• 検索結果がありません。

音韻論的主要部と音韻論的副主要部について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "音韻論的主要部と音韻論的副主要部について"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

音韻論的主要部と音韻論的副主要部について

著者名(日) 西原 哲雄

雑誌名 宮城教育大学紀要

巻 45

ページ 181‑185

発行年 2010

URL http://id.nii.ac.jp/1138/00000172/

(2)

1.序

 一般的に形態論においては、Williams(1981)にしたがって、語全体の品詞を決定する要素は(屈折接尾辞や大 多数の接頭辞を除いて)右側の要素であり、これを語の主要部(Head)と呼んでいる。Williams(1981)は次の ような規則を提案している。右側主要部の規則(Right-hand Head Rule):形態論において、形態的に複雑な語の 主要部は、その語の右側の要素である(大石 1988)。この形態論において、主要部を認めることができるなら、

音韻論においても、主要部を認めることができるのではないかと考えられる。そこで、ここでは形態論における主 要部を形態論的主要部(Morphological Head)と呼び、音韻論における主要部を音韻論的主要部(Phonological  Head)と呼ぶことにする。さらに、竝木(1985,1987)が形態論において副主要部(Sub-Morphological Head)

の導入を主張しているのにしたがって、本稿でも音韻論的副主要部(Phonological Sub-Head)を援用して、派生 語や複合語の強勢の決定や移動を的確に説明することができることを論証する。

2.音韻論的主要部と音韻論論的副主要部

 Kubozono(1990)では、英語の混成(blending)において、音韻論的主要部の導入を提案している。

 ⑴   if one consider the phonological patterns of blending in general, it seems reasonable to discuss the 

* 西  原  哲  雄

On Phonological Head and Sub-Phonological Head  NISHIHARA Tetsuo

Abstract

  The aim of this paper is to indicate that an adequacy of Phonological Head and Sub-Phonological Head is  needed in phonological description. In this paper, apart from Morphological Head (Right-hand Head Rule) 

introduced by Williams (1981), I will show a need for Phonological Head and Phonological Sub-Head which  concern the shifting of the stress of derivative words and compound words, as well as Morphological Head and  Semantic Head suggested by Tzakosta and van de Weijer (2002). 

         

Key words

:  Phonological Head   Phonological Sub-Head

  Morphological Head

  Shifting of stress

*  英語教育講座

(3)

notion from a phonological viewpoint as well as from a morphological one, and thereby to introduce the  notion “phonological head of word”.  I have implicitly correlated this concept of “phonological head” with  morphological concept “head of word”

  (Kubozono 1990)

 また、⑵で見られる日本語と英語の混成(blending)における、音韻的特徴としては、まず、日本語での混成語 の重要な点は、音節構造ではなく、モ―ラ構造の支配を強く受けているところになり、下記の混成過程をモ―ラ構 造の数に注目して分析を行うと、いずれの場合も新しく作られた語のモ―ラ数は、2番目にある既知語のモ―ラ数 と同じである。また、これを音節数で分析すると、共通の性質を得ることはできない。一方、英語では、新しい語 の音節数が、2番目の既知語の音節数と同じであることが確認できる。

 ⑵ Blending in both English and Japanese

   Japanese       (mora) (syllable)

   a)ダス(ト)+(ゾー)キン=ダスキン:3+4=4/3+2=4    b)ママ+(アイ)ドル=ママドル   :2+4=4/2+3=4    c)オ+(シ)ッポ=オッポ      :1+3=3/1+2=4

   English       (syllable)

   a)sm(oke)+(f)og = smog       :1+1=1    b)br(eakfast)+(l)unch = brunch   :2+1=1

   c)l(unch)+(s)upper = lupper    :1+2=2  (渡部・松井 1997)

 このように、2番目の音節数やモーラ数が新規語と同じ数を示すということは、2番目の要素が音韻的に重要な 役割をしており、音韻論的主要部の存在を明示するもであると考えられる。

 そして、Tzakosta & van de Weijer(2002)はギリシャ語の例を挙げて、3つの主要部、すなわち、形態論的主 要部(Morphological Head)、音韻論的主要部(Phonological Head)及び、意味論的主要部(Semantic Head)の 必要性を提案している。

 ⑶

   a) Phonological Heads: different degrees of stress: accented syllables are heads while unaccented  syllables are non-heads.

   b) Morphological Heads: the affix which determines major lexical class membership is the head, while  other parts of morphological structure are non-heads.

   c) Semantic Heads: in a complex morphological structure, the part which carries the core meaning (the  root) is the head, while non- (or less-) meaningful parts (affixes) are non-heads.

