立正大学経営学会
立正経営論集
第46巻 第1号
ゼロレバレッジ企業の実態
― 日本の上場製造業822社を対象として
高 見 茂 雄
要旨:日本の上場製造業11年度10業種822社のうちゼロレバレッジ企業は 77社存在する。その傾向として,トービンのQは大きく,外国人持株比率は 高く,金融機関持株比率は低く,配当性向は高く,格付スコアは高く,社齢は 若いという結果がえられた。
キーワード:①完全ゼロレバレッジ状態,②財務制約度 (financial constraints),
③借入余力 (debt capacity),④エージェンシーコスト,
⑤処置群・対照群
1.はじめに
リーマンショック直前の2008年6月に日本経済新聞は「上場企業4割〔実質〕
無借金」,欧州債務問題が顕在化した2012年6月には「上場企業,半分が〔実質〕
無借金」と報じている。日本の上場企業では〔実質〕無借金企業の割合が無視 できない以上のレベルに到達し増加トレンドにある。その背景には,「実質無 借金になると社債の格付けが上がり,低コストで資金調達できるなど財務の機 動性が増す(日本経済新聞(2008))。」効果があることや,「企業は財務内容の 改善を急いでいる。事業環境の変化に身構えると同時に,将来の成長に備えた 投資機会を慎重に見極めようとしている(日本経済新聞(2012))。」などの動
ゼロレバレッジ企業の実態
―日本の上場製造業822社を対象として1
高 見 茂 雄
1 本研究はJSPS科研費25380483の助成を受けたものである。
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機があるとの指摘は的を射ている。しかし,実質無借金状態はゼロレバレッジ 状態と同義ではない。実質無借金状態はいまだ現金と有価証券と有利子負債を 両建計上しているが,ゼロレバレッジ状態は有利子負債を返済しすでに残高ゼ ロの状態にあり,金融機関や資本市場との取引関係から断絶している点で異な る。確かにM&Aなどでの企業価値評価では現金と有価証券は負の有利子負債 とみなすが,Acharya et al. (2007, p.516) が主張するように,現金保有と有利子 負債は財務戦略の同時意思決定事項であり,預金保有と有価証券は負の有利子 負債とはいえない。有利子負債を完済する背景には企業の能動的なアクション もあれば,金融機関側からホールドアップを受けリファイナンスを起こせない という事情もある。
一般的に財務内容健全化といえば,現金保有 (cash holdings) の増加と有利子 負債の削減をさす。前者の流れは特にリーマンショックや欧州債務問題以降加 速してきたと理解されているが,Bates et al.(2009, p.1990) がいうように,米 国企業ではすでに1980年代以降現金保有増加トレンドにあり,その結果純有 利子負債残高の低下あるいは負値への変化が起こった。現金保有を増加させる 動機はエージェンシーコスト要因とともに財務制約下(financial constraints) に ある企業の予備的 (precautionary)動機としても説明される(Acharya et al. (2007, p.516))。実質無借金企業は現金保有のほかに金融機関や資本市場との取引関係 維持というヘッジ手段を保有しているのに対し,ゼロレバレッジ企業は現金保 有手段しか保有しておらず,金融機関や資本市場との取引関係再構築にともな うコストを負っていることになる。
財務内容健全化のもう一つの側面は有利子負債の削減である。有利子負債の 削減の動機もエージェンシーコスト要因や将来の資金需要のために借入余力 (debt capacityあるいはfinancial slack) を拡げるためと説明される。しかし,金 融機関や資本市場との取引関係から断絶したゼロレバレッジ状態は極端な場合 と考えられ説明が難しい。なぜなら金融機関ガバナンスを極端に嫌う経営者の
エントレンチメント行動を想定したり,将来金融機関や資本市場との取引関係 再構築のためにはほとんど情報コストはかからないという一般的とは言えない 状況を想定する必要があるからである。
議論は拡張するが,多くの研究蓄積のある最適資本構成の理論2でも,ゼロ レバレッジ状態は特別な場合とされ説明が難しい。たとえば,トレードオフ理 論では節税メリットを完全に放棄する状況を想定すること,ペッキングオー ダー理論ではゼロレバレッジ企業が新株発行を行うことを説明しにくいこと,
エージェンシー理論でも前述のように極端な状況を想定することを迫られるこ とによる。このため,Graham and Leary (2011, p.311) が指摘するように,最適 資本構成理論では万能な理論 (one-size-fits-all) は存在せず,コーナー解に相当 するゼロレバレッジ状態においては,最適資本構成理論の応用問題ではなく,
個々の企業のおかれた状況と動機にそって説明されることが求められる3。 低レバレッジやゼロレバレッジ状態は最適資本構成理論の特別な場合とし て認識され,その実態調査と要因の研究がなされてきた。 Minton and Wruck
