洪水による鉄道橋コンクリート橋脚の倒壊
日大・理工 ○斉藤 準平 大成建設㈱・技術センター 石野 和男 日大・理工 柳沼 善明
1.はじめに
洪水によって生じる鉄道橋梁の被害は、長 期間の路線の機能支障を生じさせ、多くの利 用者の生活を不便にする。洪水による橋梁の 被害を最小限に抑えるためには倒壊の危険性 の高い橋脚については至急補強、取替え等の 手段を講じておくことが必要であると考えら れる。本研究は、近年の洪水による橋脚倒壊 の概要を述べ、被害状況から倒壊の危険性の 高い橋脚の特徴を検討し、洪水の作用する力 によって発生する橋脚の応力を推定した。さ らに流速、水位および流木による橋脚間閉塞 が橋脚に及ぼす影響を検討した。
2.近年の洪水による鉄道橋コンクリート 橋脚の倒壊の概要
近年の洪水による鉄道橋コンクリート橋脚 の倒壊の事例として2004 年7月の福井豪雨と 2005 年9月の台風14号豪雨を取り上げた。以 下に各豪雨と被害状況の概要を示す。
(1)被害地域と被害路線状況
図-1に福井豪雨および台風14 号豪雨に おける被害地域と被害路線および流出橋梁と 現存橋梁を示す。福井豪雨(図-1(a))は 福井県福井市、大野市一帯に被害を与え、足 羽川に発生した洪水により越美北線(JR西日 本)の一条谷駅から美山駅間の橋梁が被害を 受け、一乗谷~美山間は不通(被害後2年3 ヶ月経過した現在)となっている。
台風14号豪雨(図-1(b))は宮崎県延 岡市、 日之影市、 高千穂市一帯に被害を与え、
(a) 福井豪雨
(b) 台風14号豪雨 図-1 被害地域と被害路線
五ヶ瀬川に発生した洪水により高千穂鉄道の 延岡から高千穂間の橋梁が被害を受け、高千 穂鉄道は廃線となった。
(2)洪水と橋脚倒壊状況
洪水の状況 1)2) から、福井豪雨の足羽川およ び台風14 号豪雨の五ヶ瀬川における豪雨時 の水位は、ともに橋梁桁下まで達するほど高 水位だったことが確認できた。また橋脚倒壊 の状況 1)2) から、福井豪雨の代表的な橋脚倒壊 は橋脚川底部から基礎部周辺が折れて破断す るものだった。それに対し、台風14 号豪雨で の代表的な橋脚倒壊は橋脚のずれによって破 断するもので、折れによる破断と比べて破断 断面が平であった。
なお本文における倒壊橋脚は、橋脚の一断
降雨量測定 至 福井
A
足羽川B C
D
E F
越美北線 水の流れG
至 九頭竜湖 備考)図中のA~Gは、橋梁を示す。
鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁 鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁
降雨量測定 降雨量測定 至 福井
至 福井
足羽川
A
足羽川B C D
E F
越美北線 水の流れ水の流れG
至 九頭竜湖 至 九頭竜湖 備考)図中のA~Gは、橋梁を示す。
鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁 鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁
降雨量測定
五ヶ瀬川 高千穂鉄道
A C B
D
水の流れ備考)図中のA~Dは、橋梁を示す 。
鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁 鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁 降雨量測定
降雨量測定
五ヶ瀬川
五ヶ瀬川 高千穂鉄道
A C B
D
水の流れ 水の流れ備考)図中のA~Dは、橋梁を示す 。
鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁 鉄道 流出橋梁 河川 現存橋梁
Collapse of Concrete Piers of Railway Bridges by flood
Junpei SAITO, Kazuo ISHINO and Yoshiaki YAGINUMA
0 10 20 30 40 50
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48
時間
降 雨 量 (m m )
0 1 00 2 00 3 00 4 00 5 00 6 00
降 雨 量 ( 累 計 ) (m m )
降雨量 降雨量(累計)
面が曲げによる折れ、およびせん断によるず れによって破壊した橋脚を破断橋脚、破断に よる倒壊と断定できない橋脚をその他の倒壊 橋脚と破壊状況によって分類した。
(3)降雨量
図-2に福井豪雨および台風14 号豪雨の 降雨量を示す。降雨量の測定データは図-1 に示す福井豪雨の美山雨量観測所、台風14 号 豪雨の高千穂雨量観測所で測定された。それ ぞれの雨量観測所は足羽川と五ヶ瀬川に極め て近い場所にあり、かつ被害を受けた橋梁の 上流に位置している。
