• 検索結果がありません。

敗血症をめぐる

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "敗血症をめぐる"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東医大誌 74 (4)

: 409-415, 2016

総   説

敗血症をめぐる 2 つの仮説

Bone Shoemaker 、二人の医師と敗血症の闘い─

Two hypotheses about sepsis

三 島 史 朗 Shiro MISHIMA

東京医科大学病院救急・災害医学

Department of Emergency & Critical Care Medicine, Tokyo Medical University

平成

28

8

10

日受付、平成

28

9

8

日受理 キーワード

:

敗血症、ショック、全身性炎症反応症候群

(別冊請求先

:

160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学病院 救急災害医学 三島史朗)

は じ め に

敗血症は救急医学の最重要課題であり、一般診療 科にもまた遭遇機会のまれでない厄介な病態であ る。先の米国クリティカルケア学会(Critical Care

Congress, Florida 2016

2

月)で、新しい敗血症の 診断基準が発表された(表

1)1)

。そのため敗血症は、

疾患概念から推奨診療に至る全体像に、大きな変革 の時を迎えている。これは例えば、胃癌とか心筋梗 塞といった、疾病全体の枠組みを根こそぎ変えてし まう作業に匹敵する。この現状に鑑みて、本稿は敗 血症診療の歴史で、大きな影響力を発揮した二つの 仮説を紹介したい。ひとつは Roger C. Bone が提唱 し た systemic inflammatory response syndrome ; SIRS とそれによる敗血症診断の統一化であり、いまひと つは、

Shoemaker

supranormal

法を用いた敗血症 性ショックの治療戦略である。両者はともに敗血症 を正しくとらえ、これを打倒せんと立ち向かい、そ して敗れた。敗血症診断が新しい局面を迎える今日、

この闘いの軌跡を振り返ることは、今後の診療に意 義あることと考える。本稿は敗血症の診断・治療の 歴史的推移を、Bone と Shoemaker の仮説を考察す ることで紹介したい。

Bone

SIRS

SIRS

は患者の体温、呼吸数、心拍数、末梢血白

血球数と、簡単な

4

つの検査項目のうち、2 つ以上 が異常値である状態をいう(表

2)。SIRS

は、これ 自体が治療対象となる疾病ではなく、敗血症の診断 目的に Bone らによってつくられた基準であり、そ

1 

新しい敗血症の定義と診断基準。SOFA : sequen-

tial organ failure assessment、多臓器不全の簡易的

なスコアリングシステム(文献

2

を参照)

定 義 感染に対する制御不能な生体反応で、

生命を脅かす臓器障害 診断基準 感染症を疑い、

SOFA スコアが2

点以上増加

2  systemic inflammatory response syndrome 診断基準。

4

項目のうち

2

項目以上が該当する場合に陽性と する。文献

8

より。

体温

<36°C, >38°C

脈拍

>90/分

呼吸

>20/分またはPaCO2<32 Torr

WBC >12,000、<4,000

または幼若球>10%

(2)

の意味でユニークである

3)

。今日 SIRS は当初の目 的にとどまらず、例えば本邦では急性期 dissemi-

nated intravascular coagulation ; DIC

の診断基準に組 み込まれ

4)

、また急性侵襲を対象とする多くの臨床 研究が『SIRS ◯項目以上陽性』をエントリクライ テリアに採用するなど、敗血症診療を超えて幅広い 領域で利用されてきた。この

SIRS

が、新たな敗血 症の診断基準から消えてしまったのである

5)

。その ため、現在この分野で用いられるバイオマーカの診 断精度や、治療効果判定の妥当性は、すべて見直し の必要を迫られている。救急領域の研究者は、膨大 な量の課題を抱えることになった。

新たな課題の探求はそれ自体喜ばしいことである が、現場は戸惑うばかりである。そもそも SIRS は どこから来て、そしてなぜ捨てられたのか。振り返っ て考察してみたい。SIRS 以前の敗血症は曖昧模糊 としていた。敗血症は菌血症と同義で、血液培養で これを診断していた。血液培養は感度が低く、診断 の遅れるきらいがある。敗血症の診断は、しばしば 手遅れの感を伴った。その後に血中エンドトキシン が検査可能となり、エンドトキシン血症が仲間に加 わる。その一方では、重症感染症を敗血症とみなす 向きもあり、敗血症の診断基準やその診断意義には 諸説あった。誰かが敗血症だと言えば、それですべ ての問題が解決したかのような雰囲気を生み出せた が、しかし何も解決していなかった。シカゴは

