体制化の誘導がドットパターンの良さに与える影響
The Influence of Induced Organization on Goodness of Dot Pattern
概要: 本研究は,体制化の方略を誘導するパターン(パターン誘導刺激)を先行呈示した場合,プライミング効果によって後続のパターンのよさが変調さ れるかを確かめることを目的とした。パターン誘導刺激は,類同を利用することで後続パターンの体制化の方略の誘導を図っており,合計9つ作成された。
実験の結果,パターン誘導刺激を閾上呈示した場合,後続パターンの印象のよさは,一部のパターンにおいて操作通りの変調が見られた。よって,パターン 誘導刺激を先行呈示すると,プライミング効果によって後続パターンに対する体制化の方略が誘導されることが示唆された。一方,パターン誘導刺激を閾下 呈示した場合は,後続パターンのよさの変調は見られなかった。よって,後続パターンの体制化をプライミング効果によって操作するためには,パターン誘 導刺激によって誘導される体制化の方略が意識的に処理される必要があるという可能性が考えられる。
キーワード:パターンのよさ,体制化,ドットパターン,プライミング効果 Keywords:pattern goodness, organization, dot pattern, priming effect
1. 序論と目的
私たちが日本庭園を歩くとき,複数の樹木や景石などから構成される景 色に対して趣深いと感じることがあるだろう。その要因は様々であるが,例 として物の配置のよさが考えられる。心理学において,配置のよさに関連す る研究事例として,パターンのよさ評定に関する研究が挙げられる。パター ンのよさ評定の要因として,従来はパターンの持つ構造という物理的な特 性に着目されていたが,参加者による体制化という知覚的な特性が影響す ることも明らかになっている(児玉・三浦, 2011)。しかし,何らかの手掛か りによって体制化の方略を誘導された場合についてはよくわかっていない。
誘導の手段として,先行刺激を処理することによって後続刺激の処理に影 響を及ぼす現象として知られるプライミング効果(川口, 1988)の利用が考 えられる。もし意図的に体制化したパターンを先行刺激として呈示し,それ に応じて後続刺激の体制化が変容する場合,後続パターンの印象は変調さ れるだろう。意図的に体制化を操作するには,類同を利用して,まとまりの 数を操作することが有効であると考えられる。類同とは,複数の刺激がある ときに似た特徴を持つ刺激がまとまりとされやすい,という性質である(三 浦, 2007)。本研究は,類同を利用することでまとまりの数を誘導するパタ ーン(パターン誘導刺激)を先行呈示した場合,プライミング効果によって 後続のパターンのよさが変調されるかを確かめることを目的とした。
2. 実験1 2.1. 目的と方法
先行研究通り,ドットパターンのまとまり数が多いほど印象のよさ評定 が低下するか確かめること,および実験2以降に使用するドットパターン の選定が目的であった。刺激として,Garnerパターン(Garner & Clement,
1963; 児玉・三浦, 2011)を参考とした15種類のドットパターンが用いら
れた。実験はA4の白色用紙を用いたアンケ―ト形式で行われた。ドットパ ターンは,一枚の用紙に1つずつランダムに印刷された。参加者は,ドット パターン一覧とまとまり作成例に目を通した後,まとまり作成課題と印象
のよさ評定課題を順に行った。まとまり作成課題では,参加者は,ドットパ ターンがどのようなまとまりを持っているように感じたかを報告した。報 告の方法は,用紙に印刷されたドットパターンに囲み線を描くことであっ た。印象のよさ評定課題では,参加者は,ドットパターンの印象のよさを「1: 非常に悪い」~「7:非常に良い」の7件法で評定し,報告した。
図 1. 実験で用いられたドットパターン(数字はパターン番号)。
2.2. 結果
参加者46名のデータを対象に分析を行った。まず,各パターンのまとま り数の平均値とよさ評定値の平均値を算出した。相関分析を行った結果,有 意な相関は見られなかった(r = -.376, p = .17)。パターンごとに同様の分 析を行うとパターン番号3,5,9において有意な相関がみられた(rs < -.309,
ps < .037)。以降の実験ではこの3つのパターンを刺激として用いた。
3. 実験 2 3.1. 目的と方法
実験1で選定した3つのパターンを基にしたパターン誘導刺激の作成と,
これらの印象のよさとまとまりの数の検討を目的とした。パターン誘導刺 激は,まとまりの数が1,3,5(誘導まとまり数)となるように5色のドッ トを用いて作成され,合計9種類であった。誘導するまとまりは,実験1で 得られたまとまりの作り方のデータを参考に作成した。参加者は,まとまり
図 2. 作成されたパターン誘導刺激.。
1W163074-1 田島 悠介 TAJIMA Yusuke
指導教員 渡邊 克巳 教授 Prof. WATANABE Katsumi
の数報告課題と印象のよさ評定課題を行った。まとまりの数報告課題では,
ドットパターンに対するまとまりを頭の中で考え,出来上がったまとまり の数(主観的まとまり数)を報告するよう指示された。印象のよさ評定課題 は実験1同様,7件法で行われた。各課題はパターン誘導刺激に関する質問 9問とACQ1問の合計10問から構成された。課題の順序,質問の順序はラ ンダムであった。回答にはGoogleフォームを使用した。
