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大学の化学視覚教材としての振動化学反応 その1

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Academic year: 2021

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

大学の化学視覚教材としての振動化学反応 その1

著者 松村 竹子

雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告

巻 1

ページ 37‑41

発行年 1978‑03‑25

その他のタイトル An Oscillating Chemical Reaction as A Visual Aid in College Chemistry Course.

URL http://hdl.handle.net/10105/4697

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大学の化学視覚教材としての振動化学反応 その1

松村竹子(化学教室)

An Oscillating Chemical Reaction as A Visual Aid in College Chemistry Course.

Takeko Matsumura‑Inoue (Deapartment of Chemistry)

Abstract

An oscillating chemical reaction in homogeneous phase is used as a visual aid in college chemistry course.

The Belousov reaction, which can be visualized as periodical red‑blue color

change of ferroin indicator corresponding to redox reaction of Ce /Ce 'and redu‑

ction of BrOa‑ to Br‑during slow oxidation of malonic acid, is one of good visual aids in teaching chemical kinetics and redox reactions.

8 mm color film containing some experimental demonstrations of the Belousov reaction is prepared and some lectures are given utillizing the film.

Key words: A visual aid in college chemistry course : An oscillating chemical reaction

〔緒   言〕

視聴覚の利用と授業展開

視聴覚教育機器の発達は授業システムに大きな変化をもたらしてきているが,授業において それらの教材をどのように用いれば最も良いかと云う点では,検討すべき問題が多く存在して いると考えられる。

面密に企画され,製作された視聴覚教材によって,生徒は多くの未知の現象に,教室に居る ままで触れることが出来る。また,テレビやオーバーヘッドプロジェクターに写し出されたモ デル実験を,自分の机でゆっくり細部まで観察できる。一方,教師は限られた時間に盛り沢山 の内容を生徒の前にくりひろげ,退屈しか)授業展開を行うことが出来る。

生徒は未知の世界に驚き,モデル実験のかっこ好さに満足し,何か新しいものに触れたよう に思うかもしれない。しかし,一方では,生徒の理解度と云う点から考えると,過度の教材の 使用は大きな問題を有している。

例えば,物理や化学の原理や装置等が非常に整ったかたちで示された場合,生徒は一見して わかったような気がするが,その装置がどのような部分から成り立ち,それぞれがどん引受割

(3)

松 村 竹 子

を果しているかを理解しないまま次の段階に進むことになる。結果としては何かわかったよう な気がして,実際には何もわかっていか、ことが多い。このような場合には,整った教材より, 黒板にかかれた図にそくしての説明の方が本質の理解をよく深めるのであろう。理解し,吸収 できる速度ということが一つの重要な問題である。

新しい知識の獲得が,ある種の驚きによって導入されることは我々がよく経験することであ るが,視覚,聴覚‑一一といった五感による経験はその驚きをもたらす最も直接的な方法である。

したがって,視聴覚教材によって新しい興味深い現象を示し,その現象と化学の基礎的事項の 学習を結びっけることによって化学に対する好奇心を惹起し,体験と結びっいた知識の把握が 行われると考えられる。

今回,このような目的でBelousov反応をとりあげ,視覚教材を試作し,その授業展開を考 察した。

〔視覚教材試作例〕

1.酸化還元振動反応(Belousov反応)の概要

一般の均一系化学反応においては,化学変化は一方方向に進み系の平衡に致達するが,複雑 な自触反応を含む系では,ある条件のもとで,化学反応が振動することが見出され,そのよう な反応を振動反応と呼んでいる。振動反応は生物の呼吸作用,筋肉の収縮,体内時計などの現 象を考えると実際,自然界に多く生じていることがわかるが,比較的単純な均一化学系におい てこのような振動現象をとらえることはまれである。

1959年,酸性溶液中のマロン酸,臭素イオン,セリウムイオンの混合系においてこのような 振動反応が生じることがBelousovによって報告された(1)。

比較的単純な系で生ずるこの振動反応は,複雑な生物内での現象の解明の糸口ともなるため に多くの研究者によって興味深く追求されてきている12)131(4)。

よく撹きまぜられた1M一硫酸酸性溶液中でセリウムイオンが触媒となって生じたマロン酸 のプロムイオンによる酸化によって Ce(VI)/Ce(in 系の振動が生じる。鉄フェナントロリン Fe(phen)!+ ‑フェロインと呼ぶ‑を指示薬として用いることによって,育‑赤の交互の変 色となって表われ,目で見てよくわかる反応である。

また,この反応を観察するのに,特別複雑な装置が必要ではなく,試薬とマグネチックスタ ーラーと時計とメスシリンダーがあればよい点,視覚教材としては,より身近なものであり, 後に実験によって各自がその能力に応じた深さでたしかめることができる。