Rush

医科大学の Bone がその総説で

6)

、敗血症とそ

れに関連する用語や、概念の交通整理を試みたのは、

そのような時代である。

Bone

はこの論文で、菌血症、敗血症、敗血症性

症候群、敗血症性ショックなどの用語を定義し、一 連の病態として整理した。ここで敗血症は、感染に 対して感染源の局所に留まらない、全身の反応であ ると説明される。全身の反応は頻呼吸や頻脈、体温 異常に示され、SIRS 診断基準の一部がすでに述べ られている。また

Bone

はこの論文で、mediator dis-

ease としての敗血症を解説した。病原微生物─免疫

反応担当細胞─血管内皮の間を、サイトカインなど の化学伝達物質が橋渡しする、その全体像を示した のである。この論文に示された Figure 1 は、media-

tor disease の概念を説明する敗血症のシェーマであ

る。今日の標準に照らせば、素朴ともいえる作図で あるが、ここに Bone の真の狙いが込められている。

そもそも敗血症の診断意義は何か。それは治療戦

略の立案にある。感染が局所に留まっている時点で は、戦略は感染源の治療と標的内臓の機能保護で良 い。例えば肺炎なら、適切な抗菌薬を投与して、呼 吸機能を必要に応じてサポートする。しかし敗血症 は、遠隔臓器に機能障害を引き起こす。従って、敗 血症の診断意義は、全身管理の必要性を理解すると ころにある。局所の治療と全身管理。これが最も基 本的な敗血症の治療戦略であった。Bone はこれに、

メディータ制御を組み込もうとした。敗血症が

mediator disease であるならば、そこに中心的役割を

担う物質があると仮説したのである。一連の病態の トリガーとなり、カスケードを推進する central

mediator である。敗血症が液性あるいは細胞由来の

化学伝達物質によって、局所から全身へ病態を広げ てゆくのであれば、それを制御することで敗血症を 治療できる。それが Bone の新しい治療戦略であっ た。

同時期に発表した論文で、Bone はメディエータ 制御の候補となる薬剤を解説し

7)

、また一方で診断 基準の統一を呼びかけた

8)

Central mediator

を探索 し、それを制御するメディエータ治療を行うのなら ば、まず対象となる敗血症の確固たる定義が必要で ある。そしてその診断基準は、広く同意が得られて、

誰もが利用可能である方が有利といえよう。ここに、

Bone

の優れた臨床的直観を見て取ることができる。

Central mediator を重視するならば、それ自体を診断

基準に組み込むこともできた。しかし Bone はそう せずに、特別な検査機器を用いずともチェックでき る 簡 便 な 項 目 に 絞 っ た。 そ れ が SIRS で あ り、

American college of chest physician と Society of criti- cal care medicine の合同カンファランスは、SIRS

を 用いた敗血症の定義と診断基準を発表した

9)

。1992 年の記念碑的な業績である。

SIRS

は感染だけでなく、非感染性の侵襲によっ

ても起きる。このことは、敗血症のみならず、外傷 や熱傷による高度な侵襲が、同じ mediator disease としての病態を共有する可能性を示唆している。こ れは画期的なアイデアだが一方で欠点もある。

SIRS

は図らずも、感染症診断の難しさを浮き彫りにした のである。想像してほしい。救急や集中治療では、

医療面接から得られる情報の乏しさや、病院前経過 の不詳から『よくわからない』患者が少なくない。

よく判らないけれど、意識障害や循環不安定で重症

な患者が SIRS を示していれば敗血症と診断してし

(3)

まう。これを『ゴミ箱診断』と称する。誰にでも手 が出せる診断基準は裏腹に、安易な利用へと敗血症 診断を流してしまう負の側面を生んだ。Bone の狙 いが裏目に出たともいえよう。救命センタや ICU ならほとんどの患者が SIRS になる。であればすべ て敗血症なのか? そんな議論が、SIRS の提唱さ れた当初からあった。小川はその卓越した比喩で『ポ チが恋をすると私が SIRS になる』と、メス犬に気 を取られて走る愛犬に同氏が引っ張られて、動悸・