(2001, p.4) は,「長期負債 / 総資産」が20%以下の状態を低レバレッジと定義し,
debt capacityの観点から一時的状況であると主張している。そして,低レバレッ
ジ状態にある企業を処置群,該当しない企業を対照群とし,2群差異の比較や ロジスティック回帰を用いて分析しており,後のゼロレバレッジ研究の手法 も基本的にMinton and Wruck (2001) を踏襲している。DeAngelo and DeAngelo (2006, p.8) は将来の投資の歪みに備える財務柔軟性 (financial flexibility)確保目
2 最適資本構成ではサーベイ論文も数多くあるが,本論文ではHarris and Raviv (1991), Parsons and Titman (2009), Graham and Leary (2011) でみられる文献ならびに議論を参 照にした。
3 関連する理論的文献として,Korteweg (2010) はゼロレバレッジ企業が多く存在す
るため,実証データの最適レバレッジ比率は理論値より低いと主張,van Binbergen et al. (2010) は,最適レバレッジを超過することのコストは下回るコストより大きいこ とを示し,低レバレッジの誘因を説明している。
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的の低レバレッジ政策が最適と主張しているが,レバレッジの動的調整の論 点からの低レバレッジ現象の説明はみられる4。しかし,特に研究対象をゼロ レバレッジ状態に限定する意義は,Byoun et al. (2011, p.1) が指摘するように,
低レバレッジの水準を具体的に何パーセントと定義するかにつきあいまいさを 残すのに対し,ゼロレバレッジでは有利子負債残高がゼロという明確な基準が あること,前述のようにそれが金融機関や資本市場との取引関係の断絶を意味 すること,そしてゼロレバレッジ状態が顕著な現象として注目されてきたこと による。このため,存在感が増してきたゼロレバレッジ現象はいまや独自の説 明が求められている。
Strebulaev and Yang (2012) は分析面や要因説明に課題を残しているものの,
表題が示すようにゼロレバレッジ現象をミステリーとよび,問題提起に大きく 貢献したといえる5。 Strebulaev and Yang (2012) は米国企業1962年から2009 年まで157千個の標本の大容量データを用い,ゼロレバレッジ企業の割合が増 加トレンドにあり2009年には約20%に達したこと,ゼロレバレッジ企業でも 配当を支払っている企業が多いこと,業種や規模属性からは無差別であること,
ゼロレバレッジ企業は,Market-to-Bookレシオ,現金残高,収益性が大きく,
社齢が若いという特徴があること,ゼロレバレッジ状態が継続する傾向にある
こと(persistence)などを指摘している。
Dang (2011) は英国企業1980年から2007年まで25千個の標本を対象に,英
国企業では米国企業以上にゼロレバレッジ企業割合が増加し,2007年には
4 Marchica and Mura (2010) は財務柔軟性を拡げた企業が将来多額かつ良質な設備投 資を行うことを示している。
5 同タイトルのワーキングペーパーは2005年からいくつかの版があり,そのつどデー
タと主張を更新している。本論文で引用した版はMarch 2012版であるが,ゼロレバレッ ジ要因としてCEO持株比率を代理変数においたガバナンス要因に求めているが分析 は不十分といえる。筆者がはじめて読んだAugust 2006年の版では,ミステリー現象 を強調することに主眼がおかれ要因説明には及んでいない。
23.7%に達していることを主張した。この点はStrebulaev and Yang (2012)と符 合する。しかし,小規模で,現金残高多く,成長途上にある企業がゼロレバレッ ジ企業になる傾向にあることと,ゼロレバレッジ企業は規模拡大時や投資機会 発生時は再度負債を起こすことはStrebulaev and Yang (2012) の見解と異なって いる。Dang (2011) はさらにマクロ経済環境の変化もゼロレバレッジ行動を誘 発すると主張している。Besser et al. (2012) はゼロレバレッジ現象はG7諸国 で共通してみられ増加傾向にあるが,その割合レベルは資本市場ファイナンス に依存する米国や英国企業で高く,金融機関からの資金調達に依存するイタリ ア,フランス,日本では低いと指摘している。そして IPOが多く行われたこ とや業種要因にゼロレバレッジ現象要因に求めている。Byuon et al. (2011) は 規模別に要因を説明している。すなわち,小規模企業は資金提供者からの評判 を高めるために,大規模企業はエージェンシー問題への対応のため現金残高を 圧縮するために有利子負債を返済しゼロレバレッジ状態に向かう。Devos et al.
