精神的操作過程の理論
その他のタイトル Processing of mental operation
著者 藤沢 等
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 19
号 1
ページ 159‑182
発行年 1987‑11‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00022693
精 神 的 操 作 過 程 の 理 論
藤 沢 等
Processing of mental operation Hitoshi Fujisawa
Abstract
This paper proposed that Human beeing, a s a whole, would be regarded as mental operation processings. This mental operation system could be compo‑
sed by a general economic principle and a biological determinant o n e . The general economic principle i s differentiated by simplification, reordination and automation o f processing. The biological determinant principle i s certified by three components. F i r s t i s a information condense p r o c e s s " i n g ・ t h a t i s a u n i t of organization. Second i s meaning primitives that a r e sources f o r processing. And the l a s t i s resolution o f incongrunity t h a t i s t h e m o s t important functional component.
Six t h e o r i e s , deduced from pr i or principles,・are " d i s c u s s e d .
Hierarchical theory determined t h e structure of mental processings. Inter‑
l e v e l theory proposed the relation of hierarchical l e v e l s and the flow of information. lntra‑lebel theory clarified t h e feature o f each l e v e l . Auto‑
m a t i o n and autonomy of p r o c e s s . i ng・are discussed i n consciousness theory.
Context theory i s argued i n t e rm s of strategy and time perspective. And emotion theory gi v e s the i d e a t h a t t h e emotion c a n b e determined to t h e
l e b e l o f performance stemed f r o m incongruity.
Key words: mental o p e r a t i o n , g e n e r a l economic p r i n c i p l e , i n f o r m a t i o n c o n d e n s e , meaning p r i m i t i v e , i n c o n g r u i t y , phase t r a n s i t , b e h a v i o r a l environment, automatic c o n s c i o u s n e s s , autonomical c o n s c i o u s n e s s , time p e r s p e c t i v e
抄 録
本論文は人間を精神的操作主体とみなし,人間を全体として考察するための心理的要素とそれ らの関係を明らかにする。精神的操作過程は操作の単純化と簡素化, 自動化からなる一般的経済 原則と構造的単位である情報圧縮と基本的データである意味素,機能的単位の矛盾解決からなる 生得性原則による非常に複雑な階層システムである。この二つの原則から,精神的操作の構造の 理論として階層構造理論を,階層の生成と機能的関連を扱ったものとして階層間理論を,各階層 の構造を扱ったものとして階層内理論を,精神的操作の自動化と自律化として意識理論を,時間 的推移を扱った精神的操作として文脈理論を, そして操作及び情報処理活動の活性化に関わって 情緒理論を明らかにする。
キ ー ワ ー ド : 精 神 的 操 作 一 般 的 経 済 原 則 情 報 圧 縮 意 味 素 矛 盾 解 決 位 相 転 換 行 動 環 境 自動的意識 自 律 的 意 識 展 望
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巻第1
号I
理論の背景(backgroundo f t h e o r i e s )
心理学理論は構成概念と構成概念が複雑に絡み合っている。今や,ある心理学理論を理解しよ うとすれば,先ず概念を整理し,他の似通った理論との関係を正確に把握しなければならない。
そうでないと全く意味を成さない理論が多くなっているように思われる。
また,いわゆる小理論が多く,それが人間のどの領域,あるいはどの現象についての理論なの か判然とせず, それだけでは他の理論との関係を考慮してもなお「人間」をほうふつとさせな しヽ。
逆に,性格理論の多くがそうであるように,人間全体をその対象とすれば個人の行為傾向は知 れても,特定の場面での行動予測となるとはなはだ心許ないものであることがしばしばである。
このような現状からも,
humana s whole
として心理現象を把握でき, なおかつ特定場面で の個人のふるまいについても予測可能であるような,人間理解のためのs y s t e m
を考察する理論 体系が必要であると思われる。人間理解のための理論体系を構築することは容易なことではない。数多くの欠落部分や細部の 検討において不十分な点を残すことになるであろうことは容易に想像できる。しかし,そのよう な努力は常に必要なことであり,それなくしては「心」という森の中で道に迷った子羊のように なってしまうことになるのである。
そこで,本稿では
1. 人間を一つの
m e n t a lp r o c e s s i n g s y s t e m
と考える。2 .
見晴らしをよくするために,全体的モデルを構成する。3 .
理論間の関係を明確にし,それらのdynamicsystem
として人間を考える。4 .
心理学的要素を明確にし,各理論間に共通の構成概念を持ち込む。という見解に立って,人間についての甚本的考えとその骨子ではあるが,心の森にささやかな地 図を提供しようとするものである。ただし,ここでいう「人間」とは,精神的情報を操作する主 体であり,その意味で物理学的実体でもなければ,生理学的存在そのものでもない。言い替えれ ば,自分自身といえども,情報収集の対象となるものは全て外界であり,筋肉・運動系だけでな く消化器系, 循環器系, 内分泌系なども外界として考える。つまり, 物理的存在としての人間 はここでは問題ではなく,純粋に精神的情報を操作する存在として「人間」を捕らえることにす る。
I‑1 精神的操作系
(mentalo p e r a t i o n system)
人間に限らず生物は基本的に
opens y s t e m
である。つまりi n p u t ‑ o u t p u t
系である。a : o n e t o o n e r e l a t i o n
d: many t o many r e l a t i o n
C>‑‑
b: many t o o n e r e l a t i o n
•—-—<
c : o n e t o many r e l a t i o n
e : r e l a t i o n w i t h o p e r a t i o n h i e r a r c h y F i g .
