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朝長昌三

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長崎大学教養部紀要(人文科学篇) 第33巻 第2号 11‑20 (1993年1月)

視覚情報による姿勢制御 朝長昌三

Postural Control by the Visual Information

Shozo TOMONAGA

The purpose of this study was to examine the amplitude and the types of the sway of the center of gravity under three conditions; eyes closed, eyes open, and feedback conditions. The feedback information was the locus of the body‑sway drawn by a X

‑Y recorder. The subjects were instructed to control their posture as well as possible by watching the pen and their loci. That was the feedback condition. The results were as follows:

(1) Fifty subjects had the smallest amplitude under the feedback.

(2) Males had larger amplitude than females under three conditions.

(3) Males and females had the same ratio of amplitude of feedback to eyes closed, of eyes open to eyes closed, and of feedback to eyes open conditions.

(4) The centripetal type was the most frequent under the feedback condition.

Furthermore, males and females had almost the same tendency.

These results suggested that the sway of the center of gravity became more stable when the subjects controlled their posture by the detailed feedback information.

Key words: the sway of the center of gravity, eyes closed condition, eyes open condition, feedback condition, centripetal type, non‑centripetal type

ヒトの姿勢制御は、前庭器官・体性感覚器官・視覚器官などの異種感覚情報を、中 枢神経系が統合・処理し、運動系に伝えることにより、姿勢の維持にかかわる筋肉群

を収縮又は弛緩させることによって姿勢を保持・安定化させる系である。特に、姿勢 を維持させるための視覚情報の果たす役割は重要と考えられ、視覚的条件と重心動 揺との関係についての研究が数多く報告されてきた。

武谷ら(1976)は、視覚および聴覚によるフィードバック情報を与えたとき重心動 揺がどのようにコントロールされるかを検討し、これらのフィードバック信号を呈 示したとき重心動揺が安定するという結果を得た。斉藤ら(1977)は、オッシロスコー プのスポットを視覚的フィードバック信号として重心の移動を追従制御させた結果、

(2)

12

朝長 E∃【∃

視覚情報が重心動揺と大きなかかわりをもっていることを示した。そのほか渡辺 (1981)は視覚情報と重心動揺との関係について検討し、また中田(1981、 1983)も 視覚が直立姿勢の保持に深く関与していることを示した。

以上のように、視覚情報すなわち視覚的フィードバック信号を呈示することに よって動揺は安定することから、重心動揺に視覚情報の果たす役割の重要性が示唆 されている(市川・渡辺、 1989;河合・間野・古賀、 1991;中田、 1982、 1983;斉藤・

山辺・村瀬・塚原、 1977;渡辺、 1981),

本研究では、視覚的フィードバック情報としてⅩ‑Yレコーダに描かれる被験者自 身の動揺の軌跡と、Ⅹ‑Yレコーダのペンを用いた。被験者はⅩ‑Yレコーダに描かれ

る自分自身の動揺の軌跡とペンを見ながら動揺をコントロールさせ、これをフィー ドバック条件として用いた。このように、被験者の重心動揺を直接被験者自身が視覚 的フィードバック情報として用い、動揺を直接視覚的にとらえた場合の姿勢制御の 表れ方を明らかにするのが、本研究の特徴でありかつ目的である。またフィードバッ ク条件と比較するために、被験者の眼前に呈示した固視点を凝視させて、直立姿勢を とった場合の開眼条件と、閉限時に直立姿勢をとった場合の開眼条件を用いた。本研 究では、これら3条件における動揺について検討した。

方法

重心動揺の測定は、 Fig.1に示したようなシステムを用いて行った。図のように、

Fig. 1 The system used in measuring the sway of the center of gravity. The output from the detector was fed to the recti‑graph, the data recorder, and the X‑Y recorder.

The subjects controlled their pos‑

tures by watching their loci on the X‑Y recorder and a pen of the X

‑Y recorder.

垂心動揺は正三角形3点支持の平衡 機能計(1 GO l、三栄測器社)を用 いて測定した。検出台からの出力は 座標変換増幅器によって増幅され、

レクチグラフ8KIO、三栄測器 社)、カセットデータレコーダ(R

‑61、 TEAC社)およびX‑Yレコー ダ(8U16、日本電気三栄社)に入力 された。

被験者は検出台上に、蓮を接し足 尖を開いて(45度)直立し、両上肢を 体側に接した姿勢をとった。検出台 上での被験者の動揺が安定したこと を、レクチグラフに描かれる動揺の

