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―― 東北福祉大学必修外国語教育における現状と課題についての一考察 ――

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聴覚障害学生を対象としたオーラルコミュニケーションを  含む英語授業の現状と課題

―― 東北福祉大学必修外国語教育における現状と課題についての一考察 ――

太  田  聡  一

要旨: 英語によるオーラルコミュニケーション能力を重視する昨今の英語教育の流れに あって,大学を含む教育機関における英語カリキュラムは,従来の訳読中心の授業から英 会話を中心とした,学習者がより多く英語を聴き,発話を行う形式の授業へと変化してい る。一方で,大学等高等教育機関に在籍する障害学生の数は年々増加しており,平成28 年度に施行された「障害者差別解消法」によって,障害を持つ学生の就学に際し,教育機 関は合理的配慮をすることが努力義務とされた。聴覚障害のある学生にとって,オーラル コミュニケーションを中心とした英語の学習は多くの困難を伴うものであり,支援を提供 する教員および各教育機関もまた,適切な支援を模索し試行錯誤を続けている。本論では 聴覚障害学生がオーラルコミュニケーションを含む英語の授業に参加する際の支援につい て,そこに関わる複数の要素(聴覚障害学生,英語教員,音声字幕システム,ノートテー カー)を先行研究,および東北福祉大学での事例をもとに整理・検討し,将来の支援体制 向上に向けた考察を行った。

キーワード: 聴覚障害,障害学生支援,英語教育

1. 背     景 1.1 英語教育の変化

近年,日本の英語教育環境は大きな変革の流れの中にある。2011(平成23)年度には,小学5・6年生の児童を対象とした「外国語活動(実質は英語)」が導入された。さらに2020年度 からの新指導要領導入にあたっては,5・6年生を対象とした科目としての英語の授業が開始され,

それに伴い外国語活動が3・4年生へと対象を移すことになる。これら小学校での英語教育導入 の背景にあるのは,長く続く景気の低迷,少子高齢化に伴う国内市場の縮小,経済活動のグロー バル化に伴う外国企業の市場参入などによって,国際競争力を高める必要に迫られた国内企業群,

財界からの強い働きかけである。そして,その需要が持つ特性から,現在,日本の英語教育の現 場においては,従来の訳読を中心とした読み・書きの英語力を涵養するタイプの教育ではなく,

話す・聞くを中心としたオーラルコミュニケーション中心の英語力を育む英語教育が求められる ようになっている。

オーラルコミュニケーションを中心とした英語教育を重視する方策は,小学校での英語教育導 入にとどまらず,中学・高校,そして大学での英語教育についてもその内容に大きな変化の流れ

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をもたらした。大学入試についても,2024年度以降の大学入試においては,従来の筆記式の入 学試験問題では測ることが困難だった,話す力を含む英語4技能を測るためとして,民間業者が 実施している英語資格試験(英検・GTEC等)の合否判定利用についての議論が続いている(本 来は2020年度より導入予定であったが,2019年11月に導入延期が決定した)。

このような変化の潮流の中,大学で行われている英語の授業についても,オーラルコミュニ ケーションを中心とした授業への対応が求められるようになって久しい。東北福祉大学(以下,

本学)においても,それは例外ではない。本学では基盤教育の一環として,外国語の授業が6 単位分(外国語I/II/III,各2単位)が必修化されており,通常学生は英語・ドイツ語・中国語・

韓国語から1つの外国語を選択(一部学科は英語限定)したうえで,1年生前期にI,後期に II,2年生の前・後期でIIIを受講することとなっている。そして,外国語Iの授業については 授業名称の中に「(コミュニケーションを含む)」と併記されており(例:英語I(コミュニケー ションを含む)),各担当教員は授業内容にコミュニカティブな活動を盛り込むことが求められ ている。

