンパク質のアセチル化が大きく関与
する。トリコスタチン A (TSA)などのヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤で処理したツメガ
エル初期胚はヒストンのアセチル化が蓄積するとともに、眼形成などに大きな異常が生じる
ことが 20 年以上前から報告されてきた。しかし、胚発生や卵減数分裂においてヒストンのア
セチル化がどのような役割を果たしているのか詳細な研究は為されていない。
我々は以前ツメガエル未成熟卵の核質を別の未成熟卵に注入すると、第一減数分裂の
指標となる GVBD(germinal vesicle breakdown)が早く誘起される現象を見出した。この核質
には HDAC が局在している。従って核に局在する HDAC が卵減数分裂の進行に関与する
可能性がある。
本研究では、減数分裂の進行における HDAC の機能を明らかにするために、以下の実験
を行った。
【方法】
ツメガエルの卵巣から摘出したステージ6の未成熟卵にTSAなどの HDAC 阻害剤を添加
し、以下の点について解析を行った。
① TSA によって HDAC 活性を阻害した場合における減数分裂の進行を解析した。
② ツメガエルの未成熟卵から total RNA を抽出し、RT-PCR を用いてツメガエル HDAC
cDNA を合成した。その cDNA から HDAC mRNA を合成した。HDAC mRNA をツメガエ
ルの未成熟卵に注入し、減数分裂進行の指標となる GVBD の時期までの時間に与え
る影響を観察した。
③ HDAC mRNA 注入卵になどにおける、細胞周期関連分子 cdc2 の挙動の変化を観察
した。
【結果と考察】
◆ TSA(HDAC 阻害剤)で処理した卵は、無処理の卵と比較して TSA の濃度依存的に
GVBD が遅くなった。逆に HDAC mRNA を注入した卵では、対照群の卵と比較して
GVBD が早く誘起された。
◆TSA などによりGVBD誘起までの進行に影響が観察された卵では、cdc2 などの活性
も連動して変化している現象を観察した。
これらの結果から、GV に局在する HDAC に減数分裂の速度を上げる活性があることが
示唆された。
フィブリン分解を促進する糸状菌由来マルホルミンの構造活性相関
○小泉 幸央1、長井 賢一郎2、蓮見 惠司3、小代田 宗一1、杉山 俊博1 (1秋田大院・医、2北里大・薬、3東農工大農・応生科) 【目 的】近年、脳梗塞や心筋梗塞といった血栓性疾患の発症の増加が認められ、その治療な らびに予防がきわめて重要である。現在、抗血栓療法に用いられる血栓溶解剤として、血栓 の主成分であるフィブリン(Fbn)の分解酵素プラスミンの不活性前駆体プラスミノーゲンを 活性化するプラスミノーゲンアクチベーター(PA)が臨床利用されているが、血中での短い 半減期や全身の出血傾向といった副作用の危険性を有した酵素製剤である。このような問題 点の改善を目的とした遺伝子改変型の PA の開発と同様に、低分子型血栓溶解剤の開発が求め られている。このような背景から、血栓溶解を促進する低分子化合物の開発を目的に In vitro 血栓溶解評価系を用いたスクリーニングを行なった。約 2,500 種類の微生物培養抽出液を対 照としたスクリーニングの結果、糸状菌 Aspergillus niger が生産する分子内ジスルフィド結合 を有する環状ペンタペプチド、マルホルミン A1(MA1)を見出した1)。MA1は PA の一種で あるウロキナーゼ発現細胞を介したプラスミン活性を増加させるが、詳細な作用機序は現在 のところ不明である。今回、MA1の血栓溶解促進作用の向上と細胞毒性の低下を目指した構 造活性相関を展開した。 【方 法】In vitro血栓溶解試験は、[125 I]標識Fbnをコートしたマイクロプレート上で血漿及び 単球様U937細胞を反応後、反応上清に遊離した[125 I]Fbn分解物のγ-カウンターによる定量に より評価した。細胞毒性はMTT試験により評価した。構造活性相関に用いる天然型MA1同族 体は東理大の菅原二三男先生から恵与された。非天然型MA1誘導体は固相合成法により作成 した。 【結 果】MA1の構成アミノ酸であるD-Leu、L-Ileが異なる疎水性アミノ酸に置換された8種の 天然MA1同族体はいずれも[125I]Fbn分解を促進した。次に、MA1分子内ジスルフィド結合を還 元した結果、促進活性は消失した。続いて、MA1を構成するL-Val、D-Leu、L-Ile内の1残基 をLysに置換した3種のLys誘導体の活性評価の結果、いずれのLys誘導体にも促進活性を見出 せなかった。しかし、側鎖ε-アミノ基をtert-ブトキシカルボニル(Boc)基で保護したLys誘 導体には促進活性が検出された。同様に、疎水性アミノ酸をPheに置換した3種類のPhe誘導体 からも促進活性が検出された。以上の結果から、MA1の活性発現には分子内ジスルフィド結 合および疎水性側鎖の存在が重要なこと、さらに促進活性を示す誘導体の活性濃度領域はい ずれも1 – 5 µMで変動が見られないことがわかった。また細胞毒性は、Phe誘導体 > BocLys 誘導体 > MA1 >> 還元体 > Lys誘導体 の順番となり、[125I]Fbn分解促進活性と細胞毒性には 厳密な相関が観察されなかった。1) Y. Koizumi, K. Hasumi, J. Antibiot., 55,78-82 (2002).
