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内モンゴルの民族学校における教科書内容の変容

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内モンゴルの民族学校における教科書内容の変容

―モンゴル語教科書の文化的な役割を中心に―

Transformation of textbook contents in Inner Mongolia ethnic schools

—Focusing on the cultural role of Mongolian textbook—

BAI SHUANGLONG 白 双竜

In China, a multi-ethnic country, ethnic education is an independent entity, but as part of majority education (nation-state education), it seeks to foster a collective consciousness form for minority ethnic groups (national recognition) and national identity. Inheritance and further development play a comprehensive role in nurturing the attributes of ideology.

In this paper, we will give an overview of the changes in the content of Mongolian textbooks due to the strengthening of "national teaching materials" and "Chinese language education" in the ethnic schools of the Central Education Department in recent years and discuss the educational ∙ cultural role of ethnic textbooks. Try to revisit.

Abstract

本稿の著作権は著者が保持し、クリエイティブ・コモンズ表示 4.0 国際ライセンス(CC-BY)下に提供します。

https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja      

(2)

1 はじめに

 本論では、近年、中央教育部の民族学校における「国 家統編教材」、「漢語教育」の強化による、民族小学校 義務教育段階におけるモンゴル語教科書内容の変化を 概観するとともに、民族教科書の教育的∙文化的な役 割について再検討することを試みる。

 2017年7月、中央教育部国家教材委員会が設置さ れたことによって、全国における「国家統編教材」の 使用がより一層強化された。全国の学校教育において、

国家統編教材を普及させることが、近年、中央教育部 による主な教育的な方針であり、新彊ウイグル自治区 では2017年、西藏自治区では2018年、内モンゴル自 治区(以下、内モンゴル)において、2020年秋から 実施されている。国家統編教材の強化によって、民族 学校では、中央教育部·国家教材委員会によって編纂 された漢語(小学校用、教科科目上「漢語文」)、政治(初

·高級中学校用)、歴史(初·高級中学校用)など、三 つの科目用教科書の普及が図られた。国家統編教材は、

国家教材委員会によって、全国の学校を対象とし、全 国共通語の漢語を使用して編纂されたものであり、そ の教授言語も必ず国家共通語の漢語を使用すべきであ ることが義務化されているため、一般的に「漢語教育」

の強化とも言われている。

 内モンゴルでは、国家統編教材の強化により、2020 年秋から民族小学校低学一年用「語文」(漢語)、初級 中学校一学年用「語文」(漢語)の授業では国家統編 教材を使用し、2021年から「思想品徳」(初級中学校

では「政治」)の授業、2022年から「歴史」(初級中学校)

の授業を対象とし、国家統編教材を使用することが規 定され、現在すでに実施され始めている。

 中国政府は1954年から「民族区域自治制度」を実 行し、省レベルでは、内モンゴル、西藏自治区、新疆 ウイグル自治区、広西壮族自治区、寧夏回族自治区な ど5つの「省」は「民族自治区」とされている。内モ ンゴルは1947年5月1日、王爺廟1(旧:ワンインスム;

現在、興安盟∙烏蘭浩特市:ulanhota)で成立し、中国 のなかで、最も早く成立した民族自治区であり、民族 教育も最も早く発展され、中国のなかでは、「模範自 治区」とも呼ばれている。

 内モンゴルは、モンゴル民族を主体とし、現在55 の民族が生活している。多民族国家の中国では、民族 教育は独立した存在でありながらも、マジョリティ教 育(国民教育)の一部として、少数民族に対する集合 的な意識形態の形成(国民の同一性、国家認同)を求 めるとともに、民族のアイデンティティの保護∙継承、

さらなる発展によるイデオロギーの属性を育む総合的 な役割を同時に果している。

 1950年、中国人民教育出版社が創設されて以来、

内モンゴルにおける民族教科書の編纂∙出版∙発行など 一連の作業は、40年間に渡って、同社によって行わ れてきた。1985年1月、国家教育委員会(1998年「教 育部」に変更)によって『全国小中学校教科書審査委 員会工作条例(試行)』(以下「条列」)が配布され、

当「条列」によって、小中学校における教科書の編纂 と検定(審査)制度が分離され、それ以来、人民教育 出版社以外に、省、自治区、直轄市の教育委員会や学 校、教師、専門家による教科書の編纂も可能となった。

その後、国家教育委員会によって、全国小中学校教科 書委員会が創設され、民族小中学校用教科書を全国小 中学校教科書委員会の審査(検定)を経たうえで、配 布することが決定された。

 そして、1986年9月、国家教育委員会は専門家、

教師、教育行政幹部からなる全国小中学校教科書審査 委員(20余名)と各教科書審査委員(200余名)を選 抜し、小中学校における教科書制度を「国定制」から 目次

1.はじめに 2 先行研究の検討

3 民族学校初等教育による教科書内容の分析

 3.1 モンゴル語教科書内容の分析

 3.2 モンゴル語「教員用指導要領参考書」分析

4 おわりに

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「検定(審査)制」へと改革した。このように、教科 書の「国定制」から「検定(審査)制」の変更によっ て、各地域の特徴に応じた教材開発が可能となり、い わゆる教科書の多様化時代が到来した。そして、これ に応じた教科書編纂方針も打ち出されたが、教科書の 編纂を国家教育委員会に指定された機関のみで行われ てきた。

 本論では、近年、内モンゴルにおける中央政府∙教 育部の「国家統編教材」、「漢語教育」の強化に焦点を 当て、「国家統編教材」の義務化によるモンゴル民族 学校の教科書内容の変容を明らかにすることを試み る。そうするにあたり、モンゴル民族小学校、低学年

(1、2年)用モンゴル語の教科書を研究対象としたう え、教科書内容と教員用指導要領参考書の分析を通じ て、中央政府の「漢語教育」の強化による、モンゴル 語教科書内容の変化を明確する。そして、最後に、中 央政府の教育改革における民族教科書の内容記述の全 体像を描き出したうえ、民族教科書の編纂における今 後の課題について検討する。

 

2 先行研究の検討

 中国では、多民族の共同生活により、民族教育は他 民族∙他文化における社会的、文化的な影響を受け ることが極めて大きく、特に、強大な農耕文化の深 化により、民族教育の社会的な基盤が崩壊されつつ ある。内モンゴルでは「内モンゴル自治運動」(1912