1.2 英語授業における聴覚障害学生の現状

オーラルコミュニケーション中心の英語教育の是非については,本稿の扱うテーマとは別の問 題となるので,本稿で論じることはない。本稿で扱うのは,前述の流れの中,本学英語教育の現 場において散見されるようになった新たな問題についてである。以下にその問題の背景について も述べる。

2016(平成28)年度に施行された「障害者差別解消法」は,大学等教育機関における,障害

学生の修学支援体制の整備を求めている。この法律の施行により,各教育機関は,障害の有無に 関わらず等しく教育を受ける事ができるよう,障害のある学生に対しては合理的配慮を図り,充 実した教育支援を提供することを努力義務とされた。

福祉系総合大学として国内でも草分け的な存在である本学においては,障害を持った学生の受 け入れについて長い歴史がある。しかしながら,前述の英語教育全体の変化の流れの中で,これ まであまり顕在化してこなかった問題が浮揚してきた。聴覚障害を持つ学生に対してのオーラル コミュニケーションを含む英語教育である。

本学の英語教育カリキュラムでは,1,2年生を対象とした基礎教養英語の授業(英語III

III)を各44クラス開講しており,学生は各々の時間割に合わせてどのクラスを履修するのかを

決定する(一部学科の学生は特定の時間に開講されるクラスの履修を指定されている)。これら のクラスには統一シラバスは設定されておらず,個々の教員が,担当する学生の英語力,学習ス タイル,自らの教員としての長所・特徴等を鑑みて最も教育効果が高いと考えられる授業内容を 設定するようになっている。

そのような環境において,かつては訳読を中心とする授業を行う教員が存在しており,聴覚障

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害があり,英会話中心の授業への参加が難しい学生は,これら訳読を主に行う授業を履修するこ とが可能であった。寺田・岩田(2018)でも示唆されている通り,聴覚障害のある学生は,教員 側の配慮が少なくて済む読解中心の授業を選択する傾向が強い。しかしながら,現在,本学の必 修外国語としての英語の授業においては,前述の理由により,全てのクラスがオーラルコミュニ ケーションを取り入れた授業を展開し,訳読など読解を中心とした授業が存在しない。そのため 近年,聴覚障害を持った学生の中には,これらの授業への参加に困難を訴える学生が存在する。

それらの学生には,現在,本学の「障がい学生サポートセンター」および担当英語教員により,

ノートテーカーの配置やタブレットコンピューター上で利用可能な音声認識ソフト(アプリ)を 使用した情報保障を始めとした支援が提供されているものの,個々の学生の聴覚障害の度合い,

本学入学前に身につけてきた英語力,さらには日本語力の差等が要因となり,満足のいく支援が 提供できているとは言い難いのが現状である。

2. 本論の目的

本論の目的は,先に概説された本学における聴覚障害学生への英語教育上の問題と,それに関 わる複数の要素について,それぞれを先行研究・事例と照らし合わせながら整理・検討し,今後 の支援体制の向上に向けたアイディアを求策することである。

3. 本学の支援体制

本学では,聴覚障害を持つ学生の授業支援として,障がい学生サポートセンターより,学生ボ ランティアであるノートテーカーが同行し,教員の口頭による説明や他学生の発話を要約した ノートを作成する。また,音声字幕システム(UDトーク,詳細は後述)を使用することで,教 員の発話をタブレットコンピューターの画面上にテキスト化し,聴覚障害学生が教員の説明を文 字で確認できるようにすることで,可能な限りの情報保障を実施している。英語の授業について もこの支援体制は同様であり,聴覚障害学生からの希望に応じて,ノートテーカーが一緒に授業 に出席する他,音声字幕システムが利用されている。

4. 個々の要素についての検討

聴覚障害学生がオーラルコミュニケーションを含む英語授業を受講する際には,どのような支 援が必要となるのか,また各教育機関の環境に応じてどのような支援が可能なのかを踏まえ,適 切な支援体制を構築する必要があり,その判断にあたっては,障害学生自身を含め,授業に関わ る個々の要素についての子細な検討が必要となる。以下は,本学における聴覚障害学生の英語授