発汗・息切れしている漫画を教科書に載せた

10)

。 つまり、SIRS の解釈には、その原因の検討が欠 かせない。それ抜きには、犬に引っ張られて汗をか いたら敗血症か?という疑問に答えられない。そし て、原因である局所感染の診断に必要なのは、ある 種の飛躍・臨床的直観である。飛躍とは何か。初学 者に感染の診断法を問えば『培養』と答えるが、も ちろん間違いである。培養で感染が診断できるのは 無菌組織だけであり、それ以外のサンプルで、培養 は感染と定着とを区別できない。そもそも培養を 待っていては、適切な治療の時期を逸してしまう。

感染の診断は培養とは独立して行うべきであり、そ こに必要なのは、現病歴や身体所見と画像診断であ る。しかし、ここで陽性所見が示されても感染とは いえない。食材を集めて切っただけでは料理と呼ば ないのに等しく、ひと手間加える必要がある。それ は概念的に評すれば、得られた所見から、微生物と 宿主との免疫応答を脳裏に描く行為である。これが 感染の診断に必要な飛躍を生む。

余談になるが、この飛躍は感染のみならず多くの 臨床判断に必要である。これがヒトと人工知能の違 いであろう。診断基準を揃えて、確定診断するアル ゴリズムを作ることはできる。しかし例えば、DIC スコアでは

DIC

を診断することができない。なぜ だろう。外傷や消化性潰瘍で急性出血すれば、消費 性凝固障害によって DIC スコアは高値を示す。け

れど

DIC

を、血管内皮の機能障害によって、血管

内に凝固が亢進する病態と捉えるならば、それと消 費性凝固障害は似て非なるものである。だから、

DIC

スコアが高いので DIC であると診断するので はなく、そこには現病歴や身体所見の吟味が含まれ るはずである。つまり臨床診断は、陽性所見の足し 算を超えた、臨床的直観による飛躍が必要な作業で ある。SIRS の解釈にも、その種の飛躍がなくては ならず、それ抜きにはゴミ箱診断に陥ってしまうだ

ろう。

このように SIRS は、その解釈にテクニカルな問 題を抱えるが、広く重症患者をエントリすることが 可能で、これを用いた敗血症診断基準の導入によっ

て、

Bone

による敗血症克服の陣容は整ったといえ

る。彼は敗血症と戦うために『魔法の弾丸』の探索 を広く呼びかけた

11)

。敗血症という救急医学最大の 難問が、解決への兆しを垣間見せたかのようであっ た。しかし、そのわずか

3

年後、Bone は『なぜ敗 血症研究は失敗したか』と題するコメントを出版す る

12)

。ステロイドを始め、抗エンドトキシン抗体や 抗サイトカイン抗体など、その時代に行われたすべ ての臨床研究が、期待外れの結果に終わったのだ。

彼ならずとも問いたくなるだろう。なぜなのかと。

この状況を今日、振り返って考えてみれば、central

mediator のアイデアに問題があったのではないだろ

うか。小川は、この『失敗』について『サイトカイ ンの作用は、もっぱらその信号を受け取る細胞の

“勝手”

によって決まる』と説明した

10)

。やはり彼の 教科書に載せられた漫画には、放送局から電波が流 されているが、それを聞くリスナーは笑ったり踊り 出す者もいれば、泣いている姿もあり、同じ番組に もかかわらず、個々の反応がバラバラな様子が描か れている。

標的組織と作用が一対一対応である、ホルモンの ような液性因子と異なり、サイトカインは標的細胞 の状態によって作用が異なったり、他のメディエー タの存在下で相補的にも拮抗的にも働く

13)

。敗血症 を推進する中心的メディエータが存在し、それを抑 えることで病態を制御する Bone の絵は、壮大でか つ美しかったが、現実の敗血症はもっと混沌として いたのだ。Bone はこれら『抗サイトカイン療法』

の失敗を受けて、新たな仮説を導入した

14)

。1996 年に発表され、最も偉大な物理学者の名を冠したこ の小論文で、彼は物理世界に作用と反作用があるよ うに、敗血症も炎症と抗炎症の両極の間を揺れ動く と提唱した。Compensatory anti

