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柴田 光史 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 しばた てるふみ

柴田 光史

学 位 の 種 類

博士(医学)

報 告 番 号

甲第

1815

学位授与の日付

令和

2

3

16

学位授与の要件

学位規則第

4

条第

1

項該当(課程博士)

学 位 論 文 題 目

Anatomical Study of the Position and Orientation of the Coracoclavicular Ligaments: Differences in Bone Tunnel Position by Sex

(烏口鎖骨靭帯の付着位置、走行に関する解剖学的研究:男女間 における骨孔位置の違い)

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

岩﨑 昭憲

(副 査) 福岡大学 教授

久保 真一

福岡大学 准教授

髙木 誠司

内 容 の 要 旨

【目的】

肩鎖関節脱臼に対する烏口鎖骨靭帯の解剖学的再建は肩鎖関節機能の良好な回復が期 待できる。しかし、再建靱帯を通す骨孔の位置と方向の誤認により骨折や神経血管損傷の 危険が生じる。正確な骨孔位置と方向を知ることは正確で安全な靭帯再建につながると考 える。鎖骨下面の烏口鎖骨靭帯付着部に着目した解剖研究によれば、肩鎖関節から靭帯付 着部中心までの距離は男性の方が女性よりも長いことが知られている。そこで、我々は靭 帯付着部の中心を通る骨孔作成位置にも男女差があるのではないかと仮説を立てた。本研 究の目的は、1:烏口鎖骨靭帯再建のための鎖骨における至適な骨孔位置の男女差、2:烏口 鎖骨靭帯再建時の潜在的な神経血管損傷の危険性を明らかにすることである。

【対象と方法】

当大学の屍体肩系統解剖用屍体 25 体 25 肩(男性 17 肩、女性 8 肩)を対象とした。はじ

めに、烏口鎖骨靭帯以外の軟部組織の除去後、肩鎖関節の位置関係を保持するためにプレ

ートにて鎖骨近位端と肩甲骨体部を固定し、胸鎖関節で離断後、鎖骨―肩甲骨を一体とし

て摘出した。その後、肩甲骨下角を万力で固定し、三脚に設置した。烏口鎖骨靭帯の走行

に沿って付着部の中心を通るように 2.0mm Kirschner 鋼線(以下、K-wire)を鎖骨上面から

刺入し烏口突起を貫通させた。菱形靭帯の中心を通した K-wire を wire-T、円錐靭帯の中

(2)

心を通した K-wire を wire-C とし、各 K-wire の鎖骨上面における刺入位置の計測を行っ た。つぎに鎖骨上面における各 K-wire の刺入角度を測定するための冠状面、矢状面撮影 用の Reference wire を設置した。鎖骨長軸方向に Reference wire X を設置し、これと直 行するように鎖骨前後方向に Reference wire Y を刺入した。冠状面、矢状面において各々 の Reference wire が点に見える位置においてデジタルカメラで写真を撮影し、Image J を 用いて各々の K-wire の刺入角度の計測を行った。wire-C の示す円錐靭帯の骨孔位置は鎖 骨後壁に近接しており、臨床では鎖骨後壁破綻のリスクがあるため鎖骨前後の中央で wire-C と平行に wire-C2 を刺入し同様の計測を行った。

烏口突起内側における各 K-wire 貫通部位を計測した後、各 K-wire と肩甲横靭帯におけ る肩甲上動脈、肩甲上神経との距離を計測した。最後に鎖骨を摘出し烏口突起側上面にお ける各 K-wire 刺入位置と肩甲上動脈、肩甲上神経間距離の測定を行った。

検討項目は、屍体の身長、鎖骨全長、鎖骨側における各 K-wire 刺入位置、角度、烏口突 起内側および上面における各 K-wire 位置と肩甲上動脈、肩甲上神経間距離の男女差を検 討した。 さらに肩鎖関節から鎖骨上面における各 K-wire 刺入位置までの距離と鎖骨全長、

屍体の身長との相関を調査した。

【結果】

肩鎖関節から鎖骨上面における wire-T 刺入位置までの距離は男性: 21.6±4.4 mm、女 性: 18.2±4.5 mm で男性の方が長い傾向にあり( p =0.08)、wire-C 刺入位置までの距離は 男性: 39.9±3.7 mm、女性: 34.8±5.8 mm であり男性の方が有意に長かった( p =0.044)。

鎖骨全長で除した比率は男女とも一定で、その値は菱形靭帯で 0.13、円錐靭帯で 0.24 で あった。身長と鎖骨全長、鎖骨全長と wire-T 刺入部距離および wire-C 刺入部距離に強い 正の相関を認めた。K-wire 刺入角度、烏口突起側における K-wire 貫通、刺入位置と肩甲 上動脈、肩甲上神経間距離は男女間で有意差はみられなかった。烏口突起上面の wire-C 刺 入位置と肩甲上神経との距離は 13.8±4.0 mm であったが、 肩甲上動脈との距離は 7.1±3.3 mm であった。