(2012) はStrebulaev and Yang (2012) とは異なり,小規模で,社齢が若く,現 金残高の多く,加えてリースファイナンスを行う企業がゼロレバレッジ企業に なる傾向を指摘し,要因説明としてエントレンチメント仮説を棄却し,財務制 約仮説を支持している。さらに,10Kレポートの銀行取引明細を収集加工する など他では用いられていない資料も活用している点で評価できる。一方,日本 での研究はいままでのところ新美 (2011) に限られている。新美 (2011) は1996 年3月期から2009年3月期までの上場企業1023社を対象に,実質無借金企業,
完全無借金企業ともに増加傾向にあり,2008年3月期ピークにはそれぞれ387 社 (37.8%),56社 (5.5%) に達したこと,規模や収益力では無借金企業が有借金 企業より上回ること,無借金企業は財務安定性を重視し,成長投資にはやや消 極的であることなどを主張している。第1の点は冒頭に述べた日本経済新聞の
「上場企業4割〔実質〕無借金」の報道と合致している。ただし,分析面にお いてはキャッシュフロー計算書の3つの活動符号の組合せに依存し背後の理論
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的考察に限界がある。
このようにゼロレバレッジ研究はStrebulaev and Yang (2012) をはじめとし,
研究の蓄積が進みつつあるが,現象の把握と要因説明でばらつきがみられ,統 一的見解はいまだ得られていない。とくに,業種別や規模別の差異やゼロレバ レッジ状態の継続性で見解が分かれている。企業がゼロレバレッジ状態を選択 する背景にはさまざまな要因があり,企業側要因には財務健全化動機のほかに,
エージェンシーコスト要因や財務制約要因がある。反面,金融機関側には信用 割当 (credit rationing) によるホールドアップもあげられる。これらの効果を検 証するには,業種や規模をはじめとするコントロール変数の吟味がかかせない。
そのなかで,筆者の問題意識は以下の点にある。
①ゼロレバレッジ状態を金融機関や資本市場からの断絶ととらえれば,単に有 利子負債の残高がゼロというのみならず,コミットメントライン6の極度設 定や根担保差入れもないことも含む。これらのデータも整備してゼロレバ レッジ現象をとらえるべきと考える。また,負債の種別7によっても金融機 関や資本市場との取引関係の深度がうかがわれる。そのため,短期と長期の 借入科目別にゼロレバレッジ状態を検討する。借入科目別にゼロレバレッジ を選択の要因を特定することをねらっている。
②ゼロレバレッジ状態の継続性は,まず個社ごとに継続性を把握することから
6 Sufi (2009) はコミットメントラインの有無が財務制約度の大小の尺度になりうると
主張しており,未使用の極度額が存在することにも銀行取引関係上の意義が認められ る。
7 Denis and Mihov (2003) やFaulkender and Petersen (2005) は資金提供者の受ける金融 環境の変化により,調達企業も借入種別によって影響を受けるとし,調達源泉の意義 を主張している。これらは資金供給面の状況を重視する点でBaker (2009) の主張に通 じる。つまり,資金提供者は金融環境の変化に弾力的で,外的ショックに応じて資金 提供スタンスを変える。さらに,Rauh and Sufi (2010) は信用度の低い企業は複数種類 の負債に依存することを示しており,企業の資金調達を考察するにあたっては,単に 借入金額やD/Eレシオだけでなく,資金提供者の状況や調達源泉も考慮に入れるべき ことを示唆している。
始めるべきである。完全ゼロレバレッジ企業の件数は本論文では77社にし ぼれることができるので各社時系列の現象面把握につとめる。
③コントロール変数は先行研究でばらつきがあったが,それぞれの変数のデー タ特性を踏まえ整備し,処置群(ゼロレバレッジ企業)と対照群(非ゼロレ バレッジ企業)間の差異を分析する。本論文ではコントロール変数の差異を ゼロレバレッジ形態とともに企業規模階層でもとらえる点に特徴がある。
本論文ではこれらの問題意識をもとに,日本の製造業822社データ11年度 を対象とし,ゼロレバレッジ状態の実態をとらえることを目的とする。明らか にする課題は,それぞれ①ゼロレバレッジ現象の確認,②ゼロレバレッジ状態 継続性の把握,そして③ゼロレバレッジ企業の属性の把握に対応する。本論文 の構成は以下の通りである。第2節ではリサーチプラン,第3節では分析対象 データを説明する。そして,第4節から6節まではそれぞれの課題にこたえる。
そして,第7節で結論を述べる。
2.リサーチプラン
第2節では本論文で掲げる3つの課題に対するリサーチプランを述べる。コ ミットメントライン未使用極度額や根担保差入も計上されてない完全ゼロレバ レッジ状態を定義すること,有利子負債科目ごとブレークダウンし,その現象 をとらえることに特徴がある。
⑴ ゼロレバレッジ現象
ゼロレバレッジ企業が顕在化し増加傾向にあるとの見解は先行研究で共通し ている。ただし,ゼロレバレッジ形態については,ゼロレバレッジを実質無借 金や低レバレッジと対比させてはいるものの,金融機関や資本市場との取引関 係の観点からの考察は十分とはいえない。
