長崎県生物学会誌 No.56(2003) Trams.NagasakiBiol.Soc.No.56(2003)
長崎市に野生化 しているフヨウについて
中 西 弘 樹l)・岩 城 太 郎l)・川 良 奈緒美2)
HI'bI'scusmutabi/jsL.naturalizedinNagasakiCity
HLrOkiNAKANlSHl,TarouIwAKIand Naomi KAWARA
Abstract:Ht‑biscusmutabLIL'sL isonglnallydistributedincentralChinaandoftencultivatedlnJapanasagarden‑
planL.ThenaturalizedpopulationwasinvestlgatedatoutskirtsofNagasakiCity.Theshrubsofthespeciesgrow alongtheriverandtotalnumberofindividualsmorethan1m heightwasabout100 . TheHl‑bLSCuSmutabL'lt's dominantcommunltyWasPhyLosociologlCallylnVeStlgated.ThecommunltylSruderalandisconstantlyassociated w
ithDebregeanaedulisandArudodonaxinshrublayerandML'scanthussT'nensts,Solidagoaltt'sslmaandMt'cr10le‑ piaslrigosajnherblayer.Tenf)oralcharactersweremeasuredinfiveIndividualsrandomlyselected:petallength, petalwidth,stylelength,anther‑stlgmadistance,anther‑antherdistance,stylelobelength,numberofstamens(an‑
thers),numberofcalyclelobes,Calyclelobewidthanddrymoralweigh・Thefloralvariationswaslittle.These factsindicatethatthlSPOpulalionmightonglnatefromaplantaccidenta】Iy)ntroducedhere.
Keywords:floralcharacter,Ill‑btscusmutabilis,Nagasaki,naturalizedpopulation,ruderal.
は じ め に
ブヨウHL'bt'scusmulabiLL'sL.はアオイ科 フヨウ 属の落葉低木で,中国中部原産 と考えられてい るが (大場1
9 89)
,江戸時代 の園芸書 や本革書 にも記載 されているように古 くか ら栽培 され, 今で もふつ うに栽培 されている.また,本州 (伊 豆 ・紀伊)や九州の一部では野生化 しているこ とが知 られている (牧野19 61
;大井1 9 65
;熊本 記念植物採集会19 69
;大分県植物 誌刊 行 会編1 9 8 9
;大場1 9 8 9).伊豆では大正 の ころ まで は
樹皮を下駄の鼻緒 に用いるために多 く見 られた が,今 はご く減少 してい る と言 う (杉本19 8 4).
紀伊半島では熊野川沿岸に野生 に近い状態でそ の生育が知 られている (伊藤1
9 65).
以上の ように野生状態 となっていることは知 られているが,ふつ う空地などに単木で見 られ
るのがふつ うで,群生 していることはまれで, その生態 など詳 しいことはこれ まで知 られてい なかった. またフヨウは,長崎県か ら九州西部 を経て琉球列島に分布す る近縁種 のサキシマ フ ヨウと種間雑種がで き,浸透交雑個体群が形成 されてい るこ とが知 られてい る (常 谷 ・大場
1 9 8 4)
. したが って, フヨウその ものの形態 や, 各形質の変異状況 について詳 しく調べ てお く必 要がある.筆者の一人中西 は長崎市南部の渓流 沿いに群生 している ところを発見 していたので, 上記の点 を明 らかにするために,筆者 らはその 生態 と形態変異 について調査 を行 った.調 査 方 法
フヨウの生育地の詳 しい分布状況 について, 野外調査 によって
5 0 0 0
の1
地形図に分布地点 を 図示 した. また, フヨウが群生 している植分 に1
)〒8 5 2‑8 5 2 1
長崎市文教町1‑1 4
長崎大学教育学部生物学教室2
)〒8 5 7 ‑0 1 0 2
佐世保市松瀬町8 3 8
市立大野中学校‑ 7‑
sLiTs̲Lb% ‑Aisl D
Fig.1.Measuringpansorflower.
PL:petallength,PW:petalwidth.AAD:anLher‑ anLherdistance,As°:anther‑stlglTladistance.SL:
sty)e一ength,SLL:stylelobe)engLh
Fig
.2.
LocaliliesorflibiscLISmLIIabi/LIB.つ い て はBraun‑Blanqet(1964)に)占づ く柄 物 社 会学 的方法 によって調査 し,群落衣にまとめ た.
