新規機能性素材開発を指向した
民族薬理学的調査にもとづく生薬の応用研究
~ドクダミ科植物 Houttuynia cordata Thunb. について~
2016 年
関 田 泰 子
目次
緒言………... 1
第一部 ドクダミHouttuynia cordataの民族薬理学的調査の研究………... 2
第一章 序論……….. 2
1. ドクダミ科植物について……… 2
2. ドクダミHouttuynia cordata Thunb. について………. 2
第二章 ドクダミの民族薬理学的調査……… 4
1. 調査地津野町について……… 4
2. 調査方法……… 4
3
. 調査結果……… 54. ドクダミ湿布 (HCP) の抗菌活性……….. 7
5. 小括………. 8
第二部 民族薬理学的調査結果をもとにした機能性素材としてのドクダミ Houttuynia cordataの応用研究………. 9
第一章 序論……… 9
. 第二章 ドクダミHouttuynia cordataのMRSA感染症を含むとびひおよび褥瘡への 外用薬としての応用 ~ ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP) の特性 ~ ……….. 10
1. eHCPのmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA) および methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) に対する抗菌効果………….. 10
2. eHCPのMRSA COLに対する経時的殺菌効果……….. 11
3. eHCPのMRSA T31に対する抗バイオフィルム効果……… 11
4. eHCPの細胞毒性……… 11
5. eHCPの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果……….. 12
6. eHCPのS. aureus以外の伝染性皮膚疾患起因菌に対する抗菌効果……… 12
7. 小括……….. 13
第三章 ドクダミHouttuynia cordataのオーラルケアを指向した研究
~ドクダミ湿布水溶液 (wHCP) およびドクダミ煎液 (dHC) の特性~……… 15
1. wHCPおよびdHCの口腔から分離される微生物に対する抗菌効果………….. 15
2. wHCP およびdHCの口腔から分離される微生物に対する 抗バイオフィルム効果………... 16
3. wHCPおよびdHCの細胞毒性……….. 18
4. wHCPおよびdHCの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果……… 18
4.1. wHCPおよびdHCの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果……… 18
4.2. wHCP (0.5-3時間前処理) のP. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞 RT-7に対する抗炎症効果………... 20
5. 小括……….. 20
結論……….. 23
謝辞………... 25
実験の部……….. 26
参考文献………... 31
1
緒言
近年,Quality of Life (QOL) の向上および医療経済への期待から,生薬を原料とするサプ リメントのヘルスケアへの応用が世界的に注目されている.生薬は,ユナニー(アラビア系 医学),アーユルベーダ (インド系医学),ジャムー (インドネシア系医学),漢方・中医学・
韓医学 (中国系医学) などの伝統医療や民間薬など,民族が長い年月をかけてその薬理効 果,用法用量,および安全性など日常の生活の中で経験した知識を口伝,または書物化し,
伝承されてきたものである.しかしながら,20世紀からの世界的グローバル化は,各地民 族固有の伝統社会崩壊を進行させ,これまで築いてきた貴重な民族薬物情報等の消失を招い ている.これらの中には現代社会が抱える疾病を解決する貴重な医薬品情報が含まれている 可能性も大きいが,口伝により伝承され,記録がないものも多い.
日本で古来より使用されてきた民間薬は,地域により独特な用法が伝承されてきたものも あるが,使用者の高齢化とともに,若い世代への伝承が困難になり,消失の危機に面してい る.この民間薬について民族薬理学的調査を行い,その効果について,薬理学的に評価し,
その科学的エビデンスを得ることは非常に重要である.さらにそれらを機能性素材としてセ ルフメディケーションなどへ応用できる可能性も期待される.
本研究では,日本三大民間薬の一つであるドクダミHouttuynia cordata Thunb. (Saururaceae) に着目した.ドクダミの民間薬としての歴史は古く,現在に至るまで国内外で薬用に供され てきた.今回,高知県高岡郡津野町でドクダミを使用した経験のある者を対象に聞き取り調 査を行った.さらに使用頻度および治療効果が高いと使用者が回答した適用について,その
効果をin vitroでの実験を行い,得られた科学的エビデンスを基礎として,ドクダミの機能
性素材とした応用への可能性についても検討を行った.
2
第一部 ドクダミ Houttuynia cordata の民族薬理学的調査の研究 第一章 序論
1. ドクダミ科植物について
本研究で着目したドクダミHouttuynia cordata Thunb. が属するドクダミ科 (Saururaceae) の植物は,APGⅡ体系によると,被子植物コショウ目 (Piperales) に属する多年性草本であ る1).ドクダミ科の植物は,アジアと北アメリカに4属6種,日本には2属2種が存在す る.Houttuyniaは東アジア~ヒマラヤに1種 (H. cordata,ドクダミ),Saururusは東アジア (S. chinensis,ハンゲショウ) と北アメリカ (S. cernuus) に各1種,Gymnothecaは中国とベト ナムに合計2種 (G. chinensis,G. involucrate),Anemopsisは北アメリカに1種 (A.
cafifornica) の植物が自生する2-6). H. cordataは薬用または食用 (若葉) として,また,S.
chinensis,G. chinensis,S. cernuusおよびA. cafifornicaは薬用として利用されている5-7).
2. ドクダミHouttuynia cordata Thunb. について
ドクダミは日本,朝鮮,中国,東南アジア,ヒマ ラヤに自生し,横走する白い地下茎があり,茎は高
さ30-50 cmで,托葉を除き,全体無毛,通常暗紫
色を帯びる.葉は有柄で,光沢のない暗緑色で基部 は心臓形で先端は鋭尖頭,花は両性で小形,1-3 cm 穂状または総状花序が密につき,花序の基部には通 常4枚の白色の総苞片があるが,花弁を欠く.花期 は5-6月である2-6, 8, 9) (Figure 1).
ドクダミの花期地上部は,「Houttuynia Herb (ジュ
ウヤク,十薬)」として,第七改正日本薬局方 (1961年) から現行の第十七改正日本薬局方
(2016年) まで収載されている.ドクダミは,民間療法で,内服で便秘,蓄膿症,高血圧,
風邪,梅毒,淋疾,痔などに,また外用で腫物,たむし,腰痛,冷え症,帯下,痔などに使 用される10).また,日本現存最古の本草書である『本草和名』 (深根輔仁,918年頃) に,
ドクダミは「之布岐」という和名で記録されており,日本での薬用植物としての歴史が古い ことがわかる.中国においても,宋代に出版された『經史證類大觀本草』 (唐慎微, 艾晟, 1108年) および明代に出版された『本草綱目』 (李時珍, 1578年) などの本草書に収載さ れ,現在「魚腥草 (Yuxingcao)」という生薬名で乾燥地上部を内服薬として,肺膿瘍,慢性
Figure 1. Houttuynia cordata Thunb.
(2015年6月撮影).
