【学位論文審査の要旨】
老朽化したインフラの維持管理は、人口減少社会を迎える我が国において重要な課題で ある。特に、ライフラインとしての役割を担う水道管路は、地中に埋設されるため、劣化 状況を直接確認することができず、地下で発生した水道管路の漏水を早期に発見すること は極めて困難である。こうした課題を克服すべく、最近ではインフラのヘルスモニタリン グ技術の開発が進められており、高感度センサーやAI技術を活用した維持管理手法の適用 範囲が徐々に広がりを見せている。
本研究では、水道管路で発生する漏水の検知を目的に、リカレンスプロット(RP)を活 用した漏水音の可視化を試みるとともに、可視化した画像を訓練データとし、畳み込みニ ューラルネットワーク(CNN)による漏水有無の判別モデルを構築した。また、こうした音 響データを得るための漏水検知センサーの配置にも目を向け、OR手法の1つであるk-メデ ィアン問題を応用し、漏水の発生箇所からセンサーまでの移動距離の総和が最小になるよ うな配置計画方法を検討した。
本研究で得られた主要な成果は、以下のとおりである。
1)漏水検知センサーの配置計画手法とその社会実装に関する研究に取り組み、フィール ド実験の結果に関する考察、並びに最適化モデルによる配置案の妥当性を検証した。本 実験の対象地域において、模擬漏水を3箇所で別々に発生させ、40箇所の消火栓や仕切 弁に設置したセンサーで漏水検知の可否を判定した。漏水点からの距離が近いセンサー では検知可能、十分に遠いセンサーでは検知不可となる傾向が確認された一方、漏水点 とセンサーの距離が中庸な関係にある場合、測定距離が短いにも関わらず検知不可とな るケースが散見された。配管図面を精査した結果、近距離で検知不可となった原因は、
管路の分岐や曲がり等の障害が多く存在することによるものと考えられ、既往の最適化 モデルを実務に取り入れる場合、管路ネットワークの詳細な情報を追加する必要性が示 唆された。本研究では、管路の分岐や曲がりが集中している箇所に対して優先的にセン サーが配置されるようセンサー間の距離に配管情報が重みづけされた最適配置モデル を考案し、総延長4.23kmの管路ネットワークを12個の漏水検知センサーによって監視 する合理的な計画代替案を提示した。
2)屋外のテストコースにおいて模擬的に漏水を発生させ、観測した漏水音と暗騒音に対 するカオス時系列解析を試みた。時系列データの特性をアトラクタで表現した結果、漏 水音と暗騒音に差異があることがわかった。さらに、アトラクタの幾何学的構造を定量 化する軌道平行測度法により、漏水音の特徴を把握した結果、暗騒音に比べて漏水音の 時系列データには決定論的性質が強く認められることや、漏水点から測定地点までの距 離が遠くなるのに従って樹脂系の管路では決定論的性質が弱まることが明らかになっ
た。
3)漏水音が有する時系列データの決定論的性質を踏まえ、RP を活用して音響データを 2 次元平面に可視化した。漏水量が87.0 L/minの条件では正弦波のRPに非常に類似した 規則的な模様を描くことや、暗騒音の場合はホワイトノイズの時系列波形から得られる RPに近い特徴を有することが確認された。これらのRPの9割を訓練データとして用い、
CNNによる漏水有無の判別モデルを構築した後、残りの1割のデータでモデルの汎化能 力を確認した結果、balanced-accuracyで90%前後の良好な精度が得られた。
4)提案したRP-CNN漏水判別モデルを「実漏水」のデータ(n=83)に適用した。様々な漏 水条件に対し、モデルの学習処理と汎化能力テストは、模擬漏水の適用時と同一に維持 して実施した。この結果、合計83のサンプルのうち、55個のサンプルが8割以上の認 識精度を示したことから、実漏水に対する提案モデルの有用性が確認された。つぎに、
漏水判別モデルの精度と漏水原因の関係を考察したところ、モデルの精度が低かった条 件は、クラックや接合部、樹脂系の管種、漏水量が少なく測定地点までの距離が長いケ ースであることが明らかになった。
以上要するに、本論文は、水道管路で発生する漏水に着目し、その検知センサーの配置 計画に関する最適化、RP による漏水音の可視化、それらの画像を機械学習の訓練データと して活用する漏水判別のモデル化について総合的に論じたものであり、将来の水道工学分 野における貢献は極めて大きい。
よって、本論文は、博士(工学)の学位を授与するに十分な価値を有するものと認められ る。