  (Tzakosta & van de Weijer 2002)

3.派生語・複合語の強勢決定

 形態論的主要部はその語の全体の品詞を決定する要素であり(Right-hand Head)、音韻論的主要部はその語の 第1強勢を担う要素であり(Left-hand Head)、意味論的主要部については、その語の中心的な意味を担う要素

(Left-hand Head)であると、指摘している。この考えにしたがうと、派生語や複合語において、形態論的主要部

(4)

と音韻論的主要部が一致しないことになる。例えば、派生語や複合語において、形態論的主要部が基本的に右側の 要素であるのに対して、音韻論的主要部は強勢を担うのは基本的に左側の要素であるからである。Liberman & 

Sproat(1992)は、[N N]名詞句も、75%が左側の要素に第1強勢がきていると報告している。しかしながら、

Marantz(1987)は 形 態 構 造 と 音 韻 構 造 は 一 致 し な い の は、当 然 の こ と で あ る と 主 張 し て い る し、古 く は  Chomsky & Halle(1968)においてすでに、統語構造と音韻構造の違いは述べられており、この点は問題がないと 考えられる。そこで、本稿では、Tzakosta & van de Weijer(2002)の主張を受け入れた上で、この音韻論的主要 部の妥当性と音韻論的副主要部(Phonological Sub-Head)の必要性を論証する。これは、Siegel(1974),Allen(1978)

などで主張されたクラスⅠ接尾辞とクラスⅡ接尾辞に振る舞いの違いは一般的には、前者が基体の強勢の位置に影 響したり、基体の発音を変えたりするが、後者はそのような振る舞いはしないと、説明されてきた。しかし、この 両者の相違というものは、単純に事実として説明をされているが、クラスⅠ接尾辞が基体の発音に影響をしたり、

発音を変化させているという事実と、クラスⅡ接尾辞が、まったく、そのような音韻的働きをしていないという相 違を説明してはいない。Booij & Rubach(1984)や Szpyra(1989)では、派生語が形成される際に、クラスⅠ接 尾辞と基体は1つの音韻語(Phonological Word)を構成し((PW)+(PW)→(PW))、クラスⅡ接尾辞は基体と接 尾辞がそれぞれで1つずつの音韻語を構成するとして((PW)+(PW)→(PW)(PW))、その構造の違いを説明して いるが、ここで示した構造も単純に現象の記述をしているだけである。すなわち、クラスⅠ接尾辞とクラスⅡ接尾 辞の基体に対する音韻的働きの違いを示してはいない。クラスⅠ接尾辞は基体に対して音韻的働きかけをしてお り、クラスⅡ接尾辞は、そのような働きをしていないという事実は、音韻論的副主要部という概念を導入すること によって、説明が可能になる。クラスⅠ接尾辞は基体に対して音韻的働き(強勢の移動)をしているのは、クラス

Ⅰ接尾辞が音韻論的副主要部であるからであると規定し、クラスⅡ接尾辞は基体にまったく、なんの働きもしてい ない音韻論的非主要部(Phonological Non-Head)として規定すれば、この両者の音韻論的働きの違いを明確に示 すことができる(以下、⑷を参照)。

 ⑷

   a.     PW         b.   PW     PW

      Head  Sub-Head        Head  Non-Head

      (defíte  ive)PW        (définite)PW (ness)PW      (強勢移動あり)       (強制移動なし)

 ⑷における構図を援用すれば、名詞+名詞の複合語と名詞句(句構造)の違いにも反映することが可能である。

それは、複合語の音韻論的主要部が左側の要素であり、名詞句の音韻論的主要部が右側であると規定することであ る(以下、⑸を参照)。

 ⑸

   a.     PW         b.   PW     PW

      Head  Non-Head        Non-Head   Head

     (Black   board)PW          (black)PW (Board)PW       (強勢は左側の要素)      (強勢は右側の要素)

(5)

 さらに、名詞+名詞の複合語において、名詞句と同じ強勢パターン(第2要素に強勢が付与される)の複合語も 例外として扱うのではなく、⑸に見られる様な、音韻論的副主要部を導入することで、左側の要素が右側の要素で ある音韻論的副主要部の影響によって、その左側の要素が担う強勢が右側の要素に移動すると説明ができることに なる(以下、⑹,(7a)を参照)。

 ⑹ “Phrasal Stress”        “Compound Stress”

   ápple píe      (cf. ápple cake)

   ápricot crúmble

   Mádison Ávenue       (cf. Mádison Street)