3
気管支炎,肺炎,慢性子宮頚部感染症,レプトスピラ症,中耳炎,膀胱炎,尿路感染症,赤 痢,および乳腺炎の治療に使用されている11).このようにドクダミは,古くから現在に至 るまで国内外で重要な生薬として使われている.
ドクダミは成分としてessential oil {β-myrcene,2-undecanone (methyl nonyl ketone),
aldehydes [decanal (capric aldehyde),dodecanal (lauryl aldehyde),3-oxo-dodecanal (decanoyl acetaldehyde,houttuynin)]} 9, 12-15),およびflavonoids (quercitrin,isoquercitrin,afzelin,
hyperin,rutin) などを含有する9, 12, 13, 16) (Figure 2).他に,alkaloids (aristolactam AⅡ,
aristolactam BⅡ,piperolactam A,norcepharacdione B),sterols (β-sitosterol,stigmasterol) など とともに,mineral (Fe2+, Mg2+, Mn2+, K+, Cu2+, Zn2+, Ca2+) を含むことが知られている12, 17). これらのうち,aldehydesは抗菌作用9, 15, 18, 19),quercitrinは抗炎症作用20, 21)および利尿作用
9, 22) があるという報告がある.
Figure 2. H. cordata に含有されるaldehydesおよびflavonoids.
4
第二章 ドクダミの民族薬理学的調査
1. 調査地津野町について
高知県高岡郡津野町は県中西部に位置し,2005年2月1日に東津野村と葉山村が合併して 誕生した.町内の約90%は山林で占められており,調査を行った東津野地域 (旧東津野村) は,
標高400 m以上の辺境の地で,かつては「土佐のチベット」と呼ばれていた.また,この町
内には徳島県三好市祖谷地区と同様に屋島から陸続きに,または壇ノ浦から海沿いに逃れて きた平家の落人の末裔が居住している.この様な地理的および歴史的背景を考慮し,独自の 民間薬が多数存在すると考えられる同町を本研究の調査地に選んだ.
2. 調査方法
徳島大学病院臨床研究倫理審査委員会で研究の承認 (介入を伴わない研究,承認番号 2344) を得たのち,高知県高岡郡津野町 (2015年7月1日現在の人口6,201名,女性3,248
名,男性2,953名) の,東津野地域および東津野地域に隣接する葉山地域 (Figure 3) で,事
前に作成したアンケート用紙 (Figure 4) を用いて,地元に詳しい同行者と共に,ドクダミ の使用経験について,アンケート調査を実施した.同意が得られた者に対して,年齢とドク ダミの薬として使用体験の有無について質問し,回答をアンケート用紙に記入した.ドクダ ミの効果について,よく効いた (3),効いた (2),少し効いた (1),効果なし (0),少し悪化 した (-1),悪化した (-2),非常に悪化した (-3),効果不明,忘れた等 (不明)で評価した.
Figure 3. 津野町の位置(東津野地域,葉山地域)
高知県 日本
東津野地域
高知市
(ドクダミ採集地)
葉山地域
5
3.
調査結果調査で同意が得られた96名の回答者 (女性49名,男性47名) のうち,ドクダミを薬と して使用した経験のある者 (使用経験者) は58名 (女性28名,男性30名,60.4%) で,そ の85.4%が60歳以上だった.
58名の使用経験者からドクダミの用途について96の回答を得た (Table 1).96の回答の 中で最も多いものは,癤 (furuncle) および癰 (carbuncle) を含む化膿性皮膚疾患 (腫物) で
全体の42.7%を占め,またこれは皮膚疾患の回答中で78.8%を占めた.
Figure 4. 調査に用いたアンケート用紙.
ドクダミの効果,-3 (非常に悪化した),-2 (悪化した),-1 (少し悪化した),0 (効果なし),
1 (少し効いた),2 (効いた),3 (よく効いた),不明 (効果不明,忘れた等)
6
Table 1. 使用経験者から回答があったドクダミの用途
分類 (回答数) 用途 (主に薬用) 回答数 %
皮膚疾患 (52)
腫物 41
54.2
痒み 6
湿疹,皮膚炎 1 アトピー性皮膚炎 1 蕁麻疹 1
口角炎 1
あせも 1
ハーブ茶 (30) 健康茶 30 31.3 外科疾患 (損傷) (4) 創傷 4 4.2 消化器疾患 ( 2) 腹痛 2 2.1 腎泌尿器疾患 (2) 利尿薬 2 2.1 循環器疾患 (2) 高血圧 2 2.1 その他 (4) その他 4 4.2
合計 96
使用経験者のドクダミの使用方法は,新鮮葉の外用,新鮮葉の内服,乾燥した地上部また は全草の煎服 (茶代用を含む) の3種類で,新鮮葉の外用の85.7%は腫物への適用だった (Figure 5).
腫物 : 78.8%
痒み : 11.5%
Figure 5. 使用経験者のドクダミの使用法とその用途.
0% 50% 100%
乾燥した地上部 または全草煎服
(n=52) 新鮮葉の内服
(n=2) 新鮮葉の外用
(n=42)
腫物 (n= 41) その他 (n=55)
7 ドクダミ新鮮葉の腫物への使用
方法 (外用) は次の3通りに分け られた:1)ドクダミの新鮮葉をカ キ,クワ,またはフキなどの大き な葉,和紙,またはアルミホイル に包み熱灰の中,または炭火の上 で蒸焼きにして作ったもの [ドク ダミ湿布,HC poultice (HCP)] を 患部に貼付する (69.4%,Figure
6),2) 新鮮葉を炙って患部に貼布
する (11.1%),3) 新鮮葉をもんで
患部に貼布する (19.4%).ドクダミを腫物に使用してよく効くという回答は85.4%で,特に HCPを腫物に使用してよく効くという回答は96.0%だった (Figure 7).
今回の調査結果により, HCPは腫物に繁用され,かつよく効くという回答が多いことが 分かった.しかし,HCPは,過去に使用したことがあるという回答が多く,現在使用して いるという回答はほとんどなかった.なお,ドクダミを使用 (外用,内服) して悪化したと いう回答はなかった.
4. ドクダミ湿布 (HCP) の抗菌活性
調査の結果,HCPが腫物に繁用され,かつよく効いたという回答が多いことが分かっ た.ドクダミ新鮮葉およびHCPが腫物に効果があるかを確認するために,癤や癰などの腫 物の起因菌である23-25) Staphylococcus aureus (methicillin-sensitive S. aureus T1, MSSA T1) に対 する寒天培地を使用した抗菌試験を行った.その結果,両者ともに阻止円が認められ,
(a) (b)
Figure 6. (a) 蒸焼き前の数枚のドクダミの新鮮葉を包んだカキ
の葉, (b) アルミホイルに包んで蒸焼きにしたドクダミ湿布 (HCP).
(a) (b)
Figure 7. (a) ドクダミの腫物に対する効果についての回答, (b)ドクダミ湿布 (HCP) の腫物に
対する効果についての回答.
