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立正経営論集

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(1)

米国における

IFRS のアドプションの動向 (1)

榊 原  英 夫

立正大学経営学会

立正経営論集

第46巻 第1号

(2)

Ⅰ はじめに

Ⅱ 米国発行体によりIFRSに準拠して作成される財務諸表の利用へ向けての ロードマップ(2008年11月)

Ⅲ コンバージェンスおよびグローバル会計基準を支持する委員会声明と ワーク・プラン(2010年2月)

Ⅳ ワーク・プランの展開

⑴ ワークプラン・プログレスレポート(2010年10月)

⑵ スタッフ・ペーパー・組み込み方法の研究(2011年5月)

(以上、本号・第461号)

⑶ 組み込みに関する2つのスタッフ・ペーパー・(2011年11月)

⑷ スタッフによる最終報告書(2012年7月)

Ⅳ むすび

米国における

IFRS

の アドプションの動向(1)

榊 原 英 夫

(3)

Ⅰ はじめに

ノーウォーク合意(2002年10月)からMoUのアップデート(2008 年4月)までのコンバージェンスの変遷1)を経て、米国証券取引委員会(以下、

「SEC」と略称する)は、IFRS2)のアドプション(採用)へ向けたロードマッ プ案(2008年11月)において、IFRSのアドプションの検討を開始した。

SECIFRSアドプションの検討を開始した背景として、次の3点が指摘され ている。

① IFRS利用の世界的な広がり

過去数年にわたる世界中の主要な資本市場におけるIFRSの容認と利用の 増加や近い将来その他の諸国においてIFRSの利用が予想されることにより、

IFRSは、会社がそれに基づき会計報告することが可能となり、投資家が財務 情報を比較できる共通の基盤をうまく提供する1組の会計基準となる可能性を 有している。世界中でおよそ113か国が、現在IFRSによる報告を国内の上場 企業に要求または容認している([2],p.13)

② 米国内におけるIFRS利用の増大

国際的な投資機会における米国居住者による海外投資水準の成長により、米 国投資家がIFRSによる財務諸表を利用する必要性が徐々に大きくなる可能性 がある。また、グローバル基準に基づき資本を競い合う大規模な米国発行体は、

競争力を維持するために、IFRSによる財務諸表を利用し、理解する必要性が 高まるであろう。これらの理由で、米国投資家が米国企業と非米国企業との比 較により適切に備えるために、SECは、米国市場におけるIFRSの利用につい て検討し続けることは望ましいことであると認識している3)([2],p.16)

③ コンバージェンスの限界

MoU方式によるコンバージェンスは非常に時間がかかり、その限界が認識 されてきたことがある。例えば、企業結合については3年かけてようやく共同

(4)

の基準を公表できたが、それでもわずかな差異が残ってしまっている。このた め、IFRSを採用するほうがより効果的で現実的であるという判断が働いたも のと見られている([9],2頁)

本論文(米国におけるIFRSのアドプションの動向⑴・⑵)の目的は、SEC によるIFRSのアドプション(採用)へ向けての動向を①「米国発行体により IFRSに準拠して作成される財務諸表の利用へ向けてのロードマップ(2008 年11月)、②「コンバージェンスおよびグローバル会計基準を支持する委員 会声明とワーク・プラン(2010年2月)「ワーク・プランの展開(2010 年10月~2012年7月)」に大別して、説明することである。

Ⅱ 米国発行体によりIFRSに準拠して作成される財務諸表の利用へ向けての ロードマップ(2008年11月)

SECは、2008年11月に「米国発行体によりIFRSに準拠して作成され る財務諸表の利用へ向けてのロードマップ」(以下、「ロードマップ案」と略称 する)を提案した4)。このロードマップ案(文献[2])によれば、米国発行体が、

SECに対するファイリング目的のために、国際会計基準審議会(IASB)によ り発行された国際財務報告基準(IFRS)に準拠して作成する財務諸表の利用可 能性が提案されている。また、米国発行体にIFRSを利用することを要求する か否かの決定は、2011年になされるであろうと提案されている。このロード

マップ案([2],pp.9-10)は、米国発行体によるSECに対するファイリング目的

のためのIFRSの強制利用を導く、次のような7つのマイルストーン(里程標)

を定めている。

① 会計基準の改善

② 国際会計基準委員会財団のアカウンタビリティおよび資金調達

③ IFRS報告のための、双方向性データの利用能力の改善

④ IFRSに関する教育と研修

(5)

⑤ 米国投資家にとっての比較可能性を高めるIFRSの限定的早期利用

⑥ 将来におけるSECによる規則制定の予想時期

⑦ 米国発行体によるIFRSの強制利用の実施

上記の7つのマイルストーンのうち①から④は、IFRSの強制利用までに対 処すべき課題について検討している5)。また、マイルストーンのうち⑤から⑦ は、IFRSの強制利用のための移行計画について検討している。本節においては、

IFRSの強制利用のための移行計画(上記のマイルストーンの⑤から⑦)につ いての概要を説明したうえで、その問題点を明らかにする6)

⑴ IFRSの限定的早期利用

ロードマップ案([2],p.55)は、限定的早期利用の適格企業体について、「米国 発行体が、特定の産業において、株価総額での規模が世界順位20位以内にあ り、かつ、IFRSが、当該産業において20位以内にリストされる会社において、

いかなる他の財務報告基準よりもより多く財務報告基準として利用されている 場合、当該米国発行体は、SECへのファイリングにおいてIFRSを選択利用す る資格が与えられるであろう。」と述べている。また、ロードマップ案([2],p.64) は、限定的早期利用の時期について、「限定的早期利用は、20091215 以後の会計年度のファイリングに適用可能である。」と述べている。