1‑1:Some s o r t s o f m e n t a l o p e r a t i o n
F i g . 1‑1‑aに示すように,もっとも基本的な精神的処理系は特定の入力に対して特定の反応を
引き起こす型であり,反射過程,i n p r i n t i n g ,
あるいは古典的条件づけがこれにあたると考えら れる。このような型はひとたび形成されると,その処理系が消去されるまで一対一対応の処理を 続ける。これに対して,特定の刺激に対していくつかの反応が学習されていたり
( F i g .1 ‑ 1 ‑ c ) ,
いくつ かの刺激に対して特定の反応が学習されていたり( F i g . 1 ‑ 1 ‑ b )
するものがあり, オペラント条 件づけがこれにあたると考えられる。いわゆる一般的な精神的操作はF i g .1‑1‑dに示すように,
記憶によって仲介された,刺激ー操作ー反応の系列である。
高次精神過程と呼ばれるもっとも人間的な精神的操作過程は,操作を操作する過程の存在であ る
( F i g .1 ‑ 1 ‑ e )
。習慣族階層群として考えられている操作の階層化である。これらの全てに
TOTE;
レープが存在することはいうまでもないし,人間にはこれら全ての型 の精神的情報処理系が備わっていることも明らかである。従って,人間を
humanas a wholeとして考察するためには,これらの精神的情報処理系を
包含するものでなければならないことはもちろん,精神的操作過程が本来的に持つ時間的推移,つまり反応速度といった微視的推移だけでなく,過去から未来に至る時間的推移をも含めたパー スペクティプを内包する必要がある。
以上のような観点から, ここでは人間を精神的操作主体としてとらえ, 「精神的操作過程」と いう名のもとに,二つの原則とこれを拡張した六つの理論を明らかにしながら,心理学の統一的 で全体的な視野を与えることを目的とする。
I I
一般的経済原則(general economic p r i n c i p l e )
心理学において経済原則は基本的には認められながら,今までこれを十分には評価してこなか った。
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サその原因の一つは,心理学自身が,ある意味では不明確な「行動」という概念をよりどころと してきたからであろう。行動と一口にいっても,微細なものは筋肉の反射的反応から,数力月あ るいはそれ以上の長期間に渡って継続する達成行動まで,そのレベルも質も異なる対象である。
そこにおいて行動の経済性を問題にしようにも,ある行動は一見冗長であったり,他の行動はそ の最終目的に照らしてはじめて経済的であったりするので,むしろ経済性の意味を問わなくては ならない。
つまり,行動という指標に経済原則は当てはまりそうもないので,何についての経済性なのか を先ずはっきりさせなくてはならない。
原因はそれだけではない。多くの心理学者は,人間行動の非経済的なるがゆえにこそ心理現象 の研究にいそしんできたからである。 「本来ならxxの条件では経済的に見て
00
の行動が起こ るはずである ところが△△の行動が起こった」という論述は心理学者にとって魅力のあるもの である。初期値が決まれば単純に結果が決まるようなものでないからこそ,人間の行動のなぜに 答えようとしてきたのである。しかし,このことは裏返していうなら,原則として人間行動にも経済原則があてはまることを 暗に意味しているのである。
このように人間についての経済性を暗に認めながらも行動をその指標とすることから,経済原 則は概念的混乱や不当な扱いを受けてきたのではなかろうか。
そこで人間を行動という客観的ではあるが表面的な表現形から見るのではなく,人間を一つの 精神的操作主体であり,行動も精神的操作の一つであるとする心理事象の実体から見るなら,経 済原則とは自ずと情報処理または操作についての経済性を意味することになるはずである。行動 という表現形では奇異に写るふるまいも,精神的操作という側面からは,それがどのような行動 であっても数多くの精神的な情報処理の積み重ねでなければならないはずである。
つまり,それが情報処理であれば人間であろうと機械であろうと同一の原則に従うと考えられ るからである。従って,精神的操作の経済性とは,その systemへの入力情報に対する操作が異 っていても結果が同じであれば,できる限り単純で,処理スビードが速い操作を選択することで あり,これはその情報処理に費やすエネルギーの最小化でもある。そこでさまざまな経済化が考 えられるが,処理スビードは,クイミングが同じであれば,単純化と自動化によって達成される ことは明らかである。人間の持つタイミングは脳波などによって明らかなようにかなり安定した 周期を持っていると考えられる。従って,精神的操作の経済性は情報処理の簡素化や単純化,自 動化であるということになろう。
"
―
1 精神的操作の単純化と簡素化人間の精神的操作が一つの情報処理であるという仮定は自ずと情報処理とは何かという言明を 要求する。
一般的に情報処理システムとは情報を入力し,蓄積,加工,選択し,出力するシステムのこと である。従って,精神的操作とは人間におけるこれらの全て,あるいは一部分の完結した情報処 理列を指す。
情報処理における単純化という意味はデータの誤差や不明瞭をなくし,処理過程を短縮減少さ せることである。しかし,データの誤差や不明瞭をなくすにはかなりの処理が必要であり,それ を誤差または不明瞭であるとするためには真の値や対象が既に存在するか,または何度も同種の データの処理が必要である。従って,最初のデータに対しては何もしないでおくことが最も経済 的であり,不十分なデークしかないときには,それまでのデークから可能な最も単純な処理だけ をする,いわゆる試行錯誤的処理が経済的であるということになろう。
従って,精神的操作においても知覚する量が多くなるに従って, 無操作(蓄積のみ), 試行錯 誤的操作,関係付け操作がより経済的な操作となる。関係付けも最初のうちは誤差や不明瞭が残 るであろうが,最終的にはより簡潔な関係付けが選ばれるであろう。これについては情報圧縮と して後に述ぺる。
単純化された操作がいくつも出来上がるとその延長として簡素化が考えられる。
情報処理量を減少させるのが単純化であるのに対して,簡素化とは重複や回り道をしている操作 を整理し, 操作量を少くすることである。つまり, 多対多対応の処理群をできるだけ一対一対 底多対一対応,一対一連対応などにすることである。これらは各々後に述べるように,心理学 において様々な領域で研究対象となってきた。
n‑2 精神的操作の自動化
