奈良教育大学学術リポジトリNEAR
【翻刻】染田天神法楽連歌(応永期)
著者 谷嶋 美智子
雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育
巻 3
ページ 74‑83
発行年 1979‑03‑30
URL http://hdl.handle.net/10105/10473
︻翻刻︼
染田天神法楽連歌(応永期)
谷烏山美智子
ここに翻刻するのは︑奈良県宇陀郡室生村染田に伝存し︑現在奈
良国立博物館の保管となっている法楽連歌である︒これは︑早く永
島福太郎氏の﹃中世文藝の源流﹄(河原書店︑昭和23)において資
料の概要と歴史的意義を説かれて世に知られたものである︒また︑
﹃室生村史﹄(昭和41)に︑吉永登︑吉原栄徳両氏共同執筆の詳説
と︑堀池春峰氏による﹁染田天神縁起﹂の翻刻とが収められ︑田中
稔氏も同書の中で言及され︑漸くその全貌が明らかになろうとして
いる︒
中世の代表的文芸である連歌は︑室町時代には極めて高い文学性
を獲得し︑準勅撰の選集まで出して︑社会的にも高い地位を得た︒
即興的な短連歌のすさびから高度な文芸に到達したそのことの意義
と共に︑連歌が注目されるのは︑それを支え︑育てあげたのが僧侶
武士庶民などの新しい層であったことであろう︒連歌ほど︑貴蔑の
別なく人々を熱中させ︑全国津々浦々にまで創作にかり立てた文芸 は他になく︑地方文化の向上に連歌の果した役割は誠に大きい︒
現存する地方連歌の中では︑伊予の大山砥神社連歌とこの染田天
神連歌とがもっとも注目されよう︒前者は千句︑万句などの連歌懐
紙が多数残っていて︑作品そのものを知りうる点に特色があり︑後
者は今翻刻するところで知れるように︑発句と脇(或いは三つ物)
のみなので︑この点では遜色があるが︑縁起︑目録︑関連古文書が
あって︑起源︑信仰との関連︑連歌会運営状況などがうかがえる点
に大きい特色がある︒この点は既に永島福太郎氏などの明らかにさ
れたところで︑大和の山間部の豪族が︑乱世に消長を見せつつ︑年
に一度の千句連歌に結集し︑応永より江戸に至る長期間に継承して
行った様は︑彼らにとって連歌が単なる気ばらしや手すさびでな
く︑精神的支柱であったことを意味していよう︒連歌が戦乱の時代
にあれほどに各地で盛に興行されたのはなぜかを考える具体的な鍵
の一つがここにあると言えるのではあるまいか︒既に大要は知られ
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ているとは言え︑染田天神連歌は今後も研究に価する資料である︒
染田天神連歌は年一回の恒例連歌と︑随時に行れる立願連歌とが
ある︒恒例連歌は主要豪族六乃至十氏による当番持廻わりで経営せ
られ︑参加資格や運営方法に定めがあった︒それを作品と併せて検
討すれば︑その実態は今まで以上に明らかになるであろう︒先学の
研究には個人主催の立願連歌を区別するという視点に乏しいために
もう一歩の研究の余地を残しているようである︒
現存の形態は巻子になっているが︑無軸で︑簡単な貼り継ぎであ
る︒毎年の千句の発句脇句(第三を加えることも)を懐紙に記して
奉納したのであろう︒それを元禄十四年に近接年次のものを集め
て︑貼り修補したのである︒但し︑厳密な年代順にはなって居らず︑
巻も年号の別はあるものの︑大小区々で︑修補時の誤りや以後の分
離もありそうである︒ 今回は︑本連歌の中で最も古い応永期を翻刻する︒以後のものは
他の機会を侯ちたい︒応永期は二巻である︒この申に﹁天神講頭役
次第﹂と永享期と思われる三つ物十八句が混じっている︒これらは