ロードマップ案([2],p.31)によれば、この限定的早期利用について 、 次のよ うな2つの利点が指摘されている。

① IFRSの限定的早期利用は、同じ産業内の大規模米国発行体と大規模非米 国企業とを比較する目的にとって、米国投資家に対する財務報告の比較 可能性を高めるであろう。

米国発行体に対してIFRSによる財務諸表をファイルする選択肢を与える ことは、単一セットの高品質でグローバルに認められた会計基準として IFRSに対して与えられる認知と注目を広げるであろう。

他方、ロードマップ案([2],p.32)によれば、IFRSの限定的早期利用により、

(6)

ある米国発行体はIFRSの限定的早期利用が認められるであろうが、他の米国 発行体は、U.S.GAAPを利用し続けることによって、米国の公開会社に以前存 在しなかった財務報告のダブルスタンダード・システムが構築されることにな るであろう。このダブルスタンダード・システムは、米国発行体間の比較可能 性を減少させ、投資家に2組の会計基準(IFRSU.S.GAAP)に精通すること を要求するとの問題点が指摘されている。

⑵ SECによる規則制定の予想時期

ロードマップ案([2],pp.33-34)によれば、SECは、米国公開会社にIFRSに準 拠して作成された財務諸表をファイルすることを要求する規則制定に着手する か否かを2011年に決定するであろうと提案されている。 

SECは、単一セットの高品質でグローバルに認められた会計基準を完全に開 発するために、米国発行体に対するIFRSの利用を選択可能なものとしてでは なく、強制的な利用を指向するものとして、このロードマップを提案している。

IFRSは、世界中の多くの国で利用されている財務報告の基礎である。IFRSは、

会計のグローバルスタンダードとなる高い可能性を有しているので、米国にお いてIFRSを利用した報告を強制することについて検討することは、米国投資 家、米国発行体および米国市場にとって利益になると考えられる。さらに、会 計のダブルスタンダードが長期にわたって米国に存在することは、米国資本市 場に難問(たとえば、投資家および財務情報の他の利用者にとっての比較可 能性や監査人の専門的能力に関する難問)をもたらすであろう。したがって、

SECは、米国発行体によるIFRSの強制利用を指向するこのロードマップを提 案している。

⑶ IFRSの強制利用の実施

ロードマップ案([2],p.35)によれば、米国発行体によるIFRS報告を実施する 1つの方法として、すべての米国発行体が一度に移行するのではなく、段階的 移行が検討されている。移行期には、大規模早期提出会社は、20141215

(7)

日以後に終了する会計年度から、IFRSによるファイリングを開始するであろ う。早期提出会社は、20151215日に以後終了する会計年度から、IFRS によるファイリングを開始するであろう。小企業を含む非早期提出会社は、

20161215日以後終了する会計年度から、IFRSによるファイリングを開 始するであろう。

ロードマップ案([2],p.36)によれば 、 発行体の規模による段階的移行は、産 業内での発行体間の比較可能性の欠如を定着させるであろう。さらに、段階的

移行は、投資家にIFRSとU.S.GAAPの両方に精通することを要求するであろう、

ダブル報告システムを米国発行体に対して一時的に創り出すであろうといった 問題点が指摘されている。

Ⅲ コンバージェンスおよびグローバル会計基準を支持する委員会声明 とワーク・プラン(2010年2月)

SECは、2010224日に、「コンバージェンスおよびグローバル会計基 準を支持する委員会声明」(以下、「委員会声明」と略称する)を公表した。こ の委員会声明([4],p.2)によれば、SECは、①単一セットのグローバル基準に 対するSECの強力なコミットメント、②IFRSが、米国の市場にとって単一セッ トのグローバル基準としての役割を果たすことができる最も相応しいポジショ ンにあるとの認識、③FASBIASBとの間のコンバージェンス・プロセスの 進展を再確認している。そのうえで、SECは、スタッフに対して、「米国発行 体に対する財務報告システムへのIFRSの組み込みを検討するためのワークプ ラン」(以下、「ワーク・プラン」と略称する)を実施するように指示している7) このワーク・プラン(文献[5])は、委員会声明の「付録」として公表されている。

委員会声明([4],p.14)によれば 、 ワーク・プランは、米国発行体に対する 現行財務報告システムを将来IFRSが組み込まれたシステムに移行するに先 だって、スタッフが検討する6つの分野(下記の①から⑥)を提示していると

(8)

説明されている。

① 米国の国内財務報告システムにとってのIFRSの十分な開発および利用

② 投資家のベネフィットにとっての基準設定の独立性

③ IFRSに関する投資家の理解および教育

④ 会計基準の変更によって影響を受ける米国の規制環境の調査

⑤ 発行体に対する影響

⑥ 人的資源の準備状況

委員会声明([4],p.15)によれば 、 スタッフがワーク・プランにおいて分析 するであろう6つの分野のうち、最初の2つの分野は、米国発行体に対する 財務報告システムにIFRSを組み込むか否かに関する、SECによる将来決定に 密接に関連するIFRSの特徴とその基準設定を検討していると説明されている。

また、残りの4つの分野は、移行時に検討すべき事項に関連しており、これら 移行時の検討によって、スタッフは、米国発行体に対する財務報告システムに IFRSを効果的に組み込むに必要であろう変更の範囲、時期、方法をより適切 に評価できるであろうと説明されている。

ワーク・プランは、上記の6つの各分野において、スタッフが実施する検討 内容についての詳細な説明を以下のように提示している。

⑴ 米国の国内財務報告システムにとってのIFRSの十分な開発および利用 委員会声明([4],pp.16-17)によれば 、IASBは高品質な会計基準を開発する うえで大きな進展を達成してきた。しかしながら 、IASBの基準設定戦略の完 成により、IFRSが改善され、さらに開発される分野があると認識されている。

