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監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化

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監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化

福 川 裕 徳

(2)

監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化

Abs t ract

Thepur po s eo ft hi spa pe ri st opr e s e ntaf r a me wo r kf o re xa ml nl ng t heq ua l i t yo ff i na nc i a ls t a t e me nt sa s s ur e dbya udi t i ngi nt e r mso ft wo q ua l i t a t i vec ha r ac t e r i s t i c so ff i na nc i a li nf o r ma t i ont ha ta r ede f i ne di nt he c o nc e pt ua lf r a me wo r ksf o rf i na nc i a lr e po r t i ng‑r e l e va nc ea ndr e l i a bi l i t y

‑a ndt oc l a s s i f yt hewa yl nWhi c ha udi t o r sa r ee nga ge di nt hej udg一 me nt so nr e l e vanc eo ff i na nc i a li nf o r ma t i o nba s e do nt hepha s e si n whi c ht hej udgme nt sa r er e q ui r e da ndt he i rna t ur e. Thec l a s s i f i c a t i o no f a udi t o r s 'j udgme nt so nr e l e va nc eo ff i na nc i a li nf o r ma t i o npr e s e nt e di n t hi spa pe ri sus e f ulf o ra ppr o pr i a t e l yunde r s t a ndi nga udi t o r s ' j udgme nt s t her a t i o na l ef o rwhi c hha sno tbe e npr o pe r l ye xpl a i ne di np r l O rr e s e a r c h r e ga r di ngt her o l eo ff i na nc i a ls t a t e me nta udi t sa ndt her e l a t i o ns hi pbe ‑ t we e ǹ ̀ f a i rpr e s e nt a t i o n"o r" at r uea ndf a i rvi e w"a ndc o mpl i a nc e wi t ha c c o unt i ngs t a nda r ds .

Keywords:Qua l i t yo ff i na nc i a ls t a t e me nt sa s s ur e dbya udi t i ng,As ‑ s ur a nc eo fr e l e va nc eo ff i na nc i a li nf o r ma t i o n,Audi t o r s 'j udgme nt so n r e l e va nc eo ff i na nc i a li nf o r ma t i o n

281

1.は じ め に

職業専門家たる監査人によって行われる財務諸表監査は,監査を実施 した 結果表 明される 「 財務諸表は,一般 に公正妥当 と認め られる企業会計の基準 に準拠 して,財政状態,経営成績およびキャッシ ュ ・フローの状況をすべて の重要な点において適正に表示 しているもの と認める」 旨の監査意見を通 じ て,財務諸表の質についての保証を提供する。一方,財務諸表監査によって 保証 される財務諸表の質 とは どのような ものであるのか という点について十 分に確立 された見解は存在 していないように思われる。

アメ リカおよびイギ リスにおいて公表 されている概念フレームワークにお

いては,財務情報が有すべ き主要な特質 として, 目的適合性 と信頼性が挙げ

(3)

られている ( FAS B,1 9 8 0 ,p a r a s . 4 2 ‑ 9 0; AS B,1 9 9 9 ,Ch. 3 ) 。わが国にお いて, 企業会計基準委員会が公表 した討議資料「 財務会計の概念フレームワー ク」で も,投資意思決定有用性 を支 える特性 として,意思決定 との関連性 ( r e l e vanc et ode c i s i ons ) と信頼性が挙げ られてい る1 。概念フ レームワー クにおいて,財務情報 が有することを要求 されてい るこれ らの特質 と,財務 諸表監査 によって保証 される財務諸表の質 とは どの ような関係にあるのであ

ろうか。

一般 に,財務諸表監査は,財務諸表の信頼性を保証す るといわれる

しか しなが ら,財務諸表監査が保証する財務諸表の信頼性は,概念フ レームワー クにおいて定義 されている財務情報の信頼性 と必ず しも同一ではない。た と えば,福川 ( 2 0 0 2 ) は,既存の諸文献 を検討 した結果,財務諸表監査が保証 する財務諸表の信頼性は,概念フレームワークにおける信頼性を含みなが ら

も,それ よりも広い内容をもつものであることを指摘 している。

しかしなが ら,従来,財務諸表監査 を概念フレームワークに挙 げ られてい る 目的適合性 と信頼性 とい う 2 つの特質の うちの信頼性のみ と結びつけ, 冒 的適合性 とは切 り離 す とい う考 え方 が一般的 に採 られて きた。 た とえば,

FASB は , 「 財務諸表 は, しば しばその信頼性 に対 する信頼 を高めるために 独立の監査人によって監査 される 」( FAS B,1 9 7 8 ,p a r a. 8 ) と述べている。

また AI CPA は , 「 伝統的な監査および証明業務は主 として信頼性の評価 を 通 じで情報の質を改善することに焦点が当て られて きた。対照的 に目的適合 性 に関す る問題は制度 レベルで扱われて きた 」( AI CPA,1 9 9 6 ) という見解 を示 している。 また,監査研究者のなかで も, こうした考 え方が広 く採用 さ れているように思われ る 2 。

1 討議資料 「財務会計の概念 フレームワーク」では,意思決定 との関連性 ,信頼性 と並 んで , 「ある会計情報 が,会計基準全体を支 える基本的な考 え方 と矛盾 しないルールに基 づいて生み出されてい ること」 を意味す る内的な整合性 も意思決定有用性 を支える特性 として挙げ られているが,本論文の議論 には直接 に関係 しないため, ここでは取 り上げ ていない。

2 た とえば,鳥羽 ( 1 9 9 8 ) を参照。

(4)

監査 人 に よる財務情報 の 目的適合性 への関与 の類型化 2 8 3

その一方 で,財務諸表監査は,財務情報の信頼性だけではな く目的適合性 の保証 にも関与 している ( すべ きである)とする見解 も見 られる。た とえば, 高田 ( 1 9 80) は,財務諸表監査 において,財務諸表利用者たる投資家の意思 決定 に影響 する要因に着 目する必要性を指摘 し,監査 における適正性判断は 投資家 に とっての有用性の観点か ら行われるべ きであるとしている。 また, Lee ( 1 99 3) は,財務諸表の会計的内容 に, 目的適合性 と信頼性 がなければ, 財務諸表が真実 かつ公正な概観 を示 している とはいえない としている 3 。 さ

らに,内藤 ( 2 0 0 1 ,2 0 0 5 )は,財務諸表監査の役割には,財務諸表の特質 と しての信頼性だけではな く, 目的適合性を も含んだ財務諸表の投資意思決定 有用性の観点か らの監査判断 も含まれるべ きである と主張 している。

福川 ( 2 0 0 4 )では,財務諸表監査 によって保証 される財務諸表の質 に,伝 頼性だけではな く目的適合性を も含めて考 えることの合理性を議論する とと