マルホルミン天然型同族体および非天然型誘導体
aa1 aa2 aa3 aa4 aa5
天然型 MA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-Ile MA2 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-Val MA3 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-Leu MA3(MB1b, MC) D-Cys D-Cys L-Val D-Ile L-Val MB1a D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-alloIle MB2 D-Cys D-Cys L-Val D-Val L-Leu MB3 D-Cys D-Cys L-Val D-Ile L-Leu MB4 D-Cys D-Cys L-Val D-Ile L-Ile MB5 D-Cys D-Cys L-Val D-Val L-Ile 非天然型 3-LysMA1 D-Cys D-Cys L-Lys D-Leu L-Ile 4-LysMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Lys L-Ile 5-LysMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-Lys 3-BocLysMA1 D-Cys D-Cys L-BocLys D-Leu L-Ile 4-BocLysMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-BocLys L-Ile 5-BocLysMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-BocLys
3-PheMA1 D-Cys D-Cys L-Phe D-Leu L-Ile 4-PheMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Phe L-Ile 5-PheMA1 D-Cys D-Cys L-Val D-Leu L-Phe D-Cys L-Ile D-Cys D-Leu L-Val NH NH HN HN N H O O O O O H S S マルホルミン A1
マウス ES 細胞における Egam1 ホメオタンパク質群の細胞内分布部位に関する解析
○ 佐藤 匠,伊波 百恵,森 祐貴,春日 和,小嶋 郁夫,小林 正之 (秋田県大・生物資源) 【緒言】 マウスにおける最初の細胞分化は,8 細胞期から桑実期にかけて開始する内部細胞塊と栄養外胚葉への 細胞分化である。私たちは,その分子機構を解明するため,8 細胞期から桑実期にかけて発現量が増加する 遺 伝 子 を 探 索 し た 。 そ の 結 果 , Egam1 ホ メ オ タ ン パ ク 質 群 ( Egam1[29kD] , Egam1N[14kD] お よ びEgam1C[17kD])を発見した1)。初期胚を構成する未分化細胞のモデルとしてマウス ES 細胞を用いた機能解析 により,Egam1 ホメオタンパク質群は未分化状態の維持または細胞分化に関与することが示されている。よっ て,Egam1 ホメオタンパク質群は転写調節因子として遺伝子発現の調節に関与すると推定している1,2)。 転写調節因子の核への移行は核膜孔によって制御されており,その機構は次の通りである。1.アミノ酸配 列中に NLS(核移行シグナル)を含む場合,NLS 結合タンパク質である Importin ファミリーにより核への移行が 促進され,核へ局在する。2.NLS を含まなくても分子量 40kD 以下である場合,拡散によって核膜孔を自由に 通過することにより,核と細胞質に分布する。 Egam1 ホメオタンパク質群が転写調節因子として機能するためには,核へ分布すると予想されるが不明で ある。そこで本研究では,これらの細胞内分布部位について検討した。 【材料および方法】 マウス ES 細胞における Egam1 ホメオタンパク質群の細胞内分布部位を検討するために,免疫染色法を用 いた。なお,マウス ES 細胞では Egam1 ホメオタンパク質群(3 種)が発現している。免疫染色に用いる抗 Egam1N 抗体と抗 Egam1C 抗体は,構造上の関連性から Egam1 も認識する。そこで,Egam1 ホメオタンパク質 群を強制発現させることにより,それぞれのタンパク質を優位に検出できるマウス ES 細胞を作製して,細胞 内分布部位の検討に用いた。
Egam1 ホメオタンパク質群それぞれを強制発現させた ES 細胞における Egam1,Egam1N または Egam1C (FITC),および Oct4 (DyLight594)を二重免疫染色し,蛍光顕微鏡により細胞内分布部位を観察した。なお, Oct4 は ES 細胞で発現しており,核に局在することが既知である転写調節因子である。
【結果および考察】
ウェスタンブロット法により,Egam1 ホメオタンパク質群それぞれを強制発現させた ES 細胞におけるタンパク 質発現量を検討した。その結果,強制発現させたタンパク質の発現量は明確に増加していることが判明した。 よって,免疫染色においても強制発現させたタンパク質が検出されることが示唆された。