   Pénny Láne    sílk tíe

   Fránklin Stóve        (cf. Skínner Bòx)

   cíty háll

   tówn méeting          (cf. fáculty meeting)  (Ladd 1984 一部改変及び追加)

 ⑺

   a.       PW

      Head Sub-Head

      (Newton  RESIDENTS)PW

      (強勢は右側の要素:左の要素から右の要素に移動)

 このような、音韻論的副主要部の導入の妥当性は、竝木(1985,1987)で形態論において、主要部のほかに、副 主要部を導入していることからも適切であると考えられる。竝木(1985,1987)では、ある種の複合名詞では、複 合語の後に続く前置詞句補部の生起に複合名詞の左側(第一要素)が関わっている場合があると、指摘している。

例えば、次のような例が挙げられている。

 ⑻ a.  *a book to modern linguistics    b.  a guide to modern linguistics

   c.  a guidebook to modern linguistics  (竝木 1985)

 ⑻の例からわかるように、book という語は、それ自体において to +名詞句である補部をとることができないが、

guide という語は、to +名詞句である補部をとることが可能である。そして、(8c)のような複合名詞でも、to +名 詞句である補部をとっていることがわかる。すなわち、複合名詞全体の補部を選択する際に、複合語の右側ではな く、左側の要素が深く関わっていることがわかる。すなわち、本来、重要な役割をするはずの複合語の右側の主要 部である book という語はあまり意味的に重要ではなく、この場合、意味的には複合語の左側の要素が主要部のよ うに機能しているので、これを複合語の「副主要部(subhead)」と呼び、以下のように定義している。

 ⑼  形態的かつ統語的には修飾語でありながら意味的には主要部として働く、複合語の左側の要素を、複合語の

副主要部と呼ぶ。  (竝木 1985)

(6)

4.結語

 以上、本稿では、形態論的主要部のほかに、派生語や複合語、名詞句に新たな音韻論的主要部と音韻論的副主要 部を認めることで、それらの語の強勢決定や移動などについて、従来の分析よりも、的確に説明できることを論証 した。

参考文献

Allen, M. (1978) “Morphological Investigations.” Ph. D. dissertation, University of Connecticut.

Booij, G. & J. Rubach. (1984) “Morphological and Prosodic Domains in Lexical Phonology.”   1, 1 28.

Chomsky, N & M. Halle. (1968)  . New York: Harper &Row.

Kubozono, H. (1990) “Phonological Constraints on Blending in English as a Case for Phonology-Morphology Interface.” 

 3, 1 20.

Ladd, D. R. (1984) “English Compound Stress.” In D. Gibbon et al. (eds.)  . Berlin: de Gruyter. 253 266.

Liberman, M. & R. Sproat. (1992) “The Stress and Structure of Modified Noun Phrases in English.” In I. A. Sag & Szabolicsi. (eds.) 

. Stanford: CSLI. 131 181.

Marantz, A. (1987) “Phonologically Induced Bracketing Paradoxes in Full Morpheme Reduction.”   6 , Stanford: Stanford  Linguistic Association. 203 211.

竝木 崇康.(1985)『語形成』東京:大修館書店.

竝木 崇康.(1987)「複合語における「副主要部」」『英語青年』2月号.9.

大石 強.(1988)『形態論』東京:開拓社.

Siegel, D. (1974)  .  Ph. D. dissertation, MIT. [New York: Garland 1979]

Szpyra, J. (1989)  .  London: Routledge.

Tzakosta, M. & J. van de Weijer. (2002) “On the Role of Phonological, Morphological and Semantic Headness in Acquisition.”  

Paper presented at GLIP 4, Warsaw.

渡部真一朗・松井理直(1997)「音声言語研究」『言語文化概論』大阪:大阪大学出版.137 150.

Williams, E. (1981) “On the Notions ʻLexically Relatedʼ and ʻHead of a Wordʼ.”   12, 245 274.

  (平成22年9月30日受理)

参照

関連したドキュメント

噸狂歌の本質に基く視点としては小それが短歌形式をとる韻文であることが第一であるP三十一文字(原則として音節と対応する)を基本としへ内部が五七・五七七という文字(音節)数を持つ定形詩である。そ

などに名を残す数学者であるが、「ガロア理論 (Galois theory)」の教科書を

[r]

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o

とディグナーガが考えていると Pind は言うのである(このような見解はダルマキールティなら十分に 可能である). Pind [1999:327]: “The underlying argument seems to be

ぼすことになった︒ これらいわゆる新自由主義理論は︑

としても極少数である︒そしてこのような区分は困難で相対的かつ不明確な区分となりがちである︒したがってその