自動化についても,無意識という用語でさまざまに研究されており,本理論では階層理論およ び,意識理論として後に述べる。精神的操作の自動化とは,精神的操作過程において問題解決過 程が含まれないことであり.一般的には躊躇.困惑しないですむ操作過程のことである。成人に とって習慣的に行う行動や運動のように,意識せずに完遂できる精神的操作過程のことである。
一般的経済原則は全ての法則の根底にあるものであり,人間の精神的処理においても例外を許 さないものである。
1[ 生得性原理
( b i o l o g i c a ld e t e r m i n a n t s p r i n c i p l e )
人間が人間である以上,人間としての生物学的制約から逃れることはできない。この生物学的 制約とは,例えば人間は可視光線しか見ることができないとか,
lOOm
を5 s e c
では走れないと かいったものだけではない。人間を精神的操作主体として考える時,人間が行う全ての精神的操 作の基本的ユニットもまた生物学的制約を受けるはずだということである。関西大学「社会学部紀要」第
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サだからといってここで本能論や生得論を繰り返すつもりではない。しかし,少なくとも本能論 や生得論を心情的にせよ支持する人たちにとっても,納得のいく説明が必要であると思われる。
親子の間での性格の類似や,一次的欲求の生理心理学的機能,親和動機や達成動機の起源,言語 の獲得,情動の機能など,説き明かさねばならない数々の問題がある。これらを避けて本当の人 間理解があるとは思えないからである。
どのような情報処理であろうと,情報処理を可能ならしめるためには,基本的データの種類と 蓄積機能と目的関数が絶対に必要であり,これ以外はかならずしも必要ではない。
人間の精神的操作にとって,蓄積機能は記憶であるとしても,基本的データの種類とは何であ り,目的関数とは何であろう。
例えば,あるコンビュータにとっての基本的データは,センサーやキーボードといった具体的 なものでもなく, アルファベットや命令語と言った恩惟的なものでもない。それは数ビットの
ON‑OFF
状態であり,そのコンビュータによって決っているものである。 これを人間になぞら えれば,基本的データとは目や耳でもなく,概念や命題でもないということである。またコンビュータにとっての目的関数とは,プログラムが意図するものでもなければ,命令語 の意図するものでもない。それはチューリングの考えた遂次実行型の処理そのものである。人間 にとって行動の達成目標や意志や理想がそうでないのは言うまでもない。
つまり,人間を理解するためには,まず基本的に人間が知りうるものは何か,人間が生きる目 的とは何かを知ることが必要であり,それこそが人間である以上,生まれながらにして持ってい る生得的原則なのである。この問題は決して哲学的な意味ではないし,生物工学的意味でもな い。純粋に心理学的意味における,あるいは人間科学的意味における基本的データであり,目的 関数である。
これらの人間としてもっとも基本的な生得的原則については「情報圧縮過程と意味素の基本的 構造」 (藤沢,
1 9 8 5 )
において述べたが,ここで再び取り上げよう。直 ー
1
情報圧縮過程(informationcondence p r o c e s s e s )
人間にとっての基本的データの種類が何であるとしても,人間が受け取るデータ量は膨大なも のであることに間違いはない。系時的に入力されてくる膨大なデータの全てを操作することは不 可能だと考えられるし,もちろん全てが記憶されるわけでもない。一般的経済原則からも情報が なんらかの形で操作可能なものにならなければならないはずである。すなわち,一見無秩序に見 える多鼠な情報から意味を抽出することができなければならない。
このような情報処理としてもっとも一般的なものに,フーリエ変換がある。もともとレンズが フーリエ変換の工学系でのハードウエア化であるように,特徴抽出の一般的方法として知られて いるモーメント法もフーリエ変換である。パーセフ゜トロンもまたフーリエ変換を線型分類問題に 適用し,パラメータの変動がある場合の最適識別関数を実現させたものである。人間の精神的操
作としてのフーリエ変換,つまり特徴抽出とはある意味で共変する情報だけを集めてくることで あり,それ以外の情報を無秩序あるいは誤差として考えることである。このような情報圧縮は一 般的経済原則にかなっており,生物が本来持っている情報処理機構だと考えられる。
しかし,いかにうまく情報圧縮ができたとしても,それが操作され,有用であるためには,も との情報を十分に代表できるものでなくてはならない。つまり,人間が持つ精神的操作の一つと して,
1) 情報圧縮•…..入力情報をなんらかの方法で減少させること。
2)
再現性……圧縮された情報はなんらかの方法で入力情報を再現できるものであること。の両者を兼ね備えた情報圧縮機構がなければならない。
璽 ー
2
意味素(meaningp r i m i t i v e )
人間のもつ基本的データを考えるとき,やはり言語を無視するわけには行かない。なぜなら,
われわれは心理学において意味,つまり精神的機能を研究してきたからである。
言語学における定義と同じように意味素とは意味を担う最小単位である。ただ,言語学は言葉 を対象にしているが,ここでは心理学的事象や機能を対象としているので,言葉にならない,ぁ るいは言葉にすれば長くなってしまうような意味素があってもよい。もちろん,言語学において も統辞論的意味素は言葉にすれば長くなる。意味を担う最小単位とは,言い替えれば,人間にと
Table 3 ‑ 2 ‑ 1 Meaning p r i m i t i v e s o f c h a r a c t e r
位 置 X 体空 間 原位置前後
X 原場所,距離
位 左右,上下
( 2 4
次元) 内外,WORLD
範囲,かたまり 置 時 間 過去,現在 X 時 点(8
次元) 未来,WORLD
継 続 形 態 点,直線,円 X 気体,液体 状( 2 0
次元) 面,球 固体,粒体様 態 抽 象
態 質,量
x
具 象(9
次元) 傾向,(評価) 心 象 動 態 移動,変動 抽 象 動( 1 2
次元) 運動,静止x
具 象 心 象 き 作 用 ヵ,意志 抽 象(9
次元) 法則性x
具 象心 象
注:評価は質・心象の一部であるが特に( )付きで加えた。
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号T a b l e 3 ‑ 2 ‑ 2 Meaning p r i m i t i v e s o f r e l a t i o n
真 理 値 名 称 論 理 記 号P:1100
Q:1010 1 .