-inflammatory response syndrome ; CARS

の導入である。敗血症を全身性の 炎症とみなし、central mediator を制御して、これを 抑える当初の方針は大きく舵を切った。敗血症は

SIRS

と CARS のバランスによって様々な臨床像を

示し、メディエータは炎症性・抗炎症性に大別され

て、敗血症の病態を修飾すると、そう Bone は仕切

り直しを提案した。

(4)

しかし、結局 CARS は定着しなかった。理由の ひとつは、SIRS がシンプルな

4

つの診断基準から 成るのに対し、CARS には現場で利用可能な、簡便 なツールを用意できなかった点にあろう。そしてそ れ以上に、時代の要請が SIRS に収まりきらなく なってしまったのだ。SIRS には、central mediator 探索のためにエントリの間口を広げ、かつ診断を標 準化する狙いがあった。けれど、当初から指摘され たように、感度が過剰で非特異的な側面が厭われた。

そして今日の敗血症診療では、より重症度の高い集 団へと注目が移っている。Bone をはじめ、数々の 先達による努力が、敗血症全体の死亡率を下げてき た。その結果、私たちの関心が死亡率の高い重症例 へシフトしつつあるのは皮肉ともいえる。このよう な流れを経て、

SIRS

は診療の表舞台から退くこと になった。敗血症の定義は、感染に由来する宿主反 応が引き起こした臓器障害へと変更された

1)

。Bone が SIRS で、いわば敗血症の入り口を示したのと対 照的に、新基準は敗血症の引き起こす結果を重視し ているといえよう。この分野は新しいステージへ歩 みを進めていく。

SIRS

と CARS、ふたつの生体反応群を提案して、

敗血症を捉え直そうとした Bone であったが、けれ どそのアイデアを発表した時、彼には時間が残され ていなかった。

1997

年に『最後の論文』を発表し

15)

Bone

はその生涯を終えた。彼の後に敗血症を語る

のは誰になるのだろうか。

Shoemaker

supranormal

敗血症が治療困難なのは、合併する遠隔臓器障害 のためであるが、もうひとつの難敵が敗血症性 ショックである。敗血症性ショックは、初期に輸液 負荷を必要として循環血液量減少性ショックに似た 様相を示すが、しかし輸液をいくら注ぎ込んでも血 圧が上がらない。顔は赤らみ体幹はじっとりと湿っ て暖かく、高心拍出で代謝亢進が特徴的な、いわゆ る warm shock として救急診療の中にその異彩を 放ってきた。ここで、ショック診療の難しさを再考 してみよう。ショックは、敗血症のそれに限らない が、いかに治療するかと共に、どこまで治療するか が問題になる。ゴールの問題である。初学者はショッ ク=血圧低下と捉える。血圧が下がればショックで あり、それはそうであろう。では、血圧を上げれば ショックから離脱できたといえるか。そうではない。

血圧が正常化しても乏尿が続くことがある。そこで 乏尿に対して腎代替療法を始める。けれど代謝性ア シドーシスや高乳酸血症が改善しない。改善しない ばかりか悪化して、そして患者を失うのがショック の典型的経過である。

このようにショックは、遷延性・二次性の臓器障 害を併発する。それがショックの真に恐ろしい顔で ある。どこまで治療したら、その魔の手を逃れたこ とになるのか。それがショックの適正治療目標

optimal goal

の問題であり、これに挑んだのが

Shoe- maker

の supranormal 法 で あ っ た。Shoemaker は

Bone

の仕事とは独立して、敗血症が引き起こす

ショックの治療を目指し、この作業仮説を立てた。

それはどのような方法で、なぜ発案されたのか。少 し概念的になるが、ショックが遅れて臓器障害を起 こす機序についてさらに述べよう。ショックとは何 か。それは循環の不調で、全身の末梢組織が酸素不 足になる病態である。この酸素不足には、酸素欠乏

oxygen deficit

と酸素負債 oxygen debt があり、両者 はしばしば混同される

16)

。酸素欠乏は、酸素運搬量

(=供給)が酸素消費量(=需要)を下回ると発生 する。ただ実際には、末梢組織は運搬される酸素を すべて取り込むことはできず、その一部を摂取する に過ぎない。健常時は、動脈が運搬する酸素の