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そこで,本論文では図1の左側部分に示すように,金融機関等との取引関係 の深さから4種ゼロレバレッジ状態に分けその実態を明らかにする。a. 短期 ゼロレバレッジ状態は一時的に短期調達手段残高がゼロのことである。手形割 引や単名手形借入を主体とする企業の短期借入は,経常的な運転資金や決算資 金需要に対応する場合が多く,残高がゼロになる年度があっても,将来金融 機関から短期資金を借入れることは比較的難しくないと考えられる。b. 長期 ゼロレバレッジ状態は長期調達手段残高がゼロのことである。長期借入は短期 借入より多額かつ資金回収リスクが高く個別の投資案件に依存するため,金融 機関側も案件を理解するために取引履歴を通じたコミュニケーションを重視す る。このため長期ゼロレバレッジ状態が続けば金融機関との関係再構築は相対 的に難しい。つぎに,c. ゼロレバレッジ状態は先行研究でいうゼロレバレッ ジに相当するが,手形割引や売上債権流動化等のオフバランス取引も含めて金 融機関から断絶している状態を示す。最後に,d. 完全ゼロレバレッジ状態は 金融機関や資本市場からの借入残高がゼロに加え,コミットメントラインある いは当座貸越の未使用極度額も根担保差入のないことを条件に加える。
これら4種の状態のなかでは短期,長期,ゼロレバレッジ,完全ゼロレバレッ ジ状態と段階的に金融機関からの断絶状態が深刻になり,完全ゼロレバレッジ 状態が継続すれば,将来関係再構築コストの上昇とともに,資金調達を起こせ
図1 ゼロレバレッジ現象リサーチプラン
{業種別階層規模別階層
a.短期ゼロレバレッジ状態 b.長期ゼロレバレッジ状態 c.ゼロレバレッジ状態 d.完全ゼロレバレッジ状態
ゼロレバレッジ形態 年代別カウント ブレークダウン
データ 収集
×
ないリスクも増加すると考えられる。そのため4種のなかでは完全ゼロレバ レッジ状態を選択する企業は少数で,それぞれのゼロレバレッジを選択する要 因は異なると考えられる。
第4節では年度別カウントデータを用い,ゼロレバレッジ企業が顕在化し増 加傾向にあるという先行研究の観察事項から確認する。続いて,業種や規模は レバレッジ比率と強い関連があるといわれている8が,ゼロレバレッジ研究で は,Strebulaev and Yang (2012)とDang (2011) 他では見解が分かれている。そ こで,本論文では,図1で示すように,年度と業種あるいは規模別階層とクロ スさせこれら要素に差異があるかを調べる。とりわけ財務制約度の代理変数の 性格をもつ規模要素を重視する。822社×11年度のパネルデータを用いるが,
第4節では全体的傾向をとらえることを主眼とおくので,個社効果を無視し プーリングデータとして扱う。そのため,カウントデータは延べ社数を表す。
⑵ ゼロレバレッジ状態継続性
先行研究はゼロレバレッジ状態の継続性に関心をよせ,理論的背景を将来の 資金ニーズ発生時の資金調達に対処するため借入余力(debt capacity)を維持す ることにおいている。ただし,この点でも先行研究の見解は分かれている。第 5節では完全ゼロレバレッジ形態で同一企業でのゼロレバレッジ状態の時系列 継続性を確認し,完全ゼロレバレッジ状態がどの借入科目で解消されたか等の 変化を規模別ブレークダウンも含め明らかにする。第5節での分析はデータ対 象をパネルデータとして扱い,各社時系列データを提示する。
⑶ ゼロレバレッジ企業の属性
ゼロレバレッジ状態におちいる要因も先行研究の主要関心テーマである。そ
8 Parson and Titman (2009) は規模,資産担保性,Market-to-Bookレシオ,業種等の要 素はレバレッジ比率と実証的に頑健な関係にあるとしている。
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のなかでもエージェンシーコスト要因と財務制約 (financial constraints) 要因に 大別される。本論文では4種の状態別にゼロレバレッジ企業を処置群,レバレッ ジ企業を対照群とグループ別に分け,企業属性を反映するコントロール変数の 差異分析を進める。コントロール変数にはキャッシュフロー関連の直接的要因 を示すものとエージェンシーコストのような企業のポリシーにかかわり時間不 変な属性を表すものがある。また,金融機関側からのホールドアップ要因も考 えられる。金融機関等との取引断絶を示す完全ゼロレバレッジ状態まで進むに は,より企業属性に本質的な後者の要因が作用すると推察し,データで検証を 試みる。第6節でもデータ対象をパネルデータとして扱い企業属性をとらえる。
3.分析対象データと加工過程
本論文は日本の上場製造業を研究対象とし,下記に示す基準で1999年3月 期から2009年3月期までの11年度,10業種822社を抽出し,バランストパ ネルデータで分析する9。
①1999年3月期から2009年3月期まで一貫して上場を維持していること
②決算期の変更がないこと
9 3月末決算上場製造業15業種企業は(その他製造業を除く) ,2012年3月末現在で合計
1056社であり,このうち社数順上位10業種で943社89.3%をカバーする。業種分類は証 券コード協議会が定める4桁の証券コードを用いた。本論文の対象時期は連結を主と する日本の財務諸表開示制度変更のあった2000年3月期からリーマンショックの影響 を受けた2009年3月期までを対象とする。残高データは1999年3月期データも併用する。
2009年3月期を終期に定めた理由は,新美(2011) と合わせ比較しやすくするため,パ
ネルデータ作成上2012年3月まで延長すれば,約70社のデータ欠落がおこること,リー マンショックで構造変化が起こった可能性があることである。2010年3月期以降は本 論文とは別のデータで分析を続けたい。抽出基準の④で日本の会計基準に限定した理 由は米国基準では有利子負債科目分類が異なるためであり,⑤の基準では前期末比総 資産70%以上の増減事例を検索し,合併等により経営コントロールの変更がうかがわ れるかを評価した。アステラス製薬,田辺三菱製薬,ジェイテクト,三井製糖など8 社を除外した。抽出の結果得られた822社の業種別社数構成は電機機器(163社),機械 (153社),化学(134社),輸送用機器(83社),食品(76社),金属(53社), 繊維(48社),鉄鋼(46 社),ガラス土石(39社),医薬品(27社)である。
