日本全国から分離された淋菌の抗菌薬感受性に関する調査
1)
福岡大学医学部泌尿器科学,
2)(株)ビー・エム・エル細菌検査部,
3)三菱化学メディエンス化学療法研究室,
4)
東邦大学医学部看護学科感染制御学
田中 正利
1)霜島 正浩
2)雑賀 威
3)伊与田貴子
3)池田 文昭
3)金山 明子
4)小林 寅喆
4)(平成 22 年 4 月 15 日受付)
(平成 23 年 5 月 12 日受理)
Key words : Neisseria gonorrhoeae, antimicrobial agent, susceptibility, survey
要 旨
2008 年 2 月から 2009 年 12 月までの約 2 年間に日本全国から収集された 494 株の Neisseria gonorrhoeae (淋 菌)の各種抗菌薬感受性を測定し,耐性淋菌の分離頻度とその地域差を検討した.地域別分離株数は,西日 本が 112 株(22.7%),関東が 277 株(56.1%),関東を除く東日本が 105 株(21.2%)であった.シプロフ ロキサシン(CPFX),ペニシリン G(PCG),テトラサイクリン(TC)耐性株の頻度は,それぞれ 78.6%,
19.8%,18.2% であった.また,CPFX,PCG,TC 低感受性株の頻度は,それぞれ 1.8%,73.7%,43.7%
とこれら 3 薬剤においては耐性または低感受性株の頻度が高かった.セフィキシム(CFIX),セフォジジム
(CDZM)低感受性株の頻度は,それぞれ 38.1%,13.4% と高い値を示した.しかし,CFIX,CDZM に対 する耐性株の頻度は,それぞれ 0.4%,0% と低かった.アジスロマイシン,セフトリアキソン,スペクチ ノマイシン感受性株の頻度は,それぞれ 96.6%,99.8%,100% とこれら 3 薬剤に対する感受性は良好であっ た.各種抗菌薬に対する耐性株の頻度に地域差はみられなかった.しかし,西日本における CFIX 低感受性 株の頻度は関東に比べ有意に高い値を示した.
〔感染症誌 85:360〜365,2011〕
序 文
厚生労働省と国立感染症研究所が行っている感染症 発生動向調査によると,わが国における Neisseria gon- orrhoeae(淋菌)感染症は 2002 年をピークに年々減少 傾向にある
1).しかしながら,口腔性交による淋菌性 咽頭感染の増加,およびキノロン系薬や経口セフェム 系薬に耐性を示す淋菌の蔓延など,その臨床医学的お よび細菌学的問題点は依然として少なくない.我々は これまで福岡市における各種抗菌薬耐性淋菌の分離状 況を報告してきた
2)3).また,福岡以外の他の地域にお ける淋菌の薬剤耐性化についても数施設から報告され
ている
4)〜6).しかしながら,日本全国から一定期間数
多くの淋菌株を収集し,同一施設で薬剤感受性測定を 行い,耐性淋菌の分離頻度とその地域差を検討した報 告は少ない
7).今回我々は 2008 年から 2009 年に日本 全国から分離された淋菌の各種抗菌薬感受性を測定 し,耐性淋菌の分離状況とその地域差を検討した.
材料と方法
1.対象株
対象株は,2008 年 2 月から 2009 年 12 月までの約 2 年間に日本全国のビー・エム・エル(BML)営業所 に収集された 494 株の淋菌であった.収集された菌株 は BML にて同定され,抗菌薬感受性測定まで保存さ れた.また,淋菌が分離された背景として,患者の性,
年齢,検体採取部位,分離地域について検討した.
2.抗菌薬感受性測定
今回の研究期間内に BML で収集・保存された淋菌 株は,三菱化学メディエンス化学療法室に輸送され,
同施設で一括して抗菌薬感受性を測定した.各種抗菌 薬の最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentra- tion : MIC)の測定は,米国の臨床検査標準化委員会
(Clinical and Laboratory Standards Institute : CLSI)
の標準法に準拠した寒天平板希釈法で行った
8).接種 菌量は 10
4cfu! spot とし,β-lactamase 産生能の測定,
す な わ ち penicillinase-producing N. gonorrhoeae
(PPNG)の検出は,β―チェック(日本生物材料セン
原 著別刷請求先:(〒814―0180)福岡市城南区七隈 7―45―1
福岡大学医学部泌尿器科学 田中 正利
Table 1 Antimicrobial agent breakpoints for N. gonorrhoeae referencing CLSI
aAgent Susceptibility
Susceptible Intermediate Resistant
Penicillin G ≦0.06 0.12―1 ≧2
Cefixime
b≦0.06 0.12―0.25 ≧0.5
Cefodizime
b≦0.06 0.12―0.25 ≧0.5
Ceftriaxone
b≦0.06 0.12―0.25 ≧0.5
Tetracycline ≦0.25 0.5―1 ≧2
Azithromycin
b≦0.25 0.5 ≧1
Ciprofloxacin ≦0.06 0.12―0.5 ≧1
Levofloxacin
b≦0.12 0.25―1 ≧2
Gatifloxacin ≦0.12 0.25 ≧0.5
Sitafloxacin
b≦0.06 0.12―0.5 ≧1
Spectinomycin ≦32 64 128
Gentamicin
b≦4 8―16 ≧32
a
CLSI: Clinical and Laboratory Standards Institute.