もに,その実施に当たっての問題点 を指摘 している。本論文は,福川 ( 2 0 0 4 ) の議論 を前提 としなが ら,財務諸表監査 は財務諸表 の信頼性だけではな く目 的適合性の保証 も行 っている との立場か ら,監査人の 目的適合性の保証への 関与のあ り方 を類型化することを 目的 としている。

まずは じめに,財務諸表監査 によって保証 され る財務諸表の質 には 目的適 合性 も含 まれる と考 えることの正当性を論 じる とともに, 目的適合性の保証 と信頼性の保証 それぞれの意義 を明 らかにす る。 その後 に, 目的適合性 の 保証 に焦点 を絞 って, 目的適合性の保証 への監査人の関与の類型化 を試 み

る。

3 イギ リスにおいては,監査人は,財務諸表 が真実 かつ公正 な概観 を示 しているか どう

かについての意見を監査報告書 において表 明す ることが求 め られている ( 1 9 8 5 年会社法

第 2 3 5 条) 0

(5)

2 .財務諸表監査の役割に目的適合性の保証を含めて考えること の正当性

まずは じめに,ここでは,財務諸表監査の役割を,財務諸表の信頼性だけで はな く目的適合性 を も含めた観点か ら捉 えなおす こ との正当性を議論す る 4。

ここで重要な ことは,本論文の 目的は,財務諸表監査の役割に 目的適合性の 保証を含めることによって,財務諸表監査が新たな役割を担 うよう求めるこ

とではな く,現在行われている財務諸表監査が果た している役割を財務諸表 の信癌性 と目的適 合性 の保 証 とい う観 点 か ら整理 す る こ とで あ る。福 川 ( 2 0 0 2 )が指摘す るように,財務諸表の特質 としての信頼性 ( 会計における 信頼性)は,一般 に財務諸表監査が保証する とされて きた信頼性 ( 監査 にお ける信頼性) とはその意味内容が異なっている。本論文は,財務諸表の特質 としての 目的適合性 と信頼性の観点か ら,監査 によって保証 され る財務諸表 の質を明 らかにしようとするものである と言い換 えることがで きる。

もちろん,監査 における財務諸表 の信頼性の意味を,会計における信頼性 とは切 り離 して,監査独 自の立場か ら規定する とい うことは可能である。た とえば,内藤 ( 2 0 0 1 ,2 0 0 5 )は この立場を採 り,財務諸表監査が保証す る信 頼性を,財務諸表の特質 としての信頼性 と目的適合性 を含んだ財務諸表の有 用性 として捉 えることの必要性を指摘 している。本論文が この立場を採 らな いのは,監査における信頼性を,財務諸表の特質 としての信頼性 とは別 に, 監査独 自の立場か ら規定することは,同じ学問領域 ( 広い意味での会計学) において同一の用語が異なる意味を もつことによって無用の混乱 を生ぜ しめ る虞がある と考 えるか らである。

前述 した ように,アメ リカにおいては,財務諸表 監査の役割を財務諸表の 信頼性のみ と関連づけ, 目的適合性 とは切 り離す とい う考 え方が一般的に採

4 財務諸表監査 が保証す る財務諸表の質 に 目的適合性 も含めて考 えるこ との正当性 につ

いての ここでの議論 は,福川 ( 2004)に基づいている。併せて参照 されたい。

(6)

監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化 2 85

られて きた。 しかしなが ら,この考 え方がすべての国において,あるいは国 際的に採用 されているわけではない。

た とえば,イギ リスでは,監査人は,財務諸表が真実かつ公正な概観を示 しているか どうかについての意見を監査報告書において表明しなければな ら ないが ( 1 9 8 5 年会社法第 2 3 5 条),イギ リスの概念フレームワークでは,この 真実かつ公正な概観は,財務諸表の特質 としての 目的適合性および信頼性 と 関連づけなが ら説明されている。すなわち , 「このステー トメン トは,( 中略) 真実かつ公正な概観の概念をその基礎に有 している。財務情報の質の主要な 指標 として 目的適合性 と信頼性を強調 しているのは,このことの一例である」

( AS B ,1 9 9 9 ,pa r a. 1 3 ) としている。また,真実かつ公正な概観を財務諸 表の特質 としての 目的適合性 と信頼性 とに関連づける考 え方は, この概念フ レークワークの公開草案の段階ではより明確に述べ られてお り,そこでは,

「 主要な特質の適用 (目的適合性 と信頼性 一福川) ( 中略)は,すべての正 常な状況において,一般に真実かつ公正な概観 と理解 されているものを伝達 する財務諸表 をもた らす 」( AS B ,1 9 9 1 ,p a r a. 4 3 ) とされていた。

また,国際会計基準委員会が公表 している概念フレームワークで もまった く同様の見解 が示 されている。すなわち,財務諸表 が提供する情報の投資意 思決定有用性 を担保するための主要な特質のなかで 目的適合性および信頼性 を挙げるとともに , 「 主要な特質を適用 し,また適切な会計基準を適用す る

ことによって,通常,真実かつ公正な概観または適正な表示がなされている と一般 に理解 される情報を伝 える財務諸表 となる 」( I AS C ,1 9 8 9 ,p a r a. 4 6 ) と説明 している。

この ことは,真実かつ公正な概観 を示 している財務諸表あるいは適正な表 示がなされている財務諸表は, 目的適合性 と信頼性 とい う 2 つの特質を とも

に有 していることを意味 してお り,財務諸表が真実かつ公正な概観を示 して

いるか どうか,あるいは適正な表示がなされているかどうかについての意見

表明を行 う監査人の立場か らすると,財務諸表が信頼性だけではな く目的適

(7)

合性 も有 しているか どうかを確かめることが求め られていることを意味 して いる。

さらに,近年,アメリカを中心 として重要性を増 しつつある公認会計士の 保証業務 ( a s s ur a nc es e r vi c e s ) を巡 る議論のなかでは,情報の 目的適合性 の強化に関する公認会計士の役割が認識 されている ( AI CPA,1 9 9 6 ) 。財務 諸表監査が保証業務の中核 として位置づけ られていることに鑑みると,監査 人による情報の 目的適合性の保証が何を意味 し, どのような監査判断が求め られ,その保証 に当たってどのような実務的問題が生 じ得 るのか といった諸 問題を財務諸表監査の枠内で検討 し,明確にすることは極めて重要な今 日的 課題 といえる。

それでは,財務諸表監査の役割に,財務諸表の特質 としての信頼性の保証 だけでな く目的適合性の保証 も含めた場合に,それぞれの保証 とは何を意味 するのであろうか。次にこの問題について検討する。