③年度により提出財務諸表が連結と個別のみの移動がないこと
(ただし,1999年3月期と2000年3月期以降のデータ間の不一致は許容する)
④一貫して日本の会計基準を適用していること
⑤経営母体の変化が顕著な合併や事業再編の事例を除くこと
3.1 分析対象データグループ
本論文で活用するデータは表1で示すとおり,有利子負債データ,主要会計 データ,コントロール変数データの3グループに大別される。このうち,①有 利子負債データグループは,4種ゼロレバレッジ状態ごと借入科目を集計し, その態様をリサーチプランの⑴ゼロレバレッジ現象と⑵ゼロレバレッジ状態 継続性で検討する。②主要会計データでは規模を表す総資産のようにそれ自身 コントロール変数として用いる場合とキャッシュフロー計算書データの配当金 の支払のように,配当性向を求めるため加工して用いる場合がある。③コント ロール変数データは,リサーチプラン⑶ゼロレバレッジ企業の属性で用いる。
データ データ例 データ種別 収集度 収集ソース 活用目的
①有利子負債
データグループ ゼロレバレジ企業割合
把握・状態継続性分析 オンバランス有
利子負債データ 短期借入金 ストック(残高)
データ 欠缺なし eol,日経財務 データDVD オフバランス有
利子負債データ コミットメ
ントライン 契約額,
ストックデータ 欠缺あり 有報貸借対照表 注記事項 担保に供す
る資産 ストック(残高)
データ 欠缺あり 有報貸借対照表 注記事項
②主要会計データ 加工して3のコントロー
ル変数を作成 総資産,
営業利益 ストック,
フローデータ 欠缺なし 日経財務データ DVD
配当金の支
払 CF計算書デー
タ 欠缺なし 日経財務データ DVD
③コントロール
変数データ グループ間比較因子と
して用いる 一般的会社属性 社齢 数値データ 欠缺なし 日経財務データ
DVD 財務制約度 社債格付 質的データを数
値化 欠缺あり 会社四季報,
会社情報等 エージェンシー
コスト 外国人持株
シェア 比率データ 欠缺なし 日経財務データ DVD
表1 データグループ
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3.2 データ加工過程
表2はゼロレバレッジ会計科目原データから4種ゼロレバレッジ状態の集計 方法を示す。 a. 短期ゼロレバレッジ状態では,表2のそれぞれの科目の残高 がすべてゼロではじめて実現する。このうち,短期借入金とCPは(連結)貸 借対照表の負債の部に計上されている残高を用いるが,手形割引,コミットメ ントラインまたは当座貸越実行,売上債権流動化は,主に(連結)貸借対照表 注記事項を情報ソースとした10。b. 長期ゼロレバレッジ状態では,対象負債は 金融機関からの長期借入金のほか,資本市場からの社債などの調達手段から構 成される。ただし,会計上は決算日時点で満期や償還期日が1年未満に到来す る場合,流動負債に分類されるが,本論文では資金調達源泉を重視するので,
それらも長期借入有利子負債に含める。これらがすべてゼロの場合に長期ゼロ レバレッジ状態である。c. ゼロレバレッジ状態では, a. とb. 双方とも同一企 業同一年度で残高ゼロである状態をさし,先行研究のゼロレバレッジに相当す る。d. 完全ゼロレバレッジ状態では,c. の残高ゼロ状態に加え,コミットメ ントライン・当座貸越極度がないことと根担保差入が計上されていないことを さす。
10 (連結)貸借対照表注記情報のうち,裏書手形については金融機関とは取引関係にな
いので含んでいない。ただし,割引手形または裏書手形として合算して開示してある 場合は全額を割引手形として集計した。手形割引は日本で特徴的な短期資金調達手段 で,単名借入に比べるとおおむね金額は少なく減少傾向にあるが,依然として無視で きない存在である。コミットメントラインまたは当座貸越情報では,2002年3月期以降,
極度額と実行額が計上されている場合実行額を集計した。ほとんどの場合短期資金と みなすことができ,それら実行額は流動負債の短期借入金に含まれており,「短期借 入金-コミットメントライン・当座貸越実行額」を単名借入として集計した。ただし,
事業の状況や対処すべきリスク欄に当該ファシリティーを保有している旨だけ開示し ているケースも17社あり,実行額情報は得られない。売上債権流動化は開示方法には ばらつきがあり,流動化残高の他に劣後部分の訴求額やサービサーとして回収した保 有現金額を計上している場合がある。その場合,流動化残高と他のいずれかが計上さ れている場合を調べ劣後比率や保有現金額比率平均値を推定,他のいずれかしか計上 していない場合にその比率を適用して流動化残高を求めた。
つぎに,図1のブレークダウンで用いる業種と規模について説明する。業種 は証券コード協議会の10業種を用いる。企業規模も時間不変な企業属性とと らえ,先行研究で用いられる総資産を採用し複数の規模階層(tier)に分ける。
標本データはデータ抽出基準の⑤で述べたように,合併や事業再編等でのド ラスティックな総資産の増減は除外したので,同一社で11年度を通じて同じ 階層に所属するとみなす。そこで,まず同一企業で年度間総資産平均 (within mean) を求めたが,その分布は歪みが顕著であり対数変換を施した。その標本 平均の対数値ヒストグラムは図2の通りである。横軸は百万円単位の総資産年 度間平均の対数値,縦軸はレンジごとの社数を表す。レンジは0.25刻みでとっ てある。対数値でもJarque-Bera検定では正規分布は棄却され,2峰型で右に 裾を引いた分布形状を示している。
表2 借入科目集計方法
ゼロレバレッジ形態 会計科目積算
a.短期ゼロレバレッジ状態 単名借入+手形割引+コミットメントライン・当貸実行+売上債権流動化+CP b.長期ゼロレバレッジ状態 長期借入金+社債+転換社債+ワラント債+期日まで1年以内のそれら長期負債
c. ゼロレバレッジ状態 a.+b.
