原子核物理学
第 3 講 原子核の存在範囲と崩壊様
式
2
原子核が存在するとは
寿命がある程度長くないと,存在が確認できない ある程度とはどのくらいか? 光が原子核を通過するのに要する時間程度:
原子核の大きさを
L = 10 fm = 10
-14m
として 強い相互作用による直接反応(
direct reaction
)に要する時間 速い
γ
遷移をする励起状態の寿命 原子番号が
113
の原子核(理研で確認)の寿命4
原子核の崩壊様式
1. 核子放出(強い相互作用)
中性子(陽子)が過剰すぎると中性子(陽子)を放出する
2. α
崩壊(強い相互作用)質量数が 200 程度以上の原子核は α 粒子を放出して,質量数が4小さい核 種に変わることが多い
3. β
崩壊(弱い相互作用)安定でない原子核の多くは β 崩壊して,質量数が等しい別の核種に変わる
4. 二重
β
崩壊(弱い相互作用)安定でないが, β 崩壊がエネルギー的に許されない原子核の崩壊
5. γ
崩壊(電磁相互作用)核種は変わらない(励起状態からエネルギーの低い状態への遷移)
6. 自発的核分裂(強い相互作用)
平均寿命へ
1.核子放出
中性子分離エネルギー :1個(2個)の中性子を原子核から取り出すのに必要なエネルギ ー
中性子分離エネルギーが正である原子核は安定,負である原子核は不安定
陽子分離エネルギー :1個(2個)の陽子を原子核から取り出すのに必要なエネルギー
陽子分離エネルギーが正である原子核は安定,負である原子核は不安定
6
中性子(陽子)ドリップライン中性子(陽子)ドリップライン中性子(陽子)分離エネルギーが
0
になる境界の原子核を結んだ 線フッ素同位体の陽子・中性子分離エネルギー
核子放出が,核図表の上で,原子核の存在範囲の左端と右端の境界を与 える
2. α 崩壊
α
粒子を放出して崩壊するモード α
粒子の分離エネルギー
α
粒子の結合エネルギー
分離エネルギーが負であることは,原子核は自発的にα
崩壊でき ることを意味する(次ページ) しかし,
分光学的因子(spectroscopic factor
) Coulomb
障壁によって,崩壊寿命が極めて長くなることがしばしばある
半減期の例短い例と長い例
8
である核種
α 崩壊が,核図表の上で,原子核の存在範囲の右上の境界を与える
α
崩壊におけるCoulomb
障壁とトンネル効果10
3. β 崩壊
3種類の崩壊様式
β
- 崩壊
β
+ 崩壊 電子捕獲
Q
値(Q value
)
β
- 崩壊
β
+ 崩壊 電子捕獲
例■
β
崩壊では質量数は変化しない■ 質量数が
200
より小さい不安定な原子核のほとんどは,β
崩壊に よって より安定な核種へと壊変していく12
4.二重 β 崩壊
弱い相互作用の2次の過程
下の例(質量数がA = 100
の原子核のエネルギー)に示すように,エネルギーが最も低くないが,通常の
β
崩壊ができない原子核( 100
Mo
)の崩壊様式
現在までに測定された最も長い寿命の崩壊様式 最も短い半減期が6.自発的核分裂
大きな質量数をもつ原子核が,2つの質量数が小さい原子核に割 れる崩壊様式
一般に非対称な分裂片に割れる Coulomb
障壁の効果が大きく,長い寿命をもつことが多い14
平均寿命
単位時間に崩壊する個数は,その時刻にある個数に比例する
実験則
崩壊様式によらない
方程式の解は
平均寿命(mean life
) 個数が1/e
になる時間 半減期(half-life
) 個数が1/2
になる時間崩壊率,崩壊幅
崩壊率(decay rate
) :平均寿命の逆数
崩壊幅(decay width
)
原子核のある状態が有限の寿命をもつとき,その状態のエネルギーは虚部をもつといえる:
波動関数の時間発展確率(波動関数の絶対値の2乗)の時間変化
16
2体崩壊 Q
値:内部励起がないとき,終状態の運動エネルギーの和
終状態にある2つの粒子の運動 エネルギーを測定すると,その和 は始状態の粒子の崩壊寿命の幅 をもつ安定な原子核
理科年表には,自然界に存在する
287
種の安定同位体があげられている 1. 質量数が等しい原子核の中で最も安定な原子核質量数 A = 1 – 209 ( 1
H
から 209Bi
まで) の207
核種 A = 5, 8 には安定な原子核がない以下は厳密には安定ではない
2. トリウム 232
Th
,ウラン 234,235,238U
放射性同位体(次の3グループに分類される)
3. ウラン( 235
U,
238U
),トリウム( 232Th
)のような長寿命の放射性元 素を親とする放射壊変系列に属す核種4. 放射壊変系列に属さない長寿命の核種(例: 40
K
) 5. 宇宙線によって生成される核種3
H,
7Be,
10Be,
14C,
22Na,
32P,
35S,
36Cl
など 6. 二重β
崩壊する核種18
A = 5
: 4He
は結合エネルギーが大きく,1つの核子を加えても束縛 しない A = 8
最もエネルギーが小さい原子 核は 8Be
であるが,2つのα
粒子( 4He
)に崩壊する
太陽ニュートリノ問題:8
B
のβ
崩壊で放出されるニュートリノの 数について理論値と実験値が 不一致
ニュートリノ振動
20
放射壊変系列に属さない長寿命の核種
原子核の存在範囲
およそ6000
の核種が存在すると考えられる 既に存在が確認されている核種は約
3000
まだ確認されていない核種のほとんどは中性子過剰核
質量数が大きくない領域では,核子の放出に対して安定である場合は,原子核が存在すると認識 できる分離エネルギーが正となる不安定な原子核でも,分離エネルギー が小さいときは,崩壊幅が小さく(寿命が短すぎない)原子核と して認識できる
超重元素原子番号が