ワーク・プラン([5],p.4)によれば、スタッフは、IFRSが米国発行体にとっ て単一セットのグローバルに容認された会計基準として十分に開発され、利用 されているか否かの評価をするために、次の3つの分野について、下記の(a) から(c)のように検討するであろうと指摘されている。

(9)

(a) IFRSの包括性

(b) IFRSの監査可能性および実施可能性

(c) 法域内および法域間におけるIFRS財務諸表の比較可能性

(a) IFRSの包括性

ワーク・プラン([5],p.5)によれば 、SECおよびコメンテーター8)は、下記 のように、IFRSの指針が不十分なものであるとの2つの問題点を提起してい ると指摘されている。

1つは、次の3つの事項に対する一般的指針が欠如しているとの問題点であ る。

いくつかの分野、たとえば、共通支配取引、資本修正取引、組織再編成、

支配の変更を生じない非支配持分の取得および類似取引に関する会計処理

いくつかの産業、たとえば、公益事業、保険事業、鉱業および投資事業

会計原則の適用に関するより適切な透明性を提供するための開示 もう1つは、IFRSが一般的指針を提供している場合、IASBは、実務上の問 題として、その指針をU.S.GAAPほど詳細で規範的なものにしない選択をして いるとの問題点である。

ワーク・プラン([5],p.6)によれば、スタッフは、IFRSの包括性を検討する ために、次の3つの作業を実施するであろうと指摘されている。

① IFRSが指針を提供していない分野、または、IFRSU.S.GAAPほど詳細 な指針を提供していない分野の一覧表を作成する。

発行体、監査人および投資家が、実務において現在これらの状況

(上記①の分野)にどのように対処しているかを分析する。

発行体、監査人および投資家が、追加的なIFRS指針からもっとも便益を うける分野を明らかにする。

(b) 監査可能性および実施可能性

ワーク・プラン([5],pp.6-8)によれば 、 コメンテーターは、IFRSの監査可

(10)

能性および実施可能性について、次のような問題点を提起していると説明され ている。

① IFRSは、U.S.GAAPと比べた場合、柔軟性が大幅に許容され、監査可能 性および実施可能性の低い基準が生じることになるであろう(このこと は公益のためにならないであろう)との意見を表明したコメンテーター がいた。

作成者の会計上の結論が、監査人、規制監督者および投資家によって不 当に批判される可能性について言えば、IFRSによる余り詳細ではなく、

規範的でない指針が、米国における訴訟環境を前提として、その適用の 問題点を追求する株主やその他の人々による増加する苦情に会社をさら させるとの懸念を表明したコメンテーターがいた。

③ IFRSによる余り詳細ではなく、規範的でない指針は、発行体、監査人お よび規制監督者の間におけるグローバル基準に関する考え方の多様性と 結びついて、IFRSのもとで作成される財務諸表の比較可能性に影響を与 えるであろう。たとえば、各監査事務所が、IFRSについて独自の解釈を 開発する可能性に関する問題点を提起するコメンテーターがいた。

ワーク・プラン([5],p.9)によれば、スタッフは、IFRSのもとで作成される 財務諸表の監査可能性および実施可能性は、米国発行体に対する財務報告シス テムにIFRSを組み込むか否かを検討するさいの重要な要因であると考えてい る。したがって、スタッフは、これに関する情報をSECに提供するためにデー タを収集しようとしている。このため、スタッフは、次の3つの作業を実施す るであろうと指摘されている。

① IFRSに準拠して作成された財務諸表の監査可能性およびIFRSの実施可 能性に影響を与える諸要因を分析する。

② IFRSに準拠して作成された財務諸表についての首尾一貫した監査とIFRS の実施に影響を与える諸要因を分析する。

(11)

③ IFRSに準拠して作成された財務諸表の監査可能性および実施可能性を改 善し、首尾一貫した監査とその実施を促進するための将来変更を明らか にする。

(c) 法域内および法域間における比較可能性

ワーク・プラン([5],p.10)によれば 、 次のような比較可能性に関する問題 点が認識されている。

上記の(a)および(b)において述べたように、低い水準の包括性やIFRS による財務諸表についての監査の首尾一貫性および実施可能性に関する 問題点は、比較可能性に影響を与えるであろう。

さらに、IFRSを適用するさいの法域ごとの多様性、IFRS内の選択可能性 およびIFRSの翻訳上の差異から生じる一貫性の欠如も、単一セットのグ ローバル会計基準としてのIFRSのベネフィト(つまり、比較可能性)を 減少させるであろう。

ワーク・プラン([5],p.11)によれば 、 スタッフは、法域内および法域間に おける比較可能性を検討するために、次の3つの作業を実施するであろうと指 摘されている。

グローバル原理に基づき、IFRSに準拠して作成された財務諸表の比較可 能性の程度に影響を与える諸要因を分析する。

② IFRSに準拠して作成された財務諸表の実務における比較可能性の欠如の 程度と投資家がこのような状況をどのように対処しているかについて評 価する。

投資家に最良のベネフィトを提供するために、国境を越えた基準のもと IFRSに準拠して作成された財務諸表の比較可能性を改善する方法を明 らかにする。

(12)

⑵ 投資家のベネフィットのための基準設定の独立性

委員会声明([4],p.19)によれば 、 単一セットの高品質でグローバルな会計 基準にとっての別の重要な要素は、投資家の最終的なベネフィットのために、

会計基準設定主体の資金調達とガバナンス機構が会計基準開発の独立性を支え ているか否かにあると認識されている。

ワーク・プラン([5],p.12)によれば 、 スタッフは、IASBが十分に独立的で あるか否かを決定するに必要な情報をSECに提供するために、次の4つの分 野について、下記の(a)から(d)のように分析するであろうと指摘されている。