d. 完全ゼロレバレッジ状態 c.+ 未使用のコミットメントライン・当貸極度+根担保
図2 総資産規模分布状況
階層1 2 3 4 階層5
70
実証研究での階層別分析では3~7個くらいの階層に分けている。本論文で は図2の分布の特徴を加味して,表3の通り5階層に分け,小さい第1階層は 年度間総資産平均対数値の最小値から第1峰までの中腹にあたる9.5までをと る。次の9.5-9.75のレンジで社数が急増加しているので9.5で区切った。第 2階層は第1峰と2峰との谷の10.25まで,第3階層は第2峰を下った直後の
11.25までで区切った。あとは比較的平坦な形状が続くが,12.5-12.75のレ
ンジから社数が急減少するので,12.5を第4階層の上限とした。そして,第5 階層は12.5から最大値の16.005までである。表3の社数とシェア欄では第3 階層を中心として,第2階層と4階層,第1階層と5階層の度数がそれぞれ対 称的に分類されている。
4.ゼロレバレッジ現象
第4節から6節では,リサーチプランにもとづき,分析対象データから得ら れた観察事項を述べる。第4節はリサーチプラン⑴ゼロレバレッジ現象を扱う。
4.1 ゼロレバレッジカウントデータ概観
表4は第2節図1で説明した4種ゼロレバレッジ状態,実質無借金形態,な らびにStrebulaev and Yang (2012) のTable 1 の社数とシェア(822社にしめる 割合)を対象期間11年度の時系列で示している。なお,ここでは対象データ をプーリングデータとして扱い,社数は年度間重複を含む延べ社数を表す。
表3 規模階層分類
階層番号(tier) 範囲(対数値) 範囲(億円) 社数 シェア(%)
1 7.452 - 9.494 17.2 - 132.8 102 12.4
2 9.500 - 10.246 133.6 - 281.7 186 22.6
3 10.253 - 11.247 283.6 - 766.5 240 29.2
4 11.251 - 12.474 769.6 - 2615 190 23.1
5 12.501 - 16.005 2686 - 89307 104 12.7
合計 822 100
表4からa.~d. ならびに実質無借金のシェアはいずれも増加傾向にあり,
2008.3期にピークに達し,2009.3期にやや低下している。この点ではピーク
時期は異なるもののStrebulaev and Yang (2012) の趨勢と一致している。しか し,それぞれシェアのレベルが異なり,2008.3期に10%を超えるレベルに達 しているのは,a. 短期,b. 長期ゼロレバレッジ状態,実質無借金状態に限られ,
Strebulaev and Yang (2012) のゼロレバレッジ概念に相当するc. ゼロレバレッジ
状態は,ピークで8.3%と10%台を推移している米国のシェアレベルとは異なる。
また,新美 (2011) よりやや高めに出ているが趨勢は合致している。
一方,Bessler et al. (2012) のTable 2 はG7諸国のゼロレバレッジ企業国際比 較を行い日本の事例も含む。そこでは1999年4.89%,2009年9.23%を計上し ており,その間ほぼ増加傾向にある。表4のc. とは標本と定義は異なるがシェ
表4 ゼロレバレッジ社数とシェア
a. 短期 b. 長期 c. d. 完全 実質無借金 S&Y
ゼロレバレッジ ゼロレバレッジ ゼロレバレッジ ゼロレバレッジ (2012) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) シェア(%)
1999.3期 53 6.4 63 7.7 24 2.9 22 2.7 253 30.8 13.1
2000.3期 47 5.7 70 8.5 23 2.8 22 2.7 278 33.8 14.0
2001.3期 55 6.7 80 9.7 30 3.6 27 3.3 265 32.2 14.8
2002.3期 56 6.8 93 11.3 32 3.9 28 3.4 262 31.9 15.9
2003.3期 63 7.7 97 11.8 40 4.9 36 4.4 286 34.8 18.0
2004.3期 73 8.9 118 14.4 49 6.0 41 5.0 292 35.5 19.1
2005.3期 76 9.2 131 15.9 59 7.2 43 5.2 306 37.2 19.9
2006.3期 88 10.7 137 16.7 66 8.0 50 6.1 316 38.4 19.5
2007.3期 86 10.5 136 16.5 62 7.5 46 5.6 329 40.0 19.8
2008.3期 94 11.4 151 18.4 68 8.3 50 6.1 345 42.0 18.9
2009.3期 91 11.1 149 18.1 66 8.0 49 6.0 325 39.5 19.5
11年度通年 782 8.7 1225 13.5 519 5.7 414 4.6 3257 36.0 17.5
・a. ~d. のゼロレバレッジ概念は第2節のリサーチプランで説明済。
・実質無借金企業とは,「c.の範囲の有利子負債残高」 < 「現金+有価証券残高」の条件を満たす場合 と定めた。
・Strebulaev and Yang(2012)のTable 1のデータは米国企業1962-2009年の157千個の大容量プーリング データであり,決算期は一致しない。
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アレベルとトレンドはほぼ整合性が取れている。また,冒頭で述べたように日 本経済新聞 (2008) は「上場企業の4割 実質無借金」と報じており,2008.3期 の42.0%と整合性がとれている。ただし,Strebulaev and Yang (2012) での米国 企業データでは実質無借金シェアが2008年自時点で44.2%と日本製造業と同 レベルであり,日本企業は金融機関との関係は保持しつつ,「現金+有価証券」
を保有する両建計上の企業が多いことを示唆している。
表4で2004.3期から2008.3期までは一般的に景気回復期ととらえられてい
る。この時期にa.とb. の状態双方ともシェアが増えたことは,企業側の内部 資金の蓄積にともなう有利子負債コスト削減動機,あるいは先行研究のいう財 務柔軟性確保動機が,ホールドアップ要因より大きかったものと推察される。
d. 完全ゼロレバレッジとc. ゼロレバレッジ状態と比較すれば,1999.3期時 点では,2.9%と2.7%とあまり両者のレベルは変わらない。ところが,両者と も増加トレンドにあるものの,2008.3期ピーク時では,(c. 8.3%, d. 6.1%) と2%
強,18社の乖離が生じている。コミットメントライン等のファシリティーの 普及が金融機関との完全な取引断絶を抑制していることが考えられる。このd.