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業履修の現状にまつわる各要素と,それぞれに対する先行事例を踏まえた検討である。

4.1 聴覚障害学生

日本学生支援機構の報告書によると,高等教育機関(大学・短大・高専)に在籍する障害を持っ た学生(発達障害を含む)の数は年々増加の傾向にある。その数は,平成30年度には33,812名 に達し,うち聴覚障害を持つ学生は1,359名,聾学生が542名の計1,901名であり,この数は今 後も増加することが予想されている。本学においては,現在,5名の聴覚障害学生が在籍(1年 生3名,2・3年生各1名)しており,全員が必修外国語として英語の授業を履修している(し ていた)。

寺田・岩田(2018)では,聴覚障害を持った学生について,一般に英語を苦手とする傾向が強 いことを示している。さらにこの研究では,聴覚障害学生の主体性についても調査・分析を実施 しており,その結果として,学生自身,主体的に支援を活用しようとする意識が低い傾向にある ことを示している。積極的に支援を活用しない理由としては,「自分の力でやりたい」という前 向きな理由が見られた一方で,「目立ちたくない」と言った消極的な理由付けも見られた。また,

聴覚障害学生の中には,支援について「頼んでいいのかわからない」,あるいは「頼みたいこと がわからない」とコメントした学生もおり,これらの結果から,同論文では,聴覚障害を持つ学 生に対するエンパワメント指導の重要性を指摘している。ここでいうエンパワメントとは,健聴 学生と同様の社会的権限を得るために,自ら周囲に働きかけ,情報を仕入れるための支援を受け ることなど,聴覚障害学生にとっては,すでに支援体制が用意されている大学生活よりも,むし ろ社会に出てからより必要となるスキルであると定義されている。

また,ろう学校中等部の生徒を対象とした別の先行研究においては,聴覚障害児の聴力と英語 力には有意な相関が認められなかったにも関わらず,彼らの日本語の読解力と英語力の間には強 い相関が認められたという報告がなされている(濱田・他,2008)。外国語学習に限らず,教科 学習全般の基礎となるとなるのは,学習者の日本語力である。聴覚障害を持った学生の場合,個々 の学生の聴覚障害の度合いや,どのような環境で日本語学習を積み重ねてきたかの違いにより,

大学入学時点での日本語力および英語力に大きな差があることが考えられる。

聴覚障害を持つ学生の英語学習については,三簾(2000)が指摘するように,視覚的手段を活 用した学習(訳読・反復練習)が適していると考えられる。聴覚障害を持つ学生は,保有する聴 覚を出来るだけ活用することも必要であり,大事ではあるものの,視覚を積極的・肯定的に活用 することが学習効果をあげるうえで欠かすことができない。また同論文では,聴覚障害学生が英 単語を学習する際に,例え実際の発音とは違うとしても,自分なりの発音をしながら繰り返し単 語を書くことによって,学習対象となっている単語をより効率的に内的言語化できるということ が示されている。これは,聴覚障害者といえども,英語のような音声言語を学習する上では,音 声と視覚情報を完全に切り離してしまうことに議論の余地があることを示している点で,興味深

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い指摘である。

本学に在籍する聴覚障害学生にも,上記で指摘されるような英語力の差を見ることができる。

高校時代国際科に在籍し,本学の平均的な学生より高い英語力を持つ学生もいる一方で,英語力 が決して高いとはいえない学生もいる。また,当然ながら聴力やオーラルコミュニケーションが ある授業への対応力にも差があるため,実際に授業に出席しオーラルコミュニケーションを含む 活動に参加しているのは2名にとどまっており,残りの3名は,担当教員の監督のもと英語多読 課題に取り組み,レポートの提出によって示された学習成果を必修外国語の成績とする,自立型 学習に取り組んでいる(1名は既に単位取得済み)。