よく効く 85.4%
効く 14.6%
よく効く 96.0%
効く 4.0%
8
MSSA T1に対して抗菌活性を有す
ることが確認された (Figure 8).さ らにHCPはドクダミの新鮮葉より 大きな阻止円が形成された
5. 小括
今回の調査で,ドクダミ湿布 (HCP) は,癤および癰を含む化膿性皮膚疾患 (腫物) に繁 用され,かつ使用者がよく効くと感じていることが判明した.さらに,HCPの抗菌効果を 確認するために,寒天培地を使用した抗菌試験を行った.その結果,HCPは,阻止円を形 成したことから,癤や癰などの腫物の起因菌であるS. aureus 23-25) (MSSA T1) に対して抗菌 効果を有することが確認された.以上のことから,HCPは,その抗菌作用により腫物の療 法に有効であるという可能性が示唆された.
HCPの腫物への使用は,高知県内では,1982年や2009-10年に長岡郡本山町で実施した 民族薬理学的調査の結果に記録されている26, 27).また,『民間薬用植物誌』(1924年) 28)や,
九州・沖縄,中国・四国,近畿,中部,関東および北海道・東北の各県の民間療法が記載さ れた書籍 (1976-77年) では16県で,腫物にHCPを使用するという記録がある29-34).また HCPの腫物への効果については,妙薬 (宮崎県) 29)または特効 (山口県) 30)と記されており,
その効果が高いと推察される.
『經史證類大觀本草』や『本草綱目』では,淡竹葉の筒の中にドクダミを入れて熱灰の中 で蒸焼きにしたものを外用薬とし,悪化した腫物の治療に用いられることが記載されてい る.この「煨 (ウイ,うずみび)」と呼ばれる蒸焼きの調製方法は,中国で古代から使用さ れてきた生薬の修治の一つである35, 36).HCPの調製方法およびその用途は,「煨」とよく類 似しており,本調製加工により,ドクダミの作用を増強させているのではないかと推測され る.
(a) (b)
Figure 8.ドクダミの新鮮葉 (a), ドクダミ湿布
(HCP) (b) のMSSA T1に対する阻止円.
9
第二部 民族薬理学的調査をもとにした機能性素材としてのドクダミ Houttuynia cordata の応用研究
第一章 序論
高知県高岡郡津野町におけるドクダミの民族薬理学的調査により,ドクダミ湿布 (HCP) が腫物に繁用されていることが判明するとともに,それから癤や癰などの腫物の主な起因菌 であるStaphylococcus aureus 23-25)に対して抗菌作用を示すことが判明した.
HCPの腫物に対するより詳細な薬理学特性を明らかにするために,HCPの EtOH抽出液
(eHCP) について,S. aureusに対する抗菌効果,抗バイオフィルム効果および細胞毒性を
評価した.Tool-like receptor (TLR) 2は,主にグラム陽性菌のlipoteichoic acid (LTA) のよう なパターンを認識する受容体 (Pattern Recognition Receptor,PRR) の一つである.上皮細胞 は,細菌感染などの様々な刺激に応答して,pro-inflammatory mediatorを分泌する37, 38).S.
aureus LTAは,TLR2 pathwayを介して上皮細胞を活性化し,interleukin (IL)-8 や CCL20
のようなcytokineやchemokine の産生を誘導することが報告されている39-41).そこで,宿
主側への効果を調べるために, LTAで刺激した上皮細胞に対するchemokine産生抑制効果
(抗炎症効果) について検討を行った.
次に,民族薬理学的調査でドクダミは健康茶としての利用が多かったことから,ドクダミ の機能性素材としての応用として,オーラルケアへの適用の可能性を検討した.口腔から分 離される微生物は,バイオフィルムであるデンタルプラークを口腔内で形成し,う蝕や歯周 病などの発症や進行に深く関与する.バイオフィルムの特徴として,抗菌薬および消毒薬が 深部の微生物まで浸透しにくく,免疫細胞に対して抵抗性を持つことにより,微生物増殖の 温床となっている42-44).口腔内への適用を考慮し,eHCPからEtOH を除去し,滅菌精製水 に再溶解したドクダミ湿布水溶液 (wHCP),および乾燥葉を水で煎じたドクダミ煎液 (dHC) を調製し,口腔から分離される微生物に対する抗菌活性,Streptococcus mutans,
Porphyromonas gingivalis,Fusobacterium nucleatumおよび Candida albicansに対する抗バイ オフィルム効果ついても,eHCPと同様な実験を行った.また,wHCPおよびdHCの細胞毒 性を調べた後,S. aureus LTAと同様に,P. gingivalis lipopolysaccharide (LPS) で刺激した上皮 細胞に対する抗炎症効果についての検討も行った.
10
第二章 ドクダミ Houttuynia cordata の MRSA 感染症を含むとびひおよび
褥瘡への外用薬としての応用
~ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP)の特性~1. eHCPのmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA) およびmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) に対する抗菌効果
eHCP,HCPの水抽出液およびHCPの水煎液のMRSA COLに対する感受性試験を行っ
た.なお,10% EtOH aq.をcontrolとした.結果として,eHCP は抗菌効果を示したが,HCP の水抽出液および HCPの水煎液は抗菌効果を示さなかった (Table 2).
Table2. ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP),ドクダミ湿布 (HCP) の水抽出液,ドクダミ湿
布 (HCP) の水煎液のMRSA COLに対するMIC
MIC
(%)* (μg/mL)
ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP ) 0.6 110 ドクダミ湿布 (HCP) の水抽出液 >10 >1760 ドクダミ湿布 (HCP) の水煎液 >10 >1760
10% EtOH aq. >10 >1760
* the concentration of eHCP in medium (V/V)
次に,MSSA臨床分離株11株,MRSA臨床分離株61株および MRSA COLに対する eHCPの感受性試験を行った.eHCP のMICは,MSSA と MRSA に対して,0.6% (110 μg/mL) から10% (1,760 μg/mL) を示した.90%以上のMRSA臨床分離株の MICs は 2.5 % (440 μg/mL) 以下だった (Figure 9).なお,MRSAとMSSAの MICの値には明らかな差が 認められなかった.
(a) (b)
Figure 9. MRSA およびMSSAに対するeHCPの抗菌効果.(a) MRSAおよびMSSAに対する抗菌効果,
(b) MRSA臨床分離株61株およびMRSA COLに対する抗菌効果(積算%).
11
2. eHCPのMRSA COLに対する経時的殺菌効果
eHCPのMRSA COLに対する経時的殺菌試験
を行った. 10% EtOH aq. をcontrolとして使用し た.10% eHCPの経時的殺菌曲線はFigure 10に示 した.その結果,eHCP添加10時間後の生存率が
1%であったことから,eHCPはMRSA COLに対
して弱いながらも殺菌効果を示すことが判明し た.
3. eHCPのMRSA T31に対する抗バイオフィルム効果
eHCPのMRSA T31に対する抗バイオフィルム
効果について試験を行った.この実験ではバイオ フィルム形成能の高いMRSA T31を使用した.
1% eHCPを24時間作用させた結果,バイオフィ
ルム形成を約40%抑制した (Figure 11).