化学の基礎的理論との関連を考えると,後述するように,化学反応諭,酸化還元,触媒反応, 電位差測定法など対象とする学生によって種々の授業展開ができる点,その場かぎりでなく教

師と学生によって種々の受けとめ方ができる̲点に特色があると考えられる。

Belousov反応の詳細な機構はかなり複雑であるが,主な反応経路として次の2式を考えると 大筋の説明ができる。

HOOC‑CH2‑COOH+6Ce4++2H20‑2CO2+COOH+6Ce3++6H+      (1) 10Ce3++2BrOi+12H+‑ 10Ce4++Br,+6H20       (2) 全体としてマロン酸がゆっくり酸化される間Ce4+/Ce3 の酸化還元がBrO3‑の存在でくりか えされ,その周期に対応してBr2 が生成するのである。

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大学の化学視聴覚教材としての振動化学反応 その1

振動反応の観察は,系にFe(phen)r,フェロイン指示薬)を添加することによって赤一書

‑赤‑青の変化として視覚的にとられることができる。このような振動反応が生ずる濃度範囲 は次の表にあたえられている。

表1.振動反応の生ずる試薬濃度範囲 試  薬

Ce(NH4), (NO,), CH2 (COOH)2 KBrO3 H2 SO4 Ferroin

2. 8ミリ映画による振動反応のデモンス

濃度範囲    最適濃度 (M)      :m)

0.0001‑0.01      0.002 0.0125‑0.50       0.275 0.03‑ 0.0625       0.0625 0.5‑2.5         1.5 0.0006      0.0006

トレーション

2.1実験項目および方法 2.1.1試薬および器具

a)保存液:振動反応を生じさせるために次のよう射呆存液を用意する。

保存液の組成 A : 0.00045M‑Ce(NH4)4(SO4)4‑2H20 in 3H‑H2SO4 B : 0.090M‑KBrO3 in 3N‑‑H2SO,

C : 0.30M‑CH2(COOHU in 3N‑H2SO, D :指示薬 0.1M‑Fe(phen)r in 3H‑H2SO4

b)実験器具:シリンダー(又はビ‑カー),温度計,マグネチックスターラー C)撮影用器具:8ミリ撮影機, 8ミリ映写機,フイルム,カラー撮影用電球。

d)その他の分析機器:分光光度計,電位差計 2.2 実  験

〔実験日 振動反応の生成

保存液A, B, Cを用いて, A:6.7m^, B:6.7m」, C:7.0m<?, 3N‑H,SO49.6ml?からなる溶液30 meを作り,シリンダーに入れ,スターラ‑でよく撹きまぜながら,フェロイン指示薬4‑6滴

を滴下し,色の変化を観察する。温度計で液の温度をはかり,色が赤一書‑赤‑青と変化をく りかえしはじめたらストップウォッチで変化の間隔を測定する。少なくとも5回の平均をとり 温度と共に記録する。

〔実験2〕 振動,赤一書の変化は何によるか。試薬の酸化還元反応。

赤一書の変化がFe(phen)32+, Fe(phen)33 に対応していることを示すため Fe(phen)32 Fe(phen)33 の溶液を示す。 CeⅣ/Ce相の色の変化を示す。 CeⅣと Fe(phen)32+との反応によっ て溶液の色が赤から青に変ることを示す。対応する化学反応式を示し

Fe(phen)3++Ce:≠Fe(phen)チ+Ce の反応を色の変化としてとらえていることを理解 させる。

BrOJの還元反応,マロン酸の酸化反応式を示し,次の試薬の組合せでフェロインの呈色が あるかどうかを観察する。

a)マロン酸+ BrOJ+ フェロイン

(5)

闇 Eォii 配

b)マロン酸+Cev+ フェロイン

C)マロン酸  Ceff+ BrOJ+ フェロイン

C)の組合わせのみが赤一昔‑赤一書の変化を示すことが一連の実験からわかるであろう。

〔実験3〕 振動反応の速さと温度の関係

化学反応を制御する因子の一つとして温度をとりあげる。実験1に用いた溶液を種々の温度 で反応させ色の変化の間隔を観察する。反応容器を大きなビーカー,あるいはシリンダーに入 れ,外側の容器の水の温度を変化させ,色の変化の間隔を測定する。温度が高くなると色の変 化の間隔は読みとれないほどはやくなるのがわかるであろう。

〔実験4〕 振動反応の速さと試薬濃度の関係

振動反応速度に対する各試薬濃度の影響を見るために,試薬濃度の異なった溶液を調整し, 一定温度で色の変化の間隔を測定する。

〔実験5〕 空間的周期性の提示

今までの実験では,よく挽きまぜた溶液について反応の時間的周期性を見てきたが,今度は 静置した溶液での空間的な周期性を観察する。表1に示された最適濃度で行う。はじめに,セ リウムを除く全試薬とフェロイン指示薬を長いシリンダーに入れて,マグネチックスターラー で充分挽きまぜた後,静置する。溶液中で対流が生じなくなったら,セリウム溶液を静かに加 える。はじめ溶液全体は赤色であるが,上層に青い帯状の部分が生じ,ゆっくり下の方へ進み, 赤一青の帯が生じる.