4.2 英語教員

聴覚障害学生と健聴学生の両者が通学する大学において,聴覚障害のある学生だけを対象とし た外国語の授業が開講されているケースはごく稀であり,ほとんどの大学では,大多数の健聴学 生の中に少数の聴覚障害学生が混じって授業を受けるインクルージョン(インクルーシブ)教育 が実施されている。

そのようなインクルージョン教育を実際に行っている教員32名を対象とした調査(岩田・他,

2015)では,多くの教員が,自らが持つ聴覚障害学生に対する指導の専門的知識やノウハウの不 十分さを感じていることが明らかになった。また,聴覚障害学生の抱える障害の程度差や,大学 入学前に身につけている英語力の差が与える影響についても,多くの教員が授業運営の困難さの 原因の一つとしてあげていると指摘している。

本学を含む多くの大学では,聴覚障害学生を含め,様々な障害を持ちながら入学してくる学生 を支援するための部署が設置されており,そこには専門の職員が配置され,日々学生の支援業務 にあたっている。しかしながら,前述の調査結果にも示されている通り,実際に授業を行う教員 が,聴覚障害学生指導の専門家であることは稀である。また,少数の聴覚障害学生のために専用 のクラスを開講し,聴覚障害学生への指導に関して専門的知識・技能を備えつつ教科指導が可能 な教員を雇用することは,大学の経営的に非現実的なことであると推察される。その為,本学を 含むほとんどの大学では,聴覚障害学生に対する教育について専門的知識を持たない教員が,支 援部署からの補助を受けつつインクルージョン授業を担当しているというのが実情となってい る。

先に述べた調査(岩田・他,2015)では,聴覚障害学生への情報保障を担保するために授業に て実施した多くの工夫(視覚教材・配布資料の活用等)は,健聴学生の学習効果を高める上でも 効果があったと感じている教員が多くいるという結果が示されているが,同時に,そのような教 材を授業毎に準備しなくてはならない教員の負担の大きさについても,多くの教員から難しさを 訴える声が上がっている。寺田・岩田(2018)が提案するように,授業のユニバーサルデザイン 化は,これからの時代,大学等高等教育機関で教鞭をとる教員全てが意識すべき課題であろう。

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しかしながら,これを実現する上では,個々の教員の努力だけでは難しい面も多く,各教育機関 が,組織として教員の授業デザインを支援する仕組みを構築することが求められる。

4.3 音声字幕システム(UDトーク)

ICT機器の進歩を背景に,聴覚障害学生の情報保障を担保する手段として,教員やクラスメー トの発話を認識し,それをテキスト化してパソコンやタブレットコンピューターに表示するシス テムが,授業支援に取り入れられるようになった。上原・他(2013)では,その効果について,

聴覚障害学生の学習意欲の向上につながったと評価をする反面,それまでノートテーカーによる 情報支援のみを受けてきた学生が,音声字幕システムがもたらす情報量の多さに驚く場面が見ら れたと報告している。一般に,ノートテーカーによる情報支援で保障できる情報量が,実際の情 報量の23割とされていることを考慮すると,音声字幕システムが聴覚障害学生の情報保障に もたらす恩恵は非常に大きいと言える。

本学においては,Shamrock Records Incが制作・配布を行っているスマートフォン・タブレッ ト用アプリ,「UDトーク」を,聴覚障害学生を支援する際の音声字幕システムとして利用して いる。実際の利用に際しては,教員がマイクを装着した状態で発話をし,利用者である聴覚障害 学生は,マイクを通じて認識され,テキスト化された教員の発話をiPadの画面上で読むことが できるようになる。

UDトークは手軽に利用でき,かつ機能的にも優れたアプリである。公式ホームページにはす でに多くの企業や団体,教育機関での利用実績が掲載されており,その人気ぶりが伺える。反面,