(a) IFRS財団の監督 (b) IFRS財団とIASBの構成 (c) IFRS財団の資金調達 (d) IASBの基準設定プロセス (a) IFRS財団の監督

スタッフ([5],p.14)は、米国発行体に対する財務報告システムにIFRSを組 み込むか否かに関するSECの意思決定を支援するために、モニタリング・ボー ドがどの程度設計どおりに機能しているかについて分析するであろう。特に、

スタッフは、モニタリング・ボードの活動を分析し、改善のためにいくつかの 分野を評価するであろう。

(b) IFRS財団とIASBの構成

スタッフ([5],p.15)は、米国発行体に対する財務報告システムにIFRSを組 み込むか否かに関するSECの意思決定を支援するために、IFRS財団とIASB の構成が、投資家のために会計基準の独立的開発をどの程度促進しているかに ついて分析するであろう。特に、スタッフは、IFRS財団とFASBの構成に対 する変更と会計基準を独立的に開発するIASBの能力に対するその変更の影響 を分析するであろう。

(13)

(c) IFRS財団の資金調達

スタッフ([5],pp.16-17)は、 (1)IFRS財団の資金調達がIASBの独立性を促進 する程度、(2)IFRS財団に対する米国を本拠にした拠出金を提供するための考 えうる資金調達メカニズムを分析するであろう。特に、スタッフは、次の3つ の作業を実施するであろう。

資金調達アプローチの制定を支配する評議員会の4つの特質9)が適切で あるか否かを評価する。

個別の機関からの自主的な資金調達が減少し続けているか否か、安定的 な独立的資金調達基盤が保証されているか否かを決定するためにIFRS 団の資金調達契約をモニタリングする。

米国における資金調達メカニズムに対する代替的方法を探究する。

(d) IASBの基準設定プロセス

スタッフ([5],pp.18-21)は、IASBの基準設定プロセスに関連する3つの分 野(①投資家の優先性、②適時性、③客観性)を分析するであろう。

スタッフは、IASBがどの程度投資家の視点の優先性を促進するかについ て分析するであろう。

スタッフは、IASBがタイムリーな方法による緊急問題の解決とデユープ ロセスとのバランスをどの程度とるかについて分析するであろう。

スタッフは、IASBの基準設定プロセスがどの程度独立的かつ客観的であ るかについて分析するであろう。

⑶ IFRSに関する投資家の理解および教育

委員会声明([4],p.20)によれば 、 単一セットの高品質でグローバルに容認 された会計基準を採用することのベネフィットは、投資家が財務報告システム を理解し、信頼する場合に限り、実現するであろう。このため、SECは、IFRS の米国財務報告システムへの組み込みを評価するために、投資家のIFRSに関

(14)

する理解と教育を評価するためのさらなる作業が必要であると認識されてい る。

ワーク・プラン([5],p.22)によれば 、 スタッフは、米国発行体に対する財 務報告システムにIFRSを効果的に組み込むために必要な投資家教育の取り組 みの程度をより適切に評価するために、米国投資家が現在どの程度IFRSに精 通しているかあるいは米国投資家が会計基準に対する変更について現在どのよ うに教育されているかについて検討するであろうと指摘されている。また、ワー ク・プラン([5],p.23)によれば 、 スタッフは、会計基準における変更につい て投資家を教育するために用いる既存のメカニズムと投資家によるIFRSの理 解を促進する方法を分析するであろう。特に、スタッフは、次の3つの作業を 実施するであろうと指摘されている。

米国投資家のIFRSについての現在の知識と米国発行体に対する財務報告 システムにIFRSを組み込むための準備状況を対象とする調査研究を実施 する。

投資家が会計基準の変更に関して自らを教育する方法とそのような教育 の適切な時期を理解するために様々な投資家グループからの情報を収集 する。

投資家によるIFRSの理解を改善するために、変更の範囲、その詳細計画 および変更に取りかかるに必要な予想時間を検討し、将来の組み込みに 先立って、投資家によるIFRSについての十分な理解を確保するための関 連教育プロセスについて検討する。

⑷ 会計基準の変更によって影響を受ける米国の規制環境の調査

委員会声明([4],pp.20-21)によれば 、 連邦証券法は、SECや投資家に財務 情報を提供する公開会社およびその他の企業により準拠される会計原則を制定 する権限をSECに付与しているが、SECは、米国発行体がSEC以外の関係者

(15)

や投資家に提供する情報についての規定や内容を直接定めていない。しかしな がら、SECの会計基準の変更は、発行体や報告制度の基礎としてU.S.GAAP 依存している規制機関や他の機関に発行体により提供される情報に影響を与え るであろうと認識されている。

ワーク・プラン([5],pp.25-32)によれば、スタッフは、次の6つの分野に 関するIFRSの組み込みによる米国の規制環境への影響について、下記の(a) (f)のように分析するであろうと指摘されている。

(a) SECがその任務を達成する方法

(b) 産業規制機関

(c) 連邦税および州税への影響 (d) 監査規制および監査基準設定

(e) ブローカー・ディーラーおよび投資会社の報告 (f) 公開会社と非公開会社

(a) SECがその任務を達成する方法

スタッフは、会計基準設定におけるFASBの継続的役割に対するアプローチ と米国発行体に対する財務報告システムにIFRSを組み込むことのSECの規則 および手続への影響を分析するであろう。

(b) 産業規制機関

スタッフは、①産業規制規定に準拠する発行体への影響を分析し、②SEC 報告における変更の産業規制への影響について検討し、③規制制度に対する将 来の何らかの変更に関連する利害関係者の関心を分析するであろう。

