地域社会の組織力をどう見つけるか ―参加型農村 開発の手法開発に向けて―
著者 重冨 真一
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
巻 19
ページ 85‑89
発行年 2016‑10‑01
その他のタイトル How to Find Organizational Capabilities of
Local Societies: A Proposal of Appraisal
Method for Participatory Rural Development
URL http://hdl.handle.net/10723/2897
地域社会の組織力をどう見つけるか
―参加型農村開発の手法開発に向けて―
重 冨 真 一
参加とは何か
経済開発、社会開発において、「参加」の重要性が繰り返し主張されてきた。住民など開発の 影響を直接被る人々が、開発の企画や実施の過程に参加することで、開発が住民の必要にそった ものとなる。そうすれば開発事業は効率的、効果的になるだろうし、住民の意欲も引き出せるか ら持続的にもなる。そして何よりも、住民は自ら開発のあり方に影響を与えることができるわけ で、自身の「エンパワーメント」にもつながるというわけである。
ところでここでいう「参加」とは、どういうことを指すのだろうか。あるセミナーで、街作り のプランニングに住民が参加した事例についての報告を聞いたことがある。駅前を中心とした再 開発の話が出たとき、都市計画プランナーの A 氏を中心に、住民が会合を開き、どのような町 にしたいかというイメージ作りから、実際の図面作りまで、意見を述べ合ったそうだ。「参加」
と言うとき、こうした住民参加をイメージすることが多いのではないだろうか。
この「参加」は、A氏の存在があって初めて可能となったものである。そもそも都市計画とい うのは図面ひとつ引くにしてもかなり高度の専門性を要する。守らねばならない法規もいろいろ あるだろう。住民は自分たちの要望やあるべき町の姿について語りあい、最終的な計画にその意 見はずいぶんと取り入れられたと思うのだが、この参加は A 氏なくては成り立たなかったろう。
この手の参加は、途上国の農村開発で一時流行ったPRA(Participatory Rural Appraisals)と共通 するものがある。PRA では、住民がコミュニティの問題を話し合い、地図を描いたりして共 有・確認し、問題解決の方策を考える。そうした住民の参加を引き出すのはやはり外部から来た 専門家の開発ワーカーである。
しかしこうした参加は続くだろうか。専門家が去った後も、地域社会では解決しなければなら ない問題が次々に出てくる。そのとき「参加」がどうやっておきるのだろうか。また専門家を呼 ぶのか?
参加とは自己組織活動である
そもそも住民が地域社会の問題を解決しようとするとき、どういうことが必要か考えてみよう。
公共の問題であるから、住民はお互いに話し合って物事を決めねばならない。そのためには、誰 かが話し合いを発議して、人々を集めねばならない。合意ができたらその実現のために役割の分 担をしなければならない。合意が守られるように、自他の行動を律さねばならない。こういうこ とが住民によっておこなわれて初めて、住民の参加は自発的なものといえる。
「こういうこと」を言い換えれば、組織活動(organizational activities)ということである。こ
うした活動が持続的に(つまり一回で終わりではなく、必要が生じるたびに)起こりうるという ことが、持続的な参加のために必要なのである。つまり、参加型開発を自発的・持続的なものに するためには、住民が自ら組織活動をおこなう必要がある。
組織を作る組織が大切
参加型開発のために住民組織が重要であるということは、特段目新しい主張ではない。しかし これまでの研究や実践は、プロジェクトを実行する組織に目を奪われて、その背後にある組織
(組織的活動)を見ていない。住民は問題を解決するための組織を作り出すのだが、参加が自発 的・持続的になるために大切なのは住民が組織を作り出す仕組みを自分たちの中にもっているこ とである。だから我々は、開発のための組織よりも、組織を生み出す組織をどうやって社会の中 にインストールするかを考えねばならない。
ここで「組織を作る組織」という場合、前者の組織と後者の組織では、組織の種類が異なる。
最初の組織は、具体的な開発課題を解決するための組織であり、いわば機能組織である。後者の 組織はそうした特定の課題解決の組織ではなく、むしろ人々の関係を調整したり秩序づけたりす るための組織である。こうした人々の集まりは、「組織」と呼ぶほど組織だっていないことがし ばしばあるので、むしろ集団と呼んだ方がよいだろう。ここではこれらを社会集団と呼んでおく。
