Title 3-Monochloropropane-1,2-diol 脂肪酸エステルの毒性評価に関する研究( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 大波, 冴子 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 甲第426号 Issue Date 2014-09-24 Type 博士論文 Version none URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/50396 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名(本(国)籍) 大 波 冴 子(福島県) 主 指 導 教 員 氏 名 岐阜大学 西 川 秋 佳 学 位 の 種 類 博士(獣医学) 学 位 記 番 号 獣医博甲第426号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年9月24日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合獣医学研究科 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 3-Monochloropropane-1,2-diol 脂肪酸エステルの毒性評価 に関する研究 審 査 委 員 主査 東京農工大学 教 授 渋 谷 淳 副査 帯広畜産大学 教 授 古 林 与志安 副査 岩 手 大 学 教 授 御 領 政 信 副査 東京農工大学 准教授 吉 田 敏 則 副査 岐 阜 大 学 教 授 柳 井 徳 磨 副査 岐 阜 大 学 教 授 西 川 秋 佳 学位論文の内容の要旨 3-Monochloropropane-1,2-diol (3-MCPD) 脂肪酸エステルは,食品の製造過程で副産物 として発生し,多くの食品に含有していることが,最近明らかとなった物質である。3-MCPD 脂肪酸エステルは,生体内において加水分解を起こし,非遺伝毒性発がん物質である 3-MCPD や,遺伝毒性発がん物質とされる glycidol へ変化することが懸念されているが, 3-MCPD 脂肪酸エステル自体の安全性に関するデータは少ないのが問題となっている。本研 究では,3-MCPD 脂肪酸エステルのうち,3-MCPD palmitate diester:CDP, 3-MCPD palmitate monoester:CMP, および 3-MCPD oleate diester:CDO の三つに対し,ラットを用いて毒 性学的影響の検討を実施した。
第 1 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルのラット体内における代謝について検討を行った。 実験 1 では,9 週齢の F344 雄性ラットに,3-MCPD(40 mg/kg),glycidol(37.5 mg/kg), それらのエステル化合物 (CDP, CMP, CDO, glycidol oleate:GO, glycidol linoleate: GL) をほぼ等モル量強制胃内投与した。投与 30 分後に採血し,GC-MS および LC-MS/MS に より血清中濃度を測定した。その結果,すべての 3-MCPD 脂肪酸エステル投与群から 3-MCPD が検出され,3-MCPD 脂肪酸エステルは,生体内において 3-MCPD へ加水分解することが示 された。さらに,CDP および CDO は,少量ながら未変化体としても血中に存在することが 示された。一方,3-MCPD 脂肪酸エステルから glycidol への変化は認められなかった。 第 1 章の実験 2 では,in vitro 試験において,代謝が消化管のどの部位で起きうるか検 討を行った。10 週齢の雄性 F344 gpt delta ラットを一晩絶食させた後,3 種類の消化管内 容物(胃内容物・十二指腸内容物・盲腸内容物)を採取し,各消化管内容物の希釈溶液に 3-MCPD,glycidol,それらのエステル化合物(CDP, CMP, CDO, GO, GL)を一種類ずつ添加し て,37℃で 30 分インキュベーションし,GC-MS および LC-MS/MS により消化管内容物中濃
度の測定を行った。その結果,3-MCPD 脂肪酸エステルから 3-MCPD への変化は,胃・十二 指腸・盲腸すべてにおいて起こりうることが示され,CDP から CMP への変化も,消化管内 で起こりうることが示唆された。 第 1 章の結果をまとめると,3-MCPD 脂肪酸エステルは,一部は消化管内において加水分 解されて 3-MCPD へ変化し,また一部は未変化体のままでも血中に存在することが明らかと なった。 第 2 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルのin vivo 遺伝毒性の有無を検討した。6 週齢の雄 性 F344 gpt delta ラットに,発がん用量(3.6×10-4 mol/kg B.W./day)の 3-MCPD と等モル