花の形態 の変異 について調べ るため に,任意 に選 んだ
5
株 について, Fig.1
に示 した各部の 大 きさ,す なわ ち花弁 の長 さ (pL,花 弁の幅 (pw ),耕 一前 距 離 AAD),節 ‑柱 頭 距 柾 (As°),花 柱 の長 さ sL,花 桂 袈 片 の 長 さ (SLL),雄蕊 数,副 p,,p‑裂片 の 政,副ワ
JF・裂 片 の 幅 お よび花器官の乾並立 を測定 した.前 一桁距 離 (人AD)は,雄 が 花 柱 の周 関 にあ り,そ の 一番 下に位 FTJす る約か ら一番 Lにある約 までの 距離である.約 一柱頭距離 (As°)は,約の先Fig・3・Views or lJibL'scLIS mLLlabi/is communil) (Sept.19.2(氾2).a.Lovuerstream SLaLld :b.upper
slream〜land
端部か ら柱頭の ト部 までの叔短距離である.花 柱 の長 さ
( S
L)は, フ ヨウは花柱 が 曲が って いるので,} =
i・直:ぐに した状態 で測定 した.花柱 裂片の良 さ (SLL)は花柱 の先端部が5
つ に裂 けてお り,その良 さを示す ものである.副 p,JP‑裂 片の幅 は, 1つの花で,幅の広い ものか ら狭い もの まであるので,瓜 も幅の広い もの を測定 し た.測定 した花の数は,各個体 とも2 7‑3 7
個で ある.ただ し,副 p,i'‑裂片数お よび裂片の幅 につ いては各個体1 1‑1 5
個,雄蕊数 については各個 体4
個の花 について測定 した. また,花器官の 乾 菰立 については,それぞれの株か ら花が終わ りしぼんだ状態の もの を採処 し,室内でお よそ2
週間乾燥 させ, 屯さを測定 した.これは花冠, 雄蕊,子房以外の雌蕊が含 まれる.それぞれ平 均お よび標幣偏差 を求め比較 した.純子 については, 1果実あた りの椎 +軌 お よび結実やす なわち成熟椎+の割合 を調べ た.
これは
1 7
個の熟 した果実 を採放 し,果実あた り の成熟稚 F数 と しいな (未熟)椎 If故 を救 える‑ 8 ‑
Tabl el.Hi bL ' s c u Smut abi L i sc or r L muni t y St a ndnumt xr
St udya r ea
(mL)He i ghtofs hr ubl a yer( m) Cove r a geofs hr ubl a yer
(%)He i ghtofhe r bl a ye r( m) Cove
ra geofhe r bl a yer ( %) Numt x: rofs ㌍c i es
65401011671
5152・3701胡840451043911
305015833.921255587322.90.1
155080212.80.11
調査番号 調査面積 (rd) 低木層高 さ (m) 低 木層構被率 (%) 草本層高 さ (m) 草本層値被率 (%) 出現種数
Hi bi s c usmut a bi u s Mi s c ant huss i nens i S De br e ge a r iaedul i s Sol i da goa lt i s s i ma Ar udodona x Mi c r ol e pi as t r i gos a Cl e ma t i spi er ot i i Boe hmer i as pi c a t a B
oe hme r i ani pononi vea Chenopodi um a mbr os i oi de s Cyc l os or usa c umi nat us
Pol ygonum c hi nens eva nt hunber gi a num Ar t e mi s i apr i nc e ps
A
n ge u c ada hur i c a
Pe r i u af r ut e s c e nsva nj a poni c a Di os ° or e aj a poni c a
Mos l adi a nt her a
Cl er o de ndr ont r i c hot omum Mi c r os t e gi umvi mi neum L
ec l nur uSj a p oni c us Rubuss i e t : 氾I di i Fi c user e c t a
Pol ygonum dumet omm Rubusbuer ger i Pol ygonums ent
ic oS u m Rubushi r s ut us Cyr t om ium f a lc at um
Pa e de r i ss c ande nsva r. ma i r ei De ut z i ac r e na t a
Onyc hi umj a poni c um E1 5 hol t z i ani pponi c a Ca r pe s i um a br ot a noi des Ca r e xs oc i at ava t . uber Fa ga r aan a nt hoi des Co c c ul usor bi c ul a t us Ps e udos a s aj a poni c a Pol ygonum c us pi dat um Opl i s menusundul at i f ou us
4
4 33 55 55 4 4 44
7ヨウ123+12代
.