3

割 程度を摂取しており、それをもって酸素消費量とす る。この摂取割合は、動脈血の酸素運搬量から静脈 血のそれを引き算して、動脈血酸素運搬量で割ると 求められる。これを酸素摂取率 oxygen extraction

ratio と呼ぶ。

ショックで酸素運搬量が低下すると、末梢組織は 普段

3

割程度の酸素摂取率を増加させて、酸素消費 量を維持しようとする。これがショックの主たる代 償機転である(もうひとつの代償機転は血流の再配 分)。しかし、酸素運搬量がさらに低下すると、や がて酸素消費量は維持できず、酸素運搬量依存性に 消費量が低下する。酸素消費量が減り始める点を

critical point と呼び、これを下回ると酸素欠乏が発

生する(図

1)。酸素欠乏は単位時間当たり(毎分)

の酸素量(mL)で示される。血中には乳酸があふれ、

代謝性アシドーシスが進行する。さて治療を開始し

て血圧や酸素運搬量が増え始めたとしよう。ある時

点で酸素運搬量が critical point を超え、酸素欠乏が

解消されるだろう。しかし、まだ酸素負債が残って

いる。酸素負債は、ショック発症時から蓄積された、

(5)

酸素欠乏の積算量である。血圧が(正確には酸素運 搬量が)正常化しても、借金を返済したわけではな い。その時点の収支がプラスになっただけであり、

借金の増加が止まっただけである。血圧の(酸素運 搬量の)正常化に安堵して、治療の手を緩めればい つまでも借金が残る。酸素負債の遷延が、生命徴候 の正常化後に臓器障害を発生させる。これがショッ クによる遷延性臓器障害の理論的背景である。

酸素負債は時間が経てば経つほど遠隔臓器を障害 する。いち早く借金を返済するのが望ましい。その ために酸素運搬量の到達目標を正常よりも高い位置 におき、より早い酸素負債の解消を目指すのが

supranormal 法である。Shoemaker は、高リスクの手

術症例を検討し、臓器不全を併発せずに生存した患 者群が、臓器不全併発例や死亡例よりも、術後の酸 素負債が少ないデータを示した

17)

。その経験から、

正常値よりも高い蘇生目標を定め、これを適正目標 とした。心係数>

4.5 L/min/m2,

酸素運搬量>

600 mL/min/m2 である。次に Shoemaker は、前向きに患

者を割り付けて

supranormal

な目標の達成で、術後 の死亡率が改善することを報告した

18)

。Shoemaker は大いに勇気づけられたであろう。さらに彼らは重 症外傷患者を対象に、無作為割付比較対照試験を 行った

19)

。そして supranormal 群は、臓器不全の発 生頻度を抑え、死亡率を有意に低下せしめたのであ る。もはや彼らの前には、最終目標である敗血症し か残っていなかった。敗血症性ショックの攻略は、

時間の問題であるかに思われた。

しかし、Shoemaker が我が世の春を謳歌していた だろうこの時点ですでに、supranormal の瑕疵が見 え隠れしていた。先の外傷患者データを検討する

19)

、興味深い事実に気づかされる。Supranormal 群と対照群との比較では、どの時点でも酸素運搬量 が有意に高く、これは研究プロトコル遵守率の高さ を物語っている。ただ、生存例と死亡例とに集計し 直して酸素運搬量の推移を見ると、入院後

72

時間 までは生存例の酸素運搬量が高値であるが、それ以 降は有意差を認めない。つまり、生存例は

supra-

normal

に割り付けたから成功したのではなく、割

り付けによらず治療に反応して、早期に酸素運搬量 が増加した患者が生存したのだとはいえないだろう か。また、supranormal 法への反論が、基礎的デー タの検証からも挙がってきた

20)

Shoemaker

の発想 は、critical point の存在に基礎をおいている。すな わち、その点を越えれば、酸素摂取率の増加で酸素 消費量を維持できる critical point があるからこそ、

Shoemaker

は適正治療目標を定めることができる。

それに対して Weg は、急性肺障害の検討で、重症 患者は酸素摂取率を増やして代償することができ ず、酸素消費量が酸素運搬量依存性に減少するデー タを示した

20)

Supranormal

の大前提を覆す知見で ある。

その後、Supernormal 法は相反する結果を生み、

この時期に出版されたガイドラインで、心係数と酸 素運搬量を正常値より高めるこの手法は『推奨せず』

の烙印を押されてしまう

21)

。この間

Shoemaker

も『反

supernormal』の動きを、ただ静観していたわけでは

ない。これに先立つ

1997

年から、ショック患者を 対象とした前向き試験を行い、supranormal 法の是 非を問うたのである

22)