選 言P/¥Q 1 1 1 0 2 .
逆 含 意P
←Q 1 1 0 1 3 . p
肯 定p 1 1 0 0 4 .
含 意P
→Q 1 0 1 1 5 . Q
肯 定Q 1 0 1 0 6 .
対 等CP /¥Q)VCP
/¥百)1 0 0 1 7 .
連 言P/¥Q 1 0 0 0 8 .
両 否 定P/¥Q 0 0 0 1 9 . P/¥Q 0 0 1 0 1 0 . P
否 定p 0 0 1 1 1 1 . P/¥Q 0 1 0 0 1 2 . Q
否 定 百0 1 0 1 1 3 .
排 反(P
/¥百)V<酌¥Q) 0 1 1 0 1 4 .
非 両 立PVQ 0 1 1 1
っての基本的デークの種類である。
Saussure, F .
は意味を直接定義していないが,意味には語の成分,語の関係,文脈から導き 出されるものがあるとしている。つまり,意味素には対象の持つ特徴とそれらを関係づける関係子があると言うことである。
藤沢
( 1 9 8 5 )
はOgden, C . K.
の基本単語から出発して,Table 3 ‑ 2 ‑ 1
に上げたように,1)
空間,2)
時間,3)
形態,4)
様態,5)
動態,6)
作用を抽出した。1)
と2)
は時空 的位置,3) 4)
は対象の状態,5) 6)
は対象の変動に関するものであり,その各々は対象の おかれている位置と体とのマトリックスになっている。表中のworld
とは時空的不偏性を持つ という意味である。また,関係子として,Table3 ‑ 2 ‑ 2
に上げる1 4
の種類を取り上げている。これらが人間の基本的データの種類だとの即断は避けるとしても,すくなくとも人間が知り得 る精神的情報の基本的な部分であろう。情報圧縮機構が基本的プログラムであり,意味素が基本 的データである。
夏 ー
3
矛盾解決(incongruityresolution)
人間の生きる目的,それも哲学的な意味ではなく,達成行動を導くものでもなく,価値という 形で明確に意識できるとも限らない。生きる目的とは何か。生物学的な意味での生きる目的は,
ダーウィニズムに代表される適者生存で,環境への適応であり,生きながらえることある。単に 環境からの影響に受動的に適応するだけでなく,環境に働きかけ,能動的に適応できる環境を作 り出すことも含めて,生物の生きる目的は適応することである。しかし,それが人間の場合,物 理的環境や対人的・社会的環境への働きかけが非常に複雑であり,何が適切な適応行動であるの
か一概には決められないことが多い。また,生理学的適応と社会的適応との間に矛盾が生じるこ ともあり,より大きな目標(適応)のために満足の遅延や一時的不適応が起こることもしばしば ある。
適応の概念は常に心理学においても理論的基底となってきた。しかし,その現われ方はあると ころでは漠然とした共通理解であり,またあるところでは思惟的なものであったように思われ る。その意味で心理学における適応の概念を再検討する必要があろう。
われわれはまず人間にとっての適応を考える前に,人間にとっての環境とは何かを考えなくて はならない。われわれは物理的環境を物理的環境としてではなく,その物理的環境から抽出した 意味環境の中で生きている。もちろん意味環境がイメージとして意識できるものもあれば,体制 感覚や内分泌のように無意識的な意味環境もあると考えられる。このような環境への適応は現実 的に有利であるというだけでなく,むしろ論理的あるいはイメージとして有利であることが重要 となるであろう。
すなわち,人間における意味環境内で有利であるためには,
1)より対象が明確であること(不明確)
2)
より関係が明確であること(不明瞭)3)より無矛盾的であること
(論理的矛盾)4)
より非可逆的であること (現実的矛盾)などが考えられる。知覚における有利さは人が意味素を利用して対象を十分に情報圧縮すること であろう。そのことで始めて外界を意味づけることができるようになるからである。また,対象 間の関係についての確からしさは状況を把握するための重要な要因であるdなおかつ,関係間に 矛盾が存在すれば何かがおかしい訳であり,それを解決しようとすれば何かの基準に沿った順序 付けがなくてはならない(非可逆性)と考えられる。
これらは全て「あいまいさ」を排除するという一点に集約される。
一定以上にあいまいなことを「矛盾
( i n c o n g r u i t y )
」と呼ぶとき,心理学的適応とはできる限 り矛盾を小さくすることであるということができよう。心理学の歴史の中では,学習心理学の概念的コンフリクト,社会心理学の不協和,知覚心理学 の形の良さ,臨床心理学のフラストレーションなどなど矛盾を扱ったものに枚挙の暇がない。
つまり,人間の生きる目的はできる限り自分を無矛盾的意味環境内に置こうとすることである と考えられる。
I V
階層構造理論( h i e r a r c h i c a ls t r u c t u r e t h e o r y )
人間の精神構造が階層をなしているという仮定は新しいものではない。学習理論での階層構造 だけでなく,性格理論の多くがそうであるし,精神物理学や感覚生理学では一般的な考えであ
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号 る。しかし,階層構造を形成するには形成すべき理由が必要である。
一連の処理が複雑多義にわたり,その複雑さをなんらかの形で別処理した方が一連のまま処理 するより経済的になったとき,複雑な同時平行処理により,時間的統合や機能的統合が一般的経 済原則に従って必要とされるとき,始めてそのシステムに階層構造を持ち込む意味が生じるので ある。
そこで,精神的操作過程が階層をなしているためには,
1)階層の上位に向かって情報の圧縮・統合化が行われること。(帰納的統合化)
2) 階層の下位に向かって情報の分配•特殊化が行われること。(演繹的特殊化)
3)
階層毎に要素及び,法則性が異なること。(階層内システム構造)4)全ての階層に共通の目的関数があること。(階層間システム構造)
を満たしていなければならない。
IV‑1
位相転換(phaset r a n s i t i o n )
産まれながらにして人間の精神構造が階層をなしているとは考え難い。なぜなら,一つには高 次精神過程を持つとは考えられない生物の存在,すなわち人間は進化の結果の一つであるという 事実であり,他は,精神発達の過程の中で次第に獲得して行く精神的操作の形態の劇的な変化の 存在である。
人間も長い間の進化によって産まれてきたのであり,その意味で人間はあらゆる生物が持つ情 報処理機構と基本的には同じ機構でなければならないはずである。複雑な高次精神過程は,生物 学的予定はあるとしても,基本的には全ての生物が持つような低次な過程から生成されると考え るべきであろう。生まれてから 1.
