走査型プローブ顕微鏡による電力用半導体デバイス 評価法の開発
著者 潤間 威史
発行年 2019‑12
出版者 静岡大学
URL http://doi.org/10.14945/00027495
(課程博士・様式7)(Doctoral qualification by coursework,Form 7)
学 位 論 文 要 旨
Abstract of Doctoral Thesis
専 攻:光・ナノ物質機能専攻 氏 名:潤間 威史 論文題目:走査型プローブ顕微鏡による電力用半導体デバイス評価法の開発
論文要旨:
人類の発展に伴い,エネルギー利用の多様化が続いている.電力用半導体デバイス(パワーデバイ ス)は電気エネルギーを利用し易い電圧や周波数へ変換するため,低電圧用途から高電圧用途まで多 くの場面にて使用されている.これらの微細な構造を有する半導体デバイスの解析手法として走査型 プローブ顕微鏡(Scanning probe microscope: SPM)による評価が行われている.しかしながら,これ までは評価用に作製されたデバイスに留まっており,パッケージされたデバイス(以下,実デバイス) の評価は行われていない.実デバイスを SPM により評価することは産業的・学術的に意義がある.
そこで本研究では,実デバイスのパワーデバイスを動作環境下においてSPM計測(オペランド計測) する手法の開発を目的とした.
SPMの1つである原子間力顕微鏡(Atomic force microscope: AFM)は探針が先端に取り付けられ た片持ち梁で試料表面を走査し,表面形状をナノメートルスケールで観測する装置である.本研究で はAFMに加えて,表面の電気特性分布を計測する手法として,試料表面の電位分布を計測するため のケルビンプローブ力顕微鏡(Kelvin probe force microscope: KFM)や半導体のキャリア密度分布に 依存する信号を計測する走査型容量原子間力顕微鏡(Scanning capacitance force microscope:
SCFM)を複合化した多機能SPMを構築した.
まず,デバイス材料として最も使用されるSiかつデバイス構造の単純なパワーデバイスであるシ ョットキーバリアダイオード(Schottky barrier diode: SBD)を評価した.試料は実デバイスの動作面 を切断により露出させ,その動作面を手研磨により平坦化したものを用いた.このように処理したデ バイスの試料において,電流-電圧特性を計測した結果,整流特性を示したことから,デバイス機能 が維持されていることを確認した.AFM/KFM/SCFM により,Si-SBD への逆方向バイアス電圧の 有無を比較したところ,理論値に対して妥当な空乏層幅(539 nm)を計測することが出来た.
次に,パワーデバイス材料として,Si 以上の効率が期待され,開発・研究が進められている SiC
を用いたSiC-SBDを評価した.試料表面はダイアモンドラッピングシートを使用して,手研磨する
ことで平坦化した.AFM/KFM/SCFMを用いた評価により,SiC-SBDへの逆方向バイアス電圧の有 無を比較したところ,トラップ電荷によるSCFM信号の増加が確認された.これらの結果から,試 料の作製法の改善や,KFM/SCFMの同時測定の際の感度の向上,及びカンチレバーの位置決め技術 の改善などの課題が示された.
これらの改善点のうちまず,試料作製法については再現性と精度を向上させるために研磨機による 機械研磨を導入した.試料はSi製ファストリカバリーダイオード(Fast recovery diode: FRD)を用い
た.AFM/KFMを使用して,Si-FRDへの逆方向バイアス,順方向バイアス,デバイス電極間開放の それぞれの状態を比較した.得られた結果から,n-層幅を見積もったところ36.6 μm であった.こ
の n-層幅を広がり抵抗測定から得られた値と比較したところ,良い一致を示した.従って,機械研
磨による広範囲の平坦化によって,デバイス構造を解析することが出来た.
次に,KFM/SCFM の同時測定における感度の向上については散逸力変調(Dissipative force modulation: DM)方式を適用することにより,感度向上を試みた.まず,DM方式によるSCFMを 可能とするための理論式を導出した.その後,DM-SCFMと従来(Amplitude modulation: AM)方式 のSCFMの最小検出力を見積もったところ,DM方式は0.74 fNであり,AM方式は99.83 fNであ った.このことから,DM方式による感度向上が予想された.変調信号の振幅を3.0 Vから1.5 Vま で変化させ,評価用試料をDM方式とAM方式により測定した.SCFM像から求めた信号対雑音比 は全ての変調電圧振幅においてDM方式の方が高いことから,DM方式によるSCFMの高感度化に おける有効性を確認出来た.
最後に,カンチレバーの位置決め法の改善については電子顕微鏡(Scanning electron microscope:
SEM)の真空チャンバー内にて動作可能なAFMを開発することにより,高精度化を行った.一般的
なAFM装置でのカンチレバーの位置決めは光学顕微鏡による観察であることから,パワーデバイス のpn接合部を判断することは困難である.そこで,SEM のイメージング手法である電子線誘起電 流を用いてpn接合部を可視化することで,カンチレバー探針を高精度に位置決めする手法を開発し た.また,パワーデバイスを設置可能な空間を有するスキャナーを開発した.これらの装置により化 学 機 械 研 磨 に よ る 表 面 処 理 を 行 っ た Si-FRD の pn-接 合 部 へ カ ン チ レ バ ー を 位 置 決 め し , AFM/KFM/SCFM測定を行った.デバイス電極間を短絡した状態のSi-FRDのKFM及びSCFM像
には,p領域及びn-領域のキャリア密度と極性に対応したコントラストが観察された.これは試料の
平坦化手法の改善によるものと考えられる.また,逆方向バイアス電圧印加状態のSi-FRDのKFM
像から,pn-接合部においてバイアス電圧と同等の電圧降下が確認された.これらの結果より,SEM
と複合化したパワーデバイス評価用のAFMの有効性が明らかとなった.
本論文では,SPMを用いた実デバイスのオペランド計測法を開発した.今後,本手法に基づき,
結晶欠陥とデバイス特性との相関を評価することが期待される.また,KFMの時間分解能を向上さ せる技術と組み合わせることで,キャリアの動的な挙動を電極や酸化膜界面において測定することも 可能となる.