。けれどその結果で、対照群 との間に臓器不全の発生率も死亡率も、ともに有意 差が示されなかった。なぜであろうか。この研究デー タを、適正目標値に到達した患者とそうでない患者 とに集計し直してみる。すると、ゴールに達した群 は臓器不全も死亡率も明らかに低い値を示した。結 局、supranormal は、それを行うことで致死的な患 者を生存レベルに引き上げる治療法ではなく、予後 が良い患者を識別する予測法に過ぎないのであっ た。すなわち、

supranormal

を目指して蘇生を行うと、

治療に反応してすみやかに心係数や酸素運搬量が伸 びる患者は生存し、反応できない患者は助からない ということである。

Shoemaker に残酷なこの考察は、

続くメタ分析でも裏つけられた

23)

。臓器不全併発後 にゴールを設定した研究群は、群間で死亡率に有意 差を示さず、臓器不全の発症前に割り付けた研究で

DO

2

VO

2

critical point

O2 deficit

1 酸素運搬量(DO2

)と酸素消費量(VO

2

)との関係

(6)

のみ有用性が観察された。Supranormal 法には、致 死的症例を救う力はないのである。

時代を席巻した supranormal 法は終焉の時を迎え た。続いて報告された臨床研究で、致命的な欠点が 指摘されている

24)

。Surpranormal は、高い目標値を 得るために、輸液や輸血量を多くせざるを得ない。

その結果、この研究では腸管が浮腫み、胃粘膜の微 小循環が悪化して、腹部コンパートメント症候群の 合併率が増えてしまった。これを境として本法は、

ショック治療の舞台から退場することになった。し かし、Shoemaker が残した所見は決して無駄にはな らなかった。適切なゴールを定め、早期にこれへ到 達することの重要性が、その仕事によって裏付けら れたのである。Supranormal と入れ替わるように登 場した、敗血症性ショックの治療戦略に、その考え は受け継がれている。その治療戦略こそ、early

goal-directed therapy ; EGDT

である

25)

。EGDT を用 いた敗血症の診療ガイドラインは、敗血症全体の診 療成績を改善した。その結果、私たちの関心はより 重症のグループへと移り、それが

Bone

SIRS

を 退場させ、敗血症の診療は新たな枠組みへと進んで 行くことになる。

お わ り に

EGDT

はその後、敗血症診療で大いに用いられ、

敗血症性ショックの予後の改善に寄与した。普及し すぎたためであろうか、先頃に行われた三つの多施 設前向き臨床研究で、EGDT は予後の改善を示せな かった

26-28)

。EGDT は私たちに、敗血症の初期診療 に必要な知識を授けた。その結果、私たちの基礎能 力が向上して、もはやこのレベルでは有意な差を生 み出せないのであろう。ただ、それ以外の問題もあ

る。

EGDT

は、ショックの治療ゴールに、酸素摂取

率の正常化を挙げた。本稿で述べたように、ショッ クの代償機転は酸素摂取率の増加である。治療に よって酸素摂取率が正常化すれば、それは代償機転 の解消を意味し、ショックから離脱したといえる。

しかし、敗血症性ショックには、その理屈が通らな い。なぜか? かつてショックは、循環血液量・心 収縮力・血管抵抗から成る循環の三要素で評価され てきた。これはこれで悪くはないが、今日はショッ クを、心拍出量が減るか否かで分けるのが主流であ る

29)

心拍出量が減れば、循環血液量減少か、心収縮力

低下か、閉塞性(拘束性)ショックのいずれかであ る。減っていなければ酸素摂取の問題であり、酸素 運搬量が減っていないのに循環不全であるというこ とは、つまり血管から酸素が取り込めていないとい うことになる。敗血症性ショックはその典型であり、

この捉え方は循環三要素で評価する従来のショック 管理を、根底から覆す可能性を秘めている。しかし 私たちの臨床的直観は、以前からこの点をつかんで おり、例えば敗血症で見られる red vein(静脈血の 動脈血化)などはその現れであろう。EGDT が有効 性を発揮できないのは、酸素摂取率の正常化をゴー ルにおいたからであるかもしれない。もし酸素摂取 率の障害(つまり低下)が敗血症性ショックの本態 であれば、Bone を経て臓器障害に注目する今日の 敗血症定義が、あるいは