の概念で1年度でも当てはまる企業は77社にしぼられるが,第5節以降分析 を続ける。
最後に, 4種ゼロレバレッジ形態で2008.3期までにシェアのピークを付け た後,2009.3期に低下することが注目される。一方,米国企業データではむ しろ上昇している。この時期はリーマンショック直後に相当し外生的ショック を受けたとみなすことができる。これまでの考察で,ゼロレバレッジのトレン ドとレベルは先行研究とほぼ符号することが確認できた。つぎにリサーチプラ ン図1にそって,業種別や規模別ブレークダウンを観察する。
4.2 ゼロレバレッジカウントデータのブレークダウン
⑴業種別
表5はd. 完全ゼロレバレッジ状態の業種別ブレークダウン社数(延べ社数)
を示す。
表5を観察すれば,電機機器や機械で完全ゼロレバレッジ社数が多く,業 種数の少ない医薬品でもシェアとしては高い。対照的にガラス・土石は11年 度通じて実績がなく,一見して業種間で顕著な差異がある。分散分析で10業 種時系列を比較したところ有意な差異が確認できた。これらはStrebulaev and Yang (2012, p.2) の主張と反し,Dang (2011) 他の主張と合致する。ただし,業 種間差異要因を解明するのは,各種業種のビジネス構造や経営資源,マーケッ ト状況,資金効率など多面的な研究が必要であり,本論文ではつぎの規模別分 析に注力する。
表5 完全ゼロレバレッジ状態業種別 輸送用
機器 化学 電機
機器 食品 繊維 ガラス
・土石 機械 金属 医薬品 鉄鋼 10業種
1999.3期 0 3 4 4 0 0 3 5 1 2 22
2000.3期 0 2 4 5 0 0 4 4 1 2 22
2001.3期 0 2 6 5 1 0 5 5 2 1 27
2002.3期 0 2 7 4 1 0 6 4 2 2 28
2003.3期 0 4 8 6 1 0 8 4 3 2 36
2004.3期 1 3 11 7 2 0 7 4 3 3 41
2005.3期 2 5 9 5 1 0 10 4 4 3 43
2006.3期 2 6 12 5 3 0 11 4 4 3 50
2007.3期 1 5 11 3 2 0 12 5 4 3 46
2008.3期 2 6 12 4 2 0 13 5 3 3 50
2009.3期 2 4 10 4 2 0 17 5 3 2 49
11年度通年 10 42 94 52 15 0 96 49 30 26 414
標本社数 83 134 163 76 48 39 153 53 27 46 822
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⑵規模別
表6もd.完全ゼロレバレッジ状態の規模別ブレークダウン社数(延べ社数)
を表す。5つの規模階層の作成過程は第3節で説明した。
表6から完全ゼロレバレッジ状態の出現は社数でみて,階層1から3で多く,
最も大規模な階層5ではごくわずかである。ただし,各階層の標本数は異なる のでシェアで比較すれば,11年度通年欄で,階層1が6.1%,階層2が5.9%,・・・ 階層5が2.4%と単調に減少しており,平均的に見て小規模企業の方が完全ゼ ロレバレッジ状態の出現しやすいことがうかがわれる11。シェアの5時系列数 値で分散分析を行ったところ,ここでも有意な差異がみられた。規模は経営の 安定性や信用度を通じて財務制約度の代理変数とみなされている。その点では 規模階層順にシェアが単調減少していることは金融機関側からのホールドアッ プ要因をサポートしている。
表6 完全ゼロレバレッジ状態規模別
階層1 階層2 階層3 階層4 階層5 合計 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%) 社数 シェア(%)
1999.3期 3 2.9 3 1.6 11 4.6 4 2.1 1 1.0 22 2.7
2000.3期 5 4.9 4 2.2 7 2.9 5 2.6 1 1.0 22 2.7
2001.3期 6 5.9 7 3.8 9 3.8 4 2.1 1 1.0 27 3.3
2002.3期 5 4.9 7 3.8 10 4.2 4 2.1 2 1.9 28 3.4
2003.3期 7 6.9 11 5.9 11 4.6 5 2.6 2 1.9 36 4.4
2004.3期 7 6.9 12 6.5 12 5.0 7 3.7 3 2.9 41 5.0
2005.3期 7 6.9 13 7.0 10 4.2 9 4.7 4 3.8 43 5.2
2006.3期 7 6.9 16 8.6 15 6.3 8 4.2 4 3.8 50 6.1