b
Breakpoints for similar antibiotics or previously reported in the literature were used for these antimicrobial agents.
Table 2 Subject summaries
(n=494)
Parameters Number (%)
Gender Male 426 (86.2)
Female 68 (13.8)
Age (year) ≦9 1 (0.2)
10-19 38 (7.7)
20-29 201 (40.7)
30-39 122 (24.7)
40-49 88 (17.8)
50-59 18 (3.6)
60-69 7 (1.4)
unknown 19 (3.8)
Sample Urine 242 (49.0)
Urethral discharge 182 (36.8)
Vaginal discharge 64 (13.0)
Others 6 (1.2)
Region Western Japan
a112 (22.7)
Mid-eastern Japan 277 (56.1)
Eastern Japan
b
(excluding mid-eastern Japan)
105 (21.2)
a
Western Japan: Kinki, Chugoku, Shikoku, and Kyushu.
b
Eastern Japan: Tokai, Hokuriku, Koushinetsu, Tohoku, and Hokkaido.
ター)で行った.対象抗菌薬は,ペニシリン系の peni- cillin G(PCG),セフェム系の cefixime(CFIX),cefo- dizime(CDZM),ceftriaxone(CTRX),テトラサイ ク リ ン 系 の tetracycline(TC),ア ザ ラ イ ド 系 の azithromycin(AZM),キ ノ ロ ン 系 の ciprofloxacin
(CPFX),levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFL X),sitafloxacin(STFX),およびアミノグリコシド 系 の spectinomycin(SPCM),gentamicin(GM)の 合計 12 薬剤であった.
3.ブレイクポント
感受性測定に使用した各種抗菌薬の淋菌に対するブ レイクポイントを Table 1に示した.PCG,TC,CPFX,
GFLX,および SPCM のブレイクポイントは CSLI の 基準に準じた.CFIX については CLSI の基準
8)では 0.25μg! mL 以下が感受性とされているが,低感受性 と耐性に関する明確な基準が示されていない.CFIX 耐性に関係する変異のない淋菌の同薬に対する MIC は 0.064μg! mL 以下とされ
9),また臨床的にも 0.06μg!
mL 以下の株は CFIX の標準量の投与で治療可能と報 告されている
9)10).従って,今回の検討では CFIX の MIC が 0.06 μ g ! mL 以 下 を 感 受 性,0.12〜0.25 μ g ! mL を低感受性,0.5μg! mL 以上を耐性とした.また,同 じ第三世代セフェム系の CTRX,CDZM も同様な基 準とした.AZM,LVFX,STFX,GM に関しては CLSI の基準が全く示されていない.そこで,LVFX,STFX のブレイクポイントは同じキノロン系の類似薬の値を 参考に設定した.AZM,GM のブレイクポイントは それぞれのブレイクポント,および MIC と臨床効果 に関する報告を参考に設定した
11)12).
4.統計解析
各種抗菌薬に対する分離地域別耐性株の頻度におけ
る差の検定には χ
2検定を用い,p<0.05 を有意水準と した.
成 績
1.背景
494 株の淋菌が分離された背景を Table 2に示す.性 別は男性が 426 名(86.2%),女性が 68 名(13.8%)と,
男性が圧倒的に多かった.年齢は 1 歳から 82 歳まで 幅広い分布を示したものの,性的活動期にある 20 歳 代 が 201 名(40.7%),30 歳 代 が 122 名(24.7%)と 両年代が多かった.採取された検体は,尿が 242 件
(49.0%)で 最 も 多 く,以 下,尿 道 分 泌 物 が 182 件
(36.8%),腟分泌物が 64 件(13.0%),その他が 6 件
(1.2%)であった.淋菌が分離された地域は関東が 277 株(56.1%)と 5 割以上を占め,以下,西日本(近畿,
中 国,四 国,九 州)が 112 株(22.7%),関 東 を 除 く 東日本(東海,北陸,甲信越,東北,北海道)が 105 株(21.2%)であった.このように今回の研究では,
関東の分離株数が全株の半数以上を占めたことより,
東日本は関東とそれを除く東日本の 2 地域に分け,耐 性株の頻度における地域差を検討した.