Shoemaker

を超えて策定さ れた敗血症性ショックの診療ガイドラインが、敗血 症の診療をより良いものにできるか否か、今なお予 断を許さないところであろう。

文   献

1) Singer M, Deutschland SC, Seymour CW, Shankar- Hari M, Annane D, Bauer M, Bellomo R, Bernard GR, Chiche JD, Coopersmith CM, Hotchkiss RS, Levy MM, Marshall JC, Martin GS, Opal SM, Rubenfeld GD, van der Poll T, Vincent JL, Angus DC : The third international consensus definitions for sepsis and septic shock.

JAMA 315: 801-810, 2) Antonelli M, Moreno R, Vincent JL, Sprung CL, 2016 Mendoca A, Passariello M, Riccioni L, Osborn J : Application of SOFA score to trauma patients. 

Sequential organ failure assessment. Intensive Care Med 25: 389-394, 1999

3) Bone RC : Toward an epidemiology and natural his- tory of SIRS

(systemic inflammatory response

syndrome). JAMA 268: 3452-3455, 1992

4) Gando S, Iba T, Eguchi Y, Ohtomo Y, Okamoto K, Koseki K, Mayumi T, Murata A, Ikeda T, Ishikura H, Ueyama M, Ogura H, Kushimoto S, Saitoh D, Endo S, Shimazaki S ; Japanese Association for Acute Medicine Disseminated Intravascular Coagulation

JAAM DIC

Study Group : A multicenter, prospec- tive validation of disseminated intravascular coagula- tion diagnostic criteria for critically ill patients : comparing current criteria. Crit Care Med 34: 625-631, 2006

5) Dellinger RP, Levy WM, Rhodes A, Annane D, Ger- lach H, Opal SM, Sevransky JE, Sprung CL, Douglas IS, Jaeschke R, Osborn TM, Nunnally ME, Townsend SR, Reinhart K, Kleinpell RM, Angus DC,

(7)

Deutschman CS, Machado FR, Rubenfeld GD, Webb SA, Beale RJ, Vincent JL, Moreno R : Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign : international guidelines for management of severe sepsis and septic shock : 2012. Crit Care Med 41: 580-637, 2013

6) Bone RC : The pathogenesis of sepsis. Ann Inter- nal Med 115: 457-469, 1991

7) Bone RC : A critical evaluation of new agents for the treatment of sepsis. JAMA 266: 1686-1691, 1991 8) Bone RC : Let’s agree on terminology : definitions

of sepsis. Crit Care Med 19: 973-976, 1991 9) Bone RC, Balk RA, Cerra FB, Dellinger RP, Fein

AM, Knaus WA, Schein RM, Sibbald WJ : Defini- tions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis.

Chest 101: 1644-1655, 1992

10)

小川道雄

:

臨床外科学講義─考える臨床医であ るために知っておきたい外科学の最近の進歩。

へるす出版(東京)1995

11) Bone RC : The search for a magic bullet to fight sepsis. JAMA 269: 2266-2267, 1993

12) Bone RC : Why sepsis trials fail. JAMA 276: 565-566, 1996

13) Deitch EA : Multiple organ failure. pathophysiology and potential future therapy. Ann Surg 216: 117- 134, 1992

14) Bone RC : Sir Issac Newton, sepsis, SIRS, and CARS.

Crit Care Med 24: 1125-1128, 1996.

15

Bone RC : End-of-life issues : the physician’s role.

Crit Care Med 25: 1083-1084, 1997

16) Barbee RW, Reynolds PS, Ward KR. Assessing shock resuscitation strategies by oxygen debt repay- ment. Shock 33: 113-122, 2010

17) Shoemaker WC, Appel PL, Kram HB : Tissue oxy- gen debt as a determinant of lethal and nonlethal postoperative organ failure. Crit Care Med 16: 1117-1120, 1988

18) Shoemaker WC, Appel PL, Kram HB, Waxman K, Lee TS. Prospective trial of supranormal values of survivors as therapeutic goals in high-risk surgical patients. Chest 94: 1176-1186, 1988