(c) 連邦税および州税への影響

スタッフは、①規制を受ける発行体への影響と同様、連邦税規則および州税 規則への影響を分析し、②SEC報告における変更の連邦税および州税当局へ の影響を検討し、③連邦税および州税規制に対する将来の何らかの変更に関連 する利害関係者の関心を分析するであろう。

(16)

(d) 監査規制および監査基準設定

スタッフは、監査基準設定および監査人規定への影響を分析するであろう。

特に、スタッフは、①PCAOB10)(公開会社会計監査委員会)基準への影響を 検討し、②監査基準の何らかの変更の範囲、その詳細計画および変更に取りか かるに必要な予想時間を検討するであろう。

(e) ブローカー・ディーラーおよび投資会社の報告

スタッフは、ブローカー・ディーラーおよび投資会社に対する財務報告規定 について考えうるアプローチを分析するであろう。

(f) 公開会社と非公開会社

スタッフは、米国発行体に対するIFRSの組み込みによる、米国の非公開会 社への影響を分析するであろう。特に、スタッフは、①IFRSの組み込みによる、

非公開会社、監査人および投資家への影響を分析し、②非公開会社に関して結 果として生じる何らかの影響を配慮するために、変更の範囲、その詳細計画お よび変更に取りかかるに必要な予想時間を評価するであろう。

⑸ 発行体に対する影響

委員会声明([4],p.21)によれば 、 移行による投資家への多大な影響に加えて、

財務諸表の発行体は、移行の結果として、コスト、労力、時間を負担するであ ろう。小規模な会社や国際的活動に従事していない会社は、大規模会社とは異 なるコストおよび労力を負担するであろうと認識されている。

ワーク・プラン([5],pp.35-38)によれば、スタッフは 、 次の5つの分野に 関するIFRSの組み込みによる発行体に対する影響について、下記の(a)から(e) のように分析するであろうと指摘されている。

(a) 会計システム、コントロールおよび手続 (b) 契約上の取り決め

(c) コーポレート・ガバナンス

(17)

(d) 訴訟の偶発性に関する会計 (e) 小規模発行体対大規模発行体 (a) 会計システム、コントロールおよび手続

スタッフは、IFRSの組み込みを促進するために発行体の会計システム、コ ントロールおよび手続の変更の範囲、その詳細計画および変更に取りかかるに 必要な予想時間を決定するであろう。

(b) 契約上の取り決め

スタッフは、IFRSの組み込みによって影響受けるであろう契約上の取り決 めのタイプおよび普及度を評価するであろう。また、影響を受ける契約上の取 り決めに関する懸念に取り組むために必要なコスト、能力、計画、予想時間を 決定するであろう。

(c) コーポレート・ガバナンス

スタッフは、コーポレート・ガバナンスおよびそれに関連する懸念への IFRSの組み込みの影響を決定するであろう。また、スタッフは、コーポレート・

ガバナンス関連事項に取り組むための考えうるアプローチやこれらのアプロー チの範囲、その詳細計画およびアプローチに取りかかるに必要な予想時間を決 定するであろう。

(d) 訴訟の偶発性に関する会計

スタッフは、IFRSのもとでの訴訟の偶発性に関する会計およびデスクロー ジヤー規定に関して、発行体、法律の専門家および投資家と議論するであろう。

また、スタッフは、IFRSのもとでの訴訟の偶発性のための会計およびデスク ロージヤー規定に関する懸念に取り組む考えうるアプローチを決定するであろ う。

(e) 小規模発行体対大規模発行体

スタッフは、大規模な発行体とは異なる小規模な発行体へのIFRSの組み込 みの影響を分析するであろう。このため、スタッフは、IFRSの組み込みの影

(18)

響が発行体の規模により異なる特徴を決定するであろう。また、スタッフは、

小規模発行体へのIFRSの組み込みの不均衡な影響に関する懸念を緩和するた めの考えうるアプローチとこれらのアプローチの範囲、その詳細計画およびア プローチに取りかかるに必要な予想時間を決定するであろう。

⑹ 人的資源の準備状況

委員会声明([4],pp.21-22)によれば 、IFRSの組み込みには、財務報告プロ セスに係わるすべての関係者(投資家、作成者、監査人、規制監督者および 教育者を含む)の準備状況についての検討が必要であろう。結果として、IFRS の財務報告システムへの組み込みに伴う変更は、投資家、作成者、監査人、規 制機関、学者およびその他の人々に対して、IFRSに精通することをより強く 要求するであろうと認識されている。

ワーク・プラン([5],p.41)によれば 、 スタッフは、IFRSの教育および研修 基盤の十分性を分析するであろう。特に、スタッフは、次の2つの作業を実施 するであろうと指摘されている。

① IFRSの経験についての現在の水準と利害関係者における教育および研修 のニーズの範囲を評価する。

利害関係者における将来の研修のための計画の範囲、その詳細計画およ び計画を実施するための予想時間を検討する。

また、ワーク・プラン([5],p.42)によれば 、 スタッフは、IFRSに関する監 査人の能力の制約とそのことの結果を分析するであろう。特に、スタッフは、

次の2つの作業を実施するであろうと指摘されている。

監査の質、コストおよび監査事務所の集中および競争への影響を含む、

監査人の能力の制約に関する懸念を分析するであろう。

これらの懸念を緩和するために考えうるアプローチやこれらのアプロー チの範囲、その詳細計画およびそれに取りかかるに必要な予想時間を決

(19)

定するであろう。

Ⅳ ワーク・プランの展開

本節においては、スタッフによるワーク・プラン(2010年2月)のその 後の展開を①ワークプラン・プログレスレポート(2010年10月)②スタッ フ・ペーパー・組み込み方法の研究(2011年5月)、③組み込みに関する 2つのスタッフ・ペーパー・(2011年11月)、④スタッフによる最終報告 書(2012年7月)に分けて、説明する。なお、③および④については、次 号において説明する。