社会集団の典型は、家族や親族集団、あるいは近隣組織である。若者組、子供会、婦人会のよう なものも社会集団に近いと言えよう。
ひとつの地域社会をとったとしても、社会集団にはいろいろあって、そこに参加する人々には 重複もある。そして住民参加が求められる実際の開発プロジェクトは、おおむね地域社会を実施 対象として企画されることが多い。もちろん貧困者、女性などとターゲットを絞ることはあるが、
それでも一定地域の貧困者、女性という形をとる。そうした地域社会を対象とする事業において、
参加の基盤、つまり組織活動の母体となるものを考えるとき、とりあえずは特定の社会集団では なく、当該地域社会のなかにある社会集団をすべて考慮に入れるべきである。そうした社会集団 の総合として地域社会がもつ機能こそ、住民が組織を作る仕組みである。
そうした機能、仕組みを「地域社会の組織力」と名付けよう。参加型開発を自発的・持続的に するためには、地域社会の組織力を作ること、言い換えれば人々の自己組織活動を生み出す力の ある地域社会システムを作ることが必要である。そのために我々はまず、地域社会の組織力を把 握する方法を持たねばならない。
Organizational Process Approach(OPA)という提案
そこで筆者が提案するのが、Organizational Process Approach(OPA)という方法である。ある 地域社会に開発プロジェクトが下ろされたとする。それに対して地域社会で(住民の間で)何ら かの反応が起きて、開発組織が作られた。いわばプロジェクトがインプットで開発組織がアウト プットである。我々はインプットに対してどのようなアウトプットが出てきたのかを観察し、次 にアウトプットがもたらされたプロセスを理解する。このような観察と考察を通して地域社会の 組織形成システムの特色を明らかにする。これがOPAの大略である。
OPAによる調査・分析は4 つのステップをとっておこなわれる。第 1ステップはアウトプッ トとして現れた組織や組織行動の特色を把握することである。たとえばタイでは 1980 年代から、
貯金組合(小規模金融組織のひとつ)の設立を住民に呼びかけるプロジェクトが実施された。と ころが東北地方と中部地方とでは、実際に作られた貯金組合にはかなりの違いがあった。東北の ある村では貯金組合は村長が村民に参加を呼びかけ、問題が出ると村の寄り合いで協議がなされ た。貯金組合は村の事業として作られ運営されたのだった。ところが中部のある村では、村長は 貯金組合の設立を地域内の有力親族集団に丸投げした。運営が成功して加入者が増えてくると、
村を越えた寺の布施者の居住範囲にメンバーが広がった。
第2ステップでは、地域の社会集団を調査する。プロジェクトが下ろされた地域には、どのよ うな社会集団があるのかを、このステップで理解する。タイ農村の例で言えば、行政村、寺の布 施者集団(同じ寺に通い、その寺を支援する住民の集団)、親族組織、自生村(自然集落を基盤 にできた社会集団)があることがわかった。
そして第3ステップでは、それぞれの社会集団がどのような機能を持っているのかを調べる。
たとえばタイの行政村には住民の合意形成をはかる制度がある。自生村には人々のまとまり意識 を動員する仕組み(シンボルや儀式)がある。そして寺の布施者集団は、人々が集合行為(寺の 行事や施設の建設)の経験を蓄積する。
地域社会を単位としてみると、こうした社会集団の地縁的な範囲というのはすべて重なってい るわけではない。東北地方の場合は、これらが重なるケースが多いが、中部地方でずれているケ ースが多い。東北地方は行政村が人々のまとまり意識と組織経験をそのまま動員して意思決定で きるため、そこでの貯金組合などの開発組織は、行政村単位で作られることが多い。ところが中 部地方では行政村にそういった機能が備わらないため、組織母体となりにくい。代わりに親族集 団、寺の布施者集団が組織母体になるケースも見られる。
このようにプロジェクトを下ろす地域社会の範囲でどのような機能を持つ地域集団がどのよう に重なっているのかを把握することで地域社会の組織力を見るのが最後の第4ステップである。
OPAのメリット
地域社会でどのような住民組織化のメカニズムがあるのかがわかれば、今度はその地域社会で どういうプロジェクトが適切かの予想がつく。まず、住民のどの範囲を対象にするのがよいのか の見当がつく。地域社会の自治や行政単位は通常複数あるので、そのうちのどれをプロジェクト エリアにすれば、住民の組織活動を引き出せるのかの予想ができる。