~1947)、中国共産党による「整風運動」(1941年~

1945年)、「反右派運動」(1957)、「文化大革命」(1966 年~1977年)などの歴史的な大事件によって民族教 育は極めて大きな被害に遭った。このような、一連の 歴史的な事件により、中国では「民族」という言葉と 関連する研究が政治的に、非常に敏感な問題として取 り扱われてきた。

 しかしながら、1978年の市場経済の発展、「改革開 放」後以来、民族教育に関する研究が徐々に蓄積され てきた。なかでも、主には言語教育(双語教育)、マ イノリティー教育(アイデンティティ教育)などの問

題をめぐる研究が多く見られる(烏2013;2015、岡 本2008など)。そのほか、民族教育政策、教科書政策 に関する研究もある(崔2017、ハスバガン2000、金 1998など)。そして、民族教育の教科書内容と教科科 目∙カリキュラム改訂に関して、石鴎(2018)、ハスゲ レル(2016)、ムンクバト(2014)、哈達(2013)、王

(2006)らの研究がある。

 石(2018)は、民国(1912-1949)における小中学 校用教科書を対象とし、初期教科書の特徴、役割を該 当政治的、社会的な環境において論じた。そして、清 末から民国初期(以下民初)にかけて、西欧列強の支 配および国内階級闘争による社会的な動乱期におい て、当時の教科書は知識人、政治家たちの現時社会へ の呼びかけをする主要な道具となり、啓蒙運動の重要 な手がかりでもあったと指摘している2

 また、石は、当時における教科書内容の特徴につい て以下の点でまとめている。①教科書は当時の社会に おいて、知識人の該当社会に対する不満を表す媒介で ありながら、西欧思想を宣伝する掛橋でもあった。② 当時の教科書編審制度を「国定制」、「検定制」、「自由 制」などの三種類に分けられ、これらの制度は、当時 の政治体制、文化の特徴、教育政策などの諸要因に左 右され、民国は主に「検定制(1904年~1937年)」3か ら「国定制(1937年~1949年)」4の改革を経てきた。

そして、民国における教科書は、各地域の格差、学習 対象に応じた教科書の編纂ができず、教科書内容の編 纂に関する不均等が生じ、政治体制の独裁制度によっ て、高価値の教科書の編纂が困難であったと論じてい る5

 民国の成立をきっかけとして、中国は封建君主専制 国家から民族国家になり、当時、ハルハの独立宣言、

内モンゴルの独立運動、「偽満州国」、「偽蒙疆政府」

または軍閥による各政治的な活動が顕著化し、当時の 社会的、政治的な環境において、民族教育における独 裁主義の支配が強烈であり、そこで、民族教科書にお ける教育的役割より政治的な役割が極めて大きかった ことが分かる。

 ウルゲン(烏日更)(2015)は、モンゴル民族学校

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における文化的な役割やアイデンティティの形成に焦 点を当てながら、主に内モンゴル自治区政府の成立

(1947)から2015年までのモンゴル民族学校教育に対 するアイデンティティの形成を阻害している諸要因に ついて分析した。そこでは、民族教育政策の策定およ びそれによるカリキュラム改訂における教育的な目標 などが分析されている。

 ウルゲンの研究では、民族教科書について、内モン ゴルの民族学校における教育内容は、漢族学校を対象 とした教育を標準モデルとし、数学、物理、化学、生 物、思想道徳、歴史などの科目に関する教科書が漢民 族学校で使用されているものの翻訳であることを指摘 したうえ、民族教科書内容が民族の生活習慣∙風習、

歴史、文化など、アイデンティティの育成に関わる文 化と社会生活から発想すべきことが強調されている。

さらに、現行教科書内容は、民族の文化を基盤すべき ところから切り離れ、漢文化中心主義の写し物であり、

モンゴル民族の生徒にとって深刻な「文化の中断」に 繋がり、アイデンティティの形成が阻害されていると 批判している6

 ムンクバト(孟克巴図)(2014)は、内モンゴルの 民族教育に関して社会学的な視点から分析し、牧畜地 域を中心にモンゴル民族学校の実態、モンゴル語の教 育実態とモンゴル語·文字の使用実態などについて、

調査および分析した。ムンクバトの研究では、民族学 校における教科科目としての「モンゴル語」教育につ いて、学校の類型ごとによって、教科書の書誌情報、

目次、各課のジャンル、練習問題などのカテゴリーに 分類しながら分析を行った。そして、モンゴル人にとっ て生活基盤の変化は文化的なアイデンティティに大き な変化をもたらすことを強調し、モンゴル語が使用領 域の縮小により絶滅に瀕していく実態を指摘した。そ のうえ、モンゴル言語使用や教育問題を調査し、モン ゴル語、民族教育によるさらなる研究が必要であると 論じている7

 ハスゲレル(2016)は、中国の民族学校における「双 語教育」8(バイリンガル教育)および「英語教育」(ト ライリンガル教育)9による民族教育の現状分析を通じ

て、現在の少数民族向けの教育政策は、少数民族に対 する漢語の普及の有力手段となり、同化を推進したの は間違いないと批判したのである10。そして、歴史教 育について、漢民族学校で使用されているものの直訳 であり、その内容は、「国家統一」の観点から捉え、

民族意識(マイノリティー教育)を育成させる役割を 充分に果たすことが困難であると指摘している11。  王(2005)は、中国における少数民族教育の文化背 景による民族的差異をめぐって議論し、学校で教授さ れている科学文化知識に反映されている漢民族を中心 とする各民族の共同的な文化背景と少数民族の居住地 にある学校の民族的な文化背景との間には、ある程度 の矛盾と差異が存在していると指摘している。そのう え、学校で教授されているものは、主に、漢民族を中 心とする各民族の共同的な要素を含む文化背景が投影 されており、民族地域による民族の文化背景が主要な 役割を果たすことはできないと指摘したのである12。 このように、王は少数民族の文化背景と国家マジョリ ティ教育の文化背景の関係、および各少数民族間の教 育文化背景との関係について論じている。

 上記の先行研究における共通点として、現状民族教 育における、「民族教育」と「国民教育」の総合的な 役割に対して、一方的に「国民教育」に偏っているア ンバランス的な現状を指摘されていること、また、民 族教育は独立的存在であり、独自の発展を尊重すべき であるということを強調した点で一致している。