⑴ ワークプラン・プログレスレポート(2010年10月)

スタッフは、20102月以降、ワーク・プランを実施するために多くの時 間と労力を投下してきた。スタッフは、20101029日に「米国発行体に 対する財務報告システムへのIFRSの組み込みを検討するためのワークプラン:

プログレスレポート」(以下、プログレスレポートと略称する)を公表した。

このプログレスレポート(文献[6])は、ワーク・プランにおける各分野(25 頁で指摘した6つの分野)の目標を要約し、今日までのスタッフの取り組みお よび予備的所見について論じている。

プログレスレポート([6],p.2)によれば、スタッフの取り組みの多くは、現 在進行中であり、2011年までに完成される予定はない。特に、その取り組みが、

①米国の国内財務報告システムのためのIFRSの十分な開発および適用と②投 資家のベネフィットのための基準設定の独立性に関係している場合、そういう 状況であると説明されている。以下において、プログレスレポートにおいて検 討されている6つの分野のうち、①の分野(米国の国内財務報告システムのた めのIFRSの十分な開発および適用)と②の分野(投資家のベネフィットのた めの基準設定の独立性)を中心にプログレスレポートの内容を明らかにする。

つまり、①および②の分野における(Ⅰ)ワーク・プランの目標と(Ⅱ)スタッ

(20)

フによるその取り組みについて説明したうえで、(Ⅲ)スタッフによる現時点 における予備的所見を明らかにする11)

1)米国の国内財務報告システムのためのIFRSの十分な開発および適用

(Ⅰ)ワーク・プランの目標

プログレスレポート([6],p.4)によれば、ワーク・プランは、IFRSが米国発 行体にとっての単一セットのグローバルに容認された会計基準として十分に開 発され、適用されているか否かを評価するため、次の3つの要素を検討してい ると説明されている。

(a) IFRSの包括性

(b) IFRSの監査可能性および実施可能性

(c) 法域内および法域間におけるIFRS財務諸表の比較可能性

(Ⅱ)ワーク・プランの取り組み

プログレスレポート([6],p.4)によれば、スタッフは、①IASBにより発行 されたIFRSと②実務で適用されているIFRS12)を分析することによって、上記 の3つの要素について、下記の(a)から(c)のように検討していると指摘され ている。

(a) IFRSの包括性

プログレスレポート([6],p.6)によれば 、IFRSの包括性についてのスタッ フの評価は、U.S.GAAPIFRSの比較に基づいており、この比較プロセスは、

次の事項を明らかにすることが意図されていると説明されている。

米国発行体に対する財務報告システムへのIFRSの組み込みが、指針の増 加または減少をもたらすであろう範囲

指針についての異なる水準が財務報告を改善する範囲

将来の組み込みに先だっての改善勧告

(b) IFRSの監査可能性および実施可能性

プログレスレポート([6],p.6)によれば 、 実務におけるIFRSの監査可能性

(21)

および実施可能性についてのスタッフの評価は、次の3つの事項についての分 析に関係していると説明されている。

① IFRSに準拠して作成された財務諸表の監査およびIFRSの施行における 監査上および規制上の課題

誤謬の訂正における傾向および会計関連の施行法

監査人、私的保証の訴訟当事者および規制機関による①における課題の 実務における対処方法

(c) 法域内および法域間におけるIFRS財務諸表の比較可能性 

プログレスレポート([6],p.8)によれば、スタッフによるU.S.GAAPIFRS との比較は、U.S.GAAPと比較して、指針の規範性が相対的に弱いこと、指針 が存在しないこと、または選択権が利用可能なことにより、IFRSの利用が財 務諸表の比較可能性を低下させるか否か、また低下させる場合、どの分野にお いて低下させるかについての洞察を期待されていると説明されている。さらに、

プログレスレポート([6],p.8)によれば、この分析を実施する場合、詳細なルー ルは適用上統一性を導くであろうが、このことは、経済的に類似している取引 についての報告における比較可能性を必ずしも一貫して導くわけではない。し たがって、それほど詳細でない指針が、比較可能性の減少と文字通り同一視さ れることなどありえないとスタッフにより認識されていると説明されている。

(Ⅲ)予備的所見

プログレスレポート([6],p.9)によれば 、 スタッフは、次の3の目的を達成 するために法域のサンプルにおいて用いられている財務報告フレームワークを 調査研究していると説明されている。

米国発行体に対する財務報告システムにIFRSを組み込むための考えうる アプローチを明らかにすること。

スタッフは、他の法域がそれらの財務報告システムにIFRSを組み込む方 法や資本市場の規制機関、国内の基準設定主体および会計基準設定に責

(22)

任を負っている他の機関の主権に関する懸念に対する取り組み方法を明 らかにすること。

グローバル基準に基づくIFRSによる財務諸表の比較可能性へのこれらの アプローチの影響を明らかにすること。

プログレスレポート([6],p.9)によれば 、 今日までのスタッフによる調査研 究に基づけば、スタッフが取り上げた法域のサンプルの大部分は、上場企業に 対する報告規定にIFRSを完全にまたはある程度組み込んできたか、あるいは 組み込もうとしている。しかしながら、これらの法域がIFRSを財務報告シス テムに組み込む方法には、幅広いアプローチがあると説明されている。

プログレスレポート([6],p.10)は、「一般的には、法域は、(1)IASBにより 発行されたIFRSの利用か、⑵何らかの形式による各国の組み込みプロセス(こ のプロセスは、IASBによって発行されたIFRSの完全な利用かローカルな変 更を導くであろう)を経たうえでのIFRSの利用のいずれかの方法によって、