4. eHCPの細胞毒性
RT-7に対するeHCPの細胞毒性は,
RT-7から遊離するLDH量を測定する ことにより定量した.なお,0.1%
Triton X-100をpositive controlとして 使用した.その結果はFigure 12に示 すように,1%以下のeHCPではRT-7 に対する細胞毒性は認められなかっ た.
Figure 10. 10% eHCPのMRSA COL に対する 経時的殺菌効果.
Figure 11. MRSA T31に対するeHCPの抗バイオ
フィルム効果. (*p < 0.01 vs. 1% EtOH aq.)
Figure 12. eHCPの上皮細胞RT-7に対する細胞毒性効果.
(*p < 0.01 vs. Control)
12
5. eHCPの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果
eHCP(0.1, 0.5, 1%)のS. aureus LTAで24時間刺激したRT-7からのIL-8 および CCL20 の産生量を調べた結果,eHCPはRT-7において有意にIL-8 および CCL20 産生量を濃度依 存的に抑制した (Figure 13).
6. eHCPのS. aureus以外の伝染性皮膚疾患起因菌に対する抗菌効果
癤,とびひおよび褥瘡のような伝染性皮膚疾患のS. aureus以外の起因菌23-25, 45-48) に対す るeHCPの感受性試験を行った.eHCPは,Staphylococcus epidermidis,Streptococcus pyogenes,S. mitis,Enterococcus faecalis および C. albicansに抗菌活性を示したが, S.
agalactiae, S. constellatas,Serratia marcescens,Escherichia coli および Pseudomonas
aeruginosa には抗菌活性を示さなかった (Table 3).eHCPは,グラム陽性菌の一部とC.
albicans に抗菌活性を示し,グラム陰性菌には活性を示さなかった.
(a) (b)
Figure 13. S. aureus LTAで刺激した上皮細胞RT-7に対するeHCPのchemokine産生抑制効果.
(a) IL-8および (b) CCL20産生量 (*p < 0.05, ** p < 0.01, ***p < 0.001 vs. None)
13
Table 3. ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP) のS. aureus以外の伝染性皮膚疾患起因菌に対
するMIC
Bacterial strain
MIC
(%)* (μg/mL)
Staphylococcus epidermidis TSE1 2.5 440
Streptococcus pyogenes TSP2 10 1760
Streptococcus mitis JCM12971 1.25 220
Streptococcus agalactiae TSA1 >10 >1760
Streptococcus constellatus 4528 >10 >1760
Enterococcus faecalis TEF1 5 880
Pseudomonas aeruginosa PAO1 >10 >1760
Escherichia coli K1 >10 >1760
Serratia marcescens TSM1 >10 >1760
Candida albicans CAD1 10 1760
* the concentration of eHCP in medium (V/V)
7. 小括
ドクダミ湿布 (HCP) から調製したドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP) の抗菌力測定を行 った結果,eHCPは MRSA COLに対して抗菌効果を示した.さらに,MRSA臨床分離株61 株およびMSSA臨床分離株11株に対しても抗菌活性をもつことが判明した (Figure 9).ま た,eHCPは弱いながらも殺菌的な効果を有することも判明した (Figure 10).
ドクダミの抗菌活性については,新鮮なドクダミ地上部に含有される,decanal,
dodecanalおよび 3-oxo-dodecanalなどのaldehydesがグラム陽性菌に抗菌活性を示すことが報 告されている 9, 15, 18, 19).
一方,eHCPはバイオフィルム形成を抑制したことから (Figure 11),fibronectin binding proteinsやstaphylococcal surface-attachment proteinsなどの付着因子49, 50)に影響を与えている 可能性や,バイオフィルムの基質となる多糖類の発現に影響を与えている可能性が考えられ る.
また,eHCPは,S. aureus LTAで刺激した上皮細胞RT-7からのIL-8 と CCL20産生量を 濃度依存的に抑制したことから (Figure 13),抗炎症作用を有することが示された.TLR2を 介した炎症に対する抗炎症効果をもったドクダミの成分は,蒸焼きや水煎などの加熱処理に おいても安定であると考えられる.以上の結果から,HCPは,腫物の原因となるS. aureus
14
に対して抗菌効果および抗バイオフィルム効果があると共に,S. aureus 感染症に対する治 癒機構に重要な役割を演じていることが判明した.
S. aureusは,癤,癤腫症,とびひ,褥瘡およびstaphylococcal scalded skin syndrome
(SSSS)などの皮膚や全身性の感染症の原因菌となる23-25).また,S. pyogenesは,S. aureus に次いでとびひや褥瘡の起因菌となる45-48).特に日本では,gentamicin軟膏の乱用が原因で
gentamicin耐性を獲得したMRSAを含むS. aureusが原因菌のとびひが,小児の間で増加傾
向にある51-53).eHCP がMRSA COL,MRSAの臨床分離株61株,およびS. pyogenesに抗菌
効果を示したことより (Figure 9, Table 3),HCPは,MRSAを含むS. aureusやS. pyogenesが 原因で起こる難治性のとびひに罹患した感染者に対して安全で有用な治療補助薬としての応 用が期待される.日本では,褥瘡を形成した長期入院者が多数存在し,その中に多くの MRSA保菌者がいることから,MRSAの院内感染において重要な問題になっている54-57). 今回の研究で,eHCPは,MRSAを含むS. aureus やS. pyogenesの他に,しばしば褥瘡の中 から分離されるS. epidermidis, S. mitis, E. faecalis および C. albicans 58) に対しても抗菌効果 を示すことが明らかとなった (Table 3).この結果から,HCPがこれらが起因菌となってい る褥瘡に罹患した感染者への治療補助薬になる可能性が示唆された.
さらに,HCPの抗菌効果は穏やかではあるが,抗バイオフィルム効果および抗炎症効果 を有する点で,単剤で複数の薬理効果を有する新規の外用剤の素材として注目される.
15
第三章 ドクダミ Houttuynia cordata のオーラルケアを指向した研究
~
ドクダミ湿布水溶液 (wHCP) およびドクダミ煎液 (dHC) の特性~
1. wHCPおよびdHCの口腔から分離される微生物に対する抗菌効果
wHCPおよびdHCの口腔から分離される微生物16株に対する抗菌活性を測定した結果,
wHCPは,MRSA,う蝕の原因となるS. mutans 59)を含む2株のStreptococcus spp.,歯周病の 原因となるF. nucleatumおよびP. gingivalis 60, 61)に対して弱いながらも活性を示した.一方,
dHCはほとんど活性を示さないことが判明した (Table 4).その中で,MRSA COLに対する MICは,eHCPとwHCPではあまり差が認められなかった.