3 .財務諸表監査による目的適合性の保証 および信頼性の保証の 意味

財務諸表監査 を実施するプロセスにおいて,監査人は , 「 財務諸表は,財 政状態,経営成績 およびキャッシュ ・フローの状況を適正に表示 している」

あるいは 「 財務諸表は,財政状態,経営成績およびキャッシュ ・フローの状 況の真実かつ公正な概観を示 している」 という命題を,監査人が最終的に心 証を形成すべきところの基本命題 として認識する。 この基本命題は直接的な 立証が不可能であるため,監査人は,これを直接に立証可能な諸命題 に翻訳

し,その立証を通 じて最終的に基本命題についての心証を形成する 5 。

財務諸表監査が保証する財務諸表の質には,その信頼性 とともに目的適合

5 基本命題の意義,翻訳 および立証プロセスについての詳細 については,鳥羽 ( 2000)

を参照 されたい。

(8)

監査人 に よる財務情報 の 目的適合性 への関与 の類型化 2 8 7

性が含 まれ る と考 える本論文の立場 か らこの基本命題 を翻訳す る と , 「 財務 諸表 は, ( 社会的あ るいは制度的に)要求 され る水準の 目的適合性 を有 して いる」 とい う命題 (目的適合性命題) と 「 財務諸表 は, ( 社会的あるいは制 度的に)要求 される水準の信頼性を有 している」 という命題 ( 信頼性命題) の 2つの命題 を設定することが必要である。

この 2つの命題が具体的に何 を意味 し, どのような関係にあるのかを検討 するに当た っては,本論文 と同様の立場を採 り,財務諸表監査 によって保証 される財務諸表の質 に信頼性 とともに 目的適合性 を含めて議論 を展開 してい る Le e( 1 9 9 3 ) の見解 を採用する。

Le e( 1 9 9 3 ,p p. 1 3 8 ‑1 3 9 ) は,企業の事業活動 を構成する特定の経験的事 象の状態 と結果の抽象 を構築 し表示することを 目的 とする情報システムが財 務報告である とし,財務諸表監査の 2 つの役割を財務諸表の 目的適合性 と信 頼性 とにかかわ らしめて説明 している。 まず第 1 は,会計プロセスによって 認識 された企業活動の側面 ( 属性)が,財務諸表利用者 に とって 目的適合的 であるかどうかを検証することであ る。 これには,情報利用者 に とって潜在 的に 目的適合的である企業活動の側面が会計プロセスによって認識 されない ままになっていないか どうかの検証 も含 まれる。第 2は,会計プロセスによ って認識 された企業活動の側面が,不適切な経済的行動 を導かない ような方 法で信頼で きるように計算 され表示 されているか どうかを検証することであ る。 この財務諸表監査の 2 つの役割の うち,第 1 の役割が 目的適合性の保証 であ り,第 2の役割が信頼性の保証である。

すなわち, 目的適合性の保証 とは,会計プロセスによって企業活動q)どの 側面を認識 し,また どの側面 を認識 しないのか とい う問題 に関係 してお り 6 , 他方,信頼性の保証 とは,認識 された企業活動の側面を,会計 プロセスを通

じて どの ように測定 し,表示す るのか とい う問題 に関係 している。

6 この点について,イギ リスの概念フレームワークでは , 「目的適合性は,財務報告プロ

セスのすべての段階において選択規準 ( s e l e c t i o nc r i t e r i o n) として用い られる一般的な

特質である 。 」 ( ASB,1 9 9 9 ,pa r a. 3 , 1 ) と述べ られている。

(9)

より具体的に説 明すると,た とえば,ある取引ないし事象 t が生起 した と する 7 。この場合 ,t に関 して採用 し得 る属性 として A( t ) ,B( t ) ,C( t ) ,‑ ・ が存在 している。これ らの属性のそれぞれについて,信頼 し得 る測定値 a ( t ) , b( t ),C( t ) ,・‑ が存在 している。この関係を図示すると次の とお りである。

図 1 取引ないし事象についての 目的適合性 と信頼性

目的適合性

取引ないし事象 t

7 日的適 合性 お よび信頼性 それぞれの保証 の具体的 内容 に関す るここか らの議論 は, Ha t he r l y ( 1 9 82 ) か らヒン トを得ている。

Ha t he r l y ( 1 982) は,財務諸表の質 として 目的適合性 と信頼性 を識別 し,それ らの質 を互いに独立な もの として捉 えている。 さ らに, ここでは信頼性は測定 にかかる問題 と されてい る。 そ して,財務諸表の質を Q ,測定問題の結果 として財務諸表 に付随する不 確実性を U, 目的適合性の測定を R とし,た とえば,低い Q の値は高い U の値 か低い

R の値 と関係 してい ると説 明している。 これをい くつかの具体的な会計基準に適用 した 級,監査人が一組の財務諸表 についての意見を形成 し伝達 す るアプローチが 4 つあ り得

ることを,次の図を示 しなが ら説明している。

出所 : Ha t he r l y ( 1 9 8 2,p. 1 3 9 )

そ して, これ ら 4 つのアプローチの うち,会計基準が想定 しているのは B であるのに

対 して,監査基準が求めているのは C であ り得 ることを示 している。そ して, ここに会

計基準 と監査基準が首尾一貫 しない原因があると結論づけている。

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監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化 i Z L q t l

目的適合性 についての判断 とは ,t に対 して A( t ) , B( t ) , C( t ) ,・‑ の う ち,いずれを採用することが財務諸表利用者の情報ニーズに合致するのか と い う判断であ り,他方,信頼性の判断 とは,採用 された属性 についての測定 値 がその属性 を忠実に表示 した ものになっているか どうかの判断である。

ただ し, 監査人 による財務諸表の 目的適合性 と信頼性への関与のあ り方は, 監査対象に よって一様 ではない。すなわち,財務諸表監査 によって保証 され

る財務諸表の質に 目的適合性を含めた として も,その保証が常 に監査人 によ って意識 され,明示的 に行われるわけではない。ある場合には,財務諸表の 目的適合性の保証は,監査人によってまった く無意識の うちに行われる。す なわち, 財務諸表の 目的適合性の保証 はその信頼性の保証のなかに埋没する。

また,ある場合には,監査人は,財務諸表利用者 に とっての意思決定有用性 を意識 し,企業活動のいかなる側面 を認識すべ きなのかを明示的に判断する ことが求め られる。以下では,特に財務諸表の 目的適合性の保証 に焦点を当 てて,監査人 による財務諸表の 目的適合性の保証のあ り方を類型化する。

4. 財務諸表の 目的適合性の保証への関与の類型化

以上 において,財務諸表監査 において保証 され る財務諸表の質 には信頼性 だけではな く目的適合性 も含まれる とする本論文の考 え方を示 し,そ うした 考 え方を採 ることの正当性を論ずる とともに,その場合の 目的適合性の保証