5
歳までの感覚・運動系の発達,その後言語を獲得し,時空を 越えた因果連鎖を把握し,価値感や宗教感を持つ成人となるまでの精神発達は,人間が精神的階 層を獲得して行く過程であると考えるべきであろう。情報圧縮が進み,少ない情報量で十分再現性が高まれば,同様の精神的入力情報に対してそれ までと同じ処理をする必要はない。結果が同じである限りにおいて,より経済的な精神的操作に 移行すべきである。例えば,歩き始めたばかりの子供は段差を乗り越えるのに何度も飽きずに練 習を繰り返す。しかし,これを十分に学習した後はあらゆる段差に対して,それが段差であると 認識できればそれで十分となる。つまり,その子供は段差を乗り越える運動についての概念化を 果たしたのである。知覚においても同様であり,何度も犬を見ることによって犬についての情報 圧縮の結果,犬の概念化を果たすのである。
このように考えて行くと,それが運動についての特徴であれ,知覚についての特徴であれ,そ れらの特徴群と一つの概念とは俊別されるぺきものであることが判る。概念は特徴群から構成さ れてはいるが,特定の特徴からは自由な存在である。高さや巾が違っても段差は段差であり,色
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VAPOR
1 o o ・ c
o ・ c /び: ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ phose "'"'"
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C A L O R I E •
F i g . I V ‑ 1 ‑ 1 : P h a s e t r a n s i t i n c a s e o f w a t e r
が違おうと足が一本なかろうと犬は犬である。つまり,特徴が情報圧縮されることによって概念 となったのであり,精神的情報の質が劇的な変化を遂げたことを示すのである。
情報圧縮が進み,少ない情報量で十分再現性が高まれば位相転換が生じ,情報の質的変化が起 こるのである。例えば,氷に熱を加えて行くと
1 0 0 ° c
で位相転換が起こり,水蒸気になる( F i g . I V ‑ 1 ‑ 1 )
。これは水の分子間の関係が十分な熱量によって急激に変化し, それまでとは異なる性 質を持つ物体になる。これと同じこと(位相転換)が人間の精神的操作過程においても生じ,こ れが前述の階層構造生成要件の1), 2)
を満たすことになり,これによって階層を形成すること になると考えられる。IV‑2 特徴,概念,命題,図式
( c h a r a c t e r ,c o n c e p t , p r o p o s i t i o n , schema)
特徴群によって概念が構成されるように,概念群によって命題が,命題群によって図式が構成 される。これらは各々の階層を俊別する要素である。しかし,各々が各々によって構成されると 言っても,要素間の関係付けが異なるのでその構成のされ方は異なる。特徴とは一つあるいはいくつかの意味素からなると考えられるが,これはほぼ直接的に感覚パ ターンや筋肉の運動バターン,あるいは内分泌の活動量と対応していると考えて差し支えがな い。このような特徴群が情報圧縮されて概念になり,概念が再現されて特徴群になるのは帰納的 統合と演繹的特殊化である。すなわち,特徴群からある対象についての概念を抽出する過程が帰 納統合であり,ある概念から逆に特徴を実現するのが演繹的特殊化である。概念と命題の関係
も,命題と図式の関係も同様である。
意味素から構成される特徴と違って概念は対象についての全体を与える。概念にはいわゆる言
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号語的単位である単語に相当するものだけでなく,言葉にならないような視覚的,聴覚的,体性感 覚的単位なども含まれる。これについては藤沢
( 1 9 8 4 )
に詳しい。五感の全てによる,ある対象について十分情報圧縮された特徴群からなるユニットであれば,
それらはすべて概念である。その意味で,内分泌系についての概念も存在すると考えられる。そ して,概念と概念がなんらかの形で関係づけられたとき命題となる。このような関係付けは条件 付けや対応や帰属として研究されてきたが,概念が命題となったとき概念とは異なる,事象ある いは事柄としての全体が把握されるのである。すなわち,概念が特徴から構成されたにもかかわ らず新たな単位として一人歩きしたように,概念から構成された命題はその概念群から独立し,
一つの単位として機能するようになるのである。人間が物事を理解し,因果関係を理解できるの は命題を単位として始めて可能となる精神機能である。
図式は多くの命題が構造化されたとき生成されると考えられる。時間的経過に沿った図式はス クリプトと呼ばれるし,空間的命題によって構成された図式は心理地図や心像として研究対象と なってきた。このような図式もまた命題を離れて単位となるものである。
心理学において最も重要な概念である自我あるいは自己もまた一つの図式であり,自分につい ての多くの命題群から構成された単位である。
IV‑3
操作の階層(hierarchyof mental o p e r a t i o n )
意味素,特徴,概念,命題,図式という心理的要素の階層を仮定してきたが,これらの要素に 対応して要素間の関係付けをする精神的操作の階層がなければならないことは明らかである。な ぜなら,要素間の関係付けのあり方もまた要素であり,他の要素と同じく位相転換して行くから である。
特徴抽出や特徴の特殊化が意味素を要素として行われる操作であることはすでに述べた。いわ ゆるデータの微分と積分である。ここでの情報圧縮比はデータの固有解析の結果,データの中に ある特徴がデータの全分散に対する固有分散の比として表わされる。
特徴を要素として行われる操作は組み合せである。意味素の一つである関係子によって特徴間 の関係についての情報圧縮が行われる。ここでの十分な情報圧縮とは特徴間の関係が確定される ことであり,確からしさが基準(明確さ)となる。
概念を要素として行われる操作は対応と帰属として研究されてきた。概念間の操作も関係につ いての情報圧縮であるが,特徴間の関係がおもに組み合せであるのに対して,概念間では因果的 関係や対応関係が扱われる。ここでの十分な情報圧縮とは,従って,概念間の関係が確定される
ことであり,関係の定安性(明瞭さ)が基準となる。
概念間の関係が安定すれば命題が形成される。命題を要素として行われる操作は推論である。
論理的推論だけでなく,明諭や暗諭などの類推も行われる。もちろん,ここでの基準は正誤の程 度(論理的矛盾)である。ここで,命題間の推論に誤謬がなければ,命題群は一つの図式となる。
図式を要素として行われる操作も図式間の関係付けであるが,おもに図式間の比較や序列化で ある。比較や序列化の基準となるものは重要性(現実的矛盾)であり,目的関数からいって重要 性とは矛盾の大きさによって決ると考えられる。
つまり,各階層での操作とは,その階層内の要素間の関係付けの様式にほかならないし,その 情報圧縮基準は各階層での矛盾のあり方にほかならない。
以上のように心理学的階層は,少なくとも
4
つに分けることができ,それらをまとめると,階 層 要素 様式(操作) 生成 基準(矛盾のあり方)
第ーレベル
sensory‑motor
系 特徴 組み合せ 概念 確からしさ (不明確)第ニレベル
p e r c e p t i o n ‑ c o n c e p t
系 概念 帰属 命題 安定性 (不明瞭)第三レベル
c o g n i t i o n ‑ t h i n k i n g
系 命題 推論 図式 論理的整合性(論理的矛盾)第四レベル
metacognition
系 図式 比較・序列化 方略 重要性 (現実的矛盾)となる。また,
Fig.