【結論】

本研究で明らかとなった鎖骨における至適な骨孔位置、刺入角度は関節鏡補助下靭帯再 建術の一助となりうる。この際、烏口突起側の円錐靭帯刺入位置は肩甲上動脈と近接する ため注意が必要である。

審査の結果の要旨

本論文は、肩鎖関節脱臼に対する関節鏡補助下烏口鎖骨靭帯再建術施行時の鎖骨におけ

(3)

る至適な骨孔位置の男女差と靭帯再建時の潜在的な神経血管損傷の危険性に着目した解 剖研究である。鎖骨における骨孔位置を肩鎖関節から一定の距離で作成している報告が散 見されるが、本研究より至適な骨孔作成位置には男女差があり、男性の方が肩鎖関節から 骨孔位置までの距離が長い傾向にあった。一方、肩鎖関節から骨孔位置までの距離を鎖骨 全長で除した比率は男女とも一定で、菱形靭帯では約 1/8、円錐靭帯では約 1/4 であった。

鎖骨全長は術前、術中に容易に計測できる。本研究で明らかとなった比率を用いることで 鎖骨における至適な骨孔位置を簡便に決定できるため術者にとって有益な情報と思われ る。

これまで烏口突起側における靭帯付着部の中心を通した骨孔入口部と出口部からの肩甲 上動脈、神経との距離を測定した報告はない。烏口突起上面の円錐靭帯付着部の中心を通 る骨孔入口部が肩甲上動脈と最も近接するため、術者は烏口突起上面における円錐靭帯再 建のための骨孔作成時に注意を払う必要があることが本研究より明らかとなった。

本論文の斬新さ、重要性、研究方法の正確性、表現の明確さ、審査委員との質疑応答は 以下の通りである。

1. 斬新さ

関節鏡補助下烏口鎖骨靭帯再建術を行うにあたり、烏口鎖骨靭帯付着部の中心を通るよ うな鎖骨における至適な骨孔位置を調べた研究は過去にない。本研究は肩鎖関節の位置関 係を保持するために鎖骨近位端と肩甲骨体部をプレートで固定し、鎖骨-肩甲骨を一体と して摘出することで深部に存在する烏口鎖骨靭帯の走行を三次元的に観察することを可 能にし、靭帯の中心を通した骨孔位置、刺入角度、神経血管との位置関係を立体的に明ら かにした。また本研究は鎖骨側における骨孔位置には男女差があることに着目し、男性の 方が肩鎖関節から骨孔位置までの距離が長い傾向にあることを初めて報告した。

2. 重要性

本研究で明確となった鎖骨における至適な骨孔位置、刺入角度は実際の関節鏡補助下烏 口鎖骨靭帯再建術を行う際の重要な情報となりうる。特に、烏口突起側の円錐靭帯刺入位 置は肩甲上動脈と近接するため術者は十分な注意が必要である。

3. 研究方法の正確性

本研究における計測は 0.1mm 単位で読み取れるキャリパーを用いている。キャリパーの 先端が計測部位に正確に接触していることを写真で記録しているため、研究方法の正確性 は妥当と考える。

4. 表現の明確さ

明確な英文でかつ略語を適切に用いることで簡潔に表記されている。本論文はフランス

の整形外科学会の専門誌である Orthopaedics & Traumatology: Surgery & Research にす

でに掲載されている。整形外科用語や、解剖学用語も適切に使用されている。

(4)

5. 主な質疑応答

Q1: ホルマリン固定された解剖体の鎖骨と肩甲骨のプレート固定の再現性、安定性はどう であったか。

A1: 再現性に関しては、肩甲骨における骨質の良い肩甲棘と鎖骨近位端の常に決まった 2 カ所をプレートにて固定を行っている。胸鎖関節は非常に強固な関節であり、胸鎖関節を 離断する前に鎖骨と肩甲骨をプレートで固定を行えば肩鎖関節の位置関係は保持できる ため再現性は高いと考える。安定性に関しては、鎖骨に付着する烏口鎖骨靭帯以外の三角 筋や大胸筋、鎖骨下筋といった全ての軟部組織の除去を行っており、鎖骨自体にかかる重 力は軽微であるため、プレート固定にて安定性も十分に確保できていると考える。