2007.3期 6 5.9 15 8.1 14 5.8 8 4.2 3 2.9 46 5.6
2008.3期 7 6.9 17 9.1 16 6.7 7 3.7 3 2.9 50 6.1
2009.3期 9 8.8 16 8.6 14 5.8 7 3.7 3 2.9 49 6.0
11年度通年 69 6.1 121 5.9 129 4.9 68 3.3 27 2.4 414 4.6
標本社数 102 186 240 190 104 822
11 ただし,年度ごとみれば,1999.3期は階層3で,2005.3期から2008.3期までは階層2シェ アのピークをつけており,必ずしも階層1から単調に減少しているとはいえない。
5.ゼロレバレッジ状態継続性
第5節ではリサーチプラン⑵ゼロレバレッジ状態継続性を扱う。第2節で述 べた4種ゼロレバレッジ状態で,11年度を通じて1回以上ゼロレバレッジが 出現した社数は,a. 短期ゼロレバレッジ146社,b. 長期ゼロレバレッジ230社,c.
ゼロレバレッジ102社,d. 完全ゼロレバレッジ77社を数える12。ただし,第 5.1節では4種すべての表を提示することは冗長につき,d. の場合に限定して 検討する。ここでは,個社効果に焦点をおくため,対象データをパネルデータ として扱い,個社ごとの時系列データを提示する。
5.1 完全ゼロレバレッジ状態継続性
表7と8(P.77~79にまとめて配置)は完全ゼロレバレッジ状態が1回以
上ある企業77社のゼロレバレッジ時系列推移を短期借入と長期借入・増資に 分けて表している。「×」は表7と8に共通して完全ゼロレバレッジ状態が発 生した年度を示し,回数順年度順に配置している。77社の完全ゼロレバレッ ジ状態の回数では,3回以下が28社(36%)と少なく,6回以上が35社(45%) と多い点に特徴がある。後者の企業はポリシーとしてゼロレバレッジを継続し ていることを示唆している。なお,表7と8は規模階層欄も含むが規模別の分 析は5.2節で行う。
つぎに,表7では「×」以外の年度は短期資金調達のなかで,S:単名借入,
D:割引手形,M:コミットメントライン・当座貸越実行で補完される状況を示 している。単名借入で補完される場合が多いが,割引手形やファシリティー実 行も兼ねる例も散見される。同様に,表8は同一社で「×」以外の年度は長期 資金調達のなかで,L:長期借入金,S:社債,C:転換社債,▼増資で補完され る状況を示している。長期借入金で補完される場合が圧倒的で年度後半では社
12 4種ゼロレバレッジ形態別社数は第5.2節表9合計社数欄に掲載している。
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債等資本市場で補完される事例は減少している。
完全ゼロレバレッジ状態回数10回までの70社を対象に空欄の平均件数を調 べると,表7の短期資金借入補完推移は1.5年度,表8の長期資金借入補完で は2.5年度であり,前者では資金調達実績のない年度を表す空欄が少ない。ま た,前者短期借入で空欄ゼロは34社数えるが,このうち26社は表8の長期借 入で1年度以上の空欄がある。このように,完全ゼロレバレッジ状態の解消は,
長期資金調達より短期資金調達手段で起こりやすい傾向にあり,前述のように,
短期資金の経常性や金融機関の審査ハードルを示唆している。
DeAngelo and DeAngelo (2006) のいう財務柔軟性確保動機から,財務健全化 を資本市場にアピールし,後のエクイティーファイナンスに結びつける動機が 考えられる。しかし,表8では,キーコーヒーが前半5回の完全ゼロレバレッ ジ状態の後,2007.3期から3年度連続してエクイティーファイナンスを行っ ている事例を除いて,その仮説を裏付ける時系列推移はみられない。金融機関 との関係を断絶する要因は,ホールドアップのような金融機関側の事情ととも に,資金需要の減退や財務健全化動機など企業側にもさまざまな要因がある。
Strebulaev and Yang (2012) はゼロレバレッジの継続性を主張した。反面Dang
(2011) は反対にレバレッジ復活を主張しており,財務柔軟性から後者をサポー
トする議論は多い。しかし,実際のデータではゼロレバレッジ状態で継続性に ばらつきがあり,11年度通して継続回数が1回の企業もあれば11回の企業も ある。このため,個社効果をとらえる意味で,規模をはじめとするコントロー ル変数の吟味はかかせない。第5.2節では4種ゼロレバレッジ状態と規模との 関連,第6節ではコントロール変数を通したゼロレバレッジ企業の特質を検討 する。