IV‑4‑1は階層構造を図示したものである。l e v e l . i n c o n g r u i t y
△ e l e m e n t form
m e t a ‑ schema order
c o t g n i . t i . on c o r r e s p o n d e n t comparison t h i n k i n g / i
I ' '、 , , ̲ 、 1 ¥ p r o p o s i t i o n a n a l o g y
c o g n i t i o n l o g i c a l
I ,I ,‑ ‑‑'
曽*i n f e r e n c e c o ♦ n c e p t i o n 八![ハ , ‑ J . I ¥ c o n c e p t a t t r i b u t i o n
p e r c e p t i o n r e l a t i o n a l r e l a t i o n sensory ♦ c o r r e c t ivy
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r e c o n s t r u c t
ミ
Fig. IV‑4‑1: H i e r a r c h i c a l s t r u c t u r e o f mental o p e r a t i o n
v
階層間理論( i n t e r ‑ p h a s et h e o r y < p h a s e m o b i l i t y > )
Fig.
IV‑4‑1に矢印で示すように,精神的情報は階層間を移動する。階層形成は,前章に述べ たとうり,情報が圧縮されることによって生じる位相転換によって新たな階層が生れると仮定し た。確かに,精神的情報が階層を越えて移動するということは,そこに常に位相転換が生じてい ることを意味する。しかし,それは常に情報圧縮による位相転換だけであるということを意味す るわけではない。‑171‑
関西大学「社会学部紀要」第
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巻第1
号新たな階層を形成したり,新たな要素を形成する場合には,下位階層での情報圧縮が必要とな るが,一度階層が形成され,要素が確立され,構造が形成されれば,一般的経済原則から見て も,再び同じことを繰り返す必要はない。すでに存在する階層間の多対一対応に置き換えれば操 作は経済的になるからである。そこで情報圧縮によって既に形成された階層間にどのような関係 があり,どのような精神的情報移動があるのかを考えなければならない。
既に形成されているということは,各階層の要素が関係づけられ構造化がなされているという ことである。それらは特徴構造であり,概念構造であり,命題構造であり,図式構造である。
ここでは,階層間移動を下位階層より上位階層への精神的情報の移動(上方移動)と上位階層 より下位階層への精神的情報の移動(下方移動)に分けて考えてみよう。
V‑1
上方移動(informationadvancing)
入力された全ての精神的情報が上方移動するわけではない。当該の階層において必要な処理が 完結することもあり得る。知覚や運動の多くは意識することもなく,明確な概念や命題を伴わず 処理される。また,習慣的行動は,図式や命題間の関係についての思考もなく概念や命題が操作 され行動に移されているように思われる。
そこで,何か新しい事柄や既にある精神的構造とは異なる事態が生じたときのことを考えてみ よう。例えば,ある人が無重力空間に遭遇したとしよう。いままで重たかった鉄の玉が突如とし て重みを失えば対象の持つ特徴が変わる。つまり,第ーレベルでの組み合せが変わり,第ニレベ ルでその人が持っていた「鉄」の概念とは異なる事態が生じるだろう。この時,第ニレベルでは 明らかに矛盾が生じる。これを解決するためにもっとも単純な方法は,それが本当に確かなもの かどうか,つまり鉄の玉が重さのないものであるかどうか,調べることである。その人は再び確 認することになろう。確認した結果真実であることが確かめられれば,それはすなわち「鉄」に ついての概念が間違っていたことになる。 ここで第ニレベルから第三レベルに処理は移り, 「鉄 は重い」という命題とのあいだで矛盾が生じる。 これを解決するには, 鉄の玉だけでなく鉄の 棒も重さをなくしているか調べることであり,鉄だけでなくほかの重いものも重さをなくしてい るか調べることである。その人は再び確認することになろう。確認した結果事実であることが確 かめられれば, 「鉄は重い」という命題が間違っていたことになる。 ここで第三レベルから第四 レベルに処理が移る。すると, 「重量」に関する図式と矛盾することになる。幸にして「重量」
だけでなく, 「重力」や「質量」に関する図式が既に存在していれば, それらとは矛盾しないこ とが判るはずである。矛盾しないことが判れば,その図式に沿った操作をすれば良いことにな り,その人は無重力の中でも適切な行動がとれるであろう。不幸にして「質量」に関する図式が 存在しなければ図式間に矛盾が生じる。これ以上は上方移動できないので,後に述べる意識のお 世話になって適当な方略を作り出すことになろう。
つまり,第四レベルを除き,当該階層で矛盾を生む場合に上方移動することになる。言い替え
れば,当該階層での矛盾が上方移動を惹起させることになるのである。
このように考えると,上方移動とは当該階層では処理できない矛盾を上位階層に委ね,より全 体的な矛盾解決を計る操作であるということができよう。
V‑2 下方移動
( i n f o r m a t i o nd e l i v a r y )
上方移動が矛盾解決に向けての操作であるのに対して,下方移動は矛盾解決された上位階層の 矛盾解決法にしたがった再体制化であり,上位階層システムの実現である。すなわち,当該階層 内における矛盾の解決は,その階層内で不可能である限り,常に上位階層の無矛盾による下位階 層の再体制化によって行い得るものである。