および信頼性の保証の意味を明 らかにした。

次に ここでは,財務諸表の 目的適合性の保証 に対す る監査人の関与のあ り

方の類型化を試みる。前述 した ように,監査人 に よる財務諸表の 目的適合性

の保証への関与のあ り方は,監査対象によって異なっている。すなわち,す

べての監査対象について, 目的適合性 に関する同様の監査判断が求め られる

わけではない。 したが って,財務諸表の 目的適合性の保証への監査人の関与

のあ り方の諸類型 を示 す ことにより,そ こで求め られる監査判断の内容を明

(11)

らかにす るとともに,そ こに伴 う問題 を指摘するこ とが必要であ る。

本論文 で採用す る,監査人による財務諸表の 目的適合性の保証への関与の 類型の全体像を示す と,以下の とお りである。

Ⅰ 一般 に認め られた会計基準の枠 内での関与

(Ⅰ‑ 1 ) 目的適 合性 についての判断が必要 とされない場 合 (Ⅰ‑ 2) 目的適合性 に関 して定量的判断が必要 とされ る場合 (Ⅰ‑ 3) 目的適 合性 に関 して定性的判断が必要 とされ る場 合

Ⅱ 一般 に認 め られた会計基準の適用その ものが問題 とな る場合におけ る関与 (I‑ 1 ) ゴー イソグ ・コソサーソ問題への対応 が求め られ る場合

(Ⅰ‑2) 個別問題 としての会計基準 の適用 ( あ るいは離脱)の是非 が問題 と なる場合

まず,監査人に よる財務諸表の 目的適合性の保証 への関与のあ り方は, 2 つに大別 される。 1 つは,一般 に認め られた会計基準の体系が適用 される状 況のなかでの関与であ り,いま 1 つは,一般 に認め られた会計基準の体系を 適用すること自体が問題 となる場合 における関与である。

前者の場合においては,財務諸表の 目的適合性の保証が監査人 によって明

示的に意識 されることはほ とん どない。なぜな らば, この場合には, 目的適

合性の保証の問題 は,監査人によって会計基準の適切な適用の問題 として捉

え られるか らであ る。すなわち,企業活動の どの側面 ( 属性)を会計プロセ

スによって認識す るのか とい う目的適合性の問題は会計基準のなかで扱われ

ることとな り,監査人はその会計基準が適切 に適用 されているか どうかを確

かめることを通 じて,会計基準が要求 している財務諸表の 目的適合性を評価

す る。「伝統的な監査お よび証 明業務 は主 として信頼性の評価 を通 じで情報

の質を改善することに焦点が当て られて きた。対照的に 目的適合性に関する

問題は制度 レベルで扱われて きた」 とい う AI CPA の見解 ( AI CPA,1 9 9 6 )

(12)

監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化 2 91

は,一般 に認め られた会計基準の体系が適用 され る場合におけ る財務諸表の 目的適合性への監査人の関与 を説明 した もの と理解で きる。 この場合の財務 諸表の 目的適合性への監査人の関与 は,さらに, 目的適合性についての判断 が必要 とされない場合,目的適合性 に関 して定量的判断が必要 とされる場合,

目的適合性 に関 して定性的判断が必要 とされる場合の 3 つに類型化すること がで きる。

他方,一般 に認め られた会計基準の適用その ものが問題 となる場合 におい ては,監査人は,財務諸表の 目的適合性 についての監査判断を ( それを 目的 適合性の評価の問題 として捉 えるか どうかは別 として) より明示的に求め ら れることになる。 この場合の財務諸表の 目的適合性への監査人の関与は,さ らに,ゴー イング ・コソサーン問題への対応が求め られる場合 と,個別問題 としての会計基準の適用の是非が問題 となる場合 とに分けることがで きる。

以下では, ここで示 した財務諸表の 目的適合性への監査人の関与の各類型 について,具体例を挙げなが ら詳細 に検討する。

( 1 )一般に認め られた会計基準の枠 内における財務諸表の 目的適合性への監 査人の関与

① 目的適合性 についての判断が必要 とされない場合

この場合の具体例 として売掛金を挙げて説 明す る。売掛金を貸借対照表 に 計上す る場合,その評価にかかる属性 として採用可能な もの として,債権額 としての側面 と回収可能額 ( 債権額マ イナス回収不能見積額) としての側面 を挙げ ることがで きる。そ して,債権額 として信頼性のあ る測定値 a と回 収可能額 として信頼性のある測定値 b とが存在す る。 この 目的適合性 と信 頼性の関係 を図示する と次の とお りである。

しか し,売掛金の評価 に関 して,いかなる側面 を採用すべ きか とい う目的

適合性 に関する判断が問題 になることはない。それは,売掛金は回収可能額

で評価することが 目的適合的である と一般 に考 え られ,それについて財務諸

(13)

図 2 売掛金についての 目的適合性 と信頼性

売掛金の評価

目的適合性 債 権 額

回収可能額

表利用者の合意が得 られていると考 えられるか らである。また,回収可能額 による売掛金の評価は,会計基準のなかで十分に確立 された会計処理の方法 と位置づけ られている。この場合には,財務諸表監査の実施過程 においては, 売掛金の回収可能額 としての側面が忠実に表現されているかどうか という信 頼性についての判断のみが問題 となるのである。

( 多 目的適合性に関 して定量的判断が必要 とされる場合

次に, 目的適合性に関 して定量的判断が必要 とされる場合の例 として,香 形固定資産を取 り上げる。有形固定資産は,一般に取得原価マイナス減価償 却累計額で評価 される。すなわち,取得原価マイナス残存価額を要償却額 と

し,これを耐用年数にわたって正規の減価償却の手続によって費用化するの である。

しかしなが ら,有形固定資産はいかなる場合においても取得原価マイナス 減価償却累計額で評価 されるのか といえば,そうではない。ある条件をみた した場合,有形固定資産の評価について,取得原価マイナス減価償却累計額 以外の側面が採用 されることになる。減損会計の適用がそれである。

わが国の会計基準 ( 「固定資産の減損に係 る会計基準 」) では,固定資産か

ら得 られる割引前将来キャッシ ュ ・フローの総額 と帳簿価額 とを比較 し,割

引前将来キャッシ ュ ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には,減損損失

を認識するとしている。また,減損損失の測定に当たっては,帳簿価額を回

収可能価額 ( 正味売却価額 と,将来キ ャッシ ュ ・フローの現在価値である使

(14)

監査 人 に よる財務情報 の 目的適合性 へ の関与 の類型化 2 9 3

用価値のいずれか高い方)まで減額することが要求されている。すなわち, この場合には,固定資産の評価 としては,繰越価額 ( 帳簿価額)ではな く, 回収可能価額 としての側面が採用 されることになるのである。そ して,ここ で も繰越価額 として信頼性のある測定値 a と回収可能額 として信頼性のあ る測定値 b が存在する。 この関係を図示すると次の とお りである。