次にどのような組織形態が適切なのかを想像することができる。ネットワーク型社会で人々が 信頼関係を作れる範囲が小集団に限られるような地域社会と、そうした2者関係をこえた集団が あり、しかもそのメンバーに一定のまとまり意識があるような地域社会とでは、住民に提案すべ き組織形態が違う。小規模金融組織で言えば、前者はグラミン銀行タイプの組織で、後者は貯金 組合である。
第3に、外部機関がどのように関与すべきか考えることができる。タイの例で言えば、東北の 村では村長に丸投げしてもよいだろうが、中部農村の場合、地域社会ごとにどういう受け皿があ
るのかをよく確認しないと、プロジェクトの歩留まりはかなり下がるであろう。
そして最後に、OPA によってプロジェクトの受益者を想定できる。あるタイプの組織を持ち 込んだときに、それを受け止める人々がどういう社会集団を基盤とした人々かがわかれば、その プロジェクトの影響も予測できる。村の有力集団だけが受益するのであれば、そのプロジェクト の実施自体を再考すべきということなる。
簡便に地域社会を把握する
OPA は開発実践者がプロジェクト実施地域の組織力を把握するための手法である。これまで の参加型開発は、開発ワーカーがその地域社会を熟知していることを前提として企画される傾向 があった。よき開発ワーカーは地域社会に住み込んだり足繁く通って、住民とその社会を理解し なければならない、というのはコミュニティ開発に関わる人たちなら誰でも言うことである。し かしあるコミュニティに深く関わるということは、関われるコミュニティの数が少なくなるとい うことを意味する。そのため開発ワーカーがひとつのコミュニティの「参加型開発」に成功した としても、それはいつまでも点に留まる。
我々は逆に、開発実践者がひとつのプロジェクトサイトにそれほど時間をかけられないことを 前提に、OPAを考案する。そのためには、4つのステップによる地域社会把握が、簡便にできな ければならない。その手法開発はこれからの課題であるが、筆者のこれまでの調査経験から、各 ステップごとにおおむね以下のような調査、確認項目が考えられる。
Step 1: 組織行動の特色を把握
まずインプットである開発プロジェクトを選択する。その際には、参加者にとって組織化の経 済的メリットがあるもので、複数の地域で実施されたもの、そして成功した事例があるものを選 ぶ。次にプロジェクトの実施された地域社会を選択する。できれば異なる組織反応が見られる地 域がよい。そして組織行動の特色を把握する。組織参加者はどのような人々か、組織の形態はど のようなものか、組織作りの仕方、組織運営の仕方について調査する。その上で、異なった地域 社会の比較をする。
Step 2: 社会集団の特定
対象地域の中の社会集団を把握する。誰が組織化の発議をしたか、メンバーのリクルート範囲 はどこか、などから組織母体となった社会集団を特定できることが多い。それ以外の社会集団に ついても、どのようなものがあるか、把握する。
Step 3: 社会集団の制度、資源、組織経験の把握
社会集団の持つ社会的機能を把握する。住民の集団的アイデンティティを確認する制度として どのようなものがあるか(祭り、儀式、シンボルなど)、住民の協議と合意形成の制度としてど のようなものがあるか(集団の長の存在、役員会、寄り合いなど)、社会構成員の行為を規制す る、あるいは導く制度としてどのようなものがあるか(社会のルール、制裁、社会的圧力など)
を聞き取る。また地域社会にある物的資源の賦存状況を調べる(共有の土地、施設、資金として どのようなものがあるか)。住民の組織経験を聞く(これまで、どのような人々の範囲で、どの ような集合行為、組織活動があったか)。
Step 4: 社会集団の機能を地域社会として総合
Step2 で捉えた社会集団が地域的にどのように重なっているのかを把握し、Step3 で理解した
各集団の機能を総合すると、地域社会としてどのような組織能力があるのかを考察する。
OPAの事例研究
OPA は実践者達によって作られていくべき手法である。開発ワーカーや参加型開発に関心を 持つ調査者等が、自分たちの観察を持ち寄り共有することで、OPA は使えるもの、使い勝手の よいものになっていくであろう。試みに、筆者らはアジア 7カ国についてOPAの手法を用いた 調 査 を お こ な っ た 。 そ の 結 果 は 、Shigetomi and Okamoto (eds.), Local Societies and Rural Development: Self-organization and Participatory Development in Asia. Cheltenham: Edward Elgar, 2014 にまとめられている。