Egam1 ホメオタンパク質群強制発現ES 細胞において,Egam1,Egam1N,Egam1C は Oct4 と同様に核に局在 することが示された。すなわち,Egam1 ホメオタンパク質群は核内において,転写調節因子として機能すると 考えられる。また,Egam1 ホメオタンパク質群のアミノ酸配列中に NLS が存在することが示唆された。 今後は,Egam1 ホメオタンパク質群が直接的に転写調節を行う標的遺伝子を同定すること,および Egam1 ホ メオタンパク質群のアミノ酸配列中に存在すると推定される NLS を同定することを予定している。
【参考文献】 1. Saito et al., Cloning of complementary DNAs encoding structurally related homeoproteins from
preimplantation mouse embryos: their involvement in the differentiation of embryonic stem cells., Biology of
Reproduction, 82: 687-697 (2010), 2. Saito et al., Relationships between homeoprotein EGAM1C and the
expression of the placental prolactin gene family in mouse placentae and trophoblast stem cells., Reproduction,
ヒト胚性癌細胞株 NT2 細胞の未分化状態および分化過程における Tetra-peptide repeat homeobox 1 (
TPRX1
) 遺伝子の発現解析○ 森 祐貴,伊波 百恵,佐藤 匠,春日 和,小嶋 郁夫,小林 正之 (秋田県大・生物資源) 【緒言】 マウスにおける最初の細胞分化は,8 細胞期から桑実期にかけて開始する内部細胞塊と栄養外胚葉への 細胞分化である。しかし,その分子機構は充分には解明されていない。私たちは,最初の細胞分化を制御す る分子機構を解明することを目的として,桑実期に発現量が増加する遺伝子の探索を行った結果,ホメオタン パク質 Egam1 を発見した。Egam1 は,初期胚のモデル細胞である ES 細胞の細胞分化に関与することが示さ
れている1)。また,マウス ES 細胞においてEgam1 mRNA はレチノイン酸添加(+RA)分化誘導により発現が誘
導される。 Egam1遺伝子はマウス第 7 染色体にコードされている。またTPRX1遺伝子は,ヒト第 19 染色体にコードさ れている。染色体上におけるEgam1とTPRX1の位置関係は一致している。さらに,Egam1 の N 末端側ホメオ ドメインと TPRX1 のホメオドメインは paired タイプであることから,TPRX1はEgam1のヒトオーソログ遺伝子で あると推定される。TPRX1 は精巣と目で発現していることが既知であるが,具体的な機能は報告されていな い。 そこで本研究では,未分化状態維持および分化誘導処理した細胞におけるTPRX1の機能を明らかにするこ とを目的として,精巣由来であり,また神経系に分化誘導することができる,ヒト胚性癌細胞株 NT2 細胞の未 分化状態と分化過程におけるTPRX1 mRNA の発現について検討した。 【材料及び方法】 未分化状態維持培養および+RA分化誘導培養(14日間)したNT2細胞からRNAを精製し,cDNAを合成した。
未分化マーカー(NANOG),原始内胚葉マーカー(GATA6),神経外胚葉マーカー(MASH1),栄養外胚葉マー
カー(CDX2),およびTPRX1 mRNA発現量をReal-time RT-PCRにより定量した。 【結果】 1) +RA分化誘導したNT2細胞では,未分化状態維持培養時とは明らかに異なる形態のコロニーが認められ た。 2) 未分化マーカーであるNANOGの発現量は,未分化状態維持培養時では高く,+RA分化誘導培養時では有 意(p<0.05)に減少した。逆に,分化マーカーであるGATA6,MASH1,CDX2の発現量は,+RA分化誘導培養 開始後,有意(p<0.05)に増加した。 3) TPRX1 mRNA発現量は,未分化状態維持および分化誘導培養時において検出限界以下であった。 【考察】 NT2 細胞において,TPRX1 は未分化状態の維持および原始内胚葉,神経外胚葉,栄養外胚葉への分化と の関連性は低いことが示された。 TPRX1 は精巣と目で発現していることから,偽遺伝子ではないことが示されている。そこで今後は,TPRX1 と Egam1 強制発現ベクターをそれぞれ構築し,ヒト NT2 細胞とマウス ES 細胞にそれぞれ遺伝子導入し,細胞 分化への影響を比較する予定である。 【参考文献】
1. Saito et al., Cloning of complementary DNAs encoding structurally related homeoproteins from preimplantation mouse embryos: their involvement in the differentiation of embryonic stem cells. Biology of Reproduction, 82: 687-697 (2010)