図 3 有形固定資産についての 目的適合性 と信頼性

有形固定資産の評価

目的適合性 繰 越 価 額

回収可能価額

この ように,ある条件をみたすか否かによって 目的適合的な側面が異なっ て くる場合においては,採用すべき目的適合的な側面がいかなるものかを監 査人は判断する必要性があるが,特 に,その判断基準が会計基準等において 明示されている場合には,監査人が これを財務諸表の 目的適合性 についての 判断 として捉 えることはな く,もっぱ ら会計基準の適切な適用がなされてい るかどうか という観点からの判断が行われる。また,この場合には,その判 断が定量的なものであるため,次に取 り上げるような定性的判断が求め られ

る場合ほど問題 とはな らない。

もちろん,採用すべ き目的適合的な側面を決定する際に,回収可能価額の 見積 りが必要 となる。かかる会計上の見積 りは経営者の主観的な判断を伴 っ ているため,その監査 に当たってはさまざまな固有の問題が生 じる 8 。 しか しなが ら,そこでの問題は,あ くまで も会計上の見積 りの信頼性 ( 図表 3 中 8 近年新たに公表 されている会計基準 においては,会計上 の見積 りが求め られ るケース が増 え,会計上の見積 りの監査 は全体のなかで大 きな位置 を占め るようにな っている。

これに対応 す るため, 日本公認会計士協会 は監査基準委員会報告書第 1 3 号 「 会計上の見

積 りの監査」 を公表 し,会計上の見積 りを要す る事項 を例示す る とともに,その監査 に

当た っての実務上の指針 を提供 している。なお,会計上 の見積 りに対す る監査手続 の性

格に関する議論 については,た とえば,奥西 ( 2 0 0 1 )を参照 されたい。

(15)

の b)に関係するものであ り, 目的適合性についての判断を構成するもので はない。

ここで挙げた有形固定資産の評価のほかにも多 くの取引および事象がこの 類型に含まれ得 るが,この類型に関係 して特に留意 しなければな らないのは, 重要性 ( ma t e r i a l i t y) である。重要性 とは,た とえば,イギ リスにおける概 念フレームワーク ( ASB ,1 9 9 9 ) によれば , 「 特定の一組の財務諸表 におい て どのような情報が提供 されるべきかの最終的なテス ト 」( p a r a. 3. 2 8 ) であ り, 「財 務 諸 表 に お い て提 供 され るす べ て の 情 報 に要 求 さ れ る識 閉 ( t hr e s ho l d) とい う質 」( pa r a. 3. 2 9 ) である。 また,イギ リス監査基準で は,重要性について 「 財務諸表全体の文脈における特定の事項の相対的な重 要度 ( s i g ni f i c a n c eo ri mpo r t a nc e ) の表現である。ある事項は,その脱漏が 監査報告書の名宛人の意思決定に合理的に影響を与 える場合に重要である」

( SAS 2 2 0 ,pa r a. 3 ) と説明されている。さらに,I ASCによる概念フレー ムワークで も同様 に , 「 情報は,その脱漏 または虚偽の表示が財務諸表 に基 づいて行われる利用者の経済的意思決定に影響を及ぼす場合に重要性を有す る。 ( 中略)重要性は,識聞すなわち境界線 ( c ut ‑ o f fpo i n t ) を示す もので ある 。 」 ( I ASC ,1 9 8 9 ,pa r a. 3 0 ) とされている。

すなわち,重要性は,ある取引ないし事象が生起 した場合に,それを会計 上の認識の対象 とするか否かの判断基準であ り,本論文での文脈 に即 してい えば,当該取引ないし事象についての 目的適合的な側面が存在 しているかど うかの判断基準である。

一般的に,重要性には,量的側面 と質的側面の 2 つがあるといわれるが,

ここで関係するのは量的側面である。量的側面に限定 して述べる と,ある項

目の重要性は,財務諸表全体の文脈 および利用者に とって利用可能なその他

の情報 の うち財務 諸表 の評価 に影 響 を与 え る ものの文脈 で判 断 され る

( ASB ,1 9 9 9 ,pa r a. 3. 3 1 )。 この判断は,有形固定資産の評価 にかかる判

断 と本質的には同じである。すなわち,この判断のための基準が確立されて

(16)

監査人 に よる財務情報 の 目的適合性 への関与の類型化 2 9 5 いれば,それほ ど問題 とはな らない。

た とえば,かつて量的重要性の具体的判断基準 として 日本公認会計士協会 が検討 した ような判断指標 ( 総資本額の年0. 5 %,資本金額の年 4 %,税引 後利益 の20%) といった ものが存在 し 9 ,それについて社会的な合意 が得 ら

れていれば,量的重要性についての判断はまった く問題 とはな らない。 しか し,今 日の判断基準 に関 しては, この ような画一化 された具体的基準 を模索 するよ りもその判断 に当た って留意すべ き事項 を示す とい う流 れにあ り 1 0 ,

また重要性 についての判断を行 う際 には,その量的側面だけではな く質的側 面をも検討 する必要があるため,それほ ど単純ではない。

③ 目的適合性 に関 して定性的判断が必要 とされる場合

もう 1つの類型 として, 目的適合性に関 して定性的判断が必要 とされる場 合について検討する。 ここでは,まず,連結財務諸表の作成 に当たっての連 結の範囲 ( 子会社の範 囲)の問題を取 り上げる。 ここでの 目的適合性 に関す る判断 とは,ある会社 を企業集団を構成するもの として子会社 としての側面 で認識するのか,あるいは企業集団を構成するものではない とみて子会社 に は含めないのかについての判断であ る。

今 日の 「 連結財務諸表原則」では,連結の範囲に含め られる子会社の判定 基準 として,支配力基準が採 られている 。1 9 9 7 年 の改訂以前 の連結原則 にお けるように,連結の範 囲について持株基準が採 られている場合に求め られる 財務諸表の 目的適合性 に関する判断は,前述 した定量的判断を構成す る。す なわち,5 0%超の議決権を有 しているか どうかを判断基準 として,子会社 と

しての側面 を採 るのか否かが判断される。一方で,子会社の判定基準 として 支配力基準が採 られる場合 には, 目的適合性 に関す る判断はよ り複雑な もの

9 この点については, 日本公認会計士協会 ( 1 97 4) の解説 を参照。

1 0 た とえば,監査基準委員会報告書第 5 号 「 監査 リスクと監査上の重要性」 (日本公認会 計士協会 ,2 0 0 4 ,pa r a s. 3 2 ‑ 3 4 ) を参照 されたい。 また,イギ リスにおいてイングラン ド ・ウ ェー ルズ勅許会計士協会 に よって公表 されてい る重要性 についての解釈指針

( I CAEW ,1 997 ) もこの立場を とっている。

(17)