19

Bishop MH, Shoemaker WC, Appel PL, Meade P, Ordog GJ, Wasserberger J, Wo CJ, Rimle DA, Kram HB, Umali R, Kennedy F, Shuleshko J, Stephen CM, Shori SK : Prospective, randomized trial of survivor values of cardiac index, oxygen delivery, and oxygen consumption as resuscitation endpoints in severe trauma. J Trauma 38: 780-787, 1995

20) Weg JG : Oxygen transport in adult respiratory dis-

tress syndrome and other acute circulatory problems : relationship of oxygen delivery and oxygen consump- tion. Crit Care Med 19: 650-657, 1991

21) Task force of the American College of Critical Care Medicine, Society of Critical Care Medicine. Prac- tice parameters for hemodynamic support of sepsis in adult patients in sepsis. Crit Care Med 27: 639- 660, 1999

22) Velmahos GC, Demetriades D, Shoemaker WC, Chan LS, Tatevossian R, Wo CC, Vassiliu P, Cornwell EE 3rd, Murray JA, Roth B, Belzberg H, Asensio JA, Berne TV : Endpoints of resuscitation of critically injured patients : normal or supranormal ? a prospec- tive randomized trial. Ann Surg 232: 409-418, 2000

23

Kern JW, Shoemaker WC : Meta-analysis of hemo- dynamic optimization in high-risk patients.

Crit Care Med 30: 1686-1692, 2002

24) Balogh Z, McKinley BA, Cocanour CS, Kozar RA, Valdivia A, Sailors RM, Moore FA : Supranormal trauma resuscitation causes more cases of abdominal compartment syndrome. Arch Surg 138: 637-643, 25) Rivers E, Nguyen B, Havstad S, Ressler J, Muzzin A, 2003 Knoblich B, Peterson E, Tomlanovich M : Early Goal-Directed Therapy Collaborative Group. Early goal-directed therapy collaborative group. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sep- sis and septic shock. N Engl J Med 345: 1368- 1377, 2001

26

Process Investigators, Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, Barnato AE, Weissfeld LA, Pike F, Terndrup T, Wang HE, Hou PC, LoVecchio F, Filbin MR, Shapiro NI, Angus DC : A randomized trial of protocol- based care for early septic shock. N Engl J Med 370: 1683-1693, 2014

27) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, Harrison DA, Sadique MZ, Grieve RD, Jahan R, Harvey SE, Bell D, Bion JF, Coats TJ, Singer M, Young JD, Rowan KM : ProMISe Trial Investigators. Trial of early, goal-directed resuscitation for septic shock. N Engl J Med 372: 1301-1311, 2015

28) ARISE Investigators, Anzics Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, Bailey M, Bellomo R, Cam- eron PA, Cooper DJ, Higgins AM, Holdgate A, Howe BD, Webb SA, Williams P : Goal-directed resuscita- tion for patients with early septic shock. N Engl J Med 371: 1496-1506, 2014

29) Vincent JL, De Backer D : Circulatory shock. N Engl J Med 369: 1726-1734, 2013

表 2  systemic inflammatory response syndrome 診断基準。

参照

関連したドキュメント

診断は、Shibai らの診断基準(Shibai BM,et al.Am J Obstet Gynrcol 1993;169:1000)によって行われるが、この

診断 糖尿病 糖尿病 心室頻拍,心不全 LIP 肺病変先行型膠原病 急性心筋梗塞(下壁),糖尿病 大動脈弁閉鎖不全症 多発性筋炎による心筋障害

Rapid ACTH testへの反応が無い例 では, NNT 10で死亡リスクが軽減 ※患者の選別が厳しく、重症例の多 い母集団 (昇圧剤に依存する敗血症性ショッ ク) CORTICUS

症状重症度を測定するため、各種診断基 準を参考に、スコアリングツールの作成を 試みた。 DIC の診断基準として、現行の DIC 診断基準および旧厚生省診断基準を一部改 変して用いた。

血中の IgM は 5600mg/mlと高値を 示し, 血中及び胸水中の抗 SS-A/B抗体が陽性で, 骨髄 及び,

【結 語】 サルモネラ感染症から敗血症性ショック・急 性腎不全・DIC

Intervention 凝固異常改善を 目的とした新鮮凍 結血漿投与を行う。 Control 凝固異常改善を目 的とした新鮮凍結血

本症例における IL 6 および IL 18 の動態につい て評価したところ,病初期に IL 6 は s JIA/ inac- tive より高値を示し,敗血症合併時には IL