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視覚情報による姿勢制御

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Ⅹ一成分およびY‑成分の軌跡によって確認した後、座標変換増幅器のⅩ‑positionお よびY‑positionつまみでレクチグラフのペンの零点位置を調整した。

まず閉眼で直立姿勢時の重心動揺をデータレコーダに記録(100秒)し、これを閉 眼条件における重心動揺とした。閉眼条件における動揺を記録した後、被験者は検出 台を下り、椅子に座って約1分間の休憩をとった。

休憩後再び検出台上に直立させ、開眼で眼前約1.5mに呈示された+印の固視点を 凝視させた状態における動揺を記録(100秒)した。これを開眼条件における重心動 揺とした。

次に、再び被験者を椅子に座らせて休憩させその時に、 "Ⅹ‑Yレコーダのペンと、

ペンによって描かれる動揺の軌跡を見ながら、できるだけペンを動かさないように 姿勢をコントロールさせてください。ペンがなるべく記録紙の中央にくるように調 整してください"という指示を与えた。その説明後、被験者を検出台上に直立させ、

Ⅹ‑Yレコーダのペンを凝視させた。そして被験者が重心を前方、後方、左方、右方 に移動させると、斜前方向約1 mに設置されたⅩ‑Yレコーダのペンもそれに従っ て動くことを確かめさせ、さらに動揺のコントロールの仕方を練習させた。その後、

Ⅹ‑Yレコーダのペンとペンの描く動揺の軌跡を視覚的フィードバック情報として 姿勢をコントロールさせながら記録を始めた(100秒)が、これをフィードバック条 件における重心動揺とした。

開眼条件、開眼条件およびフィードバック条件における動揺の3試行を1ブロッ クとし、各被験者に対して3ブロックの合計9試行の測定を行った。

測定時間は3条件ともに100秒で、カセットデータレコーダのカウンタでは20目盛 であった。

被験者は、健常な男子学生25人と、女子学生25人の合計50人であった。

結果

記録の解析方法は以下のとおりである。まず、重心動揺の大きさを測定するため に、動揺の中心を次のようにして決めた。

カセットテープに記録された動揺の軌跡を、カセットデ‑タレコ‑ダからⅩ‑Yレ コーダに入力し、記録紙に再生させた。再生された軌跡の外郭を直角形で囲み、その 対角線の交点を動揺の軌跡の中心とした。

さらにこの中心から直角形の各辺に垂線を下し、これらの垂線をそれぞれ軌跡の 横軸(XI)および縦軸(YDとした(Fig.2).そしてFig.2の軌跡の中心、横軸お よび縦軸をそれぞれ、 Fig.3に示すような同心円の中心、横軸(X2)および縦軸(Y

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II

朝長 EヨE∃

2)に重ね合わせて、これらを動揺の大きさを分析するための基線とした。

次に、記録された100秒の動揺の軌跡は複雑なため、動揺の軌跡を全体としてでは なくデータレコーダのカウンタによって、"0‑2"、"2‑ 、" ‑6、"6

‑8"、 "8‑10"、 "10‑12'、 "12‑14'、 "14‑16"、 "16‑18"、 "18‑20"の10段階に 連続的に分解してⅩ‑Yレコーダの記録紙にそれぞれを再生させて、動揺の軌跡の単 純化を図った。そしてこれら10枚の記録紙に再生された10段階の軌跡をそれぞれ、

Fig.4のように、前記の基線に合わせた。 Fig.3および4の円は半径が1cm刻みで、

1cmから10cmまでの同心円とした。

動揺の大きさの指標として、Fig.4に おける円の中心と半径1cm、半径1cm

と2cm、 2cmと3cm、 3cmと4cm、 4cm と5cm、、 5cmと6cm、 6cmと7cm、 7 cmと8cm、 8cmと9cm、 9cmと10cmのそ

れぞれの同心円に囲まれた領域に、動 揺の軌跡が落ちた個数を数えた。

Table lは、 ‑被験者の動揺の軌跡の落 ちた個数をまとめたものである。

次に、円の中心と半径1cmの領域(0

‑1)に落ちた合計個数に対しては1 を掛けたIcmと2cm(1‑2に対し ては2、以下同様にして、10までの数値

Fig. 3 The coaxial circles. XI andYl in Fig. 2 were put on X2 and Y2 in Fig, 3, respectively.

til>9 a sサ;i 起 醐 〃 ■ サ:詛 ; I

Fig.2 The method of analyzing the amplitude of the sway of the cen‑

ter of gravity. Firstly, the center of the locus of the sway was decid‑

ed, and secondly the horizontal axis was defined as an X‑axis and the longitudinal axis as a Y‑axis.