となる。支配力基準の もとでは,ある会社の意思決定機関を支配 しているか 否かを実態 として判断 しなければな らない 1 1 。 この判断は,究極的には,あ る会社を子会社 として連結の範囲に含めた ( あるいは含めない)結果 として 作成 される財務諸表 において提供 される情報が利用者に とって 目的適合的で あるかどうかに関係するものであるが,仮に,財務諸表利用者の意思決定モ デルが確立されてお らず,具体的な判断基準がまった く示されていない状況 を考える と,こうした状況において,ある会社の意思決定機関を 「 実態」 と して支配 しているか どうかを判断することが非常に困難であることは明らか である。

図 4 連結の範囲についての 目的適合性 と信頼性

連結の範囲

目的適合性

/ 二 ∴

の側面

1 1 厳密 には,ある会社の意思決定機関を 「 支配 しているか否か」ではな く , 「 支配できる か否か」が問題 となる 。No be s( 2 0 05 )は,連結の範囲および持分法適用の範囲に関 して 主に持株基準を重視 して きたアメ リカのルール型会計基準 を取 り上げ , 「支配」および

「 資産の定義」 とい った より適切な原則 を適用することに よってそれを改善で きること を指摘 している。

なお,現行の連結財務諸表原則では,ある会社の意思決定機関を支配 している一定の

事実が認め られる場合 として,( 1 ) 議決権を行使 しない株主が存在することにより,株主

総会において議決権の過半数を継続的に占めることがで きる場合 , ( 2) 役員,関連会社等

の協力的な株主の存在により,株主総会において議決権の過半数を継続的 に占めること

ができると認め られ る場合,( 3 ) 役員若 し くは従業員であ る者又はこれ らであった者が,

取締役会の構成員の過半数を継続 して占めている場合 , ( 4) 重要な財務及び営業q) 方針決

定を支配する契約等が存在する場合,が挙げ られている ( 注解5 ) ( 傍点 一福 川 ) 。 これ ら

の うち, ( 1 )か ら( 3 ) には,数値基準が導入されているこ とに注意が必要である。すなわ

ち,原則 としての支配力基準が採用 されるとともに,その適用 に当たっては,数値基準

に基づ くより形式的な基準によって補完 されていることがわかる。すなわち,Mc Bar ne t

a ndWhe l a n( 1 9 9 1 )が指摘するように, 実質主義的な規制アプローチが採 られる場合には,

その運用に当たって,実質的な規制がより厳格なルール によって補完され る という現象

が生 じる。

(18)

監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化 2 9 7

この ように 目的適合性 について定性的判断が求め られ る場合 においては, 前述 した定量的判断が求め られ る場合の ように会計基準等で具体的な判断基 準 を示 しそれについての社会的合意 を得 る とい うことが難 し く,その意味 に おいて, この判断は これまでに挙げた 2 つの類型 に比べて よ り複雑 で困難 な

ものである。

さらに,重要性の質的側面 についての判断 もこの類型 に入 る。 た とえば, イギ リスにおけ る概念 フレームワー クでは,質的重要性 を判断す る際 には, (i )当該項 目を生 じさせた取引その他の事象, (i i) その事象あ るいは取引の 合法性 ,感応性,正規性,潜在的帰結 , (i i i )関与 する主体q) 識別 ,( i v) 影響 を受け る特定の項 目名 と開示 ,に関連 した当該項 目の性質 を検討 しなければ な らない と説 明されている ( ASB,1 999,par a. 3. 3 1 )。 また, イング ラン ド ・ウ ェールズ勅許会計士協会 に よる指針 ( I CAEW ,1 997 ) では,重要性 の決定要素の 1つ として,状況 ( c i r c ums t anc e s ) が挙 げ られてい る。 これ については , 「 情報 の重要性 は,利用者 に対 す る最終的な影響 あ るいは潜在 的な影響 との関係 においてのみ判断す ることがで きる。その結果 ,特定の大 きさの特定の項 目の重要性 は,利用者 が入手可能 な会計情報 お よびその他の 情報 に依存 する 」 ( par a. 2 3) と説 明されている。 しか しなが ら,質的重要性 に関す るこれ以上 の具体的 な判断基準 は,概 念 フ レー クワー クにおいて も I CAEW に よる指針 において も示 されていない。

④ 小 括

以上 において,一般 に認め られた会計基準の枠 内におけ る財務諸表の 目的

適合性への監査人の関与のあ り方 を, 3 つに類型化す ることによって検討 し

た。 3 つの類型 ご とに 目的適合性 に関する判断の要否 お よびその判断の複雑

性は異なるものの,それ らに共通す る重要 な点は,いずれの場合 に も監査人

が明示的 に 目的適合性 の評価 を意識 す るこ とがない とい うことである。すな

わち,既存 の会計基準 の体系 が適用 され,その枠 内で 目的適合性の評価 を行

う場合 には,監査人は, 目的適合性 についての判断 を必要 としないか,ある

(19)

いは必要 とした として もそれは会計基準適用の適切性の問題 とい う形で認識 される。 これに対 して,次に取 り上げ る,会計基準の適用その ものが問題 と なる場合 においては,財務諸表の 目的適合性の評価が監査人によってより明 示的に意識 されることになる。

( 2)一般 に認 め られた会計基準の適用 その ものが問題 とな る場合 におけ る 関与

① ゴーイング ・コソサーソ問題への対応が求め られ る場合

一般 に認め られた会計基準の適用 その ものが問題 となる場合の類型の1 つ

として, ここではまず,財務諸表作成の前提の問題 を取 り上げて検討する。

財務諸表は, 一般 にゴーイソグ ・コソサーンの前提 に基づいて作成される。

アメリカにおいては,ゴーイソグ ・コソサーソの前提 に基づいて財務諸表 を 作成することを明示的 に指示す る規定は存在 しないが 1 2 ,イギ リスでは会社 法第 4 附則において 「 会社はゴーイソグ ・コソサーソ として事業を営む もの と推認 されなければな らない 」( p a r a. 1 0 ) と規定 されている。 さ らに ,FRS 1 8 号 ( ASB,2 0 0 0 ) では , 「エンテ ィテ ィは, ( a ) 清算 中であ るか,営業 を やめて しまっている場合,あるいは ( b) その取締役 には,当該 エンティテ ィ を清算す るか, 営業をやめて しまうしか現実的な選択肢がない場合 を除いて, ゴーイソグ ・コソサーソ基準で財務諸表 を作成 しなければな らない 。 」( p a r a.