Q2: 測定ポイントが複数あるが、先行研究と測定ポイントは同じなのか、あるいは、独自 の測定ポイントがあるか。

A2: 同じ測定ポイントに関しては鎖骨側の Kirschner 鋼線の刺入部位の距離の計測に関 しては先行研究と同様に測定している。本研究の独自の測定ポイントとしては烏口鎖骨靭 帯の中心を通るように刺入した Kirschner 鋼線の刺入角度の計測方法にある。本研究では 鎖骨近位端の中央と鎖骨遠位端の中央を通る鎖骨長軸方向に Reference wire X を設置し、

これと直行するように鎖骨前後方向に Reference wire Y を刺入しており、これらの Reference wire となす角度を計測している。手技は単純で画一化されており他の研究者 も追研究は可能と考える。

Q3: 肩鎖関節脱臼の手術手技は、人工靭帯を用いて靭帯同士を縫合するのか。

A3: 靭帯同士は縫合せずに、人工靭帯に沿って断裂した烏口鎖骨靭帯が修復する様式にな っている。本研究における関節鏡補助下靭帯再建術は肩鎖関節脱臼の新鮮例を対象として いる。受傷して 3 週間までは断裂した烏口鎖骨靭帯の生物学的治癒能力は高いと言われて おり、早期に人工靭帯にて靭帯再建を行うことで断裂した靭帯の修復が可能となる。

Q4: Limitation の部分で Kirschner 鋼線が烏口鎖骨靭帯付着部の完全な中心には入って いないとあるがその理由はなにか。

A4: 鎖骨-肩甲骨を一体として摘出して靭帯付着部の中心を通るように Kirschner 鋼線 の刺入を試みたが、結果的には完全な中心には入っていない症例も存在した。あらかじめ 烏口鎖骨靱帯を切離し付着部の中心を露出した後に、鎖骨下面の靭帯付着部の中心から Kirschner 鋼線を逆行性に刺入し、 烏口突起上面の靭帯付着部の中心に順行性に Kirschner 鋼線を刺入すれば可能であったかもしれない。

Q5: 手術時の体位とホルマリン固定された屍体肩の位置関係は同じか。

A5: 位置関係は若干異なると考える。屍体肩の肩甲骨の長軸方向が地面に対して垂直に設

置しているのに対し、実際の手術ではビーチチェア体位で手術を行うため、肩甲骨は地面

に対して後傾していると考える。Reference wire を設置する等の処置が必要と思われる。

(5)

Q6: Kirschner 鋼線の刺入角度は男女差がないとのだけの論述に留まり、考察がない。実 際の手術に刺入角度は役に立つのか。

A6: 当科では円錐靭帯の再建を行っている。Wire-C の刺入方向は冠状面において鎖骨上 面の Reference wire X の基準線に対してほぼ垂直であり、1 つの指標になると考える。矢 状面においては Reference wire Y に直交する方向から 10°程度刺入方向を後傾させる必 要がある。

Q7: 実際に骨孔作成するときに神経や血管を損傷することはあるのか。

A7: 臨床の現場で実際に神経や血管を損傷して出血や麻痺を起こした報告はないが、烏口 突起近傍に神経や血管が走行するため注意を喚起する報告は存在する。

Q8: 術前の CT や MRI にて骨孔作成の刺入角度を決定するのではないか。

A8: 本研究はあくまで解剖体を用いた骨孔作成の刺入位置と方向を検討したものであり、

事前の CT や MRI で骨孔作成の刺入角度を決定しているわけではない。

Q9: CT や MRI の画像から本研究の刺入位置を予想することはできるか。

A9: 術前の単純 X 線や CT において鎖骨全長を計測することができるため、菱形靭帯の刺 入位置は鎖骨全長の 1/8、円錐靭帯の刺入位置は鎖骨全長の 1/4 の距離で骨孔作成位置を 術前計画することができる。MRI 画像に関しては烏口鎖骨靭帯の断裂の有無は評価できる が、鎖骨下面や烏口突起上面の付着部を評価することは困難である。

Q10: Table3 で男女間に有意差がでている項目の距離の差は数 mm であるが、臨床的な意 義はあるのか。

A10: ご指摘のように非常に小さな差であり、臨床的な意義は少ないかもしれない。本研 究から男性、女性各々の骨孔出口部位置の平均値を知ることができるため、実際の手術で より安全に骨孔を作成できるのではないかと考えている。

Q11: 脱臼した肩鎖関節を整復してから靭帯再建を行うのか。

A11: ご指摘のように手術では脱臼した肩鎖関節を整復して Kirschner 鋼線で肩鎖関節の 一時的な固定を行った後に靭帯再建を行う。

Q12: Target device とは何か。

A12: 鎖骨上面と烏口突起内側に接触させることで骨孔の入口部と出口部の位置を直線的 に決定することができる device である。

本論文は、以上の内容の斬新さ、重要性、研究方法の正確性、表現の明確さ、及び質疑

応答の結果を踏まえ、審査員で審議の結果、学位論文に値すると評価された。

参照

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