Fig. 4 The locus of the swaydecomposed

by the data recorder.

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視覚情幸酎こよる姿勢制御

Table 1 The magnitude of the sway of the center of gravity in each range

Radius

Co n d it io n C ou n t er 0‑ l (* l ) l ‑2 (* 2 ) 2 ‑3 (*3 ) 3 ‑4 (★4 ) ̀ ‑5 (* 5 ) 5 ‑ 6 <* 6 ) 6 ‑ 7 (* 7 ) 7 ‑ 8 (* 8 )

0‑ 2 23 1 1 6 1 1

2l ̀ 37 14 3

4 l 5 2 0 27

6‑ 8 2 7 2 1 4

E yes 8‑ 1 0 9 3 0 2 6 6

C ーosed 1 0‑ 12 2 5 1 6 1 8 1 0

12 ‑ 14 2 1 2 0 1 6 6 12 1 0 6

14 ‑ 1 6 1 9 3 0 2 2 1 4

16 ‑ 18 4 2 2 6 7

18 ‑ 20 2 7 1 2 1 4 2 0

T o ta l 22 5 1 9 2 12 4 6 1 4 2 1 0 6

M ag n it u d e 22 5 3 84 37 2 2 4 4 2 1 0 6 0 4 2

0 l2 8 24 3 0 17 6

2 ‑4 0 0 1 5 3 4 5

4 ‑6 2 7 15 1 1 2

5 ‑8 1 3 33 24 2

E ves 8 ‑1 0 2 0 18 17 8

open 1 0 ‑1 2 2 6 23 12 6

1 2‑ 1 4 4 0 2 0 6

1 4 ‑1 6 2 7 2 7 14

1 6‑ 1 8 8 6 16 18 1 8

1 8 ‑2 0 1 7 2 9 5 7 2

To t a l 1 8 6 19 5 1 50 94 3 1

M a g n itu d e 18 6 39 0 4 50 3 7 6 1 55

0‑ 2 57 2 5 4

2l ▲ 5 3 3 0 13 9

▲l 6 49 8 4

6‑ 8 52 7

8 ‑ 1 0 63 3 1 1 5

F ee db a ck l O‑ 12 65 1 8 2

12 ‑ 14 37 2 1 1 1 6 2

14 l 1 5 69 2 1 5

16 ‑ 18 65 1 4 5

18 ‑ 2 0 68 1 6

T o ta l 74 9 1 9 1 5 9 15 2

M a gn i tu d e 74 9 3 8 2 17 7 60 10

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をそれぞれ掛けて、これを各領域における動揺の大きさを表すこととした。さらにこ れらの各領域における動揺の大きさを合計し、これを各条件における動揺の大きさ

とした。

統計処理として、各条件における3試行の平均値を動揺の大きさの代表値として、

3 (条件:開眼条件、開眼条件、フィードバック条件)×2 (性:男、女)の分散分 析を行いTable2のように、条件間にも性差の間にも有意な差が得られた。次に対応 のあるt一検定を行い、以下のような結果を得た。

1.被験者50人における動揺の大きさ

フィードバック条件<開眼条件<開眼条件 各条件間には、 1%水準

で有意な差があった。

2.男子学生における動揺の大

きさ(∩‑25)

フィードバック条件<開眼 条件<開眼条件

各条件問には、 1%水準

Table 2 Results of ANOVA

Source SS d f M S

3376320. 129 4351597.690 A x B 332230.804 Error 287 1805.306

3376320.129 112.865 **

2175798.845 72.734 * * 166115.402 5.553 **

96 29914.639

**pく.01

Sex ( Male, Femak )

B : Conditions of visual information

(6)

16

朝長 で有意な差があった。

3.女子学生における動揺の大きさ(∩‑25) フィードバック条件<開眼条件<閉眼条件

各条件間には、 1 %水準で有意な差があった。

以上の結果から、被験者が被験者の重心動揺を直接視覚的フィードバック情報と して用い、動揺を直接視覚的にとらえた場合、姿勢を制御させる効果が大きいことが わかった。