 本論では、上記の先行研究を踏まえ、近年、中央政 府∙教育部の「国家統編教材」、「漢語教育」の強化に 注目し、モンゴル民族学校の教科書内容の変容を明ら かにすることを主たる目的とする。そこで、民族小学 校低学年(1、2学年)用モンゴル語教科書を分析対 象とする。モンゴル語教科書内容と該当教員用指導要 領参考書に対する分析を通じて、中央教育部の国家統 編教材の強化に対する民族教科書改革の全体像を明確 にしたうえで、内モンゴル独自の民族教科書の可能性 を探ることを試みる。 

 本論で用いた、民族教科書と該当教員用指導要領参 考書は、近年、中央教育部の国家統編教材の強化に応

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じ、編纂∙発行されたもので、計10冊である。本論は、

民族学校義務教育段階におけるモンゴル語教科書の内 容を比較分析し、その変化を明確するという点で先行 研究とは異なる視点を提示する。

3 民族学校初等教育による教科書内容の分析

 ① 教科書の選定理由について

 本論では、民族教科書を分析対象としたことに、以 下の意図がある。まず、内モンゴルのマイノリティー 問題に教育の面からアプローチするものである。次 に、教育と国民化という普遍的な問題を内モンゴルと いう場所の視座から思考し、「民族教育」と「国民教育」

の総合的役割の挟間に生まれるモンゴル民族教育によ る教科書の文化的な役割および今後の課題について検 討することを試みる。上記の意図から、問題意識の妥 当性について、「なぜ教科書なのか」あるいは、「なぜ モンゴル語の教科書なのか」という一連の問いを提起 することができるだろう。

 山崎(2006)は、国民国家において、国民としての 自意識や国家に対する帰属感は、生来的なものではな く、成長の過程で共通の価値観∙規範および身体的∙精 神的同一性を身につけることによって、人は国民とし ての自己を段階的に確立してくと論じている13。つま り、国民国家という枠組のなかで、人は生まれながら にして国民であるわけではなく、一連の教育的、段階 的なプロセスを通じて国民として成長されている。

 一方、内モンゴルにおけるモンゴル民族の場合、民 族意識や帰属感は生来的なものではなく、成長の過程 で段階的に育成されてきたものであろう14。そのプロ セスによって、学校教育が家庭教育または社会教育よ り、極めて重要な役割を果たしているといえるだろう。

よって、教科書はもっとも本質的なところで、その内 容に関する分析を通じて、民族教育における文化的な 役割分担の現状を明確することが可能になると考えら れる。これが教科書を研究対象とした理由でもある。

また、「モンゴル語」の教科書に焦点を当てたのは、

現在、民族学校における教科書のなかで、「モンゴル

語」の教科書こそが、民族教育の本質的な役割を果た すことができ、それ以外の教科書は、漢民族学校で使 用されているものの直訳でもあり、民族文化を背景と した内容が記述されてないのが現状である。近年の

「国家統編教材」および「漢語教育」強化によるモン ゴル語教科書内容の変化を明確することを目的とし て、現行(2016年編纂)教科書に焦点を当てたので ある。

 本論では、モンゴル民族学校の小学校低学年(1、2 学年)用モンゴル語教科書と該当教員用指導要領参考 書に関する分析をする。新中国(1949)が成立以来、

中央教育部の教科書改革に応じ、全国における小中学 校用教科書が、計10回の改編が実施されており、現 行教科書は2016年に改編されたものである15。本論が 現行2016年に改編された教科書を分析対象とした直 接的な理由は、近年、中央教育部の「国家統編教材」、

「漢語教育」の強化におけるモンゴル教科書内容の変 化を明確することを目的としたためである。

 ② 教科書分析方法について

 教科書内容研究とは、端的に言えば、教科書に何が 記載されているか、という視点からの研究であり、代 表的な手法として「コンテント・アナリシス」が挙げ られる16。「コンテント・アナリシス」(content analysis)

とは、一般的には研究、調査対象の内容分析をいう。

本論では、民族学校義務教育段階における小学校低学 年用モンゴル語教科書および該当教員用指導要領参考 書の内容を分析する。

 ③ 内容分類の根拠について

 藤岡(1991)は、1980年代半ばに教科書研究を「教 科内容研究」と「教授学的研究」の2つの系列に整理 した17。教科内容研究としては、その時代に社会が要 請した知識や文化が適正に盛り込まれているかといっ た記載内容の是非を論じる方法がある。あるいは、教 科書のなかの特定の概念や背景について議論する方法 もある。また、内容の配列や順次性、頻度や広がりな どをみていくことで、カリキュラム研究としても成り

(6)

立つのである18。本論では、モンゴル語教科書の記述 内容、内容の配列について分析をする。

 ムングバトの研究では、甲·乙式学校五学年用モン ゴル語の教科書について、書誌情報、目次、宿題など のカテゴリー別に比較分析をし、そのなか、甲·乙式 学校におけるモンゴル語の教科書目次を題目ごとに、

詩、作文、物語、会話、日記紹介、家畜紹介、証明書 の書き方など、それぞれの相当するジャンルごとに分 けながら分析をしている。

 また、ハスゲレルの研究では、2003年に内モンゴ ルのモンゴル民族学校で使用されていた小学校向けの モンゴル語の教科書(1学年用)を、その内容によって、

①遊牧生活、②食習慣、③礼儀作法、④故郷への思い、

⑤モンゴル民族の歴史や歴史上の人物、⑥中国の歴史 や歴史上の人物、⑦外国の人物、⑧モンゴル文字、⑨ そのほか、などのカテゴリー別に整理している。

 本論では、上記の先行研究を踏まえ、甲式学校で使 用されている「モンゴル語」教科書と該当「教員用指 導要領」参考書について分析をする。2016年に内モ ンゴル教育出版社から印刷された「民族学校義務教育 用1学年(上∙下冊)」、「民族学校義務教育用、2学年(上

∙下冊)の内容構成を整理·分析する19。そのなかで、

各課の内容を整理したうえで、①モンゴル文字∙言語

の学習、②民族の生活習慣∙風習の紹介、③民族歴史、

社会の紹介、④そのほか(民族文化以外の自然、動物、

植物、童話、民話等に関する学習)など、四つのカテ ゴリーに分けて、分析することを試みる。

 