福井豪雨(図-2(a))は12 時間で累計 降雨量が約300mm になり、時間当たりの降雨 量では1時間で87mmを記録し、短期集中的 な豪雨形態を示した。それに対し、台風14 号 豪雨(図-2(b))は48 時間かけて累計降 雨量が約500mmになり、時間当たりの降雨量 では1時間で45mm が最高であり、長期継続 的な豪雨形態を示した。以上のように、橋梁 被害はこのような異なる豪雨形態の相違に関 わらず発生した。
(4)橋脚被害状況
福井豪雨による各橋脚の概要と被害状況を 表-1に示す。福井豪雨で橋脚が1橋脚以上 倒壊した橋梁は7橋梁中5橋梁で、橋脚の倒 壊被害は現存した橋梁の橋脚を含めた全31 橋脚中12 橋脚(橋脚倒壊率38.7% )だった。
鉄筋コンクリート(以下RCと略す)構造の橋 脚は4橋脚あり橋脚倒壊率は全体で12.9%
(RC 構造内26.7% )、無筋コンクリート(以下 C と略す)構造の橋脚は8橋脚あり橋脚倒壊率 は全体で25.8%(C構造内50.0% )だった。ま た、倒壊橋脚内で破断橋脚は全てC構造の橋 脚にみられ、C 構造で倒壊した8橋脚の内7橋 脚(87.5% )が破断した。それらは全て曲げ で折れたものだった。
台風14 号豪雨による各橋脚の概要と被害 状況を表-2に示す。台風14号豪雨で橋脚が
(a) 福井豪雨 3) (雨量観測所:美山)
(b) 台風14号豪雨 4) (雨量観測所:高千穂)
図-2 降雨量
1橋脚以上倒壊した橋梁は4橋梁中2橋梁で、
橋脚の倒壊被害は現存した橋梁の橋脚を含め た全29 橋脚の内5 橋脚(17.2% )で、福井豪雨 の橋脚倒壊率より少ないものだった。しかし、
RC 構造の橋脚は全く折損せず、倒壊被害を受 けた橋脚はすべてC構造(12 橋脚)で、 C構造 だけで考えると41.7% が倒壊し、 C 構造に倒壊 の危険性が高いことがわかった。なお、倒壊 橋脚(5 橋脚) の内で破断橋脚は4橋脚(80.0% ) だったが、3橋脚は打継目のずれによるもの だった。このような打継目やコールドジョイ ント等のような施工上の弱点は、洪水による 橋脚の被害を増大させる恐れがあるといえる。
各豪雨の被害を総合的にみると、倒壊橋脚 の破壊状況はC 構造では倒壊橋脚の約84.6%
が破断(折れ、ずれ)によるものだった。つ まり、C構造の内、岩着橋脚では橋脚自体の 構造的に破壊する傾向が高いといえる。また、
橋脚間に流木が閉塞しせき止めたダムのよう になると倒壊しやすくなる。なお、同一の構 造、形状および寸法で橋脚倒壊の有無の相違
0 20 40 60 80 100
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 2 時間
降雨量(mm)
0 50 100 150 200 250 300
降雨量(累計)(mm)
降雨量
降雨量(累計 )
が表れたのは、川幅、水深および地形などの 要因で洪水の速度、水位に差が生じたこと、
流木が橋脚間を閉塞して過大な力が作用した こと等の理由によるものと思われる。
3.橋脚倒壊時の応力推定
橋脚の倒壊時に発生したと推定される応力 を計算し、橋脚が破壊するだけの力が作用し ていたかどうか、破壊形式は妥当だったのか を検討した。応力推定の対象とする橋脚は各 災害で倒壊した代表的な橋脚とし、概要を表
-3に示す。図-3に示す算出式を用いて洪 水の流体力P を求め、それが橋脚に作用した 時の各破壊形式の場合の応力を計算した。な お、洪水の流体力P の算出において流体力の 抗力係数kは橋脚水平断面の形状による係数 を表し、橋脚の断面形状によって係数は異な る。洪水時の流体力作用位置は桁下~川底間 の平均距離とした。
表-4に洪水が橋脚に作用したときの橋脚 に発生する応力の計算結果を示す。計算で求 めた橋脚川底部の上流側の曲げによる引張応 力が、コンクリートの引張強度を上回った。
このことから、C構造の橋脚が高水位、高流
表-3 各災害の代表的な倒壊橋脚の概要
図-3 洪水が橋脚に作用する流体力の算出式 表-1 福井豪雨による各橋梁の橋脚の概要と被害状況 5)
表-2 台風14号豪雨による各橋梁の橋脚の概要と被害状況 6)
A:流水衝突面積
L/2 P:洪水の流体力
鋼桁(h=1.5m) 上流→
橋脚川底部の上流 側
(1)
k : 流体力の抗力係数 (円形断面: 0.73 )
9 )w : 水の単位質量 ( kg/m
3)
A : 流水の衝突する橋脚面積 ( m
2) v : 流速 ( m/sec )
g : 重力加速度 ( m/sec
2) g 2 A v
• w
• k
=
P
2破断 橋脚数
その他の
倒壊橋脚数 合計
第1足羽川橋梁 A 流失 RC 5 0 1 1
第2足羽川橋梁 B 現存 RC 5 0 0 0
第3足羽川橋梁 C 流失 RC 5 0 3 3
第4足羽川橋梁 D 流失 C 4 2 0 2
第5足羽川橋梁 E 流失 C 4 2 1 3