9S3差

(手間眼条件においては、男性の方が女性よりも動揺の大きさは大であった(t‑

3.543、 P<.01)。

②開眼条件においては、男性の方が女性よりも動揺の大きさは大であった(t‑

3.723、 P<.01)。

③フィードバック条件においては、男性の方が女性よりも動揺の大きさは大で あった(t‑3.407、 P<.01)。

5.大きさの比における性差

①開眼条件に対する開眼条件における動揺の大きさの比に関して、性差はな かった(t‑1.279、 P>.05)。

②閉眼条件に対するフイ‑ドバック条件における動揺の大きさの比に関して、

性差はなかったt‑.61、 P>.05)。

③開眼条件に対するフィードバック条件における動揺の大きさの比に関して、

性差はなかったt‑.403、 P>.05),

以上の結果のように、動揺の大きさは3条件ともに男性の方が女性よりも大で あったが、大きさの比に関しては、性差はなかった。

6.求心動揺型と非求心動揺型の出現頻度

重心動揺を評価する場合、基本検査の1つに動揺型による判定がある。動揺は前後 径、左右径、揺らぎの方向、揺らぎの均一性によって求心動揺型、前後動揺型、左右 動揺型、びまん動揺型、多中心動揺型に分類されている。

本研究で行ったように、被験者が被験者の重心動揺を直接視覚的フィードバック 情報として用い、動揺を直接視覚的にとらえた場合、姿勢を制御させる効果が大きい という結果から動揺の求心性を見るために、動揺型を動揺の小さい求心動揺型と動 揺の大きい非求心動揺型とに分類して、求心および非求心の動揺型についてのみ比 較、分析した。但し、前後、左右、びまん、多中心動揺型を非求心動揺型としたTable 3は、 3条件の3試行における2動揺型の出現頻度をまとめたものである。

Fig.5は、 Table3における被験者50人の第1試行での2動揺型の出現頻度を図示

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視覚情幸酎こよる姿勢制御

したものである。

以上のように、動揺型 を動揺が小さいとした求 心動揺型と動揺が大きい とした非求心動揺型とに 分けてそれらの出現頻度 を検討した場合、明らか

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Table 3 Frequencies of two types under three conditions

C o n d i t i o n ℡r i a l

C e n t r i p e t a l N o n ‑ c e n t r i p e t a l M a l a F a h h l e ℡o t a l M a l a F ォ一n a l e ℡o t a l

B y ォォ

1 2 1 3 2 3 2 ▲ 4 7

2 2 3 6 2 3 2 2 4 5

c l o s e d 3 1 5 5 2 ▲ 2 0 4 4

E y a s

1 3 3 6 2 2 2 2 4 4

2 4 5 9 2 1 2 0 4 1

o p a n 3 ̀ 3 7 2 1 2 2 4 3

F e e d b a c k

1 2 1 2 2 ▲3 4 3 7

2 2 0 2 2 4 2 5 3 8

3 2 3 2 0 4 3 2 5 7

にフィードバック条件下でいずれも求心動揺型の出現頻度が著しく大きかった。こ れらのことから、直接的な視覚的情報によるコントロールが姿勢制御に強く影響し ていることがわかった。

本研究の目的は2つあった。第1の目的は、 Ⅹ‑Yレコーダに描かれる被験者自身 の重心動揺の軌跡と、 Ⅹ‑Yレコーダのペンを視覚的フィードバック情報と、した場合 (フィードバック条件)の重心動揺の大きさを、閉眼状態で直立した場合(閉眼条件) と開眼状態で固視点を凝視した場合(開眼条件)の動揺の大きさと比較検討すること であった。さらには、これら3条件における求心動揺型と非求心動揺型の出現頻度か

ら、動揺の求心性を検討することであった。

第2の目的は、本研究で試みた動揺の大きさを分析する方法の有効性について検 討することであった。これまでに試みられた分析方法は、記録された動揺をそのまま 全体として、コンピュータによって周波数を分析したり、動揺の面積や左右径および 前後径を測定するといった方法がとら

Fig. 5 The frequencies of centripetal and non‑centripetal types in fifty sub‑

jects.

れてきた。Ⅹ‑Yレコーダに描かれる約 1分間の動揺波形は複雑である。そこ で本研究では、複雑な動揺波形を単純 化するために、X‑Yレコーダに記録さ

れた動揺の軌跡を連続的に10段階に分 解し、分解された動揺の軌跡が、動揺の 中心を中心とした同心円の各領域に落 ちた個数を動揺の大きさの基礎とする 分析方法によって、動揺の大きさを測 定した。この方法は動揺の大きさを解 析するには、単純ながら動揺をよく表

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18

朝長 現できることがわかった。

被験者50人における動揺の大きさ

閉眼条件における動揺の大きさの平均値は937.7、開眼条件では671.2、フィード バック条件では580.8で、これらの条件間には統計的に有意な差があった。すなわ

ち、フィードバック条件における動揺の大きさが最も小で、閉眼条件における大きさ が最も大であった。

閉眼時での動揺の大きさに関するこれまでの研究において、開眼時の動揺の大き さは閉眼時に比べて小さく、また面積についても開眼時の方が閉眼時よりも小であ るという結果が報告されている(松岡・時田、 1977)。また重心動揺におよぼすフィー ドバック情報の効果に関しても、フィードバック信号を呈示することによって動揺 は安定化することが報告されている(武谷・大野・菅野、 1976),