1233+1
1 ・ + +
2121.21十122222.十1十2十 221212・++
122ススキ ャナギイチゴ セイタカアワダチソウ ダンチク
イシカグマ コバノボタンズル
+ 12 コアカソ
+
十2 12 カラムシ2
+
+
+
+ + + + +
2
十1211稲+ 12+
SPSf++
十十 + + + 十 十 + +
ケアリタソウ ホシダ ツルソバ ヨモギ ヨロイグサ エゴマ ヤマノイモ ヒメジソ クサギ アシボソ メハジキ ホウロクイチゴ イヌビワ ツルイタ ドリ フユイチゴ ママコノシリヌグイ クサイチゴ オニヤプソテツ へクソカズラ ウツギ タチシノブ
フ トボナギナタコウジュ ヤプタバコ
ツクシスゲ カラスザンショウ 12 アオツヅラフジ 11 ヤダケ
十2 イタドリ 十2 チヂミザサ
9
Table2. Floral charactersof
Hi bL ‑ s c usmuE abi l i s
lndLVldualnumber
characters No.ofrecords 1 2 3 4 5 Peta=ength(m )
Petalwld血(mm)
Anther・antherdistance(mm) Anther・stlgmad]stance(mm ) Stylelength(mm)
Style)obelengdl(mm) NtJmtNtrOfstamens Dryi)oralwelght(mg) Numberofca)ycle一obes Calyclelobewidth(mm)
n=27‑37 爪=27‑37
∩‑27‑37
∩‑27‑37 n‑27‑37
∩‑27‑37 n=4,5
75.50士 6.43 61.13± 7.63 24.81± 1.誹) 4.71± 1.91 34.66±1.83 5.09±0.44 133.4± 7.1
∩‑14‑27 320,7±54.4
∩‑ll‑16 9.CO士1.03
∩‑ll‑16 2.63± 0.57
75.34j:4.63 61.24± 4.23 24.81± 1.70 3.85± 1.42 34.24j:I.39 5.20± 0.56 130.6± 8.7
74.42± 3.59 62.17± 5.と苅 24.47±1.74
5.04± 1.35 34.71± 1.35 4.98±0.46 139.3±10.1
73.45± 4.12 62.67± 6.12 24.32± 1.38 4.57± 2.19 34.80±1.33 5.31± 0.46 140.0± 3.4
72.31± 4.56 61.76± 6.19 24.02± 2.44 3.01士1.54 33.74±1.55 5.10j:0.45 133.0± 6,0 2獣).4±26.0 312.4±34.5 305.8±41.2 314.9±41.2 8.43± 0.85 8.59± 0.92 8.18± 0.60 8.73± 0.59 2.24± 0.45 2.27± 0.48 2.45± 0.30 2.55± 0.29
ことによって求めた.
結 果
1.分布状況 と群落
フヨウの野生が見 られる所 は長崎市の最南端 に位置す る千 々町で,国土地理院2万 5千分の 1地形図名 「千 々」 にある.その地域 の背後 に は^郎岳 (海抜590m)や小八郎岳 (海抜564m ) な どの山地が迫 り,天草灘 に面 した南東斜面 と なってお り, ビワの栽培が盛 んな長崎市で も最 も温暖 な地域 である. フヨウが生育 している地 点 は,Fig.2に示 した ように,集落か ら離 れた 千 々 川 の 中流 域 で,川 沿 い に お よそ
6 0 0mに
渡 って,樹 高1m
以上 の個 体 が約1
00株 ,それ よ り小 さい株 や幼個体 は さらに多 く見 られた.千 々川 は,中流域 に
9
つの堰堤があ り,通常 は ほ とん ど流 れが な く,堰 の両側 に水が溜 ってい る程度であ り,
滴 れ川 となっているが,降雨の 後 は しば ら く流 れがで きる. さらに雨量が多い 時 には,大 きな流 れ となる. したが って,ふつ う中流域 は幅10‑数10m以上の河原 となってい
る. フヨウは河川の緑 や河原 に生育 してお り, 所 々群生 している (Fig.3).得 られ た
6
つの植生調 査 資 料 をTablelに ま とめ た.群落高 は2.3‑ 4mで,低 木層 は フ ヨ ウが優 占 し,ヤナギイチ ゴ, ダンチ クが ほぼ常 在的 に出現 している.草本層 はふつ う植被率が 低 く,ススキ,セイタカアワダチ ソウ, イシカ グマな どがふつ うに見 られる.その他,優 占度 は低 いが,多 くの草本類が まば らに生育 してい る.008060叫200(∈∈)エIBua1
1 2 3 4 5
lndividuatnumber
Fig・4・Ⅵ山ationsofmean petallength and width (barsarestandarddev】atlOn).