図1 振動反応の電位的追跡

T y V

L q ]

T   O   O 7 0 0 i n X

 

x 1

 

1

0        2.5        5        7.5 10       12.5

り‑蝣‑‑II⁚∴."+

MINUTES 吉

Potentiometric traces at 25・Cof log [Br‑〕 and log 〔ceⅣ〕/ 〔Ceサ]

versus time during the Belousov reaction. 〔Malonic Acid〕 ‑ 0.032M

〔KBrOs] ‑0.063 M, 〔Ce(NH,),(NO,) 〕 ‑0.001 M, 〔H,SÒ〕 ‑ 0.8M and〔KBr] ‑1.5×10‑s M.

J.Chem. Education, 49, 308 (1972).

大学初級の学生を対象とした場合,実験1‑5までで8ミリ映画による表示を終えて,これ を導入部とした授業展開を行うことが出来る。更に進んだ学年や,化学専攻生を対象とする場 合,補足的な説明や図を組みこむことができる。

基本例として,フェロインによらずに直接試薬の濃度変化を測定した方法を示す。

Noyes らは,タングステン電極を用いる電位差測定によって反応中のCeⅣと Br の濃度 変化を定量的に追跡した(5)。図1から,振動反応がはじまる前の初期時間に各試薬の濃度変化 が生じていることがわかり,反応の本質に更に近づくことができる。

〔教材と授業展開〕

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大学の化学視覚教材としての振動化学反応 その1

Belousov反応の8ミリ視覚教材を用いてどのような授業展開が出来るかを考察する。

1.化学反応速度論への導入

実験1 ‑4をとおして学生は化学反応速度が温度や反応試薬の濃度という環響要素によって どのように変化するかを定性的に視覚でとらえることが出来るが,更に各自に実験課題として,

1‑4の実験を課し,グラフ上の曲線関係から数量的関係を導きださせることができる。この ような実験による体験的把握と数量的考察の段階を経た後,一般の化学反応速度論を授業する ことによって,実例による導入‑実験的観察‑論理的把握というシステムが完成し,学生の理 解をより深くすることが出来るであろう。

2.酸化還元反応

これらの反応は数種の酸化還元の組み合わさった系である。大学初級の学生の場合,反応を 素反応にわけて考えてみることによって酸化剤,還元剤としてのこれらの試薬の性質を,酸化 還元と電子構造の変化,酸化還元電位等の基礎的事項と関係ずけて考察することが出来る。

化学専問の学生や3, 4年生に対しては,電位差測定実験により反応を直接追跡したり,フ ェロイン指示薬の色の変化が反応にどのような影響をおよぼすかという問題を課して指示薬の 一般的性質を問うこともできる。

〔ま と め〕

このように, Belousov反応を用いる視覚教材をもとにして種々の授業展開が考えられるが,こ れらの授業形態は,学生の進度によってさまざまに変化させることができる。教師は物理化学, 分析化学,分光化学等種々な分野での授業展開を行うことが可能であろう。

今回製作中の8mmフイルムでの実験項目は,現象面に重点をおいたため,説明の部分がきわ めて少ないが,視覚のみによってどこまで学生が本質を把超し,疑問を持つことができるかと いうことを見きわめるという一つの目的が含まれているためである。授業において, whyと云 う間とそれに対する答が,どの程度の活ばつさを持って行われるかが一つの目安となって教材 としての有効性が表われてくるであろう Belousov反応は完結した反応ではなく今日でも多

くの研究者が種々の角度から検討している反応系である。筆者自身もより深くこの反応を研究 しつつ,教材としてどう展開するか今後も検討をつづけていきたい。

製作と企画にのぞみ,本学理科教育学料地尾和子助教授の熱心な討論を頂いたことを記し謝 意を表する。尚,実験については,文献i),(7)を参照にして行なった。

ヨ^^^^^^^^^^^^H iiJijK

1. Belousov, B.P., Sb.Ref. Radiats.Med. Za 1958, Medgiz, Moscow.

2. Busse, H.G., J.Phys.Chem., 73, 750 (1969).

3. Zhapotinskii, A.M., Biofizika, 9, 306 (1964).

4. Degn, H., Nature (London), 213, 589 (1967).

5. Field, R.J., Koros, E. and Noyes,R.M. submitted to J.Am.Chem. Soc, 6. R.J.Field. J.Chem. Educ, 49, 309 (1972)

7. J.F.Lefelhocz, J.Chem.Educ, 49, 312 (1972).

参照

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