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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1.研究の目的

(重力を除く)物理学で最も基本的な相互作用や観測される素粒子は量子場の理論に基 づく標準模型(SM)によってうまく記述されている。また重力現象のほとんどは古典場の 理論である一般相対性理論(GR)によってよく記述されている。しかし、SM および GR の単純な統合は、GRが繰り込み不可能であるために、意味のある理論にならず、量子重力 の理論はいまだ構築されていない。SM自身もまた、質量階層性を説明できず、結合定数の 統一を持たない等、不完全である。重力にも、宇宙のダークエネルギーやダークマター、

宇宙定数の値の起源といったいくつかの基礎的な問題が存在する。事実、宇宙定数問題は 量子重力の筋道によってのみ解かれうるなど、SMおよび重力の問題は深く関連している。

超弦理論は量子重力を含む究極の基礎理論の候補である。超弦理論は数学的な整合性を 持つが、空間の余剰次元や局所超対称性を要請し、数年にも亘る集中的な研究にも関わら ず、SMや宇宙論との関係は明らかではない。知られた最も有望な方法が、いわゆるカラビ・

ヤウ(CY)多様体上で時空4次元に超弦コンパクト化するものである。

局所超対称性は超弦理論の低エネルギー有効理論である超重力理論を導く。時空10次 元におけるいわゆるIIA型の閉じた超弦理論から始め、これを複素3次元CY多様体上にコ ンパクト化すると、全て無質量の場・粒子を伴う時空4次元の拡張N=2超重力有効理論が 現れる。これらの質量を得るため、10次元時空中にソリトン的ブレーンを取り込む必要 がある。いくつかのブレーンはフラックスを伴って特定のCYサイクルに巻き付き、4次元 時空のスカラーポテンシャルおよび有効なインスタントン効果をもたらす。調査下の IIA 型理論の場合、フラックスは4次元の低エネルギーN=2 超重力理論におけるモジュライ空 間のアイソメトリーをゲージ化する。同時に、摂動論的(ループの)及び非摂動論的(イ ンスタントンの)補正効果が、原理的に、全てのループ次数および全てのインスタントン 数に亘って完全に計算できる。

ストリング宇宙論およびストリング現象論の中心的課題はモジュライ安定化、すなわち 理論から質量とスカラーポテンシャルを得ることである。これは、ブレーンが重要な役割 を果たす、CY上における超弦理論のフラックスコンパクト化と呼ばれる方法によって達成 される。しかしながら、問題の非常な複雑さにより、明示的な計算はしばしば不可能であ り、だからこそ、モジュライ安定化の非自明なモデル(理論的実験と呼ばれる)による包 括的な研究が強く求められている。そのようなモデルの1つがリジッドCY多様体上におけ るIIA型超弦理論のフラックスコンパクト化である。

この博士論文は、インフラトン場の「スローロール」で記述される宇宙論的インフレー ション、および正の宇宙定数(ドジッター真空)によるダークエネルギー記述を目指した ものである。ストリング理論から生じる4次元のゲージ化されたN=2超重力有効理論にお いて非摂動論的なスカラーポテンシャルを導出し、モジュライ安定化へ応用することを目 的としている。

2.研究の方法と結果

研究の方法は現代的な数学(CYトポロジー、モジュライ空間、微分および代数幾何、可 積分系)、高エネルギー理論物理学(場の理論、超重力理論、インスタントン)、弦理論(超

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弦、ブレーン、コンパクト化、フラックス、摂動的および非摂動的ストリング補正)、そし て数値計算(ウルフラム・マセマティカおよびメイプルといったコンピューターソフトウ ェアによる)を駆使したものである。

CY多様体上にコンパクト化されたIIA型超弦理論の低エネルギー有効理論は4次元時空 上のN=2超重力理論によって与えられるのと同時に、N=2超重力理論のアイソメトリーを ゲージ化するフラックスを持つ。ゲージ化されたN=2超重力理論上のスカラーポテンシャ ルはゲージ化されたアイソメトリーと、物質であるN=2ベクター多重項およびハイパー多 重項のモジュライ空間の計量によって決まる、スカラー運動項によって完全に決定される。