0
0▲U04
321(UJE
)Llt6ual
噌aUUelS!0□ AAD ■SL
1 2 3
1ndividuatnumber
4 5
Fig・5・Vanationsofstigma‑stigmameandistancear)d meanlengthofstigma(barsarestandarddeviation),
2.
花 の形態変異測定結 果 をTable2に示 した.いず れの形 質 も個 体 間 に有意 な差 は な く,特 に花弁 の長 さ (pL) と花弁 の幅 (pw)の各個体 の平均 はそ れぞれ72‑76mm,61‑63mmと変異の幅 も狭 く, ここの個体群 はほぼ同 じような花の大 きさを し ていた (Fig.4).また,荊 一雨距離 (AAD), 花柱 の長 さ (sL),花柱 裂片 の長 さ
( SLL
) ち 平 均 が そ れ ぞ れ24.0‑24.8mm,33.7‑34.8mLn,5.0‑5.3m皿と変異の幅は狭 かった(Fig.5),
‑ 10 ‑
しか し,約 ‑柱頭距離
( As°)
と花器官重量は かな り変異の幅があった. また花器官重量は乾 燥の程度によって違 ってお り,同 じ材料で も測 定 日によって少 し違いがあ り,乾燥が不十分で あった可能性がある.副等裂片の数 は
8‑ 9
個,裂片 の幅 は2. 2‑
2. 6
m と変異の幅は小 さく, また雄蕊数 も13 0‑
1 40
個であった.1果実あた りの種子数 (成熟種子数+ しいな 種 子 数)は平 均2
3 6. 2±1 2. 6
個 で,22 4‑27 3
個 の間にあ り,その変異の帽は小 さい と言 える.しか し,成熟種子の割合は
2 6. 4‑8 8. 7%
(平均5 6. 5%)
と変異が大 きく,これは訪花昆虫によっ て他家受粉が成功 した もの とそ うでない もの と の差によるもの と思われる.予備的な実験では,ここのフヨウ個体群はかな り自家不和性がある と思われた.
考 察
長崎市千々町に野生化 しているフヨウ個体群 は,山間の河原 とい う人為の影響が少ない不安 定な立地に先駆的に生育 し, 自然度の高い群落 であるといえる. フヨウ群落の本来の生態は明 らかではないが,近縁為のサキシマフヨウが, 海岸近 くの裸地や人為的にで きた空地,河原な どに生育 してお り, フヨウもこの ような不安定 な立地が本来の生育地であると思われ,撹乱依 存種 とみなすことがで きる. したがって,今後 とも河原の植生が豪雨などによって遷移の進行 が妨げられれば,フヨウ群落は維持 されてい く
もの と考えられる.
計測 した花の形質の うち,花弁の長 さ (pL), 花弁の幅
( pw)
,荊一雨距離( 人AD)
,花柱 の長 さ (SL),花柱裂辺の長 さ
( SLL
),副等裂片 の数,副等裂片 の幅,雄蕊数は変異の幅が小 さ く,遺伝的にかな り安定 してお り,各地のフヨ ウ個体群あるいはフヨウ属植物の花 を比較 をす るのによい形質であると考えられる.一方,調 査地の個体群の個体変異は きわめて小 さく,遺 伝的多様性 に乏 しいことは, 1個体 またはご く 少数の個体 を起源 に繁殖 していった もの と考え られる.すなわち,何 らかの理由で偶然 にフヨ ウの種子が この河原 に定着 し,比較的短い年月 の間に,裸地がで きやすい河原に繁殖 していっ た もの と考 えられる.文 献
Br a u n ‑ BI a n qu e t ,J ・ 1 96 4
lP f la n z e ns o z i ol og i e ・ 3 Au
fl"Sp r in g e r , Wi e n
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常谷幸雄 ・大場秀幸
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‑ l l ‑一