上記の例をとれば,「質量」の図式によって,「鉄は地上では重いが,引力のないところでは重 くない。いまは無重力だ。」という命題群によって,「この鉄は重くない」という命題が導かれ る。そこで, 「鉄」概念の中に無重力条件が加わって, この人は鉄を比較的容易に扱うことにな ろう。しかし,この例では幸にも「質量」についての図式が既に存在したため混乱せずに環境に 対応できたと考えられる。もし「質量」についての図式がなければ,明らかに混乱が生じ,ある ときには事実を無視したり, 「重量」の図式にむりやり取り込んで環境に適応しようとする方略 をとったかも知れない。事実の無視は新たな矛盾を生むであろうし,むりやり取り込んだ命題に は既にある命題群との間に矛盾が付きまとう。
しかし,上位階層における矛盾解決が常に完全であるとは限らない。ある程度の解決はできて も,部分的な矛盾が残存する場合もある。矛盾を残した形で下方移動した場合には,当該の階層 内で解決できる場合もあれば,今一度上方移動しなければならない場合もある。あるいは,その 再体制化するために,更に下方移動することも考えられる。
このようにして行われる下方移動の最終段階は,新たな精神的情報を入力するための行動ある いは行為であることは容易に考えられるであろう。
V I
階層内理論( i n t r a ‑ p h a s et h e o r y <phase s t r u c t u r e > )
情報の階層間移動によって持ち込まれた矛盾はなんらかの方法によって解決しなければならな い。当該階層における矛盾解決の方法の一つは前述の上方移動であり,他は下方移動による再体 制化である。上方移動は,当該階層内で矛盾解決しようとすれば,より大きな矛盾を抱えてしま うことから,いわば上位階層に矛盾解決を委ねる方法である。これに対して下方移動は当該階層 での矛盾解決のために下位階層に再体制化を,あるいは新たな精神的情報の入力を要求する方法 である。
さて,このような矛盾解決のために当該階層内で行われる操作は既に述べた。
それらは,第ーレベル
s e n s o r y ‑ m a t e r
系での組み合せであり,第ニレベルp e r c e p t i o n ‑ c o n ‑
関西大学「社会学部紀要」第
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巻第1
号c e p t
系での帰属であり,第三レベルc o g n i t i o n ‑ t h i n k i n g
系での推論であり,第四レベルme‑
t a c o g n i t i o n
系での比較・序列化である。これら各階層での操作がなされるに当って,階層内の 全ての要素について悉皆的に行われるとは考え難い。すなわち,各階層内の要素に存在する構造 に沿った経済的操作がなされるはずであろう。各階層内に存在する要素の構造は,しかし,当該 階層における操作と無関係ではない。従って,階層がすすむに連れて,対象依存的構造から主体 依存的構造へ変化すると考えられる。そこで,以下に階層ごとの構造を明らかにしながら,各階層内での矛盾解決のあり方を考えて みよう。
VI‑1 第一レベルにおける構造と矛盾解決
( 1 s tl e v e l s t r u c t u r e )
第ーレベルでの要素は前に述べたように特徴であり,操作は組み合せ,基準は確からしさであ る。特徴国の組み合せをする際に問題となるのは,その特徴がどの程度明確であるかということ である。
「丸い」という特徴を例にとれば,完全な円形から多角形との中間まであるはずである。ここ で,「丸い」と「四角い」という組み合せを考えてみよう。もし,「丸い」という特徴も「四角い」
という特徴もともに不明確であるとすれば,これらの組み合せは「丸いかも知れないし,四角い かも知れない」ということになろう。この矛盾は対象がより明確になれば解決可能である。従っ て,新たな情報を求めること,つまり下方移動による解決を計ることになろう。もし, 「丸い」
という特徴も「四角い」という特徴もともに明確であるとすれば,これらの組み合せは「丸くて 四角い」ということになる。これは既に対象が明確であるので第ーレベルでは矛盾ではない。従 って,概念的整合性を求めて上方移動することになろう。またもし,「丸い」かまたは「四角い」
かどちらか一方が明確で他方が不明確であった場合は,例えば「丸い」がやや明確で「四角い」
がやや不明確な場合,人間はこの矛盾をどう解決するであろうか。もちろんこの解決についても 上方移動や下方移動が考えられる。しかし, この場合, 「丸い」を選び「四角い」を誤差と見る ことで解決することも考えられるはずである。すなわちこの対象を「丸い」とすることで無矛盾 的にすることである。
このような三種類の解決方法のどれを選ぶかは,二つの要素がどの程度明確であるかどうかで ある。すなわち,第ーレベルでの精神的処理は要素の確からしさ(明確さ)という一次元構造を なしていると考えられる。ゲシュタルト以来,これら特徴間の関係については実験心理学におい て多くの知見が存在する。
VI‑2 第ニレペルにおける構造と矛盾解決
( 2 n dl e v e l s t r u c t u r e )
特徴群の組み合せとしての概念を要素とする第ニレベルでは,帰属が行われる。帰属が組み合 せと全く異なるのは,組み合せがいわゆる関係子であるのに対して,帰属は規則を生成するから
である。すなわち,関係子は=,
n o t , a n d , o r
などで構成される要素間の結合で,連言,選言に あたるものであり,概念を生成するが,帰属は概念間の関係から命題を生成するのであり,含 意,包摂,可逆などで形成される。K e l l y , H . H .