3.1 モンゴル語教科書の分析

 ① 低学1年用「モンゴル語」教科書内容の分析  内モンゴルの民族小中学校では、甲式学校と乙式学 校がある。甲式学校とは、モンゴル語を教授言語とし、

漢語を一つの科目とした学校を指し、「加授漢語型」

学校とも呼ばれる。一方、乙式学校とは、漢語を教授 言語とし、モンゴル語を一つの科目とした学校であり、

「加授民族語型」学校とも呼ばれる20。本論では、甲式 学校におけるモンゴル語の教科書を分析対象とする。

 下記の表3-1のように、2016年に出版された民族 学校義務教育用、低学1年(前学期)に対する「モン ゴル語教科書(上冊)」の内容は、全部で25課があり、

予備課を通して、ご挨拶の言葉使い、鉛筆の持ち方、

掃除の習慣付きなどに関する生活マナー、ルールに関 する内容が記述されている。それ以外の22課を通じ て、モンゴル語に関する文字、語彙、文法などに関す る内容が記述されている。語彙の基礎知識では、モン

表3-1 1学年用「モンゴル語」(上冊、前学期用)教科書内容

題 目 内容概要 題 目 内容概要 題 目 内容概要

* 予備授業(1) 自己紹介 5 7つの母語彙 語彙、宿題 14 格助詞(1) 格助詞、宿題

* 予備授業(2) 鉛筆の持ち方 6 語彙学習 ① 語彙、宿題 15 格助詞(2) 格助詞、宿題

* 予備授業(3) 準備、掃除 7 語彙学習 ② 語彙、宿題 16 格助詞(3) 格助詞、宿題

* 予備授業(4) 入学の歌 8 語彙学習 ③ 語彙、宿題 17 格助詞(4) 格助詞、宿題 1 語彙の基礎(1) 語彙、宿題 9 語彙学習 ④ 語彙、宿題 18 格助詞(5) 格助詞、宿題 2 語彙の基礎(2) 語彙、宿題 10 語彙学習 ⑤ 語彙、宿題 19 格助詞(6) 格助詞、宿題 3 語彙の基礎(3) 語彙、宿題 11 語彙学習 ⑥ 語彙、宿題 * 格助詞表 格助詞、復習 4 語彙の基礎(4) 語彙、宿題 12 語彙学習 ⑦ 語彙、宿題 20 先生を尊敬しよう 単語作り練習

* 語彙の歌 語彙復習 13 語彙学習 ⑧ 語彙、宿題 21 10円のボール 単語作り練習

〔出典:民族学校義務教育用モンゴル語(20166月第2版、20166月第5次印刷、1学年上冊)より 筆者作成〕

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ゴル語における、母音字、子音字、語尾子音字、語の 節(üy_e)、節読み、語読み、格助詞などに関して学 習する。母音字、子音字についてモンゴル語では、チャ ガーン·トルガイ(čаynа toluуаi)と呼ばれる。これが、

低学1年に対する基礎知識をしっかり身に付けること を主な教育的な学習目標としていることが分かる。小 学校低学1年前学期において、2020年と2021年に使 われたモンゴル語の教科書は同じものである。次は表 3-2を通じて、民族学校1学年(下冊)の内容構成を 整理する。

 上記の表3-2から分かるように、2020年の民族学 校低学1年用モンゴル語の教科書(下冊)では、全部 で22課の内容が提示されており、前学期用の教科書 内容と比較すると、モンゴル語の学習以外に、動物、

植物、地理、自然などに関する内容が増えている。ま た、モンゴル民族の歴史(第20課)、文化(第11課)

に関する内容も記述されていることが分かる。ただし、

全体22課のうち、モンゴル民族の言語∙文字、歴史、

文化などのアイデンティティ教育に関する内容が(第 4課、第11課、12課、15課、第20課)の五課しか

表3-2 1学年用「モンゴル語」(下冊、後学期用)教科書内容比較

2020年、モンゴル語教科書(低学1年、下冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 モノ 身近な物事紹介 9 聡明なカラス 童謡 17 本の友達 本の価値 2 美しいね 物事の賛美 10 一番うまい食べ物 思考力育成 18 地球と太陽、月 地理知識 3 動物 動物の紹介 11* 私はモンゴル人 蒙古文化 19 友達がいる人楽しい 価値観 4 ご挨拶 挨拶の方法 12 単語の学習 単語習得 20* 聡明なテムジン 歴史人物 5 農産物の紹介 13 木を植える 自然、植物 21 小さな友達 動物紹介 6 単語の学習 単語分解と組立 14 月と雲 自然紹介

22 子猫の釣り話 童話 7 両親を描こう 両親を絵で描く 15 子羊 家畜習得

8 雪花 雪花の紹介 16 竹をもち、都市へ 思考力育成 2021年、モンゴル語教科書(低学1年、下冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 モノ 身近な物事紹介 9 先生 先生の賛美 17 子羊 家畜習得 2 動物 動物の紹介 10 よけん話をやめる 礼儀習得 18 地球と太陽、月 地理知識 3 農産物の紹介 11 一番うまい食べ物 思考力育成 19 友達がいる人楽しい 価値観 4 ご挨拶 挨拶の方法 12 単語の学習 単語習得 20 マシァの成長 童謡 5 両親を描こう 両親を絵で描く 13 木を植える 自然、植物 21 奇妙な自然 自然知識 6 単語の学習 単語分解と組立 14* 国の国旗と国魂 国の知る

22 子猫の釣り話 童謡 7 三つの敵 日常礼儀習得 15 月と雲 自然紹介

8 聡明なカラス 童謡 16 竹をもち、都市へ 思考力育成

〔出典:民族学校義務教育用 モンゴル語(201612月第2版、201912月第8次印刷;20211月第9次印刷、1学年下冊)よ り 筆者作成〕

(8)

記述されておらず、全体内容のなかで、占める割合が

約23%で、非常に少ないことが分かる。

 また、2021年の低学1年用モンゴル語教科書(下冊)

においても、同じく全部で22課が記述されているが、

テキスト内容が2020年より変化されていることが分 かる(背景色付きの部分)。その変化のなかで、2020 年用教科書の第11課「私はモンゴル人」と第20課「聡 明なテムジン」が削除され、その代わりに、第14課「国 の国旗と国魂」(2021年用)が記述されたことが分か る(「*」マーク付き)。