2.各種抗菌薬に対する感受性 1)ペニシリン系薬
a)全分離株の感受性
日 本 全 国 か ら 分 離 さ れ た 494 株 の 淋 菌 に 対 す る PCG の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 0.5μg
! mL,2 μ g ! mL,0.004〜16 μ g ! mL であった.また,同
薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の頻度は,
Table 3 Susceptibility of clinical N. gonorrhoeae isolates to anti- microbial agents
(n=494)
Agent MIC
a(μg/mL) Susceptibility profile
(%)
50% 90% Range S
bI R
Penicillin G 0.5 2 0.004―16 6.5 73.7 19.8
Cefixime 0.06 0.12 ≦0.001―0.5 61.5 38.1 0.4
Cefodizime 0.03 0.12 ≦0.001―0.25 86.6 13.4 0
Ceftriaxone 0.015 0.03 ≦0.001―0.12 99.8 0.2 0
Tetracycline 0.5 2 0.015―32 38.1 43.7 18.2
Azithromycin 0.12 0.25 0.002―4 96.6 2.8 0.6
Ciprofloxacin 4 16 0.002―32 19.6 1.8 78.6
Levofloxacin 4 8 0.002―16 20.4 8.1 71.5
Gatifloxacin 1 2 ≦0.001―4 22.7 3.2 74.1
Sitafloxacin 0.06 0.12 ≦0.001―0.25 60.3 39.7 0
Spectinomycin 8 16 1―16 100 0 0
Gentamicin 4 4 0.25―8 97.0 3.0 0
a
MIC: minimal inhibitory concentration.
b
S: susceptible, I: intermediate, R: resistant.
Fig. 1 Cefixime susceptibility of N. gonorrhoeae iso- lates from 3 regions in Japan
それぞれ 6.5%,73.7%,19.8% と低感受性株の頻度 が特に高く,また耐性株の頻度も比較的高かった(Ta- ble 3).なお,PPNG は 6 株分離され,その頻度は 1.2%
と低かった.
b)分離地域別感受性の比較
PCG に対する分離地域別耐性株の頻度は,東日本 が 24.8%(26! 105)と最も高く,以下,西日本が 19.6%
(22! 112),関東が 18.0%(50! 277)であったが,有意 差は認められなかった.
2)セフェム系薬 a)全分離株の感受性
CFIX の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 0.06 μg! mL,0.12μg! mL,≦0.001〜0.5μg! mL で あ っ た.
また,同薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の 頻度は,それぞれ 61.5%,38.1%,0.4% と耐 性 株 の 頻度は低いものの,低感受性株の頻度が高かった.
CDZM の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 0.03 μ g ! mL,0.12 μ g ! mL,≦0.001〜0.25 μ g ! mL であった.
また,同薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の 頻度は,それぞれ 86.6%,13.4%,0% と低感受性株 の頻度がやや高かった.CTRX の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 0.015 μ g ! mL,0.03 μ g ! mL,≦0.001〜
0.12 μ g ! mL であった.また,同薬に対し感受性,低 感受性,耐性を 示 す 株 の 頻 度 は,そ れ ぞ れ 99.8%,
0.2%,0% と良好な感受性が認められた(Table 3).
b)分離地域別感受性の比較
CFIX に対する耐性株の分離地域別頻度は 0〜1.0%
といずれも低かった.しかし,低感受性株の分離地域 別頻度は,西日本が 46.4%(52! 112)と最も高く,以 下,東日本が 37.1%(39! 105),関東が 35.0%(97! 277)
と 3 地域とも高い値を示した.なお,西日本の低感受 性 株 の 頻 度 は 関 東 に 比 べ 有 意 に 高 い 値 を 示 し た
(p<0.05)(Fig. 1).CDZM,CTRX に対する薬剤感 受性に地域差はみられなかった.