の帰属理論では,t i m e ‑ p e r s o n ‑ e n t i t y
の三次元データ構造を考え,その間の分 散分折的操作によって命題を生成するとしている。K e l l e y ,H . H .
の理論を拡大すれば,二つの 対象間の共変関係に着目して概念間の関係付けがなされる,という事になろう。K e l l e y , H . H .
も述べているように,ここでの矛盾は共変関係が明瞭でない場合と,二つの対 象間に二通りの共変関係が存在する場合である。ここでも第ーレベルと同じように矛盾解決には上方移動,下方移動,階層内解決の三種類が存 在する。
共変関係には,時間的共変,空間的共変,形態的共変,動態的共変(空間的共変の時間的共 変)が考えられ,これらのうち
1
つあるいはいくつかの共変関係として命題が生成される。VI‑3
第三レペルにおける構造と矛盾解決( 3 r dl e v e l s t r u c t u r e )
命題を要素に推論を行う第三レベルは認知や思考としてもっとも注目され研究されてきた高次 精神過程の中核となるレベルである。
1)前提間の論理矛盾,例えば
A=B, A = l = B
という前提間には明らかに論理的矛盾がある。これは,第ニレベルでAとBとの間に二つの共変関係が成立したことを現わしている。
2)
前提と推論(類推)結果の論理矛盾, 例えば(A=B, B=C
→A=C) and ( A = I = C)
のような場合である。B=C, A = l = C
という命題が既に存在し,そこへA=B
という新たな 命題が加わったような場合に生起する矛盾である。3)
推論(類推)結果間の論理矛盾で,(A=B, B=C
→A=C) and (A=D, D = I = C
→A = l = C )
のような場合がこれに当る。命題の構造は個人の行動と関係づけられる。なぜなら,命題間での矛盾は目的的行動(達成行 動)をとらせることが多いからである。これについては,行動環境理論として明らかにした(藤 沢
1 9 8 3 )
。社会心理学における多くの理論は第三レベルに属す問題であり, ここでは触れない が十分な検討が必要である。VI‑4
第四レペルにおける構造と矛盾解決( 4 t hl e v e l s t r u c t u r e )
他のレベルと第四レベルが決定的に異なるのは上方移動による矛盾解決が計れないことにあ る。もちろん,図式間の序列,すなわち方略群に関して十分情報圧縮されていれば,第五レベル の想定もできないではないが,もしそのような個人を考えてみればあらゆる行動に一貫性があ り,迷いもなく,いわば聖人君主のような異様な人間像が浮かびあがってくるのである。すなわ ち,方略群はいわば価値や宗教と同列のものであると思われるので,これらを無矛盾的に統一す
関西大学「社会学部紀要」第
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巻第1
号ることはほとんど不可能と思われる。方略については文脈理論において詳しく述べるので,ここ では割愛する。
図式には,矛盾解決を計るための, 1)知識(世界)を提供する図式と,
2)行動の系列を提
供する図式とがある。行動の系列もまた知識であるが, (2)は直接環境を変えるための図式である のに対して, (1)は変化のために必要な予備的世界を与える。中でも重要な知識は自分自身に関す る図式である。自我や自己と呼ばれるこの図式は自分自身についての命題群からなり,行動の系 列図式は常に自我図式を参照しなければならないはずである。従って,この自我図式内の命題群 間に矛盾が生じると行動の系列図式を序列化することが困難になると考えられることから,少なくとも自我図式内の矛盾は早期に解決しなければならないことがわかる。
さて,図式間の序列における矛盾には時系列的矛盾と価値的矛盾とが考えられる。時系列的矛 盾は過去から未来に至る時系列の中で因果連鎖の矛盾,すなわち原因より結果が先にくる場合で ある。このような図式の時間的逆転は新たな結果や原因を見つけ出す必要がある。これに対して 価値的矛盾は並列的であり,方略内にこの矛盾が含まれている場合のみが問題となるだけである。
価値的図式の構造は調和,自由,安全, 力であり, それらを分ける軸は
s o c i a lo r i e n t d ‑ s e l f o r i e n t e d , p r o g r e s s i v e ‑ c o n s e r v a t i v e
であるが,これについては別の機会に詳述する。v n
意識理論( c o n s c i o u s n e s st h e o r y )
人間には意識とその流れがある。それと同時に意識しないでする行動や,明快な意識を持たな いボンャリした意識,その逆に一度に数多くの注意が必要になって混乱した意識など,その現わ れ方は様々である。
ノイマン型情報処理にとって,意識や注意注目はその時点で何をどのように処理するのかを示 す重要な指標であり,処理である。チューリング機械ではある間隔をおいて次々とデータやプロ グラムを読み込み処理するのであるが,同時にそれが何番目のデータであるのか意識している。
従って,何もなければ一つずつ次の情報を読み込むが,
xx
番目へ処理を移せと言う命令を解読 すれば正確にそこへ処理を移すことができるのである。人間もまたこのようなノイマン型情報処理をしているのかと言えば,大脳の神経生理から見て もノイマン型情報処理を否定せざるをえない。
人間の精神的処理は並列処理型であると言われるが,低次レベルではパーセプトロンやコグニ トロンのように情報圧縮の物理的手段として並列的な精神的処理機構が存在すると思われる。し かし,高次精神レベルでは,行く筋もの同時平行処理があると考えるのは意識の存在からも困難 である。意識は現在進行中の精神的操作過程に対して注目することであり,その意味で現在進行 中の精神的操作とは区別されるべき存在である。
われわれは自動車の運転をするとき, 「次の交差点を右折すれば目的地に近付く」とか「前の