 ② 低学2年用「モンゴル語」教科書内容の分析  上記の表3-3から、2020年の民族学校低学2年(上冊、

前学期用)のモンゴル語教科書は全部で22課であり、

その内容は主に、童話、民話、自然現象などに関する 内容の紹介を通じて、生徒たちに正確な価値観を育成 させることを目指した内容が記載されている。そこで は、民族の文字、歴史、文化などに関する内容は、全 体22課のなかで(第3課、第5課、第6課、第20課)

の4課で、全体内容の約18%を占めており、占める 割合が非常に低いことが分かる。

表3-3 2学年用「モンゴル語・上冊」教科書内容

2020年、モンゴル語教科書(低学2年、上冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 新着の服 服と学習 9 梨の木 民話 17 スカートの物語 清潔を大切 2 親の教え 礼儀習得 10 清潔になろう 18 茶色の雌の牛 民話 3 マークの使用 マークの使い方 11 人を憎ませない 自然を大事に 19 童話 童話 4 鉛筆 鉛筆の賛美 12 アリ アリの賛美 20 アロンゴワ母の話 団結を重視 5 語彙(一) 語彙学習 13 嘘っ子 嘘つきはだめ 21 水の変化 6 語彙(二) 語彙学習 14 きつねとサル 誠実さを育む

22 童話

7 時間 時間意識育成 15 お爺さん お爺さんの事 8 昔話 いじめをしない 16 蜂の花探し 昆虫知識 2021年、モンゴル語教科書(2学年、上冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 新着の服 服と学習 9 90の話 昔話 17 蜂の花探し 昆虫知識 2 時間 時間意識育成 10 親の教え 礼儀習得 18 アロンゴワ母の話 団結を重視 3 マークの使用 マークの使い方 11 梨の木 民話 19 スカートの物語 清潔を大切 4 よい仲間 礼儀習得 12 アリ アリの賛美 20 カササギの話 時間意識 5 語彙(一) 語彙学習 13 嘘っ子 嘘つきはだめ 21 茶色の雌の牛 民話 6 語彙(二) 語彙学習 14 清潔になろう

22 童話

7* 雷峰の話 価値観 15 童話 童話

8 お水 水を大切する 16 雪戦 雪戦い

〔出典:民族学校義務教育用 モンゴル語(201612月第2版、20197月第8次印刷;20166月第2版、20208月第9次印 刷、2学年上冊)より  筆者作成〕

(9)

 2021年の低学2年用モンゴル語教科書(上冊)に おいても、同じく全部で22課が記載されているが、

テキスト内容が2020年と比べ、大きな変化が見られ ないが、そのなかに、第7課「雷峰の話」が配置され たことが分かる(「*」マーク付き)。

 上記の表3-4から、2020年民族学校低学2年(下冊、

後学期用)のモンゴル語教科書内容は全部で22課で あり、その内容も上冊(表3-3)のように、主に童話、

民話、自然現象などの紹介を通じて、子どもたちの正 確な価値観を育成するとともに、動植物への知識を深

めることを学習目標とした内容が多い。全体を通じて、

民族の文字、歴史、文化などに関わった内容は(第3 課、第7課、第20課、第21課)の4課で、全体内容

の約18%を占め、占める割合が上冊と同じであるこ

とが分かる。

 また、表3-4から2021年の低学2年用モンゴル語 教科書(下冊)において、全部で21課が記載され、

テキスト内容が2020年と比べ、大きな変化が見られ る。そのなかに、2020年用教科書と比較して見ると、

第21課「モンゴル地域」と第21課「チンギスの母親」

表3-4 2学年用「モンゴル語・下」教科書内容

2020年、モンゴル語教科書(低学2年、下冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 友たち 友たちへの希望 9 アラガトボル 童話 17 励むこと 2 絵を見て話す 亀とウサギ 10 子シカ 子シカの話 18 動物の冬眠 冬眠の話 3 マークの使用 マークの使い方 11 大工 大工の一日 19 ラクダ探し ラクダ探し 4 リスの話 童話 12 地球の影 自然現象の紹介 20* モンゴル地域 蒙古賛美 5 つばめ 童話 13 四つの夢 子どもの夢 21* チンギスの母親 母への賛美 6 絵を見て作文 童話、書く能力 14 ラクダ ラクダの賛美

22 賞を誰に渡すのか 童話 7 モンゴル茶 ミルク茶の作り 15 費用 童話

8 童話 16 しいたけ しいたけの話

2021年、モンゴル語教科書(低学2年、下冊)

題目 内容概要 題目 内容概要 題目 内容概要

1 友たち 友たちへの希望 8* 朱徳のポール 道徳教育 15 しいたけ 知識育成 2 絵を見て話す 亀とウサギの話 9 地球の影 地理知識 16 地理知識 3 マーケの使用 マークの使い方 10 ラクダ ラクダの賛美 17 動物の冬眠 動物理解 4 おり子 礼儀学習 11 大工 大工の一日 18 ラクダ探しい ラクダ探し 5 つばめ 童話 12 あとでやる 時間意識育成 19 季節理解 6 絵を見て作文 童話、書く能力 13 私と二人 20 井戸の蛙 童話 7 モンゴル茶 ミルク茶の作り 14 費用 童話 21 賞をだれに渡すか 民話

〔出典:民族学校義務教育用 モンゴル語(201612月第2版、201811月第7次印刷;201612月第2版、2021年、1月、9次印刷、

2学年下冊)より 筆者作成〕

(10)

98

が削除され、代わりに2021年用教科書のなかで第8 課「朱徳のポール」が記載されたことが分かる(「*」

マーク付き)。ここでは、低学2年用2020年と2021 年のモンゴル語教科書内容の比較から、モンゴル歴史 人物、文化における内容がほとんど削除されているこ とが分かる。

 次に、上記の表3-1から表3-4まで、民族学校低学 1、2年における教科書内容をマイノリティー教育の 視点から、①モンゴル文字∙言語の学習、②民族の生 活習慣∙風習の紹介、③歴史、社会の紹介、④そのほ か(民族文化以外の自然、動物、植物、童話、民話等 に関する学習)など、四つのカテゴリーに分けて、分 析する。(図3-1と図3-2)

 ③ 考察

 上記の図3-1は、マイノリティー教育の視点からモ ンゴル民族学校における低学1、2年のモンゴル語教 科書内容の構成内容に関して分析したものである。図 の中で、民族の文化や歴史などのアイデンティティ教