3)テトラサイクリン系薬 a)全分離株の感受性
TC の MIC
50,MIC
90,MIC range は,そ れ ぞ れ 0.5 μg! mL,2μg! mL,0.015〜32μg! mL であった.また,
同薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の頻度は,
それぞれ 38.1%,43.7%,18.2% と低感受性株の頻度 が高く,また耐性株の頻度も比較的高かった(Table 3).なお,プラスミド性高度 TC 耐性淋菌(MIC≧16 μg! mL)は 5 株分離され,その頻度は 1.0% であった.
b)分離地域別感受性の比較
TC に対する耐性株の分離地域別頻度は,東日本が
41.9%(44! 105),関 東 が 37.9%(105! 277),西 日 本
が 34.8%(39! 112)と 3 地域とも高い値を示し,有意 差は認められなかった.
4)アザライド系薬 a)全分離株の感受性
AZM の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 0.12 μ g ! mL,0.25 μ g ! mL,0.002〜4 μ g ! mL で あ っ た.ま た,同薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の頻 度は,それぞれ 96.6%,2.8%,0.6% と良好な感受性 が認められた(Table 3).
b)分離地域別感受性の比較
AZM に対する耐性株の分離地域別頻度は 0〜1.8%
といずれも低い値を示し,有意差は認められなかった.
5)キノロン系薬 a)全分離株の感受性
CPFX の MIC
50,MIC
90,MIC range は,そ れ ぞ れ 4 μ g ! mL,16 μ g ! mL,0.002〜32 μ g ! mL で あ っ た.ま た,同薬に対し感受性,低感受性,耐性を示す株の頻 度は,それぞれ 19.6%,1.8%,78.6% と耐性 株 の 頻 度が非常に高かった.LVFX と GFLX についてもほ ぼ同様の耐性化が認められた.一方,淋菌の STFX に対する感受性は他のキノロン系薬と比べて比較的良 好であった(Table 3).
b)分離地域別感受性の比較
CPFX に対する耐性株の分離地域別頻度は,西日本 が 81.2%(91 ! 112),関 東 が 80.1%(222 ! 277),東 日 本が 71.4%(75! 105)と 3 地域とも非常に高く,有意 差は認められなかった.
6)アミノグリコシド系薬 a)全分離株の感受性
SPCM の MIC
50,MIC
90,MIC range は,それぞれ 8μg! mL,16μg! mL,1〜16μg! mL で あ っ た.ま た,
同薬に対する耐性株,または低感受性株は 1 株もなく,
全ての株が感受性を示した.GM は SPCM と比べや や強い抗菌力を示し,ほとんどの株が感受性を示した
(Table 3).このようにアミノグリコシド系の 2 薬剤 に対する淋菌の感受性は良好であった.
b)分離地域別感受性の比較
SPCM に対しては全株が感受性を示し,地域差は 全く認められなかった.
考 察
1980 年代から次々に臨床の現場に登場した,いわ ゆるニューキノロン(キノロン)系薬は淋菌に強い抗 菌力を示すことより,淋菌感染症に対して第一選択薬 として幅広く使用されてきた.しかし,1990 年代初 期にわが国で分離された淋菌においては,既にキノロ ン系薬に対する耐性化がみられ
7),それ以降もキノロ ン耐性淋菌の分離頻度の増加と同系薬の淋菌に対する MIC の上昇がみられている
3).また,キノロン系薬の
標的酵素である DNA ジャイレース(サブユニット GyrA),およびトポイソメラーゼ IV(サブユニット ParC)のキノロン耐性決定領域に特異的なアミノ酸 置換を有する耐性変異株による感染症に対しては同系 薬の有効率が極めて低く
13),淋菌感染症に対するエン ピリック治療薬として同系薬はもはや使用できない状 況になっている.日本性感染症学会が 2 年毎に発刊し ている性感染症 診断・治療ガイドラインでも,1999 年度版以降キノロン系薬は淋菌感染症に対する推奨薬 から除外されている
14).それに代わり,経口または注 射用のセフェム系薬をはじめとする他系統の抗菌薬が 推奨されてきた.しかしながら,2000 年以降もキノ ロン耐性淋菌の分離頻度は増加傾向を示し,今回の検 討でもキノロン系薬に対する淋菌の耐性化は著しく,
全国から分離された淋菌における CPFX 耐性株の分 離頻度は 78.6% と極めて高く,同薬の MIC
50および MIC
90も高値であった.なお,CPFX 耐性株の分離頻 度に地域差はなく,日本全国にキノロン耐性淋菌は拡 散していると考えられた.さらに,キノロン耐性淋菌 の増加はわが国ばかりでなく,近年世界各国でも大き な問題になっており,特に東南アジアでは 67〜83%
15), ヨ ー ロ ッ パ で は 42〜52%
16),オ ー ス ト ラ リ ア で は 38%
17)と高い分離頻度が報告されている.