濃度の 3-MCPD 脂肪酸エステル (CDP,CMP および CDO) を週 5 回,4 週間強制胃内投与を行 い,小核試験・Pig-a 遺伝子突然変異試験・gpt 試験により in vivo 遺伝毒性について検討 を行った。その結果,いずれの試験においても,明らかなin vivo 遺伝毒性は認められな かった。そのため,3-MCPD 脂肪酸エステルは,3-MCPD と同様に非遺伝毒性物質である可能 性が示された。 第 3 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルの亜慢性毒性の有無を検討するために,ラットを用 いた 13 週間反復投与毒性試験を実施した。雌雄の F344 ラットに対し,3 種類の 3-MCPD 脂 肪酸エステル(CDP,CMP および CDO)をそれぞれ 3 用量,強制胃内投与を 13 週間実施し, 病理組織学的解析を実施した。その結果,3-MCPD 脂肪酸エステル間における毒性の違いは 認められなかったが,3-MCPD と比較した場合,急性期の反応(尿細管壊死)は 3-MCPD 脂 肪酸エステルでは弱く,慢性期の反応(腎臓の臓器重量変化・精巣上体先端部のアポトー シス細胞の増加)は同程度であった。本研究における NOAEL は,腎臓の絶対相対臓器重量 の変化が認められない量として,CDP は 14 mg/kg B.W./day,CMP は 8 mg/kg B.W./day,CDO は 15 mg/kg B.W./day であり,3-MCPD 量に換算すると 2.5 mg/kg B.W./day であった。 以上の結果より,3-MCPD 脂肪酸エステルは,遺伝毒性は認められないものの,高用量を 長期間摂取することで,腎臓や精巣に影響を及ぼす恐れがあることが示唆された。今後, 3-MCPD 脂肪酸エステルの TDI の設定が必要であると考えられる。 審査結果の要旨 食 品 の 製 造 過 程 で 副 産 物 と し て 生 成 し , 多 く の 食 品 に 含 ま れ て い る 3-monochloropropane-1,2-diol (3-MCPD) 脂肪酸エステルは,生体内において非遺伝毒 性発がん物質である 3-MCPD や遺伝毒性発がん物質とされる glycidol へ変化することが 懸念されているが,3-MCPD 脂肪酸エステル自体の安全性データは少ない。本研究では, 3-MCPD 脂肪酸エステルのうち,3-MCPD palmitate diester(CDP), 3-MCPD palmitate monoester(CMP)および 3-MCPD oleate diester(CDO)の毒性学的影響についてラット を用いて検討した。
第 1 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルのラットにおける代謝について検討した。実験 1 では,F344 雄性ラットに 3-MCPD,glycidol,それらのエステル化合物 (CDP, CMP, CDO, glycidol oleate:GO, glycidol linoleate:GL) をほぼ等モル量強制胃内投与した。投 与 30 分後に採血し,GC-MS および LC-MS/MS により血清中濃度を測定した。その結果,検 討したすべての 3-MCPD 脂肪酸エステルは生体内において加水分解され,3-MCPD へ変化す ることが明らかとなった。また,CDP および CDO は少量ながら未変化体としても血中に存 在することが示された。一方,3-MCPD 脂肪酸エステルから glycidol への変化は認められ なかった。代謝が消化管のどの部位で起きうるか検討した実験 2 では,F344 雄性ラット を一晩絶食させた後,胃,十二指腸および盲腸の内容物を採取し,各消化管内容物の希
釈溶液に 3-MCPD,glycidol,それらのエステル化合物(CDP, CMP, CDO, GO, GL)を一種類 ずつ添加して,37℃で 30 分インキュベーションし,GC-MS および LC-MS/MS により消化管 内容物中濃度を測定した。その結果,3-MCPD 脂肪酸エステルから 3-MCPD への変化は,胃・ 十二指腸・盲腸すべてにおいて起こりうることが示され,CDP から CMP への変化も消化管 内で起こりうることが示唆された。これらの成績から,3-MCPD 脂肪酸エステルの一部は 消化管内において加水分解されて 3-MCPD へ変化し,また一部は未変化体のままでも血中 に存在することが明らかとなった。 第 2 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルのin vivo 遺伝毒性の有無を検討した。