育に関連する内容をモンゴル文字∙言語、生活習慣∙風 習、歴史、社会などに分けて整理した。また、そのほ かの部分では、民族のアイデンティティ教育の育成よ り、生徒の資質や能力の育成を重視した内容および「国 民教育」に関する内容である。具体的に、民族学校低 学1、2年において、低学1年(上冊)前学期では、

モンゴル語の基礎知識の学習を重要したものの、低学 1年(下冊)後学期から、生徒の正確な価値観、思考 力、判断力などの個人的な資質や能力の育成を学習目 標としたことが分かる。

 そして、マイノリティー教育、民族教育の視点から モンゴル語教科書内容の構成を分析すると低学1年か ら2年にかけて、全体内容の中で民族のアイデンティ ティの育成に関連する内容の占める割合が低下して いることが分かる。低学1年(上∙下冊)ではそれぞ れ、100%と約23%であり、低学2年(上∙下冊)で

は約23%と約18%である。ここから、民族学校の低

学年におけるモンゴル語教科書内容のなかで、民族の 特性、地域の特性を表す内容が極めて少なく、ここか 会の紹介、④ そのほか(民族文化以外の自然、動物、植物、童話、民話等に関する学習)など、四 つのカテゴリーに分けて、分析する。(図3-1と図3-2)

③ 考察

図3-1 2020年、民族学校低学年(1、2)モンゴル語教科書内容の配置割合

(表3-1から表3-4に基づき、筆者作成)

〔注:内蒙古教育出版社編纂·出版 民族学校義務教育用 モンゴル語教科書(① 2016年6月第2版、2016年6月第 5次印刷、低学1年上冊;② 2016年12月第2版、2019年12月第8次印刷、低学1年下冊;③ 2016年12月第2版、

2019年7月第8次印刷、低学2年上冊;④ 2016年12月第2版、2018年11月第7回印刷、低学2年下冊)以上4冊 の内容まとめにより 〕

上記の図3-1は、マイノリティー教育の視点からモンゴル民族学校における低学1、2年のモン ゴル語教科書内容の構成内容に関して分析したものである。図の中で、民族の文化や歴史などのア イデンティティ教育に関連する内容をモンゴル文字∙言語、生活習慣∙風習、歴史、社会などに分け て整理した。また、そのほかの部分では、民族のアイデンティティ教育の育成より、生徒の資質や 能力の育成を重視した内容および「国民教育」に関する内容である。具体的に、民族学校低学1、2 年において、低学1年(上冊)前学期では、モンゴル語の基礎知識の学習を重要したものの、低学 1 年(下冊)後学期から、生徒の正確な価値観、思考力、判断力などの個人的な資質や能力の育成 を学習目標としたことが分かる。

そして、マイノリティー教育、民族教育の視点からモンゴル語教科書内容の構成を分析すると低 学1年から2年にかけて、全体内容の中で民族のアイデンティティの育成に関連する内容の占める

21 2

3 1

0 1

0 1

0 2

2 2

0 17

17 18

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1学年(上)

1学年(下)

2学年(上)

2学年(下)

モンゴル文字∙言語の学習 民族の生活習慣∙風習の紹介 民族の歴史、社会の紹介 そのほか

図3-1 2020年、民族学校低学年(1、2)モンゴル語教科書内容の配置割合

(表3-1から表3-4に基づき、筆者作成)

〔注:内蒙古教育出版社編纂·出版 民族学校義務教育用 モンゴル語教科書(①20166月第2版、20166 月第5次印刷、低学1年上冊;②201612月第2版、201912月第8次印刷、低学1年下冊;③201612 月第2版、20197月第8次印刷、低学2年上冊;④201612月第2版、201811月第7次印刷、低学2 下冊)以上4冊の内容まとめにより〕

  (白 双竜)

論文   ―モンゴル語教科書の文化的な役割を中心に―

(11)

ら、2016年に改編され、2020年7月までに、モンゴ ル民族学校で使用されていたモンゴル語の教科書内容 記述から、該当教科書における民族アイデンティティ の育成に関する教育的な役割が軽減されていることが 指摘できよう。

 次に図3-2を通じて、2021年、民族小学校低学年(1、

2年用)、現行のモンゴル語教科書について見てみる。

これらの教科書が、中央教育部による「国家統編教材」

の強化に応じ、編纂·発行されたものである。

 図3-2は、2021年現在、民族学校で使用されてい る小学校低学1、2年によるモンゴル語教科書の内容 を分析したものである。図3-2と図3-1を比較するた めに、対象モンゴル語教科書の内容を図3-1のよう に、民族のアイデンティティの育成に関連する内容を モンゴル文字∙言語、生活習慣∙風習、歴史、社会など に分けて整理した。また、そのほかの部分は民族のア イデンティティの育成から離れ、自然、動物、植物、

童話、民話などの紹介∙学習を通じて、生徒の資質や 能力の育成を重視したものである。

 具体的に、図3-2では、民族学校低学1、2年にお いて、低学1年(上冊)前学期では、モンゴル語の基 礎知識の学習を重要したものの、低学1年(下冊)後 学期から、生徒の正確な価値観、思考力、判断力など の個人の資質や能力の育成を学習目標としたことが分 かる。

 また、図3-1と比較すると図3-2でも、低学1年か ら低学2年にかけて、モンゴル民族の生活習慣、歴史、

文化などに関する内容の占める割合が減っていること が分かり、2学年後半期用の教科書内容では、すべて 21課のうち2課で、全体内容の10%まで減ったこと が分かる。

 さらに、図3-2から、2020年の「漢語教育」の強 化により、民族学校低学1年(下冊)から低学2年(上、

下冊)の教科書内容にかけて、モンゴル民族の歴史に 摘できよう。

次に図3-2を通じて、2021年、民族小学校低学年(1、2年用)、現行のモンゴル語教科書について 見てみる。これらの教科書が、中央教育部による「国家統編教材」の強化に応じ、編纂·発行された ものである。

図3-2 2021年、現在民族学校で使用されているモンゴル語教科書の内容構成割合

(表3-1から表3-4に基づき、筆者作成)

〔注:内蒙古教育出版社編纂·出版 民族学校義務教育用 モンゴル語(① 2016年6月第2版、2019年7月第8次印 刷、低学1年上冊;② 2016年12月第2版、2021年1月第9次印刷、低学1年下冊;③ 2016年6月第2版、2020年 8月第9次印刷、低学2年上冊;④ 2016年12月第2版、2021年1月第9次印刷、低学2年下冊)以上4冊の内容ま とめにより〕