このように近年,キノロン耐性淋菌が著しく増加し
たため,淋菌感染患者が受診することが多い第一線の
性感染症クリニックの外来では,注射薬より使用しや
すい CFIX をはじめとする経口セフェム系薬の使用頻
度が増加していると考えられる.その結果,淋菌の経
口セフェム系薬に対する耐性化が進行し,新たな問題
になっている
10)18).今回の調査でも,経口セフェム系
薬の中で淋菌に最も抗菌力が強い CFIX に対する明ら
かな感受性の低下が認められた.すなわち,CFIX 耐
性株の頻度は 0.4% と低かったものの,低感受性株の
頻度は 65.1% と非常に高かった.低感受性株の分離
頻度における地域差をみると西日本の分離頻度は,関
東および東日本と比べて高く,特に関東との比較では
統計学的に有意差がみられ,西日本で最も低感受性化
が進行していた.CTRX は淋菌に対する抗菌力が既
存の抗菌薬の中で最も強い薬剤であるが,今回の検討
でもほとんどの株が感受性を示し,明らかな感受性の
低下は認められなかった.しかし,最近 CTRX が無
効であった淋菌の咽頭感染がオーストラリア
19)やわが
国
20)で報告されており,同薬に対する淋菌の耐性化に
も十分な注意が必要である.これらセフェム系薬に耐
性,または低感受性を示す淋菌の主な耐性機構は,そ
の標的酵素のペニシリン結合蛋白 2 をコードする遺伝
子 penA の大部分が,主に咽頭に常在菌叢として生息
し,セフェム系薬に感受性の低い Neisseria subflava,
Neisseria flavascens などのナイセリア属菌の遺伝子と キメラ化を起こしていることである
21)22).このように 淋菌の咽頭感染は感染源としての問題のみではなく,
セフェム系薬に対する耐性獲得の場になっている可能 性もあり,その予防と治療における対策がますます重 要になっている.
わが国おいては淋菌感染症に対する AZM 2g 単回 投与の有効性を検討した報告はないが,2009 年に淋 菌感染症に対する AZM 2g 単回投与がわが国の健康 保険に収載された.海外からの報告では淋菌による性 器 感 染 症 に 対 す る AZM 2g 単 回 投 与 の 有 効 率 は 98.9〜100% と高い
11).また,淋菌の咽頭感染でもそ の 有 効 率 は 95.2% と 高 く,MIC が 0.5μg! mL の 1 株 のみが残存したと報告されている
23).従って,MIC が 0.5 μ g ! mL 以上を臨床的耐性と仮定すると,今回の 我々の検討では,AZM の MIC が 0.5 μ g ! mL 以上の淋 菌 は 17 株 み ら れ た の で,2g 単 回 投 与 の 除 菌 率 は 96.6%(477! 494)と高い値になることが推定される.
よって,現在淋菌感染症に対する AZM 2g 単回投与 は治療選択肢の 1 つになり得ると考えられる.しかし,
海外で AZM に対する高度耐性株の分離が報告されて おり
11),同薬に対する淋菌の感受性に関しては今後も 注意深い観察が必要である.
今回の検討で SPCM に対しては全株が感受性を示 した.よって,SPCM は今後も淋菌感染症の第一選 択薬の 1 つとして推奨できると考えられる.SPCM 耐性株は東南アジアをはじめ世界各国でもほとんど問 題になっていない.ただし,SPCM は最近増加して いる淋菌の咽頭感染に対しは有効率が低いことに注意 が必要である.なお,アフリカの一部においては,わ が国では淋菌感染症に対して保険適用がない GM が 淋菌に良好な抗菌力を示すことより,推奨薬として使 用されている
12).今回のわれわれの検討でも GM には 耐性化はみられなかった.
ペニシリン系薬やテトラサイクリン系薬に対して は,依然として耐性または低感受性株が多く,単回投 与による治療効果は劣ると考えられるので,第一選択 薬としては推奨できない.薬剤感受性検査で感受性と 判定された淋菌の感染例に限って使用すべきと考えら れる.
文 献
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Nationwide Antimicrobial Susceptibility Survey of Neisseria gonorrhoeae Isolates in Japan
Masatoshi TANAKA
1), Masahiro SHIMOJIMA
2), Takeshi SAIKA
3), Takako IYODA
3), Fumiaki IKEDA
3), Akiko KANAYAMA
4)& Intetsu KOBAYASHI
4)1)
Department of Urology, Faculty of Medicine, Fukuoka University,
2)Department of Bacteriology, BML, Inc.,
3)
Chemotherapy Division, Mitsubishi Chemical Medience, Corp.,
4)