3.2. 結果
381名の男女が実験に参加した。このうち,ACQの不正解者8名を除外 し,373人のデータを対象に分析した。まず,誘導まとまり数ごとに主観的 まとまり数の平均値を算出した。誘導まとまり数を参加者内要因とした1要 因3水準(誘導まとまり数1,3,5)分散分析を行った結果,誘導まとまり 数の主効果は有意であった(F(2, 744) = 66.59, p < .001, ηp2 = .15)。また,
よさ評定値についても同様の分析を行った結果,主効果は有意となった
(F(2, 744) = 146.4, p < .001, ηp2 = .28)。よって,後続パターンの体制化 を誘導するには有効であると判断した。
4. 実験 3 4.1. 目的と方法
実験2で作成した9つのパターン誘導刺激を用いて,パターン誘導刺激 を呈示した直後に呈示されるドットパターンのよさが変調されるかを検討 することを目的とした。実験はモニターとキーボードが使用された。モニタ ーには「スペースキーを押してください」という指示,凝視点(500ms),
パターン誘導刺激(300ms),空白(500ms),よさ評定の順で表示され,こ れが1試行とされた(カッコ内は呈示時間)。9つのパターン誘導刺激に対 して1試行ずつ行われたものが1セットとされ,合計5セット実施された。
パターン誘導刺激の呈示順序は1セット毎にランダムであった。1試行内の 誘導パターン刺激とよさ評定対象のパターンのドットの配置やサイズは揃 えられた。よさ評定は実験1同様,7件法で行われた。
4.2. 結果
実験には34名の男女が参加した。各参加者は9つのパターン誘導刺激を 用いた場合について5回ずつよさ評定を行っているため,それぞれの場合
図 3. パターン別に見たときの,各誘導まとまり数における後続ドットパ ターンのよさ評定値の平均値(エラーバーは標準誤差,* p < .05)。
におけるよさ評定の回答の数値を平均化したものをよさ評定値として扱っ た。各パターンについて,誘導まとまり数を参加者内要因とした1要因3水 準(誘導まとまり数1,3,5)分散分析を行った結果(図3),パターン番号 3と9の主効果は有意であった(Fs(2, 66) > 4.199, ps < .0192, ηp2 > .11)。 また,多重比較の結果,一部に操作通りの差が見られた(ts(2, 33) > 2.113, ps < .05, Cohen’sdzs > 0.10)。よって,プライミング効果によるよさの変調 が一部に現れたことが示唆される。
5. 実験 4 5.1. 目的と方法
閾下呈示されたパターン誘導刺激の直後のドットパターンの良さが変調 されるか検討することを目的とした。実験4では,実験3のよさ評定の後 にパターン誘導刺激の視認性に関する質問が追加された。また,空白の代わ りにマスク刺激が500ms呈示され,パターン誘導刺激は10ms呈示された。
視認性に関する質問では,参加者は閾下呈示されるパターン誘導刺激がど の程度見えていたかを「1:全く見えなかった」~「4:はっきり見えた」の 4段階の中から回答した。その他の手続きは実験3と同様であった。
5.2. 結果
実験には36名の男女が参加した。視認性に関する質問で3と4が回答さ れた試行のよさ評定値は分析から除外した。実験3同様の分析を行った所,
有意とはならず(F(2, 68) = 0.7873, p = .459, ηp2 = .023),パターン毎にお いても有意にはならなかった(Fs(2, 66) < 2.177, ps > .121, ηp2 < .062)。 よって,パターン誘導刺激を閾下呈示した場合はプライミング効果が現れ ない可能性が示唆される。
6. 考察
閾上呈示のパターン誘導刺激はどのようにしてパターンのよさを変調し たのだろうか。理由として,パターン誘導刺激を先行呈示することで,プラ イミング効果によって後続パターンに対する体制化の方略が誘導され,そ の結果よさの変調が見られたと考えられる。では,閾下呈示の場合には差が 見られなかったのはなぜだろうか。閾上呈示の場合は,参加者はパターン誘 導刺激を意識的に処理しているのに対し,閾下呈示では無意識的に処理し ているという違いがある。つまり,体制化の方略の誘導は,パターン誘導刺 激が意識的に処理された場合にのみ効果が現れるということが示唆される。
よって,後続パターンの体制化をプライミング効果によって操作するため には,パターン誘導刺激によって誘導される体制化の方略が意識的に処理 される必要がある可能性が考えられる。
7. 引用文献
児玉優子・三浦佳世 (2011). パターンのよさと知覚的体制化 心理学研究, 82(3), 277-282.
川口潤 (1988). プライミング効果と予測 心理学評論, 31(3), 290-304.
三浦佳世 (2007). 知覚と感性の心理学 心理学入門コース1 岩波書店
Garner, W. R., & Clement, D. E. (1963). Goodness of pattern and pattern uncertainty.
Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 2, 446-452.