21 ) としている。

本論文 の議論 に照 らす と, この ように財務諸表 を作成す る際 にゴー イソ グ ・コソサーンの前提 を採用す るのは,そ うした前提を採用 し,その観点か らみた企業活動の諸側面を採用す ることが 目的適合的であるか らだ と考 える こ とがで きる。 イギ リスにおけ る概念 フレームワーク ( AS B,1 9 9 9 ) では, 次の ように, この点を明確 に説 明している。

1 2 アメリカでは,ゴー イソグ ・コソサーンの前提 に基づいて財務諸表を作成することを

求める明文規定がないことを指摘 したもの としては,安藤 ( 1 9 9 7 ) を参照されたい。

(20)

監査人による財務情報の目的適合性への関与の類型化 2 9 9 エンティティの財務的パフォーマンスおよび財政状態をみる際には多くの異なっ た観点 ( per s pe c t i ve s )がある。そして,採用される観点は.認識される資産お よび負債そしてその金額に重大な影響を与え得る。財務諸表の目的に照らすと, 通常最も目的適合的な観点は,当該エンティティは予見可能な将来において営業 を行う存在として継続するという仮定に基づいている。この観点は通常ゴーイン ゲ ・コンサーンの仮定といわれる ( pa r a. 3. 6 ) 。

この説 明か ら,特定の状況 において,ゴー イソグ ・コソサーンの前提 を採 用 するか否 かの判断は 目的適合性 についての判断であることがわかる。すな わち,特定の状況 においてゴー イング ・コソサーン としての側面 を採用す る ことが 目的適合的ではない と判断され る場合 には,その他の何 らかの前提 が 採用 されなければな らないのである。 この関係を図示す る と次の とお りであ

る。

図 5 財務諸表作成の前提 についての 目的適合性 と信頼性

財務諸表作成の前提

目的適合性 ゴーイン′ グ ・コ ソサーンとして の側面を採用 その他の側面を 採用

この場合 における財務諸表の 目的適合性 にかか る監査人の判断は,一般 に 認め られた会計基準の体系の枠 内でその適用の適切性を評価す る とい う前述 した類型 に属するものではな く,ゴー イング ・コソサーンの前提 で体系化 さ れている会計基準 を適用す ること自体が 目的適合的な情報 を提供 す る財務諸 表 を もた らすのか どうかを問題 とす るものである。わが国の監査基準では,

「 監査人 は,継続企業 を前提 として財務諸表 を作成 す ることが適切でない場

合には,継続企業 を前提 とした財務諸表 については不適正であ る旨の意見 を

表 明」す ることを指示 している。 この場合の不適正意見の表 明は,ゴー イソ

(21)

グ ・コソサーソの前提 を採用 した結果 として作成 された財務諸表 がその選択 された側面を忠実に表現 していない とい う信頼性の評価 に起因す るのではな く,ゴー イング ・コソサーソ としての側面 を選択 した こと自体が 目的適合的 ではない とい う評価 に基づいている。

この ように,監査人は,ゴーイソグ ・コソサーソ問題 に直面 した場合,よ り明示的に 目的適合性の評価 を求め られることにな る。財務諸表の作成 に際 していかなる前提 を採用す るか とい う判断は,ビジネス ・リスクの評価,倒 産 リスクの評価 と関係 している。そ して,これ らの リスクは,単独の リスク として存在 しているのではな く,た とえば,追加的な資金調達 にかかるリス ク,デフ ォル トの リスク,営業活動 か らのキ ャッシ ュ ・フローを創出する能 力にかかるリスク といったさまざまな リスクか ら構成 される複合的 リスクで ある。監査人は,ゴー イソグ ・コソサーソの前提 を採用することが 目的適合 性を有す る財務諸表 を もた らすのか どうか という観点か らこれ らの リスクを 評価することが必要 とされているのである。ただ し,監査人が,財務諸表の 目的適合性の評価 とい う観点か ら,経営者の策定す る事業計画 も加味 しなが らこれ らの リスクを

かに評価 し,その結果をいかに報告するのか というこ とについては解決 しなければな らないさまざまな理論的,実務的,制度的問 題が残 されている 1 3。

② 個別問題 としての会計基準の適用 ( あるいは離脱)の是非 が問題 とな る場合

前述 した ように,監査人がゴーイソグ ・コソサーン問題 に直面 した場合に

求め られ る目的適合性 にかかる判断は,企業のゴー イング ・コソサーソ とし

1 3 福川 ( 2 0 0 4 ) では,ゴー イング ・コソサーソ問題 に関係 して,監査人が監査報告書 に

おいで 情報提供 を行 う論理 を,財務諸表 の 目的適合性の保証の観点か ら明 らかに してい

る。 また,先 に言及 した内藤 ( 2 0 0 1 )が財務諸表の適正性 に関す る監査意見が財務諸表

の特質 としての信頼性だけではな く目的適合性 も含めた財務諸表の投資意思決定有用性

とかかわ らしめ る必要性 を指摘 しているの も, ここで取 り上げたゴーイソグ ・コソサー

ン問題のためであ るoなお,ゴー イソグ ・コソサーンにかかる監査問題 を理論的側面,

実務的側面,制度的側面 か ら包括的に議論 した もの としては林 ( 2 0 0 5 ) を参照されたい。

(22)

監査人による財務情報の 目的適合性への関与の類型化 3 01

ての側面を採用することが 目的適合的であるか どうか とい う観点か ら,ゴー イング ・コソサーソを前提 として体系化 されている会計基準を全体 として適 用することの是非を対象 とするものである。 これに対 して,個別事象につい て,その会計処理 に当た り,既存の会計基準を適用することq) 是非が問題 と なる場合があ る。すなわち,会計基準か らの離脱の問題 として論 じられるの が これである。本論文の立場か らこの問題を捉 える と,ある事象 に対 して既 存の会計基準 を適用す ることか ら作成 される情報 が 目的適合的でない場合が あることを意味する。すなわち,会計基準のなかに 目的適合的である として 組み込 まれている側面が現実の事象にそ ぐわず,会計基準で規定 されている 側面を採用す ると結果 として 目的適合的ではない情報 が作成 されて しまう場 合があ るのである。

こうした場合においては,当該個別事象の会計処理 に当た り,会計基準か らの離脱 が認 め られ る ( 求め られ る)。 た とえば,ア メ リカにおいては,

AI CPA の倫理規則 ( Et hi c sRul i n gs ) において会計原則 か らの離脱 が認め られている ( AI CPA,2 0 0 1 ,ETSe c t i o n2 0 3 ) 。また,イギ リスにおいては, 会社法規定 に準拠することによって真実かつ公正な概観 を示す ことがで きな

い場合には,法規定か らの離脱 を要求 している ( 第 2 2 6 条 ( 5 ) ,第 2 2 7 条 ( 6 ) ) 0 こうした会計基準 か らの離脱 が実際 に問題 とな った事例の数 は少 ない もの の,それ らは,財務諸表監査の役割および監査意見 ( 適正表示あ るいは真実 かつ公正な概観)の意味を巡 って,非常 に大 きな理論的,実務的影響 を残 し ている。以下 では,い くつかの事例 を挙げて簡単 に紹介する。