第6足羽川橋梁 F 現存 C 4 0 0 0
第7足羽川橋梁 G 流失 C 4 3 0 3
31 7 5 12
備考) 地点の欄のA~Gは図-1(a)に 記す。構造の欄のCは無筋コンクリートを、RCは鉄筋コンクリートを表す。
1960年
合計
円径 2m
製造年 構造 形状 寸法 全橋脚数
倒壊橋脚
橋梁名 地点 被害
状況
災害名 福井豪 雨 台風14号豪雨
橋脚の断 面形状
および寸法 円形 直径2 m 円形 直径2.5 m 桁下~川 底間の
平均 距離 ( L) 5.5 m 7 m コンクリートの
引張強 度
7)2.06 N/mm
2以上
1 .9 1 N/mm
2以上 水の流速
8)10 m/sec
破断 橋脚数
その他の
倒壊橋脚数 合計
第1五ヶ瀬川橋梁 A 流失 1935年 C 楕円径 2m×1m 5 3(ずれ) 0 3
流失 1935年 C 円径 2.5m 2 1(折れ) 1 2
現存 〃 〃 楕円径 2m×1m 3 0 0 0
第3五ヶ瀬川橋梁 C 現存 1937年 RC 円径 1.5m 13 0 0 0
現存 1937年 RC 円径 1.5m 4 0 0 0
〃 〃 C 楕円径 4m×2m 2 0 0 0
29 4 1 5
備考) 地点の欄のA~Dは図-1(b)に記す 。構造の欄のCは無筋コンクリートを、RCは鉄筋コンクリー トを表す。
第2五ヶ瀬川橋梁 B
D
合計 第4五ヶ瀬川橋梁
倒壊橋脚 全橋脚数
寸法 形状
橋梁名 被害 製造年 構造
地点 状況
速の洪水により川底付近で折れて破断するこ とが確認できた。
4.橋脚に及ぼす水位、流速等の影響 水位と流速を変化させた際の橋脚の川底断 面上流側の引張応力を算出し、橋脚倒壊に影 響を与える要因を検討した。計算は福井豪雨 で倒壊した橋脚の条件とした。
図-4に流速が変化した場合の川底断面上 流側の引張応力と水位との関係を示す。流速 が大きい場合では水位が増加するにつれて引 張応力の増加は大きくなった。これは水の水 平力への影響を考えた場合、水位は変化した 長さ分だけが影響するのに対し、流速は2乗 で水平力に反映されるためである。さらに鋼 桁部まで水位が増加した場合は、鋼桁の受け た過大な力と川底までの距離からモーメント がかなり大きく働き、橋脚に発生する引張応 力は急激に増加するため危険である。また、
流速が5m/secの場合の橋脚間に大量の流木 が閉塞してせき止めたダムのようになった時 の橋脚への影響を検討すると、橋脚間が開通 している場合は水位の増加に関わらず引張応 力は引張強度を上回らないが、橋脚間が閉塞 すると引張応力は急激に増加して危険な状況 に一転し、倒壊の危険性が高いものとなるこ とがわかる。
5.まとめ
① 無筋コンクリート構造は倒壊の危険性が 高く、岩着橋脚では橋脚自体の構造的に破 壊する傾向が高いといえる。
② 無筋コンクリート構造の橋脚が高水位、高 流速の洪水によって川底付近で折れて破断す ることが計算により確認できた。
③ 流速が大きい場合では水位が増加するに つれて引張応力の増加は大きくなる。
④ 橋脚間が閉塞すると引張応力は急激に増 加し危険な状況に一転する。
表-4 洪水が橋脚に作用したときの
橋脚に発生する応力計算結果
図-4 引張応力と水位との関係 参考文献
1)土木学会編集委員会, 2004 (平成16 )年 7月北陸豪雨災害,土木学会誌,Vol.89 no.12 ,2004 年,pp.15 -16
2)高千穂鉄道ホームページ,http://www.t- railwa y.co.jp/index.htm
3)気象庁,http://www.data.kishou.go.jp/
etrn/index.html
4)国土交通省 河川局, http://www.mlit.go.
jp/ river/index.html
5)永瀬和彦,JR越美北線の橋梁被災現場 を見る(その1),http://www2.kanaza wa-it.ac.jp/knl/index.html
6)TR高千穂鉄道分析V ,http://www9.ocn.
ne.jp/~exp98/rail/nippou-line/tr-5.html 7)日本国有鉄道,鉄道技術発達史,第2編
(施設)Ⅲ,1959 年
8)服部勇,山本博文,平成16年7月の福井 豪雨の堆積学的側面,福井市自然史博物 館研究報告集,第52 号,2005 年
9)河村協,橋台と橋脚,理工図書, 1952 年,
p.189
災害名 福井豪雨 台風14号豪雨
曲げによる引張応力
(川底部断面上流縁) 2.21 N/mm2 2.29 N/mm2 せん断応力
(橋脚図心部) 1.07 N/mm2 1.70 N/mm2
0 1 2 3 4 5 6 7 8
0 1 2 3 4 5 6 7 水位 (m)
引張応力(川底断面上流側) (N/mm2 )
流速 10m/sec 流速 5m/se c 流速 2.5 m/se c 流速 5m/se c (閉塞 )
引張強度 (2.06 N/ mm
2)
橋脚部 鋼桁部