英語の授業における情報支援での使用に際しては,いくつかの課題が残されている。以下は,実 際に本学の授業で使用した際に,利用学生・教員が体験した問題である。

i.  複数言語に対応できるアプリではあるものの,バイリンガル環境に対応しておらず,日本

語,英語を併用する場合にどちらか一方の言語しか正確にテキスト化できない。

ii.  英会話練習など,周囲の学生も発話をしている場合,その音声もマイクが拾ってしまい,

教員の発話が正確に認識,テキスト化されない。

iii.  日本語,英語共に音声認識が正確でない場合がある。

これらは,UDトークに限られた話ではなく,他の音声字幕システムにも共通する問題点であ ることは,ここで指摘する必要がある。日進月歩の進化を続けているとはいえ,現在の音声認識 技術では,2言語を同時に認識することや,多くの人間が同時に発話をしている中で,特定の人 間の発話だけを認識することは困難なのである。また,iiiの音声認識が正確でなかった場合につ いては,UDトークを含む音声字幕システムのほとんどで,リアルタイムでの手動修正が可能と なっている。手動修正とは,システムを利用する聴覚障害学生に付き添う支援者が,キーボード

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(画面上の仮想キーボードを含む)により,誤りのあるテキストを修正することができる機能の ことである。しかしながら,テキスト化された英語の発話にある誤りに気付き,修正を加えるに は,相応の英語力が求められるため,後述するノートテーカーの問題と同様に,支援者自身があ る程度の英語力を備えている必要がある。

4.4 ノートテーカー

前述のUDトークを始めとした音声字幕システムは,聴覚障害学生にとって有効な支援である と考えられる一方で,バイリンガル環境への対応の難しさなど,英語の授業での活用にはまだ課 題が残る。上原・他(2013)では,その点について,はっきりと音声字幕システムだけの支援に は限界があると指摘しており,ノートテーカーとの併用が必要との見解を示している。

しかしながら,日本語のみで行われる授業の場合と違い,英語のみ,あるいは英語と日本語を 併用するバイリンガル授業では,ノートテーカーにも一定以上の英語力が求められる。上原・他

(2018)は,英語の講義の情報保障でノートテーカーに求められるスキルとは,「a. 英語の発話 を聞き取ること b. 聞き取った英語の発話の内容を理解すること c. 要約した内容を英語で書 き出すこと」が連続して行えることであるとしている。これは,非常に高度な英語力を要する作 業であり,多くの大学で支援にあたっているノートテーカーの多くが学生ボランティア・アルバ イトであることを考えると,かなり難しい条件と言わざるを得ない。

英語系の学科を持たない本学においても,上記のような高度な英語力をすでに有している学生 ボランティアを見つけることは困難であり,また,専門のノートテーカーを雇用することも現実 的とは言い難い。現状においては,UDトーク等の音声字幕システムを活用しつつ,ノートテー カーが可能な限りの支援を提供する形式にならざるを得ない。しかしながら,将来,ネイティブ スピーカー教員による英語のみの授業の受講を希望する聴覚障害学生が出てきた場合等,今後起 き得る状況に対応するべく,適切な英語力を備えたノートテーカーを養成する仕組み作りなど,

さらなる支援拡充を検討することは必要であろう。

5. 課題と今後の支援についての考察

最後に,ここまで述べてきた,本学における聴覚障害学生への英語教育上の問題と,それに関 わる複数の要素踏まえ,本学の聴覚障害学生に対する英語教育が抱える課題と,今後,考えられ る支援および,今後の研究課題についての考察を示す。

本学の聴覚障害学生に対する英語授業では,概ね以下の点が課題としてあげられる。

i.  聴覚障害学生毎に異なる,日本語力,英語力,英語学習に対するモチベーションへの対応

ii.  担当する英語教員の聴覚障害学生教育に関する専門的知識・スキルの不足

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iii.  ノートテーカーの英語力

iv.  音声字幕システム(UDトーク)の精度,機能不足

前述のように,聴覚障害を持つ学生の英語力,英語学習に対するモチベーションは様々である。

これらは健聴学生にも共通する課題であり,レベル別クラスの導入など,今後検討すべき事柄は 多い。ただし,聴覚障害学生特有のオーラルコミュニケーション学習に関する課題については,