Table 4. wHCPおよびdHCの口腔から分離される微生物に対するMIC
Bacterial strain
MIC
wHCP dHC
(%)* (μg/mL) (%)* (μg/mL)
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus MRSA T31
0.3 68 5 750
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus
MRSA COL 1.25 271 10 1500
Streptococcus mutans MT8148 5 1085 >10 >1500
Streptococcus mutans UA159 >10 >2170 >10 >1500
Streptococcus sobrinus 1310 >10 >2170 >10 >1500
Streptococcus gordonii ATCC10558 >10 >2170 >10 >1500
Streptococcus oralis ATCC10557 1.25 271 >10 >1500
Streptococcus constellatus 4528 >10 >2170 >10 >1500
Streptococcus intermedius 40138 >10 >2170 10 1500
Streptococcus mitis JCM 12921 - - 10 1500
Aggregatibacter actinomycetemcomitans Y4 >10 >2170 >10 >1500
Fusobacterium nucleatum JCM8532 2.5 543 2.5 375
Porphyromonas gingivalis ATCC33277 1.25 271 10 1500
Pseudomonas aeruginosa PAO1 >10 >2170 >10 >1500
Escherichia coli K1 >10 >2170 - -
Candida albicans CAD1 >10 >2170 >10 >1500
* the concentration of wHCP in medium (V/V)
16
2. wHCPおよびdHCの口腔から分離される微生物に対する抗バイオフィルム効果
wHCPは,MRSA T31およびF. nucleatumに対して,明らかに濃度依存的に24時間後の バイオフィルム形成を阻害した (Figure 14).また,wHCPは,S. mutans に対しても明らか に濃度依存的に6時間後のバイオフィルム形成を抑制した (Figure 14).さらに,wHCPは 24時間後の口腔カンジダ症の起因菌62, 63)となるC. albicansに対して,1%,5%および10%
の全ての濃度でほぼ同レベルの24時間後のバイオフィルム形成を抑制した (Figure 14).こ の結果,wHCPはMRSA T31,F. nucleatum およびC. albicansに対してはバイオフィルム形 成を,S. mutansに対しては初期付着を阻害することが示唆された.うがい薬への応用を考 えた場合,wHCPは,う蝕,歯周病および口腔カンジダ症の予防薬として期待できることが 判明した.
Figure 14. wHCP の抗バイオフィルム効果. (*p < 0.001)
17
次にdHCでも同様の実験を行ったところ, MRSA T31およびC. albicans に対して6時 間および24時間後の,またF. nucleatumに対して24時間後のバイオフィルム形成を抑制し た (Figure 15).この結果,dHCは,MRSA T31およびC. albicansに対しては初期付着およ びバイオフィルム形成を,F. nucleatumに対してはバイオフィルム形成を抑制した.dHC は,う蝕の起因菌であるS. mutans に対して抗バイオフィルム効果を示さなかった (data not
shown).以上より,dHCは,歯周病および口腔カンジダ症の予防に応用できることが期待
される.
Figure 15. dHCの抗バイオフィルム効果 (*p < 0.001)
MRSA C. albicans
F. nucleatum 24 hrs
18
3. wHCPおよびdHCの細胞毒性
wHCPおよびdHCの細胞毒性試験の結果,上皮細胞RT-7から遊離するLDHの値から,
10%以下のwHCPおよびdHCの細胞毒性は認められなかった (Figure 16).
4. wHCPおよびdHCの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果
4.1. wHCPおよびdHCの上皮細胞RT-7に対する抗炎症効果
まず,wHCPのS. aureus LTAで24時間刺激したRT-7からのIL-8 および CCL20の産生 量を調べた結果,1% wHCPは有意にRT-7おいてIL-8 および CCL20 産生量を抑制した (Figure 17) .
(a) (b)
Figure 16. wHCPおよびdHCの上皮細胞RT-7に対する細胞毒性. (*p < 0.001, **p < 0.01 vs. Control)
Figure 17. S. aureus LTAで刺激した上皮細胞RT-7に対するwHCPのchemokine産生抑制効果.
(*p < 0.05, **p < 0.01 vs. None)
(µU/mL)
19
次に, S. aureus LTAと同様に,P. gingivalis LPSで刺激したRT-7に対する抗炎症効果に ついての実験も行った.P. gingivalis LPSもTLR のリガンドであり,LTA と同様に,TLR2
pathwayを通して宿主細胞を活性化し,IL-8 や CCL20 の産生を誘導することが報告がされ
ている64-69).wHCP (0.1, 0.5, 1%) のP. gingivalis LPSで24時間刺激したRT-7からのIL-8
および CCL20の産生量を調べた結果,wHCPは有意にRT-7においてIL-8 および CCL20 の産生量を濃度依存的に抑制した (Figure 18).
1% dHCのP. gingivalis LPS で24時間刺激したRT-7からのIL-8 および CCL20の産生量 を調べた結果,1% dHCは有意にRT-7おいてIL-8 および CCL20 の産生量を抑制した (Figure 19).
Figure 19. P. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞RT-7に対するdHCのchemokine産生抑制効果.
(*p < 0.01 vs. Control)
Figure 18. P. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞RT-7に対するwHCPのchemokine産生抑制効果.
(*p < 0.05, **p < 0.01 vs. Control)
20
4.2. wHCP (0.5-3時間前処理) のP. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞RT-7に対する抗炎症 効果
ここまでは,wHCPのRT-7に対する24時間処理の実験を行ったが,うがい薬への適応を 考慮した場合,短時間の処理で同等の効果が得られるかを評価する必要がある.そのため,
まず,0.1%または1% wHCPで0.5-3時間前処理したあと,P. gingivalis LPSで24時間刺激
したRT-7からのIL-8 および CCL20の産生量を調べた結果,1% wHCPは,前処理依存的
にRT-7からのIL-8 および CCL20 の産生量を有意に抑制した (Figure 20).dHCにおいて も同様の試験を行ったが,これらの産生を抑制しなかった (data not shown). wHCPはRT-7
のIL-8 および CCL20の産生量を抑制することから,うがい薬への応用の可能性が示唆さ
れた.
5. 小括
wHCPは,MRSA,S. mutansを含む2 種のStreptococcus spp., F. nucleatumおよびP.
gingivalisの口腔内から分離される微生物に対して弱いながらも抗菌効果を示し (Table 4),
さらにMRSA,S. mutans,F. nucleatumおよびC. albicansに対して抗バイオフィルム効果を 示した (Figure 14).wHCPは,MRSA,F. nucleatumに対してはバイオフィルム形成を,S.
mutansに対しては初期付着を阻害したと考えられる(Figure14).また,wHCPは,S. aureus
LTAやP. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞RT-7からのIL-8 および CCL20の産生量を抑 制することが分かった (Figure17, 18).さらに,wHCP で0.5-3時間前処理すると,P.
gingivalis LPSで刺激したRT-7からのIL-8 および CCL20の産生量が抑制された (Figure
20).細胞毒性が極めて低く (Figure 16a),無味無臭であるwHCPは,うがい薬への臨床的な
応用を考えた場合,う蝕,歯周病および口腔カンジダ症の予防薬として期待できる.MRSA のMICについては,eHCPとwHCPでは明らかな差が認められなかったが,dHCはその活 性はほとんど認められなかった (Table 2, 4).