図3-2は、2021年現在、民族学校で使用されている小学校低学1、2年によるモンゴル語教科書 の内容を分析したものである。図3-2と図3-1を比較するために、対象モンゴル語教科書の内容を 図3-1のように、民族のアイデンティティの育成に関連する内容をモンゴル文字∙言語、生活習慣∙

風習、歴史、社会などに分けて整理した。また、そのほかの部分は民族のアイデンティティの育成 から離れ、自然、動物、植物、童話、民話などの紹介∙学習を通じて、生徒の資質や能力の育成を重 視したものである。

具体的に、図3-2では、民族学校低学1、2年において、低学1年(上冊)前学期では、モンゴル 語の基礎知識の学習を重要したものの、低学1年(下冊)後学期から、生徒の正確な価値観、思考 力、判断力などの個人の資質や能力の育成を学習目標としたことが分かる。

21 2

3 1

0 1

0 1

0 0

0 0

0 19

18 19

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1学年(上冊)

1学年(下冊)

2学年(上冊)

2学年(下冊)

モンゴル文字・言語の学習 民族の生活習慣・風習の紹介 民族の歴史、社会の紹介 そのほか

図3-2 2021年、現在民族学校で使用されているモンゴル語教科書の内容構成割合

(表3-1から表3-4に基づき、筆者作成)

〔注:内蒙古教育出版社編纂·出版 民族学校義務教育用 モンゴル語(① 20166月第2版、20197月第8 次印刷、低学1年上冊;② 201612月第2版、20211月第9次印刷、低学1年下冊;③ 20166月第2版、

20208月第9次印刷、低学2年上冊;④ 201612月第2版、20211月第9次印刷、低学2年下冊)以上 4冊の内容まとめにより〕

言語・地域文化研究 第 28 号 2022

(12)

関する内容が削除され、そのかわりに、国民教育にお ける集合的な意識形態の育成を重んじた内容が記述さ れたことが分かる。これに関して、次の3-2によって 分析する。

 

3.2 モンゴル語「教員用指導要領参考書」

    分析

 図3-2から分かることは、2020年、中央教育部の 民族学校における「国家統編教材」、「漢語教育」の強 化によって、民族学校低学年用モンゴル語の全体の教 科書内容を通じて、モンゴル民族の歴史に関する内容 がすべて削除されていることである。一方で、国民教 育における集合的な意識形態の育成を重んじた内容が 記述されたことが分かる。例を挙げると、低学1年

(下冊)、第14課では「国の国旗と国魂」という授業 が記述されている。以下、教科書内容と該当教員指導 要領内容について分析をする。

 2021年現在、使用されている低学1年(上冊)の モンゴル語教科書の内容では、「漢語教育」強化前の 2016年に出版されたものとほとんど変わっていない。

しかし、下冊の内容において、民族歴史人物の内容が 削除され、その代わりに、国民意識を育成する内容が 記述されている。

 具体的には、2016年版、低学1年下冊に記述され ていた第11課「私はモンゴル人」と第20課「聡明な テムジン」21(表3-2)が削除され、2021年1月第9次 印刷の低学1年下冊の教科書によって、第14課「国 家の国旗と国魂」という内容が記述されている。

 以下、第14課「国家の国旗と国魂」に関する教員 用指導要領について分析する。第14課による学習目 標と主旨は以下のようである。(1)中華人民共和国の 国旗、国歌、国魂、主席、天安門広場について勉強さ せること、(2)国旗の構成を理解させること、(3)国 魂の内容を学習させること、(4)本課を通して、国旗、

国魂、国歌などを尊敬する心を養い、国民性を強調す ること、などの4点が本課の学習目的として強調され ている。2021年1月第9次印刷の教科書内容の構成

を見てみると、全部で21課が記載され、そのなか、

モンゴル文字の学習に関する内容は2課で、モンゴル 人の日常挨拶の紹介に関する内容は1課しかなく、こ れ以上の民族文化に関する内容がすべて削除されてい ることが分かる。このように、低学1年から元来の民 族歴史に関する内容をすべて削除し、国家を知る、分 かる、愛するなどの内容を導入したことにより、生徒 たちに対する国民意識を養成する意図が込められてい るのは明白であろう。民族教育は国民教育的な役割を 果たすことが当然なことで義務づけられているが、民 族のアイデンティティに関する内容を大幅に削除する ことで、モンゴル民族の子ども・生徒たちが自分自身 を「モンゴル人である」ことさえ忘れてしまう危険性 が生じうると考えられる。

 また、「漢語教育」強化前、2016年の民族学校低学 2年(上、下冊)においても同様に、第20課の「モ ンゴル地域」と第21課の「チンギスの母親」の二課 は記述されていたが、2020年8月第9次印刷、低学2 年上冊と2021年1月第9次印刷、低学2年下冊によっ て、その代わりに、それぞれ第7課「雷峰」22(2学年 上冊)と第8課「朱徳のポール」23(2学年下冊)が記 述されている。この中の第8課「朱徳のポール」に関 する教員用指導要領の内容について分析を試みる。該 当教員用指導要領では、本課の学習目標と主旨を、① 本課の内容を身に付けることによって、生徒たちに共 産革命主義の意識を培うこと、②本課の内容を自分の 言葉で簡潔にまとめることができるようになること、

③本課の最終一段落の内容を暗記すること、④本課の 重要な単語を身に付けることなどの4点が学習重点と なっている。ここでは第④の単語を覚えること以外に、

全て、本課の内容の把握を重視したことであり、①で は、さらに共産党として共産主義への宣伝を強化し、

民族教育における国民国家教育によって集合的な意識 形態24の育成を強調していることが分かる。

 上記のように、中国中央教育部の2020年9月「国 家統編教材」、「漢語教育」強化前後の民族学校低学年 用モンゴル語内容の比較と該当教員用指導要領内容の 分析を通じて、近年、中央教育部の民族教育における

(13)

国民教育、集合的な意識形態の強調により、民族学校 低学年用モンゴル語教科書内容において、生徒たちの 民族のアイデンティティの育成、モンゴル人としての イデオロギーの属性を認識させる内容が徐々に削除さ れ、現在、ほとんど記述されてないか、全体の内容に よって占める割合が極めて少なくなっていることが明 らかになった。