これらのモジュライ空間はそれぞれいわゆる特殊ケーラーおよび四元数ケーラー多様体で あり、これはN=2局所超対称性による結論である。特殊ケーラーモジュライ空間はストリ ング理論から完全に記述されており、一方で四元数ケーラー多様体は部分的にしか解明さ れていなかった。この論文で鍵となる単純化は複素モジュライを持たないリジッドCY多様 体を扱うことでありる。そのときN=2超重力有効理論のスペクトラムには普遍ハイパー多 重項(UH)として知られる、唯一のハイパー多重項が含まれる。UHの四元数ケーラー多 様体は、UH計量に対する全ての寄与をコントロールする、可積分系によって定められる。

摂動的な効果はツリーレベルと1ループレベルに留まり、一方で非摂動的な寄与は世界面 インスタントン、D2ブレーンの巻き付き(Dインスタントン)、NS5ブレーンの巻き付き

(NS5インスタントン)にのみ因る。本博士論文ではNS5インスタントンの寄与を、スト リング結合定数を1よりも小さいところに研究を制限することで、無視している。この単 純化の結果として、UH に関連する可積分は3次元(または2次元SU(∞))戸田系によっ て与えられる。

この博士論文の主たるオリジナルな結果は、いくつかの(アーベル的)N=2 ベクトル多 重項を考慮した上で、UHモジュライ空間上の完全な(ツリー、1ループ、ワールドシート およびDインスタントン補正を持つ)計量からゲージ化されたN=2超重力有効理論におけ る全てのスカラー場の非摂動的なスカラーポテンシャルを導出したことである。このスカ ラーポテンシャルはモジュライ安定化に適用され、アクシオンに対する真空の離散集合が 発見された。これら臨界点において、安定性の問題は残りの場(ディラトンおよびケーラ ーモジュライ)に簡略化される。そしてケーラーモジュライが1つおよび2つの特殊な場 合におけるスカラーポテンシャルの解析に数値計算が用いられた。結果はケーラーモジュ ライの数に関わらず、不安定性が常に存在することを示していた。これは考察された全て の場合において準安定なド・ジッター真空が存在しないことを意味している。

ド・ジッター真空が存在しない代わりに、パラメーター(フラックス)およびディラト ン、ケーラーモジュライの適切な範囲において、非摂動的なスカラーポテンシャルは、宇 宙論的インフレーションを記述するのに使える可能性がある。これについてもまた、本博 士論文において調べられ、インフレーションの正のエネルギーは得られるが、スローロー ル条件は満たされないことが分かった。この結果はストリング宇宙論のあるクラスにおい て、宇宙論的インフレーションを説明できないことを意味するものである。

3.審査の結果

ストリング理論において、現実的なストリングコンパクト化の方法を探し、それを宇宙 論的観測または素粒子物理学へ接続する問題は、決着がついておらず、解決されていない。

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長年の研究や広範囲な文献の存在にも関わらず、ストリング理論において準安定なド・ジ ッター真空を得ることはとても難しい。同時に、ストリング理論における宇宙論的インフ レーションの確立された予言や適切なインフレーションモデルは得られていない。

本博士論文でなされた堅固で一貫した研究は、D インスタントン補正によるアクシオン 安定化の新たな機構を提供することにより、これらの問題により新しい視点を与え、同時 に、IIA型超弦理論においてリジッドCY多様体の場合に摂動的およびDインスタントンの 補正を考慮することで、知られている“no-go”定理に考察可能なより一般的な拡張を与え た。これは、考慮せざるを得ない、かつ非常に非自明で明示的な(解析的・数値的な)計 算によって実現されている。

この科学的な成果は、S.ケトフ氏および S.アレクサンドロフ氏との共同研究に基づき申 請者によって得られ、ストリング理論に重要な寄与を果たすオリジナルかつ新規なもので あり、この研究に対する申請者の寄与は本質的なものであった。得られた研究結果は、摂 動的かつ非摂動的なレベルの量子効果の直接的な計算によって、ミラー対称性なしで(リ ジッドCY多様体はミラー双対を持たない)、ストリング理論におけるダークエネルギーお よび宇宙論的インフレーションの探索における新たな方向性を示した。本博士論文の結果 はストリング理論におけるモジュライ安定化のより深い研究に対するツール、または基礎 を与えるものである。

以上により、本博士論文は博士(理学)の学位に十分値するものと判定した。

4.最終試験の結果

本学の学位規定に従って試験および試問を行った。公開の席上で論文内容の発表を行い、

物理学専攻教員による質疑応答をもって試験とした。また、論文審査委員による本論文お よび関連分野の試問を行った。その結果、専門科目および外国語について十分な学力を持 つものと認め合格と判定した。

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