Figure 20. P. gingivalis LPSで刺激した上皮細胞RT-7に対するwHCPのchemokine産生抑制効果.
(*p < 0.05, **p < 0.01 vs. Control)
21
dHCは口腔内微生物に対して抗菌効果はほとんど示さないが (Table 4),MRSAおよびC.
albicansに対しては初期付着およびバイオフィルム形成を,F. nucleatumに対してはバイオ
フィルム形成を抑制することが明らかとなった (Figure 15).また,dHCは,RT-7おいてP.
gingivalis LPSで刺激したIL-8 および CCL20の産生量を有意に抑制することが判明した
(Figure 19).
これまでに,ドクダミ葉の水煎液のLTAで刺激したヒト線維芽細胞に対する抗炎症作用
70),ドクダミ乾燥全草の水煎液の急性および亜急性の炎症の抑制作用71),ドクダミ乾燥地 上部EtOH抽出液の肺上皮細胞からのIL-6およびnitric oxide (NO) 産生抑制作用72),ドクダ ミEtOH抽出液のヒトマスト細胞でNF-κB シグナル伝達経路の阻害によるpro-inflammatory cytokines産生抑制作用73) が報告されている.また,ドクダミ乾燥地上部のessential oilは,
nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) と類似の作用でcyclooxygenase-2 (COX-2) を阻 害し74),LPSで刺激したマウスの腸膜のマクロファージからのNOとtumor necrosis factor-α
(TNF-α) の産生を抑制するという報告がある75).さらに,ドクダミに含有されるquercitrin
は,histamineやserotoninが原因となる急性炎症を抑制する作用を有し20),また,
inflammatory mediator であるprostaglandin (PG) E2の放出を減らしたり,IL-1β処理したヒト 歯肉線維芽細胞から誘発されるcollagen の代謝をたかめたりする作用がある21).これらの 報告および今回の実験結果から,ドクダミの抗炎症作用成分は,単一化合物ではなく,ま た,乾燥,加熱など抽出や調製の過程を経ても安定なものであると推測される.eHCP,
wHCPおよびdHCが含むこれらの活性成分を探索することが今後の課題であると考えられ る.
歯周病の病原菌であるP. gingivalisおよびA. actinomycetemcomitansは,循環器疾患,糖尿 病および早産のリスクを上げると考えられる60). F. nucleatumおよびP. gingivalisは,時と して日和見感染を起こし,ガン,リウマチ性関節炎,および糖尿病を含む全身的な慢性疾患 のリスクを上昇させる61).また,免脳梗塞患者において口腔咽頭に形成されたバイオフィ ルムからはP. aeruginosaやStaphylococcus spp.,Candida spp.の検出率が高かったという報告 があり,免疫力の低下した特に高齢者等において,口腔咽頭から検出された微生物を起因菌 とする誤嚥性肺炎は深刻な問題となっている76).今回の実験結果から,wHCPは,高齢者 におけるこれらの予防を目的としたうがい薬となる可能性も期待される.
Povidone iodine,chlorhexidineおよびbenzethonium chlorideなどの消毒薬は,う蝕や歯周病 などの口腔疾患の予防のためにうがい薬としてよく使用される77-82).しかし,これらの消 毒薬は細胞毒性,アナフィラキシーなどの副作用があることに加え,その刺激的な味覚も使 用上の問題があることが報告されている82-84).これに対し,wHCPおよびdHCは,無味無 臭で細胞毒性が極めて低い点において,既存の消毒薬より優れていると考えられる.
22
以上のことから,wHCPはうがい薬などのへの応用に適し,一方dHCは調製が簡単であ り,ドクダミ茶として日常生活の中で手軽に飲用できるという利点があることから,両者は ヘルスケアの応用に可能な機能性素材として期待される.
23
結論
本研究は,日本三大民間薬の一つであるドクダミHouttuynia cordata Thunb. (Saururaceae)に 着目して,民族薬理学的調査を行い,調査で得られたドクダミの使用法に関する科学的エビ デンスを得るとともに,その機能性素材としての応用の可能性に関する検討を行った.
1) 徳島大学病院臨床研究倫理審査委員会で研究の承認 (介入を伴わない研究,承認番号
2344) を得たのち,高知県高岡郡津野町でドクダミの使用経験者を対象に聞き取り調査を行
いった.同意の得られた96名の回答者 (女性49名,男性47名) のうち,ドクダミを薬と して使用した経験のある者 (使用経験者) は58名 (女性28名,男性30名,60.4%) だっ た.58名の使用経験者からドクダミの用途について96の回答を得た.それらの回答を解析 した結果,ドクダミの新鮮葉を蒸焼きにしたドクダミ湿布 (HCP) が腫物に繁用され,かつ よく効くという回答が多いことが分かった.寒天培地を使用した抗菌試験を行った結果,
HCPは阻止円を形成し,癤や癰などの腫物の起因菌であるStaphylococcus aureus (methicillin–
sensitive S. aureus (MSSA) T1に対して抗菌効果を有することが確認された.
2) HCPの腫物に対する薬理学的特性を解析するために,ドクダミ湿布のEtOH抽出液
(eHCP) を調製した.eHCPは,腫物の原因となるS. aureus [MSSA臨床分離株11株および
methicillin-resistant S. aureus (MRSA) 臨床分離株61株とMRSA COL] に対する抗菌効果およ びMRSA T31に対する抗バイオフィルム効果およびS. aureus lipoteichoic acid (LTA) で刺激 した上皮細胞RT-7からのinterleukin (IL)-8 と CCL20産生量を抑制する抗炎症効果が確認 された.とびひの起因菌となるS. aureusおよび Streptococcus pyogenesや,縟瘡の創部から 検出される微生物に対し,eHCPが抗菌活性を有することが明らかになった.
3) 民族薬理学的調査でハーブ茶としての利用が多かったことから,オーラルケアへの応用 の可能性について検討した.口腔内への適用を考慮し,eHCPのEtOHを除去し滅菌精製水 で再溶解したドクダミ湿布水溶液 (wHCP) を調製した.また,乾燥葉を水で煎じたドクダ ミ煎液 (dHC) を調製した.これらの抗菌効果,抗バイオフィルム効果および抗炎症効果を 評価した.その結果,いずれも、抗バイオフィルム効果および抗炎症効果が確認された.ま た,wHCPのみ,口腔から分離される微生物に対する抗菌活性が認められた。
これらの実験結果から,HCPは,S. aureus (MRSAを含む) や褥瘡に対する外用薬とし て,また,wHCPは,う蝕,歯周病および口腔カンジダ症の予防薬にうがい薬として応用で きる可能性が示唆された.またdHCも,歯周病および口腔カンジダ症の予防にドクダミ茶 として日常生活の中で手軽に飲用できる可能性が示された.