除くことにする︒翻刻の方針は左のごとくである︒
1︑連歌制作年月順に改めて掲載する︒
2︑賦物は二句の中間上部に書かれているが︑発句の上に置く︒
3︑年記などは︑印刷の都合で位置を少し動かしたものがある︒
4︑漢字︑かな共に現行字体に改め︑濁点を新しく付した︒
5︑判読し難い部分は空欄とした︒
翻刻は谷嶋美智子が担当し︑山内が原本と照合したが︑まだ判読
できぬものの残るのは残念である︒翻刻の許可をいただいた室生村
染田区長藤熊孝玩氏と調査に便宜を諮っていただいた奈良国立博物
館の湊敏郎技官に御礼申上げる︒(山内洋一郎)
(谷嶋i奈良県宇陀郡三本松小学校教諭) 一
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一船
路
唐 千句発句脇之次第
応 永 十 六 五 藤 井 坊 主 立 願
花ひさし神の恵もふかみ草
玉てるゐがき梅ぞ色付
雨に開く樗は雲の初かな
松の木かげや露ふかみ草
月にほふ雲は晴間か梅の雨 如一詮英
一順 片木物 よそまでしるき風のたち花
花や色露ふか百合の朝じめり
さきてしみにしまじる撫子
香ぞふかき山橘の名取草
はなのゆかりのふる梅の雨
五月雨の急雨になる晴間かな
なけほと㌧ぎす暮方の空 弘豊藤(雨)口順香
英 人朝山
三字 水ふかみ早苗みじかき田面哉
ふしたちなびく風の若竹
若竹は月にさはらぬ小枝かな
松も青葉のあふちさくころ
紅葉にてそへかし松の青鶏冠木
梢もせみのたかきもろ声
御座かざる錦菖蒲の軒葉哉 初申成豊秀成
申
夏はぎか︑る露の玉がき
千句之発句次第
何人
第三見
唐何
第三力
何船
第三中
朝何
第三出
何路
第三初
白何
第三英
山何
第三弘
片何
第==
何目
木 秀千句之発句次第
山 何 応 永 十 七 二 廿 五 第 三 初
今日ことに盛の花を手向かなすゑ幾春ぞ神がきの松
晴やらで朝ゐる雲や花の雨
さかりの桜風もきこえず
庭は月木ずゑは花の雪夜哉
雲のけしきも春のあけぼの
川をとは花におよばぬあらしかな
枝もたは㌧になびく青柳
遠山や松を雲間の花ざかり
青葉もまじるみねのさくら木
比口ねど花さきそろふなみ木哉
風は松にや吹かすむらん
千代もみん花のさきつく家桜
しら玉つばき春を重て
花ざかりかくれぬやどの梢哉
小雨の柳なを風もなし
よしかすめ有明の夜の花ぐもり
檜原に音ののこる春風
松にさへ風なき花の所かな
久しきは尚ときわ木の松 一初義一英弘申五力詮立祐田若安見初英見
力 薄何
第三祐
何路
第三見
何木
第三中
何船
第三英
初何
第一三
片何
第二義
何人
第三弘
唐何
第三力
二字
応 永 十 七 二 廿 九
みどり立花さく松を宮居哉
若木のさくら末ぞ久しき
ゆふがわやなをくれなゐの花桜
かすみのひかり又松の色
花の色は小雨に成ぬ朝じめり
しら露ながし青柳の糸
花ざかりなみよる枝を嵐哉
青葉ぎくらは雲も少し
松の香も山くれか\る日影かな
かぜのおとまでよはき春雨
よしやゑし花より明る朝ぼらけ
松の春ぞと風もきこえん
花のころ松ばかり吹夕嵐
かすむひばらや猶くもるらん
新枝の花はさかりのはじめかな
柳こだかしみどりそふ比
春ごとの花やかぎりもしら椿
雨こそかすめ露の玉松
松にそふ花は千歳のためしかな
かつさく色やくれなゐ桃
千句発句脇之次第 若
一弘
力祐
英
見
弘
申田
力
祐一
見
初
詮
田
若
茂
申
応 永 十 八 五 十 二 日 始 行 之 於 多 田 殿
山神がきや松もとしふる梅の雨 物路人木唐船初露二字 花のさかりかにほふたち花
朝露のおきそふ色やふかみ草
はれて風きく松の五月雨