た とえば,アメリカにおいて 1 9 6 0 年代後半 に起 こったコンチネン タル ・ペ ンデ ィング ・マシン社 ( Co n t i n e n t a lVe nd i n gMa c hi n eCo r po r a t i o n) 事件で は,財務諸表 の注記の記載 内容が問題 となった 1 4 。監査人側は,問題 とな っ た注記は当時の一般 に認め られた会計原則に準拠 してお り, したがって, コ

1 4 コンチネンタル ・ペンディング ・マシン社事件の詳細については,鳥羽 ( 1 982) を参

照 されたい。

(23)

ソチネソ タル社の財政状態を適正に表示 している と主張 した。これに対 して, 裁判所は,一般に認め られた会計原則への準拠は財務諸表の適正表示の必要 条件ではあるが必要十分条件ではない との見解を示 した。すなわち,ここで は , 裁判所が監査報告書の利用者の立場か ら一つの新 しい解釈を下 した」

( 鳥羽 ,1 9 8 3 ,p. 1 0 5 ) のである。 ここで示 された見解を本論文の趣 旨に沿 って今 日的に解釈すると,財務諸表の適正表示概念は,会計基準準拠性を含 みなが らもそれよりも広い意味をもつ。すなわち,財務諸表の適正表示にか かる判断には,会計基準準拠性 とは独立に,財務諸表が利用者 に とって 目的 適合的な ものであるかどうかの判断が求め られることを示唆 しているといえ

る。

また,イギ リスにおける 1 9 8 1 年のアーガイル ・フーズ社 ( Ar g y l lFo o d s ) 事件では,財務諸表が真実かつ公正な概観を示 しているかどうかが法的に争 われた 1 5。 アーガイル ・フーズ社は ,1 9 7 9 年 1 2 月期 に,その時点で法的には 子会社ではないある会社の貸借対照表を連結 した。当時,両社は合併を協議 してお り ,1 9 8 0 年 3 月に出資資本に対する提案がアーガイル ・フーズ社によ ってなされ,後に受け入れ られた。両社は同一人物 によって経営されてお り, 合併交渉は広 くみれば,形式的手続 にすぎない とみなされたのである。問題 は, 1 948 年会社 法 の規定 ( 第 1 50 条 お よび第 1 54 粂) と当時 の会計基準

( S S AP 1 4 ) の規定に反 した財務諸表が真実かつ公正な概観を示 しているの

かどうかであった。当該財務諸表 にかかる監査報告書において,監査人は,

その会計処理が 1 9 4 8 年会社法の第 1 5 0 条 と第 1 5 4 条および会計基準 ( S S AP 1 4 )

に反 していることを認める一方で,当該財務諸表が真実かつ公正な概観を示

しているという監査意見を表明した。 これに対 して,裁判所は,当該財務諸

表が真実かつ公正な概観を示 していない という判断を下 した。 しかし,下級

裁判所 においてのみ審問されたため法的に拘束力のある判例 とはなっていな

い。 この事件では,当時の会計基準の もとで連結 してはな らない会社を連結

1 5 アーガイル ・フーズ社事件の詳細については ,As h t o n( 1 9 8 6 ) を参照されたい。

(24)

監査人による財務情報の目的適合性への関与の類型化 3 0 3 の範囲に含めた ことの是非が問われたのであるが,監査人はこの会社の実質 がすでに子会社に該当するとして, これを連結の範囲に含めることによって 真実かつ公正な概観 を示す財務諸表 が もた らされ ると判断 したのである。す なわち,この事件は,監査人が財務諸表の 目的適合性の評価 を行 っていた こ

とを示 している。

さらに,わが国で も,昭和シ ェル石油株式会社 の 1 9 9 2 年度決算 において, 為替先物予約にかかる含み損 を,当時の会計基準の もとでは求め られていな いに もかかわ らず開示 し,監査人はそれに対 して特記事項 を付 して適正意見 を表 明 した とい うケースがある 1 6。 これ もまた,認識 された企業活動の側面 をどの ように表示 ・開示するのか とい う信頼性 に関する判断ではな く,企業 活動の どの側面を会計 プロセスにおいて認識するのか とい う目的適合性 に関 する判断が監査人によって行われたケース といえよう。

③ 小 括

ここでは,既存の会計基準の適用その ものの是非が問題 となる場合におけ る目的適合性への監査人の関与のあ り方を,ゴー イング ・コソサーソ問題 に 直面す る場合 と個別問題 としての会計基準の適用の是非が問題 となる場合 と に類型化 して検討 した。 これ ら両者 の類型 に共通するのは, 目的適合性 に関 する判断が ( それが 目的適合性 に関する判断である と認識 されない として も) 監査人 に明示的に求め られる という点である。また,監査人が実際にそ うし た判断を行 っている という事実 も重要である。 この ことは,財務諸表監査の 役割を財務諸表の信頼性の保証 として捉 え,会計基準準拠性 との関係を強調 する枠組みの もとでは適切に理解 し,位置づけることがで きなかった監査人 の判断を,財務諸表の 目的適合性の保証 とい う考 え方を導入することによっ て適切 に整理することがで きる可能性があることを示 している。

1 6 昭和シェル石油株式会社のケースの詳細については,鳥羽 ( 1 9 9 6 )を参照 されたい。

(25)

5 .む す び

本論文では,財務諸表監査が財務諸表の 目的適合性 と信頼性を保証するこ との意味を特に 目的適合性に関する判断に焦点を当てて検討する とともに, 目的適合性の保証への監査人の関与の類型化を行 った。すなわち, 目的適合 性の保証への監査人の関与のあ り方を,会計基準の枠内での関与 と会計基準 の適用その ものが問題 となる場合における関与 とに大別 し,それぞれを求め

られる判断の性質および局面の点か らさらに細分 した。

目的適合性の保証への監査人の関与のあ り方についての この ような類型化 は,財務諸表監査の役割についての従来の議論のなかではその意義を適切に 説明することのできなかった監査人の判断を適切に理解する上で重要な意味

をもつ。

特に, 目的適合性に関 しての明示的な判断が監査人に求め られる,会計基 準の適用 自体の是非が問題 となる場合 において,監査人が具体的にどのよう な判断を どの ようにして行 うのか,またそ うした判断を行 う際に監査人はど の ような問題に直面するのか といった問題は非常に興味深い問題である。

た とえば,個別問題 としての会計基準の適用 ( あるいは離脱)の是非が問

題 となる場合の検討 において取 り上げたい くつかの事例についての研究は行

われているものの,それ らはもっぱ ら財務諸表の適正表示あるいは真実かつ

公正な概観 と会計基準準拠性の関係の問題 として捉 えられてきた。 こうした

事例を,本論文で示 した 目的適合性の保証 とい う観点から再度分析 し,そこ

で行われた監査人の判断の内容を再検討する必要があろう。 この点について

は稿を改めて論 じることとしたい。

(26)

監査人 による財務情報 の 目的適合性への関与の類型化 3 0 5

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参照

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