IFRSを組み込んできた。」と述べたうえで、財務報告システムへのIFRSの2 つの組み込みアプローチについて、次のように説明している。

第一のアプローチは、「IFRSのアドプション」の純粋な方式を表すものと考 えられる 。 この第一のアプローチのもとでは、変更するメカニズムがないので、

各国は、IASBにより発行された基準のいかなる変更も行わない。これらの基 準は、ローカルな会計基準設定主体による承認はなくても、IASBによりいっ たん発行されれば、適用可能となる。このアプローチは、すべての法域により 採用されれば、IFRSのもっとも首尾一貫した適用をもたらすように思われる が、このアプローチは、また、投資家保護のためのローカルな規制機関の権限 と責任をグローバルな民間セクターおよび多国籍な構成基盤を有する独立した 会計基準設定主体へ大幅に委任することになるように思われる。これまでのス タッフによる調査研究に基づけば、きわめて少数の大規模な法域が、現在、こ のアプローチに従っている。

(23)

第二のアプローチは、何らかの方式による各国の組み込みプロセスを経たう えでIFRSを利用する諸国にみられる 。 ほとんどの場合、これらの法域は、完 全なIFRSのアドプションという目標を持っている。しかし、このアプローチ に従っている法域は、IASBにより発行されたIFRSを必ずしも採用していない。

また、法域は、IFRSが発行されたのと同じ時期にそれを採用しない。したがっ て、適用上差異の可能性が生じる。このアプローチは、各国ごとの固有の問題 を取り組むさいに、大きな柔軟性を容認しているが、国または地域の会計基準 IASBにより発行されたIFRSと同一となるであろう保証はないので、単一 セットのグローバルな会計基準という目標に影響を与えるであろう。このアプ ローチは、さらに、⑴IASBにより発行されたIFRSを完全に採用するとの確 約のないまま、ローカル基準をIFRSにコンバージェンスする諸国(コンバー ジェンス・アプローチ)と⑵何らかの方式のローカル・エンドースメントを実 施する諸国(エンドースメント・アプローチ)に分けられるであろう。

2)投資家のベネフィットのための基準設定の独立性

(Ⅰ)ワーク・プランの目標

プログレスレポート([6],p.15)によれば、ワーク・プランは、基準設定主 体であるIASBが十分独立的であるか否かを決定するに必要な情報をSECに提 供するため、次の4つの要素を検討していると説明されている。

① IFRS財団の監督

② IFRS財団とIASBの構成

③ IFRS財団の資金調達

④ IASBの基準設定プロセス

(Ⅱ)ワーク・プランの取り組み

プログレスレポート([6],pp.16-19)によれば、スタッフは、上記の4つの 要素について、下記の①から④のように検討していると指摘されている。

① IFRS財団の監督

(24)

スタッフは、モニタリング・ボードの既存のガバナンス資料や、モニタリン グ・ボードのガバナンス・レビューの結果を検討するための会議および計画か らの資料を検討している。

② IFRS財団とIASBの構成

スタッフは、IFRS財団およびIASBの構成を評価するために、モニタリング・

ボードのガバナンス・レビューの結果によって補足された、IFRS財団および IASBのガバナンス書類を分析するであろう。

③ IFRS財団の資金調達

スタッフは、公開されている入手可能な書類およびアウトリーチのレビュー や利害関係者の見解についての分析を通して、その資金調達の取り組みを支配 する評議員会の4つの原則について評価している。

④ IASBの基準設定プロセス

スタッフは、IASBの基準設定プロセスに関連する3つ目標(⑴投資家の優 先性、⑵適時性、⑶客観性)を達成するために、モニタリング・ボードのガバ ナンスレビューの結果によって補足された、IASBの方針・手続およびこれら の方針の遵守についてレビューしている。

(Ⅲ)予備的所見

プログレスレポート([6],pp.18-19)は、現行IFRS財団の資金調達モデルに 関する予備的所見を次のように述べている。

IFRS財団は、そのガバナンス構造により、IASBに対して安定的な資金調達 を確保する責任を有している。しかし、IFRS財団は、非政府系機関として、

資金調達の要請を強制する権限を持っていない。IFRS財団は、原則として、

各国のGDPに基づいて各国から獲得しようとする資金調達の金額を決定する ことは、適切であると考えている 。 特定の国に割り当てられるIFRS財団の評 議員会は、その法域に対する資金調達の取り組みを担当させられる。IFRS 団によれば、評議員会は、各法域から目標拠出水準を産み出すために、規制機

(25)

関、他の公共機関および重要なステークホルダーグループとともに共同作業す る。さらに、多くの法域は、政府、会計基準設定主体または証券取引所を通し て、より公式的な拠出メカニズムを導入しているかまたは検討している。これ らの取り組みにもかかわらず、IFRS財団に対する長期的かつ強制的な資金調 達コミットメントを達成する取り組みは、完了していない。

3)IFRSに関する投資家の理解および教育

プログレスレポート([6],p.25)によれば、スタッフは、会計基準における 変更について投資家を教育するために用いる既存のメカニズムと投資家による IFRSの理解を促進する方法を現在調査し、分析していると説明されている。

4)規制環境

プログレスレポート([6],p.27)によれば、規制制度に対する暫定的な検討 についてのスタッフによる評価は、様々な利害関係者に対するアウトリーチを 通して実施されるであろうと説明されている。

5)発行体に対する影響

プログレスレポート([6],pp.35-38)によれば、ワーク・プランにより検討 された5つの分野におけるIFRSの組み込みによる発行体に対する影響につい ての検討状況が下記の①から⑤のように説明されている。