月もがなこゑしげ山のほ㌧とぎす
青葉がくれに梅ぞ色付
葉さしそへ門田のさなへ庭の松
ふしたつ程もはやき若竹
花になを日数をそへよ[]草
開重てやいうもふかゆり
花の雲うす紫のあふちかな
木かげばかりにふる梅の雨
月みえて五月雨しばし晴間哉
あけぼのはやしげにも夏夜
且さくか水がくれ深き花かつみ
時来にけりとさなへとりころ
色々にさくやなでしこさゆり花
おく露までもふかき夏草
橘や久しきやどのとこよ物
げに青鶏冠木松や松なれ
千句発句脇之次第
何人
一何船 花のころ手向しけみの樗かな
恵にか〜る露ふかみ草
さきそふる花も匂もふかみ草 力義若曽英カ所満喜中曽英義所
一経
立喜
申
応 永 十 九 年 五 月 十 六 日
詮一
可
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唐何
何路
何木
朝何
山何
初何
薄二字 立枝のむめそやがて色づく
木の間もる月にははれよ梅の雨
しげるさくらはた穿松の色
声しげし暮行山のほと〜ぎす
晴間すくなき五月雨の比
若こもの上もみぶかき御池哉
あやめの露やなみにちるらん
露ふかし色付麦の秋の雨
松風いつれ蝿のもろごゑ
月やどり橘かほる軒端哉
雲やあふちの花をそふらん
ふし立はとらでをくての早苗かな
露にもなびく風の若竹
こと草か花色くの石の竹
さゆりまじりにしげるおす〜き
青鶏冠木かはらぬ宮の千代木哉
花も匂もふかきたち花
千句発句次第
何船
山何 花をのみ宮居ぞ高き名取草
あふちのかげや露の玉がき
百千返なくや五月の時鳥
風ふくたびににほふたち花
夕何明やすき月の夜のこす木陰哉 英一力力弘香満英詮延所傳信所善善香
応 永 廿 年 五 月 十 六 日
叡
詮
正
弘一 初何何人片何朝何何木何水山何 晴てしらむやさみだれの空
香をとめて花に樗の盛哉
枝もしげみの梅ぞ色付
花もがな名はくれなゐの梅雨
露も一しほふかき夏草
花久し名もとことばの石の竹
あをかゑでより生じる松色
音をのこせ月の入さの時鳥
夜もあけやすきむら雨の跡
あさまだきとれば露散小苗哉
若竹なれやげにふし立て
五月雨の川音になる晴間哉
水かげぐさのさなへとるころ
橘にゆふしでかほる御垣かな
手向にかなふ色ふかみ草
千句発句脇第三
山何何山
何船
何物
何木 叡力
一延
傳
加
満
傳
五
満
延
弘
英
英
力
応 永 廿 一 九 十 二 日
菊の千代松にひとしき宮ゐかな
もみちに見るも露はしらゆふ
猶そめよもみちのいろのあさ時雨
日かげをもらす松の秋風
長月の月をみべくは今夜哉
たぐひはあらじ花のしらきく
秋ながら花やみさほの松の霜 円春延加香延
加 薄何何路初何白何何人二字反音 木のした露や草にちるらん
雨にみて枝をりかぎす紅葉哉
花にはいろのなをまさり草
かげ高く雲なき月の御空哉
秋や柳ももみちなるらん
風ふかでなびくは露のいなば哉
かりしほになる小田ぞ色こき
あさごとに色はまさきの紅葉哉
松にまつをく秋の初︑霜
月もなし木葉かつちる嵐かな
やがてはれ行秋よしぐれ
松いろはかはらぬ秋のみどり哉
露雇びくむら竹 傳傳正弘定満若正弘詮一一
詮
千句発句脇之次第応永廿二+月廿継下鋤階駝
山何
何人
白何
朝何
何舟 年を経る宮ゐも久し松の霜
冬菊ながら花の白木綿
山風は月の夜降る時雨哉
雪かや霜の松の明ぼの
木の間より滝見え初落葉哉
風の時雨や松にふるらん
下水を嵐のうつむ木の葉哉
こほらぬ方はたかき川音
さかりなる菊には冬の色もなし 力延延英香弘加力
善 一
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一