これらのことから、本研究で行った被験者が自分自身の動揺の軌跡というフィー ドバック情報を見ながら姿勢をコントロールさせると、動揺の大きさははるかに小 さくなり、より安定することがわかった。

性差

重心動揺の僅差に関しては、開眼時および開眼時の重心動揺において、男性と女性 の間に有意な差はないという結果と、女性の方が男性よりも動揺面積は小であると いう異なる結果が報告されている(小島・竹森、 1980I菅野・武谷、 1971)。

本研究においては男女ともに、フィードバック条件における動揺の大きさが最も 小で、次が開眼条件、そして閉眼条件が最も大で、統計的にも有意な差があった。こ れらのことから、男女ともにどの条件でも同じ傾向が見られたが、 3条件ともに男性 の方が女性よりも大きく動揺しているといえた。

しかしながら、開眼条件/閉眼条件、フィードバック条件/開眼条件、およびフィー ドバック条件/開眼条件の比に関しては、男女間に有意な差はなかった。したがっ て、 3条件ともに男性の方が女怪よりも大きく動揺しているにもかかわらず、男女は それぞれ同じ動揺をしているといえる。

重心動揺の求心性

動揺の出現率に関する研究(時田・松岡・早野、 1971;時田・松岡、 1972)による と、そしてこれらの動揺型を求心動揺型と非求心動揺型に大別して出現率をみた場 合、開眼時には求心型が32%、非求心型が68%、また開眼時には求心型が36%、非求 心型が64%の出現率が報告されている。この結果から、 2動揺型の出現率は閉眼時も 開眼時もほとんど変わらないといえる。

本研究で得た結果によれば、 Table3に示したように、第1試行において、閉眼条 件では求心型が6 %、非求心型が94%、開眼条件では求心型が12%、非求心型が88%

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視覚情報による姿勢制御

19

の出現率であった。それに対してフィードバック条件では求心型が86%、非求心型が 14%であった。第2試行および第3試行においても同じような出現率であった。また 男女ともに同じような出現率が見られた。

以上のように、動揺型を求心型と非求心型に分けて動揺の求心性を見た場合、開眼 条件よりも開眼条件の方が求心性は強く、さらに自分自身の動揺の軌跡という

フィードバック情報を見ることによって、動揺の求心性はますます強くなることが わかった。

重心動揺を評価する場合、 Ⅹ‑Y記録図において、 (a)動揺の大きさ、 (b)動揺型、 (C) 動揺の中心、 (d)開閉眼差、を基本検査として評価している。

本研究では、この評価の手順に従いながら、しかも動揺の大きさをこれまでに試み られていない独自の方法によって分析した。そして被験者が自分自身の動揺の軌跡 を視覚的フィードバック情報として姿勢を制御させると、動揺の大きさはより小さ

くなり、しかもより強い求心傾向を示すという結果が得られ、重心動揺すなわち姿勢 制御に視覚情報の果たす役割が大きいことがわかった。

要約

本研究の目的は、開眼条件、開眼条件およびフィードバック条件において、重心動 揺の大きさおよび動揺の求心性を比較検討することであった。本研究の特長は、

フィードバック条件を用いたことにある。すなわち被験者は視覚情報として、 Ⅹ‑Y レコーダに描かれる被験者自身の動揺の軌跡を見ながら姿勢をコントロールすると いう条件である。結果は次のとおりであった。

1.被験者50人において、フィードバック条件における動揺の大きさが最も小であっ た。

2.男性の方が女性よりも動揺の大きさは3条件ともに大であった。

3.フィードバック条件/開眼条件、フィードバック条件/開眼条件、開眼条件/開眼 条件の比は、男女ともに同じであった。

4.動揺型を求心型と非求心型に分けた場合、フィードバック条件における求心動揺 型の出現頻度が最も大であった。さらに、男女ともに3条件における出現頻度は同 じ傾向を示した。

以上の結果から、被験者が自分自身の動揺の軌跡という視覚的フィードバック情 事酎こよって姿勢を制御させると、重心動揺はより安定化し、より強い求心傾向を示す ことがわかった。

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朝長

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吉沢誠・箭内則文・田中久博・竹田宏・大友仁1985視覚フイ‑ドバック情報の改変と身体動揺 量の計測姿勢研究、 5(1)、 39‑460

(1992年10月30日受理)

参照

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