24
eHCPおよびwHCPは,抗菌効果は穏やかではあるが,抗バイオフィルム効果および抗炎 症効果を示したことが特徴的であり,微生物および宿主側の両方に作用する特性を持った機 能性素材である点は注目される. Penicillinの発見以来,抗菌薬は微生物感染症に対する重 要な治療薬となった.しかしながら,抗菌薬の乱用はMRSAやmultidrug-resistant P.
aeruginosaなどの薬剤耐性菌の出現という重大な問題を引き起こした.今後,HCP,
eHCP,wHCPおよびdHCの抗菌作用,抗バイオフィルム作用,および抗炎症作用などの活
性を有する成分の解析が必要である.本研究は,民族薬理学的調査にもとづき,その科学的 エビデンスを得るとともに,生薬の機能性素材としての応用の可能性のたかさを示したもの であり,今後,セルフメディケーションへの生薬の利用の一助となると期待される.
25
謝辞
本研究を行うにあたり,御懇篤な御指導および御助言を賜りました徳島大学大学院医歯薬 学研究部生薬学分野 柏田良樹教授 および田中直伸准教授に衷心より感謝の意を表します.
本研究を行うにあたり,ドクダミの抗微生物試験および抗バイオフィルム試験など御懇篤 な御指導を賜りますと共に,種々の御助言および御援助を賜りました徳島大学大学院医歯薬 学研究部口腔微生物学分野 三宅洋一郎教授,弘田克彦准教授,村上圭史助教,天羽崇修士 および 藤原奈津美修士に衷心より感謝の意を表します.
本研究を行うにあたり,ドクダミの細胞毒性試験およびEnzyme-linked immunosorbent
assay (ELISA) の御懇篤な御指導を賜りますと共に,種々の御助言および御援助を賜りまし
た徳島大学大学院医歯薬学研究部歯科保存学分野 松尾敬志教授 および 湯本浩通講師 (徳 島大学病院歯科併任) に衷心より感謝の意を表します.
本研究において,御教示を賜りました徳島大学大学院医歯薬学研究部分子情報薬理学分野 福井裕行元教授 (現徳島大学大学院医歯薬学研究部分子難病学分野特任教授) および 水口 博之准教授に感謝の意を表します.
本研究において,御教示を賜りました大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 荻野敏名 誉教授に感謝の意を表します.
本研究において,ドクダミの同定,分類学および『本草綱目』をはじめとする古文献の閲 覧等の御助言を賜りました高知県立牧野植物園 藤川和美研究員,前田綾子研究員,標本庫 および 図書室職員の皆様に感謝の意を表します.
最後になりましたが,民間薬調査に際し御助言,御援助,御協力を頂きました高知県高岡 郡津野町の皆様,社会人の大学院での研究に御理解および御協力を賜りました勤務先の皆 様,御支援を賜りました諸先輩,友人および家族に感謝の意を表します.
26
実験の部
1. ドクダミの採集,および同定
抗菌試験に用いたドクダミHouttuynia cordata Thunb. は,2013-15年6-7月に高知市朝倉 で採集した新鮮葉を冷凍保存した.本植物は,藤川和美博士(高知県立牧野植物園)によっ て同定され,標本 (FOS-005024,FOS-005025,FOS-007536,FOS-007537およびFOS-
010389) は,牧野植物園標本庫にて保管されている.
2. ドクダミ湿布 (HCP),ドクダミ湿布 (HCP) の水抽出液,ドクダミ湿布 (HCP) の水煎
液,ドクダミ湿布EtOH抽出液 (eHCP),ドクダミ湿布水溶液 (wHCP) およびドクダミ煎液 (dHC) の調製
ドクダミ湿布 (HCP)
-80°Cで冷凍保存した新鮮葉約10 gをアルミホイルに包み,電磁調理器で温めたフライ
パン (450 W, geo PRODUCT, Niigata, Japan) の上に置き,6分間加熱して調製した.
HCPの水抽出液
HCP約10 gに滅菌精製水10 mLを加えて15分間振とうしたのち,1,500 gで20分間遠 心分離し,上清を試験に使用した.
HCPの水煎液
HCP約50 gに滅菌精製水200 mLを加えて30分間90-95Cで抽出 (EK-SA 10, ZOJIRUSHI, Osaka, Japan) したのち,1,500 gで15分間遠心分離し,上清を試験に使用 した.
HCP EtOH 抽出液 (eHCP)
EtOH 5 mLの中にHCP約20 gを加え10分間振とうしたのち,1,500 gで20分間遠心分 離し,上清を試験に使用するまで-20°Cで保存した.
HCP水溶液 (wHCP)
eHCPを減圧濃縮 (WKN-PV-1200, WAKENYAKU, Kyoto, Japan) して得た残渣を,滅菌 精製水に溶解した.wHCPは各試験の必要量を調製した.
ドクダミ煎液 (dHC)
ドクダミ乾燥葉約3 gに滅菌精製水130 mLを加え30分間90-95Cで煎じた (EK-SA
10) のち,1,500 gで15分間遠心分離し,上清を0.45 μmのフィルターでろ過滅菌した
ものを試験に使用するまで4°Cで保存した.
27 3. 試験に使用した菌株および増殖条件
3.1. 試験に使用した菌株
試験に使用した菌株をTable 5に示した.
Table 5. 試験に使用した菌株
Strain Source
Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus MSSA T1-11 strains Clinical isolates Methicillin-resistant Staphylococcus aureus MRSA T1-61 strains Clinical isolates
MRSA COL Wild type
Staphylococcus epidermidis TSE1 Clinical isolate
Streptococcus pyogenes TSP2 Clinical isolate
Streptococcus mitis JCM12971 Wild type
Streptococcus agalactiae TSA1 Clinical isolate
Streptococcus constellatus 4528 Clinical isolate
Streptococcus mutans MT8148 Clinical isolate
Streptococcus mutans UA159 Clinical isolate
Streptococcus sobrinus 1310 Clinical isolate
Streptococcus gordonii ATCC10558 Type strain
Streptococcus oralis ATCC10557 Type strain
Streptococcus intermedius 40138 Clinical isolate
Aggregatibacter actinomycetemcomitans Y4 Wild type
Fusobacterium nucleatum JCM8532 Wild type
Porphyromonas gingivalis ATCC33277 Type strain
Enterococcus faecalis TEF1 Clinical isolate
Pseudomonas aeruginosa PAO1 Wild type
Escherichia coli K1 Wild type
Serratia marcescens TSM1 Clinical isolate
Candida albicans CAD1 Clinical isolate
28 3.2. 試験における培養条件
E. faecalis,E. coli,S. marcescens およびP. aeruginosaは 50 μg/mLのCaCl2および25 μg/mLのMgCl2を添加したMuller-Hinton broth (MHB, Becton Dickinson, Sparks, MD, USA) の 培地で,S. aureusおよび S. epidermidisは25 μg/mLのCaCl2,12.5 μg/mLのMgCl2および 2%のNaClを添加したMHB (CA-MHB) 85) の培地で,C. albicansはSabouraud dextrose medium (peptone 10.0 g/L,glucose 40.0 g/L) の培地で,37℃で好気的条件で培養された.