 多民族国家の中国では、民族教育が「国民教育」の 役割を果たすべきことはごく自然なことであるとして も、民族母語の教科書内容による民族の歴史、文化に 関する内容が徐々に削除され、また民族のアイデン ティティの継承∙育成を促進する内容がほとんど見ら れないことが、真の意味での民族教科書といえるのか は疑問視されよう。すなわち、現在の教科書が民族学 校教育における本質的な役割を無視して、全体主義的 な「国民教育」によって集合的な意識形態を育成する

「道具」のような存在として変わりつつある危険性は 否めないであろう。

4 おわりに

 本論では、内モンゴルにおける民族学校教育低学1、

2年の「モンゴル語」教科書内容と学習指導要領の分 析を通じて、中央教育部の「国家統編教材」、「漢語教育」

の強化による民族学校の「モンゴル語」(母語)教科 書内容が変化されつつあることが明確にしてきた。そ こでは、民族学校低学年用モンゴル語教科書内容の全 体を通じて、生徒たちの民族性、アイデンティティの 育成、またはモンゴル人としてのイデオロギーを認識 させるための内容が徐々に削減され、最終的にはほぼ 記述されなくなったこが指摘できる。さらに、今後の 教育改革により中国国民としての集合的な意識形態の 育成を目標とした内容が追加されるであろうことが推 測されるため、今後もこうした傾向がさらに強化され ていくと考えられる。

 今回の「漢語教育」の強化において、民族教育の義 務教育段階におけるモンゴル語の教科書内容の記述が 民族文化の発展を妨げる逆効果になることが懸念さ れ、今後、民族地域の文化、歴史などを文化的な背景 とした民族教科書の編纂がなされる期待が高まるだろ う。

1 王爺廟(ワンインスム)は、現在、興安盟・烏蘭浩特市(ヒンガンメイ・ウランホト;ulanhota)の旧称である。

2 石鴎2018: 390-398。

3 「検定制」とは、教育部は、省、自治区及び地方で編纂・使用する全国小中学校の民族教科書・教材審査 委員会を設置し、自治区及び地方における教材を審査する制度である。

4 「国定制」とは、国家教育行政部門は『教育課程標準』及び『教学大綱』に基づき教科書を編纂し、全国 各地域の学校に提供することである。

5 石2018: 370-389。

6 ウルゲン2015: 154。

7 ムングバト2014: 119-123。

8 「双語教育」とは一般的に漢民族以外の少数民族の民族学校の教科課程上、該当民族の母語以外に第二言 語として「中国語」を必修科目として開設することを指す。

9 トライリンガル教育の概念に関して、未だに統一されてなく、一般的に母語とそれ以外に二つの言語が教 科科目として教えていることを指す。または、母語教育以外の二つの非母語科目の教授言語が母語である ことによってこそトライリンガル教育に当てはまるという解説もある。本研究では、教授言語がすべて該 当民族の母語である教育をトライリング教育とする。つまり、モンゴル民族の児童・生徒を学習対象とし、

教授言語はモンゴル語である民族教育のことを指す。

(14)

参考文献 日本語

ウルゲン(2015)『中国におけるモンゴル民族の学校教育』ミネルヴァ書房。

烏力更(ウリゲン)(2013)「中国モンゴル民族学校教育とアイデンティティに関する研究」『佛教 大学大学 院紀要』第41号,pp. 1-17。

岡本雅享(1999)『中国の少数民族教育と言語政策』社会評論社。

王錫宏(2005)「中国における少数民族教育文化背景の民族的差異」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第45巻,

pp. 221-233。

金龍哲(1998)『中国少数民族教育政策文献集』岡山大学教育出版。

矢野博之(2012)「教科書を研究するということ―教科書分析の枠組みと方法―」『音楽教育実践ジャーナル』

9巻第2号,pp. 6-13。

スチンゴワ(2007)「現代中国における少数民族教育に関する実証的研究―モンゴル民族中学校の実態調から―」

『言語・地域文化研究』13号,pp. 227-247。

崔淑芬(2011)「内モンゴル自治区の教育現状の一考察」『筑紫女子学園大学・筑紫女子学園大学短期大学学部 10 同じような、先行研究は、哈申格日勒・小柳正司(2007)らの研究もある。氏らは、民族学校における言 語教育政策が漢語の普及による有力的な根拠、手段になり、その一方、「漢化」を深化させる「同化政策 であると批判している(哈申格日勒、小柳正司2007:106))。

11 ハスゲレル2016: 163。

12 王2005: 225。

13 山崎2009: 4。

14 教科書改編年において、第一回から第九回までは、1951年、19541956年、1961年、1963年、1977年、

1986年、1988年、1991年、2001年である(課程教材研究所2012: 2-5)。現行教科書は、2016年に改編さ れたものであり、内モンゴルの民族学校で使用されている教科書は、同一年代に改編されたものでも、版 数と印刷次数によって、内容記載が異なる。例えば、『義務教育教科書モンゴル語二学年(上)』内モン ゴル教育出版社から発行されたものでも、2016月第2版、20197月第8次印刷と20166月第2版、

20208月第9次印刷の内容が異なる。本論では、用いた現行教科書は、中国教育部・内モンゴル教育 庁による、第10回(2016)年に改編されたものであり、20166月、12月に編纂され、印刷次数も異な るものである。

15 新中国成立後、全国における教科書は、1951年、19541956年、1961年、1963年、1977年、1986年、

1988年、1991年、2001年、2016年など、計10回の編纂をへてきた。

16 矢野2011: 7。

17 藤岡1984: 16-21。

18 矢野同上。

19 内モンゴルでは、一学年によって、2冊の教材が使用され、「上冊、下冊」に分けられ、(日本の春学期、

秋学期と相当)各学期によって使用する教科書が違うのである。

20 岡本1999:212〔スチンゴワ(2007)、青格楽図(2008)らの研究もある〕。

21 テムジンとは、モンゴル帝国の初代皇帝であるチンギス・ハーンの本名である。

22 雷峰(らいほう、19391218-1962815日)は1中国人民解放軍の班長であり、中国人民解放 軍における模範兵士とされる人物ひとりである。

23 朱徳は中華人民共和国の軍人、政治家。中国共産党入党以来軍事部門を指導し、中国人民解放軍の「建国 の父」と評され、「中国十大元帥」のひとりでもある。

24 集合的な意識形態教育とは、主に、民族教育における国民統合・国民の同一性を強調することを目指した 教育活動のことであり、いわゆる国民教育のことである。

参照

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