F344 雄性 gpt delta ラットに,発がん用量の 3-MCPD と等モル濃度の 3-MCPD 脂肪酸エステル (CDP, CMP および CDO) を週 5 回,4 週間強制胃内投与し,小核試験,Pig-a 遺伝子突然変異試 験および gpt 試験により in vivo 遺伝毒性について検討した。その結果,いずれの試験 においても,明らかなin vivo 遺伝毒性は認められなかった。これらの成績から,3-MCPD 脂肪酸エステルは,3-MCPD と同様に非遺伝毒性物質である可能性が示された。 第 3 章では,3-MCPD 脂肪酸エステルの亜慢性毒性を検討するために,ラットを用いた 13 週間反復投与毒性試験を実施した。雌雄の F344 ラットに 3 種類の 3-MCPD 脂肪酸エス テル(CDP,CMP および CDO)をそれぞれ 3 用量で 13 週間強制胃内投与し,病理組織学的 に検索した。その結果,3-MCPD 脂肪酸エステル間の毒性に差異は認められなかったが, 3-MCPD と比較した場合,急性期の反応(尿細管壊死)は 3-MCPD 脂肪酸エステルでは弱い が,慢性期の反応(腎臓の重量変化・精巣上体先端部のアポトーシス細胞の増加)は同 程度であった。本研究における NOAEL は,腎重量の変化に基づき,CDP では 14 mg/kg B.W./day,CMP では 8 mg/kg B.W./day,CDO では 15 mg/kg B.W./day と考えられ,3-MCPD 量に換算すると 2.5 mg/kg B.W./day であった。 以上の結果より,3-MCPD 脂肪酸エステルは,遺伝毒性は認められないものの,高用量 を長期間摂取することで,腎臓や精巣に影響を及ぼす恐れがあることが示唆された。今 後,3-MCPD 脂肪酸エステルの TDI の設定が必要であると考えられる。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位 論文として十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文
1)題 目: A 13-week repeated dose study of three 3-monochloropropane-1,2-diol fatty acid esters in F344 rats
著 者 名:Onami, S., Cho, Y., Toyoda, T., Mizuta, Y., Yoshida, M., Nishikawa, A. and Ogawa, K.
学術雑誌名:Archives of Toxicology
巻・号・頁・発行年:88(4):871-880,2014
2)題 目: Absence of in vivo genotoxicity of 3-monochloropropane-1,2-diol and associated fatty acid esters in a 4 week comprehensive toxicity study using F344 gpt delta rats
著 者 名:Onami, S., Cho, Y., Toyoda, T., Horibata, K., Ishii, Y., Umemura, T., Honma, M., Nohmi, T., Nishikawa, A. and Ogawa, K.
学術雑誌名:Mutagenesis
既発表学術論文
1) 題 目:Undifferentiated sarcoma of the salivary gland in a mongolian gerbil (Meriones unguiculatus)
著 者 名:Toyoda, T., Tsukamoto, T., Cho, Y., Onami, S., Takasu, S., Shi, L., Saito, A., Matsuo, S., Tatematsu, M., Nishikawa, A. and Ogawa, K.
学術雑誌名:The Journal of Toxicologic Pathology 巻・号・頁・発行年:24(3):173-177,2011
2)題 目:Detection of γ-H2AX, a biomarker for DNA double-strand breaks, in urinary bladders of
N-butyl-N-(4-hydroxybutyl)-nitrosamine-treated rats
著 者 名:Toyoda, T., Akagi, J., Cho, Y., Mizuta, Y., Onami, S., Suzuki, I. and Ogawa, K.
学術雑誌名:The Journal of Toxicologic Pathology 巻・号・頁・発行年:26(2):215-221,2013