個々の学生の障害の程度や,英語によるオーラルコミュニケーションの必要性を学生自身がどれ ほど感じているのか,そして実際にその必要性があるのかを慎重に見極めながら,最善の支援法 を求める必要がある。

実際にオーラルコミュニケーションを含む英語授業を履修する聴覚障害学生がいる場合には,

iiivの課題についてより仔細な検討が必要となる。田口・他(2017)が指摘している,反転 学習・PBLの活用などは,聴覚障害のある学生が,事前に十分な準備をしたうえで,授業に参 加し発話することを可能にするという点で有効であろう。授業を担当する英語教員は,可能な限 り視覚的な情報をもたらす教材を準備して授業に臨むことで,聴覚障害学生の情報保障をある程 度担保することが可能であり,その努力が推奨される。しかしながら教員個人の限られた時間の 中で,毎回の授業毎にそれらの視覚的資料を準備することには限界がある。細野・他(2012)が 提案するように,大学組織としての支援体制の構築(授業中の音声のテキスト化支援・聴覚障害 専門家との連携)は教員の負担減につながるのである。大学は,聴覚障害学生に対する情報保障 を充実させるべく,教員間,聴覚障害学生・教員・支援者間の連携を図り,ノートテーカーのス キルアップ支援を実施し,かつノートテーカーや機器が容易かつ柔軟に運用できる支援体制を充 実させることが求められる。

参 考 文 献

1)  Shamrock Records, Inc 「UDトーク ウェブサイト」https://udtalk.jp/

2)  岩田吉生,田口達也,小塚良孝,浜崎通世(2015) 「聴覚障害学生の英語学習の教育支援に関

する実態調査」『愛知教育大学共通科目研究交流誌 教養と教育15』26-36

3)  細野昌子,須藤正彦,大杉豊,松藤みどり(2012) 「一般大学に学ぶ聴覚障害者の英語受講時

の情報 保障に関するアンケート調査―英語科目の受講状況と読解(Reading)における情報保 障の実態―」『筑波技術大学テクノレポート Vol. 20(1)』1-6

4)  三簾和宏(2000) 「聴覚障害者の英語学習について―調査をとおして学習の特徴と指導を考え

る―」『ろう教育科学』ろう教育科学会42(3), 51-57

5)  寺田理紗,岩田吉生(2017) 「聴覚障害学生の英語教育の課題に関する文献的検討」『障害者

教育・福祉学研究』13, 147-151

6)  寺田理紗,岩田吉生(2018) 「聴覚障害学生の英語学習に対する意識と大学の英語講義への教

育的ニーズに関する研究 ―愛知教育大学の聴覚障害学生を対象として―」『障害者教育・福祉 学研究』14, 49-57

(9)

7)  上原景子,浦田留衣,大杉豊,金澤貴之(2018) 「聴覚障害学生の英語学習支援とアメリカ手 話に関する一考察」『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』67, 95-105

8)  上原景子,秋山奈巳,金澤貴之,中野聡子,ラドキーローリー,大島康平,小林量,萩原翔平,

奥泉志帆(2013) 「聴覚障害学生のための英語学習促進の支援: 音声認識字幕を用いた教養英 語における実践例を通して」『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』62, 53-67

9)  田口達也,岩田吉生,小塚良孝,浜崎通世(2017) 「聴覚障害学生に対する外国語指導方法―

海外からの実践的示唆―」『愛知教育大学紀要 教養と教育』17, 16-23

10)  独立行政法人日本学生支援機構(2019) 「大学等における障害学生の修学支援に関する実態調

査(平成30年度)」

11)  濱田豊彦,髙木恵,大鹿綾(2008) 「聴覚障害児の読書力と英語力の学習効果に関する一研究」

『東京学芸大学紀要 総合教育科学系』59, 379-385

参照

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