Streptococcus spp.はbrain heart infusion (BHI,Becton Dickinson) の培地で,F. nucleatumおよ びP.
gingivalis
は5 μg/mLの heminおよび0.5μg/mL のmenadioneを添加したBHIの培地 で,およびA. actinomycetemcomitans はTodd Hewitt Broth (OXOID Ltd., Hampshire, UK) の培 地で,37℃で嫌気的条件で培養された.MRSAに対する経時的殺菌試験はTrypticase soy broth (TSB, Becton Dickinson) および TSB 寒天 (Wako,Osaka,Japan) 培地で,37℃で好気 的条件で培養した.抗バイオフィルム試験では,MRSA T31とC. albicans CAD1はそれぞれ TSB培地 (0.3% glucose添加) と2.5 mmol/Lの N-acetylglucosamineを添加したyeast nitrogen base medium (pH 7, YNBNP) 86) 培地で,37℃で好気的条件で,S. mutans MT8148とF.nucleatum JCM8532はそれぞれ0.3% sucroseを添加したTSB培地と5 μg/mLのhemin および 0.5 μg/mLのmenadioneを添加したTSB培地で,37℃で嫌気的条件で培養した.
4. 寒天培地を使用した抗菌試験
試験菌は,MRSA COLおよびMSSA T1を用いた.CA-MHBに1.5%の寒天を加えた寒天 培地を調製した.TSB培地を用いて前培養し,生理食塩水にて希釈し,約1 × 108 colony
forming unit (CFU)/mL となるように調製した菌液を塗布した寒天培地に,ドクダミ新鮮葉
約2.5 gまたはドクダミ湿布の塊 約2.5 gを置いて,37°Cで24時間培養し,阻止円を観察
した.
5. 感受性試験
液体微量希釈法を用いて,ドクダミ湿布HCP水抽出液,ドクダミ湿布水煎液, eHCP,
wHCPまたはdHCの最小発育阻止濃度 (The minimum inhibitory concentration,MIC) を測定 した.細胞用培養用96 wellプレート (TPP, Trasadingen, Switzerland) に連続希釈液を作成 し,前培養した菌液を生理食塩水にて希釈し,約1 × 104 CFU/mLになるように接種した.
E. faecalis,E. coli,S. marcescens, P. aeruginosa, S. aureus,S. epidermidisおよびC. albicansは 好気的条件で,またはStreptococcus spp.,A. actinomycetemcomitans,F. nucleatum またはP.
gingivali
s
は嫌気的条件で,37C で20時間または48時間培養した後,MICを測定した.29 6. MRSAに対する経時的殺菌試験
前培養したMRSA COL約106 CFU/mLを10% eHCPを含有したTSB, Becton Dickinson培 地で,37Cで振とう培養し,時間ごとにTSB寒天培地に塗布し,37Cで24時間培養後,
CFUを計測した.10% EtOH aq.をcontrolとして使用した.eHCPまたはEtOH aq.を加える 直前の生菌数を100%として生存率を算出し,殺菌曲線を作成した.
7. 抗バイオフィルム試験
クリスタルバイオレット法により,バイオフィルムの形成量を測定した87).この試験に はMRSA T31を使用した.2 μl (2 × 106 CFU/mL) の MRSA T31,S. mutans MT8148 または C. albicans, または 5 μl (2 × 106 CFU/mL) の F. nucleatum JCM8532を各培地150 μlが入った 細胞培養用96 wellプレート (Cellstar, Greiner-bio-one, Frickenhausen, Germany) に播種し,そ ののち1% eHCP,1, 5, 10% wHCPまたは10% dHCとなるように加えた.MRSA T31および C. albicansは好気的条件,S. mutans MT8148およびF. nucleatumは嫌気的条件で,6時間ま たは24時間培養した.1% eHCPは1% EtOH aq.,1, 5, 10% wHCPは1, 5, 10%滅菌精製水,
または10% dHCは10%滅菌精製水をcontrolに用いた.精製水で静かに洗浄した後,0.1%ク
リスタルバイオレット 150 μL を加えて,10分間室温に放置した.精製水で洗浄した後,
各wellにEtOH 200 μL を加えて,10分間室温に放置した.その後 150 μLを細胞用培養用
96 wellプレートに取り出し,microplate reader (model 680; Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA) を使って,吸光度 (OD 595nm) でバイオフィルム量を測定した.
8.
上皮細胞RT-7の培養ヒト歯肉上皮細胞RT-7 cellsは,鎌田伸之博士 (広島大学医歯薬保健学研究科) から恵与さ れた88).RT-7 は,100 U/mL のpenicillin,および 100 μg/mL のstreptomycin (Gibco BRL,
Gaithersburg,MD,USA) を添加したKerationocyte-SFM培地 (Gibco BRL) にて37°C, 95%
空気と 5% CO2 の存在下で培養した.実験にはコンフルエントに達するまで培養した RT-7 を使用し、1μg/mL purified S. aureus lipoteichoic acid (LTA,InvivoGen,San Diego,CA,USA) または1μg/mL P. gingivalis lipopolysaccharide (LPS,InvivoGen) で刺激した.
30
9.
細胞毒性試験 (L
actate dehydrogenase cytotoxicity assay)eHCP,wHCPまたはdHCの細胞毒性はlactate dehydrogenase (LDH) cytotoxicity assayを用 いて解析した.すなわち,24 wellプレートで,コンフルエントまで達した上皮細胞RT-7 に,0.1, .5, 1% eHCP,0.1, 0.5, 1, 10% wHCPまたは1, 10% dHCとなるように添加した Kerationocyte-SFM培地で,95% 空気と 5% CO2の存在下37Cで24時間培養した.positive controlとして,RT-7を0.1% Triton X-100で,室温で10分間処理した.LDHのレベルは LDH cytotoxicity assay kit (Cayman Chemical, Ann Arbor, MI, USA) のプロトコルに従い実施し た.吸光度 (OD 490 nm) をmicroplate reader (Bio-Rad Laboratories) にて測定した.
10 .
Enzyme-linked immunosorbent assay ( ELISA)培養上清中のinterleukin (IL)-8 および CCL20/macrophage inflammatory protein-3 (R&D Systems, Minneapolis, MN, USA) 濃度をELISA法にて定量した.すなわち,DuoSet ELISA Development System (R&D system) キットを用い,プロトコルに従い試料を処理した後, 吸光 度 (OD 450 nm) をmicroplate reader (Bio-Rad Laboratories) にて測定した.
11.
統計分析全ての統計分析は,Student's t testを用いた.有意差の確率は5%以下とみなした(P <
0.05).
31
参考文献
[1] 邑田仁; 米倉浩司. 高等植物分類表, 北隆館, 2009, 13-21.
[2] 青木清勝(Saururaceae)他,神奈川県植物誌調査会. 神奈川県植物誌, 神奈川県立生命 の星・地球博物館, 2001, 718.
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