① 会計システム、コントロールおよび手続

スタッフは、MoU以外のプロジェクトについて、IFRSU.S.GAAPとを比 較する途上にある。完成時点において、スタッフは、発行体の会計システム、

コントロールおよび手続についての変更の範囲、その詳細計画および変更に取 りかかるに必要な予想時間を評価する予定である 。

② 契約上の取り決め

SECは、ワーク・プランにおけるスタッフによる分析を支援するために契 約上の取り決めに関する公開コメントを強く求めた。

③ コーポレート・ガバナンス

(26)

SECは、ワーク・プランにおけるスタッフによる分析を支援するためにコー ポレート・ガバナンスに関する公開コメントを強く求めた。

④ 訴訟の偶発性に関する会計

スタッフは、FASBIASBによる偶発性に関する会計についてのプロジェ クトの動静を注目し、IFRSU.S.GAAPとの差異に基づく将来の影響を追跡 している。

⑤ 小規模発行体対大規模発行体

スタッフは、特に発行体の規模に基づく発行体への組み込み影響についての 理解を引き続き得ようとするであろう。

6)人的資源の準備状況

プログレスレポート([6],p.39)によれば、スタッフがワーク・プランに向かっ てさらに前進した後に、人的資源の準備状況の評価は、より一層効率的に実施 されるとスタッフにより最初に決定されたと説明されている。

⑵ スタッフ・ペーパー・組み込み方法の研究(2011年5月)

スタッフは、2011526日にSECスタッフ・ペーパー「米国発行体に 対する財務報告システムへのIFRSの組み込みを検討するためのワークプラン:

組み込み方法についての研究」(以下、「スタッフ・ペーパー」と略称する)を 公表した。このスタッフ・ペーパー(文献[7])は、SEC20102月に公表 したワーク・プランに基づき、米国発行体に対する財務報告システムにIFRS を組み込むための一つの方法を提案している。このスタッフ・ペーパーによれ ば、米国以外において用いられてきたコンバージェンス・アプローチとエンドー スメント・アプローチを組み合わせた、コンドースメント・アプローチ(スタッ フによる造語)が提案されている。コンドースメント・アプローチのもとでは、

移行期においてはIFRSU.S.GAAPとの既存の差異について、コンバージェ ンス・アプローチが適用され、移行期終了後においては、エンドースメント・

(27)

アプローチが適用される。

スタッフ・ペーパー([7],p.2)によれば、スタッフの議論は、SECIFRS の組み込みを決定したとの提案を意図するものではないし、また、このフレー ムワーク(コンドースメント・アプローチ)が望ましいアプローチである、ま たは唯一の実行可能なアプローチであるとの提案を意図するものではないと説 明されている。また、このフレームワークは、以下のような組み込み方法に関 する3つの事項を前提としたアプローチを例示するために提示されたものであ ると説明されている 。

①単一セットの高品質でグローバルに容認された会計基準を達成する取り組 みにおいて、SECが直面する意思決定は、必ずしも二者択一の意思決定(つ まり、すべての米国発行体によるIFRSの利用を直ちに要求するか否かの 意思決定)ではない。

IFRSの組み込みは、SECが米国会計基準設定の最終的権限を保持するこ とと矛盾しない。

③単一セットの高品質でグローバルに容認された会計基準を追及する一方 で、達成コスト、労力およびその他の移行に伴う障害を最小限に留めよう とする基本的目標を達成するための方法がいくつか考えられる。

スタッフ・ペーパー([7],pp.2-3)によれば、提案されたフレームワーク(コ ンドースメント・アプローチ)は、以下に示すようないくつかの原則に基づい ていると説明されている。

第一に、U.S.GAAPは保持されるであろうが、FASBは、一定期間にわたっ

IFRSU.S.GAAPに組み込むであろう。この場合、移行コスト、特に、小

規模な発行体にとっての移行コストの最小化に焦点が当てられるであろう。

FASBは、規定されたエンドースメント修正条項により、新規のIFRSまたは 改訂IFRSU.S.GAAPに組み込むであろう。

第二に、このことは、FASBよる現在の活動方法に変更を要求する。他の法

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域と同様に、エンドースメント修正条項は、公益のためになり、投資家の保護 にとって必要な場合、SECFASBIFRSを修正または補足する権限を付与 するであろう。

第三に、ここで展開されているフレームワークは、IFRSをそれぞれの国の 財務報告フレームワークに組み込むための、他の主要な法域のプロセスの重要 な特徴の多くを共有するであろう。しかしながら、多くの国は、IFRSの「最 初のアドプション」を通して、既存の会計基準とIFRSとを調整することを選 択し、その後、エンドースメント手続を通して、新規のIFRSまたは改訂IFRS と歩調を合わす。一方、このスタッフ・ペーパーにおいて展開されているこの フレームワークは、IFRSU.S.GAAPとの既存の差異がFASBによる基準設定 の取り組みを通して除去されるであろう移行期間を含むであろう。

以下において、このスタッフ・ペーパーの目次(下記の①~④)に従って、

その主要な内容について説明する。

①他の法域のアプローチの要約(コンバージェンス・アプローチとエンドー スメント・アプローチ)

②フレームワーク(コンドースメント・アプローチ)

③移行要素(コンバージェンス・アプローチ)

④ベネフィトとリスク

1)他の法域のアプローチの要約(コンバージェンス・アプローチとエンドー スメント・アプローチ)

2010年のプログレスレポート([6],p.10)によれば、本論文(40頁)で述べ たように、何らかの方式による組み込みプロセスを用いる諸国は、一般的に、

IASBによって発行されたIFRSを完全に組み込むとの確約なしに、ローカ ル基準とIFRSをコンバージェンスする諸国(「コンバージェンス・アプローチ」 と②何らかの方式によるローカル・エンドースメントを実施する諸国(「エン ドースメント・アプローチ」の2つに分けることができる。スタッフ・ペーパー

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